月別アーカイブ: 2012年3月

「いぼ」について考える

疣(いぼ)について、考えてみました。疣はポピュラーな病気で、毎日のように疣の患者さんが受診します。大体は目でみれば診断は容易に付きますが、中には疣、魚の目と自己診断されたものが、皮膚癌だったりすることもありますので、やはり皮膚科専門医に診てもらうことが大切だと思います。
かつて、大学勤務時代に疣・魚の目と自己判断し、赤い肉芽腫を削ったり、たこの吸い出し膏薬などを使用していた方が手遅れの無色素性悪性黒色腫だったことがありました。この方は不幸にして残念な経過をとりました。
また、年寄りの疣だと思っていたものが、日光角化症(有棘細胞癌)だったり、基底細胞癌だったりする例もたまにありました。
話を、本物の疣に限ってみても、治療に関してはなかなか治らず、悩ましい思いをすることが結構あります。  
疣はウイルスによって感染する皮膚疾患ですが、免疫力によって自然治癒することもあります。逆に先天的に免疫力の低下した稀な疾患、疣贅状表皮発育異常症では、疣は全身に拡大していき、遂には悪性腫瘍を生じることもあります。
疣の治療はホームページに書きましたように、液体窒素によるいぼ冷凍凝固法、いぼ焼灼法などの疣の組織を根こそぎ剥ぎ取るような痛みを伴う強力な治療法から、漢方薬を飲んで免疫力を賦活するなどの優しい治療法まであります。いってみれば、北風療法と太陽療法の例えに相当するかもしれません。
現在の保険診療で疣に対する適応が認められているのはほぼ上記の治療法のみです。しかし、いずれも治療成績は一定していません。すぐに治るケースもありますが、何カ月も何年も皮膚科に通っているのに治らないというケースもあります。
それで、疣の治療は民間療法も含めて、保険適用外の治療も多種多様あり、それぞれの皮膚科医が苦労し工夫し治療しているようです。中には「いぼとり地蔵」が良いとするものもあります。いずれも、上記の北風と太陽の間のどこかに位置する治療法といっていいかと思います。
このようにいぼの治療成績が一定しないのは、患者サイドの疣に対する免疫力が個人、個人で異なっていることによると思われます。
それでも、やり方によって治療成績を上げることも可能かと思います。思いつくままに、経験したエピソードを列記します。
*昔、疣の処置をやっていると、教授がそんな生ぬるいやり方ではだめだと、大きな綿棒にたっぷり液体窒素を含ませて疣の周りが真っ白くなるまで何回も処置を繰り返しました。患者さんは痛さを必死で我慢しているようでした。それから数日して、疣の周りまで大きな水疱になって歩くのもままならないといって再受診しました。患者さんはとても辛そうで不満げでしたが、長らく治らなかった疣が水疱の治癒と同時に治っていました。耐えられるならば強力にやるのが効果的でしょう。但し、水疱を作って苦情を言われたことは度々あります。
*足底の大きな疣の女子がいました。大きく盛り上がって周りが赤くなっています。化膿しているかと思って、抗生剤、痛み止めを内服してもちっとも効きません。液体窒素をいくら頑張っても効きませんし、痛がって手も付けられません。本人も母親も不安になり、次第に不信勝ちになってきました。本当に疣ですか、という始末です。削って少しでも疣の体積を小さくしようとしましたが、痛がって処置もままなりません。仕方なく局所麻酔をして削ることにしました。最初は痛がっていたものの麻酔が効いたのでこことばかり疣の底まで削りました。少し血は滲んでいたものの、この時とばかり強く液体窒素を押し付けました。この時を境に疣は急速に縮んでいき、周りの赤みもなくなっていきました、多分体が疣と戦っていたのでしょう。結果として強力な治療法も良い場合もあると思いました。
ただ、手術療法は一般的とはいえませんが。
*足底の疣は治りにくいのですが、ブレオマイシンという抗がん剤を薄めて局所注射するのはうまくいくとかなり効果的でした。但し、麻酔薬を混ぜてもその痛みは激しいものがありました。痛い程度に表皮基底部分に射ち当てるのがこつですが、深くやりすぎると皮膚の壊死を起こす恐れもあります。適当に射つのが難しいのと、痛みが辛そうなので現在はやっていません。
*炭酸ガスレーザーも効果はあります。しばらくやっていましたが、皮膚の焦げる臭いはしますし、蒸散した空気中にもウイルス粒子が散らばるとのこと、やりすぎると火傷痕に残ることなども考慮し、現在はやっていません。
*漢方薬のヨクイニンは不思議な薬です。長年治らなかった手の多数の疣の患者さんが、内服後1カ月でほぼきれいになった例がありました。これは効いたなと思う例は多数あります。ところが、いくら飲んでもちっとも効かないという人も多くあり、この見わけがなかなかつきません。多分免疫力の違いなのでしょう。
*疣のなかでも、青年性扁平疣贅は自然治癒の多い疣です。手や顔に多数でき、ひどくなって赤く膨らんできた、といって受診した患者さんには厳かに、「これは良い兆候です。数週間すると治ってきますよ。」といってヨクイニンを渡すと大体治ってきます。このような時は易者か占い師になったような気分です。名医かなとも思いますが、たまに外れる時もあり、こうなると藪医者に格下げです。
*疣には暗示療法というのもあります。得てして、医師を信用していて積極的に治療をする方が治癒率が高いように思われます。(科学的ではないですが) それで、はかばかしくない場合は思い切って主治医を変えてみる(ころころ変えるのは賛成し兼ねますが)のもありかと思います。
*フェノールやステリハイド、モノ・トリクロル酢酸もうまく利用すると疣が腐食し剥がれて良いとのことですが使用には注意が必要です。

「たかが疣、されど疣」、ウイルスの遺伝子配列は全て解明され学問は進歩しているのに疣の治療は一筋縄ではいきません。あまり治療に関してウイルス学者の講演も聞きません。それ程に現代の科学を越えたところの何かがあるように感じます。皮膚疾患解説の疣の項目も参照してみて下さい。

緑化植物園

今年の冬は例年になく寒く、そのせいかしもやけ、湯たんぽ・あんかによる低温やけどが随分と多くみられました。それでもやっと暖かい春めいた日が多くなってきました。 そんな陽気に誘われて久しぶりに緑化植物園にいってみました。 新しくカメラを買って、試し撮りをしたいというのもありました。妻には写真は機械ではなく、構図やセンスだといわれ確かに自分でもそんな気がします。山の写真も数だけは多いですが、どれも平面的で自分でもどこの山か分からなくなる時もあります。  寒い日が続いたせいか、まだ全体的に植物園は冬の装いから抜け出していないようでした。 でも、もうしばらくすると桜も満開になり、バラ園も賑やかになるでしょう。 植物園の中で目にとまった風景を切り取ってみました。  1.jpg2.jpg3.jpg4.jpg5.jpg6.jpg7.jpg8.jpg9.jpg10.jpg

中原寺メール3/28

【住職閑話】~ランデブー~
 ランデブーとは今ではあまり使わない古い言葉かも知れませんが、ここのところ二匹の猫が毎夜8時頃になると玄関先に咲く満開の梅の木によじ登って愛を楽しんでいます。
 私は正直猫はあまり好きではありません。どこからでも庭に入ってくるし、臭いおしっこをします。特に盛りのつくシーズンに呼び合う鳴き声は下品でうるさく、あっちへ行けと思います。
 でもこの二匹は静かで、木の上や屋根の高い所をランデブーの場と決めたようで、何とも愛くるしいのです。「屋根の上のバイオリン弾き」の心境なのかもしれません。
 丁度いま西の空には大きな金星と木星がお月様を中にして地球を照らしています。純愛を失った人間どもと違って、この二匹の猫は天空の二つの星とランデブーの競演をしているようです。
 さて、仏教では人間の起こす愛は煩悩であって、渇愛とか愛欲とか愛憎とか愛着と表現されるように、人間の本能(自己愛・執われ)から生まれる罪の意識に苦悩せざるを得ないと申します。
 好きなものはどこまでいっても独占したい、貪りたい、それが遂げられないと憎しみに変わっていく恐ろしさをもっています。
 親鸞聖人は、「心暗く煩悩のはげしいことは、ちりのようにわが身にみちみちている。自分の心にかなうものはこれを溺愛し、逆に気にくわぬものはこれを瞋(いか)り憎んでいる。その激情のはげしいことは、ちょうど高き峯や山にたとえられる」と、はてしない愛欲に沈む姿を痛んでいます。

無題

このところ、あたふたした日々を過ごしました。小さな集会ですが、ヘルペスの講演を頼まれたり、春の肌荒れ、夏の皮膚病などの小さな記事を頼まれたりした時期が重なってしまいました。大した知識の蓄えもないので、このブログに書いてきたような内容の焼き直しのような内容でしたが、それでも結構疲れました。
たまになら、人前で話したり、書いたりすることは自分自身の知識の再確認にもなり、また知らなかったことの確認・習得にもなり有意義です。
しかし、今回のように重なると、頭がついていきません。やはり、身の丈にあった程がよいようです。
そういえば、しばらく新しい皮膚疾患のアップもしていませんでした。感染症について書いてきましたが、(まだ性感染症、結核、輸入感染症など色々あるのですが、)ひとまずおいて湿疹、皮膚炎について書いてみようと思っています。

フッ化水素による化学熱傷

フッ化水素酸系の洗浄剤による化学熱傷の患者さんが受診されました。 建物の外壁の洗浄をしていて、手袋に穴が開いていて洗浄剤が手にしみ込んだとのことでした。見ると右手の親指の先端が赤く腫れています。爪も白~黄色く変色しています。かなり痛みがあるとのことでした。一見して、フッ化水素酸によるものかと思いましたが、患者さんの同僚はフッ素ではないと言ったとのことでした。いずれにしても化学熱傷には違いないので、意外とひどくなる可能性もあること、もし再確認してフッ素系ならば、救急外来でもよいからすぐ受診するように指示して、抗炎症処置をして紹介状を持たせて帰っていただきました。 翌日、早速病院から返信がきましたが、やはりフッ素系の洗浄剤(酸性フッ化アンモニウム)とのことでした。爪の下には血膿がたまっていて、穴を開けて洗浄したとのことですが、抜爪の予定だ、とありました。 フッ化水素酸系の洗浄剤による化学熱傷はたまに見ますが、皮膚組織のCaと結合して不溶性の物質(CaF2)を形成するまで、深部の組織まで破壊して浸透していきます。そして深い潰瘍を作ったり、骨までにも達することすらあります。 これをくい止めるためには、グルコンサンCaの局所注射や、それによる洗浄が有効とされます。しかし、指先では循環障害を起こすので局所注射もできない場合があります。特に爪には血流がないために、爪下にフッ素がたまり、潰瘍を形成し易くなります。フッ化水素は、石材、金属、タイル、外壁などの洗浄に用いられ、石材、ガラス、陶磁器には作用する唯一の洗浄剤とのことです。これは業務用の洗剤として広く用いられている割にはその危険性が十分に認識されているとは言えません。このことでビルメンテナンス業界では問題になっているようです。 2000年以前では、25%以上の高濃度のものが多かったのが、それ以降はむしろ低濃度の被害が多く報告されています。低濃度のものは、皮膚にすぐに傷害を現わさず、遅れて皮膚障害や爪下の潰瘍、壊死などが現れる傾向があります。  今回の患者さんも爪の下は血膿とのことですので、深い潰瘍が生じる可能性があります。 この洗浄剤は業界用で、家庭用には販売されていませんが、近年はインターネット経由で手に入るともいいます。 硝酸、石油ベンジン、氷酢酸、石灰硫黄合剤、苛性ソーダなどいろいろな化学熱傷がありますが、フッ化水素酸系の熱傷は、皮膚深く浸透、傷害していきますので、早急な治療が必要な緊急性の疾患であることを知っておいて下さい。 化学熱傷.JPG

中原寺メール3/15

【住職閑話】
 とにかく、やたらと地震が多いですね。
大震災から1年が過ぎてもまだ誘発地震が続くというのですから、昨年の3月11日に起きた地震がいかに巨大であったかが知らされます。
 また首都圏直下型地震が起こりうる可能性があるといわれると、気持ちの上でも萎縮してしまいます。
 勿論「備えあれば憂いなし」の諺の実行こそが大切であることはわかっていますが、大自然界が相手の驚異ですからあまり神経質にならずに足元、つまり今日の自分の周りにある明るさに目を向けることが良いのではないでしょうか。
叶わぬ取り越し苦労は、いい加減にすることが賢明な生き方です。
 いつまで続く今年の寒さといらだっていたら、梅の花がチラホラと咲き始めました。そして内庭にある「わびすけ」の花が一輪こちらを向いて微笑んでくれています。普通ならすぐに落ちてしまうのが特徴の花ですが微笑を絶やさないのは寒さのせいでしょうか。
 「暑さ寒さも彼岸まで」、人間の思惑に関係なく大自然はすべてを包み込んで運行しているのです。
 お彼岸は心静かにして法話に耳を傾けませんか。きっと落ち着く世界を見出せますよ。

「患者満足度を考える」

抗アレルギー剤についての講演会がありました。それは、それでためにはなったのですが、後半の話はいつもと一寸変わっていました。医師ではなくマーケティングリサーチの会社の方の「患者満足度を考える」というものでした。このような話は初めてでしたので一寸した新鮮な驚きがあり、目から鱗の講演でした。
患者さんの満足度は医師のコミュニケーションの質と専門的知識の両方が大切だが、特に前者が重要とのことでした。すなわち、相談のし易さ、訴えを良く聴いてくれること、説明の解り易さといった事などです。統計によると、転医した理由で唯一有意差がでたのは、説明の解り易さ(難さ)で、診察時間の長さにはあまり関係はなかったとのことでした。
マイナス評価は、会話を遮られた、医学的専門用語が多かったということで、プラス評価は共感し、促し、要約し、受容、「他に何かありませんか」等の質問をしてくれる、などとのことでした。
そういえば、思い当たる節がありました。帯状疱疹の患者さんがいらして、本をみせながら割と詳しく「過去に水ぼうそうにかかって一旦治っても、そのウイルスが体の中に潜伏し、体力が弱って免疫力が低下し、それが2回目に再活性化して再感染したものです、治療法はこれこれ、注意点はこれこれ」などと医学的な事柄を説明し終わり、処置室で看護師に処置をしてもらっていました。その際その患者さんが看護師に原因は何なんだろうね、としきりに質問しているのが聞こえました。看護師が、あなた疲れていたんでしょう、というと患者さんはそういえば風邪ぎみでだるかった、ああそれで原因がわかったと納得したように話しているのを聞いて愕然としたことを思い出しました。
小生の医学的に専門的な説明が全く患者さんに通じず、看護師の一言でやや的外れとは言え、患者さんが納得したのです。
専門的用語が多く、相手に解りにくい説明をしていたのかと一寸身につまされました。
解りやすく、丁寧な説明、受容的に人の話をじっくり聞く、ということは大切なことは重々わかるのですが、仮に一人1分長く話すと、60人で1時間長くなります。その分また待ち時間が長くなるということになります。待ち時間の長いことも患者さんの不満の上位にあります。
この二律背反の難問を解決するのは至難の技のように思えます。患者数が少ないのが一番いいのかとも思いますが、誰も客がいない食堂に入っていくのには一寸ためらいがあります。この店は大丈夫なんだろうか、と思ってしまいます。やはりある程度混んでいる店のほうが何となく安心するものです。商売としてもやりがいがあるというものです。
短い時間で的確に相談したいこと心配なことを聞き出し、なるべく平易な言葉で説明すること・・・自分の一番苦手な項目かもしれません。そのような事は教育されなかったし、あまりそのことを努力してきたとはいえません。
また同じ待ち時間でも対応の仕方、一寸したお知らせや工夫で随分いらいら感が軽減されるとの説明もありました。
すぐに解決できる問題ではなく、長年のやり方がすぐ改善されるとも思いませんが、患者さんの満足度(不満度)を講演で聴き、その重要性を認識する所から意識改革の第1歩が始まるのかと思いを新たにしました。

あれから一年

そが皮膚科のホームページを立ち上げてから1年が立ちました。青葉の森に散策に行き、新しい木々の芽吹きや草花の芽生えに、新鮮な感慨を覚え、年甲斐もなく一寸高揚した気分になったことを思い出します。
 そして、何ということでしょうか、その直後にあの大震災が起こってしまったのでした。
この所、テレビで1年後の復興を祈念した大震災特集を連日のように放送しています。
見る度にその悲惨さを思い知らされ、心が重く塞がってしまいます。何かこの所、我が日本が集中的に艱難を被るような気がして神も仏もおかしいんじゃないかと、被害妄想に陥ってしまいそうです。でも、神代の昔から大和民族は自然の猛威を畏れ敬いながらも脈々と生計を営み、文明を発展させてきたのですね。きっと、また力強く再生していくでしょう。地震の巣の上に成る日本列島から逃げ出すわけにはいきません。
 日々、気にはなっていてもちっぽけな自分には何もできません。些少な義捐金でせめてもの応援をしたいと思います。東北の皆さんの復興を祈念します。
 あの日以来、自分の人生観も一寸変わった気がします。良い方向か悪い方向か未だ解りません。ただ、一日、一日が少し重くなったような気がします。人生は有限で終わりに少しずつ近づいているのを意識させられました。
 そして、生涯一皮膚科医として少しでも何か新しいものを吸収したいと思っている今日この頃です。

医会で思ったことー補遺

皮膚病理の大切さを続けて書きました。
それは、まぎれもない事実なのですが、一寸皮膚生検が万能だというメッセージを与えてしまったかなと思い直しました。それを打ち消すわけではないですが、追加のコメントを書きました。
皮膚の病理組織は、腫瘍では比較的に明確な診断が得られますが、湿疹、皮膚炎などの炎症では、非特異的な炎症細胞の浸潤を示し、診断の根拠にならないことも多くみられます。
また血管炎など、採る時期、部位によっては却って診断を間違うことすらあります。
更に、腫瘍においても、専門の皮膚病理の先生同士の意見が、学会の討論の場で、良性、悪性の正反対の結果に真っ二つに分かれることすらあるのをたまに経験してきました。Pseudomalignancyという言葉がありますが、これは偽悪性とも訳すのでしょうか、悪性腫瘍の病理所見のようであって、臨床的には良性の疾患に対する言葉です。
小生の大学在籍当時もこのようなケースがありました。顔面の有棘細胞癌(?)の患者さんでした。顔の正面にキノコのような腫瘍ができ、皮膚生検でも悪性像です。日増しに大きくなって顔の中央に盛り上がる巨大な腫瘍になりました。手術は植皮を含めて大がかりなものになります。教室の大部分の先生が拡大手術もやむなし、という結論でしたが、当時の腫瘍チームのリーダーの小林講師は頑として「これはケラトアカントーマ(偽癌)だからそのうち自然治癒する」として手術を延期しました。これで手遅れになったら、大変なことになると我々は危惧しましたが、顔面の中央に極大にまで成長した腫瘍はその後次第に縮小していき、ついに自然治癒していきました。成書には2cm程には成長するとありますが、そんな半端なものではありませんでした。皆小林講師の慧眼に恐れ入ったものでした。こういったような癌か、良性腫瘍か判らないケースは、メラノーマ(悪性黒色腫)でも、リンパ腫でも、線維肉腫でもたまにみられます。
また、乾癬に似た類乾癬で後年悪性化する例があるのですが、数十年前の乾癬または類乾癬の患者さんが、菌状息肉症(悪性)になった例も経験があります。
すなわち、ある時点のある病理組織のみで結論づけると判断を間違うこともありうる、ということです。
千葉大学の元助教授で、臨床、病理に優れた眼力を持つ藤田先生はある時、雑誌に面白いことを書いていました。曰く、4次元診断法です。目で見、病理組織をみても検査をしても尚且つ結論に至らない場合、何かしっくりこない場合は時間の経過を待ってその病気の変遷を追い求めるというものです。見ている内に隠されていた病気そのものが本来の姿を現してくることもあります。
蓋し、名言だと思いました。
 皮膚病理についての舌足らずな思いの追加コメントを書きました。

医会で思ったこと

今日は船橋で皮膚科の医会がありました。 いつも通り西山名誉教授の名講義がありました。今日のお題は乾癬と似て否なる疾患でした。次々に繰り出される疾患のスライドは多種多様で圧巻でした。さすがに、長いこと皮膚科をやっていると初めて聞いた疾患というものはあまりありませんが、自分なりに鑑別疾患を考えながらみていると、思っていたとおりのものもある一方、思いもかけない疾患もありました。正解を言われてみると後だしジャンケンみたいにああそうだ、と納得しますが、すなわち自分では正解できなかったということに他なりません。 皮膚科の診断は多くの疾患を見聞きし、記憶することでしょうが、眼でみて解らない時は更に進んで病理組織を調べ、必要な検査を進めていくわけです。 その先の検討を日々行っていなければやはり、何年皮膚科をやっていても名医にはなれないと思うこの頃です。 ただ、皮膚科の奥深さと面白さは少しずつ感じる日々でもあります。