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糖尿病治療薬による類天疱瘡

水疱性類天疱瘡(Bollous pemphigoid:BP)は高に齢者に好発し、全身に痒みの強い紅斑と水疱を生じる自己免疫性水疱症です。その病理は表皮下水疱ができることで、病態は表皮真皮接着構造であるヘミデスモゾームの構造分子の一つである17型コラーゲン(別名BP180)やBP230に対する自己抗体によって発症することが明らかにされています。
一般的に抗BP180抗体として測定されているのは、17型コラーゲンの細胞膜を貫通して細胞外の膜近傍にあるNC16Aドメイン(77アミノ酸)にある自己抗体です。
まれに血清中抗BP180抗体陰性のBPがみられますが、蛍光抗体直接法では、基底膜にIgGもしくはC3が陽性で、1M食塩水剥離皮膚でも表皮側に陽性になればBPと診断します。このような例では、しばしば17型コラーゲンの細胞外領域に結合する自己抗体が検出されます。以前はウエスタンブロッティングで診断されていましたが、2016年この領域に対する自己抗体を検出できるELISA法が北海道大学皮膚科で開発されました(細胞外ドメイン、1497アミノ酸(全長BP180ELISA))。
2009年発売後、糖尿病治療薬のジペプチジルペプチダーゼー4(DPP-4)阻害薬(グリプチン製剤)内服中に発症したBPの報告が相ついでいます。
これらの例では抗BP180抗体のNC16Aドメインには陰性ながら、細胞外ドメイン(全長BP180ELISA)に陽性の例が多くみられるのです。
ではDPP-4とは何か、何故DPP-4阻害薬が糖尿病に効くのか、について簡単にみてみます。食事により血糖値が上昇すると、腸からインクレチンという消化管ホルモンが分泌され、膵臓のβ細胞に作用してインスリンが分泌され血糖値が低下します。しかしこれは血液中でその分解酵素であるDDP-4によって速やかに分解されてしまいます。
そこでDDP-4阻害薬が2型糖尿病の治療薬として開発されました。
このように糖尿病治療薬(DPP-4阻害薬)によって特徴的なBPが発症することが解ってきましたので、通常型BPと対比しながらDPP-4iBPの特徴をみていきたいと思います。

DDP-4iBP(DDP-4関連水疱性類天疱瘡)の特徴は下記のようです。
・紅斑に乏しく、弛緩性水疱、血水疱、色素脱失、瘢痕、稗粒腫が多い。
・形が円形でなく、幾何学的で外力の影響を受けたような皮疹が多い。
・高齢者の男性に多いがその理由は不明。
・内服期間:1~48か月とかなり長期間服用後に発生する例もある。
・薬剤中止後も再燃するケースがある。
・薬剤によって発症頻度が異なる。ビルダグリプチン>テネリグリプチン>リナグリプチン>シタグリプチン(ジャヌビア)。アロ、アナは低い。
ただ、内服凡そ1000人に1人が発症するので、全ての患者に発症するわけではない。
推定: 本邦 230万人内服。全長BP180ELISA陽性25万人 1/125➡BP約2000人
・抗BP180抗体で、NC16Aドメインに対する抗体は陰性か低値、一方細胞外全長BP180ドメインに対する抗体は陽性。
・エピトープスプレディングという現象があり、当初全長BP180抗体のみ陽性だったものが後にNC16Aに陽性になるケースがある。臨床的にも紅斑を伴う型に変化する例もある。BP発症前のグリプチン製剤を内服している糖尿病患者では10%程度は既に全長BP180への抗体が陽性であるとの報告もある。従って全長BP180抗体はBP発症リスクへのバイオマーカーになりうる。
・抗BP230抗体陽性例は少ない。
・IgG1クラス自己抗体が多く補体活性化を伴う。(← 炎症に乏しい所見と相反)
・DPP-4はT細胞表面抗原CD26分子の先端に2量体として存在するセリンプロテアーゼであり、多くの免疫細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、表皮細胞にも発現している。従ってこの阻害薬は免疫系も含め様々な細胞に影響を及ぼし、抗原性を増強する可能性が考えられている。
・抗BP180(NC16A)抗体陽性で糖尿病でグリプチン製剤を内服している例もある。このような例ではBPそのものか、DPP-4iBPかはわからない。エピトープスプレディングの結果かもしれない。
・特定のHLAをもった人(HLA-DQB1*03:01)ではDPP-4iBPを発症するリスクが高い。
・さらにある種の要因(ある物質への曝露、環境要因、熱傷、蜂窩織炎、疥癬など)が加わることによって発症し易くなる。

西江 渉 第83回東京・東部SY2-2 の教育講演の内容をまとめてみました。

参考文献
青山 裕美 DPP-4阻害薬内服患者に生じる薬剤関連水疱性類天疱瘡 皮膚病診療:38(10);964~970,2016

類天疱瘡 治療

類天疱瘡の治療をガイドラインを基にまとめてみました。
日本皮膚科学会ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会
日皮会誌:127(7),1483-1521, 2017(平成29)

【治療概要】
基本的には天疱瘡の治療戦略と相同です。診断を早期につけて(除外診断をしっかり行う)、ステロイド剤による初期導入治療を十分に行う、地固め療法のあと、維持療法を行い、第1のゴールともいえるPSL 0.2mg/Kg/日≒10mg(50-60Kg)を目指す。最終的には無治療での完全寛解を目指すということになります。
尋常性天疱瘡より治療への反応性がよく、コントロールし易い例もありますが、高齢者に多く、時に治療に抵抗する例もみられます。
軽症ではPSL 0.2-0.3mg/kg/日でも可ですが、中等症、重症になるとPSL 0.5-1mg/Kg/日が必要になってきます。
治療の主体はステロイド内服ですが、テトラサイクリン(あるいはミノサイクリン)とニコチン酸アミドの併用内服やドキシサイクリン内服が奏功する例もあり、またストロンゲストクラスのステロイド外用、DDS内服が奏功することもあります。
ただ、重症例の中には治療抵抗性の場合もあり、その際はステロイド内服に加えてさらに、ステロイドパルス療法、アザチオプリンなどの各種免疫抑制剤、血漿交換療法、大量ガンマグロブリン療法(IVIG)療法などを併用します。国外ではリツキシマブ(抗CD20抗体)が有効とする報告もありますが、国内ではまだ治験段階です。将来的には抗原特異的B細胞に的を絞ったCAART療法(天疱瘡)なども研究されています。また血中からの抗体除去、、分子標的薬、サイトカイン抗体製剤、補体活性化経路阻害剤などの研究も進められているようです。
治療の効果、再発の予想はなかなか困難で、3~4割は再発するとされていますが、治療初期にBP180 ELISA値の高い例、また維持療法後でもBP180値の高止まりする例、DIF陽性例、認知症例では再発率が高いとされています。

【各疾患の治療】
個別の治療を見ていきます。
[類天疱瘡 Bullous Pemphigoid:BP]
まず、診断を確定した後、BPDAI(Bullous Pemphigoid Disease Area Index)を基に重症度に応じて治療を選択する。
A.軽症例
1)局所外用療法・・・ストロンゲスト・ベリーストロングのステロイド外用剤の塗布。創保護、感染予防のために抗生剤含有軟膏、亜鉛華単軟膏の貼付も併用する。
2)テトラサイクリン(ミノサイクリン)・ニコチン酸アミド併用内服療法・・・
TC 500~2000mg、MC 100~200mg/日とニコチン酸アミド500~2000mg/日 併用
ステロイド外用を併用するのが一般的。ミノサイクリンの色素沈着、間質性肺炎に注意
3)DDS(ダプソン)内服療法・・・DDS 25~100mg/日内服。ステロイド外用、内服を併用することが一般的。肝機能障害、DDS症候群などに注意。
4)ステロイド内服療法・・・軽症例に対してはプレドニゾロン(PSL)0.2~0.3mg/Kg/日程度で開始、2~4週で水疱、びらんがなくなったら1,2か月ごとにPSL1~3mg/日の減量をめざす。第1目標はPSL 0.2mg/Kg/日以下。最終的にはそれ以下、或いは内服中止での寛解を目指す。
PSL治療開始前に糖尿病、高血圧、消化性潰瘍、感染症(結核、肝炎他)などの合併症の検索を行うこと。骨粗鬆症(ビスフォスフォネート使用前の歯科のチェック)、ニューモシスチス肺炎予防の併用を考慮すること。
5)強力ステロイド全身外用療法・・・デルモベート1回10g、1日2回の外用が奏功するとされるが、糖尿病、感染症、皮膚萎縮などの副作用を来しやすい。
B.中等症、重症および難治例
1)ステロイド内服療法
PSL0.5~1mg/Kg/日を投与する。局所療法も併用する。
PSL減量前期・・・PSL 1mg~0.3mg/Kg/日までは1,2週ごとに5~10mg/日の減量
PSL減量後期・・・PSL 0.3mg/Kg/日以下では1,2か月ことに1~3mg/日の減量
第1目標はPSL 0.2mg/Kg/日。最終的にはそれ以下、或いは内服中止での完全寛解を目指す。ステロイドの投与量の重症度に基づいたエビデンスは乏しく、経験によるところが大きい。
PSL治療開始前に糖尿病、高血圧、消化性潰瘍、感染症(結核、肝炎他)などの合併症の検索を行うこと。骨粗鬆症(ビスフォスフォネート使用前の歯科のチェック)、ニューモシスチス肺炎予防の併用を考慮すること。
2)免疫抑制剤・・・ステロイド剤の早期減量、再発防止効果を期待、効果発現は遅い。それぞれの薬剤で副作用、併用禁忌薬があるので注意を要する。
・アザチオプリン・・・50~150mg/日
・ミゾリビン・・・150mg/日
・シクロフォスファミド・・・50~100mg/日
・シクロスポリン・・・3~5mg/Kg/日
・ミコフェノール酸モフェチル・・・40mg/Kg/日(通常2g/日)
・メトトレキサート・・・2.5~7.5mg/Kg/週
3)ステロイドパルス療法・・・メチルプレドニゾロン0.5~1g/日を日連続投与。
4)IVIG療法・・・400mg/Kg/日を5日連日点滴静注する。血漿交換療法のあとに行う。
Neonatal Fc receptor(FcRn)の飽和によりIgGのリサイクルが起こらなくなる、サイトカインの調節、BO180抗体に対する抗体、FcγRに対する調整などの機序が考えられている。
5)血漿交換療法・・・難治性のもの、ステロイド大量療法ができない例に限り適応となる。単純血漿交換(PE)、あるいは二重濾過血漿交換療法(DFPP)がある。通常2~3回/週行う。PEの方が原因物質の処理能力は高いが、凝固因子やアルブミンの低下を来しやすく補充が必要。
6)シクロフォスファミドパルス療法・・・ステロイド剤、免疫抑制剤のみでは十分な効果がない場合に適応となる。500~1000mg/m2静注する。繰り返す場合は4週間おきに施行する。3か月から半年程度。骨髄抑制、出血性膀胱炎、肝障害、発癌のリスクがあり総量12gを越えないようにする。
7)リツキシマブ(抗CD20抗体)・・・海外では難治性の例に使用され、良好な成績が報告されているが本邦ではまだ治験段階である。
8)テトラサイクリン・ニコチン酸併用
9)DDS内服
10)強力ステロイド全身外用・・・これらは有効との報告はあるが重症例での適応は少ない。
🔷病勢はBPDAIによって行う。IgGの血中半減期は3週間あるためBP180の血清抗体価(ELISA法、あるいはCLEIA法)の変動は当初は病勢とずれがある。
再発(月に3個以上の新生疹、10cmより大きい新生疹、また既存病変の拡大)時はステロイド剤を1.5~2倍、あるいは治療初期導入期に準じて増量する。
[粘膜類天疱瘡 Mucous membrane pemphigoid:MMP]
粘膜部のみに病変を認めることもあるので、専門医による正確な診断が特に必須。また眼、食道などの重篤な後遺症を残すことがあるので適切な治療が必須。
低リスク群と高リスク群に分けて治療方針をきめる。眼科、耳鼻科、歯科、内かなどとの連携が必要になってくる。
治療はおおよそ、類天疱瘡の治療指針に準じる。粘膜類天疱瘡では病勢を反映する血中抗体価測定法はないためにびらん、水疱の新生がなくなれば臨床症状を目安に治療薬の減量を進めていく。
[後天性表皮水疱症 Epidermolysis bullosa acquisita:EBA]
通常の検査では水疱性類天疱瘡(BP)との鑑別が困難であり、BPと比べて難治性で慢性の経過をとることが多い。症例数も少なく専門医による診断、適切な治療を要する。
全体として治療はBPに準ずる。ただしBPと異なる点は1)EBAではコルヒチンが使用されること、DDSが奏功する例があること(保険適用外)。 2)テトラサイクリン・ニコチン酸アミド併用療法はほとんどない。 3)強力ステロイド全身外用療法はほとんどエビデンスがない。
軽症例ではBPと同様に局所外用療法も可能であるが、軽快しない例では速やかに専門医療機関に紹介すべきである。重症度によって治療方針が異なるために、重症度判定を正確に行う必要がある。
EBAの再燃の国際基準はないので、BPに準じて判断される。

参考資料

古賀 浩嗣 第83回東京・東部支部学会SY2-3 自己免疫性水疱症の治療戦略 

類天疱瘡 基本事項

類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドラインを基に基本事項をまとめてみました。

類天疱瘡群は表皮基底膜部に自己抗体が沈着して表皮下水疱を形成する水疱症です。
大きく類天疱瘡と後天性表皮水疱症に分けられます。また類天疱瘡は主な亜型として、水疱性類天疱瘡(主に皮膚に症状)と粘膜類天疱瘡(主に粘膜に症状)に分類されます。
この群の水疱のでき方の特徴は天疱瘡が弛緩性水疱を作り、すぐに破れやすいのに比べて、表皮下に割れ目ができるので水疱蓋は厚く、緊満性で天疱瘡に比べると破れにくい点にあります。従ってニコルスキー現象(擦って皮膚が剥がれ、びらんを生じる現象)は一般的に陰性です。
表皮基底膜部の構造は表皮細胞間よりも複雑で、多くの構造物、蛋白質が関与しています。したがって各々の標的抗原によって疾患亜型が異なっており、ななかな理解するのも難しいです。(また言葉で説明するのは難しく、百聞は一見に如かず、です。)
表皮基底膜付近の構造、構成分子はその道の専門家で「あたらしい皮膚科学」の著者である清水 宏 先生の教科書に明快に解説してありますので図を拝借してみます。引用を断ってはいませんが、この本はインターネットでも公開されていますので誰でもアクセスすればみることができます。ここに記されている構造蛋白質が標的抗原となって水疱を形成します。

 
表皮基底膜部の構造、構成蛋白は上記の様ですが、水疱性類天疱瘡患者抗体の主な標的蛋白はヘミデスモゾーム構成分子であるBP180(17型コラーゲン)とBP230です。BP180蛋白は膜貫通性蛋白であり透明体を貫通してヘミデスモゾームと基底板を直結しています。BP230は基底細胞内にある裏打ち蛋白でケラチンと結びついています。ラミニン332はⅣ型コラーゲンなどと共に基底板の構成蛋白で、α6、β4インテグリンを受け止めています。基底板の下にはⅦ型コラーゲンで形成される係留線維が半弧状にフックのように存在し、真皮のコラーゲンと基底板を強固に結合しています。これが後天性表皮水疱症の抗原となります。
【水疱性類天疱瘡】
🔷臨床症状・・・全身に多発するかゆみを伴う浮腫性紅斑・緊満性水疱・びらんが特徴。ニコルスキー現象は一般的には陰性。時に口腔粘膜病変を生じるが、ほとんどが皮膚病変なので粘膜病変を認めた場合は後に挙げる亜型を考える。血中の好酸球やIgEの高値の例が多いが病勢との相関ははっきりしない。
🔷最も多い自己免疫水疱症で尋常性天疱瘡の約1.3倍以上。また年齢的にはより高齢者の60-70歳代の例が多い。ただ稀には若年者、小児例や妊娠に伴う例もある。
🔷近年神経疾患(脳梗塞、認知症、パーキンソン病、てんかんなど)の合併率が高いとの報告が相ついでいるが因果関係など詳細は不明である。
🔷薬剤との関係も知られており、降圧剤、利尿剤(特にフロセミド)、抗生剤などとの相関が報告されている。近年、糖尿病治療薬のDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)阻害薬内服との関連の報告が増加している(詳細は別項で)。
🔷悪性腫瘍との関連・・・同症では悪性腫瘍との関連があるとする報告が多いが、有意な関連はないとの報告もある。また血液系悪性腫瘍との合併率が高いとする報告もある。悪性腫瘍の治療後に水疱性天疱瘡の皮疹が軽快する例もあることから、難治例、高齢者においては悪性腫瘍の検索が推奨される。
🔷病態生理、病理所見・・・IgG自己抗体が表皮基底膜部に沈着する。標的抗原はヘミデスモゾーム構成蛋白であるBP180(COL17)とBP230である。BP180は膜貫通蛋白で、BP230は細胞内接着板蛋白である。主にBP180のNC16a領域(基底細胞の細胞膜に最も近い細胞外領域)に存在するエピトープに対する抗体が病原性を有すると考えられている。
水疱ができる機序は、抗体が抗原に結合した後、補体活性化を介して炎症細胞が局所に集まり、蛋白分解酵素により水疱が形成されるという考えの他に、抗体が抗原に結合することによって抗原が基底細胞内に引き込まれ、基底膜部の接着性がぜい弱化するという考えもある。抗BP230抗体の病原性の詳細は不明である。
またIgE自己抗体が基底膜部に検出され、膨疹や紅斑の程度と相関があるとの報告があるが機序の詳細は不明である。
🔷診断
・病理組織所見では表皮下水疱と水疱内および真皮の炎症細胞浸潤を認める。
・蛍光抗体直接法で表皮基底膜部へのIgGや補体の線状沈着を認め最も感度の高い検査法。
・蛍光抗体間接法で血中IgG抗表皮基底膜部自己抗体を検出する。1M食塩水剥離皮膚の表皮側に反応する。(1mol食塩水に正常皮膚を2日浸す、塩割りともいう。第70回中部学会 教育講演よりーー立石 千晴)
・ELISA(CLEIA)法でBP180,BP230分子に対する血中抗体を検出する。病勢に比例する例が多く診断のみならず治療にも有用であるが、感度、特異度は100%ではないのでこれのみでは診断できない。
・免疫ブロット法でBP180とBP230に様々なパターンの反応がみられる。
🔷治療
早期診断、初期治療が重要である。一般に尋常性天疱瘡よりもステロイドに対する反応は良好であるが、一部では難治である。(詳細は別項で)
【粘膜類天疱瘡】
🔷臨床症状
BP180(COL17)やラミニン332などの表皮基底膜部抗原に対する自己抗体(主にIgG)により、表皮下水疱やびらんが粘膜優位に生じる水疱症である。臨床的には主に歯肉などの口腔粘膜や眼粘膜にびらん性病変を生じ、治癒後に瘢痕を残すことがある。その他外陰部、肛門、鼻、咽頭、喉頭、食道などが侵されることもある。皮膚病変はあっても軽微である。
🔷疫学
比較的まれな疾患で水疱性類天疱瘡よりやや若年で発症する。しかし軽微なものは単なる口内炎、眼疾患として見過ごされている例もありうる。
🔷悪性腫瘍との関連
抗ラミニン332型の粘膜類天疱瘡では悪性腫瘍の発生率が高いとされているので注意が必要である。この型では固形癌も多く、眼、歯肉症状が多いとされる。
🔷病態生理、病理所見、診断
粘膜上皮下水疱を形成し、水疱性類天疱瘡より細胞浸潤が少ない。
・蛍光抗体直接法では粘膜上皮基底膜部にIgGやIgA、補体の線状沈着を認める。
・蛍光抗体間接法では血中に抗基底膜部抗体を検出するが抗体価が低いため検出率は低い。
・1M食塩水剥離皮膚を用いた蛍光抗体間接法で抗BP180型と抗ラミニン332型を簡易的に区別できる(食塩水中では透明層で皮膚は剥がれるために表皮側に反応すれば抗BP180型、真皮側に反応すれば抗ラミニン332型と判定できる)。
・正確にはBP180のC末端やラミニン332のリコンビナント蛋白を用いた免疫ブロット法が必要であるが実施できる医療機関は限られている。
・BP180NC16a領域のELISA(CLEIA)法では約半数が陽性となるが陰性でも否定はできない。
🔷治療
高リスク群と低リスク群に分けて治療方針が決められる(詳細は別項)。高リスク群に対しては尋常性天疱瘡の難治例と同様の対応がなされる。高リスク群では、重篤な眼病変による失明や食道病変による嚥下困難、喉頭病変による呼吸困難などが生じうる。
【後天性表皮水疱症】
🔷臨床症状
係留線維(anchoring fibril)の主成分であるⅦ型コラーゲンを標的とする表皮基底膜部自己免疫水疱症である。臨床的には肘や膝など外的刺激を受ける部分に水疱を繰り返して紅斑に乏しい非炎症型(古典型)と水疱性類天疱瘡に似た紅斑を伴った緊満性水疱を呈する炎症型に分けられる。前者が約1/3,後者が約2/3。上皮化後に瘢痕、稗粒腫を残す。爪の変形や萎縮、炎症後色素沈着、色素脱失を時に伴う。しばしば粘膜疹(口腔粘膜疹)を伴う。この両型は同一患者でも時期によって移行すること、同時に両者の病型を呈することがある。
🔷病態生理、病理所見、診断
・抗Ⅶ型コラーゲン抗体による自己免疫性水疱症である。
・病理組織学的に表皮下水疱を認める。
・蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGおよび補体の線状沈着を認める。
・蛍光抗体間接法では表皮基底膜部に対する血中自己抗体が証明される。1M食塩水剥離皮膚を基質とした蛍光抗体間接法では自己抗体は剥がれた皮膚の真皮側に反応する。
・免疫ブロット法では290kDaの蛋白(Ⅶ型コラーゲン)に対する自己抗体が検出される。
・Ⅶ型コラーゲンのNC1,NC2領域のリコンビナント蛋白を用いたELISA法が開発されて特異度も98%以上と高いが保険未収載である(2017年時点)。
🔷治療
症例数が少ないために、治療に関するエビデンスは少ない。水疱性類天疱瘡に類した治療が行われているが、治療反応性は低く、慢性に経過し瘢痕を残す例が多い。

日本皮膚科学会ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会 
日皮会誌:127(7),1483-1521,2017(平成29)

天疱瘡 治療

天疱瘡診療ガイドラインの内容を基に調べてみました。

【治療指針】
早期診断の必要性、初期治療の重要性を認識することが肝要。
治療は導入期と維持期に分け、方針をたてる。
🔷導入期
病勢を制御でき新生水疱ができなくなり、ステロイドを減量することができるようになるまでの治療初期、通常はおよそ2~4週間。
病勢の評価は主に臨床症状によって行うが、それにはPDAI(Pemphigus Disease Area Index)による評価が有用である。血中IgGは半減期が約3週間あるため、値と症状にずれがある。
初期治療の第一選択薬はプレドニゾロンで重症、中等症では1.0mg/kg/日で、軽症では0.5mg/kg/日で開始することが標準投与量である。2週間経過をみて、効果不十分なら免疫抑制剤、大量γグロブリン療法、(大量IVIG療法)、血漿交換療法、ステロイドパルス療法などを考慮する。
投与に先立って、また投与中も糖尿病、高血圧、消化管潰瘍、感染症などの合併症の検索を十分に行う必要がある。
外用局所療法としては、水疱、びらん面には抗生剤含有軟膏、ステロイド軟膏を塗布する。粘膜部のケアも怠らない。
🔷維持期
プレドニゾロン0.2mg/kg/日またはPSL10mg/日以下を目指す。
臨床的に水疱、びらんを認めなくなってからは血清抗体価(デスモグレインELISA index値)を参考指標にする。
ステロイドの減量は前期(PSL1mg~0.4mg/kg/日またはPSL60~20mg/日)では1~2週で10~5mg/日の減量を目安にする。後期(PSL0.4mg/kg/日またはPSL20mg/日以下)では1~2か月で3~1mg/日の減量を目安にする。
🔷再燃(再発)
月に3個以上の新生病変があり、かつ1週間以上続く場合、または既存病変が拡大する場合と定義される。外用療法で対処できる場合もあるが、なお水疱、びらんが続く場合はステロイド投与量の25~50%, 1.5~2.0倍の増量を考慮する。または他の治療法の併用療法も考慮する。
【難治例に対する治療】
標準治療指針に従っても、軽快しない一群がある。その際はステロイド剤に加え上述したような様々な薬剤、治療法の併用、新規療法が行われている。
🔷治療導入期
標準治療を開始して2週間たってもコントロール不良な場合は追加治療が必要である。
併用療法について、どの薬剤をどのような順番、組み合わせで使うかについては現在エビデンスに基づいた結論は出ていない。治療施設で慣れたもの、使用できる薬剤などを勘案して施行されているようである。ただ、免疫抑制剤のなかではアザチオプリンが推奨度Bとされて他剤(多くはC1評価)よりやや抜きんでている。重症例ではステロイドパルス療法、血漿交換療法、シクロフォスファミドパルス療法などが検討されうる。各薬剤にはそれぞれの副作用があり、使用禁忌もあるので注意して使用する。
🔷治療維持期
時にPSLを減量して10~20mg/日程度になってから再発したり治療効果が進まない例がある。このようなケースでは単にステロイド量を1.5~2倍程度に増量しても治療に難渋する場合がある。その際はIVIGまたはその他の併用療法、新規の治療を考慮する。
🔷将来的な治療
天疱瘡は自己免疫疾患なので、免疫を抑える治療が行われる。
ステロイド剤はあまねく全ての細胞に作用して効果も大だが、その分副作用も大である。免疫抑制剤は標的は免疫関連細胞に絞られてくるがなおターゲットは広すぎる。
自己抗体の上流に位置するB細胞をターゲットにした抗CD20抗体療法が欧米では行われている。CD20はB細胞表面のみに特異的に発現されている分子である。リツキシマブはヒト/マウスキメラ型のモノクローナル抗CD20抗体である。2002年頃より欧州で検討が始まり有効性が確立し、2018年米国でも認可された。本邦でも治験が行われ保険適応への動きが進んでいるとのことである。
さらに将来はターゲットをもっと絞り込み、デスモグレイン(Dsg3)特異的な免疫療法、B細胞をターゲットにしたDsg3 CAART療法、T細胞をターゲットにしたDsg3特異的Treg療法も検討されている。
その他にDsgの接着障害を標的としたり、細胞内シグナルを標的としたり、炎症性のサイトカインを抑えたりなどなど天疱瘡の病態から種々の試みがなされているとのことですが、まだ研究段階のようです。

参考文献

天疱瘡診療ガイドライン 天疱瘡診療ガイドライン作成委員会(委員長 天谷雅行)
日皮会誌 120(7):1443-1460,2010

山上 淳 自己免疫性水疱症 難治例への対処 治療抵抗性の天疱瘡への対処
日皮会誌 129:2735-2740,2019

古賀浩嗣 自己免疫性水疱症 難治例への対処 天疱瘡の病態機序と新規治療法
日皮会誌 129:2741-2747,2019

天疱瘡 基本事項

天疱瘡の基本事項について、日本皮膚科学会ガイドラインから抜き書きし、纏めてみました。
【天疱瘡の定義】
皮膚・粘膜に病変が認められる自己免疫性水疱性疾患で、病理組織学的に表皮細胞間の接着が障害される結果棘融解(acantholysis)が起こり、個々の細胞がバラバラになり表皮内に水疱ができます。その原因は表皮細胞膜表面に対する自己抗体ができ、そこに沈着することによります。また抗体は循環血中にも存在します。
天疱瘡の抗原蛋白は、表皮細胞間接着に重要な役割をしているカドヘリン型細胞間接着因子、デスモグレインです。(cDNAを単離し、この抗原を世界で初めて同定したのが慶應大学教授の天谷雅行先生と師のStanleyです、1991年)。
天疱瘡は尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、その他の3型に大別されます。
1.尋常性天疱瘡(65%)
2.落葉状天疱瘡(23%)
3.その他
・腫瘍随伴性天疱瘡
・増殖性天疱瘡(尋常性天疱瘡の亜型)(2%)
・紅斑性天疱瘡(落葉状天疱瘡の亜型)(6%)
・疱疹状天疱瘡(落葉状天疱瘡の亜型)
・薬剤誘発性天疱瘡(落葉状天疱瘡の亜型)
【疫学】
平成16、19年度の調査からは、受給申請者は約3~4000人、女性にやや多く、発症は50代、60代が最も多いです。水疱性類天疱瘡はもっと高齢者に多くみられます。軽症が約75%、中等症が20%、重症が5%でした。
【病態生理】
尋常性天疱瘡抗原はデスモグレイン3(Dsg3)、落葉状天疱瘡抗原はデスモグレイン1(Dsg1)です。
デスモグレイン代償説・・・上記のデスモグレインの表皮、粘膜内での分布により、天疱瘡における水疱形成部位の多様性が論理的に説明されます。
*表皮*
Dsg3・・・表皮下層、特に基底層・傍基底層に強く発現
Dsg1・・・表皮全層に発現するが、上層ほど発現が強くなる
*粘膜*
Dsg3・・・上皮全層に強く発現
Dsg1・・・基底層を除く全層に弱く発現
🔷落葉状天疱瘡・・・血清中に抗Dsg1IgG抗体のみ有する⇒Dsg3による接着機能の代償がない表皮上層に水疱ができる、一方粘膜ではDsg3の代償があるため水疱、びらんはできない。
🔷粘膜優位型尋常性天疱瘡・・・血清中に抗Dsg3抗体を有する⇒皮膚ではDsg1がDsg3の接着機能障害を代償し、水疱はできない。一方粘膜では発現レベルの低いDsg1は失われたDsg3の接着機能障害を代償できずびらんを形成する。
🔷粘膜皮膚型尋常性天疱瘡・・・血清中に抗Dsg3抗体だけでなく抗Dsg1抗体をも有するので粘膜のみならず皮膚にも広範囲に水疱、びらんを生じる。
【水疱発症の機序】
・自己抗体の結合によってDsgの機能を空間的に直接阻害する。
・自己抗体結合後カルシウムイオンや各種キナーゼを介した細胞内シグナル伝達が誘導、Dsgあるいは裏打ち蛋白質のリン酸化を介してこれが細胞内に引き込まれて、細胞膜上のDsgが減少して接着機能が減少する。
などの機序が考えられています。
【症状および病理所見】
1)尋常性天疱瘡
口腔粘膜の痛みを伴う難治性のびらん、潰瘍が特徴で時に初発症状としてみられます。その他の粘膜、例えば目、喉、陰部などにもびらんがみられます。約半数では皮膚にも破れやすい水疱(弛緩性水疱)、びらんを生じます。圧迫を受けて擦れやすい部位にでき易く、一見正常な皮膚でも圧力をかけると表皮が剥がれ、びらんを生じやすいです(ニコルスキー現象)。水疱は表皮基底層直上の細胞間に裂隙ができ生じます。
2)落葉状天疱瘡
皮膚に生じる薄い鱗屑、痂皮を伴った紅斑、弛緩性水疱、びらんが特徴です。頭部、顔、胸、背などのいわゆる脂漏部位が好発部位ですが、まれに全身に拡がり紅皮症様になることもあります。角層下から顆粒層の表皮上層に裂隙形成がみられます。
3)腫瘍随伴性天疱瘡
口腔内から咽頭にかけての難治性の口腔内病変が特徴です。偽膜性結膜炎も生じます。その他の粘膜も侵されやすいです。皮膚症状は多彩で水疱、びらんだけでなく多形滲出性紅斑、扁平苔癬様の症状も呈することもあります。随伴する腫瘍はリンパ球系が多く、固形癌はまれです。また同症では閉塞性細気管支炎を伴うことも多く、予後を左右することもあります。
4)増殖性天疱瘡
水疱、びらんから増殖性変化を生じるNeumann型と間擦部の膿疱性病変から増殖性変化を生じるHallopeau型があります。基底層直上の裂隙、著明な乳頭状増殖、好酸球性膿疱を特徴とします。
5)紅斑性天疱瘡
落葉状天疱瘡の局所型です。顔面の蝶形紅斑様の皮疹を伴うことが特徴です。歴史的にはSLE(エリテマトーデス)との中間に位置するとされていました。
6)疱疹状天疱瘡
臨床的にジュ―リング疱疹状皮膚炎に似て、痒みのある紅斑と環状に配列する小水疱を特徴としますが、前者が蛍光抗体法でIgAの沈着を認めるのに対し、本症では天疱瘡と同様のIgGクラスの表皮細胞膜抗原に対する自己抗体が検出されます。但し病理学的には棘融解は明らかではなく、好酸球海綿状態が主な所見です。
7)薬剤誘発性天疱瘡
明かな薬剤投与の後に、天疱瘡の所見を呈するものをいいます。D-ペニシラミン、カプトリルが有名です。多くは薬剤中止後に軽快します。
【治療】
抗体産生を抑制するためにステロイドの内服療法が治療の主体となります。感染予防と糜爛面の保護、上皮化促進のための外用療法を併用します。
ステロイド剤の併用療法として、免疫抑制剤、血漿交換療法、γグロブリン大量静注療法などがあります。病初期の確実な導入治療が重要とされます。治療各論はここでは省略しますが、最近はリツキシマブ(抗CD20抗体療法)などの先進治療も試みられています。

日本皮膚科学会ガイドライン 
天疱瘡ガイドライン 天疱瘡診療ガイドライン作成委員会(委員長 天谷雅行)
日本皮膚科学会雑誌:120(7),1443-1460,2010(平22)

水疱症とは

今年の日本皮膚科学会総会の会頭の慶應大学皮膚科の天谷先生は天疱瘡、水疱症の専門家なので、それに関連した講演も多くありました。日頃開業医としては、めったにお目にかからない疾患群で、このブログにも書いたことはなかったように思いますが、少し聴講したら、この分野は超速の進歩を遂げているようでした。それで、水疱症について調べてみました。
そもそも水疱とは、水疱症とは、また膿疱とは何でしょうか。
皮膚科の初めに教わる発疹学では水疱とは「表皮内または表皮下に水溶性の液体内容を持った皮膚の隆起であると定義されています。ただ、手足裏では角層が厚いために皮膚面からは隆起して見えないことが多いです。一方、水疱内容が膿性で白~黄色く見えるものを膿疱といいます。これは主に好中球によりますが、細菌感染などによってできる膿疱と感染症以外で白血球が遊走してできる膿疱(無菌性膿疱)があります。無菌性膿疱が多発する疾患を膿疱症といいます。(掌蹠膿疱症、角層下膿疱症、好酸球性膿疱性毛包炎など)
では、水疱症とは何かというと、水疱ができる病気ですから簡単そうですが、意外と難しいです。
例えば、火傷でも水疱はできますし、靴擦れでもできますし、とびひでも、水ぼうそうでも、ヘルペスでも、手足口病でも水疱はできます。しかし、これらは水疱症とは呼びません。
水疱症とは、自己免疫性水疱症と、先天性表皮水疱症のことを総称する疾患群のことをいいます。
いずれもどちらかというと稀少疾患で、普段あまりお目にかからず、一般人には無関係の疾患かもしれません。しかしながら、いざ患者さんになると悩ましいですし、また最近は糖尿病治療薬によって自己免疫性水疱症を発症することも知られてきて、意外と身近な疾患ともいえるかもしれません。
近年免疫学、分子生物学などの発展によって遺伝子レベルまでの病態が解ってきたそうで、水疱症や角化症などはgene huntingなる言葉もあるように、最先端の学者にとっては日進月歩のホットな分野のようです。そんな難しいことはとても分かりませんが、基本事項、トピックスなど調べてみたいと思います。水疱症の全部はとても書けませんし、調べてここに書く意味もないかもしれませんので。

水疱症の分類(新しい皮膚科学 清水 宏 著 第3版 より)
水疱症
A.遺伝性水疱症(先天性水疱症)
a.表皮水疱症
1.単純型表皮水疱症
2.接合部型表皮水疱症
3.栄養障害型表皮水疱症
b.その他の遺伝性水疱症
1.Hailey-Hailey病
B.自己免疫性水疱症(後天性水疱症)
a.表皮内水疱症(天疱瘡群)
1.尋常性天疱瘡
2.増殖性天疱瘡
3.落葉状天疱瘡
4.紅斑性天疱瘡
5.腫瘍随伴性天疱瘡
6.薬剤誘発性天疱瘡
7.新生児天疱瘡
8.IgA天疱瘡
9.疱疹状天疱瘡
10.ブラジル天疱瘡
b.表皮下水疱症(類天疱瘡群)
1.水疱性類天疱瘡
2.妊娠性類天疱瘡
3.粘膜類天疱瘡
4.後天性表皮水疱症
5.Duhring疱疹状皮膚炎
6.線状IgA水疱性皮膚症
7.抗ラミニンγ1類天疱瘡

初登攀行 松本竜雄 著

唐突なようですが、小生の若かりし頃の山への憧れの中で、多く影響を受け、もう山に登らなくなっても心のどこかに引っかかっている本の一つです。
コロナで散歩する位の運動しかしなくなってなまり切った体でもどこかにうずうずとする青春の山への渇望を思い起こさせてくれます。その本を久しぶりに紐解いてみました。
序は小生の畏敬する上田哲農による推薦文、解説は雲表倶楽部の先輩で日本で初めて埋め込みボルトを制作した望月 亮氏によって書かれています。そこには当時の登山界、彼らの立ち位置などが簡潔に書かれていますのでその概略を記します。
「彼は同じ都立本所工業高校の同窓生でもあり、雲表倶楽部に遅れて入会してきた。昭和30年当時は学校山岳部が主流であり、いわゆる街の山岳会は傍流、低迷期だったが、学校エリートの極地法の登山に対し、厳冬期における3000メートル峰の登攀、より困難な岩壁登攀を目指す機運が芽生えていた。入会後メキメキ頭角を現した彼は32年小生(望月氏)の作成した埋め込みボルトを使って谷川岳一ノ倉沢コップ状岩壁正面の初登攀を成し遂げ人工登攀の幕開けを先導した。この時期精力的な初登攀を行い、谷川、穂高に数多くのルートを開拓した。また厳冬期の穂高の継続登攀も敢行した。さらなる高みを求めて第二次RCCの一員としてカフカズ、パミールの山々も目指した。」とあります。
小生が山に目覚めたのは昭和40年代で大部後になりますが、谷川、穂高、剣など彼の登攀記録も憧れの一つだったように思われ、当時の山好き、特に岩登り愛好者が辿った道のその一部にでも触れたことで、更に臨場感をもって本の内容が迫ってきます。
第一部の高みへの序曲では、氏が岩と雪に憑かれるようになった経過が述べられています。入会後、一ノ倉沢の単独行を重ねていましたが、しばらく続けるうちに未知の滝沢に目を付けました。中でも出色なのは滝沢の積雪期第2登で、下部のオーバーハングが雪で埋まる4月を狙って雪崩を避けて右岩稜にルートをとりました。夜行列車で到着後、夜明けとともに攀り、日没と同時に登攀を終了し、月明かりの雪稜を下った、とあります。残念ながら積雪期の滝沢の初登攀はほんの1週間前に吉尾 弘らによってなされていたのですが、それは本谷通しでした。自分らは雪崩を避ける的確な雪稜、岩稜をとったので、雪崩の危険を避けた的確なルート選定による成功で単なる僥倖ではなかったと述懐しています。
第二部 初登攀行では本の表題ともなった数々の登攀が述べられています。そのほとんどが1958年(昭和33年)に集中しており、その中に日本での人工登攀の歴史を塗り替えたともいえるコップ状岩壁での埋め込みボルトの使用、緑山岳会との初登攀争いの顛末も書かれています。当時一般マスコミでも取り上げられるほどのニュースだったそうですが、実は彼自身は安易なボルト使用には反対で、その岩壁の弱点をついたクラシックなルート選定にこだわっていたようです。単なるアブミの架けかえによる岩登りはアルピニズムの堕落と主張しています。昭和33年の初登攀では年間最多数で、しかもその中にはコップ状岩壁をはじめ、冬の谷川岳一ノ倉沢烏帽子沢奥壁、中央稜、無雪期の谷川岳一ノ倉沢滝沢第2、第3スラブ、穂高滝谷C沢右俣奥壁と日本の最難関の壁の初登攀を成し遂げています。
第三部 新しい困難を求めて
更に困難な登攀の可能性を求めて、冬の穂高屏風岩から北尾根、四峰正面、前穂への継続登攀を敢行し、一ノ倉沢コップ状正面岩壁の冬季初登攀も夏同様に緑山岳会と共同で成し遂げました。氷壁で立ったままのビバークの記述は壮絶です。一ノ倉沢の最後の課題とされる衝立岩正面岩壁も完登しました。
そんな彼もしばらくのブランクの後、RCCⅡ同人たちの誘いをうけ、日本の岩場のグレード・ルート図集の編集に参画し、またカフカズ(コーカサス)山群へその活動の場を広げていきました。

同時代に貪欲に初登攀に命をかけた岳人は彼の他にも多数いたでしょう。中でも衝立岩の南博人、吉尾 弘氏などの記録は瞠目すべきものがあります。吉尾 弘 著 「垂直に挑む男」は丁度松本氏と重なり合うような初登攀の記録や継続登攀の記録に溢れています。
その吉尾氏も滝沢リッジで帰らぬ人となりました。

彼らの青春の記録を読み返しているとまるでその場にいるような、ドキドキ感、高揚感を感じさえします。若い頃の著書ゆえに、高揚し、時には直情的な記述もみられますがそれもかえって山に向き合う真摯なひたむきな真情を伝えてくれます。
山登り、特に岩登りに興味のない人にとっては訳のわからない本でしょうが、興味ある人にとっては心躍る読み物だと思い、お勧めの本です。

追記
特にコップ状岩壁は小生が初めて先輩に谷川岳に連れて行ってもらい、烏帽子凹状岩壁からの継続登攀し、C沢右俣奥壁では次々に降り注ぐ落石をかいくぐりながらの登攀、中央稜での雪の敗退など心に残るものがあり、何度読んでも心惹かれます。

肝斑の治療

先日の、WEB学会でシミ治療のセッションがありました。講師は葛西健一郎先生でした。
本邦のレーザー治療では豊富な実績をもち、シミの治療の本も上梓している専門の先生です。実際の講演会でも何回か聴講したことがあり、明快に単刀直入に話される先生という印象を持っていました。
その先生の話なので、オンデマンドのセミナーを聴講してみました。その時の内容と日皮会誌のセミナリウムの記事を中心に主に肝斑の治療のことについて書いてみます。
肝斑についてはこのブログでも過去に詳しく書きました(2013.11.28)。相当前のものですが、基本的には変わっていないと思いますので臨床症状、組織診断、原因、悪化因子、鑑別診断などの詳細は今回は省きます。
その後2017年7月17日には葛西先生が皮膚科医会でシミの治療について詳しく講演して下さった内容をブログに書きました。重複することも多いかもしれませんが、参考にして下さい。

レーザートーニングの真実
新・皮膚科セミナリウム◎皮膚レーザー治療の常識、非常識 日皮会誌:129(8),1627-1632,2019(令和1) 葛西健一郎(葛西形成外科)
【要旨】肝斑に対するレーザートーニング(LT:低フルエンスQスイッチヤグレーザー治療)は、繰り返し治療続行中には色調軽減効果があるものの、長期予後を改善するエビデンスはない。また、LTの効果発現機序について総合的に説明した論文はない。さらに、LTを受けたことによって、肝斑増悪や難治性白斑形成といった合併症を発症した患者が一定数以上存在する。以上より、肝斑に対するLTは、その作用機序が科学的に説明され、予後を改善することが証明され、副作用を軽減できるプロトコルが完成するまで、一般医療機関では施行しないことが望ましい。日頃から肝斑治療やレーザーに関与していない皮膚科医であっても、LT問題の真実を理解したうえで、患者や学会にたいして適切な行動を取ることが望まれる。

葛西先生の講演の要旨は上記の通りですが、本論内容の補足と自分なりの解釈を若干付け加えて書いてみたいと思います。
疾患には器質的な疾患と、機能的な疾患があるが、代表的な顔のシミ、老人性色素斑、ADM:Acquired dermal melanocytosis(後天性真皮メラノサイトーシス)、肝斑にもそれが当てはまるといいます。すなわち前2者が器質的疾患でそれぞれの責任細胞をレーザーで完全除去すれば完治するが、肝斑は皮膚の異常な炎症亢進とメラニン産生があるものの、責任細胞がないのでレーザーで完治できない。LTでメラノゾームを破壊しても肝斑を治療に導く理由がないと述べています。
(ADMなどに対するQスイッチルビーレーザーの治療についても従来よりも高めのフルエンス(9J/cm2以上)でしっかり照射し、施術後ダウンタイム(絆創膏を貼らなければいけない期間)はしっかりカバーすべきことなどの治療のチップスを述べられましたが、そのことについての詳述は今回は割愛します。

ちなみにシミの診断、治療で本邦の第一人者であった元帝京大学教授の渡辺晋一先生は次のように述べています。
「シミ」を主訴に来院する患者をみてみると、肝斑の患者は少なく、大部分は老人性色素斑あるいは扁平な脂漏性角化症で、なかには遅発性の太田母斑や色素性母斑の場合も少なくない。また化粧品かぶれなどの炎症後色素沈着または固定薬疹などを「シミ」と称する人もいる。また彼は太田母斑や太田母斑類似の種々の真皮メラノサイトーシス病変ーー眼瞼周囲、両側遅発性など――があるし、国際的にはADMは認められていないので、顔面に生ずる真皮メラノサイトーシス(facial dermal melanocytosis:FDM)と総称したほうがよいと提唱しています。ただこの名称もまだ定着しているとはいえません。従って以降従来のADMとして話を進めます。

肝斑に対するLTは、反復治療中は色素減弱効果があることは間違いなさそうです。その機序はメラノゾームの減少、メラノサイトの樹枝状突起の短縮、各種サイトカインの変化などが想定されていますが、中断後の変化や副作用の問題では文献により意見が分かれていて混乱状態とのことです。その原因は多くあるが、科学的に治療効果が証明されていない点、そもそも診断が間違っていて混在する老人性色素斑やADMと思われる例を肝斑が治ったとしている文献すら散見されるそうです。
LT治療を受けたことによって肝斑の色素増悪例は長期の保存的な治療法で改善していくものの、難治性のまだらな白斑をきたした例での治療は困難な例が多いとのことです。
著者はLT否定派ではあるが、肝斑治療のベテラン医師が場合により特殊療法としてLTを用いるのを全面的に否定するものではない、と述べています。経験によりうまく副作用に対応できると思われます。問題なのは業者に勧められるままに画一的に無自覚にLTを行っているケースだと言います。著者はそこからの多くの肝斑治療の副作用例を見てきたといいます。

肝斑は30歳代からの女性に多くみられ、紫外線の影響を大きく受けます。また炎症後色素沈着を来しやすく、熱心に顔面のケアをし過ぎる(擦りすぎる)傾向のある日本人に特に多くみられる印象を受けます。大体の患者さんがトランサミン(トラネキサム酸)を希望して来院されますが、同剤は日本では肝斑の治療薬として発売されていますが、海外では肝斑の治療薬としては認められてはおらず、PMDA審査報告書をみるとその有効性に疑問が持たれても致し方ない内容とのことです。またトランサミンは血栓性疾患、動脈硬化、心臓疾患があると使えませんので注意が必要です。
美白剤はメラノサイト(色素細胞)が作り、隣接する表皮細胞にメラニンを受け渡し蓄積していく過程のカスケードのいずれかに作用する物質からなります。チロジナーゼ活性阻害物質にはハイドロキノン、アルブチン、コウジ酸、ルシノール、アスコルビン酸誘導体、ロドデノールなどがあります。この中でロドデノールによる白斑、皮膚障害はマスコミにも取り上げられ社会問題、訴訟問題にも発展したことは皆さんご存知だと思います。ハイドロキノンにしても毛染めかぶれとの交叉過敏性や長期使用ochronosis (丘疹や斑状の褐色色素沈着)もあり、3~4か月で一旦休止した方が望ましいとされます。

肝斑は顔のシミの中では頻度は少ないとはいえ、女性にとって悩ましい症状であることは論を待ちません。渡辺先生も葛西先生もLT否定派ではありますが、実際に困っている人は多くいることかと思われます。
葛西先生も慣れた医師によるLTを完全には否定していません。要は診断を正確につけ、顔面の「シミ」の症状をよくわかり、各治療の功罪を熟知した医師が、個々の患者に真摯に対応することが最も大切な事かと思われました。
またその前提として肝斑は機能性の疾患で、紫外線の影響を最も受け、季節性の変動のあること、擦るなどの刺激をさけ標準的なスキンケアを行うことがベースとして最も大切なことを周知させることが重要かと思われます。

また一方で、現在評価の定まらない肝斑治療(美白外用剤や内服治療薬、レーザー療法など)が、将来的には高エビデンスの評価を確立して一般医にも納得できる情報が得られることを望みたいと思いました。

参考文献

新・皮膚科セミナリウム◎皮膚レーザー治療の常識、非常識
1.顔面の色素病変(シミ)の鑑別とレーザー治療 渡辺晋一(帝京大学、浦和スキンケアクリニック) 日皮会誌:129(8),1619-1625,20198(令和1)

2.レーザートーニングの真実 葛西健一郎(葛西形成外科)
日皮会誌:129(8),1627-1632,2019(令和1)

皮膚科臨床アセット11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 2012 東京 中山書店

WEB学会

新型コロナウイルスの蔓延のために、今年の日本皮膚科学会はWEB開催となりました。年初めはまだ京都での現地開催とWEB開催のハイブリッド方式を目論んでいたのが、どんどん感染が拡大し、残念ながらWEB開催となった、との経過説明が会頭の慶應大学教授天谷雅行先生の会頭講演でありました。
さて、実際のWEBオンライン学会は勿論初めての試みであり、主催者側も参加者側も戸惑いはあったでしょうが、新たな発見もあったのではないでしょうか。
全体の評価、総括などは主催者をはじめ、それぞれの専門の先生方がいずれ述べられるかと思います。
ここは、個人的な感想を述べてみたいと思います。
ステイホームでの講演は期待と若干の不安で待機していましたが、無事始まりました。概ね聞き取りやすく、演者も視聴者に聞き取りやすく、分かりやすくスライドを作り、話しているのだろうとの印象を受けました。
学会場のように前の人に画面が遮られることもなく、またくしゃみなどしても顰蹙をかうこともなく、リラックスして聴講できるのが思わぬ気づきでした。
また、オンデマンドのセッションでは、時間を気にせずにいつでも見られます。休日の朝は、寝床の中でiPadからでも見られ、また夕方はグラスを傾けながら、画面を見るといった一寸不謹慎な参加もしました。
一寸外出時にはiPhonに切り替えたりと自由度の高さも新たな発見でした。
便利な一面、やり方に慣れないせいもあり、iPadのどこかをクリックした拍子に画面が飛んでしまい、しばらく再度ログインできないこともありました。
またセッションによっては予定時間より短く終ったり時間を過ぎても終わらないセッション(海外からの熱のこもったセッション)もありました。
オンデマンドのセッションを日曜日の夜に見ようと取っておいたら、大会は終了しました、との表示が出て失敗したこともありました。
一番のトラブルは土曜日の午後にやってきました。午後の始まりのセッションは皆さんがログインを集中したせいか一時ログインできないトラブルが続きました。ややあって学会事務局から暫くログインを待って、複数の機器でログインはやめて、と連絡が入りましたが、ご多分に漏れず小生もあたふたし、iPad,パソコンとアクセスしようと色々いじってしまっていました。今回のこのトラブルは今後同様な事態に対応する教訓になるかと思いました。
WEB学会については、高齢者や子育て中の先生方から、現地に足を運ばずに参加できたとの喜びのメールもあったといいます。ステイホームで、交通費、宿泊費も要らず参加できるのもメリットです。
新型コロナウイルスは人々に多大な苦痛と不自由を及ぼしていますが、今回のWEB学会は「災いを転じて福となす」の例えの如く、将来のオンライン学会のメリットも教えてくれたように思えました。コロナが終息しても、現地、WEBハイブリッド学会方式をとってもらえれば小生のような爺医にとっても有難いと思いました。
大会関係者の皆様、短期間の間にこのような大変な試みを成し遂げ、提供して頂きありがとうございました。

大会公式twitterでは、事務局、twitter民のホットな交流が交わされていました。これをきっかけに日皮会がますます飛躍しますように!