薬剤性過敏症症候群

薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome: DIHS)は比較的新しく、日本人皮膚科医によって命名された重症薬疹の概念です。
以前から同様な薬疹は臨床的に知られており、個別にDDS症候群やallopurinol hypersensitivity syndrome, anti-convulsant hypersensitivity syndrome などの名称で報告されてきました。これらの個別的な異なる名称の共通点に気づき1994年にフランスのRoujeauらはDRESS(drug rash with eosinophilia and systemic symptoms)という名称を唱えました。1998年橋本、塩原らは別個にこのような薬疹でHHV-6の再活性化を伴った症例を報告し、薬剤アレルギーとウイルスの再活性化を伴った新たな疾患概念を提唱しました。(しかしながら現在でも欧米諸国ではむしろDRESSの名称が多様され、DIHSは日本で主に用いられています。またDRESSの診断基準にはウイルス再活性化の項目はなく、これらは同一ではなくDRESSはDIHSをも含む包括的な名称と捉えられます。)

🔷DIHSの原因薬剤
抗痙攣剤などの、ある特定の薬剤が原因となり、比較的長期間(数週から1,2か月)内服した後に生じるのが特徴です。カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、最近ではラモトリギンなどの抗痙攣剤やアロプリノール、メキシレチン、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルフォン、などがあげられています。その他では少数ながらミノサイクリン、バルブロ酸ナトリウム、ST合剤、シアナミドなどが報告されています。
また化学物質(金属加工部品などの脱脂洗浄に使用される有機溶剤)のトリクロロエチレンによるDIHSもあります。
🔷DIHSの臨床症状
原因薬剤投与2-6週後に遅発性に発疹が生じ急速に全身に拡大し、しばしば紅皮症に移行します。発疹の型はさまざまであり、播種状紅斑丘疹型、多形紅斑型、紫斑型をとります。特徴的なのは病初期に顔面の著明な浮腫を伴ったびまん性の紅斑をきたし、眼瞼周囲は正常で、口囲、鼻囲に丘疹、膿疱、痂皮を生じてきます。前腕には緊張性の水疱を伴うこともあります。またリンパ節腫脹、肝脾腫を伴い、肝機能異常、腎機能異常、血液学的異常(白血球増多、好酸球増多、異型リンパ球)を認めます。原因薬剤を中止してもさらに症状は進展することが多いです。
本症の特徴は発症2~3週後にHHV-6をはじめとするヘルペス属のウイルス血症をきたし、2峰性に症状の再増悪を見る点です。
🔷ヘルペスウイルス再活性化
ヒトヘルペスウイルスはヒトに長期間に亘って潜伏感染を起こし、一生体内に留まります。そして宿主の免疫状態や種々の刺激によって増殖を再開します。これをウイルスの再活性化といいます。DIHSの際にこのヘルペスウイルスの再活性化が起こることを日本人の皮膚科医が見出したことはすでに述べました。
ヒトヘルペスウイルスには8種類あります。有名なのは、HHV-1,HHV-2(単純ヘルペスウイルス1型、2型)、HHV-3(水痘・帯状疱疹ウイルス)でしょう。DIHSで再活性化するのは、HHV-4(Epstein-Barr virus:EBウイルス)、HHV-5(ヒトサイトメガロウイルス:CMV)、HHV-6(HHV-6A, HHV-6B)、なかんずくHHV-6Bです。その他のヘルペスウイルス群の再活性化もみられています。HHV-6は突発性発疹の原因ウイルスで本邦では2歳までにはほとんどの人が感染しています。HHV-6はまた移植片対宿主病(GVHD)や慢性疲労症候群とも関連することが分かっています。
1998年橋本、塩原らが報告した当初は、ウイルスの再活性化は病態機序に密接に関連しているのか、偶然なのかが議論になりました。しかし、その後の検討の結果、発症後2~3週後に再活性化が起こること、それは治療にステロイドを使う、使わないにかかわらずに見られること、再活性化を起こした群の方がより重篤な症状(肝腎障害など)を起こし、予後も悪かったことなどが明らかになってきました。さらに引き続き、サイトメガロウイルスの再活性化を起こした群では心筋炎、肺炎、消化管出血などを起こし予後を悪化させる要因となっていることも明らかになってきました。これに対してはガンシクロビルなどの抗ウイルス剤の投与が有効です。
🔷DIHSの発症機序(ウイルス再活性化の機序)
DIHSにおけるヘルペスウイルスの再活性化が明らかにされてからすでに20年立っています。その臨床経過、検査データの異常、推移は詳らかにされていますが、薬疹の発生からウイルス活性化に至る機序、病態への関与の全貌はなお明らかではありません。
当然、薬剤の侵入を契機として、生体内で免疫反応が起き、潜伏感染しているヘルペスウイルスが再び増殖して病像を複雑化させ、遷延化させている訳ですが、詳細な生体内反応、免疫反応の理論解明は未だしです。
ただ、塩原らは実験データや、DIHSの特徴的な臨床経過から次のように考えています。
 SJS/TENではTreg(regulatory T細胞)の機能不全が起こっており、エフェクターT細胞の過剰な活性化が表皮壊死に繋がっていますが、DIHSでは急性期はTregが逆に著明に増加しています。その中でも免疫反応の抑制力の高いinduced Treg(iTreg)が著明に増加しているといいます。Tregの増加はウイルス特異的なT細胞の活性化やB細胞やNK細胞の機能発現を抑制する結果、潜伏するウイルスのさらなる再活性化をもたらします。この間はDLSTも陰性となります。一方慢性期、回復期になるとTregの頻度,機能は健常人を下回るまでに低下し、これと反比例するようにTh17細胞が増加したそうです。この回復期のTreg/Th17のバランスのくずれは、この時期にみられる自己免疫疾患の発症を説明可能です。HHV-6は単球に潜伏感染し、活性化T細胞に感染することがその増殖に必要です。単球の中の分画のpMOs(proinflammatory or patorolling monocyte)はSJS/TENで表皮を傷害することで注目されてきましたが、DIHSにおいて急性期にはpMOsが特異的に消失することが明らかになりました。逆に回復期にはpMosも急速に回復していました。塩原らはpMos,cMosの変化がTregのダイナミックな変化をもたらし、DIHSの免疫異常をうまく説明できるとしています。
🔷DIHSの治療
薬疹の治療の大原則として、被疑薬の中止が重要です。ただ、DIHSの場合、長期(2~6週あるいはそれ以上)に亘る投与の後に発症するという特徴があります。従って発症2カ月前まで遡って薬剤を検討する必要があります。ただ前に述べたようにDIHSを発症する薬剤は比較的に限られています。それらの投与があれば速やかに中止すべきです。またDIHSでは発症後に使用した抗生剤、消炎鎮痛剤に感作され易いので、これらに惑わされない注意も必要です。
薬物治療の主体はやはりステロイド剤の全身投与になりますが、なかなかトリッキーな部分もあります。症状にあわせて十分量のステロイド剤を使用しますが、急激な減量を行うと、免疫再構築症候群の際にみられるように、ヘルペスウイルスの再活性化を助長するからです。また一般にステロイドはTregの数や機能を増大させる一方、pMos分画に対しては抑制的に働きます。それを鑑みるとSJS/TEN程にはステロイド剤が有効とも言い切れません。ただ、ステロイド剤を使わないで治療した群ではDIHS治癒後に高率に自己免疫疾患を発症するとされます。
 経過中に発症するサイトメガロウイルス感染症は予後を左右する大きな合併症とされます。従ってその動向を常に注視し、感染が明確ならばガンシクロビルの投与も考慮すべきです。
🔷DIHS後遺症としての自己免疫疾患
DIHSの回復期には抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性になったり、Ⅰ型糖尿病を発症してくるケースもみられます。またその後、全身性エリテマトーデスや全身性強皮症を発症するケースもみられます。
このようにDIHSの後遺症として時に自己免疫疾患を生じることが次第に分かってきました。これは病初期に十分な機能をもったTreg(regulatory T細胞)が病気の回復期になると著明な機能低下を起こすことと符合しているとされます。そしてこの現象はGVHD後に生じてくる自己免疫疾患との類似性があります。

参考文献

橋本公二 薬剤性過敏症症候群とヒトヘルペスウイルス6  モダンメディア 56巻12号2010[話題の感染症] 305-310 

薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016
渡辺秀晃 14.薬剤性過敏症症候群の臨床 pp125-134
塩原哲夫 15. 薬剤性過敏症症候群の発症機序 pp135-143

医薬品副作用被害救済制度

医薬品は当然医療上必要で、健康保持、病気の治療に役立っています。それは紛れもない事実ですが、残念なことに万全の注意を払って使用したとしても一定の確率で副作用が生じることは避けられません。皮膚以外にも内臓臓器を始め各科に関連の副作用が見られます。(厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル一覧 参照)
皮膚科においても、頻度はごく稀ながらSJS/TEN型薬疹を始めとして、重症の薬疹が時に発生します。勿論皮膚科医が処方した薬剤でも発症していますが、頻度的には他科で発症した薬剤性皮膚障害を診察することがはるかに多いです。
適正な目的のために用量・用法を守って使用したにも関わらず一定以上の健康被害を生じた場合には救済制度が適応され、給付金が支払われるようになりました。(PMDAによる医薬品副作用被害救済制度)
 ただ、救済給付の対象についてはいくつかの注意点、制限があります。
🔷対象となるのは1980年(昭和55年)5月1日以降に使用した医薬品
🔷使用方法が適正な用量・用法であること
🔷日常生活が著しく制限され、入院を余儀なくされる程度の障害または死亡例
🔷救済給付の対象外の場合もあります。
●法定予防接種によるもの
●医薬品の製造販売業者に明らかな過失がある場合
●通常の使用量を超えて使用し、副作用が発生した場合
●抗がん剤、免疫抑制剤など対象除外医薬品によるもの
●軽度な健康被害
●医薬品の不適正な使用による場合(適応外使用例については当時の医学薬学の総合的な見地から個別に判断されます。)
🔷給付の種類
医療費、医療手当、障害年金、障害児養育年金、遺族年金、遺族一時金、葬祭料などがあります。

給付方法は患者さん、または家族などが独立行政法人医薬品医療機器総合機構(略称:医薬品機構/PMDA)(下記)に請求して行うことになっています。まずは皮膚科主治医に相談するところから始まると思います。
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル10階 
☎ 0120-149-93
http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/fukusayou_dl/

🔷上記のように日本には健康被害に対する世界的にも優れた救済制度がありながら(世界的にみてこのような公的制度があるのはドイツと台湾のみだそうです。近年は北欧の一部、韓国でも死亡例に対し同様な制度が導入されているそうです。)、時にはトラブル、医療訴訟につながる例もあるそうです。
長年皮膚科専門家として医療訴訟の鑑定人を務めてこられた昭和大学名誉教授の飯島正文先生のコメントを以下に掲げます。

「訴訟事例からみて、SJS/TENにおける早期の臨床診断の難しさ、失明や死の転帰をとりうる臨床症状のあまりにも急激な悪化に対する誤解や無理解、インフォームドコンセントにおける医師ー患者間の薬品に対する理解不足・誤解からの医療不信が主な原因となっている」とのことです。

「適用外使用された医薬品による重症薬疹は(仮に患者に良かれと思って使用しても)医薬品機構の救済対象外であり、医師の責任には重いものがある。」

「SJS/TENという疾患は、いったん発症すれば急激に重症化する可能性のあることを患者・家族に十分説明して同意を得る適切なインフォームドコンセントがすべてであり、眼科医との連携も重要である。」

🔷治療については、様々な臨床研究がなされ、治療成績が向上しているものの、先に述べたようにある程度の致死率のある重篤な疾患であることは否定できません。いずれにしても、重症化の兆候があれば、できるだけ早期に専門医療機関に入院して集中的な治療を開始することが重要と思われます。

参考文献

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療ラインのフロントライン
総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京 中山書店 2011
落合豊子 12 医薬品副作用被害救済制度の利用法 pp 51-53
飯島正文 13 薬疹の医療訴訟では何が問題点とされるか pp54-58

薬疹の診断と治療アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016
飯島正文 22. 重症薬疹に対する医薬品副作用 被害救済制度の概要と現況 pp197-207

SJS/TEN型薬疹治療

SJS/TEN型重症薬疹の治療には、副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与、血漿交換療法、大量ヒト免疫グロブリン製剤静注療法(IVIG: intravenous immunoglobulin)、免疫抑制剤の投与などが行われます。しかしながらこれらの治療法についての評価は世界的に一致をみておらず、世界標準治療法は確立されていません。
本邦では、ステロイド剤の大量投与が標準とされ、治癒率、生存率の向上に寄与していますが、海外ではまだステロイド剤使用への否定的な意見も多いそうです。しかし海外でもステロイド大量療法の効果を示す報告も増加しているそうです。
重症薬疹の治療法は近年進展してきています。それでもSJSの3~5%、TENの20~30%は死亡し、各々の11%,30%に後遺症を残すとされます。後遺症には陰部病変の瘢痕や視力障害、口腔乾燥、爪の脱落などがあります。

治療の前提として当然のことながら被疑薬を中止することがまず必要です。その上で補液、栄養管理などの全身管理のできる医療施設で早急に入院治療を開始することです。また痛みを伴う全身性の水疱・びらんなどへのアズレン軟膏や油脂性軟膏の使用トレックスガーゼなどでの保護、二次感染に対する抗生剤含有軟膏などの使用は重症熱傷の治療に準じます。

🔷ステロイド薬の投与法
使用法の要諦は、表皮剥離などの症状が進展しない早期にステロイドパルス療法などで大量に投与し、皮膚粘膜傷害の進行を早期に阻止することです。中途半端な量を使用したり、急激に中止したりなどの不適切な使用法を行うと、予後が悪くなることが示されています。また、早期大量療法によっても症状の改善がない場合は、そのままずるずると引きずらないで血漿交換療法、IVIGなどの他の療法の併用を考慮することが肝要です。
 ただ、具体的なステロイドの量は病勢、表皮剥離の度合、使用時期、感染症の有無などにより個々に決めていく必要があります。
一般的にはステロイドパルス療法はメチルプレドニゾロン500~1000㎎/日を3日間点滴静注、またはプレドニン換算で1mg/kg/日程度(中等症で0.5~1mg,重症では1~2mg)使用します。
治療効果がみえたら、4~7日後に10mg/日、または20%程度減量し、1週間程度で漸減していきます。このステロイド薬の使い方は個々のケースで微妙に異なり、一律ではなく一種職人芸的なところもあります。
🔷眼症状の対処
急性期の眼科の治療が高度の視力障害や重症ドライアイなどの後遺症を軽減するのに重要であるとされています。眼科医の頻回のチェックのもと、ステロイド点眼薬や抗菌薬の使用を行います。急性期に角膜上皮幹細胞が消失すると失明などの重篤な視力障害を残します。また硝子棒を用いた眼球癒着防止も必要です。
🔷感染症への対応
広範囲な表皮剥離、気道粘膜傷害、ステロイドの大量投与はなどは全身感染症のリスクを高めます。細菌感染、真菌乾癬、マイコプラズマ、サイトメガロウイルス感染などへの対処が必要となってきます。
🔷血漿交換療法
2006年にSJS/TENの治療法の一つとして健康保険の適応になりました。単純血漿交換療法と、二重膜濾過血漿交換法(double filtration plasmapheresis: DFPP)があります。後者は高分子物質を濃縮血漿として除去し、低分子物質と液性成分は患者に戻す方法で廃棄血漿量が少なく、新鮮凍結ヒト血漿を必要としない利点があります。
ステロイド薬の治療に抵抗性の症例に適応になりますが、粘膜疹発症5日以内が効果的とのことです。DFPPでも効果があるので、除去された病因物質は100kDa以上の高分子と考えられますが、その詳細についてはまだ明らかではありません。
ただ近年はグラニュライシンなど低分子炎症性サイトカインが病因の一つという報告もあり、理論的には単純血漿交換療法の方が効果的と考えられています。
🔷IVIG
多くの難治性の炎症性疾患に用いられてその有効性が示されてはいますが、作用機序、使い方は十分に解明されてはいません。
SJS/TENに関しても海外では0.5~1g/kg,4~5日使われているのに対して、本邦では0.1~0.4g/kgを3日程度使用する例が多いようです。(ガイドラインでは0.4g/kg/日を5日間)。また海外の単独使用に対し、本邦ではほとんどステロイド薬との併用で、直接効果比較はできません。IVIGの働きについては抗Fas抗体やグラニュライシンが表皮細胞のアポトーシスに関与するとの報告がありますが、解明には至っていません。近年はIVIGは抑制されたTreg機能を回復させることによって効果を発揮しているという報告もあります。
この療法は臓器障害、血栓・塞栓などや肺水腫、アナフィラキシーなどの副作用の報告もありますが、感染症や糖尿病を併発してステロイド薬を使えない患者さんなどは良い適応となります。

🔷重症薬疹の情報サイト

いろいろな情報がありますが、信頼度の高いものとしては下記のものがあります。

1)日本皮膚科学会ホームページ 一般市民の皆様 皮膚科Q&A 薬疹(重症)
                会員・医療関係の皆様 ガイドライン・指針 
重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン

2)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル一覧 ●皮膚(平成29年6月改定)

参考文献

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン
総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京 中山書店  2011

薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 
塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016

重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン 重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会 日皮会誌:126(9),1637-1685,2016

海洋生物による皮膚炎

「海洋生物による皮膚炎とその治療」という講演会がありました。
講師は赤穂市民病院の和田康夫先生でした。和田先生といえば疥癬ではつとに有名で、昨年は千葉県皮膚の日講演会で市民向けに疥癬の講演を行っていただきました。虫続きというわけでもないでしょうが、今年は夏にちなんで海洋生物のお話をしていただきました。
 和田先生が海洋生物に興味をもったのは2000年頃小浜病院に勤務していた頃とのことです。
先生は一人医長であっても、興味をもったテーマについては徹底的に追及されます。全国北から南までの水族館や沖縄の海にまで足をのばして実地調査されたレポートはさすがに説得力があります。しかし、不思議とガツガツしたこれでどうだ、と言わんばかりの感じは全く抱かせません。むしろ、しなやかに地味な感じを抱かせます。昨年もそうでしたが、現地での専門家や出会った人々との細やかな一期一会の触れ合いを大切にされているようで、講演でも赤穂市民病院の病院報でもそれを垣間見ることができます。
 しかし、その実地に基づいたレポートは余人の追従を許さないほどの徹底さがあります。兵庫大の夏秋先生もそうでしたが、虫の専門家というのは自分自身を実験台にして被検者にならないと気が済まない人種らしいです。しかし、カギノテクラゲに刺されてみたという実験には驚いてしまいました。
確か、山形県鶴岡の水族館での経験談だったと思いますが、そのクラゲは庄内地方では6-7月には毎年みられ、ホンダワラ属の海藻に付着してあまり泳ぎ回らないそうです。これに刺されると、時には呼吸困難になり、水族館の飼育員が刺され、高熱をだして、インフルエンザ様の症状を呈して10日余りも入院したとの話でした。それを知っていて、お願いして実験台として刺されてみました、と事も無げにおっしゃるのです。高熱を出して入院でもしたらどうするのだ、と思いますが、運よく大したことはありませんでした、とのことでした。
前振りが長くなってしまいました。改めて本題の当日の講演内容を。

🔷クラゲ
有櫛動物門と刺胞動物門に分けられます。腔腸動物(刺胞動物)はロート状の体を持つグループで触手に刺胞を持ちます。刺胞は動物が獲物を捕獲するための毒器官です。内部に逆さ棘をもった刺糸をコイルバネ状に収めていて、機械的刺激や化学的刺激でコイルバネが弾けるように飛び出し、刺糸を相手に突き刺きたて毒を注入します。
*Chironex fleckeri(キロネックス)
 殺人の魔の手という学名を持ち、sea wasp(海のスズメバチ)とも呼ばれ恐れられている最強の毒クラゲです。オーストラリアやフィリピンにかけてのインド洋、西太平洋全域の熱帯に生息しています。刺されると死に至るケースもあり、広範囲に絡まると致死的とのことです。サナダムシ様にはしご状、紐状に張り付いた発赤、びらん、潰瘍を形成します。傘高は30~50㎝、最大60本の触手は4m以上にも達します。解毒剤は開発されてはいますが、使用する前に数分で致死的となるために実際の使用例はほぼないそうです。ヒト、小魚、甲殻類に対しては強力な毒性を有しますが、ウミガメには無力です。
*ハブクラゲ
 キロネックスと近縁のハコクラゲの一種です。約10-15㎝の立方形の傘を持ち、傘縁に4本の腕とそれぞれの腕に7本の触手を持ちます。日本では沖縄県のみに分布し、波あたりの少ない砂浜や入り江、人工ビーチなどに発生します。小児ではアナフィラキシー症状を呈し、死亡する例もみられます。それを防止するために、クラゲネットが使用されています。沖縄のきれいな海の浅瀬のわずかなネットの中だけに人がいる写真をみて切なくなりました。
*イルカンジ
オーストラリア北東部クイーンズランド周辺にみられる猛毒をもつハコクラゲの一種でアボリジニのイルカンジ部族にちなんで命名されました。大きさが数cmと非常に小さいために彼らは「見えざる海の怪物」と恐れていました。頭痛、全身の激痛、筋肉痛、動悸、血圧上昇などの全身症状を呈します。これをイルカンジ症候群とよびます。キロネックス程ではないにせよ、溺死、変死の中にこのクラゲによると思われるケースもあるそうです。
*(キタ)カギノテクラゲ
最初に書いたので省略。傘の直径は約2㎝で、海藻をとる海女が最も多く刺されるそうです。また海藻類を生で摂食した場合も同様の全身症状を起こすこともあります。
*エチゼンクラゲ
備前クラゲと近種で、食用になります。ビゼンクラゲが中華料理に使われるのに比べ、エチゼンクラゲは美味ではないようで、大型で大量に発生して漁網などにかかるために迷惑がられています。これも有毒で強くはないものの中国では死亡例もあるそうですが、日本では海水浴の時期ではないので被害はないようです。
*カツオノエボシ(電気クラゲ)
世界中の暖海に広く分布します。太平洋側に広くみられますが、稀に日本海側にも漂着します。ブルーボトルと呼ばれるように10㎝程の青白い浮袋(気胞体)を持ち、水面に浮いています。気胞体の下には数mにも及ぶ長い触手が垂れ下がっています。風に吹き寄せ垂れて岸辺に近づき刺されることが多いです。刺されると電撃痛が走るので別名電気クラゲともよばれます。数回刺されるとアナフィラキシーショックを起こす例もあるそうです。
厳密にはクラゲではなく、ヒドロ虫の仲間です(ヒドロ虫網、管クラゲ目、カツオノエボシ科)。
*ウミウシ
クラゲの威をかるウミウシ
美しい青色をしていますが、カツオノエボシを食します。そしてその毒を体の外にだしています(盗刺胞)。それで触ると毒にやられます。
*アカクラゲ
傘は直径9-12㎝でやや扁平です。外傘に16本の赤褐色の条紋があります。それでレンタイキクラゲともよばれます。乾燥して粉末状になったものが風に乗り、くしゃみを起こさせることもあるのでハクションクラゲともよばれます。刺胞毒が強く、特に春に激しいそうです。30秒程してピリピリしてきます。
*ヒクラゲ(火クラゲ)
主に瀬戸内海の秋から冬にみられる立方くらげです。10-20㎝の傘を有し刺されると激痛が数日続き、火傷様の火ぶくれを生じるのでヒクラゲという名がついたとされます。漁夫に恐れられているそうです。
*アンドンクラゲ
行燈を思わせるような3-4㎝程の立方系の傘をもち、その下に20㎝程の触手をもちます。
黒潮に乗って北海道付近まで北上し、お盆の時期に多発します。ほとんど大事には至らないものの刺されると激痛を感じミミズ腫れをおこすので、カツオノエボシと並んで電気クラゲと俗称され、嫌われています。お盆過ぎには海水浴をしない方がよいとされる所以とされます。
*ハナガサクラゲ
花笠様の円盤状の外観をもち、美しいクラゲです。5㎝から大きいものは20㎝にもなります。昼間は岩や海藻に付着していることが多いので、一般の害は少ないものの、触手毒は強いのでダイバーや海藻を素手で触らないような注意が必要です。
*ボウズニラ
カツオノエボシなどと同様の群体性の浮遊性ヒドロ虫、管クラゲの仲間で、暖海性で春にみられます。坊主の頭に似た気胞体は5-15㎜程度で、伸縮性に富む細長い幹は数㎝~数mまで伸び縮みします。「ニラ」は棘を意味する「イラ」の訛りに由来するとされます。近縁腫にコボウズニラがあります。
*キタユウレイクラゲ
「ライオンのたてがみ(Lion’s mane jellyfish)」とも呼ばれる世界最大級のクラゲでシャーロックホームズの事件簿に登場するクラゲです。学名「サイアネア・カピラータ」。イギリスの西岸から南西部、南部の海岸でみられるそうです。最大のものは幅約1.8m、足まで含めた体長は約60mにも及ぶとされ、刺されると激痛が走ります。日本ではキタユウレイクラゲと呼ばれ、北海道から三陸沿岸で生息が確認されています。

クラゲの治療については、ハブクラゲの治療を中心に書きます。
まず、刺されないためにはクラゲ防御ネット内で泳ぐということが鉄則です。また不安があれば泳ぐ際にもウエットスーツやラッシュガード、Tシャツなどを着用して肌を晒さない注意も重要です。仮に刺された場合はパニックになって擦り落そうとしないこと。また真水も掛けないことです。刺激、浸透圧で刺胞が発胞し、皮膚に刺さり毒素が刺入されます。食用酢(5%酢酸)をかけて発胞を抑制し、厚手の手袋などをつけて触手を丁寧に皮膚から取り除きます。(酢をかけるのはハブクラゲの場合でカツオノエボシ、ウンバチイソビンチャクなどに刺された場合は酢をかけると逆に刺胞を発射させるので危険です。海水で静かに洗い流すのが良いです。その後氷や冷水で冷やします。全身状態が悪ければ救命処置をして病院へ、となります。
砂をかけて擦ったり、アルコール、アンモニアなども発胞を刺激するので避けるべきです。
ハブクラゲなどの立方クラゲ以外で、クラゲの種類が分からない場合は食酢ではなく、海水をかけて丁寧に洗い落とすのがよいとされています。

🔷魚
*ゴンズイ
本州中部以南に分布します。ナマズ目の海水魚で体長約10~20cm、体は細長く黒褐色の地に2本の黄色靭帯があります。背びれと胸びれに棘をもち、基部に毒腺があります。幼魚は群れをなし、ゴンズイ玉を作ります。夜行性で夜間に磯や防波堤付近に群れます。刺されると焼けつくような激しい痛みを生じ、創部は発赤腫脹します。魚は死んでも毒は残るのでうっかり触ったり、踏みつけない注意が必要です。魚の毒は蛋白毒で熱に不安定なので45度程度の熱いお湯に浸けると痛みは軽減しますが、外に出すとまた激痛を生じます。
一般的には命に係わることはなさそうですが、白浜でゴンズイを手で握って死亡した66歳の例もあるとのことで要注意です。
和田先生は、怖そうなお兄さんが毒魚に刺され受診した際、熱湯に浸けることを信じてもらえず、一時恐い思いをしたものの、恐る恐る熱湯に浸けるように勧めたところ、痛みが楽になったのか、急に態度が変わり柔和な顔になった経験談をして下さいました。
*ギギ、アカザ
ゴンズイに似たナマズ目の淡水魚です。ゴンズイ同様に毒棘を有するそうです。西日本に分布しています。
*ミノカサゴ
太平洋とインド洋に、日本では北海道南部以南の沿岸部に生息します。体長25㎝程になります。胸鰭、背鰭、尻鰭などが非常に大きく棘状に突出しています。肌色の地に黒褐色の横縞模様が入っています。煮つけなどの食用として使われることもあります。背ビレを中心に毒を持っています。夜行性で珊瑚や岩場の影に潜んでいますが、攻撃的な魚で刺激すると立ち向かってくるとのことです。
*アイゴ
全長30㎝ほどで、木の葉のように左右に平たく、緑褐色をしています。褐色の横縞が数本あり、白っぽい斑点があります。背鰭、腹鰭、尻鰭に毒腺を有しています。食用になりますが、夏はアンモニア臭が強く、冬好んで食されるとのことです。地方によっては美味な魚として珍重されるとのことです。
*ハオコゼ
体長は10㎝程度。ずんぐりとして寸がつまり、体高が大きいです。色が赤、黒、褐色と鮮やかな地図状で、小さくてかわいらしいので水族館ではよく飼われます。しかし水族館危険度ランキングでは堂々の1位です。毒のある背鰭を取り除けば唐揚げなどの食材としても活用できるとのことですが、サイズが小さくさばくのに面倒で一般的には捨てられることが多いそうです。
*オニダルマオコゼ
沖縄に生息しています。背鰭が13本ですが、3本位の刺傷で人が死ぬほどの猛毒とのことです。浅い海に生息し、体長約40㎝、石を思わせる魚で砂泥中に体を半分埋もれさせるなど見つけづらく、シュノーケリングやスキューバダイビングを行う際には十分な注意が必要です。ゴム草履や運動靴では刺傷を防げず、フェルトのついた厚底の靴が勧められます。高級魚として食用にされます。
*エイ
大野麥風(ばくふう)の絵にも言及されました。そういえばかつて東京ステーションギャラリーで大野麥風の大日本魚類画集の展覧会を見に行ってあまりの美しさ、精緻さに息をのんだことを思い出しました。ミクロネシアやアイヌではエイの棘で槍、銛を作っていたそうです。
エイは浅海に生息し、砂場に多いです。漁労や海水浴時に魚を踏みつけて刺されます。尾部の棘には返しがあり、棘が体内に残ることがあります。刺傷、切傷と毒のために激しい痛みがあります。中には死亡例もあります。手術が必要なケースもあるそうです。
*ダツ(オキザヨリ)
ダツ類は日本で6種が知られています。細長い体に両顎が著しく長いのが特徴です。魚は海面すれすれに飛ぶように泳ぐために顎が刺さって死亡した例もあるそうです。電灯に向かって突進してくるために、夜海面では電灯を水平に向けないことが重要です。また電灯を海中に向け顔に刺された例もあるそうです。毒は持っていません。
*ヒョウモンダコ
日本では琉球列島に生息します。サンゴ礁海域のリーフ内、潮干狩り時の石の下、岩場に多いそうです。体長約10㎝。黄色地に円形の青色の円形の斑紋があり、刺激を受けると拡大し、美しく輝きます。ヒョウ柄を思わせることから命名されたそうです。毒はフグ毒と同じ、テトロドトキシンで局所麻痺、呼吸困難をきたし、死亡例もあるそうです。温暖化に伴い、本州での捕獲の報告もあがるようになってきたそうで、注意が必要です。

参考文献
皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 皮膚病診療2000年増刊号 Vol 22 Suppl 2000

各項目は和田先生の講演内容を元にWikipediaなどの記事も参考にしました。

シミの治療

 先日シミの治療についての千葉県皮膚科医会の講演がありました。
講師は当ブログでも度々引用、登場しているシミのスペシャリスト葛西健一郎先生でした。
名著「シミの治療 このシミをどう治す?」の著者でもあります。第1版は2006年の発売、第2版は最近リバイズドバージョンがでました。小生は2冊とも購入しました(別に自慢でもなんでもありませんが)。
数々の講演を聴いてきて納得できる内容と思っています(個人的な意見で、客観性は保証しません)。

顔のシミについては、当ブログでも過去に数回にわたって、かなり詳しく述べました。(2012.2.19, 2013.11-2014.1 シミ、肝斑 、そばかす、PIH, ADM, 老人性色素斑など)そちらのほうも参考にしてみて下さい。

当日の講演の初めに「顔はシミの万華鏡」という言葉がありました。帝京大学の渡辺先生が統計で示されたように、ひとくくりに「シミ」といっても実に様々な疾患、病態が含まれています。同じ人の顔にも複数の異なる種類のシミが混在して現れることがよくあります。まさに万華鏡といわれる所以です。
その中でも しっかり押さえておくべきもの、(重要な鑑別疾患)は以下の疾患であるとのことで、それを重点的に解説されました。
もちろん、メラノーマなどの皮膚ガンはとても重要ですが、それらは割愛して。
#肝斑 #雀卵斑 #老人性色素斑 #後天性真皮メラノサイトーシス(ADM) #炎症後色素沈着(PIH)

#雀卵斑・・・いわゆる「ソバカス」のことです。IPLでもQスイッチレーザーでもピコレーザーでも取れますが、また再発します。
#老人性色素斑・・・脂漏性角化症とも呼ばれるように基本的に良性腫瘍です。ということは、シミが薄くなることではなく、きっちり取り除くことを目指すべきです。その意味では、IPLはよくありません。シミが薄くなってくると取れません。炭酸ガスレーザーやQスイッチレーザーが適応になります。それより絶対的優位ではないものの、ピコ秒レーザー(PicoSure, PicoWayなど)はよい適応です。
#ADM・・・幼若メラノサイトの原因不明の活性化によります。真皮のメラノサイトによるものなので、褐色からやや灰色がかってみえます。発生部位によって6部位に分けられます。6部位の完全型は2%、頬型(頬骨突出部)が80%、下顔瞼が24%に見られます。肝斑と異なり眼瞼にも生じ、頬部はびまん性の三日月型ではなく、ボタン雪状に小斑性にみられることが多いです。額の外側びまん性型は28%、Qスイッチレーザーのよい適応となります。ピコレーザーはダウンタイムが少なくよい適応です。適切に治療されれば再発しません。
#PIH・・・炎症後3-6週後に生じてきます。正常の生体反応ですので1年経てばほぼ軽快してきます。それで治療法は積極的無治療が最善です。治そうとしていろんなことをする事が、却って治癒を妨げます。一番まずいのが、マッサージなど擦ること、従って化粧も、洗顔剤も、日焼け止めも避けさせます。特に日本人はマメにスキンケアしようとして、やたら顔を擦ることがあるからです。ハイドロキノンも勧めません。ただ不安をとり除き肌状態をチェックする目的で毎月受診してもらいます。
#肝斑・・・肝斑の成因についてはいくつかの都市伝説があります。いわく、紫外線、女性ホルモン、ストレスなどなど。成書にもまとこしやかに書いてあります。しかし、目の下がくっきり抜けてそこに紫外線が当たらないでしょうか。男性だって肝斑になります。演者の考える根本原因は擦りすぎによる皮膚のバリア破壊です。反射モードのダーモスコピーで顔の皮膚表面を観察するとそれがハッキリと見てとれます。刺激を避けることによって皮膚のキメが回復して肝斑も軽快していきます。治療に関しては、以前からトラネキサム酸(トランサミン)、ケミカルピーリングなどがありました。トランサミンの効果については以前はエビデンスレベルの高い文献はすくなかったものの、最近は中国、韓国からC1-Bレベルの報告があがってくるようになったそうです。一方、ある時期よりレーザートーニングという施術が喧伝されるようになり、本邦の美容界でも一世を風靡しました。ただ時が経つにつれてその副作用を目にするようになり、演者はアンチレーザートーニングを主張するようになりました。肝斑が擦りすぎなどの外的刺激によるものであるとの自説に基づき、レーザーもかえって刺激になりうること、また過度に照射して白斑を作った場合には永久に戻らないことなど鑑みて肝斑に対するレーザートーニングには異議を唱えています。演者(葛西健一郎)のホームページを見るとレーザートーニングの真実~業者によって作られた施術~というタグがあり、やや刺激的な内容ではありますが、開発の頃から最近までの流れが述べられています。勿論葛西先生の個人的な見解ではありますが、レーザートーニングに興味のある人、現に施術を受けている人は一読の価値はあると思います。
最近は従来の機器に代わってピコ秒レーザーによる肝斑のレーザートーニング(ピコトーニング)がでてきたそうです。これも原理的には葛西先生に言わせると2匹目のどじょうとのことです。
レーザートーニングで具合が良いのは、内服を併用しているケースが多く、毛が焼けて肌がすべすべすること、何か施術をやってもらって安心すること、なども関与するのではないかとのことです。
ただ、最初にも述べたように顔には様々なシミが同時にでます。肝斑の治療と肝斑も併発している人の治療は違います(ADMと肝斑の合併(重複)例は非常に多いです。一番大切なことはシミの正確な診断、見極めです。レーザーは老人性色素斑などの器質的な疾患には強いが、肝斑などの機能的なものには無力だと知ることが重要です。その上で、レーザーはしっかり照射します。当て残しは恥で、炎症後色素沈着は恥ではありません。自信を持って治癒を待てばよいのです。

葛西先生の当日の講演は独自の説も混じっていたようですが、長年の経験と実績に基づいた講演は説得力がありました。
美容の分野、特にレーザー機器は開発が目覚ましく、理論やエビデンスが実践に追いついて行かないように思われます。
乳児血管腫に対するレーザーの適応、フラクションレーザーの瘢痕への効果なども専門家によって意見が異なります。
そういいつつも韓国、中国のこの分野での進出は目覚ましく、AAD,EADVなどの商業展示ブースではアジアからはこの両国で溢れかえり、日本からの展示はほぼみかけません。講演についても同様です。また最近のEADVは学会最終日はレーザー、フィラー、ボトックス一色のさながら美容学会の様相を呈してきています。
若き日に東芝のQスイッチルビーレーザーを用いて太田母斑が完治することを世界に初めて知らしめた渡辺先生、その辛口の解説で日本のレーザー界の重鎮の一人であった帝京大学の渡辺教授も退官されました。葛西先生も一開業医です。色素の分野でアジアを、あるいは世界の皮膚科をリードしてきた日本の皮膚科の科学的な実力が問われ、期待されるところです。

漆かぶれの新たな免疫機序の解明

総会の最終日は、特別企画として「皮膚科研究の目指すべき道とは」と銘打って内外の研究者の講演がありました。そのなかで、特に印象深かったのがハーバード大学のWinau Florian先生の講演でした。
といっても、英語の講演で、小生にはなじみのない基礎的な免疫のお話だったので漆かぶれの病態解明でへーすごいとは思ったものの、あまりピンとはきませんでした。むしろ驚いたのは、講演のあとの質疑で、皮膚免疫の専門の先生方が興奮したような口ぶりであれこれと英語で質問しながら、賞賛していたことでした。これはそんなにすごい内容なのかと、あとで一寸調べてみました。それでもまだ内容の核心は理解しきっていません。教本などをみつつ、自分なりに理解した範囲で書いてみます(あまり自信はありませんが)。

Rivisiting the importance of CD1a on Langerhans cell, Winau Florian

当日の内容はnature immunologyの下記の記事でみることができます。
Ji Hyung Kim, et al. CD1a on Langerhans cells controls inflammatory skin disease. Nature Immunology 17,1159-1166 (2016)

MHC分子上のペプチド抗原を認識する通常のT細胞の細胞免疫反応と異なりCD1分子はT細胞への脂質抗原を認識します。CD1aは抗原提示機能をもつ樹状細胞であるランゲルハンス細胞に多く発現されています。CD1aは外来性の脂質抗原(例えば結核菌などの細菌など)や自己の脂質抗原と結合してこれらの抗原呈示を行っています。
入りくんだ免疫機構において上記の機構は深く免疫の病態に関わっています。しかしながらin vivo(生体内)でのランゲルハンス細胞でのCD1aの働きはよく分かっていませんでした。
それはCD1aはヒトでは発現するものの、マウスはこれを欠いていたからです。それでCD1aを遺伝子導入したトランスジェニックマウスを用いて、これを検証しました。
脂質抗原であるウルシオールをこのマウスの腹部に塗布して感作し、耳に再度漆を塗ることによってかぶれを起こさせ、その部位の免疫炎症細胞の動きを観察しました(病理組織、フローサイトメトリーなどを用いて)。その結果、炎症反応はCD1aに大きく依存しており、これを欠いたり、抗体でブロックすると反応は抑えられました。そしてCD4T細胞を誘導しました。さらに炎症性サイトカインであるIL-17,IL-22も発現させました。これらの動態は最近漆かぶれを起こした人の血液を用いても同様なサイトカインの動きがみられました。
多くのウルシオールの分子のなかでdiunsaturated pentadecylcatechol (C15:2)という分子が主要抗原であることを見出し、その結晶構造も3次元的に解析しました。(上記ジャーナルに図示あり)。
ネットで調べていたら、このトランスジェニックマウスを作ったのは京都大学ウイルス研究所・杉田研究室とありました。この研究の元材料が日本人によるものに驚き、また日本独特ともいえる漆のかぶれの原因究明が日本人の手でなかったことは一寸残念な気もしました。
皮膚科の教本の接触皮膚炎(かぶれ)の説明を読みますと以下のように書いてあります。

Langerhans細胞は機能的に抗原呈示細胞であり、表皮に侵入した抗原を捕食し、プロセスした後、細胞膜上のMHCクラスⅠおよびⅡ分子に抗原ペプチドを乗せ、共刺激分子とともにT細胞に提示し、T細胞を活性化させる。また、抗原を捕食した後活性化され、表皮を離れ、真皮、輸入リンパ管を通って所属リンパ節に遊走し、そこでT細胞に抗原呈示を行う。所属リンパ節で抗原呈示を受けたT細胞は輸出リンパ管、真皮を経由して表皮に達し、そこで再び抗原呈示を受けると活性化され様々なサイトカイン、ケモカインを産生し、炎症を惹起する。この過程がアレルギー接触皮膚炎の基本構造である。(下図 参照)
皮膚科学 第9版 著・編 大塚藤男 原著 上野賢一  3章 皮膚免疫学 川内 康弘

蛋白(ペプチド)抗原がMHCⅠ,Ⅱ分子に表出されて、T細胞受容体(T cell receptor: TCR)に認識されて免疫反応が進むという説です。実際に漆成分も変化して蛋白抗原となり、MHC分子と結合し、免疫反応を生じるという報告もあります。脂質抗原の経路も別にあるということでしょうか。
いずれにしても従来の教科書には記載のなかったMHC非拘束性の新しい免疫経路ということになります。
当日の講演での、小生にとってより驚いたことは乾癬においても、皮膚の自己脂質抗原と反応したTh17細胞が関与して、乾癬ではCD1aも多く発現しているということでした。そしてCD1aを抗体でブロックすることによって皮膚の炎症を抑えることができたそうです。乾癬の患者ではCD1aと反応する炎症性T細胞の強い活性化がみられます。
それで、彼らはCD1aは乾癬をはじめとする炎症性皮膚疾患治療の新しいターゲットになることを期待しているそうです。
今後の研究、発展が待たれるところです。

 大塚 皮膚科学より

 大塚 皮膚科学より

 京都大学ウイルス研究所細胞制御研究分野 杉田研究室 HPより

 

 

表皮バリア、タイトジャンクションの仕組み

慶應大学の久保亮治先生は表皮バリア、タイトジャンクションの研究をリードしてきた先生です。
表皮バリアには角層バリア、その下のタイトジャンクション(TJ)があります。TJについては過去に当ブログでも久保先生の講演内容を書きましたので、詳しくはそちらを参照して下さい(2016.3.27アトピー性皮膚炎とバリア障害)。
久保先生はクローディン分子が重合してジッパーのように細胞同士を密着させ細胞の辺縁を縁取るTJの構造を解明し、3Dイメージングで可視化してきました。しかし、6角形をした細胞(顆粒層)がどのようにターンオーバーし、TJが入れ替わっていくのか長年の疑問だったそうです。当初は6角柱が積み上がって剥がれるモデルを想定していたそうですが、これだと細胞間のデスモゾームを全て切り離して、上に剥がれて入れ替わる必要があります。この長年の疑問を解決したのが、今年の皆見省吾記念賞となった横内麻里子先生のケルビン14面体モデルの論文です。
Epidermal cell turnover across tight junctions based on Kelvin’s tetrakaidecahedron cell shape
<eLife,5,e19593,2016.>

横内先生は実際に紙でこの多面体をいくつも作り、それが規則正しく並び、決まった順番通りに入れ替わっていく様を提示されました。それは細胞とTJを染め分けた詳細な2光子顕微鏡観察に基づくもので、コンピューターシミュレーションでも実際の細胞のターンオーバーの動態と合致することが解明されました。
 このモデルだとデスモゾームを切る必要がなく、スムーズに細胞が入れ替わり、TJも破綻しません。
 人の皮膚の細胞は1時間当たり2億個皮膚から剥がれ垢となって次々に細胞が新しく入れ替わっているそうです。
 ケルビンの14面体とは、19世紀末、英国の物理学者ケルビン卿が提唱した6角形8面正方形6面からなる14面体で、空間を同じ体積を持った細胞で埋めるときに、それぞれの細胞の表面積を最小に、最も効率よく充填できる多面体の解答として提唱されたものだそうです。
 この秩序だったパターンは自然界でもみられるそうで、ザクロの実や石鹸の泡もその例です。
 1976年にはAllenが角質細胞はケルビンの14面体を押しつぶした形であることを発表しています。それが今回の横内先生のモデルの発想のもとになったようです。
 TJは新しく入れ替わる際に一定時間2重になります。そして必ず新しいものが、古いTJより10%小さく内側にできます。大きさの異なる6角形、これもケルビンの⒕面体モデルへの発想となったそうです。
 シート状に並べられた6角形、中央が黄色、その周りを赤、青が3つずつ取り囲んだ絵図、それがわずかな段差をもって上の方から黄色➡赤➡青➡黄色と繰り返しながら入れ替わる様をコンピューターグラフィック上でみせてもらいました。

 人の皮膚のバリア構造の精緻で巧妙なこと、その一部をきっちりと解明した研究が日本人皮膚科医の手でなされたことは素晴らしいことと思われました。

 久保亮治:臨皮 65(5増): 38-43,2011より

 皮膚が新陳代謝しつつバリアを維持する仕組みを解明

ー細胞の形が解き明かす瑞々しい皮膚が保たれる秘密ー 慶應義塾大学 プレスリリース 2016.11.30 より

日皮総会ピアノ・リサイタル

 先日の日本皮膚科学会総会の初日の講演の終了後にピアノ・リサイタルがありました。
川内萩ホール 東北大学百周年記念会館で入場無料と書いてありました。何も知らずに学会プログラムに載っていて、”無料”の文字につられて皆のあとに付いていきました。チケット制とあるのも見逃して、会場で予備のチケットをもらって入りました。
 特別な紹介もなく、自然に始まった演奏は実に素晴らしいものでした。シューベルト、ベートーベン、ショパンの1時間余りはあっという間に過ぎ去って、ショパンのアンコール曲ももっと聴きたい思いでした。大きな拍手はありましたが、特別なアナウンスもなくこれまた自然に退席されて演奏会が終わったのも好ましいものでした。
 ピアニストは小山実稚恵とあり、「人気、実力ともに日本を代表するピアニスト・・・」とプログラムに書いてあり、これを知らないのは自分の無知を晒すようなものですが、仙台国際センターの森に囲まれた会場で至福の時を過ごせました。そういえば昨年のEADVはウイーンで開催され、モーツアルトやベートーベンの記念碑のあるウイーンの中央墓地まで行き、帰り道はワルシャワでショパンの生家や教会に立ち寄った事が想い起こされました。
 眼を閉じて聴けば、時空を飛び越えて音楽が流れているようでした。学会の講演で疲れた身には素晴らしい企画のように思えました。
 ただ、これはただのリフレッシュだけではなくて、小山氏は2011年の東日本大震災以降、被災地活動の一環として、仙台を中心に演奏活動を行っているということでした。

 後日、浦安の皮膚科医会に東北大学の山﨑先生が講演に来られました。ブログで何回も書いている自然免疫、抗菌ペプチド、酒さ、ニキビのスペシャリストです。当日は実地医家向けにニキビの臨床の話でした。会が終わった後に、総会の事務局長をされた山﨑先生にいろいろ話を聞きました。
 気になっていたあのコンサートは誰の発案ですか、と言わずもがなの質問をしたら、やはり会頭の相場節也先生です、とのことでした。学会はneo-dermatologyを標榜し、Stephan Katz先生を招請するなどアカデミックなものの、東北地方復興の後押しをしたいという会頭の思いがこもった企画なのだと思いました。
 早速、にわか小山実稚恵ファンになり、CDを数枚購入しました。
 

じんま疹2017

先日仙台で行われた日本皮膚科学会総会で、久しぶりに蕁麻疹の教育講演を聴きました。
「新時代を迎えた蕁麻疹治療」と銘打って行われたように、海外、国内ともにガイドラインが改訂され、非鎮静性抗ヒスタミン薬や抗IgE抗体薬の新規導入など、蕁麻疹治療は大きな変革を迎えたそうです。そのさわりを。
はじめの4題は専門的な要素の強い部分なので、一般的な外来診療などにおいては治療の新規導入薬の最後の題のみをチェックするだけでよいのかもしれません。

🔷海外の蕁麻疹診療ガイドライン改訂の動向 秀 道広 先生(広島大学)
ガイドラインは各国、独自のものがありますが、国際的には欧州のEAACIが主導、作成したものと、米国のAAAAIが国内アレルギー関係団体とともに作成したものがあります。最近各国も独自のガイドラインを作っていますが、EAACIが最も多くの国の学会の認証を受けた基本形です。日本のガイドラインもかなり早い時期に制定された詳細なものです。2016年にはEAACI改訂のための国際コンセンサス会議が開かれ、さらに近々AAAAIも参加して、各国の摺り合わせが行われグローバルなガイドラインが出来上がる見通しとのことです。
大きな変更点(予定)は食餌療法の推薦文が取り下げられること、治療のアルゴリズムで第3ステップの治療におけるオマリズマブがシクロスポリンより優先されること、モンテルカスト、H2拮抗薬、ジアフェニルスルフォンなどがその他の治療薬としてアルゴリズムの他に列挙されることなどです。

🔷国内の蕁麻疹診療ガイドライン改訂版 福永 淳 先生(神戸大学)
日本国内のガイドラインの作成は国際的にもかなり早く、2005年に蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドラインが、2011年に蕁麻疹診療ガイドラインが策定されました。近年の国際的なガイドラインの改訂や新規薬剤の開発に伴って、国際的なものとの整合性を得るべく最近本邦でも第3版改訂版が策定されました。今回の改訂では、「蕁麻疹診療における行動指針集」としての役割を主眼においたそうです。臨床的な診断の重要性、患者さんに先々の見通しを説明すること、生活指導をして寛解に誘導していくことの重要性をうたっています。また治療ステップごとの薬剤の使用指針も示されています。慢性蕁麻疹は本邦では従来4週間以上とされていましたが、国際基準に倣って6週間以上となるそうです。

🔷議論の尽きないコリン性蕁麻疹~複雑な病態とその治療 青島正浩 先生(浜松医科大学)
コリン性蕁麻疹は個疹が点状の小さな膨疹、紅斑であり、運動や入浴、精神的緊張などの発汗刺激で生じます。いくつかの亜型に分類されますが、大きくは汗アレルギーの有無、発汗異常の有無によって2型に分類されます。
汗アレルギーのあるタイプでは、アセチルコリンによって発汗が促され、汗管閉塞などによって汗が真皮に漏れ出して蕁麻疹が生じると考えられています。一方発汗低下を伴う減汗性コリン性蕁麻疹では、エクリン汗腺上皮細胞のアセチルコリン受容体発現が低下しているために減汗となり、蕁麻疹が生じると考えられています。治療は両者で異なり、前者では抗ヒスタミン剤、漢方薬などを使用します。発汗で悪化しますのでそれを避けるように指導します。後者ではステロイドパルス療法が適応となります。汗で改善するために発汗訓練なども行われます。検査はヨー素デンプンを使用した発汗テストを行いますが、専用の部屋などが必要で一部の専門医療機関で施行されているようです。

🔷血管性浮腫の診断と治療 猪又直子 先生(横浜市立大学)
血管性浮腫は蕁麻疹と同様に血管透過性の亢進によって皮膚や粘膜が一過性に腫れます。蕁麻疹様の赤み、痒みを伴うものと、むくみ(浮腫)のみの場合があります。
蕁麻疹類似の機序で生じるマスト細胞メディエータ起因性と、ブラジキニン起因性に分類されます。後者には遺伝性血管性浮腫(HAE)、後天性AE、アンギオテンシン転換酵素阻害薬などが含まれています。治療法はタイプ、重症度で大きく変わってきます。近年カリクレインーキニン経路をターゲットにした薬剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、C1NH濃縮製剤の自己投与などの選択肢が増えてくる予想があります。
(当ブログの2013.6.16 蕁麻疹(5)血管性浮腫も参考にして下さい。)

🔷蕁麻疹治療における新規導入薬 千貫祐子 森田栄伸 先生(島根大学)
蕁麻疹治療の基本は非鎮静性抗ヒスタミン薬です。いわゆる第2世代の抗ヒスタミン薬です。眠気の強い第1世代の抗ヒスタミン薬は次第に避けられるようになっています。
臨床医が抗ヒスタミン薬を選択する基準は種々ありますが、効果、眠気などの副作用、効果発現の早さ、効果持続時間などによって使い分けられています。それには薬剤の最高血中濃度到達時間(Tmax)や血中濃度半減期(T1/2)、薬剤の構造式なども勘案されます。
第2世代の中ではザジテン、ゼスラン(ニポラジン)などは比較的第1世代に近い薬剤です。第2世代の中でも、効果重視の薬剤がアレロック、セチリジン、ザイザルなどです。中間型がタリオン、エバステル、アレジオン、眠気重視の薬剤がアレグラ、クラリチンといえます。(あくまで相対的な仕分けですが)。
2016年11月に三環系のデスロラタジン(デザレックス)とピペリジン系のビラスチン(ビラノア)が同時に発売になりました。両剤ともに1日1回服用で、眠気が少なく効果は比較的高い傾向にあります。デザレックスはクラリチンの活性代謝産物を成分としているので両者は似ていますが、効果発現時間は速いといえます。
デザレックスとビラノアは比較的似た傾向の薬剤ですが、多少の使い方の違いがあります。デザレックスは食事の影響は受けないので任意のタイミングで服用できますが、ビラノアは食後に服用すると血中濃度が下がるので空腹時使用という指示があります。また年齢制限があり、使用対象はデザレックスは12歳以上、ビラノアは15歳以上です。一方効果の強さはややビラノアの方が強いという調査があります。
いずれも新薬ですので、1年間は2週間以内の処方というしばりがあります。抗ヒスタミン薬には適宜増量という記載があり、2倍量を使用できる薬剤も多いのですが、この2剤についてはその記載がなく、増量はできません。
また難治性の慢性特発性蕁麻疹に対して抗IgE抗体療法(オマリズマブ)の臨床試験が行われて、その有効性、安全性が確認され、本邦でも保険適応の運びとなりました。

*オマリズマブ(omalizumab)の作用
即時型アレルギー反応を起こす蕁麻疹は、マスト細胞(肥満細胞)上の高親和性IgE受容体(FcεRI)に抗原が特異的IgEに結合し、2つの受容体分子が抗IgE抗体によって架橋することによって活性化します。そしてヒスタミンなどのケミカルメディエーターを細胞外に放出して蕁麻疹を発症します。オマリズマブはFab領域の抗原結合部以外のアミノ酸配列をヒト化した抗ヒトIgEモノクローナル抗体で、IgEが受容体に結合する部分(Cε3ドメイン)に結合します。そのためにすでに受容体に結合したIgEには結合せずに、フリーのIgEが受容体に結合することを阻害します。細胞表面でIgEが結合しない受容体は徐々に細胞内に取り込まれるために、即時型反応も減少していきます(下図 参照)。
*慢性蕁麻疹に対する効果
様々な臨床治験がなされ、オマリズマブはマスト細胞以外に病態の中心を持つ遺伝性血管性浮腫などの特殊な病型を除いて、ほぼすべての蕁麻疹の病型に対して効果が期待できるそうです。ただし、適応症は特発性の慢性蕁麻疹に限られています。1回の投与効果は4週間程度にとどまり、治療を中止すると徐々に症状が戻るとのこと。また抗体製剤なので薬価は高価です。
薬剤名               薬価
ゾレア皮下注用150㎎……………45578.0円(150㎎1瓶)
ゾレア皮下注用 75㎎……………23128.0円(75㎎1瓶)
効能又は効果
特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)
用法及び用量
特発性の慢性蕁麻疹
通常、成人及び12歳以上の小児にはオマリズマブ(遺伝子組み換え)として1回300㎎を4週間毎に皮下に注射する。
承認取得日:
2017年3月24日
製造販売:
ノバルティス ファーマ株式会社

日本皮膚科学会のオマリズマブ(ゾレア)使用可能施設についての注意喚起
日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン作成委員会では、オマリズマブ(ゾレア)が生物学的製剤の1つであることを鑑み、適正使用を推薦する視点から、蕁麻疹に対する本質の使用を当分の間、次の様に限定するように注意喚起いたします。
「皮膚科専門医またはアレルギー専門医が、喘息およびアナフィラキシーに対応できる医療施設で使用すること」
平成29年5月12日 日本皮膚科学会

参考文献
秀 道広: 抗IgE抗体による難治性蕁麻疹の治療. 臨床皮膚科 71(5増):180-182,2017

 参考文献より

小児の急性発疹症

 神戸の日臨皮での薬疹のシンポジウムから。
小児の急性発疹症は小児科へも皮膚科へも受診があります。疾患も両科にまたがるケースも多く、日常診療で対応に苦慮するケースもあります。小児科の立場からの重要事項の解説がありました。

 小児の急性発疹症への対応策~小児科医の立場から  (中野貴司先生 川崎医科大学 小児科 教授)

 症状を軽減させる治療は最も重要ですが、家族が理解・満足できるような説明を心掛けることの重要性を述べられました。
小児の急性発疹症では感染症が多いことが特徴です。勿論、前回までに述べたように薬疹もみられますし、鑑別が重要になってきます。

🔷症状が多彩で、短期間で発疹の性情が変化する
 例えば、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS: staphylococcal scalded skin syndrome)は乳児に好発しますが、しばしば短期間、短時間で発疹のの性情が大きく変化します。口囲の発疹(放射状亀裂、びらん、眼脂など)が半日で全身に拡大することもざらです。菌の出すexfoliative toxin(表皮剥奪毒素)が血中から全身にまわり全身に紅斑、水疱、表皮剥離を生じるからです。家族にその可能性を伝えておかないと、急激な変化、重症化にショックを受けて、治療、医師に対する不信感につながることもあります。

🔷合併症、後遺症が残りうる疾患
これらは成人以上に懸念されることが多く、告知、合併症の説明が遅れると、そのことが予後に悪影響を及ぼしたのではないかと憂慮する家族は多いです。
A群溶連菌感染症の急性糸球体腎炎や、リウマチ熱、IgA血管炎による腎合併症、川崎病による冠動脈瘤などが該当します。
(これらは小児科でみる疾患ですが、皮膚症状は当然皮膚科に来ます。簡単に下記に述べます。
*A群溶連菌感染症・・・いわゆる猩紅熱(以前は届け出が必要だったために同名は避ける傾向がありました。)高熱、咽頭痛、口囲蒼白、苺状舌、全身の紅斑を主症状とします。発疹は頚部、腋窩、鼠径部、大腿などの屈曲部から全身に拡大します。毛包性紅色丘疹で、ざらざらした感があります。頬が真っ赤になり、口囲は白くなる、いわゆる猩紅熱顔貌を呈します。関節部では皺に沿って線状に皮疹ができ、時に点状出血、水疱もみます。舌は白苔(白色苺状舌)を呈し、これがはがれると赤色苺状舌を呈します。1週間程度で暗赤色となり、落屑となります。手足は時に膜様に皮むけします。ペニシリン系抗生剤を少なくとも10日間使用。急性糸球体腎炎(10~15%),リウマチ熱(0.3~3%)。
A群溶連菌感染症には稀に劇症型といわれ、重篤な経過をたどるものがあります。(いわゆる人食いバクテリア)。最近菌の遺伝子変異によることが分かってきていますが、免疫低下などの要因も想定されています。
*IgA血管炎・・・(アナフィラクトイド紫斑、ヘノッホ・シェンライン紫斑)。頭痛、発熱、関節痛などを伴って主に下肢に点状~爪甲大の紫斑を生じます。発症後6か月間は糸球体腎炎のリスクがあります。定期的な尿検査を要します。特に血尿に蛋白尿を伴うケースでは要注意です。
*川崎病(急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)・・・原因不明の発熱、皮膚粘膜病変、リンパ節腫脹、中型血管炎を主徴とする疾患。溶連菌、ブドウ球菌、EBウイルスなどの関連が想定されています。
39度前後の高熱が5日以上持続。眼球結膜充血。(ウサギの目の様と形容されます。)頚部リンパ節腫脹。口唇の発赤、乾燥、亀裂。苺状舌と口腔粘膜の発赤。手足の硬性浮腫・紅斑、テカテカ・パンパンに腫れる。回復期には手袋状に皮むけ、膜様落屑。第2~4病日より体に不定形発疹(多形紅斑、麻疹、風疹、猩紅熱、じんましんなど様々に似た発疹)、BCG接種部位の発赤、時に水疱(これは他の疾患ではみないので特異的)。急性期に70~80%に心臓障害(心雑音、不整脈など)、ごく稀に突然死、心筋梗塞。発熱が11日以上持続すると冠動脈瘤を発生し易い。アスピリンを主体とした抗炎症療法、大量γーグロブリン点滴による冠動脈瘤の抑制など。
(ちなみに発見者の川崎富作先生は千葉大学の出身で、かつて発見に至る苦労話をお聴きしました。原因は不明ながら全身性に中型の血管を侵す血管炎で日本人をはじめアジア人で多くみられるようです。全身臓器を対象とする血管炎のChapel Hill分類が1994年に提唱され、2012年にはその改訂版が提唱されました。人名を冠した疾患名(Eponym)を廃止する方向で改正が行われ、Wegener肉芽腫症、Churg-Strauss症候群、Henoch-Schonlein症候群は原則なくなりました。その中にあって日本人の名を冠した高安動脈炎、川崎病は残りました。日本人学者の希望もあったようですが、何か誇らしい感じを受けます。ーーー余談でした。)

🔷感染伝播が問題となる疾患
*妊婦への影響・・・風疹、伝染性紅斑(リンゴ病)、水痘 これらは原因ウイルスが胎児異常をきたす可能性があるために、診断、説明は慎重に行う必要性があります。
*基礎疾患のあるケース・・・麻疹、水痘は白血病などの基礎疾患、免疫抑制状態であると重症化します。
*集団生活での対処の注意・・・小児の感染性発疹症は学校保健安全法施行規則によって出席停止期間が定められている疾患も多いです。
(一部抜粋)
出席停止の期間
麻疹・・・解熱後3日を経過するまで
風疹・・・発疹が消失するまで
水痘(みずぼうそう)・・・全ての発疹が痂皮化するまで
ちなみに
手足口病・・・口内の発疹で食事がとりにくい、発熱、体がだるい、下痢、頭痛などの症状がなければ、学校を休む必要はありません。
伝染性紅斑(りんご病)・・・顔が赤くなり、腕や腿、体に発疹が出たときは、すでにうつる力が弱まっていることから、発熱、関節痛などの症状がなく、本人が元気であれば、学校を休む必要はありません。
伝染性膿痂疹(とびひ)・・・病変が広範囲の場合や全身症状のある場合は学校を休んでの治療を必要とすることがありますが、病変部を外用処置して、きちんと覆ってあれば、学校を休む必要はありません。

近年、予防接種の普及によって、疾患構造は大きく変化してきました。麻疹は土着株ウイルス(D型、H型)の伝播は断ち切られました。(2015年WHOにより認定)。しかしながら報道にもあるように外来株(B3型)による集団感染は散見されます。ワクチン未接種者、1回接種者を中心に感染し、2回接種者が多い年代は少ない傾向です。従って0~4歳と20~30歳代に多い傾向です。麻疹患者の激減に伴い小児科医サイドの問題として(皮膚科医も)1例の麻疹も診察しないままに専門医となる小児科医が増え、麻疹と薬疹とが誤診されるケースが散見されます。
修飾麻疹・・・ワクチン1回接種しても十分な免疫がえられなかったり、抗体価が減弱した場合に生じる軽症麻疹でコプリック斑もみられない。
異型麻疹・・・1960年代に用いられた不活化ワクチン(Kワクチン)接種後の麻疹で現在はほぼみられない。紅斑、紫斑、丘疹を多発し、肺炎など重症化した。コプリック斑はみられない。
麻疹IgM抗体は非特異陽性があり、突発性発疹、伝染性紅斑、デング熱などで弱陽性になります。また麻疹でも発疹3日目までは陰性です。
上記のように、麻疹が広くみられないこと、しかし輸入感染症として時に集団発生すること、修飾麻疹の比率が多くなっていてコプリック斑も見られないこと、皮疹も典型的でないこと、IgM抗体検査の不確実なことなどを考えると血液、咽頭ぬぐい液、尿からのウイルスの検出(RT-PCR)が必要かと思われます。
水痘についても、水痘ワクチンが2014年10月から定期接種となり、水痘患者が激減しました。疾患構造も変化し 、しばらくは帯状疱疹患者が増えることも予想されます。ワクチン接種済みの水痘患者も時に見られ、軽症で発疹の性情も典型的でない場合もあります。
このように、必ずしも典型的でない麻疹、水痘なども見られることから、より慎重な診断、対応が求められます。