カテゴリー別アーカイブ: 皮膚疾患

肝斑の治療

先日の、WEB学会でシミ治療のセッションがありました。講師は葛西健一郎先生でした。
本邦のレーザー治療では豊富な実績をもち、シミの治療の本も上梓している専門の先生です。実際の講演会でも何回か聴講したことがあり、明快に単刀直入に話される先生という印象を持っていました。
その先生の話なので、オンデマンドのセミナーを聴講してみました。その時の内容と日皮会誌のセミナリウムの記事を中心に主に肝斑の治療のことについて書いてみます。
肝斑についてはこのブログでも過去に詳しく書きました(2013.11.28)。相当前のものですが、基本的には変わっていないと思いますので臨床症状、組織診断、原因、悪化因子、鑑別診断などの詳細は今回は省きます。
その後2017年7月17日には葛西先生が皮膚科医会でシミの治療について詳しく講演して下さった内容をブログに書きました。重複することも多いかもしれませんが、参考にして下さい。

レーザートーニングの真実
新・皮膚科セミナリウム◎皮膚レーザー治療の常識、非常識 日皮会誌:129(8),1627-1632,2019(令和1) 葛西健一郎(葛西形成外科)
【要旨】肝斑に対するレーザートーニング(LT:低フルエンスQスイッチヤグレーザー治療)は、繰り返し治療続行中には色調軽減効果があるものの、長期予後を改善するエビデンスはない。また、LTの効果発現機序について総合的に説明した論文はない。さらに、LTを受けたことによって、肝斑増悪や難治性白斑形成といった合併症を発症した患者が一定数以上存在する。以上より、肝斑に対するLTは、その作用機序が科学的に説明され、予後を改善することが証明され、副作用を軽減できるプロトコルが完成するまで、一般医療機関では施行しないことが望ましい。日頃から肝斑治療やレーザーに関与していない皮膚科医であっても、LT問題の真実を理解したうえで、患者や学会にたいして適切な行動を取ることが望まれる。

葛西先生の講演の要旨は上記の通りですが、本論内容の補足と自分なりの解釈を若干付け加えて書いてみたいと思います。
疾患には器質的な疾患と、機能的な疾患があるが、代表的な顔のシミ、老人性色素斑、ADM:Acquired dermal melanocytosis(後天性真皮メラノサイトーシス)、肝斑にもそれが当てはまるといいます。すなわち前2者が器質的疾患でそれぞれの責任細胞をレーザーで完全除去すれば完治するが、肝斑は皮膚の異常な炎症亢進とメラニン産生があるものの、責任細胞がないのでレーザーで完治できない。LTでメラノゾームを破壊しても肝斑を治療に導く理由がないと述べています。
(ADMなどに対するQスイッチルビーレーザーの治療についても従来よりも高めのフルエンス(9J/cm2以上)でしっかり照射し、施術後ダウンタイム(絆創膏を貼らなければいけない期間)はしっかりカバーすべきことなどの治療のチップスを述べられましたが、そのことについての詳述は今回は割愛します。

ちなみにシミの診断、治療で本邦の第一人者であった元帝京大学教授の渡辺晋一先生は次のように述べています。
「シミ」を主訴に来院する患者をみてみると、肝斑の患者は少なく、大部分は老人性色素斑あるいは扁平な脂漏性角化症で、なかには遅発性の太田母斑や色素性母斑の場合も少なくない。また化粧品かぶれなどの炎症後色素沈着または固定薬疹などを「シミ」と称する人もいる。また彼は太田母斑や太田母斑類似の種々の真皮メラノサイトーシス病変ーー眼瞼周囲、両側遅発性など――があるし、国際的にはADMは認められていないので、顔面に生ずる真皮メラノサイトーシス(facial dermal melanocytosis:FDM)と総称したほうがよいと提唱しています。ただこの名称もまだ定着しているとはいえません。従って以降従来のADMとして話を進めます。

肝斑に対するLTは、反復治療中は色素減弱効果があることは間違いなさそうです。その機序はメラノゾームの減少、メラノサイトの樹枝状突起の短縮、各種サイトカインの変化などが想定されていますが、中断後の変化や副作用の問題では文献により意見が分かれていて混乱状態とのことです。その原因は多くあるが、科学的に治療効果が証明されていない点、そもそも診断が間違っていて混在する老人性色素斑やADMと思われる例を肝斑が治ったとしている文献すら散見されるそうです。
LT治療を受けたことによって肝斑の色素増悪例は長期の保存的な治療法で改善していくものの、難治性のまだらな白斑をきたした例での治療は困難な例が多いとのことです。
著者はLT否定派ではあるが、肝斑治療のベテラン医師が場合により特殊療法としてLTを用いるのを全面的に否定するものではない、と述べています。経験によりうまく副作用に対応できると思われます。問題なのは業者に勧められるままに画一的に無自覚にLTを行っているケースだと言います。著者はそこからの多くの肝斑治療の副作用例を見てきたといいます。

肝斑は30歳代からの女性に多くみられ、紫外線の影響を大きく受けます。また炎症後色素沈着を来しやすく、熱心に顔面のケアをし過ぎる(擦りすぎる)傾向のある日本人に特に多くみられる印象を受けます。大体の患者さんがトランサミン(トラネキサム酸)を希望して来院されますが、同剤は日本では肝斑の治療薬として発売されていますが、海外では肝斑の治療薬としては認められてはおらず、PMDA審査報告書をみるとその有効性に疑問が持たれても致し方ない内容とのことです。またトランサミンは血栓性疾患、動脈硬化、心臓疾患があると使えませんので注意が必要です。
美白剤はメラノサイト(色素細胞)が作り、隣接する表皮細胞にメラニンを受け渡し蓄積していく過程のカスケードのいずれかに作用する物質からなります。チロジナーゼ活性阻害物質にはハイドロキノン、アルブチン、コウジ酸、ルシノール、アスコルビン酸誘導体、ロドデノールなどがあります。この中でロドデノールによる白斑、皮膚障害はマスコミにも取り上げられ社会問題、訴訟問題にも発展したことは皆さんご存知だと思います。ハイドロキノンにしても毛染めかぶれとの交叉過敏性や長期使用ochronosis (丘疹や斑状の褐色色素沈着)もあり、3~4か月で一旦休止した方が望ましいとされます。

肝斑は顔のシミの中では頻度は少ないとはいえ、女性にとって悩ましい症状であることは論を待ちません。渡辺先生も葛西先生もLT否定派ではありますが、実際に困っている人は多くいることかと思われます。
葛西先生も慣れた医師によるLTを完全には否定していません。要は診断を正確につけ、顔面の「シミ」の症状をよくわかり、各治療の功罪を熟知した医師が、個々の患者に真摯に対応することが最も大切な事かと思われました。
またその前提として肝斑は機能性の疾患で、紫外線の影響を最も受け、季節性の変動のあること、擦るなどの刺激をさけ標準的なスキンケアを行うことがベースとして最も大切なことを周知させることが重要かと思われます。

また一方で、現在評価の定まらない肝斑治療(美白外用剤や内服治療薬、レーザー療法など)が、将来的には高エビデンスの評価を確立して一般医にも納得できる情報が得られることを望みたいと思いました。

参考文献

新・皮膚科セミナリウム◎皮膚レーザー治療の常識、非常識
1.顔面の色素病変(シミ)の鑑別とレーザー治療 渡辺晋一(帝京大学、浦和スキンケアクリニック) 日皮会誌:129(8),1619-1625,20198(令和1)

2.レーザートーニングの真実 葛西健一郎(葛西形成外科)
日皮会誌:129(8),1627-1632,2019(令和1)

皮膚科臨床アセット11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 2012 東京 中山書店

魚・甲殻類アレルギー

我が国での魚アレルギーの頻度は第10番目ですが、成人に限ると第2番目と高くなります。
魚アレルギーにおいては、魚そのものによるアレルギーの他に、紛らわしい症状としてヒスタミン中毒とアニサキスアレルギーがあります。
🔷魚アレルギー
頻度からすると赤身魚より白身魚のアレルギーが多いです。
原因物質(抗原)はパルブアルブミン(parvalbumin:PA)とよばれる分子量12kDaの筋蛋白質で、速筋(白筋)の弛緩に関与していると考えられています。これは水溶性で熱安定性であるために加熱しても抗原性はなくなりません。約2/3の例の原因抗原とされます。
(赤筋(遅筋)はミオグロビンという赤色の色素蛋白質を多く含みます。これは筋肉に酸素を多く供給する働きがあるために持久力に富み、マグロやカツオなどのように長距離を泳ぎ続けることができます。その逆に白筋は普段はじっとしていて瞬発力に富むタイやヒラメ、カレイといった白身魚に多いです。)
またPAの含量は部位によって異なり、尾側より口側、背側より腹側で多いとされます。
コラーゲンもPAに次ぐ抗原とされます。患者の30%はこれに陽性とされます。コラーゲンを加熱して変性したものがゼラチンですが、PAと違って非水溶性ですので「水さらし」にしても抗原性はなくなりません。
また一部では上記以外のマイナー抗原が知られています。
これらの抗原は魚群間で交叉抗原性があることが知られています。ただ魚群と哺乳類のコラーゲンには交叉抗原性はみられません。
感作経路としては、食べてなる経腸管感作の他に、手荒れなどからくる経皮感作、魚市場などでの飛散による経気道感作などがあります。
診断、検査については特異的IgE抗体価や皮膚試験の抗原液がありますが、限られていてprick-to-prickが行われることもあります。ただこの場合はヒスタミン中毒の除外する必要性があります。
魚アレルギーが明らかになった場合にどのように対処するかについては専門家や管理栄養士の食事指導が必要になります。まず、低抗原性の魚出汁(かつお節、煮干しなど)の摂取を試み、大丈夫ならばマグロの缶詰(水煮)、さらにPA含有量の少ないマグロ、カツオなどの煮魚など摂取可能な魚種、量などを増やしていきます。
ただし、過去にアナフィラキシーを起こした例では原則摂取禁止です。
🔷ヒスタミン中毒
ヒスタミンが大量に蓄積した魚を食べたあとに生じるアレルギー様症状のことをいいます。ある種の腐敗菌などにより魚がもっているヒスチジンというアミノ酸が分解されてヒスタミンを生じます。魚肉100g当たり、ヒスタミンが100mg以上産生されると重篤な症状を呈するとされます。吐気、顔面紅潮、蕁麻疹などを生じます。これは魚アレルギーとは逆に赤身魚が多いとされます。塩干物、味醂干しなどの加工品に多いとされます。また25~40度で発生する菌と0~10度で発生する菌があり、冷蔵庫で長期保存した魚では注意が必要です。ヒスタミンは熱に安定性で加熱したものでも症状は誘発されます。
🔷アニサキスアレルギー
アニサキスとは回虫目アニサキス属に属する線虫の総称で魚介類に寄生する寄生虫です。最終宿主はイルカやクジラなどの海生哺乳類で、卵はオキアミなどから中間宿主の魚類やイカなどの内臓で成長します。生きたアニサキスを食すると激しい腹痛、吐気を伴い、腸アニサキス症では急性腹症として開腹手術を受けるケースもあります。
アニサキス症には胃アニサキス症、腸アニサキス症、消化管外アニサキス症があります。刺身や寿司などの生食を嗜好する我が国に特に多く、なかでもサバ(しめ鯖を含む)が最も重要な感染源となっています。対策としては魚介類の生食をしないこと、または60~70度で1分以上の加熱、もしくは-20度で24時間以上の冷凍が厚労省から推奨されています。
アニサキスアレルギーでは蕁麻疹、血管浮腫、アナフィラキシーといったIgE依存性のアレルギー反応を生じます。経口摂取後腹部症状が全くなく上記のようなアレルギー症状が出た場合はgastro-allergic anisakiasis(GAA)と呼ばれることもあります。発症なでの時間は1~2時間と短いものから数時間、半日たってから発症する場合もあります。診断は臨床症状とIgE抗体検査によって行われますが、特異度は必ずしも高くなく、ダニ、甲殻類などとの交叉過敏性があります。ほとんどが魚介類の生食後に生じますが、耐熱性の抗原もあり、調理し熱を加えたものでも発症するとされます。それゆえ食事指導に関しては魚類の完全除去から加熱なら可との様々な意見があります。
🔷甲殻類アレルギー
甲殻類アレルギーは食物アレルギー全体での頻度は7位ですが、成人に限ると小麦に次いで第2位であり、果物と共に3大アレルゲンとされます。その代表はエビ、カニです。
症状で最も多いのが蕁麻疹などの皮膚症状で、次いで口腔アレルギー症候群、呼吸器症状、腹部症状と続きます。また半数以上に2臓器以上の症状を呈する、いわゆるアナフィラキシー症状がみられるとのことです。
甲殻類アレルギーでは経口摂取だけでは発症せず、食後の運動や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)服用の組み合わせで誘発されることも多いです。甲殻類アレルギーの原因抗原(アレルゲンコンポーネント)として6種類の蛋白が知られています。海外ではトロポミオシンに対する陽性率は60%と高いとされていますが、本邦ではそれ程高くなく、それ以外の抗原が存在すると考えられて原因解明を検討中とのことです。またダニやゴキブリ、アニサキス、イカ、タコ、貝類などとの交叉反応を示すこともあるとのとのことで、甲殻類アレルギーの成立過程でのこれらの動物の関与が想定されています。
また空中の吸入感作や、手荒れ、飲食業の人の皮膚からの経皮感作の経路のケースも報告されています。
アレルギーへの対応としては、甲殻類では成人例が多く、免疫寛容は期待できないために除去食が基本です。また甲殻類は外食時には様々な料理に含まれていることが多いためにアナフィラキシー歴のある人はエピペンなどのアドレナリン自己注射の携帯が望ましいとされています。ただ将来的には舌下免疫療法やバイオ技術を用いた免疫療法が研究開発されようとしているそうです。

下記の文献から要約

知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆ 矢上晶子 MB Derma No.289/2019.11
中島 陽一 魚アレルギー pp50-54

濱田 祐斗 アニサキスアレルギー pp55-58

中村 陽一 甲殻類アレルギー pp59-66

見逃しやすい食物アレルギー

MB Dermaの特集号に「知らぬと見逃す食物アレルギー」という企画がありました。
その記事を中心に見逃しやすい食物アレルギーについて調べてみました。
🔷獣肉アレルギー・・・2000年初頭に米国でロッキー山紅斑熱を媒介するマダニがα-Galという糖鎖の特異的IgE抗体を産生し、これは獣肉(牛肉、羊、豚など)アレルギーの原因と同一であること、またこの成分を有しているセツキシマブという抗がん剤として用いられる抗体製剤にも含まれ、これらのアレルギー、アナフィラキシーが重なっていることが明らかになってきました。本邦においても島根大学の千貫らは、島根地方に好発するマダニが媒介する日本紅斑熱と獣肉アレルギーの好発地域が重なることに注目し、フタトゲチマダニの唾液腺を検索し、その中にα-galが存在することを証明しました。そして患者さんの多くは犬を飼っていました。すなわち散歩中に犬がマダニに咬まれ、さらに飼い主が犬からもらって咬まれ、マダニ、獣肉、セツキシマブアレルギーを呈するというストーリーが成り立ちます。この糖鎖抗原は血液型のB抗原と類似しているために抗体を作りにくく、血液型B型の人はこのアレルギーにはなりにくいそうです。また交叉反応のためにカレイ魚卵アレルギーも起こすそうです。
また、pork-cat syndromeという豚肉アレルギーがあります。この原因抗原は豚の血清アルブミン(Sus S)ですが、類似の構造を有するネコの血清アルブミン(Fel d 2)に経気道的に感作されたあと、豚血清に交叉反応しアレルギー症状を起こします。加熱不十分や燻製で出易いとされます。
これらに共通するのは、牛肉でも豚肉でも直接そのものの経口摂取して感作したものではなく、交叉反応によるものであるということです。牛肉ーマダニ、豚肉ーネコの関係を知らないと見過ごしてしまいます。
🔷食品添加物アレルギー・・・食物自体のアレルギーは比較的に原因が容易に推定できますが、添加物によるものではすぐには推定できず、診断が困難であることが多いです。その中で近年注目されているものを幾つかとりあげます。
➀コチニール色素
コチニールは中南米の主にペルーのサボテン科のベニコイチジクなどに寄生するエンジムシの雌の虫体から抽出された赤色色素です。多くの食品や、口紅、アイシャドーなどの化粧品に赤色着色の目的で使用されています。これによる、即時型アレルギー、アナフィラキシーの報告が時にみられます。多くの例は化粧をする成人女性にみられます。その原因抗原は、微量に含まれる虫体由来の夾雑タンパク質と考えられていますが、また主色素のカルミン酸(分子量492)がハプテンとして抗原となっているとのことです。以前はカンパリが原因の例が多かったそうですが合成色素に変更後は無くなり、近年は化粧品によるもの、イチゴ飲料、魚肉ソーセージ、マカロンによる例が散見されます。マカロンによる例は日本人特有で、欧米での報告は皆無とのことです。原田は、欧米人は子供の頃から高濃度のカルミンを経口摂取することで免疫学的寛容を獲得するが、その機会が少ない日本人女性が成人後に高濃度カルミンを含む化粧品によって経皮感作されるのではないかと推論しています。
なお、化粧品に感作されても半数以上はかぶれなどの局所症状を伴わない(症状の自覚がない)とされ、診断を困難にしています。
②エリスリトール
いわゆるカロリー0の甘味料で、健康飲料、ダイエット食品、和洋菓子に多く用いられる糖アルコールです。これを含んだ食品を飲んだり、食べたりした後に目の痒み、顔の浮腫、動悸、呼吸困難などのアナフィラキシー症状を呈するケースがあります。
その診断は非常に困難とのことです。その理由は、プリックテスト、スクラッチテストでも陽性反応が出ないこと、食品の表示義務が無いという事です。実際のエリスリトールによる誘発試験で初めて原因が特定できた例もあるとのことで、このような食品摂取後に症状がでる場合は検討が必要です。
(なお、エリスリトールはインフルエンザ治療薬タミフルにも含まれています。)
③ポリガンマグルタミン酸(PGA)
納豆菌が増殖する際に菌の乾燥を防ぐために分泌される高分子ポリペプチドで、菌が発酵する過程で産生される粘稠物質です。これはまたクラゲの毒針の触覚細胞中にも含まれているためにサーファーやダイバーなどのマリンスポーツ愛好家にクラゲ刺傷をきっかけにPGAアレルギーが発症し易いとされます。これは腸管内で消化分解されて低分子化して抗原性を発揮すると考えられています。それでアレルギー症状の発現までに8〜12時間かかり遅発性にアレルギー症状が発症するのが特徴的です。PGAは中華タレや缶コーヒー、ジャスミン茶などにも保存料、増粘料、旨味成分として含まれている場合がありますので注意が必要です。PGAアレルギーは蕁麻疹、呼吸困難が多く、意識消失や血圧低下などのアナフィラキシーショックをきたす場合も少なくないとされます。
④ペクチン
植物の細胞壁や中葉に含まれる複合多糖類で、増粘安定剤としてジャム、ゼリー、キャンディなどに含まれています。アナフィラキシーの報告例は少ないですが、多くはカシューナッツ、ピスタチオアレルギーの既往があり、交差反応で発症しています。
食品添加物の種類は数百種類と膨大でアレルギーの可能性物質も多岐に亘ります。
上記の他に従来から有名なものについて記します。
#抗酸化剤アレルギー・・・ワイン、ビール、調理食品に含まれる亜硝酸塩、重亜硝酸塩、バター、ガム、ソフトクリーム、魚介製品などに含まれるブチルハイドロキシアニソール、ブチルハイドロキシトルエン
#保存料アレルギー・・・パラベン、安息香酸ナトリウム、サリチル酸誘導体
#着色料アレルギー・・・チーズ、菓子類に含まれる黄色のアゾ色素であるタートラジン
アスピリン喘息がある際はこれら添加物にも過敏なことがあり注意が必要です。
食物アレルギー診療で最も大切なことは、症状をしっかり治療してできるだけ落ち着いた状態になってから原因検索にかかることだといいます。専門医の十分な臨床診断と、適切な検証によって制限される添加物は限定されたものになっていくとのことです。

参考文献

こどもとおとなの食物アレルギー診療 ◆編集企画◆ 千貫祐子 MB Derma 256:2017
原田 晋 食品添加物による食物アレルギー pp64-71

知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆ 矢上晶子 MB Derma 289:2019
千貫 祐子 獣肉アレルギー pp9-13

竹尾 直子 コチニールをはじめ香粧品の成分による経皮•経粘膜感作食物アレルギー pp31-39

井上 徳浩 食品添加物によるアレルギーを見逃さないために pp41-49

食物(小麦)依存性運動誘発アナフィラキシー

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis: FDEIA)は即時型食物アレルギーの特殊型で、特定の食物摂取と運動などの二次的要因の組み合わせで蕁麻疹、アナフィラキシーなどのアレルギー症状をきたす病型です。その中でも最も頻度が高く臨床的にも問題になるのが小麦です。小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis: WDEIA)と呼ばれます。
小麦アレルギーは上記のWDEIA以外にもお茶石鹸によるもの、小児期のものなど種々の病型があります。それで、まず、FDEIAについて述べ、次いで小麦アレルギーの多様性について述べてみたいと思います。
🔷FDEIA
ある食物の摂取と運動によって発症しますが、この場合の運動は食物アレルギーを増強する2次的な要因として働きます。運動の他にも薬剤(NSAIDs:鎮痛解熱剤)、アルコール、ストレス、女性ホルモン、感染性胃腸炎なども食物アレルギーの症状誘発閾値を低下させる誘因として働くことが知られています。運動は機械的に腸管を振動させ、また上記の物は腸管のアレルギー物質の透過性を高めてアレルギーを誘発、増強させると考えられています。
好発年齢は2峰性をとり、10歳台に大きなピーク、30歳台に小さなピークがあります。原因食物は小麦が60%と圧倒的に多く、次いでエビ18%、イカ5%、カニ、ブドウ、ナッツ、ソバ、魚などが知られています。  
上記のように運動だけではなく種々の要因が複合的に、相乗的に関与して発症するために診断までに長期間を要するケースも多くみられます。特に高齢者は種々の疾患、薬剤を服用していることが多くより複雑で今後高齢者の患者は増加すると想定されています。多くは食物摂取から数十分~2時間以内ですが、遅い場合は4~6時間後に発症することもあり、診断を難しくする可能性もあります。発症機序については、従来食物による消化管感作が考えられてきましたが、お茶石鹸のケースでもあるように、経皮感作によるFDEIAのケースも報告されてきています。
🔷小麦アレルギーの種々相
1)WDEIA
【臨床症状】
小麦を摂取後2~4時間以内に運動などの2次的な要因が加わって全身に蕁麻疹をきたします。発赤や眼瞼の腫脹よりも地図状の隆起した膨疹が多発、融合することが多いようです。(但し、お茶石鹸によるWDEIAでは顔面腫脹、眼瞼腫脹がみられます。)
症状が進行すればアナフィラキシーショックを起こすこともあります。
【病因・診断】
小麦は蛋白質量によって、強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦などが分けられています(概ね6%~13%)。強力粉はパン、ピザ、中華麺、ソフト麵に、中力粉はうどん、餃子の皮、お好み焼き、タコ焼きに、薄力粉はケーキなどの菓子、てんぷらに、デュラム小麦はグルテンが多くスパゲッティ、マカロニに使用されています。
小麦の蛋白質は約10%ですが、塩(0.5M NaCl)への可溶性、不溶性によって前者が非グルテン蛋白質(約15%)、後者がグルテン蛋白質(約85%)に分けられます。更にグルテンはエタノールに可溶なグリアジンと不溶なグルテニンに分けらます。
通常成人型の(加水分解型お茶石鹸小麦アレルギーを除く)WDEIAの80%でω-5グリアジンが陽性で、20%が高分子グルテニンが陽性とされます。(その他一部水様性蛋白抗原の存在あり。)
診断は問診で食物アレルギーが疑われれば、血液検査、皮膚試験、負荷試験と進んでいきます。皮膚試験、負荷試験ではより分かり易くなる一方でよりアレルギーが起こり易くなるリスクも大きくなっていきますので専門医療機関での実施が望ましくなります。
血液検査では小麦などの特異的IgE抗体検査、さらに近年ではω-5グリアジン、HMWグルテニンなどのアレルギーコンポーネントの検査によりより正確に抗原が特定されます。また施設によってはヒスタミン遊離試験、好塩基球活性化試験などが行われます。
皮膚試験としては、プリックテスト、スクラッチテストなどが行われますが、アナフィラキシーに対処できる体制で施行することが推奨されます。皮内試験はショックの危険性や疑陽性が高いために食物アレルギーに対しては適応外とされます。
負荷試験は原則入院のうえで施行されます。まず少量の小麦20g、80gと増やしていき、(患者のエピソードから適量を設定、うどん、おやきなど)最大100g程度を負荷します。誘発されなければ更にトレッドミルによる運動負荷、アスピリン摂取などを加えて誘発を試みます。ショックに備えて静脈ルートを確保し救急薬の準備をしておきます。ただし再現性は必ずしも高くはなく、逆に相当時間を経過してから発症することもあるとのことです。
【治療】
アナフィラキシーの臨床的重症度として、➀皮膚 ➁消化器 ➂呼吸器 ➃循環器 ➄精神神経症状の症状を基に5段階に分類されています。皮膚、消化器などの症状に加えて気道症状を呈するグレード3以上は明らかなアナフィラキシーとしてショックへの進展の危険性があり、アドレナリン筋注をできるだけ早急に行う必要があります。効果不十分な場合は5~15分ごとに筋注を続けます。発症後30分以内のアドレナリン投与では救命率が高く、遅れるほど二相性のアナフィラキシーを呈し、予後が悪いとの結果がでています。FDEIAは学校での給食後の運動中が最も多く、除去食を行うか、食後2時間(最長4時間)の運動を避ける指導が必要で、反復例ではエピペンの携帯が必須となります。成人型のWDEIAでは経口免疫療法が奏功した報告はまずなく、寛解しにくいとされています。
2)茶のしずく石鹸による小麦アレルギー
2004年~2010年12月までに約4650万個の茶のしずく石鹸が約467万人に販売されました。
2009年秋の日本アレルギー学会で同石鹸を使っているうちに小麦を食べるとショックになるという症例の報告が初めてなされました。その後同様の患者が増え続け、大きな社会問題となりました。
2010年10月に厚労省は消費者に対する注意喚起を発表し、2011年5月にはメーカーは商品の自主回収を行いました。日本アレルギー学会は疫学調査を行い、2025例の女性例、86例の男性例を集計しました。患者の25%がアナフィラキシーショックを、43%が呼吸困難を経験していました。専門医療機関の研究の結果当該石鹸に含まれていたグルパール19S(GP19S)という蛋白質が原因抗原として特定されました。
【GP19Sの抗原性】
GP19Sは、小麦グルテンを出発原料として、塩酸添加、加熱、pH4での等電点沈澱、中和、凍結乾燥で生成されます。小麦蛋白質に含まれるグルタミンがグルタミン酸に変化(脱アミド化)し、新たなアミノ酸配列がネオエピトープとなり抗原性を示すようになりました。これ等の反応の過程で水溶性の低かった小麦蛋白質は、水溶性を増し、保湿効果、もちもち感を付加されたことにより、洗顔石鹸に付加価値ありとして取り入れたのでした。一般に高分子は皮膚からは吸収されないのですが、擦ったり、石鹸でバリアの低下し湿潤した状態の皮膚から吸収されやすくなったと思われます。通常型のWDEIAが消化管感作によるのに対し、加水分解小麦によるものでは経皮・経粘膜感作によります。
発症にはHLAのタイピングが関与し、特定のHLA型を持った人がHLAと共にCD陽性T細胞に提示され、免疫反応が活性化すると考えられています。
【症状】
石鹸を使用後数分から30分以内に、痒み、眼瞼や顔面浮腫、鼻汁、蕁麻疹などを生じ、一部では引き続き呼吸困難、嘔吐、腹痛、下痢、血圧低下などのショック症状を呈します。
【経過】
当該石鹸の使用中止以降、GPS19S特異的IgE抗体は経時的な減少傾向を認め、多くの例では陰性化しています。そして、約80%のケースで小麦含有食品を食べられるように回復しています。しかしながら一部ではアレルギー症状が持続したり、トラウマによって小麦制限を解除できない例も存在するようです。
3)こどもの小麦アレルギー
こどもの小麦アレルギーは成人型と異なった側面があります。
アレルギーの原因食物は年齢とともに、大きく変化していきます。0歳児がピークですが、1位は鶏卵(20~55.6%)、2位は牛乳(20~27.3%)、3位は小麦(9.6%)で上位3つで全体の約7割を占めます。その後頻度は急速に低下していき、3歳児では魚卵、鶏卵、ピーナッツ、牛乳の順になり、小麦は第5位に落ちます。学童期以降では甲殻類が第1位になりますが、20歳以降ではまた小麦が第1位となります。この成人例は上記のWDEIAが大きく関与します。
乳幼児期に発症する即時型食物アレルギーは加齢とともに耐性を獲得しやすく、学童期までに80~90%は耐性を獲得します。このメカニズムは不明です。ただし、稀ながら小児期のものが成人期まで遷延するケースもあります。その危険因子としては特異的IgE抗体が高いこと、喘息など他のアレルギー疾患のあることなどが挙げられています。また運動が協同するWDEIAは経年的な寛解、アウトグローが得られにくいとされています。
【管理・治療】
*食事療法・・・従来は厳格な原因食品の除去が行われてきましたが、近年必要最小限の除去に替わってきました。経皮感作、経口免疫寛容との免疫学の進展により経口免疫療法が取り入れられるようになってきました。診断のゴールドスタンダードは食物経口負荷試験と明記されています。但し、当然ながら原因食物を投与することのリスクはあるのでアレルギー専門の医師、管理栄養士などによる的確な診断、経口投与食事指導が必須なことはいうまでもありません。見様見真似での投与はアナフィラキシーを誘発し兼ねません。
*緊急時の対応・・・ほぼ全ての症例に抗アレルギー剤の頓用、あるいはステロイド剤の頓用が用いられます。(ステロイド剤の有効性は確立していませんが。)
アナフィラキシーの既往がある例ではアドレナリン自己注射薬(エピペン)を処方します。なお発作は学校、保育園での事例が多いので、それぞれの関係者への啓発も必要です。また誤射の発生事例もみられますので、本人、家族をはじめ周辺の人への注意喚起も必要とされます。

参考文献

こどもとおとなの食物アレルギー診療 ◆編集企画◆千貫祐子MB Derma 2017.4 No.256

知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆矢上晶子 MB Derma 2019.11 N0.289

最新! 食物アレルギーの診断と治療 責任編集 栗原和幸 Visual Dermatology Vol.11 N0.3 2012

飯島茂子 ほか 水溶性アルブミン画分に原因抗原の存在が疑われたスパゲッティ依存性運動誘発アナフィラキシーの1例 J Environn Dermatol Cutan allergol. 11(3):259-265,2017

猪又直子 2019年度日本皮膚科学会研修講習会テキスト アレルギー診断検査の実際

花粉-食物アレルギー症候群

食物アレルギーでは、年齢によって大きく変わってきますし、機序にもいくつかの特徴的なグループがあります。
すべてを網羅することはできませんが、食物アレルギーのうち、最近の話題になっているいくつかについて書いてみます。
🔷花粉ー食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome: PFAS)
1987年 Amlotらは口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)という概念を提唱しました。特定の食物を食べた後に口腔内の痒みやピリピリ感、咽喉頭の閉塞感が出現し、重症例では引き続いて蕁麻疹や喘息、最重症例ではアナフィラキシーショックを呈する病態をとります。
1988年 Ortolaniらはシラカバ花粉症の多くにみられる野菜、果物摂取後にみられるOASを報告し、それが花粉抗原と野菜、果物などの交叉反応性によることを明らかにしました。OASは他のメカニズムでも生じることがあるために、近年は花粉と食物の交叉アレルギーによって生じるものに対してはメカニズムが類推できるPFASという名称が一般に使われるようになってきています。

【PFASの発症機序、抗原】
果物と花粉に共通する蛋白質が共通抗原となりその交叉反応によってアレルギー反応を発症します。
その蛋白質は主にPR-10(pathogenesis-related protein type 10)(感染特異的蛋白質 別名 Bet v I 関連蛋白)と プロフィリン(profilin)というプロテインファミリーに属する蛋白質です。PR-10は植物がウイルスや細菌やカビなどの感染から身を守るために誘導される蛋白質群です。これらは生物の生存に欠かせない構造や機能を司る蛋白質の一群であるために進化の過程でも広い種に保存されています。したがってひとたびこれらの蛋白質に感作されると、多くの植物に交叉過敏を生じる可能性が生じてきます。
【PFASの地域性】
花粉症が原因であるために地域差があります。ヨーロッパでは、北欧ではシラカバ花粉症が多く、約80%にバラ科などの果物OASを合併しますが、地中海側ではシラカバ飛散がないために、他の花粉によるPFASや経消化管感作など他の機序によるOASがみられます。日本でも地域差がみられますが、全体ではカバノキ科花粉感作で生じるバラ科果物のPFASが多くを占めています。ただ北海道ではシラカバが、関東以西ではハンノキ、オオバヤシャブシが知られています。
【交叉反応を示しうる食品】
◎シラカバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ(樹木花粉)と交叉
バラ科・・・リンゴ、モモ、サクランボ、イチゴ、ナシ、ウメ、ビワ、アーモンド
マタタビ科・・・キウイ
セリ科・・・人参、セロリ、フェンネル、クミン、コリアンダー
ナス科・・・トマト、ジャガイモ
クルミ科・・・クルミ
マメ科・・・大豆(豆乳)、モヤシ
その他・・・ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ、ココナッツ
◎イネ科(カモガヤ、オオアワガエリ、マグサ)と交叉
ウリ科・・・メロン、スイカ
ナス科・・・トマト、ジャガイモ
◎キク科 ブタクサ属と交叉 
ウリ科、バショウ科(バナナ)
◎キク科 ヨモギ属と交叉
セリ科、 キウイ、ピーナッツ、スパイス、ニンジン、セロリ、ライチ
*◎パラゴムノキ属(ラッテクス)と交叉
バナナ、クリ、アボガド、キウイ、パイナップル、トマト、ジャガイモ
* ラテックス(ゴム)は花粉ではありませんが、バナナをはじめとしたいくつかのフルーツと交叉反応を起こし、アレルギー、アナフィラキシーを起こします。それでラテックスーフルーツ症候群とも呼ばれます。
【PFASの臨床症状】
原因食物摂取直後から1時間以内に口唇・舌・口腔粘膜・咽頭の痒みや刺激感、閉塞感を生じます。口唇や口腔粘膜の腫れ、水疱などを生じることもありますが、自覚症状のみで終わるケースのほうが圧倒的に多いです。
その理由は、アレルゲンエピトープの脆弱性によります。
花粉で感作された新鮮な果物、野菜が口腔粘膜に接触することによって局所性のⅠ型アレルギー反応が起きますが、食物は嚥下され消化管を通過し、消化され腸管粘膜で吸収されていきます。原因アレルゲンの多くは消化耐性、熱耐性が低く、消化の過程で抗原性を失っていきます。抗原は3次元的な高次構造に依存したエピトープであるために、消化されて、線状にばらばらにされると抗原として認識されなくなります。一方消化耐性の抗原では1次的な線状構造を認識することが多く、消化されても抗原性は保たれます。
しかしながら、一部では症状が局所にとどまらず、引き続いて鼻症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉)、眼症状(涙、結膜の充血や眼瞼の腫脹)、顔面全体のむくみ、全身の蕁麻疹へと発展する場合もあります。さらに重症になると消化管症状(腹痛、嘔気、嘔吐、下痢)、呼吸器症状(呼吸苦、喘息発作、喉頭浮腫)を伴い最重症型ではアナフィラキシーショックに陥る場合もあります。
特に豆乳アレルギーでは大量の新鮮抗原が一気に消化管に入りますので、アナフィラキシーに注意が必要とされます(大豆では陰性、Gly m 4陽性が多い)。またヨモギ花粉スパイス間の交叉反応も注意が必要とされます。モモはカバノキの花粉症との交叉反応を起こしえますが耐熱性の抗原のためにショックを起こしやすいとされ、注意が必要です。(その他小麦、甲殻類などと運動誘発性も危ないとされますがこれらはまた別項で述べます。)
【PFASの診断】
まず、患者さんから摂取してアレルギー症状がでる食物とその症状について問診します。例えばリンゴ、サクランボで口の中がかゆくなる、という主訴があれば、ではビワ、ナシ、モモ、イチゴはどうですか、とバラ科植物について聴いていきます。さらに交叉しやすいセリ科の人参、セロリナス科のトマト、ジャガイモ、スパイス類またマメ科のモヤシ、豆乳についても尋ねます。ついでに症状のでる食物の加工品、加熱したものでの症状を聴きます。そうして花粉症の有無について尋ねます。これで大よその全体像がつかめます。
これらの問診をしてもほんの1,2分しかかからないはずです。
検査としては、まずⅠ型(即時型)アレルギー血液検査があります。抗原特異的IgE抗体測定検査がありますが、果物や野菜では、その粗抗原の試薬にはPFASを起こすアレルゲンコンポーネントが少量しか含まれておらず偽陰性となることが多いです。近年はHevb 6.02やGly m 4などのコンポーネント特異的IgEが測定できるようになりましたが、測定項目はまだ一部に限られ、さらに保険で検査できる項目はごく一部に限られています。
それで現在では皮膚テストの有用性が勝っています。検査試薬は「トリイ」スクラッチエキスなどがありますが、新鮮な食物はas is(そのままの材料)をプリックランセットなどで直接刺し、それを前腕などの皮膚に垂直に刺します(プリックープリックテスト)。
15分後に現れた膨疹(蕁麻疹)の大きさで判定します。陰性コントロールを生食で、陽性コントロールをヒスタミン液で測定します。ヒスタミンの2倍を4+、同じ場合を3+、1/2を2+、それより小さいものを1+、生食と同じ大きさのものを-とし、2+以上を陽性とします。
プリックテスト陰性の場合はスクラッチテストが施行されることもあります。
さらに負荷試験(口含み試験など)も施行されますが、検査でアナフィラキシーを起こしうるので、専門病院でライン確保、救急の準備をするなど万全な体制の元に施行されるべきとされます。
【PFASの治療】
症状が軽ければ抗アレルギー剤、プレドニンなどの頓用でも事足りるケースもあります。しかし全身症状のでるケース、アナフィラキシーの既往のある患者さんには携帯アドレナリンキットであるエピペンを処方します(使用方法を説明し、できればビデオなど、同意を得たうえで処方)。
将来的には原因食物による減感作療法などが開発されるかもしれませんが、現時点では原因食品の経口摂取をさけることが基本になります。ただ、先にも述べたように新鮮な果物で症状が誘発されても、加熱、加工したものでは症状がでないこともあり、慎重に判断し許可することもあります。
重篤な症状を誘発しうる豆乳、スパイス類では厳格な除去が必要になります。

参考文献

猪又直子 花粉—食物アレルギー症候群 MB Derma, 289:1-8,2019.
知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆ 矢上晶子 MB Derma 2019年11月号 

足立厚子 花粉―食物アレルギー症候群 MB Derma, 256:56-63,2017
こどもとおとなの食物アレルギー診療 ◆編集企画◆ 千貫祐子 MB Derma 2017年4月号

最新!食物アレルギーの診断と治療 責任編集 栗原和幸 Visual Dermatology Vol.11 No.3 2012

2019年度日本皮膚科学会研修講習会
アレルギー診断検査の実際 猪又 直子 2020年1月12日

食物アレルギー

蕁麻疹の原因として、ほとんどの人がまず食べ物を考えるようです。
「何を食べてあたったんだろう。」「何が原因か(食物)アレルギーの検査をして下さい。」
「やってもいいけどむやみやたらに食物IgEを検査してもあまり意味はありませんよ。」「それに食物が関係するものは全体の4-5%に過ぎないと言われますし。」という問答でじんましん診察がはじまることが多いです。
では食物アレルギーはスルーしていいかというと全くそうではありません。
この分野は(も)、進歩が著しくていろいろなことが分かってきています。しかし、何か特定なものを食べると必ずすぐに蕁麻疹がでるといった、すぐに原因がわかるような単純なものばかりではありません。むしろ「風が吹けば桶屋が儲かる」のように全く関係がないようなものが繋がっていることも多々ありますし食品添加物が原因になっていることもあります。また運動や、アスピリンなどの薬物との協同作業で発症することもあります。
「サーファーに納豆アレルギーが多い。」「果物アレルギーの原因が花粉症だった。」「牛肉アレルギーの人は血液型A型、O型の人が多い。」「その原因がマダニだった。犬を飼ってる人に多い。」「豚肉アレルギーは猫好きの人に多い。」「魚のアレルギーは魚そのものではなくアニサキスだった。」などなど「何それ?」と思うようなこともあります。
ただこれら一見無関係と思われることがらも風と桶屋のようなこじつけではなく深い科学的な関係が分かってきています。
またアトピー性皮膚炎では、従来食物が原因とされIgE検査などを元に厳格な食事制限が行われていた時代がありました。ところが経皮感作、経口(腸管)免疫寛容という免疫学の病態解明によって、食事指導が逆転するほどのパラダイムシフトが起こってきています。
これら全部を網羅することはできませんし、それぞれの専門書、ガイドラインなどもありますので、一部最近のトピックスをピックアップしてみたいと思います。

蕁麻疹って何? 原因は?

前回の蕁麻疹の記事で、自分的(医師的)には十分説明できたと自己満足したかに思えましたが、その後も外来のなかなか治らない蕁麻疹患者さんへの説明でも十分にうまくできなくもどかしい思いがあります。

まず、蕁麻疹って何か、という診断は比較的明確、簡単で専門知識は要りません。
「赤み(紅斑)を伴う一過性、限局性の腫れ、むくみ(浮腫)が病的に出没する疾患」と定義されます。一過性とは数十分~数時間、長いものでは1日、さらに例外的には2~3日までありますが、皮疹消退後は跡形を残さないことが特徴です。
何日もずっと消えないという人がいますが、個別の部位のことについて一過性ということです。こちらは消えてもまた他部位にでてずっと出没が続くことはあります。
逆に同じ場所がずっと赤く、かさかさしたり、ただれたりしていてあとが残り何日も消えないのならばそれは蕁麻疹ではありません。

蕁麻疹の原因は何か? こちらははなかなか難問です。
「そもそもアレルギー(食物)性の蕁麻疹は4-5%とほんの僅かですよ、自分でも原因(誘因)がわからなければそれは特発性の蕁麻疹で1,2か月も続いていれば、慢性特発性蕁麻疹でほとんどの人がそうです。」
ガイドラインにそってしっかり説明したつもりでも、では原因は何ですか、という質問には全く答えになっていないことに今更愕然とします。
「特発性です」というのは原因は分かりませんと答えているのにほぼ等しい感があります。長く説明すればするほど深みにはまり患者さんは困惑していきます。世界中の学者が解明できていないことが一開業医に説明できる(解る)わけがありません。
日本の蕁麻疹の第一人者の秀先生の著書から引用すると
「原因が不明であるという現状は、あくまで現在の医学では蕁麻疹の症状をもたらす他の明らかな疾患ないし病態が明らかにされていないということであって、特発性の蕁麻疹に原因がないということでも、原因を解明することを否定しているわけでもない。事実特発性の蕁麻疹に含まれる慢性蕁麻疹ではIgE(免疫グロブリンE:immunoglobulin E)および高親和性蕁麻疹受容体に対する自己抗体が検出されるものがあり、その頻度は25~50%ともいわれる。」
「抗IgEモノクローナル抗体であるオマリズマブは、アレルギー性の蕁麻疹のはか、ほとんどすべての蕁麻疹の病型に有効であることが明らかになり、蕁麻疹の病態におけるIgEの役割が再び注目を浴びつつある。」
要するに学者(医者)は努力し、研究し続けているけれどもまだその真の原因は分かっていないという現況のようです。
秀先生は更に、一般的に蕁麻疹の患者さんが陥りやすいフラストレーションのたまる思考パターンについて次のように述べています。
次々に出没する蕁麻疹に対し、患者はそのつど新しい原因に遭遇したように感じる。
➡食物や生活の中に原因を探すが、直接的な原因が同定できないことに気付く。
(食物やアレルギーを疑う。)
➡体の内部に継続的な異変を想定する。(内臓疾患の存在を疑う。)
*いずれの場合もある一つの原因があり、それを取り除けば治る、取り除かないと治らないと考える傾向がある。
*その意味で、慢性蕁麻疹における自己抗体は、それを取り除くことができない点で患者の求める原因とはなりにくい。
*物理的蕁麻疹における各物理的刺激(寒冷、温熱、日光など)、コリン性蕁麻疹における発汗もまた同様である。
*逆に刺激誘発型の蕁麻疹でその誘発物質が同定できればそれらを回避できることが多く、これらは原因として受け入れられやすい。

そもそも蕁麻疹の発症は直接的因子だけではなく、背景因子(ストレス、寝不足、風邪、体調不良・・・)など個体側の過敏に反応する異常状態などが複合的にからみあって発症することが多く、単一の原因にのみよらないことが多いことを理解すること、個別ごとにそれぞれの課題を明らかにしていくことが重要です。

全体像は以上のようですが、現代の医学で全く蕁麻疹の病態、原因の解明が進歩していないわけではありません。マスト細胞の脱顆粒をもたらす分子機構、免疫機構、脱顆粒以外の活性化機構もすこしずつ解明されつつあるそうです。
その一端を列記します。

前述のようにIgEを介した反応以外にもさまざまな刺激因子がマスト細胞を活性化して蕁麻疹を起こします。しかし慢性特発性蕁麻疹の患者さんでは血清総IgE値が多い傾向があることや、オマリズマブの有効性からIgEが慢性蕁麻疹の病態に重要な役割を担っていることは疑う余地はありません。
マスト細胞の脱顆粒に関係するIgEとその関連分子について説明すると。
マスト細胞の表面には高親和性IgE受容体(FcεRI)があり、これにIgEが付着した状態を感作といいます。
🔷代表的な活性化機序は、隣り合ったIgEに抗原がくっついて架橋をして、活性化するというものです。その反応で脱顆粒を起こし、ヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)を放出して皮膚微小血管と神経に作用して、血管拡張(紅斑)、血漿成分の漏出(膨疹)、かゆみを生じます。
例えれば、細胞の受容体の上に、Yの字型のIgEがくっつき、その2つのYが抗原で手を繋いだ状態が架橋です。
架橋は外来抗原以外でも可能です。例えば以下に挙げる各種自己抗体などです。
🔷自己抗体について
1983年 甲状腺自己抗体と慢性蕁麻疹の関連報告(Leznoff)
1986年 慢性蕁麻疹患者の中に自己血清の皮内注射で膨疹が誘発される者があると報告(Gruber)
1988年 特発性慢性蕁麻疹患者血清中に抗IgE-IgG抗体の存在を証明(Gruber)
1993年 特発性慢性蕁麻疹患者血清中にFcεRIに対する自己IgG抗体の存在を証明(秀 道広)
しかし、これらの自己抗体は他の疾患でも検出されることもあり、自己抗体の脱顆粒能力には患者間の個体差が大きい、陽性になるのは半数以下など、慢性蕁麻疹における自己抗体の役割は不明な点が多い状況です。

マスト細胞の脱顆粒は上記のアレルギー性の他に、非アレルギー性(物理的刺激、ホルモン、自律神経、薬剤、食物、運動、飲酒)などでも起こることが分かっています。これ等の因子が複雑に絡みあい、その積算が一定の閾値を超えた時に脱顆粒が起き、蕁麻疹が誘発される、逆にいうといずれかの因子を取り除き、反応閾値を下回れば症状はおさまると考えればわかり易いと思います。

さらに近年は、そればかりではなくToll-like receptor(TLR)を介した自然免疫や凝固系の異常、クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)におけるNLRP3 遺伝子変異によるinflammasomeの異常など様々な因子の異常で発症する蕁麻疹もあることなど、一元的ではない、一筋縄ではいかない蕁麻疹の病態解明も進んできているとのことです。

参考文献

皮膚科臨床アセット 16 蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター 総編集◎古江増隆 専門編集◎秀 道広 東京 中山書店 2013

Derma 2018年11月号 No.276
これで困らない! 蕁麻疹患者の対応法 ◆編集企画◆平郡隆明
葉山惟大 オマリズマブをどうつかうか pp43-50

蕁麻疹 最近の話題

数年前に蕁麻疹の記事を連続して書きました。久しぶりに最近の事情を調べてみました。ここ数年オマリズマブ(ゾレア)の登場以来、パラダイムシフトと言われるほど、現況は変わってきています。ところが雑誌をみると時代は「ポストオマリズマブ」にあるそうです。ロートル医は目を丸くするばかりですが、めげずに一寸最新知識にしがみついてみます。
まず、蕁麻疹ガイドライン2018が最大の指標になると思いますので、読みといてみたいと思います。
しかし、自己矛盾的ですが、以前書いた記事と基本的にはそれ程変わっていないと思います。個別の対応はそれぞれの主治医の話をよく聴いて対処されれば良いかと思います。
日本皮膚科学会では2011年に蕁麻疹診療ガイドラインを発表しましたが、今回はグローバルガイドライン(国際ガイドライン)との整合性を踏まえ、EBM(evidence based medicine)に基づいて作成されました。これが我が国での蕁麻疹標準治療を示すものです。(ただ、これは個々の症例について医師の治療の裁量権を阻むものではないとされています。)

2018年のガイドラインにそってその骨子を図表で示してみます。細部については以前当ブログに書いたものも参考にして下さい。(2013.6.3~7.2、2017.6.16)
2018年の蕁麻疹診療ガイドラインでは、まずその病型を見極め、治療の内容と目標を明らかにし、医師、患者がどのように蕁麻疹を捉え、問題を解決するためにいかに行動すべきかを示すことを目指して作られています。

蕁麻疹ではまず”臨床的に”病型を見極めることが必要だとされています。すなわち、特定の刺激に反応して蕁麻疹がでるケース(刺激誘発性)と、明確な誘因が見つからず自発的に、勝手に蕁麻疹がでるケース(特発性)です(図1)。

頻度は特発性が圧倒的に多いのですが(約7-8割)、少数ながら刺激誘発性もあり、こちらは多くの原因別に分類されています(表2)。

しかし、これらのケースでもまず詳細な問診などによる”臨床的な”原因の推定、見極めが必要になります。要するに蕁麻疹の診断はまずアレルギー検査ではなくて、臨床的な見極め、分類から始まるということです。
刺激誘発型にしてもアレルギーばかりではなく、アレルギーではない病型が多いことが見て取れます。専門的になり、見るのもうっとうしいかもしれませんが、病型を確認するために専門医療機関ではどのような検査をするのか表をあげてみました(表4)。

蕁麻疹では直接的な誘因、原因の他に背景因子、間接因子が複雑に入り混じって発症するとされます。例えば、ストレス、疲労、風邪などの感染などです(表1)。

治療は病型を見極めた上で原因・悪化因子の除去、回避と抗ヒスタミン薬を中心とした薬物療法が主体になります。ただ、明らかな刺激が誘因になる場合は当然それの回避が治療の中心となります。しかしながらコリン性蕁麻疹や日光蕁麻疹のように刺激を避けがたい場合もあり、少量の誘発負荷をかけることが治療になる場合もあります。
薬物療法の手順は重症度に応じてステップ分類がなされています(図2)。

薬物療法の主体となるものは鎮静性の低い第2世代の抗ヒスタミン薬が第一選択薬として推奨され、効果が十分でない場合は他の抗ヒスタミン薬を追加、或いは増量するとなっています。治療の追加は効果、副作用、経済的な負担などのバランスを考慮して判断するとされています。

総論は上記のようですが、個々の事項についての注意点を書いてみます。

【抗ヒスタミン薬の効果、増量】
抗ヒスタミン薬が効果不十分な場合は本邦では通常量の2倍量まで、欧州では4倍量までの増量が認められています。
しかしながら非鎮静性に分類されている抗ヒスタミン薬でも添付文書上自動車運転を禁止しているものは多くあります。その制限を設けていないものはフェキソフェナジン(アレグラ)、ロラタジン(クラリチン)、ビラスチン(ビラノア)、デスロラタジン(デザレックッス)の4剤であり、注意させると記載されているものがベボタスチン(タリオン)、エピナスチン(アレジオン)、エバスチン(エバステル)の3剤でその他の第2世代抗ヒスタミン薬は自動車運転に従事させないとなっていることに注意が必要です。また眠気の少ないクラリチン、ビラノア、デザレックスは増量規定がなく、2倍量は使用できません。また保険上第2世代の抗ヒスタミン薬の併用を認めない都道府県もあり注意が必要です。
実臨床ではこれらを考えると抗ヒスタミン薬の使い方、増量はかなり注意を要することになります。
しかしながら実際に診療をしていると眠気は非常に個人差があります。
医師にとっても患者にとってもこれらを総合的に考えて抗ヒスタミン薬を選択していくことの難しさ、悩ましさがここにあります。
【いつまで飲むのか、いつ治るのか】
特発性の急性蕁麻疹では、ほとんどの例がしばらくすると(4-6週間以内に)治癒します。しかしながら10~15%の患者さんは慢性蕁麻疹に移行するとの報告もあります。
特発性の慢性蕁麻疹では軽快の割合は1年後で36%、5年後では66%と比較的高いとの報告もあります。平均7,8年とされています。長期間に及ぶケースではなかなか治らないことにフラストレーションを抱き易くなりますが、それでも多くの例では抗ヒスタミン薬の治療と共に次第に軽快していきます。
軽快してからいつまで内服するかの統一見解はありませんが、ガイドラインでは発症後2か月以内では1ヶ月、発症後2か月以上経過した例では2か月を暫定的な目安としています。中止にしてもいきなり中止するよりは様子をみながら2~4週おきに漸減するほうがよいともされます。
【補助的治療薬】
抗ヒスタミン薬の増量でも効果が得られなければ、Step2として、H2拮抗薬や抗ロイコトリエン薬を追加します。その他にワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(注射)、グリチルリチン製剤(注射)、ジアフェニルスルホン、抗不安薬、トラネキサム酸、漢方薬などが使われています。十分なエビデンスはないものの長年の経験上それぞれの医師の裁量で使用される例が多いようです。それでも効果のない例ではStep3としてステロイド内服も候補に挙がってきます。しかしながらステロイドの内服は使用期間、使用量を限定し、1ヶ月以上使用期間が長引く場合は他の治療に切り替えることを検討するとされています。長期に亘ると様々な副作用が出てくるばかりか、蕁麻疹の予後を改善しないという報告もされています。シクロスポリンも候補に挙がってきますが、これは蕁麻疹に対する健康保険適応はなく、腎機能障害、高血圧などの副作用もあり長期使用は制限されます。
【妊婦への投与】
妊娠中の抗ヒスタミン薬の使用と先天性欠損・奇形との関連についてはほとんどの論文が否定しています。しかし逆に積極的に安全性を述べる証拠もありません。本邦の抗ヒスタミン薬の添付文書ではいずれも妊婦に対する危険性を否定していません。治療上の有益性が危険性を上回ると判断され、かつ十分な説明と同意がなされた場合は投与してよい、とされています。米国FDAでは2014年の勧告では薬剤胎児危険度分類A,B,C,D,Xを撤廃しました。これは同分類が誤って解釈・使用され安易に処方上の判断が行われて使用されているとの懸念からでした。今回のガイドラインでは出産経過や児の異常は、薬剤投与の有無にかかわらず常にある頻度で発生することを考慮し、抗ヒスタミン薬が必要な場合は十分な説明と同意を得た上で使用することが望ましい、また妊婦、特に器官形成期である妊娠初期(受精後19日目から妊娠4カ月(15週末)頃)には使用しないことが望ましい、としています。
また添付文書上投与が禁忌となっている薬剤にはヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス)とオキサトミド(セルトクト)があります。
【オマリズマブについて】
オマリズマブ(ゾレア)はヒト化抗IgEモノクローナル抗体です。マスト細胞/抗塩基球細胞膜上のIgEには結合せず、遊離IgEにのみ結合します。欧米では2014年に慢性蕁麻疹に対してオマリズマブ300mgの適応承認がなされました。本邦では2017年3月に特発性慢性蕁麻疹に対して喘息に次いで効能追加が承認されました。オマリズマブは非常に効果の高い薬剤ですが、使用に際してはいくつかの条件があります。
1)治療抵抗性の慢性特発性蕁麻疹であること 2)患者のQOLが著しく障害されていること 3)アナフィラキシーに対応できる施設で行うこと です。
実際に使用されている例では、オマリズマブそのもののショックなどはほとんど報告はありませんが、添加物のポリソルベート80に対するアナフィラキシーの報告もあり、これは多くの薬剤、ワクチン、化粧品に含まれているためにアレルギー既往のある人は注意が必要です。
オマリズマブの作用機序は血清中のフリーのIgEを補足し、遊離IgEと複合体を形成することで、IgEがマスト細胞/好塩基球上のFcεRI(高親和性IgE受容体)に結合しヒスタミンが放出されるのを上流で阻止し、その働きを抑えると考えられています。しかしながらオマリズマブの効果は初期(投与後数日以内)に効果が出る群と数週にわたり効果がゆっくり発現する群があるようで、上記以外の様々な作用機序も考えられていて未だ不明な点が多く今後の研究課題とのことです。通常12歳以上の成人に1回300mgを4週ごとに皮下注射します。海外では6回までの投与が推奨されていますが、本邦では12週以降の臨床試験がないために一応3回投与となっています。それ以降の投与については専門家の意見も分かれているようです。完全に中止する、継続する、間隔を開けて投与するなど様々でこれからの検討課題です。残念ながら投与中止するといずれ再発することも多いとのことで、高価な薬剤でもあり再投与でも十分に有効であるとのことですが、長期投与などこれからの課題のようです。

今回は主に特発性の蕁麻疹について記述しました。食物アレルギーなどの刺激誘発型、全く機序の異なる血管性浮腫、特殊な蕁麻疹関連疾患は省きました。

参考文献

日本皮膚科学会ガイドライン(一般公開ガイドライン)
蕁麻疹診療ガイドライン2018年版
日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン改定委員会 秀 道広 ほか
日皮会誌:128(12),2503-2624,2018(平成30)
(図表はガイドラインより引用、ことわっていないけれど公開だからだれでも日本皮膚科学会HPからアクセスできます。)

五十嵐敦之 抗ヒスタミン薬と補助的治療薬 日臨皮会誌:35(3),443-446,2018(平成30)

これで困らない! 蕁麻疹患者の対応法 ◆編集企画◆ 平郡隆明 2018年11月号 Derma N0.276

平郡真記子 「いつ治るのか知りたい」患者にどう説明するか pp11-16

益田浩司 抗ヒスタミン薬をどう使うか pp31-37

平郡隆明 補助的治療薬、ステロイドをどう使うか pp38-42

葉山惟大 オマリズマブをどう使うか pp43-50

抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome: APS)は、抗リン脂質抗体の存在下で多臓器の動静脈血栓症、血小板減少症、習慣性流産などの多彩な臨床症状を呈する血液凝固異常症で原発性と全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)などの膠原病に伴って生じる続発性のものに分けられます。
【歴史的背景】
APSにみられる抗リン脂質抗体は抗カルジオリピン抗体とループスアンチコアグラントに大別されます。
1906年 梅毒血清反応としてWassermann反応が開発され、その後その真の抗原はウシ心臓から得られた陰性荷電を有する脂質と同定されました。これがカルジオ・リピンの由来です。検査法の普及とともに梅毒患者以外でも一定数の僞陽性例が存在することが明らかになりました。これを生物学的僞陽性(biological false positive :BFP)と呼びます。因みにBFPはSLEの他、ハンセン病(特にL型)、肝疾患、妊娠、感染症(伝染性単核球症、オーム病、風疹、水痘など)、悪性腫瘍など重篤な全身疾患でもみられます。これらは当然TP(トレポネーマ)抗原法では陰性で、これが陽性ならば梅毒ということになります。
抗カルジオピリン抗体はSLEの患者で多くみられ、さらにその存在と血栓症との相関が明らかになってAPSの疾患概念の確立に繋がっていきました。
さらにmueller(1951)やConley,Hartmann(1952)らが、SLE患者に循環性抗凝血素、凝固阻止因子を記載したことからループスアンチコアグラントの概念が始まりました。当初は活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などリン脂質依存性の凝固時間が延長しているために出血のリスクが高いと考えられていましたが、実際は動静脈血栓症の合併が高いことが明らかになってきました。
 現在ではループスアンチコアグラントはリン脂質とβ2グリコプロテインⅠ (β2glycoprotein Ⅰ:β2GPI)の結合物あるいはプロトロンビンに対する抗体と考えられています。
【抗リン脂質抗体】
抗リン脂質抗体はカルジオリピンなどのリン脂質に反応する混成の自己抗体です。
抗カルジオリピン抗体(抗CL抗体)、カルジオリピン依存性抗β2グリコプロテインⅠ抗体(抗CL/β2GPI抗体)、ループスアンチコアグラント、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(抗PS/PT抗体)などがあります。
中でも、ループスアンチコアグラント、抗CL/β2GPI抗体、抗PS/PT抗体は血栓症と関係が深いとされます。
抗PS/PT抗体はAPSの臨床症状やループスアンチコアグラントの存在に強い相関があり、測定がループスコアグラントよりもより容易で安定的とされ重要視されています。
【臨床症状】
1)脳、心臓、肺、四肢の動静脈血栓症
2)習慣性流産
3)血小板減少症
4)てんかんなどの精神神経症状
5)皮膚症状
6)網膜中心動静脈血栓症などの眼症状
7)肝腎障害
などが挙げられます。
上記の中で静脈血栓症は初発症状として高頻度に出現し、最も多いのは深在性静脈血栓症次いで肺梗塞です。また動脈血栓症では脳梗塞、一過性脳虚血発作が多くみられます。(従来Sneddon症候群として、APSの亜型とされていましたが、これはその他血管炎、コレステロール塞栓などでも生じ、近年はAPSに限らず多病因性の症候群と考えられています。)
また子宮内胎児死亡、習慣性流産は重要な合併症です。
皮膚所見はAPSの約半数にみられ、網状皮斑がその初発症状であることが多いです。その他血栓性静脈炎、皮膚潰瘍、指趾壊疽、皮下結節、レイノー症状、白色皮膚萎縮、、紫斑、爪下出血などがみられます。これらはリベド様血管症でもみられますが、APSの皮疹はより広範囲でリベドは体幹・上肢などにも生じる傾向があります。
【診断】
APSの診断基準は(サッポロ基準案シドニー改変)で血栓症+自己抗体よりなっています。
簡単に記すと
少なくとも1つの臨床所見と少なくとも1つの検査所見を有するもの(ただし、臨床所見と検査所見の時期が5年以上あるいは12週未満の場合は除外)
*臨床所見・・・血栓症、産科的臨床所見
*検査所見・・・12週以上の間隔で2回以上陽性 抗CL抗体、ループスアンチコアグラント、抗CL/β2GPI抗体、抗PS/PT抗体など
【治療】
APSの抗体陽性患者が全て治療を必要とするわけではありません。軽症から最重症の多臓器障害や広範な皮膚壊死、指端壊死をきたす劇症型APS(catastrophic APS(1%程度とされる))まで多様です。
現在抗リン脂質抗体症候群の血栓症に対する基本戦略は以下のように考えられています。
1.抗リン脂質抗体陽性患者すべてに血栓症の一次予防をする必要はない。
(しかし血栓症と相関するとされる抗体陽性例では一次予防をすべきとの考えもあり)
2.血栓症を生じる可能性があるハイリスク群では諸状況に応じて一次予防も考慮する。
3.動静脈血栓症の既往がある例では、ワルファリンを中心とした継続的な二次予防治療を行う。
4.血栓症を生じる可能性がある手術には、特に厳重な過凝固に対する監視を行う。

ワルファリンの導入法(中等度PT-INR)、抗血小板薬や、ステロイド療法、免疫グロブリン大量静注法、血漿交換療法、リツキシマブ投与などは極めて専門的な知識を要する分野なので専門書に当たって下さい。

参考文献

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013

日本皮膚科学会 ガイドライン改訂版作成委員会
血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌 127(3),299-415,2017 (平成29)古川福実 ほか

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 中山書店 東京 2011
36.抗リン脂質抗体症候群の診断と皮膚症状 小寺雅也、佐藤伸一 pp198
37.抗リン脂質抗体症候群の治療 小寺雅也、佐藤伸一 pp205
38.抗リン脂質抗体症候群の臨床経過・予後 小寺雅也、佐藤伸一 pp210

リベド様血管症

諸事情により、1ヶ月以上ブログから遠ざかっていたので、一連の血管炎の書いた内容も朧気になってきました。血管炎類似疾患は多岐に亘るのでもうそろそろこの項目から離れますが、最後にリベド様血管症、抗リン脂質抗体症候群(APS)について調べて書いてみます。
【歴史的背景】
1944年 O’learyらが下肢に皮斑があり、夏に足関節に反復する潰瘍ができる女性例を報告した。
1955年 Mayo ClinicのFeldakerらは上記の例も含めlivedo reticularis with summer ulcerationとして12人の女性例を報告した。
しかし、男性例もあり、夏に限らず出現する例もあることから翌年彼らはlivedo reticularis with ulcerationと病名を変更した。
1967年 Mayo ClinicのBardらはlivedo vasculitisという病名を提唱した。しかしその病理組織像では明らかな血管炎の所見は認められなかった。
1972年 Mayo ClinicのWinkelmannは本症のリベドは僞リベド(pseudolivedo)だとの理由でlivedoid vasculitis:segmental hyalinizing vasculitisの病名に変更した。
1998年 イタリアのPapiらは小血管の血管炎とは異なる病態であるとし、下肢にリベド、白色皮膚萎縮、疼痛を伴う紫斑、潰瘍の生じる疾患を総括してlivedo vasculopathyという疾患名を提唱した。
同年米国のJorizzolらはPapiの論文を論評しながらもLivedoid vasculopathyと病名変更した。
このように病名は変遷を経ていますが、2008年の日本皮膚科学会ガイドラインではlivedo vasculopathyという病名を用い、2017年のガイドラインではlivedoid vasculopathyという病名を用いています。
それに倣って本篇でもリベド様血管症(livedoid vasculopathy)として話を進めたいと思います。
【臨床所見】
若年から中年に多く、男女比は1:3と比較的若い女性に多く発症する傾向にあります。主に両下肢に生じる網状の皮斑で、しばしば有痛性の紫斑や虫食い状の潰瘍を生じ、白色星状の萎縮性瘢痕(atrophie blanche)を残す慢性の疾患です。瘢痕部には褐色から黒色の色素沈着を残すこともあります。ただ潰瘍、atrophie blancheは必須ではないとされます。
【病因・発症機序】
本態は血管内皮細胞の抗凝固能の低下に基づく血栓性疾患と考えられていますが、基礎疾患の見いだせない本態性と基礎疾患のある続発性に分ける考え方もあります。
本態性のものが本来のもので、日皮会ガイドラインでは続発性のものは鑑別疾患としてとりあげられています。
すなわち、続発性はSLE,SScなどの膠原病、原発性抗リン脂質抗体抗体症候群(APS)、Sneddon症候群、プロテインCやプロテインSの欠乏症、薬剤(ヒドロキシカルバミドなど)、血漿蛋白異常症(クリオグロブリン、クリオフィブリノーゲンなど)、慢性感染症(結核など)、糖尿病などに併発するものです。
ただし、病因に関し、様々な抗体や遺伝子変異の報告もみられ、将来的にはlivedoid vasculopathyは種々の原因からなる一つの症候群とされるかもしれないとのことです。
【病理組織所見】
真皮の小血管に血栓がみられ、明らかな血管炎所見はみられません。進行期になると血管壁の肥厚やヒアリン化がみられ、壁へのフィブリンの沈着がめだってきます。慢性期では真皮の線維化、瘢痕形成、表皮の萎縮がみられてきます。蛍光抗体直接法では早期にはフィブリンの沈着、後期には免疫グロブリンや補体の沈着がみられますが、染色パターンは均一、無構造でこれは血漿蛋白が二次的に取り込まれた血栓過程を表したもので直接病態に関与したものではないとされます。
【治療】
確立した治療法はありませんが、病態からして血行障害の改善を目的とした治療がなされます。
*抗血小板療法・・・少量のアスピリン、ジピリダモール、ペントキシフェリン、
*抗凝固療法・・・低分子ヘパリン、ワルファリン(INR 2~3)、リバーロキサバン
*血栓溶解薬・・・組織プラスミノーゲン活性化因子の静脈内投与
*血管拡張薬・・・ニフェジピン、プロスタグランディンE1
*蛋白同化ステロイドのダナゾール、スタノゾロール
*IVIG
*圧迫療法、高圧酸素療法、PUVA療法
*生活上の注意点・・・禁煙、下肢の安静、長時間の立位、座位を避ける、飲水量の見直し、経口避妊薬を避けるなど。
livedoid vasculopathyは生命予後はよいですが、罹病期間が長く、歩行困難、疼痛などを伴うためにQOLは低下します。また潰瘍から急速に悪化する例や疼痛のコントロールが困難な例もあるとのことです。そういった意味で皮膚科だけではなく、関連する診療科、訪問看護師、ソーシャルワーカーなどの医療連携チーム作りが重要とされます。

参考文献

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013

日本皮膚科学会 ガイドライン委員会
血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌 127(3),299-415, 2017(平成29)

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 中山書店 東京 2011
33. livedo vasculopathyの診断と皮膚症状 清島真理子 pp184
34. livedo vasculopathyの治療 清島真理子 pp189
35. livedo vasculopathyの臨床経過・予後 清島真理子 pp194