カテゴリー別アーカイブ: 皮膚疾患

顕微鏡的多発血管炎

顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)はANCA関連血管炎の一つです。皮膚症状は30~60%に紫斑や網状皮斑がみられるとされます。したがって一般の皮膚科医にはどちらかというとなじみがないというか、まず最初に考える病名ではありません。ところが、川上先生の内科専門医へのアンケートでは「多くの一般内科医にとって血管炎といえばANCA関連血管炎であり、その代表である顕微鏡的多発血管炎をイメージします。・・・(岡崎貴裕先生)」とあります。逆に皮膚科医は血管炎というとIgA血管炎や皮膚動脈炎(結節性多発動脈炎)をイメージします。このように、皮疹からみるとマイナーな感じのMPAですが、重要な位置をしめる血管炎の一つです。さらに欧米ではANCA関連血管炎といえば旧Wegener肉芽腫症(WG)が多いのと異なり、我が国ではMPO-ANCAとPR3-ANCAの頻度は8:1と断然MPAが多く、欧米との違いが顕著です。
🔷ANCAとは
抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)は1982年にDavies DJによって発見されました。初めてANCAを盛り込み、腎臓病理所見に基づいて血管炎を分類したのがChapel Hill分類(CHCC1994)です。ANCAは主にIgG分画に属する自己抗体であり、蛍光染色パターンで細胞質型(cytoplasmic: C-ANCA)と核周囲型(perinuclear: P-ANCA)に分けられます。ELISA法によって代表的な対応する抗原はそれぞれ好中球アズール顆粒中のプロテイナーゼ3(PR3)とミエロペルオキシダーゼ(MPO)であることが分かっています。先に書いたように欧米に多いWGでは活動期にPR3-ANCAが80-95%と高率に認められるのに反し、本邦で多いMPAではMPO-ANCAが活動期には約75%に陽性に見られます。
発症機序はまだ解明されてはいませんが、MPO-ANCA-IgGがMPOと結合し(体質+感染や環境からの刺激などにより)MPO酵素を活性化し、活性化されたMPO酵素が過酸化水素と塩素イオンとでHOClという極めて細胞毒性の強い活性酸素を産生し微小血管の内皮細胞を壊死させることによって血管炎を発症すると考えられています。内皮細胞が壊死する過程で、活性化された好中球と内皮細胞の膜接着因子の発現による両者の接着も必要とされます。しかしなぜ自己抗体が産生されるかは明確にはわかっていません。
さらに最近では好中球が細菌を死滅させるために放出するneutrophil extracellular traps(NETs)や好中球から放出される小さな粒子microparticlesが病因に関連していることが明らかにされてきているそうです。
【臨床症状】
MPAは50歳以後の中高年に多く発症します。やや女性が多いようです。ただ、若年女児に発症するケースも稀ながらあるそうです。約7割のケースでは発熱、全身倦怠感、体重減少、筋肉痛、関節痛、感冒症状などの非特異的な症状をきっかけとして発症し、その後急速進行性腎炎、肺出血、間質性肺炎などの腎肺症状を呈してきます。発症1〜2週間前に上気道感染症を認めるケースが多いとされます。病型では、1)全身型 2)肺腎型 3)限局型(単一臓器に限局する) に分けられます。
(1) 腎症状 ・・・80〜100%と最も高頻度にみられます。顕微鏡的血尿を初発としてタンパク尿、腎機能低下、貧血などが起こり、進行すると腎不全から腎透析へと進むこともあります。
(2) 肺症状・・・25〜60%にみられます。咳、血痰から始まり、肺胞出血、間質性肺炎、肺線維症などに進行します。
(3) 皮膚症状・・・30〜60%にみられます。下腿に多く見られますがその他の部位にもみられます。紫斑、網状皮斑、浸潤性紅斑、丘疹、結節、皮膚潰瘍、蕁麻疹、浮腫、手足末端の出血斑など多彩な症状がみられます。皮膚症状は関節痛、神経炎、眼症状を合併する確率が高いとされます。
(4) 神経症状・・・10~60%で末梢神経炎がみられ、ほとんどの例で多発単神経炎の症状を呈します。(手足のしびれ、感覚がない、力が入らないなど)。稀に脳血管症状をとり、脳出血、脳梗塞などがみられることがあります。
(5) 消化管病変・・・腹痛は多くみられ、時に消化管出血、穿孔をみることもあります。
【検査所見】
MPO-ANCA陽性、CRP陽性、赤沈値上昇、腎障害(血尿、蛋白尿、尿円柱、BUN,クレアチニン値上昇)、胸部X線所見の浸潤陰影像、間質性肺炎や肺線維症の所見
【病理組織所見】
腎生検で壊死性半月体形成性腎糸球体腎炎、肺では肺胞出血を伴う肺胞毛細血管炎、腓腹神経では肉芽腫を伴わない栄養小動脈の壊死性血管炎、皮膚では真皮や皮下組織の肉芽腫を伴わない壊死性小動脈炎、細静脈炎を認めます。小血管壁にフィブリノイド変性と核破砕を伴います。
【診断】
厚生労働省診断基準があります。(1998年)
1.主要症候・・・1)急速進行性糸球体腎炎 2)肺出血または間質性肺炎 3)腎・肺以外の臓器症状(上記)
2.主要組織所見(上記)
3.主要検査所見(上記)
*判定
確実
a) 主要症候の2項目+組織所見陽性例
b)主要症候の1)2)+MPO-ANCA陽性例
疑い
a)主要症候の3項目を満たす例
b)主要症候の1項目+MPO-ANCA陽性例
【治療】
寛解導入法と寛解維持療法があり、厚労省の治療プロトコールがあります。軽症例、重症例によって治療方針、薬剤も異なりますが、基本的にMPAは急速進行重症の疾患ですので可及的早期に寛解導入法を開始して、病勢を鎮めコントロールすることが重要です。むしろ内科、全身療法となりますので専門成書を参照して下さい。ここではアウトラインのみピックアップします。
1)全身性MPAおよび急速進行性糸球体腎炎型(重症例)
ステロイドパルス療法かシクロホスファミドパルス療法で病勢のコントロールを図ります。そして経口ステロイドで寛解維持へと移行していきます。血清クレアチニン値が6mg/dlに達した場合は血液透析を導入します。
2)疾患活動性が高く脳出血など最重症例
ステロイドパルス療法にシクロホスファミドパルスあるいは経口投与を併用します。さらに血漿交換法も併用します。またBリンパ球表面の分化抗原CD20に対するモノクローナル抗体である分子標的治療薬(リツキシマブ)の併用も行われています。
3)限局型・・・逆に生命の危険のないような皮膚、筋肉、末梢神経に限局する軽症の場合は過大な治療は避け、経口プレドニン15~30mg/dayや抗凝固薬、抗血小板療法などを施行します。
寛解維持療法では再燃のないことを確認しながら経口ステロイドの漸減をしていきます。最近はステロイド長期投与による副作用の観点からアザチオプリンが寛解維持療法の中心となっています。またその他の免疫抑制剤としてメトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビンなどが試みられています。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめによる

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改定版 日皮会誌 127(3),299-415,2017(平成29)

血管炎症候群の診療ガイドライン 2017年改訂版 日本循環器学会

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 東京 中山書店 2011
高橋一夫 顕微鏡的多発血管炎の診断と皮膚症状 pp104-110
高橋一夫 顕微鏡的多発血管炎の治療 pp111-117
高橋一夫 顕微鏡的多発血管炎の臨床経過・予後 pp118-122

川上民裕 顕微鏡的多発血管炎 皮膚疾患 最新の治療 2017-2018 編集・渡辺晋一・古川福美 南江堂 東京 2017.pp75

クリオグロブリン血症性紫斑

クリオグロブリン(cryoglobulin: CG)とは低温で沈降し、37度に加熱すると溶解する蛋白質です。CGが血液中に異常に増加した状態をCG血症といいます。その構成成分によって3型に分けられます。
Ⅰ型CG・・・単クローン性免疫グロブリン IgM, IgG 時にIgA  
本態性およびリンパ増殖性疾患、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症など

Ⅱ型CG・・・混合性:単クローン性IgM(RF)と多クローン性Igの混成
Ⅲ型CG・・・混合性:多クローン性IgM(RF)と多クローン性Igの混成
本態性および感染症(特にⅡ型はC型肝炎)、ウイルス、細菌、寄生虫、原虫など、膠原病(SLE,RA,PAN,Sjogrenなど)
悪性腫瘍(白血病、リンパ腫など)、リンパ増殖性疾患、マクログロブリン血症など、腎炎、サルコイドーシスなど
【病因】
Ⅰ型CGは血液粘度亢進による微小血栓がその本態であり、血管炎はみられません。
Ⅱ、Ⅲ型CGは単クローン性あるいは多クローン性IgMと多クローン性の免疫グロブリンが免疫複合体を形成したものであり、血管炎がその本態となります。ただし混合性CG全例が血管炎を発症するわけではなく、その10~15%のみがクリオグロブリン血症性血管炎を発症します。これは混合型CGによるIC血管炎でⅢ型アレルギー反応が関係します。また寒冷曝露時の血液粘度の亢進も関与すると考えられています。
近年HCV抗体陽性例が多数あることがわかり、従来本態性として原因の解らなかった例の中にも多く含まれることがわかってきました。(本態性CGは10%以下まで低下してきました。)CGP患者の80~90% もの多くにHCV陽性とのことです。特にⅡ型でその傾向が強いです。またC型肝炎の3~4割にCGが陽性とのことです。HCV感染に伴う血管炎の発症機序としては、HCVに感染したB細胞がクローナルに増殖し、IgM型リウマトイド因子を産生して免疫複合体を形成することが原因と推定されています。また膠原病中でもシェーグレン症候群では約2割と高頻度にCG血症を認めます。
【臨床症状】
男性より女性に多く、40,50歳代に多くみられます。
発熱、全身倦怠感、筋・関節症状、神経症状(末梢神経知覚障害など)、腎症状、肝障害、高血圧、呼吸器症状、腹部症状など多彩な臨床症状を認めます。皮膚症状はほぼ全例に出現し、レイノー症状、寒冷曝露時に下肢に紫斑、血水疱、網状皮斑、色素沈着、潰瘍、寒冷蕁麻疹、指趾壊疽などを認めます。また鼻、耳介など寒冷にさらされる部位にも出現します。しかしながらこれらは他の血管炎でも生じうるもので臨床症状のみではCGPと断定することはできません。
【検査所見】
CGの証明には、温めた注射シリンジで採血し、37度下で分離した血清を4度に冷却して5~7日放置した後、遠沈して沈殿物を確認します。更にその内容を定量、分析して型を決定します。
また各種原因検索によって感染症、膠原病、血液疾患などを割り出していきます。
血液検査ではCRP、赤沈値上昇、血清ガンマグロブリン値上昇、IgMリウマトイド因子陽性、CH50,C4値低下などがみられ参考になります。
【病理組織】
真皮上層から中層の小血管にフィブリノイド沈着、赤血球の漏出、血管周囲の核塵などを伴う白血球破砕性血管炎の像を認め、時にそれは真皮下層、脂肪織境界部の小動・静脈にも及びます。蛍光抗体直接法では内皮下にIgG,IgM,C3の沈着を認めます。
【診断】
皮膚症状だけでは確診はできませんが、冬季、寒冷時に悪化するレイノー症状、紫斑、リベド、皮膚潰瘍などの血管性病変をみたら疑います。さらにC型肝炎、シェーグレン症候群などの膠原病、骨髄腫などの血液疾患を有するケースではCG精査が必要となります。ただし、必ずしも寒冷期に発症するとも限らず、静脈うっ滞などに伴う皮膚潰瘍として対処されているケースなどもありえますので、やはりANCA陰性群ではCGの有無を確認する必要がありそうです。
【治療】
まず、いずれのタイプでも寒冷曝露を避け、保湿に努めることが重要です。
CGのタイプによって治療は異なってきます。まず本態性なのか、原疾患に続発するものかによります。原疾患があればその治療を優先します。感染症、悪性腫瘍、膠原病などの治療で血中CGは消失することが多いとされます。
タイプⅠでは、血管炎よりも血管内の血栓・塞栓が病変の本態となるので、血管拡張薬、凝固阻害薬などを使用します。
タイプⅡ、Ⅲでは血管炎を伴うことが多いので、急速進行性の臓器障害、臓器不全への徴候がみられる場合は原因疾患の如何にかかわらずステロイド(パルス療法を含む)、免疫抑制薬(シクロスホスファミド、アザチオプリンなど)が適応となります。
重症例では抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブ(RTX)の併用や血漿交換療法も用いられています。しかしこれらの2者は本邦では保険適用がないために治療の際は十分なインフォームドコンセントを得る必要性があります。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめによる

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29)

血管炎症候群の診療ガイドライン 2017年改訂版 日本循環器学会

伊崎誠一 クリオグロブリン血症の診断と皮膚症状 pp148-150
伊崎誠一 クリオグロブリン血症の治療と臨床経過・予後 pp151-152
皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 東京 中山書店 2011
 
菅谷 誠 平林 恵 クリオグロブリン(HCV)と皮膚血管炎 J Visual Dermatology Vol.13 No.7:780,2014
ガイドラインに照らして考えるふつうの血管炎 責任編集 川上民裕

皮膚白血球破砕性血管炎

皮膚白血球破砕性血管炎(cutaneous leukocytoclastic angiitis(CLA)はCHCC1994(Chapel-Hill会議)によって「全身性血管炎症状や糸球体腎炎を伴わない皮膚限局性血管炎で、組織学的に真皮小血管のleukocytoclastic vasculitis(LCV)を認める。」と定義されました。しかしLCVをきたす疾患は多数あり、そもそもLCVは疾患名というより、病理診断であり皮膚科専門医からはCLA,LCVを個別の疾患名とすることに疑念があがっていました。近年D-CHCC(Nomenclature of cutaneous vasculitis: Dermatological addendum to the CHCC2012)はこの疾患に対して皮膚IgM/IgG ICV(cutaneous IgM/IgG immune complex vasculitis)という名称を暫定的に提唱しています。

この疾患、病態を表す言葉は従来様々な疾患名が用いられてきました。
IgA-negative ICV, 過敏性血管炎hypersensitivity vasculitis(Rich, Zeek), idiopathic cutaneous LCV, 皮膚アレルギー性血管炎vasculitis allergica cutis(Ruiter)などです。しかしながらいずれも明確な疾患概念とはいいがたいものでした。
では、この疾患の本態はというと、「ANCA関連血管炎やIgA血管炎、各種続発性血管炎など他の小血管炎をすべて除外した皮膚限局性の小血管炎であり、病理学的にIgM/IgG-IC血管炎に属する」と定義されます。従ってD-CHCCが皮膚IgM/IgG ICVとの名称を提唱した訳です。しかしこの名称はまだ定着していませんので、従来通りCLAと表記して続けます。
【病因・発症機序】
CLAはIgM/IgG-ICが関与する免疫複合体血管炎とされますが、その抗原はほぼ不明です。逆にその病因に感染症、薬剤、膠原病、悪性腫瘍などが明確に関与したとわかれば続発性(症候性)CLAとなり、特発性(本態性)CLAからはずれ、全身性疾患関連血管炎や推定病因を有する血管炎となってしまう訳です。従って特発性CLAのみを本来のCLAとするのが厳密な定義となります。
【臨床症状】
時に発熱、関節痛、筋肉痛などの全身症状を伴うことはあってもいずれも軽度とされ、腎、肝、心肺症状などの臓器症状は伴いません。
皮膚では、下肢に蝕知性紫斑や、壊疽性丘疹、結節、水疱、血水疱、小潰瘍が混在して多発してきます。中には蝕知性紫斑主体の単調な皮疹をとることもあります。
【病理所見】
真皮細静脈の血管壁にフィブリノイド変性を伴う壊死性細静脈炎、LCVを認めます。また直接蛍光抗体法所見で50~70%の症例にIgG,IgMが血管壁に陽性に認められます。C3は70~90%に陽性に認められます。血水疱、結節を有する例では真皮皮下境界部までの細静脈に血管炎が及ぶこともあります。
【鑑別疾患】
特に単調な蝕知性紫斑を呈した場合はIgA血管炎と視診上では鑑別が付きません。組織学的に蛍光抗体所見が鑑別の決め手になりますが、必ずしも陽性にでるとは限らず、IgA,IgM/IgGともにその沈着の陽性率は50~70%とされます。
また顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎や、続発性血管炎との鑑別が難しい場合もあるとのことです。各種抗体検査や全身疾患の検査、また続発性の血管炎の精査をして推定病因を否定しておくことも重要です。
また一旦CLAと診断した後に膠原病や感染症や、悪性腫瘍の関連が顕在化するケースもあるそうで経過観察は怠らないことが肝要とのことです。
【治療・予後】
下肢の安静を保つことが肝要です。弾性包帯、非ステロイド系抗炎症薬、血管強化薬などが用いられます。
時にDDS50mg~75mg/日,コルヒチン1.0mg~1.5mg/日、ミノマイシンなども使われます。皮膚症状の進展の強いケース、重症例ではプレドニゾロン10~30mg/日の投与が推奨されます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめによる

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29)

川名誠司 2012年Chapel Hill会議による血管炎の命名法を踏まえた新たな皮膚血管炎の命名法 日皮会誌:129,23-38,2019

蕁麻疹様血管炎

蕁麻疹性の病変を示す疾患は多数あります。皮疹の性状から、短時間で出没を繰り返す通常型の定型的蕁麻疹と個疹の持続が1〜3日とやや長期である蕁麻疹様紅斑に分けると理解しやすいと思われます。
蕁麻疹様紅斑は通常の蕁麻疹の5〜20%と数は少ないですが、種々の基礎疾患と関連することも多くそれを見出すことは重要です。組織学的に炎症性細胞浸潤を伴っています。その中で蕁麻疹様血管炎(urticarial vasculitis: UV)は約20%を占めており、多くはありませんが代表的な疾患であり、組織学的に白血球破砕性血管炎(leukocytoclastic vasculitis:LCV)を認めます。
UVには血清補体値の低下を伴う低補体血症性蕁麻疹様血管炎(hypocomplementemic UV: HUV)と補体の低下を伴わない正補体血症性蕁麻疹様血管炎(normocomplementemic UV: NUV)がありますが、HUVが7割以上を占めるとされます。
またHUVの最重症型として低補体血症性蕁麻疹様血管炎症候群(HUV syndrome: HUVS)があり、これには抗C1q自己抗体が関与します。HUVSはHUVの5%にも満たない稀な病態とされます。
【病因】
最も多いのが全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)に伴うものです。その他では、その他の膠原病、感染症、血液疾患、悪性腫瘍、薬剤などが原因となります。これらが抗原として免疫複合体(immune complex: IC)を形成しⅢ型アレルギーを起こすと考えられています。HUVSではC1qと結合してICを生じます。
NUVではⅢ型アレルギーではなく、Ⅰ型アレルギーの遅発反応やマスト細胞の活性化が関与すると考えられています。
【症状】
数日間続く蕁麻疹様紅斑が反復します。中に点状または斑状の紫斑を混在します。あとに色素沈着、落屑を残しえます。自覚症状はかゆいというよりピリピリした痛み、灼熱感や違和感があります。NUVは発熱などの全身症状は伴いませんが、HUVでは発熱、倦怠感、関節炎、筋肉痛などを伴い、約半数に肝腎症状をきたします。HUVSになると高度の低補体血症と臓器傷害を認め、閉塞性肺障害(COPD)、喘息などの肺症状や眼症状(上強膜炎、ブドウ膜炎)レイノー症状、腹痛、心膜炎、末梢・中枢神経症状を呈します。
【検査所見】
NUVでは非特異的な炎症マーカー(赤沈、CRP,白血球など)の上昇以外は異常を認めません。
HUVではさらに補体値の低下、循環免疫複合体陽性を認めます。また基礎疾患によってそれに伴う異常値を認めます。例えば膠原病ならば各種自己抗体陽性、ウイルス、細菌感染症ならばそれらのマーカー、肝腎心障害異常値など。
HUVSになると上記に加えて血清C1qの低下、抗C1q抗体の上昇、肺所見などです。
【病理組織】
蕁麻疹と同様に真皮に血管周囲と間質の浮腫が顕著にみられますが、さらに真皮上~中層の小血管の白血球破砕性血管炎(Leukocytoclassic Vasculitis)を認めます。すなわち血管壁とその周囲に核塵を伴う好中球浸潤、フィブリン沈着がみられます。蛍光抗体直接法では血管壁へのIgG,IgM,C3の沈着を認めSLEに続発する例では表皮基底膜にも陽性所見がみられます。これらの所見の程度はNUVでは軽く、HUV,HUVSでは高度になってきます。
【治療】
NUVでは一過性で予後がよく、通常の蕁麻疹治療に沿った治療、抗ヒスタミン薬が試みられ、さらにインドメタシン、DDS,コルヒチンなどを適宜組み合わせて治療されています。無効例では内服ステロイド剤も使われます。
HUVでは、基礎疾患の治療とともにステロイド剤の全身投与(PSL:0.5~1mg/day)が第一選択です。さらに重症度に応じて各種免疫抑制剤、血漿交換療法、免疫グロブリン、リツキシマブなどが考慮されます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 医学書院 2012 からの抜粋 まとめによる

◆補遺
Chapel Hill Consensus Conference 2012(CHCC2012)での分類ではUVの中でHUVを、とりわけ抗C1q血管炎のみを取り上げて、免疫複合体性小血管炎の中の一つとして挙げてあります。これはHUVSに相当するものであり、UVの全体像をとらえていません。それで日皮会の血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版もそのことに言及しHUVのみではなく、NUVも取り上げて記載されています。
CHCC2012は国際基準の血管炎分類として確立されていますが、そもそもそこには皮膚科医は参画しておらず、皮膚血管炎の取り扱いは不十分であるとの皮膚科専門家の懸念がありました。そこで欧米日の皮膚科血管炎専門家からなる作業部会によって新たな皮膚血管炎の命名法であるNomenclature of cutaneous vasculitis:dermatological addendum to the CHCC2012(D-CHCC)が2018年に発表されました。それには日本から川名先生、陳先生が依頼参加されたそうです。

川名誠司 2012年Chapel Hill会議による血管炎の命名法を踏まえた新たな皮膚血管炎の命名法 日皮会誌 129:23-38,2019

D-CHCCでは血管炎の皮膚病変を詳述し、さらにCHCC2012に採用されていない皮膚のSOV(single organ vasculitis)も取り入れてあります。その中のひとつにNUVも入っています。
D-CHCCにおいてもCHCC2012をベースに小型血管炎をANCA関連血管炎(AAV)と免疫複合体性血管炎(ICV)の2つにわけて、IVCの中の4番目にHUVが入っています。
すなわちD-CHCCではUVは2つの別の項目で記載されて全体像をとらえています。
「NUVはHUVに類似した皮膚症状と病理所見を呈するが、臓器症状を認めない皮膚のSOVであり、低補体血症、抗C1q抗体も伴わない」
HUVについては、CHCC2012におけるHUV(anti-C1q vasculitis)の定義はまさにHUVSのことを記載していて、これでHUV全体像とするには合理性に欠けると思われ、HUVには症状も軽く、抗体陰性例もあることから「抗C1q抗体が陽性となることがある」という表現に改められています。
またHUVの診断にはneutrophilic urticarial dermatosis(NUD)との異同が問題になるとのことです。近年NUDは自己炎症性症候群やSLEの炎症様式として注目されています。皮膚症状は淡紅色斑、丘疹、あるいはわずかに隆起した斑でHUVとは異なるとされ、病理組織ではフィブリノイド壊死や白血球破砕像は認めない代わりに、好中球の上皮向性浸潤像が顕著とのことです。またHUV,NUVとNUDは共存あるいは相互に移行することから、いずれも好中球性皮膚症のスペクトラムにあるとの考えもあります。
なお、SLEに生じた血管炎は本来ならば全身性疾患関連血管炎の中のループス血管炎に分類されるべきでしょうが、SLE患者に蕁麻疹様紅斑主体の皮膚症状がみられ、病理組織学的に後毛細管静脈のLCVが確認された時にはHUVと診断されます。一方真皮下層~皮下脂肪組織までの小動脈炎が生じた場合はループス血管炎とされ、蕁麻疹様紅斑以外に紫斑、血水疱、浸潤性紅斑、網状皮斑、結節性紅斑などが混在してきます。

IgA血管炎

IgA血管炎は以前Henoch-Schönlein purpura(HSP)あるいはアナフィラクトイド紫斑と呼ばれていました。小児では全血管炎の90%以上を占めるといわれ、成人においても多くみられ、実臨床で最も目にする皮膚の血管炎の一つです。
1970~80年代に真皮小血管、腎糸球体にDIF(蛍光抗体直接法)でIgAと補体が沈着すること、活動期の患者血清中にIgA-immune complexが証明されることが報告され、1994年のChapel-Hill会議で「HSPはIgA抗体優位の免疫複合体による小血管炎で、皮膚、消化管、腎糸球体が障害され、関節痛あるいは関節炎が合併する」疾患と定義されました。
【臨床症状】
0)先行症状
しばしば上気道炎が先行します。小児で約50%、成人で30%にみられるとされます。
1)皮膚症状
全ての患者に見られますが、30%では関節症状、腹部症状が先行するとのことです。腹部症状が激しい時は、麻痺性イレウス、腸重積、腸管穿孔など急性腹症として緊急手術をうけるケースもあるそうです。
下腿、足背の蝕知性の2~10mm程度の点状紫斑(palpable purpura)がみられます。しばしば斑状紫斑、紅斑、丘疹、膨疹、血管性浮腫なども混在し、一部は水疱、血水疱も生じます。特に高齢者では加齢変化と共に、ステロイド薬、抗血小板薬、抗凝固薬などの使用が多いために大型の斑状紫斑を形成する傾向があります。皮疹は躯幹、上肢にまで拡大することもあります。また乳幼児では顔面にも特有の紫斑をきたし、acute hemorrhagic edema of infancyとして知られています。
2)関節症状
6,7割に出現し、1割以上で初発症状となります。下肢関節に多く発症し、関節の腫れ、圧痛を認めますが、一過性、遊走性であり、慢性化することはありません。
3)腹部症状
5,6割に腹痛、2,3割に消化管出血がみられます。1割ではこれが主訴になり、先に述べたように稀には急性腹症として不要な開腹手術を受けるケースもみられます。
4)腎症状
腎症は重症度によって4型に、また紫斑性腎炎組織分類では6型に分けられています。
1.一過性の顕微鏡的血尿あるいは軽度の蛋白尿で腎機能異常を認めない。
2.急性腎炎症候群
3.ネフローゼ症候群
4.急性腎炎症候群+ネフローゼ症候群
重症度は初期の腎機能と腎組織所見に関連するそうですが、皮疹の範囲と紫斑の症状には必ずしも一致しないそうです。従って皮疹が一見軽くても一定期間腎症状に注意する必要はあります。
また腎症状の程度は年齢と相関があり小児より成人のほうが腎不全にまで移行するケースは多いそうです。ただし、小児の末期腎不全の10%はHPS腎炎が占めるとのことで、小児だからといって必ずしも腎炎の予後が良好ばかりではないことも認識する必要があるとのことです。
5)その他の症状
肝、心、肺、眼、神経症状などさまざまな臓器にも病変が及ぶこともあるそうです。
【検査所見】
約半数で血清IgA値が上昇します。血液第ⅩⅢ因子活性低下は腹部症状、疾患活動性などと相関し、治療効果判定に有用です。尿検査では顕微鏡的血尿の軽症例が多いものの、蛋白尿、クレアチニン値上昇などがあれば速やかに腎専門医の診療が必要になります。腎症状は遅れて発症することもあるので、紫斑発症後半年は毎月の定期検査を要します。
原因検索、鑑別診断の目的で各種細菌、ウイルス検査、膠原病検査、ANCA,血清クリオグロブリン検査なども必要になります。必要に応じて消化管内視鏡検査、腎生検なども必要になってきます。
【病理組織】
最も一般的に施行されるのが、皮膚生検です。蝕知性紫斑では真皮上~中層の細静脈に白血球破砕性血管炎(leukocytoclastic vasculitis)がみられます。血管壁と周辺に核塵を伴う好中球とリンパ球の細胞浸潤。赤血球の血管外漏出。フィブリノイド変性など。しかし小動脈・静脈炎はきたさない。
蛍光抗体直接法(DIF)では真皮乳頭層、真皮上層の細静脈壁にIgAとC3の顆粒状沈着を認めます。しかし48~72時間以上たつとIgAの陽性率は急速に低下します。それで出来立ての皮疹を生検することが必須です。
腎病理所見で最も一般的なものはメサンギウムの巣状、分節性、びまん性増殖、半月体形成です。
【鑑別診断】
小児HPSは血管炎全体の90%以上を占めるために、皮膚生検をしなくても蝕知性紫斑に腹部症状、関節症状を合併している例はHPSと診断可能です。一方成人では多くの小血管炎が生じうるために皮膚、または腎臓でのIgA沈着を証明することが診断に必須とされています。
ただし、HPSの皮膚DIFでのIgAの陽性率は50~80%とされ、偽陽性、偽陰性がかなりあるとのことで実臨床現場では診断の問題点、疑義の原因になっているそうです。
【病因・病態】
種々の抗原分子とIgA1抗体とが結合して形成された免疫複合体(immune complex: IC)が皮膚の真皮小血管、腎糸球体(メサンギウム細胞、内皮細胞)に沈着することが発症の契機となります。ちなみにこの両血管のサイズ、構造は同一ではないものの相似的な形態をとっているので似たような炎症を惹起します。
ICを構成する抗原としては細菌、ウイルスなどの感染物質、薬物、悪性腫瘍などが考えられています。さらに補体の活性化が関与して最終的に膜傷害複合体(membrane attack complex: MAC)が形成され、血管内皮が傷害され、血管炎が進行していくと考えられています。ICは血管分岐部に沈着しやすく、しかも下肢では血流がうっ滞し易いために血管炎が好発します。また腎臓糸球体の血管係蹄のように局所的に血圧が高く、ろ過機能を持つ部分でもICは沈着しやすいので好発します。
従来からHSPの原因抗原として細菌由来抗原が注目されてきました。特に小児では3~5割の患者が上気道感染に引き続いて発症し、A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染が多く見られます。IgA1のhinge部分が細菌やウイルスなどの作用で異常なグリコシル化を起こしIgA1分子が凝集、高分子化して補体活性化能を獲得する、あるいは腎臓のメサンギウム領域のIgA受容体に結合し、炎症を惹起する機序が考えられています。
【治療】
軽症例では安静と飲水量の保持に努めるのみで経過をみること、また紫斑に対して止血薬、血管強化薬などの対症療法が一般に施行されています。DDS(ジアフェニルスルフォン)は紫斑、関節炎に有効とされますが、DIHS,DDS症候群などの重篤な副作用もあり使用に際しては十分な注意が必要です。
ステロイド剤の全身投与は初期症状の軽減には有効ですが、全経過を短縮させるものではないとされています。従って短期間に留め、長期の漫然とした使用は勧められません。
消化管出血など症状の強い例や血尿、蛋白尿など腎症状の強い例ではステロイド剤大量療法(PSL 1mg/kg/day)やパルス療法が有効とされます。血液凝固第ⅩⅢ因子補充療法は同因子活性低下例で腹痛、関節症状に有効とされます。
重症の腎症ではメチルプレドニゾロンパルス療法に加えてシクロホスファミド後療法、アザチオプリンやシクロスポリンなどの免疫抑制剤との併用、抗血小板療法、抗凝固薬あるいは血漿交換療法、免疫グロブリン大量療法などとの併用も行われます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 医学書院 2012 からの抜粋 まとめによる

血管炎分類

結節性多発動脈炎は1866年にKussmaul&Maierが剖検例で諸臓器の動脈周囲に結節状の肥厚を認める壊死性血管炎の症例を結節性動脈周囲炎(periarteritis nododa)として報告したのが最初です。その後病変は動脈全層性にみられることがわかり、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)と改名されました。
全身性の血管炎の分類は1952年のZeekの分類が最初といわれています。彼女は血管炎を過敏性血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、リウマチ性血管炎、結節性多発動脈炎、側頭動脈炎の5つに分類しました。その後疾患の数が増え、さらに1982年にはANCAの発見によりANCA関連血管炎の概念も確立されは変化してきました。それらも踏まえ腎臓病理組織所見に基づきChapell Hill分類が発表されました。1993年に米国ノースカロライナ州のChapel Hill で開催された血管炎の名称と定義の合意形成を目的とした国際会議で原発性血管炎の10疾患が採用されました(CHCC1994)。そして、罹患血管サイズによって大型・中型・小型血管炎に分類されました。(表1参照)

この分類は20年近く世界中で流用されてきましたが、それは罹患血管サイズによる分類が簡便でわかりやすかったという理由があります。また大型、中型の血管炎では罹患臓器の虚血症状が出、小型血管炎ではその血管のサイズにあった症状(蝕知可能な紫斑、多発神経炎、糸球体腎炎、肺胞出血など)の症状が出るなど、疾患の鑑別に便利でもありました。

また、大型血管炎は肉芽腫形成性の自己反応性T細胞異常、小型血管炎はANCAなどの自己抗体、液性免疫の関与するものが含まれており、分類と病因の関係に一定の関連がみられました。

しかしながら、その分類には改善を要する問題点もありました。1994年版では10疾患しか含まれていませんでしたが、多くの血管炎がこの分類から漏れていたこと。人名を冠した疾患名(Eponym)の取り扱いを避けて、病理学的所見に基づく命名への変更が問題とされたことなどがありました。それで、2012年再び全世界の血管炎の専門家がChapel Hillに集まって分類の改変が行われました。
Eponymについては、人名を廃止する方向性のようですが、高安病、川崎病と2つ日本人名は替わるものがないと残りました。日本からの希望もあったようです。ただCogan症候群は残っていますし、それをいったらベーチェット病はどうするのだ、とチャチャを入れたくなります。ある種の人名を残したくなかったなどのウワサは聞こえてきますが、将来は日本人の名前はどうなるのでしょう。(学問と関係ない横道にそれてしまいました。)(CHCC2012)(表2)。
大きく変わった点は大中小の血管炎のほかに新たに4つのカテゴリーが加えられたことです。すなわち、種々の血管を侵す血管炎、単一臓器の血管炎、全身性疾患に続発する血管炎、誘因の推定される続発性血管炎の4つです。それに伴って含まれる対象疾患数は10から26へと大幅に増加しました。(下記の表2参照)

ただし、CHCC2012はリウマチ内科や腎臓内科が中心となって作成されており、この会議では皮膚科医は1人も含まれていなかったといい、皮膚科で使われる血管炎が本分類ではすべて包括されているわけではなく、皮膚科からするとやや使いにくく今後改善の余地があるとのことです。しかしながらこれに替わる国際的な皮膚科血管炎のガイドラインはないとのことでCHCC2012をベースとして本邦の皮膚科の血管炎のガイドラインは作成されています。皮膚科に関係の深い血管炎は真皮の細動脈から毛細血管、細静脈、さらに皮下組織までの血管で、それはChapell Hill分類の基本になった腎臓の動静脈の病理組織と相似性があるといいます。

次から皮膚に関連のある個々の疾患について順次みていきたいと思います。

(図、表はいずれも日本皮膚科学会ホームページで一般公開された血管炎・血管障害診療ガイドラインから)

血管炎・循環障害

皮膚科を長くやっていても一向に解らない領域もあります。血管炎、循環障害もその一つです。いろんな病態、疾患がからみあっていてすっきり理解できません。講演を聴いても分かったような、わからなかったような・・・、結局よく分かりません。小生の理解力のなさ、苦手意識もあるかもしれませんが、まわりの皮膚科医に聞いても結構同様な苦手意識をもっている人は多いようです。重要な分野ではあり、普通患者さんも大きな病院や大学病院に行くので、あまり診ませんがたまにみると丸投げ状態で紹介してしまいます。
そんな病気について無理に敢えて取り上げなくてもよいのでしょうが(でも過去にちらちらとそれなりに書いてはきましたが、)2018年の皮膚科講習会でまとめて血管炎の話を聞く機会がありました。よくわからないながらも重要な疾患群でもあるので自分の知識のまとめの意味も含めて数回に分けてまとめてみたいと思います。
2018.8.25 「皮膚血管炎、循環障害」
1.血管炎――総論 川上 民裕(聖マリアンナ医科大学)
2.結節性多発動脈炎・リベド血管症 石黒 直子(東京女子医科大学)
3.膠原病と血管炎 長谷川 稔(福井大学)
4.循環障害:動脈疾患・静脈疾患の臨床と診断 沢田 泰之(東京都立墨東病院)

話を聞いてもよく解らずもうすでに記憶も忘却の彼方にあります。幸い日本皮膚科学会ガイドライン「血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版」が公表されていますのでそれにならってまとめてみたいと思います。さらに下記の本・雑誌もよりどころにして。
気持ちは大海に乗り出す小舟のような気分でもうすでに難破しそうで萎えかかっていますが、乗りかかった船で兎に角書き始めてみます。

皮膚血管炎 川名 誠司 陳 科榮 医学書院、東京、2013
下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 責任編集 沢田 泰之 Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010
ガイドラインに照らして考えるふつうの血管炎 責任編集 川上 民裕 Visual Vol.13 No.7 2014

メラノーマ2019

メラノーマ(悪性黒色腫)の治療は長足の進歩を遂げつつありますが、特に昨今は本庶 佑先生のノーベル賞でメラノーマ治療薬「オプジーボ」は一躍有名になり、誰でも少なくとも名前だけは知っている薬になりました。
現代はインターネットの発達で、誰でもその気になれば最先端の知識を瞬時に知ることができます。ただ膨大な情報の中で、ある対象の正しい情報だけを正確に、かつ的確に全体像を知ることはなかなかに難しいことです。俗に「生兵法は大怪我のもと」といいます。生半可な知識で事に当たると大怪我をする、の例えです。素人知識は却って間違いの素にもなりかねません。(それはお前の事だろう、という声が聞こえてきそうですが。)
やはり、普段から実地にメラノーマ診療に当たって苦労している専門家の意見、講義を聞くのが一番的確で間違いないということになります。それで、日本皮膚科学会の今冬の講習会からの情報でのトピックを一部書いてみたいと思います。講師の話を正確に伝えたかどうかは自信はありませんが。
講師は以下の先生方でした。
臨床およびダーモスコピー診断 古賀 弘志 (信州大学)
病理診断 伊東 慶悟 (日本医科大学)
手術療法 中村 泰大 (埼玉医科大学国際医療センター)
薬物療法 大塚 篤司 (京都大学)

メラノーマの記事は2016年末に網羅的に数回に亘って書きましたので、今回は箇条書きに気になったところだけを書いてみます。

*メラノーマの発症には人種差が大きい。世界最多のオーストラリアでは新規患者は人口10万人当たり33.6人だが、日本では0.6人で、実数は日本で年間2000人程度、徐々に増加傾向にある。ただ粘膜部での発症は米国の0.22と比べ、日本では0.32と逆に高率で注意を要する。
*従来から病型分類は結節型(NM)、表在拡大型(SSM)、悪性黒子型(LMM)、肢端黒子型(ALM)の4型にわけるClark分類が行われてきたが、近年はBastianらによる紫外線傷害や発生部位による分類も行われている。
CSD(慢性的紫外線曝露部)型、non-CSD型(間歇的紫外線曝露部)、Acral型(肢端部)、Mucosal型(粘膜部)
CSD: chronic sun-induced damage
*欧米ではメラノーマを疑うABCDEクライテリアという語呂合わせがあるが、最近はさらにFGが加わったものもあり、Gの増大傾向というのは特に重要である。いずれにしてもある一時点ではなく、経過を追うということが重要である。
Asymmetry:非対称 Border irregularities:境界が不整 Color variegation:色調が多彩 Diameter>6mm:直径6mm以上 Evolving: 色調、サイズ、形が変化する Firm: 硬い(引き締まった)、Growing:増大傾向
*ダーモスコピーは臨床診断の精度をさらに上げることは明らかだが、最終診断ではない。疑わしい病変では病理診断を行う習慣をつけるべき。エキスパートは10秒以内で診断する。長くみていると却って解らなくなることもある。というか長時間悩む例は病理診断すべきということ。いろいろな専門述語があるがエキスパートはいちいちチェックしない。それはむしろ専門家以外に伝えるためや後付けするため方便で、むしろ暗黙知といって一瞬の間に判定する。例えば知人の顔を一瞬の間に峻別できるのと同じ。知っている知識、面識がなければ、どれだけ長く眺めていても分からないのと同じ。(字義通りだと語弊はあるかもしれませんが、コンセプトはそういうこと。)
*メラノーマの染色マーカーはS-100, Melan-A, HMB45などがあり、細胞質に陽性となるが、SOX10は核に陽性となるのでわかり易く、今後使用されるだろう。
*治療の基本は、現在においても手術で病巣を切除することである。以前は手術範囲は病変部から5cm離して切除するのが定式であったが、現在は腫瘍の厚さが問題とされ、側方切除範囲は2cmとされる。in situ(表皮内)病変の初期病変では、本邦では0.3~0.5cm、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインでは0.5~1cmと若干の差がある。ALM型、爪部のメラノーマは本邦では多く、欧米では少ないためにガイドラインには反映されず、本邦独自の検討が必要かもしれない。
*所属リンパ節群のうち最初に腫瘍細胞が到達するセンチネルリンパ節(sentinel lymph node:SLN)への生検(biopsy): SLNBは1992年に始まり、当初は同定率は82%だったが、近年は色素法、RI法、γプローブ法、ICG蛍光法に加えてCT画像を術前に施行して、同定率は100%近くにまで向上した。
*SLNBの適応、結果が陽性の場合のリンパ節廓清の施行の有無、施行範囲については統計的にまだ明確な指針はないようである。
*昨今の新規薬物療法の発展により、メラノーマの手術療法は縮小・低侵襲手術の方向へ向かっている。
*免疫チェックポイント分子とは、T細胞活性化を抑制するシグナルに関連する分子で、それを阻害する薬剤を免疫チェックポイント阻害剤という。これにより抑制されているT細胞の機能を回復し、腫瘍免疫を賦活化することによって抗腫瘍効果を発揮する。この薬剤にはプライミングフェーズに働く抗CTLA-4抗体およびエフェクターフェーズに働く抗PD-1抗体がある。前者にイピリムマブ、後者にニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリツマブがある。最近、抗PD-1抗体はプライミングフェースにも働いている可能性が示唆されている。但しその効果は限定的で抗CTLA-4抗体が10%、抗PD-1抗体が20~40%の奏効率を有する。
効果をあらかじめ予測するバイオマーカーとして3つある。1)癌細胞が発現するPDL-1はPD-1と結合してT細胞の活動を抑制する。従ってPDL-1の有無は抗PD-1抗体の効果、反応性と相関している。2)腫瘍内に浸潤しているT細胞(Tumor infiltrating lymphocyte: TIL)の数は相関する。CD8陽性の細胞傷害性T細胞が腫瘍周辺に多く浸潤する例では効果が高い。3)腫瘍組織遺伝子変異総量が多ければ免疫療法の効果が高い。新規の抗原いわゆるネオ抗原が標的ペプチドを持つためと考えられる。また日本人ではHLA-A26保有者は抗PD-1抗体の反応性が良く、バイオマーカーになる可能性がある。
*免疫関連有害事象(immune related adverse event: irAE)
免疫チェックポイント阻害薬はメラノーマの治療にブレイクスルーともいわれる画期的な新展開を齎しましたが、一方で新たな免疫関連の有害事象ももたらした。(2016.11.11の当ブログにもまとめましたので、その抜粋から・・・
「この薬剤は体内の腫瘍免疫抑制反応を解除することによって腫瘍免疫反応を回復させ効果を発揮します。それは一方では生体に備わった免疫反応を制御しているシステムをストップさせるために免疫反応の暴走をおこし、予期せぬ様々な免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)を引き起こします。
その原因、発症機序は完全には解明されていませんが、その多くはTregの機能不全で説明可能だそうです。
その根拠の一つとして、IPEX症候群というTregのマスター転写因子であるFOXP3遺伝子に変異のある遺伝性疾患の患者ではTregが著しく減少、または欠損しており、自己免疫性腸炎、I型糖尿病、甲状腺炎、紅皮症、肝障害、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少症(ITP)、関節炎などが認められ、これはまさにirAEにみられる症状と一致しているいうことがあげられます。
しかしながら、実臨床への使用が始まったばかりの薬剤であり、まだ不明な点が多く今後の研究、解明が必要とのことです。・・・」。大塚らはITPを発症した患者のB細胞でPD-1の発現が高いこと、乾癬を発症した患者でADAMTSL5特異的T細胞が病態に関与している可能性を指摘している。
*薬物療法には免疫チェックポイント薬のほかに分子標的薬がある。BRAF阻害薬とMEK阻害薬がある。
NCCNのメラノーマ治療ガイドラインがあり、first lineはPD-1単独、PD-1/CTLA-4併用、BRAF/MEKの分子標的薬が挙げられる。second lineにはさらにDTIC、イマチニブ(c-kit)、放射線療法などがある。
*遺伝子発現、変異の違いにより、治療薬の適応、効果も異なってくる(特に分子標的薬)。将来は次世代シークエンサーなども活用した個別化した治療が進んでいくと予想される。

専門的な個別の事項を未消化のままに細切れに羅列したので、非常に解りにくい内容になった感があるかと思います。
ただ、メラノーマの診断、治療が日進月歩で進んでいる状況はお分かりいただけるかと思います。

なお上には挙げませんでしたが、いずれの先生方もメラノーマの治療にはチーム医療の必要性をうたっています。診療方針は1) 初期診療計画 2)フォローアップ計画 3)進行期診療計画に分けられます。 ごく初期のメラノーマを除いて10年間フォローアップを検討します。
進行期になると、いずれの癌もそうでしょうが、患者、家族と実現可能な治療の選択肢を提示して、情報を共有していくことが重要だとのことです。患者さんは癌が進行していくと「効果がなくなってきているのはわかるが今の治療を続けたい」、「緩和ケア病棟には入らず自費の免疫療法を試したい」といった、様々なバイアスに基づいた意思決定に陥る傾向があるそうです。当然、治療は皮膚科医だけがおこなうのではなく、放射線科医、内科系外科系などの他科の医師との連携のみならず、看護部門、薬剤部門、さらに緩和ケアチーム(アドバンス・ケア・プランニング)、通院治療センター、医療福祉担当者、治験/臨床研究部門といった多彩な部署との連携が必要となってくるとのことです。
いかに医療が進歩していっても最後はやはり人と人との繋がりが最も大切なのだと知らされました。

追記
古賀先生は爪のメラノーマのところで、「巨人の星」の星飛雄馬の初恋の人、日高美奈の手の指の爪の黒い点(死の星)のことに触れられました。そのことに関連してうはら皮膚科(仮想クリニック)のブログに興味ある記事が書いてあります。
星飛雄馬の恋人、日高美奈さんはメラノーマではないかも?(2007.3)
’うはら‘先生はメラノーマの専門家です。
コメントに次のようにありました。「作品に注文をつけるつもりは全くありません。半世紀近く前に、皮膚にも癌ができるのだ、ということを世間一般に知らしめてくれた功績はとても大きかったと思います。メラノーマは若い女性にも起きる病気です(25ー35歳の女性のガン死亡原因としては上位にある腫瘍です)。くだらないことをまじめにくどくど書いてしまいました。」その後に・・・この記事が英文雑誌に掲載されました、とありました。(有料記事なので残念ながら小生は抄録しかみていません。
Malignant melanoma in Star of the Giants(Kyojin no Hoshi)
The Lancet Oncology, Volume 12, Issue 6, Page 525, June 2011
「巨人の星」と聞いて、深く反応する人はそれでもう古い昭和世代という証左かもしれませんが、この記事だけではなく、このブログには随所にメラノーマ、そのほかの啓発記事が分かりやすく書いてありますので、興味ある方は覗いてみられては。(2008.5、2010.5、2018.11)

MTX乾癬への治療効果と副作用

乾癬に対するMTX(メトトレキサート)単独の治療の用法、容量の推奨ガイドラインは全世界的にも定まっていません。ただ、欧米では、一般的に7.5mgから15mg/週を1回ないし12時間おきに3回投与、最大30mg/週が行われているようです。
国内においても定型治療法はありませんが、自治医大(大槻先生)では関節リウマチ治療におけるMTX治療ガイドラインなどを参考に以下のように処方しているとのことです。
【MTX治療の実際】
「まず、処方前に問診やスクリーニングの採血などで投与可能か検討する。処方は6~8mg/週から始め、効果をみながら2~4週ごとに2mg/週増量している。関節リウマチでの本邦の最大承認用量である16mg/週まで増量する症例はほとんどなく、多くの症例は6~12mg/週で内服している。1週間あたりの投与量を12時間間隔で2~3分割にして、原則全例で葉酸(フォリアミン)5mgの内服をMTX内服終了後24~48時間で併用している。・・・」
ただ、関節リウマチにおけるMTXガイドラインでも副作用危険因子のある症例では2~4mg/週で開始し、慎重に漸増するとしています。
◆危険因子とは・・・高齢者/低体重、 腎機能低下、 肺病変、 アルコール常飲、 NSAIDsなどの複数薬物の内服
【治療効果】
各医療機関ごとにいろいろと工夫し処方されているようですが、上記の使い方が標準とみてよいかと思われます。
明確なガイドラインがないために明確な治療エビデンスはなくMTXの乾癬に対する治療効果もまちまちですが、シクロスポリンとほぼ同等に効くが、効果発現には時間がかかり、安全性(副作用発現)ではやや劣る、末梢関節炎には有効という傾向はみてとれます。また、インフリキシマブなどのTNF阻害剤との併用で治療効果は高まり、抗薬剤抗体出現も抑制され治療継続率も高まることが報告されています。
【副作用】
大きく分けると、血液障害、肺障害、感染症、肝障害、消化管障害、新生物となります。個別にみていきます。
◆血液障害
重篤な血液障害(血球減少)例の多くは腎機能障害がみられるのでeGFR値などを参考に慎重投与する。また高齢、脱水、多剤併用などのリスクファクターも考慮すべきである。葉酸製剤を当初より併用し、高用量のMTXは避ける。GFR<30ml/分、透析患者では使用を控える。骨髄障害発生時には直ちにMTXを中止し、活性型葉酸であるロイコポリンレスキューと十分な輸液、支持療法を行う。(専門医療機関にて)
低用量使用時にも、患者、家族などの不注意で間違って多量に内服するケースも見受けるので注意が必要であるし、頻回の血液検査、薬剤確認など日頃からのチェックが重要である。
◆肺障害
既存のリウマチ性肺障害、高齢者ではリスクファクターとなる。肺障害の初期症状がみられた場合は直ちにMTXを中止し、専門医療機関で精査する。MTX肺炎、感染症(カリニ肺炎、ウイルス性、細菌性、真菌性など)、RAに伴う肺病変の鑑別治療が必要となる。                        
◆感染症
重篤な感染症では細菌性肺炎、カリニ肺炎、敗血症などが多くみられる。しかし近年は真菌症、結核、非定型抗酸菌症、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス感染症などの日和見感染症が多くみられる。また近年の生物学的製剤、JAK阻害薬、ステロイド等の免疫抑制剤の併用例が多くみられることに注意が必要である。
◆肝障害
歴史的に肝障害については米国で肝線維化、肝硬変などのリスクが挙げられ、MTXガイドラインでは肝生検の推奨が求められていた。しかしながら現在ではアルコール多飲、肝疾患、糖尿病などのハイリスク群を除けばそのリスクは少なく、むしろde novo肝炎などのB型肝炎ウイルスの再活性化の方がより重要であると考えられている。
したがって、MTX投与前は肝炎ウイルスのスクリーニング(HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体のチェック)を行い、ハイリスク群は使用を避けるか、継続的な専門医によるモニタリングが必要となる。特にHBV再活性化の際には免疫再構築症候群を惹起させる場合もあり、肝臓専門医による適切な治療、対処が必須となる。このような場合には安易にMTXは休薬せずに核酸アナログによる治療も必要になってくる。
◆消化管障害
アフタ性口内炎、吐気、食思不振、などがみられることがある。葉酸製剤の併用で幾分症状は緩和されるとされる。各症状については対症的に対応する。アフタ性口内炎にはマレイン酸イルソグラジンが、吐気にはラニセトロン、ドンペリドン、メトクロプラミドが有効であるとされる。
◆新生物
MTXを使用しているRA治療中の患者にリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders: LPD)が発症することが注目されている。2001年のWHO分類ではMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)という分類があったが、RA以外の自己免疫疾患患者や、MTX以外の免疫抑制薬で治療中のRA患者にもLPDの発生が報告されるようになり、2008年版ではMTX-LPDという文言は削除された。かわりに「他の医原性免疫不全症関連LPDあるいは免疫抑制薬関連LPD」と分類されるようになった。臨床像は結節、腫瘤で潰瘍壊死をともなうことが多く、口腔発症が多い。MTXの中止によって消退するものが多く、一般的に予後は良いとされるが一方真のリンパ腫となり予後不良もケースもある。免疫抑制、免疫機構異常を背景に、加齢、慢性炎症、遺伝的要素(日本人、東洋人の発症が多い)、EBウイルス感染との関連も推定されている。
病理組織学的にはほとんどが瀰漫性大細胞性B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma: DLBCL)の組織型をとる。一部にはリンパ増殖性肉芽腫(lymphomatoid gramulomatosis: LyG)の組織型もとる。

【乾癬治療におけるMTXの位置づけ】
今般MTXは乾癬治療薬として保険診療が承認されました。今後重症乾癬特に関節症性乾癬に対し使用されるケースが増えていくと思われます。現在RA領域ではMTXは治療の標準薬、第1選択薬、アンカードラッグとして広く世界中に使用されています。では乾癬治療においてはどういう位置づけとなるでしょうか。少なくともRAのような第1選択薬にはなりえません。海外においては、重症の尋常性乾癬、中等症でも関節炎を伴った乾癬などには第1選択薬の一つと位置づけられていて、国内でもそのようになっていくでしょう。また生物学的製剤、アプレミラスト(オテズラ)などと比較しても安価なことは医療経済的にもその選択順位はあがっていくかもしれません。
すでに述べたように生物学的製剤(特にTNF阻害薬)との併用で有効かつ、抗薬物抗体の産生が低下し、長期投与に寄与することは明らかでさらに併用が進んでいくものと思われます。大槻は乾癬治療におけるMTXの位置づけについて簡略アルゴリズム(私案)を呈示しています。中等症で末梢関節炎を伴った乾癬に対するMTX内服を中心に、生物学的製剤との併用、移行を考慮した図となっています。また「これまでの内服療法の中では、MTXとアプレミラストの併用が、安全性の面でもコストの面でも有用な組み合わせになるのではないかと考えている。」と述べています。
上記のような位置づけで乾癬に対するMTXの使用例は今後増えていくものと思われます。しかしながら副作用の項でみたようにMTXは必ずしも安全な薬剤でもありません。RA領域においてもレミケードなどの生物学的製剤、JAK阻害薬、ステロイド剤などとの併用で重症感染症のリスクが増えているそうです。重篤な肝障害による死亡例の報告もみられます。また今まで乾癬領域では少なかったMTX関連LPDの増加も危惧されています。またときに思わぬ誤内服や高齢者などの汎血球減少症の報告などもあります。有用で安価な薬剤だけに更なる慎重な使用が求められる所以です。

皮膚科で使うMTXの完全マニュアル 責任編集 大槻マミ太郎 Visual Dermatology Vol.18 No.1 2019 参照

MTXの歴史

MTX(methotrexate)は古くて新しい薬です。その開発からの経過を大槻先生の原稿から抜粋して経年的に列記してみます。
大槻マミ太郎 皮膚科のMTXバイブル:旧薬誓書から新薬成書へ J Visual Dermatol 18:14-24,2019
大槻マミ太郎 MTXの七不思議、作用機序と用法の謎 J Visual Dermatol 18:26,2019
大槻マミ太郎 MTXとシクロスポリンの因縁の関係 J Visual Dermatol 18:35,2019
森田 薫、神田善伸 白血病、悪性リンパ腫におけるMTXの位置づけ J Visual Derrmatol 18:48-52,2019

【MTX関連の歴史】
1946年 類似薬のアミノプテリンが小児白血病に使用され、一時的な寛解をもたらした(Farber)。MTXはアミノプテリンにメチル基を導入したもので、より毒性が少ないことが後に判明(Smith)。
1947年 米国レダリー研究所で葉酸代謝拮抗薬として開発される。 
1951年 膠原繊維増殖抑制作用に注目したGubnerらは関節リウマチなどの関節炎に有効であることを報告。この中には乾癬性関節炎も含まれていた。
1953年 米国で発売。
1958年 悪性絨毛上皮腫に適応獲得。
その後乾癬や乾癬性関節炎にも広く使われるようになった。
1963年 日本でメソトレキセート2.5mg錠が白血病治療薬として発売。
1978年 本邦で大河原が乾癬におけるMTXガイドラインを報告したが、未承認薬であり、米国の肝生検ガイドラインなどに阻まれ、広くは敷衍しなかった。
1988年 抗リウマチ(RA)薬としてFDA承認。
その有効性、骨破壊進行抑制効果、生命予後の改善なども確認され、RA治療の第1選択薬となった。
1999年 国内でRA治療薬としてリウマトレックス(2mgカプセル)が発売。ただし使用上限は8mg/週であった。
2011年 公知申請が承認され、16mg/週まで拡大され、RA治療の第1選択薬となり、アンカードラッグとなっている。
2010年 乾癬に対して生物学的製剤が使用されるようになった。MTXとの併用のケースも増えてきた。
2014年 日本皮膚科学会から厚労省へMTX(リウマトレックス)の乾癬への適応拡大を求める要望書が提出。
2019年春 公知申請が承認され、リウマトレックスの乾癬への保険使用が可能になった。
【MTXの作用機序】
MTXは葉酸トランスポーター(reduced folate carrier:RFC) 葉酸受容体(folate receptor:FR)を介して細胞内に取り込まれ、主にジヒドロ葉酸還元酵素、チミジル酸シンターゼを阻害することによって葉酸代謝を抑制し、チミジル酸およびプリン合成、すなわち核酸合成を抑制することになり細胞の分化・増殖を抑制します。
白血病など抗がん剤としてのMTXの働きは上記により、細胞増殖が抑制され、アポトーシスによる細胞死が誘導されるということで問題ないように思われます。
しかしながら乾癬への効果は表皮細胞の増殖抑制をきたさない程度の極めて低用量でも明らかに認められることが分かっています。そうすると別の機序も働いているということになります。まだ完全には解明されてはいませんが、T,B細胞、マクロファージ、好中球、血管内皮細胞などに対する免疫抑制作用および抗炎症作用が考えられています。 
さらに最近ではアデノシンを介した免疫抑制作用がその主体ではないかとされてきています。
但し、乾癬そのもので多くの炎症物質が活性化しており、多様性もありアデノシンを介した経路もそのひとつにすぎないのではないかともされているそうです。
【乾癬に対するMTXの効果】
1965年にWeinsteinがトリチウムチミジンの取り込みを皮膚のオートラジオグラフィーで測定して(現在ならとてもできない放射線の実験と思われますが)、乾癬では表皮のターンオーバータイムが正常よりも極端に亢進し、短くなっていることを報告しました。(正常ヒト表皮では457時間、乾癬では37.5時間と計算)。
1971年 Weinsteinの法則を敷衍すれば、理論的には基底細胞の分裂を十分に抑制しうるMTX濃度を36時間(1日半)保てば、乾癬表皮の分裂細胞はほぼすべてMTXによってDNA合成障害を受けるが、正常表皮ではごく一部しかMTXのDNA合成阻害を受けないということになります。それ以来MTXの投与方法は36時間(12時間ごとに3回)投与する間歇投与法が確立されました。面白いことにcell cycleは短くはないはずですが、RAに対するMTXの投与法も乾癬での使用法が応用されて進化していきました。
先行したかに見える本邦でのMTXの乾癬への使用経験は長い間、RA治療の進歩に隠れて、日の目を見ずにいたことはすでに述べました。
ただ、MTXの作用機序としての細胞分裂周期の理論だけではもう説明がつかなくなっている時代ですので、今後さらに投与用量、間隔などは変わっていくかもしれません。

ここで一寸紛らわしいですが、メトトレキサートという名称とメソトレキセートという名称があります。
前者のメトトレキサートは一般名でメソトレキセートは商品名です。そして、リウマトレックスと同成分ながら乾癬、関節リウマチへの適応はありません。しかも薬価がかなり違います。
メソトレキセート(ファイザー) 2.5mg錠 35.9円
リウマトレックス(ファイザー)2mg錠  231.8円
一寸釈然としない感じですが、規則ですので乾癬にはリウマトレックスが適応になります。メソトレキセートでは適応外使用となり注意が必要です。
さらに、リウマトレックスはその強い副作用もあり、生物学的製剤との併用が多くなるために、皮膚科では使用可能医療機関はその効果、副作用のモニタリングに精通した生物学的製剤使用承認施設に限定されます。
われわれ開業医が使えないのは一寸残念ですが、安全な使用を考えれば妥当な措置かと思われます。しかし、将来バイオ世代のこれらの薬剤に精通した若いドクターが開業するようになってくれば状況は変わってくるかもしれません。

MTXの乾癬への使用の歴史において、特筆すべきものの一つに、乾癬の画期的な治療薬として登場したシクロスポリンとの関係、因縁があります。
そもそもシクロスポリンとは、ノルウェーの土壌の真菌から抽出された抗生物質でカルシニューリン阻害薬です。ヘルパーT細胞を介した免疫抑制作用を有するために臓器移植による拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療に用いられています。
1972年に免疫抑制作用が発見され、1979年には乾癬にも有効であることが報告されました。
実は乾癬にシクロスポリンが効いたことが、乾癬が免疫が関与する疾患だと認識されるようになった先がけです。
腎移植、肝移植患者の中には乾癬を持った患者もいて、乾癬が劇的によくなったとの報告が相次ぎました。
そして肝移植の患者の中にはかなりの数のMTX投与後、その副作用によって肝硬変になった患者が含まれていました。肝硬変になり、乾癬の治療は中断、肝移植を余儀なくされた患者の乾癬が皮肉にも劇的によくなったのです。
このような経緯もあり、1980年代からは乾癬治療はシクロスポリンの時代に入っていき、MTXは乾癬への治療は低調になっていった経緯があります。

MTXの具体的な治療法、効果、副作用などについてはまた次回改めて書いてみたいと思います。