月別アーカイブ: 2013年2月

AAD(マイアミ)へ行ってきます

明後日から、マイアミのAAD(American Academy of Dermatology)の学会に行って来ます。1週間ほどお休みしますので外来通院の皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご了承下さい。
多少とも役にたつ知識を仕入れてきたいと思っていますが、勉強ならば日本の学会に出て、わかる言葉でしっかり聞いたほうがためになるに決まっています。半分遊びですが、何回か外国の学会にでていると何となくためになるような気がします。(全然理論的ではないですが。)
インターネットの環境が許せば、マイアミの現地から映像をお届けしたいと思います。

乾癬の講演

先日、旭川医大皮膚科教授の飯塚一先生の講演がありました。「乾癬治療のピラミッド計画――2013」というものです。 飯塚先生は長年乾癬の研究を続けて来られて、日本の乾癬研究のトップリーダーの一人、というか第一人者です。 乾癬の研究は紆余曲折を経ながらも、近年大きく進展、発展を遂げてきました。先生の講演は乾癬の疫学的なこと、臨床病型、近年進展を遂げた病態論、先生オリジナルの乾癬治療指針に基づいたピラミッド計画などを総合的にレビューしていただきました。 まず、興味深かったのは、日本の乾癬患者の男女比です。これは、どの統計を見ても母集団が多くなればなるほど、2:1に近づきます。諸外国では1:1です。何がその原因かは解っていないそうです。(本邦登録患者総数、約45000例、男30000例強、女15000例強) 臨床病型は尋常性乾癬が90%、乾癬性紅皮症、関節症性乾癬、膿疱性乾癬が各1%、滴状乾癬が3%、その他が4%だそうです。これは後に書く生物学的製剤の使用対象に非常に重要になってきます。 乾癬の病態は1990年代から唱えられてきたTIP-DCとTh17リンパ球学説によって飛躍的に進展してきました。細かいことは小生にはよく分かりませんが、Th17細胞の発見とそれからの表皮細胞の増殖、炎症惹起が理論上すっきりと説明でき、しかもこの理論通りの細胞をターゲットとした新薬が次々に生み出されてきました。(下記の図) この病態図で、Th17からの刺激を受けて表皮細胞は様々なサイトカイン、ケモカインなどの炎症惹起物質を放出して乾癬の病像を作るという流れが確立されてきました。 (その一つに好中球遊走因子IL-8というケモカインがあります。そこに並んでいるGro-alfaという物質はIL-8の近似物質で小生が昔米国ミシガン大学に留学していた頃ボスから指示されて患者さんの皮膚の抽出物から多くみられる事をみつけ発表した懐かしい物質です。Th17の病態図は最近の学会で必ずと言っていい程良く見かけますが、Gro-alfaは飯塚先生の図だけにしか書いてなく、多分先生位しか知らない、興味ない(?)おたく的な仕事ですが、他に書く機会がないので一寸宣伝を) 乾癬の治療方針は一度発症すると根治は難しいために、対症療法になってしまいます。治療は長期に亘ること、乾癬は慢性だけれども命にかかわらず、治癒に近づくほどに軽快することもある病気であることを踏まえて、治療の副作用を出来るだけ抑え、最大限の効果を引き出すことを目指します。先生独自の図によるピラミッド計画はガイドラインでも、アルゴリズムでもなく患者さんの目の前で書いて提示して、患者さんと共に治療法の選択をしていこうとするスキームだといいます。医師・患者双方の納得のもとに治療方針を決める枠組みだといいます。これをshared decision making(SDM)と呼ぶそうです。(下記の図) この図は非常にシンプルで分かり易く、小生も手書きで患者さんに示しながら説明に繁用しています。 ただ、これは先生が2009年に総説を書かれたものですが、「現時点では生物学的製剤の適応は認められていない、」と書いてあります。それがアップツーデートながら数年前の総説だということを知らせてくれます。こと程さように乾癬の治療の進歩は凄まじいものです。全ての皮膚疾患の中でこれほどに治療法の変わった疾患を知りません。 その後、生物学的製剤が認可されて3年たち、今やどこの学会に行ってもこの製剤の目覚ましい効果の発表で満ち溢れています。 先生の話の中でもう一つ印象的だったのは、乾癬の治療の満足度です。欧米では満足度は60%ですが、日本では50%だということです。これは日本の皮膚科医の治療が劣っているということではないと思います。多分国民性に依存するのではと思います。日本人は面と向かっては不満は述べませんが、その分内心には他人に言えないわだかまった気持ちを持っている事を医師も察知しなければいけません。 最近QOL(quality of life )という言葉を良く聞きます。人生の、生きる上での質とでもいいましょうか。乾癬についてのQOLで驚くべき結果を聞きました。重症の全身性の紅皮症と一般の尋常性乾癬のQOLが大して変わらないというのです。皮疹の面積などから算定されるPASIスコアという評価がありますが、これもQOLと一致しないというのです。これは医者が軽症だと思っていても患者さんは案外そう思っていないことを示します。 例えていえば、ピアニストの手、モデルさんの顔、若い男女の顔、陰部の難治性の皮疹、これだけであれば医学的には軽症です。ただ、これらの患者さんにとっては人生を左右し兼ねない重要な皮疹なのです。鬱、自殺さえもありうるとのことです。彼らにとっては重症です。 生物学的製剤は効果は抜群ではありますが、その副作用、値段の高さなどもあり、使用が大学などの専門医療機関に制限され、対象疾患も臨床分類での1%ずつの重症例に限られています。しかし適応範囲は先に述べたQOLをも含めた重症さを加味して拡がってきています。 飯塚先生の講演のすぐ後にも、東京支部総会での乾癬に対する生物学的製剤の講演がありました。岩手医大の遠藤先生、東京医大の大久保先生の講演でした。 いずれもその素晴らしい効果を述べられていました。ただ、その副作用、二次無効の例は東京医大の方が多かったようです。千葉大の例でも副作用の結核を防ぐために使用したイスコチンによる肝障害、二次無効が多く見られていました。施設により先生方によりその効果の印象は若干異なるようでした。 乾癬の治療は生物学的製剤を中心に長足の進歩をみせていますが、開業医の立場から見ると若干距離感を感じます 。使える施設が専門病院に限られるように皮膚科学会が制限を設けていること、実際内科的な副作用に対応できないこともあり専門病院にお任せ的になってしまい勝ちです。 こんな状況で札幌の小林皮膚科クリニックの小林先生の対応には驚くというか、敬意を表します。先生は北大時代から乾癬に取り組み、乾癬の会など患者治療をリードしてきています。開業しながらも、50人程もの乾癬患者さんに生物学的製剤の使用を勧め、ケアされています。小林先生の院長ブログには、世界のトップモデルのキャリディーやマスターズ優勝者のミケルソンも乾癬患者で生物学的製剤の伝道師だとありました。患者さんの感謝のコメントもありました。 「小林先生のことを知り、ステラーラと出会い、52歳で人生が変わりました。温泉も行けるようになりました。本当にありがとうございました。」 小林皮膚科クリニック(http://kobayasi-skin-clinic.com/) 小生はまだ、この治療に詳しくないこともあり、勧めはしますが積極的ではありませんでした。5年10年先の副作用や医療費もやや気が
かりです。(ちなみにステラーラは1本で3カ月は持ちますが、お値段は軽自動車なみだということです。但し、高額医療費助成金制度がありますので、支払い上限はあります。)しかし、これらの先進的な先生方の話を聞き、少し積極的に対応してみたく思いました。TIP-DIC&Th17キャプチャ.PNGピラミッド計画.PNG

中原寺メール2/25

【「ゼロ」の発見】
 ちょっと小難しいと思うかもしれませんが、できれば次の言葉遣いを一緒に考えてみて下さい。
 誰でも物事に行き詰まりを感じたり、閉塞感を打破したいときに、「イチから出直す」といいますね。しかしどうやら「ゼロから出直す」というのが正しいようです。
 それを思ったのは新聞記事に載った「司馬遼太郎」(1996年2月12日没)の仏教についてのこんな言葉からです。
 『仏教というのは基本的には「空」であるという。「空」というのは、数学でいう「ゼロ」という意味がいちばんわかりやすいのではないでしょうか。数学のゼロは、プラス一億もマイナス一億も同時に入っているものですから、無限に入っているものが同時に無限に生み出す元だということで、「空」という思想が、数学の「ゼロの発見」と同時に大いに発達したのではないでしょうか。「空」はすべての元であり、すべてを生み出す。「ゼロ」こそすばらしい、光に満ちているということなのです。』(司馬遼太郎対話選集4)
 「空」というとなんだか難しいように思ってしまいますが、「存在するものには、実体としての自我などはない」ということです。だから、とらわれの心がないこと、になります。
 だから「イチ」からとは、過去を引きずってしまっているし、自らのレッテルを貼ってしまっているから、固定した観念がすでにあるということになります。
 虚心坦懐(きょしんたんかい)といいますが、空=ゼロとは心に何のわだかまりもなく、そうした心で物事に臨めば、無限に生み出す新鮮な光の世界が開かれるのです。
 仏教のいう「空」を数学の「ゼロ」で説明してくれた司馬遼太郎は、さすが仏教に深い造詣をもっていた人だと改めて感心しました。
 「空」を説かれた釈尊はいインドでさとりを開かれたし、数学の「ゼロの発見」はインド人だそうですよ。

皮膚癌の初期症状

今日は千葉市医師会学術講演会で、皮膚外科のエキスパートの虎ノ門病院大原國章先生の講演がありました。対象が、医師会員全体なので皮膚癌の分かり易い、噛み砕いたお話で非常にためになりました。
「皮膚癌の初期症状~放置すればこうなる~」という演題でした。
代表的な皮膚癌を例示して丁寧に解説して下さいました。皮膚科医向けではないのでかえって皆に分かり易い話でした。本当に分かっている人はシンプルな話ができるものなのです。(小生がまとめを書くと却って分かりにくくなりそうで心配です。)

1. 悪性黒色腫(MM: malignant melanoma)
メラノサイトの癌です。癌とはいっても以前はmelanosarcoma肉腫とよばれていました。メラノサイトは表皮基底層に存在します。一般に’黒子の癌’と呼ばれますが、ほくろが癌になるわけではありません。当初から癌なのですが、ほくろと見分けがつきにくいのです。ただ、巨大な黒子からはメラノーマが発生します。
MMは皮膚以外にもできます。鼻腔、口腔内、眼瞼、陰部などの粘膜など。
その特徴は大きさ、形の不整、色の濃淡、多彩さ、などにあります。米国ではABCD基準としてチェックポイントがあげられています。(2012年11月9日の当ブログ参照)
黒子やしみ様のものが、不整に拡大し、中に色抜けしたり、ピンクや白色、赤、青色などを呈し、結節ができていくのが一般のコースです。
一般にMMは足が速く、すぐに転移し亡くなってしまう怖い病気とされますが、表皮内に留まってシミの段階でいる限り意外と数年は平気という場合もあります。例えば高齢者の顔にできるシミのようなlentigo maligna melanoma(悪性黒子型)では5~10年かけてゆっくり進行する例もあります。
MMは年寄りばかりではなく、若い人にもできます。中学生の大腿部の結節、受験のため様子見、20歳の娘さんの陰部のしみ、恥ずかしくて様子見、いずれも手遅れで亡くなった症例の呈示がありました。不安だったら迷わず皮膚科を受診することです。爪の黒色斑がある病院で良性といわれたものが、数年で拡大しMMだった例、口唇の斑が以前の病理検査で良性といわれたため、初診時MMを疑われたものの、以前の検査の結果を思ってか治療を拒否し、2年後には頸にまで転移し治療不可能だった例などの呈示もありました。
症状が進行したら、以前の経緯はどうであれ早めに皮膚科受診が肝要だということです。
最近はダーモスコピーの普及でMMの診断の精度がぐんと上がりました。いろいろな鑑別点はありますが、指紋、掌紋の色素で、皮溝に一致していれば良性、皮丘に一致していれば悪性と原則的には分けられます。

2.有棘細胞癌(SCC:squamous cell carcinoma)
表皮細胞そのものの癌です。表皮細胞にはデスモゾームという棘様の器官があり、隣の細胞が棘どうしで接着しています(細胞間橋)。それで表皮の細胞のことを有棘細胞と呼びます。局所破壊性に進行しますが、早晩リンパ行性、血行性に転移します。
紅斑、潰瘍、隆起結節を作りますが、表面は角化や痂皮を伴い、異臭(癌臭)を発します。盛り上がる場合と、深い潰瘍を作ってえぐれる場合がありますが、後者の方が予後は悪いです。
SCCには前癌症や前駆病変を伴います。以前は熱傷瘢痕からのものが多く見られました。褥瘡や慢性骨髄炎からのものもありますので、慢性の難治性の潰瘍には注意が必要です。それ以外に放射線治療後や、化学発ガン物質やいくつかの特別な疾患からの発生もあります。しかし、最近増えているのが中高年の顔など露光部に紫外線の影響でできる日光角化症由来のものです。(当ブログ2月3日 日光角化症の最新情報参照)
一般に日光角化症由来のSCCは比較的たちが良いといわれていますが、もちろん放置していると転移することもあります。
この癌でも、若い頃やけどをして40歳で膝上に潰瘍ができ、皮膚科で検査してその時は非特異的な肉芽腫という病理診断だったのが2年後に再来した時はSCCで鼠径部にも転移していたという例とか、某大学で顔のケラトアカントーマ(KA)と診断されたものが2年後には顔のSCCとなっていた例などの呈示もありました。(ちなみに以前千葉大での経験を書いたことがありますが、KAとSCCの鑑別は非常に難しいです。小生の経験したものはこの場合と真逆で、顔の巨大なカリフラワーのような腫瘤が自然に消えていきました。)
SCCでもそうですが、ある時点での病理、臨床診断は必ずしもその先のことを予知していないので、何か変だったり、悪化したら何ヶ月も放置しないで再受診することが必要と感じました。

3. 基底細胞癌(BCC:basal cell carcinoma)
悪性のハマルトーマ(過誤腫)で基底細胞に似た形態の細胞の増殖です。悪性度は前2者に比べると低く、局所破壊性ですが、転移は稀です。高齢者の顔に多発し、特にシワの部分、眼、鼻、耳の周囲によくできます。中央部が潰瘍を形成して、縁取りが隆起して表面は平滑で光沢があります。色は白人、色白の人は皮膚色、紅色ですが、どこかに黒色、灰黒色がみられます。触るとしこりを触れます。
ひげ剃り後の傷が治らない、ほくろをいじって傷が治らないなどの症状で受診することも多いですが、癌との自覚もなく、シワに隠れて見つけにくく、特に耳後部などは医師、家族に指摘されて初めて気づくことも多いそうです。

4.Paget(パジェット)病
高齢者の外陰部にできるアポクリン汗腺の表皮内癌として発症します。初期は淡紅色から褐色調の斑状の病変として始まるので診断は難しいです。病理組織像をみるとムチンを含んだ明るいPaget細胞が増殖し、管腔構造がみられます。
肛門周囲、腋窩にもできます。しばらくするとただれ、じくじく、痂皮(かさぶた)などを生じるようになります。症状が湿疹、たむし(頑癬)、外陰部カンジダ症に非常に良く似ているために病院にかかっていても発見が遅れることがしばしばあります。病変が表皮内に留まっているうちは手術で完治できますが、さらに進行して浸潤、硬結、結節を作るようになるとリンパ節転移をおこし、さらに血行性、リンパ行性に全身転移を起こせば予後は不良で、半年から1年で死に至ります。
高齢者の外陰部のなかなか治らないただれは要注意ということです。

当日は綺麗な写真、素晴らしい手術写真などを見せていただき、専門医でない医師にも皮膚癌の見方がわかるように懇切丁寧に講義していただきました。
機会があれば、一般の市民の皆様にもみてもらえば非常に役にたち、癌予防の意識向上にもなると思える講義でした。

MM,SCC,BCCについて参考までに写真を載せてみました。
但し、これは皮膚癌の初期症状ではなく、ほっておくとこうなります、というような進行した例ですが。
paget病については陰部でもあり適当な写真がみあたりませんでした。陰部から股にかけての赤み、湿疹様の変化(紅斑・鱗屑・小水疱・痂皮)の中にただれ(糜爛)、腫瘤がみられれば要注意です。

BCC

BCC

MM1

MM1

MM2

MM2

SCC

SCC

東京支部総会–血管炎

日本皮膚科学会東京支部学術大会がありました。
今年は日本医大の川名誠司教授が会長です。先生は血管炎の専門家で、学会は2月16日、17日の2日に亘って、血管炎や下肢の循環障害をメインテーマに据えた、一寸マニアックな学会でした。
実は、下肢の血管病変による皮膚の病気はかなり多く、日常の外来でも毎日のようにみるものです。若い頃、ベルリンの国際皮膚科学会にいった帰りに助教授について、ハイデルベルグ大学を訪問したことがありました。そこで、ドイツの皮膚科事情を知ったのですが、古く有名な皮膚科のせいかもせれませんが、皮膚科の病棟は入院ベッドを何十床も持っていました。そして、一番多い病気が下腿潰瘍だったのです。
ドイツ人は体重の重い人が多いためかもと思っていましたが、日本でも食生活の西洋化や高齢化なども相まってか、年ごとに下腿の皮膚のトラブルを抱えた患者さんが増えてきているようです。
下肢、足の血管病変はひどくなれば、潰瘍、壊疽となって足切断などという重篤な経過を辿ることもあります。原因も多彩で皮膚科だけの対応ではどうにもなりません。
例えば閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obriterans)の臨床症状はⅠ度からⅣ度に分けられ、Ⅰ度は無症状、Ⅳ度は潰瘍・壊死とされます。Ⅱ度だと間欠性跛行、Ⅲ度だと虚血性安静時疼痛が生じます。ただ、Ⅰ度の無症状期こそ皮膚科医の出番だということです。患者さんはいろいろな皮膚病で皮膚科を受診しますが、足をみて、水虫が悪化したり、皮膚に傷が出来やすかったり、触った時の皮膚温が冷たかったり、脈が弱かったりとⅠ度の無症状期でも早期に発見出来得るのは皮膚科医ならではというのです。ASOで下肢切断に至ると、その予後は肺癌の予後よりも悪いとのことでした。早期発見、早期治療が重要ということです。
足の小さな赤い斑点だけでも、膠原病や細菌性心内膜炎やコレステロール結晶塞栓症などを疑うことができるのも皮膚科医の強みです。(ただ、知識として知っていても確定診断はとても難しそうですが)
治療は内科、血管外科、整形外科、形成外科などのチーム医療が必要ですが、初期病変を早期に見つけ出し、各専門医と連携を取ることが皮膚科医の役目かと認識させられました。(この項、壽順久先生)
沢田泰之先生は都立墨東病院で下肢の血管病変を精力的にみている先生ですが、外科の出身だけあって一般皮膚科を越えた治療も行っています。そのグループの大久保佳子先生の静脈性循環障害による皮膚症状の講演は分かり易いものでした。皮膚科では静脈性の循環障害をみることが最も多く、下肢静脈瘤、血栓性静脈炎、深部静脈血栓症をレビューしていただきました。
西山茂夫先生は、川名教授の北里大学時代の上司ですが、血管炎の大家で血栓症・塞栓症の数々(血管炎と似ていて非なる疾患)を面白く見せていただきました。
陳科榮先生の病理の講演も目からうろこでした。「血管炎の診断は洋の東西を問わず、間違いやすい、Leverの教本のこの写真も、Rookの教本のこの写真も間違いです。これは壊死性動脈炎ではありません、静脈です。」エエー、と絶句してしまいました。LeverやRookの本は金科玉条のように信じてきた本だったからです。
石河晃先生の感染に伴う血管炎も見たこともないものでした。心臓疾患があり、感染性心内膜炎や、敗血症からくる電撃性紫斑病など、名前は血管炎でも感染の治療や集学的をしないと大変なことになる病気をみせてもらいました。
光嶋勲先生のスーパーマイクロサージャリーの講演は昨年の日皮総会でも見聞きしましたが、すばらしいものでした。下肢切断を留まる最後の砦です。患者さんがどうしても切断したくない、長年の治らない傷を何とかしたい、という切実な願いをかなえてきた先生の手術は正に神業のようなものでした。0.5mm以下の血管、リンパ管吻合は箸を持つ文化の日本人にしかできず、以前は長いこと欧米の雑誌からはインチキ、トリックだろう、と信じてもらえなかったということです。真実とわかった現在は全世界を講習会で飛び回っているということです。
下肢の血管炎、循環障害をめぐる病気は多岐にわたり、診断も治療もとても難しいものですが、これを機会に遅ればせながら勉強を、と思い川名誠司先生、陳科榮先生共著の「皮膚血管炎」を購入しました。
(肝心の血管炎の分類のこと、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、Henoch-Schonlein紫斑病、皮膚アレルギー性血管炎、リベドのことなどあえて何も触れていませんが、よく分からないのでパスしました。)

マダニによるウイルス感染症(SFTS)

最近、マダニを介して感染する新型のウイルスが引き起こす重症熱性血小板症候群SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome) の報道がありました。
今まで聞いたこともなく、皮膚科の本にも載っていません。
新聞報道によると、2011年に中国で初めて特定されたウイルスによる病気で、7省で数百例の報告があり、致死率は12%とのことです。SFTSウイルスはダニを介して起こるクリミア・コンゴ出血熱と同じ科に属するとのことです。
日本国内での死亡例も3例あり、国立感染症研究所の遺伝子検査でSFTSウイルスの遺伝子が確認されたとのことです。ただ、中国のものとは型が少し異なっていて、専門家は元々日本に存在していたものだろうと推定しています。
それでは、過去にも同じ様な症例があったのだろうか、そういった例は何と診断されていたのだろうか、という疑問は残ります。考えられるのは、何らかの原因でウイルスが遺伝子変異を起こしてヒトへの病原性を獲得したのかもしれません。
ただ、ダニにかまれても全て発症するわけではないので、必要以上に怖がることはなく、気付いたらすぐに皮膚科を受診するように、との専門家のコメントがありました。
節足動物門、ダニ目のうち比較的大型の一群(後気門亜目・・・マダニ亜目)をマダニと呼び、イエダニやツツガムシやヤケヒョウヒダニなどのコダニ類とは区別します。コダニ類はは0.5~1mm程とごく小さいものです。マダニは3,4mm以上で吸血するともっと大きくなります。日本ではマダニ科とヒメマダニ科の2科があり、約10~20種類のマダニが人体に寄生します。
そのうち、ヤマトマダニが最も多く、シュルツェマダニは細長く、脚も長くライム病ボレリアを伝播します。他にタネガタマダニ、カモシカマダニ、フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニなどが人体に寄生するとされます。SFTSの宿主はフタトゲチマダニだそうで、全国の野山に広く分布しているそうです。
これらのマダニの鑑別同定は医動物の専門家でないと難しく、普通虫体は3mm程度が多いが、吸血によって急速に増大し時に20mmにも及ぶそうです。色も種々のものが、吸血によって赤褐色、黒色に変化するそうです。虫体は口下片を皮膚に深く刺入し、黒色の有茎性の疣のようにみえます。無理に引き剥がそうとすると、口下片が皮膚内に残ってしまい病原体を残すことにもなり、また異物肉芽腫を作ったり、二次感染をおこしたりします。ただ、チマダニ類は口下片が短く、指で容易に取れたり、自然に脱落することもあるそうです。
まず気づいたらグリセリン、ワセリンなどを塗り、マダニの気門を塞ぎ、酸欠状態にして自然脱落を待ちます。それでも脱落しない場合はなるべく早く皮膚科を受診して、周りの皮膚を含めて皮膚切除をしてもらうのが確実です。
今までマダニが媒介する病気は日本紅斑熱という、ツツガムシ病に似たリケッチャによる感染症と、ライム病という遊走性紅斑や筋肉痛、強皮症などを生じるスピロヘータ・ボレリアによる感染症、野兎病位しかありませんでした。それで、しっかり切除して、テトラサイクリン系の抗生剤を使用すればまず上記の発症を防ぐことができました。
しかし、これからはSFTSのことも考慮する必要性がでてきたということです。

一般の注意、対処としては野山、草むらに分け入る時は、なるべく長袖などで、素肌を晒さないこと、地面で寝ころがらないこと、帰宅後は無症状のこともあるので、ダニがついていないか入浴時によく確認することなどが大切です。マダニは吸血すれば赤黒く大きくなるので見つけ易いそうです。
マダニ咬着後24時間以内に除去すると感染する確率が低いそうですが、SFTSではどうなのでしょうか。しかし、早期に発見して除去するのがベストでしょう。
ダニが見つからなくても、刺し口がみられることもあります。ツツガムシ病では1cm内外の黒色痂皮をつけたものがみられますが、日本紅斑熱では刺し口はもっと小さく、不明な場合もあるそうです。SFTSの場合も刺し口が不明の場合もあるそうです。
それで、野山に分け入ってから風邪症状、高熱が数日続けば早めに病院を受診すること、ダニの刺し口がないか探すこと、受診した際に、行動歴を告げることが大切かと思います。紅斑、紫斑があれば更にこれらの病気を疑わせます。重症になると、血小板が減少して多臓器不全になって不幸な結果になってしまうこともありますが、早期ならば補液、輸血などの対症療法で改善させうるとのことです。

読売新聞2月15日の記事を参考にしました。

マダニ.JPGマダニ南房総6月ー胸.jpg

スーパー南京虫

2012年7月17日のブログにトコジラミ(南京虫)のことを書きました。
それを基にお役立ち情報を千葉県皮膚科医会への情報文として書きました。その後同僚の皮膚科の先生(千葉中央皮膚科田辺恵美子先生)より、スーパーナンキンムシの情報提供を受け、それを基に改訂版を書きなおしました、(なおしていただきました。)
基本の内容は前回のものと同様ですが、薬剤が全く効かない南京虫が増えてきて、日本国内でも大勢を占めてきているということが大きく異なります。
これについては、NHKのクローズアップ現代でも取り上げられたようで、ご存じの方も多いかと思いますが、念のためそのコピーをアップしておきます。

報道によると近年中東などでピレスロイド系の殺虫剤が過剰に使用されたことで薬剤耐性を獲得した南京虫が生き残り繁殖して旅行者の荷物などと共に米国に渡りさらに繁殖を繰り返して大量発生に至ったものと思われます。
欧米などのホテルや大手衣料品店などが休業に追い込まれたり、訴訟を起こされたりと社会問題にもなっているそうです。日本の現在の状況はアメリカの5年前の状況と同じとのことで今後のことが危惧されます。
今のところ、家庭で我々ができることは虫をみつけたら掃除機で吸い取る、テープではぎ取る、温風乾燥機で高温にして殺虫するといったことぐらいだそうです。

スーパー南京虫.jpg

富士山を見に

連休が近づくと、無性に雪山を見てみたくなりました。八ヶ岳もいいな、赤岳鉱泉から大同心でも写真に撮りたいななどと思いました。しかしあそこは結構寒く風の強いところだしなどと、ぐずぐず躊躇しているうちに結局楽な富士山の写真撮影行になりました。
三つ峠からの富士もいいな、と思いながら車でなるべく高くへと四駆で山道を上がりましたが、道は途中で鎖によって封鎖されていて前進できず、結局富士山周遊ドライブに落ち着くことになりました。
富士吉田からみる昼下がりの富士は厚い雲に覆われていて写真は無理かなと思われましたが、除々に山頂が現れてきました。
河口湖、西湖と撮影していきましたが、次第に陽が翳っていきました。
千円札にも印刷してある富士のスポットという本栖湖畔へと急ぎました。湖畔の道路を進むと愛好家達が撮影している場所がありました。小生もその中に加えてもらい暮れなずむ富士を撮りました。夕焼けに赤く染まっていく富士がきれいでした。
家に帰ってから山の写真をみていると、結構いろんな所から富士山の写真を撮っていました。その当時は単にスナップとして撮ったのでしょうが、こうしてまとめて見ると富士を通してそれぞれに思い出に残る山行の数々が新たな彩で蘇ってきました。
河口湖より.JPG西湖より.JPG本栖湖より1.JPG本栖湖より2.JPG本栖湖より3.JPG本栖湖より4.JPG本栖湖より5.JPG本栖湖より6.JPG本栖湖より7.JPG本栖湖より8.JPG金峰山から.JPG南アルプス東岳辺り.JPG光岳朝日.JPG光岳朝.JPG影富士.JPG影富士2.JPG富士山頂.JPG

にきびQ&A(I)

ニキビについて先のブログにいろいろ書きましたが、実際の治療にはあまり役に立つ内容ではなかったと思います。
そこで、実地医療の現場で患者さんが知りたいであろう疑問点をQ&A方式でできるだけ判り易い言葉で答えてみました。

Q:ニキビはほとんどの人が経験する「青春のシンボル」みたいなものなのに、わざわざ皮膚科に罹る必要があるんですか?
A:勿論軽症であれば、洗顔などのスキンケアで様子をみても良いのですが、悪化し、放置したり、不適切な処置をするとニキビ痕を残すなどやっかいなこともあります。それに皮膚科専門医はニキビに関する知識をもっていますし、最近はニキビ治療も急速に進んできました。ニキビは皮膚科で治療しましょう、という機運も高まっています。まずは近くの皮膚科の専門医に相談するのをお勧めします。

Q:ニキビとはどんなものなのですか。
A:思春期になると、皮脂腺の増加、毛孔が角化して目詰まりを起こし、粟粒状のぶつぶつができてきます。これを面皰(めんぽう、コメド)といいます。黄白色に見えるものが、初期のニキビで毛包が閉ざされたもので閉鎖面皰(白色面皰)と呼びます。
毛包が開いていて先端からメラニン、皮脂などにより角栓が黒くみえるものを開放面皰(黒色面皰)と呼びます。これらは非炎症性痤瘡です。
これにニキビ菌などによって炎症が起こってくると紅色皮疹となり炎症性痤瘡となります。紅色丘疹となり、さらに進むと黄色の膿がたまったような膿疱となります。
重症になると毛包が拡大して嚢腫を作ったり、毛包壁を破壊して結節、硬結を作ったりします。こうなると炎症が収まった後も、瘢痕といってでこぼこのニキビ痕を残したりします。

Q:なぜニキビができるのですか。原因は何ですか。
A:思春期になると、性ホルモンの活動が活発になります。アンドロゲンという男性ホルモンの作用によって皮脂分泌が増加してニキビができるとされます。男性は精巣で、女性は副腎と卵巣で産生されますが、その他の性ホルモンも関与していて、単に血中のアンドロゲン量を測っても変動の幅は大きくその評価は難しいそうです。
また毛包漏斗部(じょうごのような部分)の角化も目詰まりを起こしニキビを生じますが、その原因の一つはニキビ菌(P.acnes)の増殖によるとされます。ニキビ菌は細菌性のリパーゼを産生しますが、これは皮脂を分解して遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)を作ります。このFFAが面皰形成を促進し、毛包壁を刺激し破壊し炎症を起こし、活性酸素が増加し更に悪化するといわれています。この過程で様々な炎症性サイトカインが活性化して悪さをするようです。しかし病因の全貌はまだ解明されていません。

Q:ニキビは治るのですか。
A:実は日本のニキビ治療は諸外国に後れをとっていたのですが、最近遅れを取り戻しつつあります。皮膚科医にかかり、正しいスキンケアを行えばほとんどの場合治っていきます。ただ、放置したり、体質や重症の場合で「ニキビ痕」と呼ばれる痤瘡瘢痕を生じるとずっと残ってしまいます。陥凹したり、隆起したりします。近年はレーザー治療なども取り入れられていますが、基本的には残念ながら残ります。それで、ニキビ治療においてはいかに瘢痕を生じる前に早期に治療するかということが重要になってきます。
いわゆる「しみ」としてのニキビ痕は炎症後の色素沈着ですから瘢痕を伴っていなければ早晩治ります。ただ、結構長い時間がかかるのは水着の跡が長く残るのと一緒です。

Q:生理の前にニキビがひどくなるのはなぜですか。
A:脂腺の増殖、皮脂分泌の増加、また毛包の角化は性ホルモン(主にアンドロゲンという男性ホルモン)の影響を受けています。この時期にはプロゲステロン(黄体ホルモン)も増加しますが、これとニキビの関係は今の所不明です。血中のアンドロゲン、テストステロンを調べてもほぼ正常で変化はないものの受容体の反応性、感受性が高まるとの説もあります。また月経前症候群といって、多くの女性は心身の不調を感じることがあり、ストレスがニキビの悪化に関与するという考えもあります。ストレスによって視床下部から内因性のステロイドホルモンが分泌されます。これもニキビを悪化させている可能性があります。イライラなどで皮膚を引っ掻いたりすると、さらに悪化させることにもなります。

Q:ニキビに良くない食べ物はありますか。
医学的、統計的に証明されたものはありませんが、食文化が西洋化、動物性食品の摂取が多くなると、同じ民族でもニキビが増える傾向にあるそうです。
油製品や牛乳の摂りすぎは良くないとされますが、医学的に証明されたわけではありません。バランスの良い低GI(glycemic index)食品・・・血糖値の上がりにくい食品をとるようにし暴飲暴食を避けて規則的な食生活を心掛けるのが良いでしょう。

Q:ニキビのスキンケアの注意点は何ですか。
A:化粧品は低刺激でノンコメドジェニックな製品を選ぶことです。また洗浄料で簡単に洗い流して落とせるものが望ましいです。メイクをしている時にはクレンジング料と洗顔料のダブル洗顔を行いましょう。
アイメイクと口紅はポイントメイクアップリムーバーをたっぷり目につけ、なじむまで待つ、擦らないこと(アイメイクをしている時)。クレンジングは別に十分量を使いメイクとなじませクレンジング料が肌色になり質感が変化した時が洗浄のタイミングです。おおよそ1分間が目安です。(少ないクレンジングで長時間ごしごし擦り落とすのは間違い)。その後の洗顔料は肌に残ったクレンジング剤や汗、皮脂、角質を取り除きます。泡立てネットなどで手のひらにこんもりと盛り上がる程に泡立てます。髪の生え際や顎の部分は洗顔料が残り易い部位なので丁寧に洗います。顔を左右に傾けて洗うのがコツだそうです。熱いお湯では皮膚が乾燥しますので32~33度位が適当です。洗顔の回数は1日2回が適当です。
拭く時もごしごし擦らないでタオルをのせて軽く押さえるように拭くようにします。
洗顔後は皮膚が乾燥しますので早めに保湿することが必要です。アダパレンやケミカルピーリングなどの治療で乾燥肌になる傾向もあり、治療を継続するためにも保湿は重要となります。
日常では痤瘡用のサンスクリーンを使い、紫外線から肌を守ることも重要です。ウォータープルーフタイプはニキビを悪化させるので不適当です。

Q:ニキビにはお化粧はできないのですか。
A:男性の皮膚科医師特に年配の先生は大抵「化粧はするな」というケースが多いようですが、自分も含めて本当のところどういった

疲れた一日

日曜日は、講演会の’はしご’でした。別に強い勉強意欲があるわけではなく、たまたま舞い込んだ案内状に、迷っていたのですが、運転免許センターの用事が思いのほか早く済んだので、京王プラザでの東京医大坪井教授10周年記念講演会に出たのでした。
失礼ながらあまり期待していなかったのですが、予想外れの中身の濃いものでした。
ステロイド外用剤の接触皮膚炎の講演では構造式によって4つのパターンに分けられ、交叉過敏性の起こることを詳細に説明してもらいました。当ブログでもステロイド剤による’かぶれ’が起こりうることを喚起したばかりでしたのでよけい印象的でした。
三橋教授の新しい皮膚疾患の見つけ方(本邦1例目の皮膚病)には恐れ入りました。
皮膚科の診断は暗黙知といって経験と記憶によるものが多いのですが、それのみではない診断も大切なことが示されました。確かに我々は一旦知った人は2度目には一瞬で分かります。これは理論や説明文の世界ではありません。知らない人は分からない、知っている人は分かる、どのように判断しているか我々は考えるまでもありません。一々馬鹿馬鹿しい、知ってるから解るんだ、当たり前のことを聞くな、と思うかもしれません。
ベテランの一瞬のスナップ診断は実はそういったものなのです。ただ、先生はそれでは教育にはならない、次世代への伝承はできないといいます。その他の診断のアプローチは省略しますが印象に残る講演でした。
午後からは例によって船橋皮膚科医会の西山教授の講演でした。いつも名人の講座のようで、並みいる皮膚科専門医をうならせます。今回のお題目はヘルペスと間違いやすい口の皮膚病です。炎症だから癌は除くといって始まったスライドは圧巻で、いつみても難問ぞろいで、自信を失わせるのに十分なものです。いつも専門医が四苦八苦するのを見るのを楽しみに講演をやっているいじわる爺さんではないかと思うほどです。
午前中から自信をなくする講演の続きで何か疲れ果てて家に帰りました。
一寸へこんでしまった一日でした。