アトピー性皮膚炎と大気汚染

先日の広島の日本皮膚科学会総会の演題で一寸興味を惹かれたこと。

初日にあった講演で皮膚科の中で最も権威があると言われる皆見賞受賞記念講演と、皮膚科で長年の功績があった人に贈られるMaster of Dermatology (マルホ)賞の受賞記念講演があったのですが、2演題ともにaryl hydrocarbon receptor(AhR)という聞きなれない、というか初めて聞くような難しい名前のついた講演でした。
別に示し合わせてAhRを選んだ訳でもないのでしょうが、聴いてみるといずれも大気汚染、公害などに重要な役割をもつ物質のお話で重箱の隅をつついたような学者バカの話ではなく、広く実社会にとって必要な研究であることがわかりました。

まず、皆見賞講演は、
The aryl hydrocarbon receptor AhR links atopic dermatitis and air pollution via induction of induction of the neutrophlic factor artemin 日高 高徳(東北大学)
という演題でした。
以前から大気汚染とアトピー性皮膚炎の患者数、重症度には相関関係があることが知られていました。近年は中国でもアトピー性皮膚炎が急増しているそうです。その患者数と大気汚染のマップを重ねると驚く程一致しているそうです。すなわち揚子江流域の内陸部、北京周辺、上海周辺の工業化の発展している地域のアトピー性皮膚炎の罹患率の多さが際立っています。
演者らは大気汚染物質が転写因子AhRを活性化させることで神経栄養因子arteminを発現させ、皮膚表面の表皮内への神経が伸長して過剰に痒みを感じやすい状態を作り出すことを解明しました。
過剰な痒みによって皮膚を引っ掻く⇒皮膚バリアが破壊される⇒皮膚から多くの抗原(ダニ、花粉、食物、化学物質などなど)が侵入する⇒Th2型のアレルギー反応が起きる⇒TSLP, IL33, IL4などが活性化される⇒アトピー性皮膚炎が悪化する⇒さらに引っ掻く・・・デフレスパイラルが起きる
演者らはAhR活性化マウス(AhR-CAマウス)を用いて上記の仮説を実証しました。マウスにアーテミン抗体をを投与すると表皮内への神経伸長も、痒みも減少しました。
またディーゼル排気に含まれる大気汚染物質を正常マウスに慢性的に塗布するとAhRが活性化され、AhR活性化マウスと同様に皮膚炎を起こしました。
 将来的にはアーテミンやAhRをターゲットとした創薬が期待されるとのことです。

続くマルホ賞講演は
Aryl hydrocarbon receptor 研究による社会貢献
――油症および炎症性皮膚疾患の治療―― 古江 増隆 (九州大学)

カネミ油症事件は1968年に発生しました。米糠オイル(ライスオイル)の製造過程で、脱臭加熱のために用いられたPCB(ポリ塩化ビフェタール)が、オイルの中に混入し、それを知らずに購入、摂取した人たちに発症したダイオキシン類中毒です。
古江先生は東大卒業後、山梨大学を経て1997年九州大学教授として九大に赴任し、カネミ油症と出会ったとのことです。
それまではほとんど油症の知識がなかったものの、多くの患者さんの診療、検診を受け持ち油症の研究の中心研究者となっていきました。

油症はダイオキシン類およびPCBによる複合中毒症です。ダイオキシン類は多くの種類がありますが、大きくわけると、最も毒性の強いTCDD(エージェントオレンジと呼ばれ、ベトナム戦争時に散布された枯れ葉剤に含まれていた成分)と化学構造や毒性の類似しているPCDD(ポリ塩化ジベゾパラジオキシン類)、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン類)、DL-PCB(ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル)の3種類があります。
現在では419種類のダイオキシン類が確認され、内訳はPCDDが75種類、PCDFが135種類、PCBが209種類となっています。
その毒性はTCDDの毒性を1とした相対比(TEF: toxic equivalent factor)で定義されます。
残念ながらカネミ油には毒性の強いTEF0.3のPCDFが大量に含まれていました。
油症の特徴的な症状としては、黒色面皰、顔や爪の色素沈着、マイボーム腺からのチーズ様分泌物、眼瞼結膜、眼球結膜の色素沈着、手足のしびれ、筋肉痛、月経周期異常、関節炎、下痢、脱毛などがあります。また頭痛、咳、痰、全身倦怠感などを訴える人もあります。
発症から数十年も経過した現在でもPCDFの残留濃度は高いままだといいます。
発症当時はダイオキシンもPCBという概念もなかったそうですが、皮疹がどうも塩素ざ瘡に似ているとして、1年以内にPCBの混入にはないかと推定され、原因物質の特定へと繋がっていきました。
当時は測定機器も、手段もなかったものが科学技術の発達で測定できるようになっていきました。1990~2000年代のことでした。血液10㏄で血中ダイオキシン濃度が測定できるようになり、新たな診断基準が作成され、科学的な基準で患者認定ができるようになりました。
ダイオキシン類による事件・事故は他にもあり1976年 イタリア ミラノ近郊のセベソの化学工場の爆発、1979年の台湾の油症事件、1999年のベルギーの家畜農場での事故などがあります。また2004年にはウクライナ大統領候補のヴィクトル・ユシチェンコが何者かにダイオキシンを盛られてダイオキシン中毒を発症した事件もありました。
古江先生は九州大学に赴任後、2001年からは全国油症治療研究班長を務め、2008年からは九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長兼任、油症の研究を本格化していきました。
2000年代に入ってからダイオキシンの作用はAhRという受容体と結合することで作動することが解明されてきました。AhRを欠損したマウスではダイオキシンの毒性は発揮されません。2007年に来日したかつての恩師、NIHのカッツ教授、東大の玉置先生との会談で「今一番力を入れているのは油症のAhR研究で、将来治療法を生み出せるかもしれない」と述べています。そして「それはよい仕事をしている。」と非常に喜んでくれたと述べています。

皮膚は体表内外の様々な化学物質を感知するAhRを豊富に保有して、ダイオキシン、紫外線クロモフォア、植物由来物質、微生物物質などに適応しています。AhRは酸化ストレスと抗酸化防御という相反するシグナルの分水嶺としてして働き、これに作用する創薬が油症の治療にも役立つと思われました。しかしながら新たな薬剤の開発は膨大な資金と労力を要します。それで研究班はAhRに作用し抗酸化作用のある植物由来物質を含む多くの漢方薬を臨床試験していきました。そして麦門冬湯、桂枝茯苓丸などが油症患者の症状を軽減することを明らかにしました。アーティチョーク、ウチワサボテン、ドクダミ等も抗酸化作用があるそうです。
桂皮(シナモン)は東南アジアなどで比較的安価に入手できます。同地域で散発するダイオキシン被害にも役立つのではないかとのことでした。
さらに、AhRはダイオキシンだけではなく、角化バリアを担うフィラグリンやその他の表皮分化蛋白の発現を亢進させる主要なシグナル経路であることから様々な炎症性疾患の新規治療開発の一領域を担うとのことです。またAhRは発がんや免疫細胞の抑制の鍵ともなっており、現在では非常に注目されている領域となっているそうです。

古江先生は「教授就任当時は、患者団体から治療法がないことを責められ、重責に苦しみました。でも、やるべきことから逃げず必死で向き合ったおかげで、今は患者さんから感謝の言葉をいただき、AhRという素晴らしい研究領域にも巡り会えました。恩師2人のあの夜の励ましは、私にとって忘れられません。」と「私の仰ぎ見る医師」の中で述べています。

アトピー性皮膚炎の新時代

アトピー性皮膚炎が、慢性の疾患でいまだに明確な原因、従って根本的な治療法がない疾患であるというのはまぎれもない事実です。ただ、最近(と言っても21世紀に入ってから)はだいぶ以前とは様相が違って視界が開けてきた感があります。
数十年前は本邦ではアトピー性皮膚炎治療に対するステロイドバッシングが激しく起こった時期がありました。(現在でも続いているのかもしれませんが)
ただ、それも故なしというわけでもないように思います。ステロイド剤は広く炎症を抑える強力な武器ですが、ヒトの免疫機構全体に作用するので、ピンポイントの原因をアタックする原因療法ではありません。当然いろいろな副作用があり、それに通暁した医師が使わないと治療効果よりも副作用が前面にでてくることもあります。当時明確な病因が未解明であったことも相まってか、なおさら訳もわからずただステロイドを使う、といった批判もあったかと思います。
ただ、ここ数十年は免疫学をはじめとした医学は長足の進歩を遂げつつあります。教科書ですら10年前のものは使い物にならないくらいです。開業医で日々の診療に追われている身にとっては、ほとんど医学の進歩にはついていけません。ただ、インターネット時代とあってその気になれば最先端の成果をいち早く受け取ることもできる時代になってきました。ただ膨大な情報の海で溺れかねない状況です。時間も知識も限られた身としてはその道の専門家が分かり易く解説してくれる雑誌、講演会は手っ取り早くそのエッセンスを知る良い機会です。先日は米国のアトピー性皮膚炎の専門家によるアトピー性皮膚炎の新薬「デュピクセント」の発売記念講演会がありました。
「Dupilumab(Dupixent) A Bench-to-bedside success story for Atopic Dermatitis」という演題でした。
演者:Oregon Medical Research Center President Andrew Blauvelt,M.D.,M.B.A.

ヒト型IL-4/13受容体抗体製剤の新薬のお話でした。
その講演をベースに、その他の新規の情報は本年1月号のVisual Dermatologyの特集号 アトピー性皮膚炎の新時代 責任編集 椛島 健治 の 内容を参照してデュピルマブなど新規薬のことをまとめてみました。

 (図1)江川 形平 アトピー性皮膚炎における生物学的製剤 Visual Dermatology Vol.17:18-21,2018 より

(図2)サノフィ(株)資料より

(図3)サノフィ(株)資料より

近年、乾癬の病態、病因は生物学的製剤の臨床応用と相俟って、パラダイムシフトと呼称されるほどに解明が進んできました。アトピー性皮膚炎においても生物学的製剤の治験は続々と進められており、免疫学的病因解明が進んできています。アトピー性皮膚炎の病態は1)表皮バリア機能の異常 2)免疫応答の異常 3)痒みの異常 が相まって形成されると考えられています。
これらをダイナミックに統合、動かしているのが各種の免疫細胞やサイトカインです。免疫反応の応答ではTh2細胞がかかわる2型免疫反応がその病態に大きくかかわっていると考えられています。
Th2細胞はIL-4, IL-13, IL-5, IL-31などのサイトカインを産生して、皮膚の炎症や痒みを引き起こします。またIL-33やTSLP(thymic stromal lymphoprotein)などはTh2細胞に直接作用して、その活性化を促進するとされます。
上図(図1)のように様々な生物学的製剤がアトピー性皮膚炎治療の治験薬として進められているそうですが、現実に実用化されて、最も期待できるのがTh2型炎症を抑制するデュピクセントです。
デュピクセントはヒト型抗ヒトIL-4/13受容体抗体製剤で、この両者に共通のIL-4受容体αサブユニット(IL-4Rα)に特異的に結合してIL-4, IL-13のシグナル伝達を阻害して炎症を抑制します。(図2)
デュピクセントの作用点は上図のx印で示した部位です。(図3)
国内外で行われた治験では300mg投与16週の時点で37%の患者においてIGA(investigator’s global assesment)スコア0 もしくは1が達成され(プラセボ群では約10%)、またおよそ半数の患者さんがEASI(eczema area and severity index)75を達成(プラセボ群では1%以下)と著効といってよいほどの報告がなされています。また54週の長期投与でも効果は保たれ、安全性も軽度の結膜炎を除いては重篤な副作用はみられていないとのことです。
これらの結果より2017年3月からは米国食品医薬局(FDA)で認可され、本邦でも最近発売になりました。すでに数100例に用いられているとのことです。

図1にあるようにTh2細胞を中心にアトピー性皮膚炎の病態に関与する種々のサイトカインをブロックする生物学的製剤をもちいたアトピー性皮膚炎の治験は精力的に進められているそうです。そう遠くないうちにその治療効果が報告されてくるようです。
その中でネモリズマブ(抗IL-31受容体抗体)、トラロキヌマブ、レブリキズマブ(抗IL-13抗体)は数年のうちに臨床応用されるようです。さらに抗IL-17抗体(セクキヌマブ)、抗IL-22抗体(フェザキヌマブ)、抗TSLP抗体(テゼベルマブ)、抗IL-33受容体抗体(CNTO 7160)なども米国においては臨床試験が進められていて、効果の期待される薬剤もあるようです。

このように新規薬剤の目覚ましい開発、進歩でアトピー性皮膚炎の治療、病態解明は飛躍的な発展、パラダイムシフトを迎える予感があるものの、生物学的製剤の高価なことは医療経済に打撃を与えかねず、大きな社会問題にもなっています。
皮膚科分野ではメラノーマの新薬オプジーボが肺癌などにも適用拡大され、年間の薬価が約3500万円、患者数からみると年間数兆円にも及ぶとの推計があり、薬価が半額に引き下げられた経緯がありました。乾癬に対する薬剤も高額医療制度が機能していればこそ、多くの人が使用可能です。

難治性炎症性疾患、悪性腫瘍などに対する新規薬剤の開発は目を見張るものがあります。しかしながら現在の薬価のシステムは本邦だけではなく、全世界的にみてもいずれ行き詰るような気がします。
全人類に福音をもたらすような素晴らしい薬剤であればあるほど、人類共有の財産として広く開放できないものでしょうか。
そういう意味ではノーベル賞の大村博士、ウィリアム・キャンベル博士、製薬会社のイベルメクチンのオンコセルカ症に対する無償提供は素晴らしい前例と思いました。

やや横道に逸れましたが、これら新規の素晴らしい薬剤がうんと低額で供給できるような時代がくることを願わずにはおられません。

ホクロとメラノーマの間

最近の日本皮膚科学会雑誌にホクロとメラノーマの判断の難しい例の報告、ディベートがありました。
専門的で難しい内容で、また難しい論争ではありますが、重要な事柄なので思うところを述べてみます。

「表皮内メラノーマへの移行が考えられたdysplastic nevusの1例」 日皮会誌 127巻 第11号 2477-2481,2017
福田 光希子、田中 了、藤本 旦、高田 実
Letter to the editor 福田らの論文「表皮内メラノーマへの移行が考えられたdysplastic nevusの1例」を読んで 
斎田 俊明 日皮会誌 128巻 第2号 205-209,2018

症例は50歳の女性で幼少期から背部に色素斑があり10年前から徐々に増大して15x14mmの色調が不均一な黒褐色斑となったものでした。病理組織学的に一部で典型的なdysplastic nevus(DN , Clark母斑)の所見があり、それに連続して表皮内メラノーマの病理所見がみられ、BRAF遺伝子解析でV600K変異がみられたというものでした。

この症例に対し、斎田先生は福田らがDNとした部分の組織像もメラノーマの所見であるとの見解を述べました。 

ご両人とも日本におけるメラノーマの専門家(斎田、高田先生)で小生にはいずれの診断が妥当なのか判断できません。ただ、典型的なほくろ(母斑)とメラノーマでは病理の診断は皆一致しますが、中間的病変(probably beneign~ malignant melanoma in situ)の病理診断は非常に難しく専門病理医でも判断が大きく分かれることも多いといいます。
時にダーモスコピーの講習会や病理学会に出席していてもメラノーマの専門医の間で病理組織に対する意見が良性、悪性に別れるのをみることがあります。(学会にはそういう疑問点がある例が集中的に供覧、討論されるということもあるかもしれません。)ただ素人的には一体どっちなのとモヤモヤした気持ちになることもままあります。
病理組織をみるときには、極一部の所見にこだわると間違いを犯す、全体の構築像をみて判断するべきであるとよく言われます。それはダーモスコピー像でも臨床像でも同じことかもしれません。特にメラノーマはそれが難しいらしく、スピッツ母斑などは個々の細胞、細部だけをみると「悪性像が満載」と泉先生の教本にもあります。
「Spitz母斑は、悪性所見が満載!-Ascent,偽封入体、核分裂像などが悪性の根拠とならない―
もっとも大切な鑑別点は、弱拡大による大きさ(≦6mm)、境界の明瞭さ、左右対称性、表皮の肥厚そしてSpitz母斑だけに特徴的な所見(均一monotonousな増殖、縦長の細胞増殖、裂隙、Kamino小体など)の存在である。」(泉 美貴)

一つの思いは、本当にメラノーマの診断は難しいものだなー、との感慨です。だからといって専門医は診断力が弱いと思わないで下さい。ごく一部の例では鑑別が難しくて、そこがいつも学会の話題になっていると了解したほうが妥当です。

診断の難しさは納得しつつも一方でその道の専門家をして、診断のgold standardといわれる病理組織診断をもってしても、一方で良性、一方で悪性という診断が下されるのは釈然としません。現代の医学がまだ完全とはいえない証左かもしれません。しかし、当事者の患者さんにとっては死活問題なのは当然です。その隘路を解決するべく最近は次世代シークエンサーを用いた詳細な遺伝子解析が行われ、メラノーマとその前駆病変とで遺伝子変異の異常の差がみられたとの報告が相次いでなされています。
ただ、メラノーマの専門家の指摘にあるように、中間的病変ともいえる色素病変でのそもそもの病理診断の一致率は極めて低く、50%以下との報告もあります。すなわち良性、悪性の診断根拠のゴールポストがあやふやで移動している状態では、いくら遺伝子解析を行っても正しい結論に至らないのは明らかです。完全に正確な良性、悪性か否かの診断はまだ研究途上で、将来への課題のようです。

もう一つは、上記の論文の論点になっていた、果たしてほくろからメラノーマになるのか、との命題です。
斎田先生はメラノーマはde novoからの発症で表皮基底層のメラノサイトが癌化するものであって、ほくろからメラノーマにはならないという説です。
一方の高田先生の考えは、頻度は少ないにしてもある種のメラノーマはほくろから癌化するという説です。
こんなにメラノーマの研究が進歩しているのにこの命題に決着がついていないことのようです。学者にもいろいろの考えがあるようです。
清水の新しい皮膚科学 第3版には以下の記述があります。
BFAF,RAS,NF1などさまざまな細胞増殖にかかわる遺伝子に変異をきたし、メラノサイトが悪性化して発症する。母斑細胞性母斑(Clark母斑や巨大先天性色素性母斑)、青色母斑、色素性乾皮症などから生じる場合がある。外傷、紫外線、靴擦れや掻破などの物理的刺激、鶏眼切除、凍瘡、熱傷瘢痕なども誘因となる。・・・」
一般的なほくろからの悪性化はまずないのでしょうが、絶対ないのではないのでしょう。白人などのClark母斑ではほくろの数が多くなるにつれてメラノーマ発症のオッズ比が高くなるといわれています。
ほくろが悪性化するか否か、と黒白で議論すると混乱が生じ、極端な情報になりそうです。
どんなタイプの”ほくろ”がどの程度のオッズ比で悪性化のリスクが上昇するかが示されればもっとすっきりするように思われました。

先日の日本皮膚病理組織学会でもメラノーマ関連の組織供覧がありました。病理組織診断 投票結果がでていましたが結構割れていました。
スピッツ母斑関連でも中間病変ともいえるatypical Spitz nevus, atypical Spitz nevus with ALK fusionからmalignant melanomaまで票が割れて、先天性母斑(proliferative nodule in congenital nevus)とmalingnant melanomaに票がわれた症例もありました。
病理の専門家でも難しい例があるのだと悩ましく思いました。

やはりメラノーマの診断は難しい・・・。というしょうもないつぶやきに終わってしまいました。

掌蹠膿疱症update

先日、千葉県皮膚科医会・日臨皮学術講演会がありました。その中で「掌蹠膿疱症診療 Update」という講演がありました。講師は東京歯科大学市川総合病院皮膚科の高橋愼一先生でした。
以前、2014年2月に掌蹠膿疱症についてかなり詳細に当ブログに記載しました。照井 正 先生の責任編集によるVisual Dermatologyからのまとめが中心でした。今見直してみると書いた内容の相当部分は忘れてしまっていますが、現在の状況と大きくは変わっていないようです。それでも高橋先生の講演からいくつか新しいトピックスが教示されました。それらを文献を参照しながらまとめてみます。
【病因】
免疫学の進歩も相俟って、かなり詳細に解明されてきている感触があります。
治療効果なども勘案して、病因に関係する因子はいくつかに絞られてきています。その2大要因はタバコと病巣感染かと思われます。さらにそこに(歯科)金属アレルギーの関与もいつも取り上げられますが、金属アレルギーの関与、治療効果についてはそれ程のものではなく、むしろ過大評価しすぎないことが必要かもしれません。
🔷タバコ(ニコチン)
喫煙が掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosisまたはpustulosis palmaris et plantaris: PPP)に悪影響を及ぼしていることは、以前より実地医家にも広く周知された情報です。
掌蹠膿疱症の罹患年齢は40~60歳台が多く、男女比は1:2~4と女性に多く発症します。喫煙率は40~60%と高く、特に女性の患者さんでは多くの患者さんが喫煙しています。
【喫煙がPPPによくないのは、臨床的に以前から知られていました。しかし、その理由はよくわかっていません。2002年にスウェーデンのEva HagforsenはPPP患者の病変部組織において表皮内汗管および周囲の表皮細胞にもニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)タンパクの発現の増強を認めました。
(ちなみに日本とともにPPPの発症率の高いスウェーデンでは90%が女性でその95%が喫煙者だそうです。そして、スモーカーの発症リスクはそうでない人の74倍だそうです。)
また同時にPPP患者血清ではnAchR抗体の上昇が約半数に認められ、何らかの自己免疫反応が汗管およびその周辺に起こり、病気の発生につながっていると推測しています。
エックリン汗管は汗の排出を行いますが、一方神経内分泌器官でもあります。ニコチンは汗から排出され、コリン作動性の炎症惹起性の物質でもあります。従ってこれが、自然および獲得免疫に関与していることが強く疑われるとのことです。
汗管は外界からの刺激をガードする免疫器官としての役割も考えられます。そう考えるとPPPに幾多の自己免疫疾患が合併しているのも自己免疫の破綻を示唆している可能性もあるそうです。(Eva Hagforsen)】
(この項、2014.2.17の当ブログより)
汗の刺激は症状を悪化させます。それで6月頃に症状の悪化する例が多いそうです。喫煙では受動喫煙も影響していて、高橋先生は患者パートナーの禁煙とサリチル酸ワセリンの塗布のみで1年後略治状態になった症例を経験したそうです。
🔷病巣感染
PPPの発症には扁桃や歯性病巣などの病巣感染が密接に関与しています。特に日本人では欧米の症例に比べてその割合が高く、その大半が扁桃摘出術(扁摘)や歯性病巣治療によって軽快します。有効率は報告者によって差はありますが、概ね60〜80%と共に高率です。その理由は歯科病巣も扁桃もワルダイエルリンパ組織(Waldeyer咽頭輪)が関わる領域に存在するからとされています。
扁摘は極めて有効ですが、注意すべきなのはPPPの病巣扁桃は無症状である、という点です。それはA群β連鎖球菌(溶連菌)などの病原菌ではなく、口腔常在菌であるα-streptococcus に対する免疫応答が破綻しているからだといわれています。それで保存的な治療で軽快しない場合は耳鼻科的には積極的に扁摘をすべきであるとされます。扁摘は耳鼻科医が最初に習得する手術のひとつであり、手術時間は全麻で1時間程度、入院は術後1週間程度ということです。咽頭痛、術後出血が主な合併症ですが、出血の頻度は1,2%程度と低く極めて安全な手術とされます。但し100%軽快するわけではなく、効果の予見はできないので無理強いはできません。治療効果は半年から1年をみます。それ以上は頭打ちとなるようです。
扁桃とPPP皮膚病変との結びつきの機序としては次のように考えられています。「PPP患者では扁桃常在菌に対する免疫寛容機構が破綻しているために、扁桃常在菌に対して過剰に免疫応答します。その結果扁桃のB細胞が活性化され、皮膚と共通抗原性のある熱ショック蛋白質などに対する抗体産生が誘導され、また一方扁桃T細胞も活性化されて皮膚ホーミング受容体などへの発現が亢進し、活性化した扁桃T細胞(Th1,Th17細胞など)が掌蹠皮膚に遊走する可能性があります。(熊井琢美、高原 幹、原渕保明)」
🔷歯性病巣と金属アレルギー
東京歯科大学では約70%の症例で歯性病巣の治療が有効で、金属アレルギーのある歯科金属を除去するのみでは有効例は少ないことを報告しています。歯性病巣治療の効果は扁摘よりも遅く1年程度かけてゆっくり現れることが多いそうです。PPPでは金属シリーズパッチテストの陽性率は高く、金属アレルギーの関与は示唆されているものの、異汗性湿疹などと異なり除去での効果はあまり見込めません。
扁摘は有効ではあるものの、全身麻酔となるため一般に躊躇するケースが多いようで、まずは口腔内の慢性炎症(根尖性歯周炎、歯周炎)の治療を優先して行うのが現実的のようです。
平成28年度の歯科診療報酬改正で金属アレルギー患者の大臼歯にCAD/CAM冠(ノンメタル(ハイブリッドセラミックス))が保険適用になりました。但し「医科の保険医療機関又は医科歯科併設の医療機関の医師と連携のうえで、診療情報提供に基づく場合に限る」という但し書きがあります。歯科金属除去目的で皮膚科へのパッチテストの依頼もみられるようになりましたが、PPPでは上記のことも勘案して施行する必要があります。
🔷その他の要因
糖尿病の関連や甲状腺機能異常などホルモン異常が関与する例もあります。また北欧ではグルテン食の関与する例もあります。
【臨床症状】
典型例は掌蹠(手掌足底)に紅斑、小膿疱、鱗屑、痂皮が混在してみられます。手足のエックリン汗管(表皮内汗管)がprimary targetとなる機序が想定されています。PPPの膿疱の特徴はダーモスコピーで観察すると透明な枠に囲まれるように水疱中央部に小膿疱(pustulo-vesicle)がみられることです。これはやがて内容が混濁、痂皮化して落屑となり、紅斑落屑局面を形成していきます。
掌蹠を超えて四肢、臀部などにも紅斑落屑や小膿疱をみる例があり、掌蹠外病変と呼ばれます。皮疹は乾癬に似ますが、浸潤は軽度で厚い鱗屑も伴わず、境界も不鮮明です。また乾癬と同様にKobner現象をみることもあり、下着のゴムで締め付けられる部位や擦れやすい部位に出やすい傾向があります。たまに炎症が爪に及ぶと爪甲の変形を伴い、爪下に膿疱がみられることもあります。
このように掌蹠膿疱症は乾癬に似た臨床症状を呈するために欧米の一部ではこれを膿疱性乾癬のacral typeとして乾癬の一亜型として考えています。すなわちpalmoplantar pustular psoriasis, palmoplantar psoriasisなどと表記されたりします。しかしながらHLA解析においても掌蹠膿疱症と乾癬は異なる遺伝的背景を持っていることが報告されており、本邦では両者は異なる疾患と考えられています。但し乾癬とPPPの家族例や、家族性のPPP例もあり両者は非常に近縁の疾患と考えられています。
PPPの経過中に注意すべき合併症としてIgA血管炎(Henoch-Sconlein紫斑病)、IgA腎症があります。いずれも胸鎖骨間骨化症と同様に病巣感染が共通の病因となって発症します。頻度は高くはないですが、定期的な尿検査などのチェックは必要です。
【骨病変】
PPPの約10%に骨関節症状が合併し、前胸部が最も多いとされます。本邦ではPAO(pustulotic arthroosteitis)、掌蹠膿疱症性骨関節炎と呼ばれますが、欧米では1987年にSAPHO(synovitis滑膜炎、acneざ瘡、pustulosis膿疱症、hyperostosis骨増殖症、osteitis骨炎)症候群という名称が提唱され定着しています。ただ本邦では重症ざ瘡に伴う例は少なくPAOのケースが多いようです。
前胸部の他仙腸関節、脊椎、下顎骨、その他の末梢関節の付着部炎、骨びらん、増殖性変化がみられます。テクネシウム骨シンチグラフィーでは単純X線で変化がみられなくても病変部に高率に集積像がみられ、早期診断に有用です。またMRIも診断に有効です。前胸部のものは胸肋鎖骨間骨化症(inter-sterno-costo-calvicular occification:ISCCO)と呼ばれ、前胸部の疼痛を伴う膨隆はその形状からBull’s head signとよばれます。
【治療】
以前のブログ(2014年3月2日 掌蹠膿疱症(4)治療)に書いたものと大きな変化はないようです。
PPP治療法の問題点は、広く認められた皮疹の評価方法がないこと、同症は軽快・増悪を繰り返す疾患であるために、薬剤の治療効果の判定が難しいことなどがあげられます。すなわちEBM(根拠に基づく医療)に基づく標準治療が挙げづらいことがあります。患者さん個々によって治療効果が大きく異なるのもこの疾患の治療の難しいところです。ただ、病巣感染やたばこ、背景の増悪因子を取り除くことに努めることは第一義でしょう。その上で、外用療法、光線療法、さらには各種内服療法などを取り混ぜていくことになります。PPPは残念ながら類症の乾癬のように明確な治療指針、ガイドラインが通用しません。骨関節症状に対してもNSAIDs、ステロイド、メトトレキサート、クラリスロマイシン、エトレチナート、シクロスポリン、ビスホスホネート製剤、サラゾスルファピリジン、生物学的製剤などを取捨選択していくことになります。
(ビスホスホネートは抜歯後に顎骨壊死をきたすリスクあり)
また適応外ながらオテズラがPPPにも一定の効果があるとのことです。

参考文献

掌蹠膿疱症の治療 あの手この手 責任編集 照井 正 Visual Dermatology Vol.11 No.10 2012

歯科と連携して治す皮膚疾患 ➂ 責任編集 押村 進、松永佳代子 Visual Dermatology Vol.16 No.12 2017

ブルーム症候群

DNA損傷、ゲノム不安定症候群で光線過敏を呈する疾患として、XP,CSなどと共に上げられる疾患にBloom症候群(Bloom’s syndrome: BS)があります。非常に稀な疾患で世界で数百例、本邦でも数十例ですが、責任遺伝子がわかり、姉妹染色分体交換異常などの特徴があり、かつて大学在籍時に経験した例も参考にしながら書いてみます。

BSは1954年にDavid Bloomが日光過敏、顔面の毛細血管拡張を伴った紅斑、細身の体躯の小人症を呈した3例を一症候群として報告したのに始まります。その後、Bloom, Germanらは症例を集積して、東欧系ユダヤ人に多いこと、常染色体劣性遺伝形式を取ること、染色体異常がみられ、高発癌性があり、免疫不全からくる易感染性などが見られることも明らかにしました。1974年には本症で姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange: SCE) が通常の5~10倍の高頻度に起こることが明らかになり、確定診断の手がかりとなりました。1995年には原因遺伝子のBLM遺伝子が同定され15q26.1に座位することが明らかになりました。それはDNAヘリカーぜのひとつでRECQL3ヘリカーゼであり、Werner症候群やRothmund-Thomson症候群とともにDNAヘリカーゼ病に分類されています。
【臨床症状】
最も特徴的な皮膚所見は顔面、頬部の毛細血管拡張を伴ったエリテマトーデスに類似した紅斑を認めることです。日光過敏のために生後直ぐから手などの露光部にも日焼け症状を生じますが、徐々に軽快し乾燥性の皮膚萎縮、色素沈着、色素脱失を残します。身体には多発性のカフェオレ斑を見ることもあります。
身体的特徴としては、低身長、低体重の痩せ型で、長頭、顔幅が狭く、頬骨の低形成があり、高音程の声、合指症、心肺異常、糖尿病、停留睾丸、睾丸萎縮などがみられます。
【免疫不全】
免疫グロブリンIgM, IgAの低下、T,B細胞の機能異常などにより、中耳炎、肺炎、上気道炎などが起き易くなります。
【高発癌性】
種々の染色体異常を伴い、20歳までに25%に悪性腫瘍を生じ、その多くが急性白血病や悪性リンパ腫です。その後は皮膚癌も含め、消化器系癌が多いとされます。
【検査・診断】
臨床的に本症を疑うことは難しいですが、低身長で特徴的な容貌、顔面の紅斑がそのきっかけとなります。確定診断には染色体異常、特にSCEの高値が重要です。また遺伝子異常が同定されれば確診に至ります。
【治療・予後】
遺伝性の疾患なので基本的には対症療法になります。すなわち日光過敏に対する遮光、免疫不全からくる感染症に対処することなどです。一番の問題はやはり若年で生じてくる白血病や悪性リンパ腫への対応です。これらのことより生命予後は良くないとされています。

 
高頻度SCE(ブルーム症候群) 放医研 辻 秀雄 先生による検査

DNA塩基アナログであるBrdUを2回のS期に亘って染色体に取り込ませ、それが1本鎖と2本鎖の染色分体に取り込まれたかによって、その染色性の差が異なります。これをみることによって姉妹染色分体交換の数を測定できます。

SCEは高頻度でしたが、自験例ではUDS(不定期DNA合成)、コロニー生成能からみた紫外線感受性は正常に保たれていました。

 正常頻度SCE

 SCE説明図(文献1より)

 BLM説明図(文献1より)

DNAを巻き戻すたんぱく質を総称してヘリカーゼといいますが、その中のひとつにRecQヘリカーゼがあり、ヒトでは5つがあります。(RecQL1, BLM, WRN, RecQL4/RTS, RecQL5)。5つのRecQのうち3つはヒトにおいて常染色体劣性の様式で遺伝するブルーム症候群、ウェルナー症候群、ロスムンド-トムソン症候群の原因遺伝子産物(BLM,] WRN, RecQL4/RTS)となっています。

ブルーム症候群の責任遺伝子産物のBLMの働きは上図のように説明されています。すなわち
A DNA二重鎖切断からの一本鎖DNA部分の削り込み
B Double Holliday junction(DNA相同組み換え中間体)の解消によるSCEの抑制
C DNA複製終結時の絡まったDNAの分離
D DNA複製時に生じた新生鎖同士の相補鎖形成(chiken foot structure)の解消
E 染色体分配時におけるultra-fine DNA bridgeの解消
BLMはTop3とカップルして複雑に絡みあったDNAのもつれを解消すると考えられています。従ってこの機能不全があればDNA二重鎖の巻き戻しに種々の異常を生じDNA二重鎖切断などのDNA障害を生じ、その結果として突然変異、種々の高頻度発癌に繋がっていくと考えられています。

参考文献

1)関 政幸 RecQヘリカーゼとゲノム安定性維持機構 東北薬科大学研究誌 60.1-11(2013)

2)向井秀樹 皮膚科臨床アセット 20 日常診療において忘れてはならない皮膚科症候群 総編集◎古江増隆 専門編集◎土田哲也 光線過敏症と考えたとき忘れてはならない症候群 22.顔面の蝶形様毛細血管拡張から疑うBloom症候群 東京:中山書店:2013. pp98-101

3)児島 孝行 他 Bloom 症候群の姉妹例 西日本皮膚科・44巻6号・昭57 p936-944

コケイン症候群

コケイン症候群(Cockayne syndrome :CS)は紫外線に対するDNA損傷の修復システム(DNA repair)の中でヌクレチオド除去修復、特に転写共役修復(転写領域のDNA損傷の優先的な修復)に異常があり発症する常染色体劣性遺伝性の疾患です。この疾患の一部は先に述べた色素性乾皮症の遺伝子異常を合わせ持っていますので、希少難治性疾患ではありますが、ここにまとめてみました。
この疾患名は1936年に英国の小児科医Cockayneが「視神経の萎縮と難聴を伴い発育が著明に低下した症例」として最初に報告したことに由来します。
本邦での発症頻度は2.7/100万人と非常に稀で、国内の患者数は100人以下とされます。
【原因】
CSの責任遺伝子はヌクレチオド除去修復系に関わるCSA(5q12.1)、CSB(10q11.23)、色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum : XP) B・D・G群の原因遺伝子であるXPB(2q14.3)、XPD(19q13.32)、XPG(13q33.1)の5つです。本邦のCS患者さんの責任遺伝子は55%がCSA、30%がCSBでXP遺伝子関連(XP/CS合併型)は15%だそうです。
【症状】
CSは臨床的にⅠ型、II型、Ⅲ型、XP/CS型に分類されます。
🔷CS I型(古典型)・・・最も多いタイプです。出生時は正常ですが、生後数か月から日光過敏がみられるようになります。1歳頃より著明な成長障害がみられます。また、言葉や歩行の発達が極めて遅いなどの精神運動発達障害もみられるようになります。2~3歳前後では早老様の特有の顔貌(老人様顔貌、落ちくぼんだ眼、鳥の嘴様の鼻、大きな耳、上顎突出、小頭、皮下脂肪萎縮など)がみられるようになります。10歳を過ぎると四肢関節拘縮が進み歩行困難となります。思春期までに視力、聴力の低下により失明、難聴となり、経口摂取が困難となり、経鼻栄養や胃瘻が必要になります。齲歯も好発します。また肝・腎障害、糖尿病、心血管、呼吸器、尿路感染などの全身性の疾患も生じやすくなり予後は極めて不良です。
🔷Ⅱ型(重症型)・・・出生時から症状があり、先天性白内障を伴います。予後は極めて不良で5歳までに死亡することが多いとされます。
🔷Ⅲ型(遅発型)・・・光線過敏の自覚はなく、成人になってからCS様の皮膚、神経症状の出現してくるタイプで中には60歳生存例もあります。
🔷XP/CS合併型・・・XPB・D・Gいずれかを合併した群でやはり予後不良で多くが5歳までに死亡します。雀卵斑様の色素斑は軽微ではありますが、紫外線防御を怠れば多発します。
【診断】
主徴候
1)著明な成長障害
2)精神運動発達障害
3)早老様の特徴的な顔貌
4)日光過敏症状
副徴候
5)大脳基底核石灰化
6)感音性難聴
7)網膜色素変性
その他CSにのみ必発ではないが多発する症状(略)
確定診断は遺伝子検査、DNA修復試験ですが、それが未施行でも主徴候、副徴候が揃い、他の疾患が否定でき、あるいは同胞にCSがあればCSと確定診断されています。
《分子遺伝学的診断》
・UDS(不定期DNA合成)・・・ヌクレオチド除去修復の中のゲノム全体修復系が維持されているCS細胞ではUDSは正常です。
・紫外線照射後のRNA合成能・・・CS細胞ではヌクレオチド除去修復の中の転写共役修復系に異常があるために低下します。
RRS(post-UV recovery of RNA synthesis)の著明な低下。CS細胞に紫外線照射した後のH3ウリジンの核内への取り込みをオートラジオグラフィーで検出します。
・CSA, CSB, XPB/CS, XPD/CS, XPG/CSのいずれの群に属するかの確定は紫外線照射レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ発現ベクターなど)の宿主細胞回復能を指標にした相補性試験でなされます。
・CSA, CSBについてはこれらのCS遺伝子については遺伝子変異のホットスポットがないために、確定検査をするならば遺伝子の全エクソンの直接シークエンスが必要となってきます。
CSの遺伝子異常と様々な臨床症状との関係は未だ不明で、これからの研究課題だそうです。
【鑑別診断】
小児に発症する重篤な光線過敏症の一つで類縁疾患である色素性乾皮症は鑑別すべき疾患として重要です。
その他の遺伝性の光線過敏性疾患であるBloom 症候群やRothmund-Thomson症候群、早老症としてはWerner 症候群、プロジェリアなどが鑑別疾患としてあげられます。(これらの一部はDNAヘリカーゼの一種,RECQヘリカーゼ異常症として分類されています。)
【治療、ケア】
遺伝性疾患であり残念ながら根治的な治療方法は望めません。各症状、合併症に対する対症療法、患者ケアが主体となります。

国内ではコケイン症候群研究会や患者家族会(日本コケイン症候群ネットワーク(CSネット)があり活動しています。
この疾患の詳細はこれらのHPに述べられています。


コケイン症候群  光線過敏症があり、大きな耳、落ちくぼんだ眼窩、老人様顔貌など
特有な顔貌を認めます。

コロニー形成法による紫外線感受性試験
a. A群色素性乾皮症(▲、●)では高い紫外線感受性を示す。
b. コケイン症候群(◎、◬、▣)(二重枠)では正常コントロールに比べて紫外線に高感受性を示す。UDS(不定期DNA合成能)は正常。ブルーム症候群(▽、◇)ではコロニー形成法、UDSとも正常範囲内。

参考文献

森脇 真一 23 精神・身体発達遅延から疑うCockayne 症候群 皮膚科臨床アセット20 日常診療において忘れてはならない皮膚科症候群 総編集◎古江 増隆 専門編集 土田 哲也 東京:中山書店;2013.pp102-105.

サイクリックAMP

オテズラのことを書いたついでに、その薬効の中心となるサイクリックAMP(cAMP)のことについて書いてみます。
オテズラ錠の使用ガイドには、その作用機序として次のように書いてあります。
「ターゲットとなるPDE4はcAMPを不活性型のAMPに分解する酵素で、免疫細胞内のシグナル伝達を調節しています。乾癬患者の免疫細胞や表皮細胞ではこのPDE4が過剰に発現しており、炎症性メディエーターの産生が亢進しています。オテズラ錠はPDE4を阻害することにより、細胞内cAMPの濃度を上昇させ、炎症性及び抗炎症性メディエーターのネットワークを調節し、炎症を抑えると考えられています。」
小生は以前(1990年頃)短期間ミシガン大学皮膚科に留学していたことがありますが、そこのチェアマンがVoorhees 教授でした。彼は乾癬において最初にcAMP低下説を唱えた人でもあり、今回のオテズラ登場でまた若干気になった人でもあります。(ただ、その頃はT細胞のTh1,Th2の時代で、特にTh1系の種々の炎症性サイトカインの関与が想定され、シクロスポリンが華やかに登場してきた時代でした。)
先日のオテズラ発売一周年記念講演会で吉川先生、飯塚先生がcAMPの歴史やご自身が関わられた研究について講演され、興味深く拝聴しました。その内容の一部を簡単に紹介したいと思います。
cAMPは米国のEarl W.Sutherlandが1957年に発見し、細胞外からの刺激に対して細胞内の情報伝達を担うセカンドメッセンジャーの概念を初めて提唱し1971年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。同年にミシガン大学のVoorheesが乾癬病巣でcAMPが低下していることを初めて報告し、一躍脚光を浴びました。
その頃大阪大学から米国に留学されていた吉川先生はマイアミ大学に移られ、Voorhees説の検証を行われました。cAMPはサンプリング・取り扱いが難しく、すぐに分解してしまい、凍結・乾燥して定量を行わねばならないなど当時の苦労話をされました。そしてcAMPの微量定量システムを確立し、定常状態では乾癬表皮ではcAMPは低下せず、エピネフリン刺激で低下することを見出されました。その後の研究を北海道大学の飯塚先生が引き継がれ、阪大の板見先生らとともにβ adrergic adenylate cyclase(アデニル酸シクラーゼ、ATPをcAMPに変換する酵素)の乾癬表皮での反応性の低下を見出されました。
ただ、この時代はまだPDE4は単離されておらず、11種ものアイソザイムも発見されていませんでした。非選択的PDE阻害薬のテオフィリン、カフェインは乾癬に効果はなく、飯塚先生は当時はcAMPが乾癬治療に有効であるとの思いは全くなく、今日のPDE4阻害薬の乾癬治療に対する成果には目を見張るものがあるとの感慨を述べておられました。
 細かい実験系やcAMPの定量のことなどはよく解りませんが、当時すでにVoorheesが乾癬の病態に対し、cAMPのシグナル伝達系に目を付けていたのは先見の明があったのかなと思います。その後も彼は乾癬の病態解明、治療などにおいて世界をリードし、多くの業績を残し、いまだに大学のチェアマンとして健在なようです。(ホームページで見る限り)
在籍していた医師では、Christopher Griffiths, Brian Nickoloff, Johnathan Barker, JT Elder など世界をリードしている乾癬のリーダーがいます。
当時から雲の上のような人であまりお目にかかったことはないですが、cAMPがらみで一寸思い出しました。

オテズラを中心として乾癬の病態をみると、以下のように説明されます。
乾癬の活性化した免疫細胞、表皮細胞ではPDE4が過剰に発現しており、細胞内cAMP濃度の低下によりTNF-α, IL-23,IL-17,IFN-γなどの炎症性サイトカインの産生が亢進し、IL-10などの抗炎症性サイトカインは低下していますが、オテズラの投与により上記の各種サイトカインやケモカインなどの炎症性メディエーターの産生を調節し、過剰な炎症反応が抑制され、乾癬の症状が緩和されると考えられています。
cAMPがどのように伝達物質として働いているのかについては未だ不明な点が多くありますが、Treg(regulatory T cell、制御性T細胞)を介して働いているそうです。Tregのマスター転写因子であるFoxp3はPKA依存性にCREB(cyclic AMP-responsive element binding protein)がCRE(cyclic AMP responsive element)に働くことによってTregの分化が始まります。従ってcAMPがTregの分化の根源に関わっていることになります。そしてエフェクタ―T細胞:Teffに働いてIL-2産生抑制に働き、T細胞の働きを抑え、免疫をおさえています。但しシクロスポリンやMTX などのようにT細胞全体を抑える免疫抑制剤とは異なり,大きく免疫抑制には働かないので免疫調整剤とよばれることもあります。
またcAMPはTregを介してFoxp3がRORγt(Th17細胞系のマスター転写因子)を直接抑制する作用も知られ、Th17細胞系の炎症を抑制することも考えられています。
またオテズラは表皮細胞の増殖へも抑制的に働きます。PKA,PKC、Epac-Rap1経路などのシグナル伝達経路を介する細胞増殖抑制が考えられています。
このように免疫細胞、表皮細胞への働きによって乾癬の症状を改善していると考えられています。

飯塚 一 アプレミラストと乾癬 J Visual Dermatol 16:844-849,2017 より

あと、オテズラでは消化器症状が必発ですが、これは副作用ではありますが、cAMPの薬理作用ともいえます。
そのメカニズムはかなり明確に解明されています。
腸管粘膜上皮にはイオンチャンネルがあって、腸管の内外の水分調節をしていますが、そこにATP, cAMPが関与しているのです。cAMPが活性化されるとCFTR(cystic fibrosis transmembrane condactance regulator)も活性化されて腸管腔側に大量に塩素イオンが流出します。その浸透圧によって、受動的に水分も流出し下痢がおこります。
木クレオソート(正露丸)はCFTRに直接働き、塩素イオン(Cl-)の流出を抑制することが分かっています。実臨床でもその効果はあるようで、突然の下痢の多い人には使ってみる価値のある薬剤です。また食事を少量ずつ、回数を分けて摂ること、水分を少なめに摂取することなどがよいそうです。
CFTRをコードする責任遺伝子の突然変異によって、CFTRの発現不全、機能不全に陥ると気道の濃厚な粘液性の分泌物で閉塞を起こしてしまう難病の肺嚢胞性線維症を発症します。
ちなみにコレラトキシンはadenylate cyclaseの活性を高め、cAMPの濃度を上昇させ、塩素チャンネルを活性化させることによって、下痢と脱水を起こします。

オテズラ発売1周年

 乾癬治療薬オテズラの発売から1年たち、発売1周年記念の講演会が各地で開催されています。千葉でも講演会が開催されました。帝京大学の多田弥生先生が特別講演をされました。「乾癬治療の新たな選択肢~オテズラ錠の意義について」という演題でした。新進気鋭の教授で、乾癬の基礎から臨床に精通されている先生です。多くの文献を渉猟しての、また500名以上の患者さんの臨床を通しての精緻かつ明快な講演はいつも聴衆に感銘を与えます。その講演の素晴らしさの秘密を聞くと、師の東大佐藤教授のプレゼン指導のたまものだとのことでした。
たまたま、その前座を小生が務めました。「開業医の立場からみたオテズラ錠の使用経験」という題をつけました。単に使用経験の報告をしただけなので、主講演と比べるべくもなく、見劣りした内容でしたが、まあ実地医家の生の印象という意味ではややここに書く意味もあるかと思いました(小生としてはかなり一生懸命にまとめたつもりですが、何分慣れない発表で、あまりインパクトもなかったかもしれません)。 

 1年間の当院でのオテズラ使用患者さんは16名です。実は2名の方は初回投与後来院されませんでした。受診歴の短い患者さんで、ややじっくりとした説明が足りなかったのかもしれません。それ以外の人は脱落なく長い人は1年を過ぎました。俗にオテズラは5割の人に5割程度効くといわれてもいますが、まがりなりにも全員続いているということは多少ならばもっと多くの割合で効く印象を持ちました。
【使用期間】
 …….2……3……4……5…..6…….7…….8……9…..10……11……12 (月)
男 …………..2……………….1…….1…………..2……1…….1…….1
女 …….1………………..1……………………….2…………..2…….1

【全体の有効性】
         …………………….著効  有効 やや有効 無効
重症(BSA10%以上)……………………..1   1    2
中等症(BSA5~10%)……………………..5   4
軽症(BSA5%以下)………………………2   1
BSA: Body Surface area
16名中全量内服10名 6名は半量程度内服、きっちり飲めばもっと有効性はあがるかも
【副作用】
下痢 13 初期のみで軽度  3 便秘が治癒で快調 2 初期は下痢ひどく外出が怖かった
胸やけ、吐き気 5. 中長期に起こることもあり、意外と注意を要する事象かも
風邪をひき易くなった 3
胃もたれ、腹痛、頭痛、体力低下、食欲減退 1~2
体重減少 3Kg減 4Kg減 5Kg減 各1
【患者さんのコメント(肯定的なもの)】
・かゆみがなくなった
・スカートがはけるようになった
・フケがなくなり、黒い服が着れるようになった
・落屑がなくなり家の掃除が楽になった、と妻がいう
・指の腫れが減り、爪が良くなった
【患者さんのコメント(やや否定的なもの)】
・薬代が高い(保険3割でも1か月17000円くらい)
・当初は下痢が心配で出かけるのが怖かった
・風邪をひき易くなった、鼻水が出る、以前より風邪が長引き、治りにくくなった
・体力がなくなった
・時々胸焼け、むかむかする感じがある
・良くなったがいつまで薬を飲むのか

上記のコメントも、コストパフォーマンスで評価はかなり違うでしょう。良く効いた人は、それ程高いとも感じないし、あまり効かない人、いろいろ差しさわりのある人は高い割に効かないなーと感じるでしょう。オテズラのバイアスのかからない評価ではありませんが、まあ生の声ということはできます。
ただ重症の人でも素晴らしく効く人もあります。岩手医大の遠藤先生はこういった例を「ドはまりパターン」と呼んでいるそうですが、どんな人が効いて、どんな人が効きにくいのかはこれからの課題のようです。

オテズラは妊娠、小児、癌患者など一部の禁忌をのぞけば多くの中等度の乾癬患者さんに使え、ある程度関節症や爪乾癬にも効くし、検査も要らず、だめなら減量、中止も再開も可能で、クリニック向きの薬剤かもしれません。
ただ、新薬なのであまり「テキトー」に処方するのも問題かもしれませんが、これから専門の先生方のデータ蓄積で適切な長期使用指針が示されていくかと思います。

あまり、参考にはならないかもしれない一現場の印象記でした。

色素性乾皮症( 3 )

【色素性乾皮症(XP)のDNA修復機構異常について】

錦織千佳子 色素性乾皮症 皮膚科の臨床 Vol57, No6, 897,2015 より

紫外線によるDNA損傷は、ピリミジン塩基が隣接する部位で起きやすく、隣り合った同士が二量体を作るシクロブタン型ピリミジンダイマーや6-4光産物が多く作られます。これらはDNA 二本鎖構造にゆがみを生じますが、この傷を修復する経路としてヒトではヌクオチド除去修復(nucleotide excision repair: NER)が存在します。これにはゲノム全体を一様に修復する全ゲノム修復(global genome repair: GGR)と、転写鎖で優先的に行われる転写共役修復(transcription coupled repair: TCR)がありますが、両者は損傷DNAの認識機構は異なるものの、それ以降の経路は共通しています。上図のようにNERのいずれかのステップにかかわる分子に障害があるとXPA~G群を発症します。近年その遺伝子の塩基配列、また遺伝子座は解明されています(前項、色素性乾皮症ガイドライン表、参照)。

またNERとは別に損傷乗り越え修復(translesional DNA synththesis: TLS)があります。DNA損傷によって複製がストップしてしまうのを避けるために傷はそのままにして、向かいの二重鎖に塩基を挿入して複製を進めていきます。XP-Vではこの系で働くDNA合成酵素h(DNAポリメラーゼη :POLH)に障害があります。この酵素はピリミジンダイマーの向かいの嬢鎖にA-Aを挿入して複製を進めます。本来error prone(誤りがち)な複製経路ではありますが、紫外線によるDNA損傷ではチミンダイマーが多いことから結果的にT-T A-Aの誤りの少ない複製となっています。

XP患者では各群で臨床的に違いがありますが、同じ群でもその表現型と遺伝型との間に相関があります。本邦のXPA患者では88%でXPA遺伝子のイントロン3、3‘側のスプライシング受容部位のGからCへのホモ変異が認められ(IVS3-1G>C)、創始者変異と考えられています。これは日本人XPA群患者のXPA遺伝子のホットスポットであり、PCR制限酵素断片長変化(AlwNI)によるPCR-RFLF解析によって検出されます。同じA群でもエクソン6のナンセンス変異の場合は症状の進行が遅く神経症状は成人になってから発症します。日本人ではV群においても創始者変異が認められます。日本人でのXP遺伝子の保因者頻度は全体で人口の3%、A群は1%とかなり高率です。たまたま両親ともに保因者であった場合は1/4の確率で患者が生まれることになります。

【診断と検査】

特徴的な皮疹、光線過敏、その経過によりなるべく早期に診断することが重要です。
XPを疑ったら次の順に検査を進めていきます。

🔷光線照射試験、最小紅斑量の測定

sun lampなどのbroad band UVB光源を患者背部に照射し、24時間後にかすかに識別できる紅斑が生じる最小の紫外線量(最小紅斑量 minimum erythema dose: MED)を測定します。TCRに異常がある群ではMEDが低下し、紅斑出現のピークも遅延します。GGRのみ障害されるC群、E群およびTLSに障害のあるV型では低下しないことが多いです。
明らかにA群が疑われる場合は不必要な紫外線の照射試験は避け次の検査に進みます。以下の検査は患者さんの皮膚生検組織から細胞培養を行い、線維芽細胞を用いて行います。

 

🔷紫外線感受性試験(コロニー形成法)

一定量の線維芽細胞をシャーレに撒き、紫外線を照射して細胞が死滅し、コロニーが減衰し、細胞が生き残る割合を非照射対照に対する百分率で求めます。A群が紫外線致死に対して最も感受性が高く、XP-Vは最も感受性が弱いとされます

近藤靖児・市橋正光 色素性乾皮症 p164 光線過敏症 金原出版 東京 2002 より

🔷不定期DNA合成能の測定

不定期DNA合成(unscheduled DNA synthesis: UDS)とは定期DNA合成に対応する言葉で、本来DNAが合成(複製)されないはずの時期におこる合成をさします。定期DNA合成は細胞周期のS期(synthesis period)におきますが、細胞が分裂せず、DNA合成もしないG0期などでは、普段外部からDNAの前駆物質である3H-チミジンを与えても取り込みません。しかし正常細胞に紫外線を照射したあとでは下図のa.のように取り込みます。少量のDNA合成、修復があったことがオートラジオグラフィーでわかります。しかし色素性乾皮症の細胞では下図b.のようにこの取り込みが欠損ないし低下しています。

XP細胞ではUDSは正常細胞の50%以下に低下しますが、 XP-Vでは70%以上は保たれています。

 

近藤靖児・市橋正光 色素性乾皮症 p178 光線過敏症 金原出版 東京 2002 より

🔷宿主細胞回復能(host cell deactivation : HCR)

Sendai ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスなどに紫外線照射し、これらのウイルスの希釈一定量をXP細胞が単層で隙間なく増殖した状態の時に、シャーレ内に散布します。そして1〜2週間培養します。ウイルスが増殖した部位は細胞融解を起こし、細胞がなくなり、プラークとなります。それはウイルスが増殖したことを示し、宿主細胞の修復活性能を反映しているとみなされます。XP細胞では(特にA群では)ウイルスの生存率が低下し、コロニー形成法と似たような生存曲線となります。

🔷相補性群試験

ポリエチレングリコールで処理することによって異なる人由来の細胞を融合させることができます。下図のように2種の細胞A,Bのいずれかあるいは両種の核を持つ2核細胞や多核細胞ができます。
これらに紫外線照射後トリチウム−チミジンを取り込ませ、UDSをみると、異なる細胞核(A-B)の入った細胞は、お互いに遺伝的に異なった欠損を相補うために、UDSは正常レベルまで回復します。これを相補性といいます。一方で同種の場合(A-AまたはB-B)はUDSの回復は全く見られません。このような検索を異なったXP細胞間で繰り返しA~G群までの相補性群が確定してきました。

近年はこのように面倒な細胞融合法ではなくて、紫外線照射したレポータープラスミド(ルシフェラーぜ発現ベクター)を患者細胞に遺伝子導入することによりHCRを指標にする方法で行われるようになり、検査の感度、迅速性が向上しました。但し、この方法ではNER低下の少ないXP-E, NER機能は正常でTLSに異常があるXP-Vの診断は困難だそうです(森脇真一  日皮会研修講習会テキスト より)。

細胞融合法


近藤靖児・市橋正光 色素性乾皮症 p163 光線過敏症 金原出版 東京 2002 より

🔷原因遺伝子産物の検出

XP-V患者ではMEDも正常で日焼け反応も起こさず、上記のコロニー形成法でも低下は少なく、UDSの低下も軽度とされます。これらの検査では確定診断に至りません。しかし、90%以上の患者さんでTLS(損傷乗り換え複製)で働くはずのPOLH蛋白の発現が認められないか、低下しているためにその蛋白の発現を検索することがXP-Vの確定診断に有用です。


🔷XP患者の遺伝子診断

近年XP遺伝子は同定され、遺伝子診断が可能になりました。特に日本人のXP患者に多く見られるXPA 群の患者ではXPA遺伝子のイントロン3、3‘側のスプライシング受容部位のGからCへのホモ変異が88%にヘテロ変異が9%に認められます。前者の遺伝子異常(IVS3-1G>C)は日本人患者のXPA遺伝子のホットスポットであり、PCR制限酵素切断片長変化で同定できます。遺伝子異常があると制限酵素で切断されますので2本のバンドがみられます。一方保因者の場合は、1本は切断され2本のバンドとなりますが、もう1本鎖は正常なので切断されません。従って合計3本のバンドが見られます。健常者では切断されませんので1本のバンドとなります。この検査は血液、頬粘膜、羊水などでも施行できます。重症のXPA群に対しては羊水による出生前診断が行われています。羊水9mlを2分して一方はPCRに、もう一方は培養に用いられます。

これら検査の詳細については、大阪医科大学皮膚科、神戸大学皮膚科のホームページで解説があります。神戸大学皮膚科では検査部と共同でXPの遺伝子診断を他病院からも受託可能なシステムを構築したそうです。

参考文献

光線過敏症 改訂第3版 監修 佐藤 吉彦 編集 市橋 正光  堀尾 武 金原出版 2002 東京

錦織 千佳子: 色素性乾皮症 皮膚科の臨床 Vol57,No6,892 2015

Visual Dermatology Vol.10 No.5 2011 特集 光線過敏症-最新の研究から遮光対策まで- 責任編集 上出良一

 

色素性乾皮症( 2 )

色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)の臨床症状について

*遺伝的にヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair:NER)の異常で発症するA~G群(XPA~XPG)、損傷乗り越え合成(translesion synthesis:TLS)の異常で発症するバリアント型(XPV)の計8つのグループに分類されています。
頻度はXPAが53%で最も多く、次いでXPVが25%でこの2型が大部分を占めます。以後XPDが8%、XPFが7%でE群G群は稀でB群の報告はありません。 全世界的にはXPCが多く25%で、XPA, XPVも同程度にみられます。

*臨床的には
・皮膚症状のみを呈する皮膚型XP(XP cutaneous disease)・・・日本人では45%がこの型で90%のXPD, XPE, XPF, XPC, 75%のXPG, XPVが該当します。
・皮膚症状に神経症状を伴う神経型XP(XP neurological disease)・・・日本人では55%がこの型でXPA, 10%のXPDが該当します。
・皮膚症状にコケイン症候群(Cockayne syndrome:CS)を合併するCS合併型XP (XP/CS complex)・・・日本では3例
(XPDが2例、XPGが1例)と極めて稀です。
【XPの皮膚症状】
大きく「サンバーン増強型」と「色素沈着型」に分けられます。
(1)サンバーン増強型
XPA>>XPD、XPF>XPG,XPB この順に日焼けがきつく生じます。とりわけA群は修復能も低く、皮膚症状も重症で、皮膚、眼の光線過敏症状は生後間もなくから生じ、高々5分程度の日光暴露でさえ高度の浮腫性紅斑や水疱を伴う激しい日光皮膚炎を生じます。日焼けの特徴は日光暴露後3~4日後まで増強、ピークを迎え、1週間以上持続することです。高度の急性期の日焼け反応は水疱、びらん、痂皮などを伴うために時として細菌感染症と誤診されやすいそうです。
このような急性の日焼け様反応を繰り返した後は露光部に長期に亘って色素沈着を残し、そばかす様の小色素斑が増えてきます。新旧の皮疹が入り混じるために大小不同で濃淡も不揃いなのが通常の雀卵斑(そばかす)と異なるところです。さらに慢性期になると皮膚は乾燥して粗ぞうとなり、毛細血管拡張、色素沈着、色素脱失、皮膚萎縮の混在する多形皮膚萎縮をきたし、年齢不相応の光老化の皮膚症状を呈してきます。
適切な紫外線防御を行わないと皮膚症状の進行とともに、露光部に基底細胞癌や有棘細胞癌や悪性黒色腫を高率に発症してきます。XPに生じる皮膚癌は健常人の種類、臨床像に大差はないとされます。但し発症年齢が20年以上若い方へシフトしています。特に修復能の低いA群とC群では10歳前後で皮膚癌を生じます。
(2)色素沈着型XP(XPV>>XPC>XPE)
サンバーン様皮疹を生じず、前述の慢性期の色素異常のみが徐々に進行し、比較的弱年齢で露光部に皮膚癌を多発してきます。日焼けが目立たないために成人になってから診断されることが多いとされます。
XPVは修復能も比較的に保たれており、日焼け反応の増強や遷延化もみられません。そのために適切な日焼け対策がなされていないことが多く、皮膚癌の多発、色素異常によってはじめて診断されるケースが多いです。そのためにかえって他の群よりも皮膚癌の多発、発症は高頻度にみられます。
XPCはヌクレオチド除去修復機構のうちglobal genome repair(GGR)は低下していますが、transcription repair (TCR)は保たれているために(後述)、異常な日焼け反応はみられないか、あってもごくわずかです。
【XPの皮膚外症状】
本邦では60%の症例に進行性の精神・運動・発達障害がみられます。特に最重症のA群では2,3歳頃までの発達遅延は目立たないものの徐々に末梢性、中枢性の進行性の神経障害が顕在化してきます。10歳までには難聴が進行し、15歳頃には聴覚機能はほぼ消失します。運動機能では徐々に腱反射の消失、小脳失調、痙性麻痺が出現、歩行困難となり、15歳頃には起立不能となります。運動機能は6歳頃がピークとされます。嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎を起こし気管喉頭分離、気管切開や胃瘻が必要となってきます。肺炎などで突然死にいたることもみられます。
これらの神経変性の原因、分子機構は光線過敏機構のようには明らかに解明されておらず、脳のグリアの変性や酸化ストレス、ROSなど想定されていますが、いまだ不明です。従ってその治療は対症療法とならざるをえません。
眼も紫外線の影響を受けるために、結膜や角膜の乾燥、結膜炎、角膜炎、眼瞼外反、内反、角膜潰瘍、涙腺分泌の低下、睫毛消失などが生じます。また眼瞼部悪性腫瘍も生じることもあります。網膜にはUVBはほとんど到達せず、直接的な紫外線障害はおきませんが、神経症状として視神経異常は起こり得ます。
【XPへの対応と患者ケア】
<皮膚や眼への対応>
遺伝性の光線過敏症であるために、根本的な治療法はなく、いかに早期に確定診断をして厳密な遮光を徹底できるかということが重要です。(遺伝子診断などについては後述)。紫外線はUVB(中波長紫外線)~UVA(長波長紫外線)にわたる防御が必要となります。
紫外線対策
・外出時には高SPF値(SPF30以上)、高PAグレード(PA+++)のサンスクリーン剤を使用すること、適量、十分量を塗布すること、汗や手で拭ったりして落ちることを想定して2時間ごとに塗りなおすことが必要です。
・衣服は長そで長ズボンで外出時は遮光生地やフィルムで作った頭布、帽子、紫外線防護服、UVカット眼鏡を着用することが必要です。
・屋内や車中でも窓ガラスからの紫外線を考慮し、遮光フィルムや遮光カーテンを使用します。就学児童の場合は学校の窓にもUVカットフィルムを貼り、紫外線防御への配慮をすることも必要です。
・皮膚癌に対しては、早期診断、早期治療が鉄則です。最近はダーモスコピーが活用されますので、ごく初期、小さい腫瘍の診断、治療も可能となってきています。
<XPの神経症状への対応>
神経型XPは全身性疾患といってもよく、その神経変性に対しては未だ原因不明のために有効な治療方法がなく、、進行抑制のために早期から脳の刺激や、聴覚の刺激を行い、運動、マッサージ、リハビリなどが必要となってきます。
診療、治療は皮膚科医が中心となるものの、小児科、眼科、整形外科、耳鼻科、理学療法科、看護・介護部門などと連携しながら全身的にケアしていく必要性があります。

XP-V  顔面の色素斑と皮膚腫瘍(基底細胞癌)の多発、皮膚は乾燥してキメが粗い。

黒色腫瘤近傍の病理組織像 基底細胞癌、真皮内に腫瘍塊を認める

色素性乾皮症診療ガイドライン より

色素性乾皮症診療ガイドライン改訂委員会 森脇 真一 他

日皮会誌: 125(11), 2013-2022,2015(平成27)