日皮総会ピアノ・リサイタル

 先日の日本皮膚科学会総会の初日の講演の終了後にピアノ・リサイタルがありました。
川内萩ホール 東北大学百周年記念会館で入場無料と書いてありました。何も知らずに学会プログラムに載っていて、”無料”の文字につられて皆のあとに付いていきました。チケット制とあるのも見逃して、会場で予備のチケットをもらって入りました。
 特別な紹介もなく、自然に始まった演奏は実に素晴らしいものでした。シューベルト、ベートーベン、ショパンの1時間余りはあっという間に過ぎ去って、ショパンのアンコール曲ももっと聴きたい思いでした。大きな拍手はありましたが、特別なアナウンスもなくこれまた自然に退席されて演奏会が終わったのも好ましいものでした。
 ピアニストは小山実稚恵とあり、「人気、実力ともに日本を代表するピアニスト・・・」とプログラムに書いてあり、これを知らないのは自分の無知を晒すようなものですが、仙台国際センターの森に囲まれた会場で至福の時を過ごせました。そういえば昨年のEADVはウイーンで開催され、モーツアルトやベートーベンの記念碑のあるウイーンの中央墓地まで行き、帰り道はワルシャワでショパンの生家や教会に立ち寄った事が想い起こされました。
 眼を閉じて聴けば、時空を飛び越えて音楽が流れているようでした。学会の講演で疲れた身には素晴らしい企画のように思えました。
 ただ、これはただのリフレッシュだけではなくて、小山氏は2011年の東日本大震災以降、被災地活動の一環として、仙台を中心に演奏活動を行っているということでした。

 後日、浦安の皮膚科医会に東北大学の山﨑先生が講演に来られました。ブログで何回も書いている自然免疫、抗菌ペプチド、酒さ、ニキビのスペシャリストです。当日は実地医家向けにニキビの臨床の話でした。会が終わった後に、総会の事務局長をされた山﨑先生にいろいろ話を聞きました。
 気になっていたあのコンサートは誰の発案ですか、と言わずもがなの質問をしたら、やはり会頭の相場節也先生です、とのことでした。学会はneo-dermatologyを標榜し、Stephan Katz先生を招請するなどアカデミックなものの、東北地方復興の後押しをしたいという会頭の思いがこもった企画なのだと思いました。
 早速、にわか小山実稚恵ファンになり、CDを数枚購入しました。
 

じんま疹2017

先日仙台で行われた日本皮膚科学会総会で、久しぶりに蕁麻疹の教育講演を聴きました。
「新時代を迎えた蕁麻疹治療」と銘打って行われたように、海外、国内ともにガイドラインが改訂され、非鎮静性抗ヒスタミン薬や抗IgE抗体薬の新規導入など、蕁麻疹治療は大きな変革を迎えたそうです。そのさわりを。
はじめの4題は専門的な要素の強い部分なので、一般的な外来診療などにおいては治療の新規導入薬の最後の題のみをチェックするだけでよいのかもしれません。

🔷海外の蕁麻疹診療ガイドライン改訂の動向 秀 道広 先生(広島大学)
ガイドラインは各国、独自のものがありますが、国際的には欧州のEAACIが主導、作成したものと、米国のAAAAIが国内アレルギー関係団体とともに作成したものがあります。最近各国も独自のガイドラインを作っていますが、EAACIが最も多くの国の学会の認証を受けた基本形です。日本のガイドラインもかなり早い時期に制定された詳細なものです。2016年にはEAACI改訂のための国際コンセンサス会議が開かれ、さらに近々AAAAIも参加して、各国の摺り合わせが行われグローバルなガイドラインが出来上がる見通しとのことです。
大きな変更点(予定)は食餌療法の推薦文が取り下げられること、治療のアルゴリズムで第3ステップの治療におけるオマリズマブがシクロスポリンより優先されること、モンテルカスト、H2拮抗薬、ジアフェニルスルフォンなどがその他の治療薬としてアルゴリズムの他に列挙されることなどです。

🔷国内の蕁麻疹診療ガイドライン改訂版 福永 淳 先生(神戸大学)
日本国内のガイドラインの作成は国際的にもかなり早く、2005年に蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドラインが、2011年に蕁麻疹診療ガイドラインが策定されました。近年の国際的なガイドラインの改訂や新規薬剤の開発に伴って、国際的なものとの整合性を得るべく最近本邦でも第3版改訂版が策定されました。今回の改訂では、「蕁麻疹診療における行動指針集」としての役割を主眼においたそうです。臨床的な診断の重要性、患者さんに先々の見通しを説明すること、生活指導をして寛解に誘導していくことの重要性をうたっています。また治療ステップごとの薬剤の使用指針も示されています。慢性蕁麻疹は本邦では従来4週間以上とされていましたが、国際基準に倣って6週間以上となるそうです。

🔷議論の尽きないコリン性蕁麻疹~複雑な病態とその治療 青島正浩 先生(浜松医科大学)
コリン性蕁麻疹は個疹が点状の小さな膨疹、紅斑であり、運動や入浴、精神的緊張などの発汗刺激で生じます。いくつかの亜型に分類されますが、大きくは汗アレルギーの有無、発汗異常の有無によって2型に分類されます。
汗アレルギーのあるタイプでは、アセチルコリンによって発汗が促され、汗管閉塞などによって汗が真皮に漏れ出して蕁麻疹が生じると考えられています。一方発汗低下を伴う減汗性コリン性蕁麻疹では、エクリン汗腺上皮細胞のアセチルコリン受容体発現が低下しているために減汗となり、蕁麻疹が生じると考えられています。治療は両者で異なり、前者では抗ヒスタミン剤、漢方薬などを使用します。発汗で悪化しますのでそれを避けるように指導します。後者ではステロイドパルス療法が適応となります。汗で改善するために発汗訓練なども行われます。検査はヨー素デンプンを使用した発汗テストを行いますが、専用の部屋などが必要で一部の専門医療機関で施行されているようです。

🔷血管性浮腫の診断と治療 猪又直子 先生(横浜市立大学)
血管性浮腫は蕁麻疹と同様に血管透過性の亢進によって皮膚や粘膜が一過性に腫れます。蕁麻疹様の赤み、痒みを伴うものと、むくみ(浮腫)のみの場合があります。
蕁麻疹類似の機序で生じるマスト細胞メディエータ起因性と、ブラジキニン起因性に分類されます。後者には遺伝性血管性浮腫(HAE)、後天性AE、アンギオテンシン転換酵素阻害薬などが含まれています。治療法はタイプ、重症度で大きく変わってきます。近年カリクレインーキニン経路をターゲットにした薬剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、C1NH濃縮製剤の自己投与などの選択肢が増えてくる予想があります。
(当ブログの2013.6.16 蕁麻疹(5)血管性浮腫も参考にして下さい。)

🔷蕁麻疹治療における新規導入薬 千貫祐子 森田栄伸 先生(島根大学)
蕁麻疹治療の基本は非鎮静性抗ヒスタミン薬です。いわゆる第2世代の抗ヒスタミン薬です。眠気の強い第1世代の抗ヒスタミン薬は次第に避けられるようになっています。
臨床医が抗ヒスタミン薬を選択する基準は種々ありますが、効果、眠気などの副作用、効果発現の早さ、効果持続時間などによって使い分けられています。それには薬剤の最高血中濃度到達時間(Tmax)や血中濃度半減期(T1/2)、薬剤の構造式なども勘案されます。
第2世代の中ではザジテン、ゼスラン(ニポラジン)などは比較的第1世代に近い薬剤です。第2世代の中でも、効果重視の薬剤がアレロック、セチリジン、ザイザルなどです。中間型がタリオン、エバステル、アレジオン、眠気重視の薬剤がアレグラ、クラリチンといえます。(あくまで相対的な仕分けですが)。
2016年11月に三環系のデスロラタジン(デザレックス)とピペリジン系のビラスチン(ビラノア)が同時に発売になりました。両剤ともに1日1回服用で、眠気が少なく効果は比較的高い傾向にあります。デザレックスはクラリチンの活性代謝産物を成分としているので両者は似ていますが、効果発現時間は速いといえます。
デザレックスとビラノアは比較的似た傾向の薬剤ですが、多少の使い方の違いがあります。デザレックスは食事の影響は受けないので任意のタイミングで服用できますが、ビラノアは食後に服用すると血中濃度が下がるので空腹時使用という指示があります。また年齢制限があり、使用対象はデザレックスは12歳以上、ビラノアは15歳以上です。一方効果の強さはややビラノアの方が強いという調査があります。
いずれも新薬ですので、1年間は2週間以内の処方というしばりがあります。抗ヒスタミン薬には適宜増量という記載があり、2倍量を使用できる薬剤も多いのですが、この2剤についてはその記載がなく、増量はできません。
また難治性の慢性特発性蕁麻疹に対して抗IgE抗体療法(オマリズマブ)の臨床試験が行われて、その有効性、安全性が確認され、本邦でも保険適応の運びとなりました。

*オマリズマブ(omalizumab)の作用
即時型アレルギー反応を起こす蕁麻疹は、マスト細胞(肥満細胞)上の高親和性IgE受容体(FcεRI)に抗原が特異的IgEに結合し、2つの受容体分子が抗IgE抗体によって架橋することによって活性化します。そしてヒスタミンなどのケミカルメディエーターを細胞外に放出して蕁麻疹を発症します。オマリズマブはFab領域の抗原結合部以外のアミノ酸配列をヒト化した抗ヒトIgEモノクローナル抗体で、IgEが受容体に結合する部分(Cε3ドメイン)に結合します。そのためにすでに受容体に結合したIgEには結合せずに、フリーのIgEが受容体に結合することを阻害します。細胞表面でIgEが結合しない受容体は徐々に細胞内に取り込まれるために、即時型反応も減少していきます(下図 参照)。
*慢性蕁麻疹に対する効果
様々な臨床治験がなされ、オマリズマブはマスト細胞以外に病態の中心を持つ遺伝性血管性浮腫などの特殊な病型を除いて、ほぼすべての蕁麻疹の病型に対して効果が期待できるそうです。ただし、適応症は特発性の慢性蕁麻疹に限られています。1回の投与効果は4週間程度にとどまり、治療を中止すると徐々に症状が戻るとのこと。また抗体製剤なので薬価は高価です。
薬剤名               薬価
ゾレア皮下注用150㎎……………45578.0円(150㎎1瓶)
ゾレア皮下注用 75㎎……………23128.0円(75㎎1瓶)
効能又は効果
特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)
用法及び用量
特発性の慢性蕁麻疹
通常、成人及び12歳以上の小児にはオマリズマブ(遺伝子組み換え)として1回300㎎を4週間毎に皮下に注射する。
承認取得日:
2017年3月24日
製造販売:
ノバルティス ファーマ株式会社

日本皮膚科学会のオマリズマブ(ゾレア)使用可能施設についての注意喚起
日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン作成委員会では、オマリズマブ(ゾレア)が生物学的製剤の1つであることを鑑み、適正使用を推薦する視点から、蕁麻疹に対する本質の使用を当分の間、次の様に限定するように注意喚起いたします。
「皮膚科専門医またはアレルギー専門医が、喘息およびアナフィラキシーに対応できる医療施設で使用すること」
平成29年5月12日 日本皮膚科学会

参考文献
秀 道広: 抗IgE抗体による難治性蕁麻疹の治療. 臨床皮膚科 71(5増):180-182,2017

 参考文献より

小児の急性発疹症

 神戸の日臨皮での薬疹のシンポジウムから。
小児の急性発疹症は小児科へも皮膚科へも受診があります。疾患も両科にまたがるケースも多く、日常診療で対応に苦慮するケースもあります。小児科の立場からの重要事項の解説がありました。

 小児の急性発疹症への対応策~小児科医の立場から  (中野貴司先生 川崎医科大学 小児科 教授)

 症状を軽減させる治療は最も重要ですが、家族が理解・満足できるような説明を心掛けることの重要性を述べられました。
小児の急性発疹症では感染症が多いことが特徴です。勿論、前回までに述べたように薬疹もみられますし、鑑別が重要になってきます。

🔷症状が多彩で、短期間で発疹の性情が変化する
 例えば、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS: staphylococcal scalded skin syndrome)は乳児に好発しますが、しばしば短期間、短時間で発疹のの性情が大きく変化します。口囲の発疹(放射状亀裂、びらん、眼脂など)が半日で全身に拡大することもざらです。菌の出すexfoliative toxin(表皮剥奪毒素)が血中から全身にまわり全身に紅斑、水疱、表皮剥離を生じるからです。家族にその可能性を伝えておかないと、急激な変化、重症化にショックを受けて、治療、医師に対する不信感につながることもあります。

🔷合併症、後遺症が残りうる疾患
これらは成人以上に懸念されることが多く、告知、合併症の説明が遅れると、そのことが予後に悪影響を及ぼしたのではないかと憂慮する家族は多いです。
A群溶連菌感染症の急性糸球体腎炎や、リウマチ熱、IgA血管炎による腎合併症、川崎病による冠動脈瘤などが該当します。
(これらは小児科でみる疾患ですが、皮膚症状は当然皮膚科に来ます。簡単に下記に述べます。
*A群溶連菌感染症・・・いわゆる猩紅熱(以前は届け出が必要だったために同名は避ける傾向がありました。)高熱、咽頭痛、口囲蒼白、苺状舌、全身の紅斑を主症状とします。発疹は頚部、腋窩、鼠径部、大腿などの屈曲部から全身に拡大します。毛包性紅色丘疹で、ざらざらした感があります。頬が真っ赤になり、口囲は白くなる、いわゆる猩紅熱顔貌を呈します。関節部では皺に沿って線状に皮疹ができ、時に点状出血、水疱もみます。舌は白苔(白色苺状舌)を呈し、これがはがれると赤色苺状舌を呈します。1週間程度で暗赤色となり、落屑となります。手足は時に膜様に皮むけします。ペニシリン系抗生剤を少なくとも10日間使用。急性糸球体腎炎(10~15%),リウマチ熱(0.3~3%)。
A群溶連菌感染症には稀に劇症型といわれ、重篤な経過をたどるものがあります。(いわゆる人食いバクテリア)。最近菌の遺伝子変異によることが分かってきていますが、免疫低下などの要因も想定されています。
*IgA血管炎・・・(アナフィラクトイド紫斑、ヘノッホ・シェンライン紫斑)。頭痛、発熱、関節痛などを伴って主に下肢に点状~爪甲大の紫斑を生じます。発症後6か月間は糸球体腎炎のリスクがあります。定期的な尿検査を要します。特に血尿に蛋白尿を伴うケースでは要注意です。
*川崎病(急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)・・・原因不明の発熱、皮膚粘膜病変、リンパ節腫脹、中型血管炎を主徴とする疾患。溶連菌、ブドウ球菌、EBウイルスなどの関連が想定されています。
39度前後の高熱が5日以上持続。眼球結膜充血。(ウサギの目の様と形容されます。)頚部リンパ節腫脹。口唇の発赤、乾燥、亀裂。苺状舌と口腔粘膜の発赤。手足の硬性浮腫・紅斑、テカテカ・パンパンに腫れる。回復期には手袋状に皮むけ、膜様落屑。第2~4病日より体に不定形発疹(多形紅斑、麻疹、風疹、猩紅熱、じんましんなど様々に似た発疹)、BCG接種部位の発赤、時に水疱(これは他の疾患ではみないので特異的)。急性期に70~80%に心臓障害(心雑音、不整脈など)、ごく稀に突然死、心筋梗塞。発熱が11日以上持続すると冠動脈瘤を発生し易い。アスピリンを主体とした抗炎症療法、大量γーグロブリン点滴による冠動脈瘤の抑制など。
(ちなみに発見者の川崎富作先生は千葉大学の出身で、かつて発見に至る苦労話をお聴きしました。原因は不明ながら全身性に中型の血管を侵す血管炎で日本人をはじめアジア人で多くみられるようです。全身臓器を対象とする血管炎のChapel Hill分類が1994年に提唱され、2012年にはその改訂版が提唱されました。人名を冠した疾患名(Eponym)を廃止する方向で改正が行われ、Wegener肉芽腫症、Churg-Strauss症候群、Henoch-Schonlein症候群は原則なくなりました。その中にあって日本人の名を冠した高安動脈炎、川崎病は残りました。日本人学者の希望もあったようですが、何か誇らしい感じを受けます。ーーー余談でした。)

🔷感染伝播が問題となる疾患
*妊婦への影響・・・風疹、伝染性紅斑(リンゴ病)、水痘 これらは原因ウイルスが胎児異常をきたす可能性があるために、診断、説明は慎重に行う必要性があります。
*基礎疾患のあるケース・・・麻疹、水痘は白血病などの基礎疾患、免疫抑制状態であると重症化します。
*集団生活での対処の注意・・・小児の感染性発疹症は学校保健安全法施行規則によって出席停止期間が定められている疾患も多いです。
(一部抜粋)
出席停止の期間
麻疹・・・解熱後3日を経過するまで
風疹・・・発疹が消失するまで
水痘(みずぼうそう)・・・全ての発疹が痂皮化するまで
ちなみに
手足口病・・・口内の発疹で食事がとりにくい、発熱、体がだるい、下痢、頭痛などの症状がなければ、学校を休む必要はありません。
伝染性紅斑(りんご病)・・・顔が赤くなり、腕や腿、体に発疹が出たときは、すでにうつる力が弱まっていることから、発熱、関節痛などの症状がなく、本人が元気であれば、学校を休む必要はありません。
伝染性膿痂疹(とびひ)・・・病変が広範囲の場合や全身症状のある場合は学校を休んでの治療を必要とすることがありますが、病変部を外用処置して、きちんと覆ってあれば、学校を休む必要はありません。

近年、予防接種の普及によって、疾患構造は大きく変化してきました。麻疹は土着株ウイルス(D型、H型)の伝播は断ち切られました。(2015年WHOにより認定)。しかしながら報道にもあるように外来株(B3型)による集団感染は散見されます。ワクチン未接種者、1回接種者を中心に感染し、2回接種者が多い年代は少ない傾向です。従って0~4歳と20~30歳代に多い傾向です。麻疹患者の激減に伴い小児科医サイドの問題として(皮膚科医も)1例の麻疹も診察しないままに専門医となる小児科医が増え、麻疹と薬疹とが誤診されるケースが散見されます。
修飾麻疹・・・ワクチン1回接種しても十分な免疫がえられなかったり、抗体価が減弱した場合に生じる軽症麻疹でコプリック斑もみられない。
異型麻疹・・・1960年代に用いられた不活化ワクチン(Kワクチン)接種後の麻疹で現在はほぼみられない。紅斑、紫斑、丘疹を多発し、肺炎など重症化した。コプリック斑はみられない。
麻疹IgM抗体は非特異陽性があり、突発性発疹、伝染性紅斑、デング熱などで弱陽性になります。また麻疹でも発疹3日目までは陰性です。
上記のように、麻疹が広くみられないこと、しかし輸入感染症として時に集団発生すること、修飾麻疹の比率が多くなっていてコプリック斑も見られないこと、皮疹も典型的でないこと、IgM抗体検査の不確実なことなどを考えると血液、咽頭ぬぐい液、尿からのウイルスの検出(RT-PCR)が必要かと思われます。
水痘についても、水痘ワクチンが2014年10月から定期接種となり、水痘患者が激減しました。疾患構造も変化し 、しばらくは帯状疱疹患者が増えることも予想されます。ワクチン接種済みの水痘患者も時に見られ、軽症で発疹の性情も典型的でない場合もあります。
このように、必ずしも典型的でない麻疹、水痘なども見られることから、より慎重な診断、対応が求められます。

薬疹と感染症

 すでに賞味期限切れかも知れませんが、先日の神戸での日臨皮総会の続きです。
薬疹のセッションを覗いてみました。それぞれの演題を通して、薬疹と感染症との鑑別の重要性、困難さ、はたまた細菌、ウイルスと薬疹の密接かつ微妙な関連が話題となっていました。
感染症と薬疹の関係は本当に難しく、奥深いテーマです。個人的には永遠のテーマかとも思います。
 この関係については、ごく初歩的なものから非常に困難な、現在の最先端の医学でも解明できていないものまであるかと思います。
例えていえば、”とびひ”を薬疹と診断したり、”水ぼうそう”(水痘)を薬疹と診断したりするのは前者でしょう。
 しかし、これも時期によっては診断が難しく、ごく初期の水痘は虫刺されと区別がつきません。また”とびひ”などのブドウ球菌性感染症もSSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)やブドウ球菌毒素性ショック症候群となるとSJS/TENなどの重症薬疹との区別が難しいこともあり、重症薬疹のガイドラインではSSSSを除外することは重要な項目の1つとなっているほどです。
診断がついてしまえば、なんでわからなかったと非難されることもありますが、「後医は名医」という言葉もあります。出来上がった皮疹なら簡単に診断できることもあります。
 さらに、困難な、いわば上級編の感染症と薬疹の関係もあります。麻疹(はしか)と伝染性単核球症、DIHS(薬剤性過敏症候群)との区別は時に困難です。会場からは麻疹はコプリック斑などをみれば確実に診断できる、はなから薬疹との鑑別が困難と決めつけるのは如何なものかと思う、との意見もありましたが、確かに専門医でも困難な例はあるようです。コプリック斑も明確でない、IgMは時とし偽陽性を示す、皮疹の分布、白血球数、発熱も典型的でない、特に単回予防接種後の修飾麻疹では難しいことを専門の先生が述べていました。ウイルス抗体価検査は、1回、1種類の検査では確定診断できず、ウイルス間の交叉反応もあり却って誤診する危険性もあります。
さらに、DIHSのウイルスと薬疹の関係、HIV患者での薬疹、GVHDにおける発疹、ヘリコバクター・ピロリでの除菌後の薬疹、ピロリ菌そのものの関与などになるともう、感染症、薬疹が両者とも密接にからみあった病態ともいえる程です。
 これらは専門の先生の話を聴いても完全に理解するのはかなり難しい感があります。細かく書き写しても一般的にはあまり意味はなさそうです。ただ、外来診療において急性の全身性の発疹のある患者さんを前にしてよく「原因は何ですか?」「うつりますか?」と聞かれ、なかなかすっきりした答えができないなかには上記のようなとても難しい背景が隠れていることも理解してほしいのです。(最近では、風疹、麻疹だけでは話は終わりません。皆さんご存知のように、突発疹 、デング熱、チクングニア熱、ジカ熱もあります。聞いたことも無いようなウイルス感染症の報告も有ります。実臨床では原因の特定できていないウイルス性発疹症は結構有るのだと思います。それでも原因は何ですかと、仰るお母さんもあります。抗体価を調べられないことはないけれど2週間ごとのペア血清の採血が必要で全部やると保険はきかないので数万円もかかります、しかもその頃には治っていますというとやめますと仰います。)

中でも小児の急性発疹症で急性ウイルス性発疹症の種類の多さ、原因ウイルスの同定の難しさ、細菌感染症、さらに川崎病などと薬疹の鑑別診断の難しさ、多彩さを考えるとさらにその感が増します。
そこいらの鑑別、対応が非常に難しいながら、日常的によく遭遇し、対応を誤ると後々トラブルにもなりかねない小児急性発疹症のエキスパートの講演内容は次回に。

オテズラ始動

オテズラ錠発売記念講演会が東京のホテルで開催されました。乾癬を診療している皮膚科の医師500名余を全国から集めての記念講演会で25年ぶりの乾癬の内服治療薬の登場とあってセルジーン株式会社の熱の入れようも相当なものでした。このところ乾癬治療は生物学的製剤の相次ぐ登場で、バイオ時代とも呼ばれますが、使用出来るのは大学病院などの基幹病院で、開業医は蚊帳の外の感がありました。勿論、病診連携がうたわれてはいますが、大学などに患者さんを紹介して後は、その後の治療をお願いしたまま経過はみないような、なかなか開業医には敷居が高い薬剤という思いでした。久しぶりに開業医でも難治性の乾癬の治療に参画出来る感があります。

講演は、次のような内容でした。
🔷講演1 
「乾癬ジャーニーへの旅立ち」 森田明理先生(名古屋市立大学)
乾癬の治療の歴史的な流れと、オテズラの皮膚だけではなく、関節症状、quality of life(QOL)、難治性部位(頭部、手、爪など)に対する適応への可能性、有効性のイントロダクションとオーバービューでした。

🔷講演2
「製品プロファイル」
➊ アプレミラストの製品特性 飯塚 一先生(札幌乾癬研究所/旭川医科大学)
オテズラのPDE4阻害剤としての作用メカニズムの基礎的な解説でした。極めて基礎的で、小生の頭では理解できませんでした。
要約すると乾癬はTh17 (γδTh17, ILC3)性疾患で、さらにTreg(制御性T細胞)の機能不全が生じている。
cAMPはTregの発現を上昇することによって、過剰なTh17の発現を抑制する。PDE4はcAMPを不活性型のAMPに分解する酵素です。経口PDE4阻害剤であるオテズラはPDE4を阻害し、細胞内cAMP濃度を上昇させます。先の原理によってTh17の発現を抑制し、乾癬の炎症を抑えて、乾癬に効くという理論です。
TGF-β,PKA,CREB,IL-6,STAT3,RORγtなどもでてきましたが、その流れはよく理解できませんでした。(以前慶応の吉村先生の話を聞いてもやはりついていけませんでした。でも性懲りもなく、仙台の日本皮膚科学会のシグナル伝達の講演を聴きにいく予定ですが。)
上記以外にも「今日は時間が限られているので、免疫細胞(Treg)だけを話しましたが、実はcAMPは表皮細胞(の増殖)にも働いているのです。」とのことで実際のメカニズムはさらに複雑そうです。最後に座長の根本 治先生の「cAMPはセカンドメッセンジャーとして作用しているのですね。」の言葉で何となく納得、安心したような気になりました。
➋アプレミラストの臨床成績 今福信一先生(福岡大学)
海外の臨床成績のオーバービューをされました。16週でのPASI75達成率は33.1%,NAPSIスコア変化率(爪乾癬の症状)は-22.5% ,ScPGAスコア0/1達成率(頭皮乾癬の改善)46.5%,VAS(痒みの改善)2週目から-30~40%, DLQI(皮膚疾患に特有なQOLの改善)16週で-6.6点、PALACE-1試験(関節症性乾癬)でACR20達成率は-38.1%でした。
投与16週でのPASI75達成率は日本人でも28.2%と海外と似たような改善率を示しました。
さらに最近の海外報告ではESTEEM-1,2試験で156週の長期投与においても重篤な副作用の報告はありませんでした。
軽度の副作用は感染症と消化器症状ですが、吐き気、下痢などの副作用はむしろ薬理作用といってもよいものです。大部分はコントロール可能なものです。

🔷特別講演
John Koo 先生(UCSF Medical Center)
元々精神科を専攻された先生ですが、皮膚科では乾癬の外用剤、光線療法に造詣が深く、週日のビタミンD3製剤、週末だけのデルモベート外用剤(strongest)を使用するsequential therapyを提唱して、ステロイド剤、ビタミンD3合剤の先駆けを作ったともいえる先生です。中国系アメリカ人で小学校まで日本に住んでいたとあって、日本語は堪能で、現在はサンフランシスコにいながら漫画本、DVDなどで日本語を維持しているそうです。そういったことで、日本にもよく招待されている先生です。所々変な日本語はありますが、ほぼ完璧な日本語の講演で楽でした。
本人の使用経験を基にしながら、オテズラのオーバービューをされました。精神科、臨床心理学などの素養をベースに患者サイドにたった、患者の心理や希望を踏まえた上でのオテズラの使い方(doctor center practiceからpatient satisfactory practice medicationへ) のノウハウを教えていただきました。またアメリカの医療保険事情も、ざっくばらんに話され、非常に興味深く、参考になりました。しかしながら、当然彼我の医療保険、行政の違いからオテズラについても使用法など多少の違いがあり、そこは参考程度に留めて日本の使用法を遵守するのが必要かと感じました。
【オテズラの特徴】
*内服薬であること
*検査(採血、レントゲン検査、結核、癌に対する検査など)一切不要
米国では下手に検査すると、その後その異常で後に問題になったら、放置していたと責任問題(訴訟)になりうる、それならEBMで検査不要のオテズラに敢えて検査をして、後でクレームになることは避けたが無難。
*「免疫抑制」との表示がなく、生物学的製剤やその他の免疫抑制剤より、受け入れられ易い。米国では免疫抑制とか、副作用に過敏に反応し、嫌がる傾向がある。最近PASI clearなど劇的に効くバイオ製剤を差し置いて、オテズラが非常に好まれ使われ、宣伝も盛ん。
*それ程効かないが、それでもバイオ製剤のエタネルセプト(エンブレル)とほぼ同等の効果がある。
*副作用は下痢、吐き気、頭痛が主。
*関節症性乾癬にも効く。
*頭部、手、足、爪などの難治部位の乾癬にも効く。
*2つのインパクトがあった。1つは生物学的製剤を使うほどの重症例でもオテズラが役立った。長期の注射、癌、結核などの感染症への不安、精神的な心配からなかなかバイオ製剤に踏み出せず、医師側の患者への説明も長い時間がかかった。それでも多くは拒否された。オテズラはその高いバリアを非常に下げた。オテズラなら飲むか、それで大丈夫ならバイオもトライするか、という心理的な負担の減少がみられた。(ice breaking effect)。
もう一つはオテズラはほぼ全ての多剤との併用が可能であり、また相乗効果がある。バイオとの併用も可能。(保険でカバーできるかどうかは別問題)。
*注射の嫌いな人(needle-phobia)に向いている。
*途中で投薬を中断しても、リバウンドはほとんどない。勿論徐々に悪化して元に戻っていくが、再開してもまた効く。さらに2度目は腸が慣れているので、スターターパックは不要。
*オテズラは早く効く人(fast responder)と遅く効く人(slow responder)がある。
*副作用、特に下痢への対応が成功の鍵。前もって十分に起こりうる副作用を説明しておけば、患者はパニックにならない。後から説明すると言い訳となり不信感を増す。スターターパックを活用する。必要ならそれを2つ、3つ使用してゆっくり増量していく。あるいはpill cutter(錠剤をカットする器具)を利用して2分割、4分割として少量から増量する。(日本ではこれは認められていませんのでカットしないで下さい。--- 会社からの回答)。ビスマスなどのOTC製剤を使用させる。日本ではビオフェルミン、ラックB,正露丸などが良いとの医師からの報告あり。下痢があっても少量でも続ける。耐えられる量まで落として続ければいずれ慣れる。そしたら徐々に増量する。無理に我慢すると挫折する。
【使用方法への質問】
*増量は可能か?・・・米国では150Kg超の体重の人はざらにいる。増量すれば効くでしょうが、下痢、吐き気も増すでしょう。それよりも保険会社が支払わない。
*小児に使えるか?・・・米国では18歳以上となっている。日本では「低出生体重児、新生児、乳児、及び小児に対する安全性は確率していない。」との記載があるが何歳以下はダメとの記載はない。むしろファジーで使えるかもしれないが、今後の検討事項とのこと。米国では現在phaseⅡ、Ⅲのトライアルが進行中で12-18歳、6-12歳の結果がそのうちでてくる予定と。(メーカー米国担当者よりの回答)
*妊婦へは使えるか?・・・米国ではFDAでランクCに位置づけられており、妊婦へも使用可能。但し、日本では使用禁忌です。

🔷パネルディスカッション
乾癬の専門家の先生方によるオテズラについての討論が行われました。
John Koo先生(UCSF Medical Center) 今福信一先生(福岡大学) 五十嵐敦之先生(NTT東日本関東病院) 安部正敏先生(札幌皮膚科クリニック) 小宮根真弓先生(自治医科大学)
様々な討論の中で参考となるものの抜粋
【これまでの乾癬の治療の実態と課題】
外用剤も配合剤が発売され、光線療法(ナローバンドUVB,エキシマランプ)、チガソン、シクロスポリン、生物学的製剤と治療の選択肢は大きく拡大し、乾癬治療は近年長足の発展を遂げた。しかしなかなか満足できる域までは達していない。オテズラはunmet needs(満たされない要求)に答えてくれる使いやすい薬剤と思われる。
安全な薬剤で、クリニックレベルでも使える内服薬だが、どう安全に使っていくか、が重要。
治療は確かに長足の進歩を遂げてきているが、医師と患者の考えのギャップがある。患者満足度は必ずしも高くないのがアンケート調査でみてとれる。重症でも全身療法を受けていない人が1割もいる。また多くの人は軽症(4割以上)だが、これらの患者さんは、バイオの恩恵は受けていない。今まで痒みは医師の目に触れないためにPASIの項目にも入っておらず、盲点だったが意外とQOLを障害する。オテズラは早期から痒みに効くことでQOLの改善に役立つ。
【新たな選択肢が乾癬治療に与えるインパクト】
重症の患者さんは、今までは光線療法、シクロスポリン、バイオなど主に基幹病院でなされるという制約があった。オテズラは入院も必要なく、敷居が低く誰でも使える(皮膚科医も患者も)ようになった。
そして、シクロスポリンでもMTXでもバイオでもいろいろな要因で使いづらい患者さんが大病院でもたまってきていた。オテズラはそういう患者への希望となりうる。保険での使用範囲内かどうかを度外視すれば生物学的製剤など他剤との併用が多く可能である。
【今後の乾癬治療のアルゴリズム予測】
乾癬のピラミッド計画(飯塚)の中間、第2-4段の紫外線、チガソン、シクロスポリンなどからの変更、またオテズラからこれらへの移行などの位置づけとなりうる。米国ではなるべく安全な治療を先に提供するのが普通の考えであり、免疫抑制もなく、定期的な副作用検査も不要なオテズラは広く受け入れられ易い素地があった。現在多くの患者が使用し始めて爆発的に売れている。日本ではどうなるか?
乾癬治療は外用から生物学的製剤まで広いスペックがある。例えていえば、コンピューターの世界に置き換えられる。生物学的製剤をハイスペックなコンピューターとすれば、オテズラはエントリーモデルに位置付けてもよい。入りやすく、使いやすい。
【今後、日本の乾癬治療の目指すべきゴールと新薬への期待】
オテズラは中等症の乾癬の治療に対して、バランスがとれた安全性の高い薬剤で、併用が可能。
副作用も156週もの長期検討でも重篤なものはなかった。
*悪性腫瘍の発生率の増加はなかった。
*感染症でも重篤なものは見られなかった。上気道感染、細菌感染症などがみられるが軽度。
*妊婦への使用について
オテズラは構造式でサリドマイドやポマリドミドなどの化学構造を構成しているフタルイミド基を含む化合物。しかし催奇形性を有するのはグルタルイミド基とされる。オテズラはグルタルイミド基を持っていない。したがって、米国では妊婦への使用も認められてはいる。
臨床試験では催奇形性は認められていない。しかし、「マウスで臨床用量の2.3倍に相当する用量で早期吸収胚数及び着床後胚損失率の増加、胎児体重の減少、骨化遅延が、サルで臨床用量の2.1倍に相当する用量で流産が認められており、ヒトにおいて胚胎児毒性を引き起こす可能性が否定できない」と添付文書に記載がある。
従って、日本では妊婦への使用は禁忌‼️。

オテズラは安全に使用できて、中等度の乾癬への効果が期待できる新規薬剤です。
しかし、クロージングの挨拶で大槻マミ太郎先生がいみじくも述べられていたように、全ての患者さんに効く訳ではありませんし、使ってみないと効果のある人か否かも分かっていません。それに、やはり生物学的製剤と比較すると効果は劣ります。
胃腸症状などの初期対応に失敗すると、悪い印象を与えてしまい医師への信頼感も薬への信頼感もなくして治療全体への意欲も落としかねません。
十分に薬剤を知り、慎重に適応を判断して使うことが求められています。そして乾癬の専門病院への紹介が遅れて適切な治療の機会を失うことのないような心がけが必要となります。

Ueli Steckの死

先月末に著名なアルピニストがヒマラヤで遭難死したというニュースはテレビや一般紙でも報道されたのでご存じの方もおられるかと思います。その死に驚き戸惑うところがあって、一寸関連の報道を調べてみました。
不世出のアルピニスト、クライマーで「スイス・マシーン」とも呼ばれた登山家Ueli Steck(ウーリースティック)です。
小生がその名前を知ったのはそれ程前ではありません。確か昨年あたりある山のブログ「月山で2時間もたない男とはつきあうな!」の中の記事をみていて偶然知ったのだと記憶しています。とにかく信じられない程難しい岩壁を信じられないスピードで単独で登る人のようでした。あの難関のアイガー北壁をたったの2時間半で登る? 最初は20時間の間違いだろうと思いました。You Tubeでの駆け足のように登る画像を見てあまりのすごさにまともな反応もできませんでした。昔のレジェンド達の壮絶な悪戦苦闘、遭難を経てきた北壁の歴史を軽んじられているようで、あまりすんなり肯定的には受け取れなかったようにも思います。
You Tubeなどの画像やとてつもなく超絶で派手な記録などをみると、一見命知らずの無鉄砲なソロクライマーでいずれはこうなったろうとの意見もありますが、彼をよく知る山の一流の人々は彼への賛辞と追悼の言葉を連ねていて、その暖かく、思慮深い人柄が偲ばれ決して単なる機械人間ではなかったのだとわかります。
その中から代表的な寄稿をいくつか。
【ラインホルト メスナー】
アルピニズムのゴッドファーザーとも呼ばれる人の彼への感慨(スイスのNZZ紙のインタビュー)
彼ほどの実績と経験を積んだ人の遭難は驚きです。
[Nuptseは彼の実力からするとそれ程難関でもない?]・・・多分北壁を目指したのだと思います。そこは決して楽なルートではありませんし過小評価すべきところではありません。ただなぜ彼がNupsteを最初に目指したのか釈然としません。唯一考えられるのはヌプツェ、ローツェ、エベレストの頂上を繋ぐいわゆるhorseshoe(馬蹄形)の縦走を同時に狙っていたのではないかと。それは多くのアルピニストの夢でもあります。
[彼はそれを公言してはいませんでしたが。]・・・我々は当初には控え目にしか公言しません。そしてより野心的な成果を果たせば公表する傾向があります。horseshoeは極端に困難なルートで誰も成功していません。もし、それを成し遂げることが出来るとすればそれはウーリースティックその人だったでしょう。
[ウーリースティックは限界に挑み、多くのリスクを負っていました。彼はそれを超えた?]・・・それは正しいか間違った決断かという質問ではないでしょう。むしろ可能か不可能かということかと思います。そして彼は以前不可能であったことを可能にする人でした。私の時代ではアイガー北壁登攀の最速は10時間でした。2時間23分というのは実に果てしない記録です。彼は常に大胆な野望を抱き続け着実にそれを実現してきました。それ故に私は彼を尊敬します。しかし私は彼のスピードクライミングの追求にはそれ程惹きつけられていません。
[なぜ?]・・・私にとっては誰かがアイガー北壁を10時間で登ろうが、3時間で登ろうが重要なことではありません。それよりも彼が一夏でアルプスの4000m超えの82ピーク全てを登りきった方がより印象的です。この15年間彼のスポーツにおける影響力は本質的です。
[貴方はかつて優れたアルピニストは生き残るチャンスを増やすためにはより強くより速くなければならないと言っていました。ウーリーは単に速いばかりではなく、極端に速かった。それで危険性が 増したという、あなたの理論に対して挑戦するようなことは考えられませんか?]・・・アイガーの壁でウーリーが登っているのを目撃した人は誰もが彼の行動は常にコントロール下に置かれていたことを知っているでしょう。彼は常に正確で安全に行動していました。しかしながら一定のリスクの要因は残ります。もしアイガーの壁の上方から大きな岩が落下してきて当たったら登山者は墜死するでしょう。それは基本的なルールです。しかし人は出来うる限りのことをするしかありません。それはすなわち人はその個人の限界の少し内側に留まるべきであるということです。そしてその限界が何処にあるかはクライマー自身のみ知りうることです。他の人がリスクに対して審判すべきではありません。
[全ての高山が登り尽くされ、全ての北壁が極め尽くされた今日では、エリートアルピニストにとって挑戦とは如何なるものでしょうか? 注目を浴びるために生命を危険に晒すようなプロジェクトを探さなければならないのでしょうか?]・・・
優れたクライマーが今日より少なかったかつては、ある程度真実でしょう。目立つのはより容易だったでしょう。現在では旅行はより容易で手ごろです。多くの人がヒマラヤに手が届きます。またマウンテンスポーツには多くのスポンサーが付き大金が動きます。しかし限界を広げるのならば次の3つのいずれかが要求されます。よりハード(harder)に、より危険に(more dangerous)、より露出して?(more exposed)。経験をつめば人は限界を広げられるでしょう。ウイリースティックこそはそれを常に伸ばし続ける強い情動をもった人だったと確信しています。彼は自分自身に極めて高い基準を設置していました。

【Jon Griffith 】
ウーリー スティックの友人で行動を共にしていた英国のアルピニスト、カメラマンによる彼への心温まる賛辞
今後数週間に亘ってウーリーについて多くの記事が書かれることでしょう。彼は老若男女広い世代を超えて感動させ、かつてこの地球を闊歩していたどの人よりも山を渉猟したかもしれない人でした。しかし私は彼と近しい友人として、兄弟として彼のもう一つの側面を知る特権を持っています。「スイス・マシーン」としての当初の頃から、脚光を浴びてマスメディアに追い回されプレッシャーを感じていた最近までを。彼は常にクライマーとしての自分に真実であろうとすることと、他人へ感銘を与えようとする公人としての立場の中で不可能な狭間を見出そうと試みていました。それは最期の日まで人々を愛していたからです。彼はエゴに満ちたネット世界で謙虚であり、正直な完璧な見本でした。自身の内面に向かい合う人でした。彼は繊細で愛らしい人でそれが彼をして本当の友人たらしめました。私のキャリアと人生は彼への信頼に負うところが大です。彼との限界への登攀を共にしましたが、彼のEmmentalの大工としての内面は不変でした。そして私のシャモニの狭いキッチンテーブルの下で寝て楽しく語らいました。最後の数年はある人々の批判や中傷に心を痛めていました。単に過去に自分自身が経験も見たこともないとの理由で彼を信じられないとする人々からの。エベレストーローツェの横断は世の人々の目に彼の能力を再認識させる登攀でした。それは必要もないことでしたが。この先私の人生にウーリーを象った大きな空隙ができ、大きな喪失感が襲うでしょう。私の娘の成長を見ないこと、大きな笑顔と、輝く瞳を見ないこと、夜遅くまでウォッカを飲みに引っ張り出して彼のトレーニングの予定を邪魔することができないこと、人生や仕事について議論できないことを残念に思います。しかし、最も残念なのは一緒に時を過ごす内に”何でも可能だ”という気にさせる彼の存在とそのエネルギーにもう二度と接することができないことなのです。
世界中から彼への愛のメッセージが注がれるのを見るのは心温まることです。ウーリーは代々のクライマーに大きなレガシーを残すでしょう。彼は将来に見習うべき(登山)スタイルや姿勢を切り開くパイオニアでした。我々の世界に優雅さと謙虚さをもたらしてくれた真の紳士でした。しかし、私は友人としての、わが師表としての彼がいなくなったことを最も悼みます。時が傷をいやし、涙は枯れるでしょう。しかしもう二度と彼と会えず、goodbyeと言う機会がないことがとても信じられず悲しいのです。

これらの寄稿以外にも多くのメッセージや論評も寄せられているようです。多くの賛辞の中にあって、ウーリーについての負の(?)側面も述べられています。「スイス・マシーン」もやや揶揄したような表現ですし、余りにも先鋭的な安全性を確保しない登り方には眉を顰める向きもあり、2013年にエベレストでシェルパの張った固定ロープを無視したことからシェルパとの乱闘事件に発展したとあります。彼はシェルパを尊重しなかったわけではありませんが、彼のいかなるサポートも受けない登山主義は結果的に西欧と現地の登山界に軋轢をきたしたのかもしれません。
彼は通常4枚のカラビナとアイスピック、アイゼン、懸垂下降用ロープ、スイスアーミーナイフ、ボルトレンチしか持ちませんでした。酸素は”false air” “bottled doping”として拒絶していました。それ以上のギアに頼るのは登山の価値を半減するものとしていました。
表面だけみると粗野で無謀なスピード狂のアウトサイダーのようですが、彼をよく知る人、特にソロトップクライマーの評価は非常に高いようです。
彼自身、韓国のマウンテン誌のインタビューに対して、丁寧で謙虚な受け答えをしています。(上述の月山のブログから引用 2016.02.02)
長期的な登山の目標は何ですか?
「重要なのは、最終的にはそのプロセスにあると思います。私の登山は、これまで着実に成長してきたが、いつかはこれ以上進まない瞬間が来ます。遅く、弱くなる過程を喜んで受け入れ、クライミングの別の意味を発見することができたら良いでしょう。おそらく10年以内に、私の登山は、記録よりも冒険の要素がより重要になるでしょう。
 私の目標は、その変化の過程の中で、登山の楽しさを失わないことです。」

彼を生れながらの天才のように言う人もありますが、そのたゆまぬ努力は並大抵のものではなかったそうです。年間に1200回を超えるworkoutをこなし、1日で2000mを上下(3 lap?)する高度順化も相当数こなし続けたそうです。その努力を続けられるのも天才といわれる所以かもしれませんが。
それゆえに2013年には他のパーティーが8日かかったアンナプルナ南壁の7219mを単独で28時間で登って降りています。(2回目のピオレドール受賞)
これからも、彼についての様々な論評がなされるでしょうが、現在の登山界のトップランナーであり、空前絶後の巨星であったように思われます。ピークの瞬間を超えて、円熟期のウーリー スティックを見ることができないのは非常に残念なことのように思われます。

ウーリー自身は、他人との競争ではなく、自分の内なる山への渇望に邁進したのでしょう。しかしながら、後に続くトップクライマーに対してとてつもなく高いスタンダードを残しました。いつの日かこれを越えようとする人がでてくるかもしれません。アイガーやアンアプルナやエベレストをもっと速く、もっと難しいラインを、と。それは限りなく死に近づく試みになってくるのかもしれません。元々登山には危険はつきものですが、将来はどうなっていくのだろうと想像もつきません。

後爪郭部爪刺し、後方陥入爪

日臨皮総会 神戸 の続き
フットケアのセッションでは河合先生がRetronychia(後爪郭部爪刺し)についても陥入爪の中で言及されました。
後爪郭部の炎症の原因は様々あり、日常外来でも時々目にする病態ですが、retronychiaもその一つです。
しかしながらこれについての記載はあまり多くみられません。病名についても1999年初めて海外で報告された新しい概念で、日本名は2011年に東先生が「後爪郭部爪刺し」と邦訳して3例を報告しました。proximal ingrown nailを「後方陥入爪」と邦訳したものもあります。
これについて少し、調べてみました。

Retronychia(proximal ingrown nail)は外傷などが原因で、不完全に脱落した爪甲が、後爪郭部に埋め込まれた状態です。手指爪にも生じますが、最も外力がかかり易い足の第1趾(拇趾)爪に生じやすく、身体活動の盛んな若年層、特に女性に多いとされます。
外力では、ランニング、ダンス、ハイヒール、つま先立ち、つま先座りなど爪先に過度の負担がかかったケースが多いようです。足の形では第1趾が一番長いエジプト型に多くみられる傾向があります。(ちなみに第2趾のほうが長いものはギリシャ型という)。
臨床的な特徴は近位爪甲の肥厚、黄白色化、爪甲が伸びなくなること、後爪郭部の慢性炎症(痛みをとも伴う発赤、腫脹、肉芽腫など)がみられます。
発症機序は以下のように考えられます。特に爪を伸ばした状態でつま先に過度の負荷がかかると、テコの作用により爪の近位端が剥がれます。剥がれた爪は前方に押し出す力は働かずに、爪は遠位端で堅く固着します。下方から新しく伸びる爪は剥がれた古い爪を押し上げ、古い爪の近位端が後爪郭を下から圧迫します。それで、後爪郭部に炎症が生じます。これが繰り返されると、何層にも剥がれた爪が固着して屋根瓦状に重なるケースもあるそうです。
剥がれた爪が脱落しない原因の一つは炎症性の肉芽組織が爪甲を巻き込んで後方に牽引しているからとの説もあります。
治療は新しい爪甲、爪母を傷害しないように注意しながらの爪甲除去術が推奨されます。また手術のあとは正常な爪甲伸長を促すために、趾尖部皮膚を下方に引っ張るテーピング法を併用することが重要です。

参考文献

星 郁里 ほか:Retronychia;proximal ingrown nail(後爪郭部爪刺し)の1例.臨床皮膚科 67:347-352,2013.

上出康二: マルホ皮膚科セミナー 2013年8月1日放送 「第64回日本皮膚科学会西部支部学術大会➂シンポジウム3-2 陥入爪・巻き爪の治療」

 星 郁里 原図

フットケア治療テクニック

神戸の日臨皮総会で大阪皮膚科医会企画「フットケア治療テクニックを極める」というシンポジウムがありました。
◆陥入爪の病因と運動外来の試み  倉片長門 先生
陥入爪の病因
1)爪の欠損(深爪、爪外傷など) 2)足を使わない習慣(車椅子生活など) 3)不適合な靴、誤った履き方
4)遺伝 5)爪白癬など 6)薬剤(エトレチネート、抗ガン剤など) 
上記以外にも骨格異常、筋力低下、関節可動域低下、これらに伴う歩行不整も誘因になっています。ストレッチ、筋力トレーニングなどの運動指導による身体機能の改善が陥入爪の改善、再発予防に重要であることを解説されました。
◆爪甲鉤彎症の対処法  東 禹彦 先生
(肥厚爪・鉤彎爪 2014.12.22も参照してください。)
第1爪に生じることが多いです。爪甲は厚く、硬くなり、表面は牡蠣殻状を、時には山羊の角状を呈します。爪甲は爪床とは剥離した状態なっており、細い紐、糸などは通せます。高齢者に多いものの30歳代にもみられます。見た目や靴が当たって痛いなど生活の質を落とします。第1趾先端の隆起部が爪甲の伸長を妨げるために生じます。治療は隆起部を伸縮性のない布製のテーピングテープで腹側に牽引することです。70歳代以下の患者さんでは抜爪後1年間日中テーピングを行いほぼ軽快、80歳以上の患者さんは爪の削り、平坦化のみを行い改善がみられました。
◆足爪疾患への最良の治療テクニックを目指して!  河合修三 先生
陥入爪で紹介、受診される患者さんは通常治療で難治例が多いです。それらに対しては、爪の弯曲度、爪の幅、重症度を勘案して3TO-VHO爪矯正法かフェノール法でほぼ対応できます。鬼塚法などの手術後に取り残した爪母から生えてくる爪棘に対してもフェノール法で対処できます。爪甲鉤彎症の根治対処法は第一人者の東先生にお任せしますが、フスフレーガーが使用する高機能のグラインダーで肥厚した爪を薄く削り、ニッパーでカットする方法は麻酔も要らず簡単で有用です。グラインダーは鶏眼の芯の硬い部分の除去にも有用です。
また東先生が「後爪郭部爪刺し」と邦訳して報告されたretronychiaについても述べられましたが、これはまた別項で触れたいと思います。

フェノール法に対しては、側爪郭の固定を外すために、東先生や新井先生などは長期的にみると爪変形、爪肥厚などとなり否定的な意見ですが、河合先生の症例では10年後もきれいな例を何例も紹介されました。切除幅を少なく、適切なフェノール処置など術者のテクニック、爪幅の広い例などを選択するなどの医師の診る目などが術後を左右しているのかもしれません。
いずれ専門医のディベートを期待したいところです。

酒さ2017

先日、日本臨床皮膚科医会総会が神戸で開催されました。その中でいくつかのトピックを。
まずは、酒さについて、過去数回ブログにアップしており、繰り返しにはなりますが、今回は日常のtipsを中心に。

酒さでは毎度おなじみの東北大学の山﨑研志先生、菊地克子先生、それに開業医ながら酒さ、ニキビ、スキンケアなどに対し広く講演活動をされている小林美和先生による「がんこな顔面皮疹:脂漏性皮膚炎と酒さの一手・決手」というシンポジウムでした。
◆山﨑研志先生
酒さの自然免疫機構が関与する炎症モデルとしての酒さの病因論は先生の真骨頂ですが、過去に何回もアップしましたので今回は割愛。ただ、その研究を成し遂げたカリフォルニア大学Gallo研究室ではずっと長年に亘って抗菌ペプチドの研究がなされていました。アトピーでは低下、乾癬では上昇などのデータはありましたが、なかなかすっきりしたストーリーとはならず、フレッシュマンにとっても敬遠され、煮詰まったテーマだったそうです。それを敢えて引き受けて酒さにおいて研究し、まとまったストーリーとして確立したのが山﨑先生だったとの逸話は若い研究者にはためになる話だったと思います。
❖酒さの悪化要因はいろいろありますが、夏は湿気、温度が、冬は乾燥、寒暖差が悪さをします。日本には四季がありますが、植林が進み春には杉、秋にはイネ科の花粉症が多くみられます。結構これが悪化要因になっている人も多く、四季を通して顔の調子が悪い人も見られます。また大気汚染(pm2.5なども)、紫外線の影響も無視できません。
❖上記ともかぶりますが、酒さの患者さんをみていると酒さ単独の人はほんの1~2割程度です。その他はアレルギー性皮膚炎、接触皮膚炎などとの合併例とのことです。これらは酒さの診断において除外項目ではありますが、あえて除外する必要はないとのことです。ある時点で診ると、皮膚の状況は異なり医師ごとに診断が異なる⇒医療不信となる⇒ドクターショッピングをする、という経緯を辿ることになります。年間を通して信頼できる主治医にじっくりみてもらう必要性も指摘されました。
❖最近、パーキンソン病に酒さが多いという報告があり、神経疾患と酒さとの関連も考えられています。
❖脂漏性皮膚炎やニキビ(尋常性ざ瘡)との鑑別も問題になり、また合併もみられます。脂漏性皮膚炎では皮表のマラセチア菌が悪影響を及ぼします。マラセチアは脂肪酸合成遺伝子を欠損しており、リパーゼがトリグリセリドを分解しオレイン酸、リノレイン酸を作り角化、炎症を引き起こします。病理学的には脂漏性皮膚炎は表皮を主体にし、酒さは脂腺性毛包周囲の炎症を、ニキビは脂腺性毛包内の炎症を示します。これらは皮表の細菌や真菌の影響をうける疾患ですが、Toll-like receptor 2(TLR2)、Dectinなどの自然免疫機構の関与の解明で病態の解明とその経路を制御することによる治療が進んできています。
◆菊地克子先生
❖頑固な顔面皮疹が治りにくいのは、種々の理由があります。
*本邦で認可された保険治療薬が少ない。
*接触皮膚炎をみのがしたり、可能性が多すぎてをスルー(見て見ぬふりをしたり)することがある。
*上記の原因検索よりも皮膚炎の治療に対し、安易にステロイド、タクロリムス(プロトピック)を使用し、酒さ様皮膚炎をもたらす。
*アトピー素因が隠れていることもある。
❖顔面の皮疹には多くの疾患が含まれています。それを鑑別することが重要です。
・脂漏性皮膚炎 ・乾癬 ・酒さ ・酒さ様皮膚炎 ・接触皮膚炎 ・アトピー性皮膚炎 ・好酸球性膿疱性毛包炎 ・肉芽腫 ・光線過敏性皮膚炎 ・薬剤性皮膚炎 ・真菌症 ・膠原病 ・リンパ腫 などなど
❖口囲皮膚炎と脂漏性皮膚炎との鑑別
決め手は酒さは真皮の疾患なので丘疹、毛細血管拡張が主体で、フラッシングがみられるが、脂漏性皮膚炎は表皮の疾患なので紅斑落屑がみられること。
❖診断のためには、患者さんの普段の化粧行動や習慣のなかに思わぬピットホールが潜んでいる可能性もあるので丁寧に問診して、増悪因子や寛解因子を見出す努力が必要です。パッチテストでは持参した化粧品だけではなく、パッチテストパネルなどのジャパニーズスタンダードアレルゲンを施行することで思わぬ接触源がみつかる場合もあります。
❖何かおかしいと思ったときは皮膚生検などを行ったり、リンパ腫や膠原病などの全身疾患を考えておくことも必要です。唾液腺が腫脹してミクリッツ病であったケースもありました。
❖酒さの治療では外用薬による接触皮膚炎や酒さ様皮膚炎を診ることもあり、そういった場合はリバウンドを避けるために外用薬を中止して短期間プレドニン10㎎程度の内服を行うこともあります。またメトロニダゾールの内服を行うこともあります。海外ではレチノイドが使われますが日本人には刺激が強いようです。
また治療の前提として、慢性の疾患であることを説明し、日々の正しいスキンケアの重要性や増悪因子を避ける重要性を説明します。
❖アトピー性皮膚炎を合併した酒さの人ではプロトピックは使えなくても、小児用プロトピックならば、刺激も少なくニキビも出なく使用できるケースもあります。
❖neurogenic rosaceaといって精神的な要因が引き金になる一群もあります。
◆小林美和先生
❖酒さでは、酒さ様皮膚炎、毛包虫によるざ瘡、脂漏性皮膚炎、更年期障害、カルチノイド症候群、クッシング症候群、肝機能障害によるクモ状血管腫、糖尿病性ルベオーシスなど顔が赤くなる疾患の鑑別が重要です。カルチノイド症候群では顔面の紅斑、フラッシングの他に頭痛、下痢を伴いますのでこのようなケースでは消化器内科へ相談します。
❖脂漏性皮膚炎の治療においては皮表にマラセチアが多数みられる場合があります。マラセチアはディフ クイック2液で短時間に確認することができます。このようなケースではケトコナゾールなどの抗真菌薬が奏功します。一方頭皮の痒みが続く場合は洗髪を見直す必要もあります。最近一部で勧められる”湯シャン”では皮脂はとれません。シャンプー洗髪は必要ですが、シャンプーが合わないという人もいます。実際に成分で接触皮膚炎を起こすケースもありますが、実はシャンプーの仕方がよくないことも多くみられます。洗髪は後頭部、首の後ろからはじめ、前の方へ洗い流します。直にシャンプーを頭皮につけず泡立ててから使います。また爪先で擦らず、指を伸ばして、指腹で優しく洗いますが、洗い残しがないように洗います。乾かすときはドライヤーで素早く乾かします。こういった適切なシャンプーの方法を実践することで、自分に合うシャンプーを探しまわるよりも効果があることもあります。
❖酒さの公式な情報サイトは国内ではあまりありません。海外ではいくつか信頼できる酒さのサイトがあります。
American Academy of DermatologyのRosaceaのサイトでは酒さの詳細な情報が得られますし、関連したサイトも挙げられています。参考にされるとよいと思います。小林先生も最新の情報、治療のヒントはここから得られているとのこと。

SJS/TEN 発症機序

SJS/TEN型薬疹は重症薬疹の代表ともいえる疾患です。
一般的には薬疹は薬剤が外来抗原と体に認識され、免疫反応が起こることによって発症すると考えられています。薬剤及び薬剤の代謝産物が抗原となり得ますが、これら非常に小さな分子であるために、それ自身では抗原とは認識されません。生体内のたんぱく質と結合して初めて抗原性を示します。このような抗原をハプテン抗原と呼びます。
ハプテン抗原は外来抗原を補足する抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)に食べられて、抗原特異的なT細胞に抗原を提示します。
ここから一寸免疫学の基礎的なこ難しい話になりますが、ご容赦を
【HLA】
細胞には自己と非自己を認識し、区別するために主要組織適合抗原(major histocompatibility complex:MHC)があります。ヒトではMHCはヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)とよばれており、HLA class Ⅰ(HLA-A,B,C)とHLA class Ⅱ(HLA-DR,DQ,DP)に分けられています。細胞は細胞表面にクラスⅠ分子とクラスⅡ分子を乗せています。抗原はMHC分子の上に乗った形でT細胞に抗原を提示します。クラスⅠは抗原をCD8+T細胞(細胞障害性T,キラーT細胞)に、クラスⅡはCD4+細胞(ヘルパーT細胞)に提示します。クラスⅠはほぼすべての体細胞に、クラスⅡはマクロファージ、樹状細胞、B細胞といった抗原提示細胞に現れます。
T細胞受容体はある特定のHLAと結合した抗原ペプチドのみを認識して結合し、その他の抗原とは反応しません(HLA拘束性)。
SJS/TENにおいては、特定のHLAを有する人が発症する確率が高いことが分かっています。台湾の漢民族ではHLA-B*15:02を有する人はカルバマゼピンによるSJSの発症頻度は持たない人の2500倍も高いことがわかっており、薬剤使用前にHLAを測定することによって重症薬疹の発症頻度を格段に低下させることができたそうです。但し、日本人ではこのHLAの頻度は非常に低く、薬疹予防のマーカーとしては有用ではないようです。
【発症機序】
SJS/TENの発症機序は完全には解明されていませんが、その中心になるのが細胞障害性T細胞(CD8+T細胞)による免疫反応であるとされています。薬剤特異的CD8+T細胞がMHC-クラスⅠ拘束性に表皮細胞を攻撃して表皮細胞死をもたらし、水疱、びらんをきたします。様々な細胞障害物質(グラニュライシン、パーフォリン、グランザイム、TNF-αなど)が放出され細胞死をもたらすとされます。ただ、それ以外の細胞、CD4+細胞、NK細胞などの関与もあるとされています。とりわけ制御性T細胞の機能不全は重要で、免疫反応のさらなる進展、薬疹の重症化に関与しているとされています。それ以外の機序も種々提唱されているようで、さらなる病態解明は今後の研究に待たれるところです。

特定のHLAを有する個体に特定の重症薬疹が発症し易いことは、上記のカルバマゼピン以外にもアロプリノールでは人種に関係なくHLA-B*58:01がSJS/TEN, DIHSを高率に発症し、HIV治療薬のアバカビルの薬疹は白人ではHLA-B*57:01で高率に発症することがわかっています。
しかし、現時点では重症薬疹のみに関連し、軽症の薬疹には関連しないというHLAの報告はカルバマゼピンにおけるHLA-B*15:02のみとされます。HLAのタイピングは薬疹の発症に関与し、重要な一要因ではありますが、それだけが全てではないようです。将来はGWASや次世代シークエンサーの導入によって薬疹の発症リスクに関連する遺伝子が同定されることが期待されます。

参考文献

筵田泰誠 ファーマコゲノミクスに基づく重症薬疹の発症リスクの予測 日皮会誌:124(13),3087-3089,2014

薬疹の診断と治療アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016
5. 薬疹の重症化をもたらす要因 高橋勇人 p52-59
7. 薬疹の動物モデル 中島沙恵子・椛島健治 p68-74
13. Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の発症機序 阿部理一郎 p118-124

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン 総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 中山書店 2011
18. SJS/TENの発症機序 池澤善郎 p79-89