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静脈瘤 治療 (I)

下肢静脈瘤やうっ滞性潰瘍、深部静脈血栓症の治療において、日常的な生活上の注意点は長時間の立位が最大の悪化因子であることを認識することです。また下記の圧迫療法は重要ですが、一部分のサポーター、きつい靴下などの圧迫は逆に悪化させるということを知っておくことも重要です。またうっ滞性皮膚炎を放置したり、掻き傷などの小さな傷を放置したりして潰瘍を作るとこれも悪化因子になります。
これらを踏まえた上での最も重要な保存的治療法は圧迫療法です。
静脈性の循環障害やリンパ浮腫などに必須な治療方法ですが、動脈性のものなど、下肢末梢動脈狭窄がある場合は禁忌となりますので、ここは重要な分かれ目になってきます。
ABI(下肢圧/上肢圧の比)が0.8未満の場合は圧迫療法は下肢の血流を途絶させる危険性があるために行わないようにするとされています。

症状が強くなれば、手術療法になりますが、その適応については都立墨東病院皮膚科の沢田泰之先生は次のように述べています。
「当院ではClinical分類(CEAP分類)4,5,6を1つの手術適応としている。また、血管超音波による重症度判定では大伏在静脈機能不全および小伏在静脈機能不全で直径8mm以上、ミルキングによる最大逆流速度30cm/secを重症とし、手術適応としている.」
「手術適応に至らない軽症の患者さんは圧迫療法で様子をみるが、うっ滞性皮膚炎のある患者さんでは1年おきに経過を観察して、手術時期を観察する.」
(手術療法、硬化療法、レーザー療法などについては次回にまとめてみたいと思います。)

【圧迫療法】
エラスコットなどの弾性包帯、弾力ストッキング、サポートストッキングなどがあります。朝の起床時から就寝時までこれらで圧迫を続け、就寝時は座布団などを下腿の下に敷いて、下腿を約10cm挙上するようにします。圧迫療法は手術療法を行った際でも術後2~3ヶ月は継続することが重要です。
圧迫療法の作用機序は、圧迫することによって下肢の表在静脈が圧排されて、静脈血の逆流が物理的に抑制されて、下肢の静脈高血圧が改善されるからとされています。

弾性包帯は圧迫力、範囲が調節でき、比較的安価なので便利ですが、巻き方によってはずれ易くほどけ易い欠点があります。内果上部から巻き始め、引っ張りながら足背部も2回巻いて包帯の幅が半分重なるように巻き上げていきます。小伏在静脈瘤では4インチ幅のものを膝まで、大伏在静脈瘤では6インチ幅の包帯を大腿まで巻き上げます。
弾性ストッキングはパンスト型、ハイソックス型などあり、サイズ、圧迫圧も強・中・弱があるそうですが、病状によって圧迫圧を変える必要性があるそうですので、弾性包帯共々静脈瘤の専門家の指導に従って使用することが必要でしょう。
弾性ストッキングはきつくて、適切なサイズであれば簡単に穿けるものではありません。簡単に穿ける場合は圧迫が足りないものであることが多いです。そのためにイージースライドなどの着用を手助けする補助器具もあります。また高齢などで握力が足りない場合は引っ張り上げる補助として台所用のゴム手袋を使えばよいそうです。それでも穿きにくい場合は衣料品として販売されているサポートタイプのストッキングの2重穿きでもよいそうです。これらが難しいときでもハイソックス型の膝までのストッキングを継続するのは途中で上記のタイプを止めてしまうよりもずっと有用だそうです。

足関節部での圧迫圧(単位 :mmHg)
20未満   DVT予防
20~30   軽度静脈瘤
30~40   下肢静脈瘤術後
40~50   下腿潰瘍を伴う下肢静脈瘤、DVT後遺症、リンパ浮腫
50以上   高度リンパ浮腫

日本皮膚科学会雑誌に弾性包帯の巻き方の例示写真がありましたので拝借して載せてみます。
弾性包帯

静脈瘤・静脈性潰瘍の診断

下肢の潰瘍を見た場合にそれが、動脈性なのか、静脈性なのかまた血管炎やその他の原因なのかを見極めることは非常に重要です。最終的には血管造影やCT,MRIなどの高度な検査を要する場合もありますが、まずは目で見て簡単な理学的所見からある程度の推定はできます。
動脈性の血行障害による潰瘍では、四肢末端部にできることが多く、深い打ち抜き型をとる傾向があります。足背や下肢の動脈の拍動が手に触れにくくなり、足先は冷たくチアノーゼを生じたり、ひどくなれば赤紫色や黒くなり、壊疽を形成します。
一方、静脈性還流障害による潰瘍であれば、下腿の下1/3にみられることが多いです。痛みも少なく、比較的浅い潰瘍を形成します。
 ですから、典型的な静脈性潰瘍は下腿の下1/3の部分から足背に皮膚炎や脂肪織炎があり、ヘモジデリン沈着による色素沈着を伴います。潰瘍は形は不整形で比較的に浅く、これら皮疹部の上方に静脈瘤を認めます。ただ、穿通枝不全によるものでは静脈瘤ははっきり見えず、脂肪織炎のみのこともあるので注意が必要です。
 視診も重要ですが、静脈瘤の際の問診は下記の項目に注意が必要です。
*静脈うっ滞の左右差
*うっ滞の日内変動・・・浮腫は朝軽く、夕方強くなります。
*職業・・・長時間立ちっぱなしの職業や重いものを持つ職業はリスクファクターになります。調理師、理容師、教師などや工場現場仕事など。
*妊娠出産歴・・・第2子出産後の発症が多い。
*両親に静脈瘤のある人はなりやすい。
*手術、カテーテル検査を受けた人や鼠径ヘルニア、痔などの疾患のある人、整形外科、循環器系の病気、糖尿病、膠原病の人も注意を要します。
*抗血栓薬、ホルモン剤内服などにも注意が必要です。

【静脈瘤の分類】
1994年アメリカの学会で採択されたCEAP分類というのが一般に専門医の間では使われているそうです。専門的になりますが一応下に掲げてみます。
この中で臨床分類が重症度のもっとも簡単な指標として汎用されているそうです。

C:臨床分類(Clinical classification)をC0~C6まで軽いほうから重い方まで分ける
E:病因分類(Etiological classification)をEc, Ep, Es, Enに分ける
A:解剖学的分布(Anatomic classification)をAs, Ap, Ad, Anに分ける
P: 病態生理的分類(pathophysiologic classification)をPr, Po, Pr,o, Pnに分ける

C0:視診、触診で静脈瘤なし
C1:クモの巣状(径1mm以下)あるいは網目状(径3mm以下)の静脈瘤
C2:静脈瘤(立位で径3mm以上のもの)
C3:浮腫
C4:皮膚病変(C4a:色素沈着、湿疹  C4b:脂肪皮膚硬化、白色萎縮)
C5:潰瘍の既往
C6:活動性潰瘍

Ec:先天性静脈瘤  c: congenital
Ep: 一次性静脈瘤  p:primary
Es: 二次性静脈瘤  s:secondary
En: 病因不明静脈瘤 n:no venous cause identified

As: 表在静脈 s: superficial veins
Ap: 交通枝(穿通枝) p:perforating veins
Ad: 深部静脈 d:deep veins
An:静脈部位不明 n: no venous location identified

Pr: 逆流 r: reflux
Po:閉塞 o:obstruction
Pr,o: 逆流と閉塞 reflux and obstruction
Pn: 病態不明 :no venous pathophysiology identified

【検査】
いろいろな検査法がありますが、基本的に専門医が行うことなので参考程度に項目を羅列するのみに留めます。

*トレンデンブルグ検査・・・大・小伏在静脈と穿通枝の弁機能を調べる検査。
 寝たまま、下肢を挙上して大腿部にゴムを巻き、立位になって静脈瘤が再び目立ってくるかどうかをみる。
すぐに目立ってくる場合・・・不全交通枝がある。小伏在静脈瘤の逆流
目立たない場合・・・大伏在静脈瘤のみの弁不全

*ペルテス検査・・・深部静脈の開存と穿通枝の弁機能をみる検査。
立位のまま大腿部にゴムを巻く。そのまま足踏み運動をする。
静脈瘤が軽減・・・深部静脈は開存
不変・・・ゴム部より足側に不全交通枝あり
悪化・・・深部静脈は閉塞
但し、これらの検査は習熟が必要で、しかも結果が曖昧であるために、静脈瘤手術を行っている多くの医師はこれらを行っていないとのことです。(伊藤孝明)

*ドプラ聴診検査・・・超音波ドプラ聴診器で血流の状態を聴く。
下腿ミルキング法などで逆流性血流を生じさせ、静脈部にプローブを当て、その逆流音の有無を調べる。あれば静脈瘤。
ドプラ聴診については、下肢静脈瘤の専門家の兵庫医大の伊藤孝明先生のHP(http://itotak.m78.com/)にその詳細が記載されています。断ってはいないのですが、その実際がよく解るのでそのまま転載してみます。
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 ドプラ聴診器を用いて、血流の聴診を行う診察法です。私は、おそらく日本で一番、このドプラ聴診器を駆使して診察している皮膚科医だと思います ので、何をやっているのかを観て、聴いて下さい。
 私は普段2つのドプラ聴診器を用意して診察しています。
 1つは、もう随分古い製品ですが、聴診専用の製品で感度と音質が良好です。
 もう1つは、感度・音質は並ですが、血流の方向を検知して液晶に表示できる製品です。
 どちらも「hadeco」ブランド、川崎市の林電気製です。

 立位静止位での、下肢の表在静脈のドプラ聴診による血流音は、「全く何も聴こえない」のが正常です。下腿~足部の静脈還流は、9割は深部静脈を 介して心臓に戻るので、表在静脈は、「ほぼ流れていない」のが正常なのです。
 表在静脈の走行が判りにくいときは、膝近くにゼリーをたっぷり付けたドプラプローブを保持して(皮膚を圧迫してはいけない)、下腿部末梢を揉み ながら(ミルキング法)聴診して静脈の位置を確認します。
 その下腿末梢を圧迫した時に、膝付近の表在静脈を心臓向きに流れる音を聴取するのは当たり前ですが、患者さんが静止している限り、何も聴こえな いのが正常です。
 一方、1次性下肢静脈瘤では、大伏在型静脈瘤では大伏在静脈とその分枝で、小伏在型静脈瘤では小伏在静脈とその分枝で、下腿末梢部の圧迫を解除 した時に、逆流音が「ザー」と聴けるので、これが聴けると表在静脈の弁不全と診断できるのです。
 実際には、まずはじめに、検者が下腿末梢部を圧迫しますから、「ザッ」(用手的上向音)が聴こえて、圧迫を解除すると「ザーー」(弁不全による 逆流音) と逆流音がきこえたら、その静脈の弁不全で、多くの場合1次性静脈瘤です。しかし慢性期の2次性静脈瘤でも深部静脈の再疎通や深部静脈周囲に側副 血行路が 発達した場合では、同様に聴こえます。
 次に、患者さんに腹圧をかけてもらいます(バルサルバ法)。腹圧をかけるだけでさらに逆流音が聴ける場合は、静脈弁不全が高度と判断できます。
 さらにドプラ聴診器のプローブをそのまま保持して、腹圧を解除してもらいます。この腹圧の解除で、深部静脈が良好に開存している場合は、何も聞 こえませ んが、深部静脈の流れが悪い場合は、小さく「サー」と上向音が聴こえます。これが上向音か逆流音かが判らない場合があり、血流方向検知型のドプラ 聴診器で 確認します。
 ただし、前述のドプラ聴診で、何も聴こえず、かつ伏在静脈をよく触診でき、その下肢全体が腫脹している場合は、急性期の深部静脈血栓症 (DVT)を疑っ て、緊急造影CT検査を行うべきですが、緊急CTの連絡をしながら、血液検査でD-dimer、CRP、WBCと、造影しますのでBUNとCRN を調べ て、時間があれば下肢静脈エコー検査も行います。この場合は下肢の広範囲のDVTのことがあり、緊急入院の準備も必要です。
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*下肢静脈造影検査・・・主に深部静脈の開存を調べる方法。

*下肢造影CT検査・・・上枝静脈から造影剤を注入、下肢の静脈相でCTまたは3DCT像を撮る。

*下肢カラードプラエコー検査・・・より精密、確実な超音波検査法。逆流部位、時間、拡張した静脈径の大きさをみていける。逆流が赤く描出。

診断に最も重要な検査法だそうです。但し、検査技師・医師の技量により検査精度に大きな差が出るそうです。血管診療認定技師という制度があるそうです。

*下肢MRI静脈撮影・・・MRIを用いて下肢静脈を非侵襲的に撮影できる。ただし、下肢に浮腫があると良好な結果は出ない。また心臓ペースメーカー装着、金属がある場合は撮影は禁忌。

*下腿静脈脈波検査・・・下腿静脈の還流機能を体位変換や運動、駆血などで調べる方法。

*ABI/ABPI
Ankle Brachial Pressure Index 足関節上腕血圧比。後脛骨動脈や足背動脈の血圧と上肢の血圧を測定します。下肢血圧/上肢血圧比をとり、その値で評価します。
正常値は1.0~1.4 0.9以下は異常で下肢動脈の狭窄(閉塞)が疑われます。また逆に1.3以上の場合は動脈壁の石灰化が疑われます。

中原寺メール1/24

【前住職閑話】~二つの多生の縁~

「袖振り合うも多生の縁」という有名な諺(ことわざ)があります。
「道で人と袖を触れあうようなちょっとしたことでも、前世からの因縁によるものだ」という意味ですが、ちょっとした出会いを大切にするひとがいるとほのぼのとした気分になります。
毎年1月の9日から16日まで京都の西本願寺で勤められる「ご正忌報恩講(宗祖親鸞聖人のお祥月命日)」に、今年もお参りいたしました。その折には国宝の書院で「お斉(とき)」のご接待があります。仏教では、「食事(じきじ)」と呼んで、午前10時から正午までの間に食事をする習わしがあり、このときに出る精進料理を「斉(とき)」といいます。
寒く薄暗い国宝の間で燗酒と朱塗りのお膳でいただく格式のある精進料理は格別な風情があります。私の隣りに座られた女性は始めてということで緊張されておられたところを私に声をかけてもらったことがとてもうれしかったようです。名刺の交換から本願寺系の女子大学の事務局長になられて間もない方でした。
しばしの間でしたが、その大学のことについて話題としながらお斉の時間を共にしましたことから、つい先日その人から丁寧なお礼の言葉を添えて大学のいろいろな資料やら記念コンサートのDVD等を送ってくれました。
まさしく「袖触り合うも多生の縁」を大切にするひとだなとあったかい気持ちになりました。
もう一つの「多生の縁」は昨日のことです。
お寺に来られる方はなるべく丁寧に応対しますが、その男性は礼儀正しく、名前と年齢を名のってから「だいぶん前に近くに住んでいたことがあり、高校生の頃祖父母に連れられてこのお寺に来た覚えがあるとのこと。今は九州のほうに一人住んでいていろいろな事情があって横浜の親戚に会うことになったが不在でここまで来てしまった。申し訳ないがカプセルホテルに泊まる少しの金を貸してもらえないか…」との事。
こちらの「袖振り合うも多生の縁」は、どうも後味の悪い出会いでした。

下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤については、あまり教科書に詳しく書いてないし、系統的に教わった覚えもないし、学会で聴いても右から左に抜けていってほとんど記憶に残っていません。自分で書いた記事(東京支部総会――血管炎 2013.2.18)もほとんど忘れかけていました。今回改めて調べてみて、日本皮膚科学会の「下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」という詳細な報告書がすでに2011年に開示されていることを恥ずかしながら初めて知りました。ただ、敢えて言い訳をするならば、一般に皮膚科学会では学問としては血管炎の方がよく取り上げられる傾向があり、静脈瘤そのものはあまり発表の対象になりません。しかし海外の疫学調査によれば下腿潰瘍の原因として静脈性が70%を占めていて、その他に動脈性の虚血が10%、その他に膠原病、血管炎、外傷、感染症、壊疽性膿皮症、リンパ浮腫などがあるとのことです。
すなわち静脈うっ滞・下肢静脈瘤は最も重要な位置を占めているということになります。その成り立ちについて述べてみます。
下肢静脈瘤とは下肢の表在静脈が拡張し蛇行する疾患です。こぶ状になる場合もありますが、網目状、くもの巣状に静脈が拡張したものもあり、かならずしもこぶ状にならない場合もあります。
下肢末梢部まで行った血液は静脈流に乗って心臓に帰っていくわけですが、立位でもそれを手助けするのが、下肢の運動による筋ポンプ作用であり、逆流して血液が下がらないようにするのが静脈弁です。この静脈弁不全が起こると下肢静脈高血圧が生じ、静脈瘤を生じます。
それを理解するには、ヒトの下肢の静脈の流れがどうなっているか解剖を知ることが必要かと思います。日本皮膚科学会雑誌に出ていた図をお借りして目で見て解るようにしてみました。
【下肢静脈の解剖】表在静脈、深部静脈、交通枝に分けられます。
(1) 表在静脈・・・正常では下肢静脈の約1~2割が表在静脈を介して還流しています。主に大伏在静脈(great saphenous vein: GSV)と小伏在静脈(small saphenous vein: SSV)の2系統に分かれます。
GSV:足背内側から下腿、膝、大腿の内側を上行して鼠径部で大腿静脈に合流します。ここで浅腹壁静脈や内外側副伏在静脈などの分枝もGSVに合流します。下腿では前方脛骨静脈、後方弓状静脈が合流します。また交通枝(穿通枝)によって深部静脈とも交通しています。
SSV: かかとの後方から下腿後面中央を上行して膝部で深部静脈の膝窩静脈に流入します。ただ、SSVは個人差が大きいそうで、膝窩静脈に合流しない人もあるそうです。
(2) 下肢深部静脈・・・下肢の深部で動脈と併走している静脈系で前・後脛骨静脈、腓骨静脈6本が膝下で合流して膝窩静脈となり、さらに上行して鼠径部でGSVと接合して外腸骨静脈につながっています。
(3) 交通枝(穿通枝)・・・表在静脈系と深部静脈系を繋いでいる直径3mm以下の静脈で下から、Cockett1~3、Boyd、Doddの3本の交通枝があります。静脈弁があり、表在から深部へ流れています。
【静脈瘤の分類】
◇一次性静脈瘤・・・表在静脈そのものの弁機能障害によって生じる下肢表在静脈の拡張・蛇行で、多くの下肢静脈瘤はこのタイプです。
肥満、妊娠などで腹圧がかかって静脈流が還流しにくくなったり、長時間の立ち仕事などで下腿の筋ポンプ作用が働かない時間が長くなると、下腿の静脈血がうっ滞し、静脈圧が上がり拡張すると静脈弁も正常に作動しなくなってきて静脈血の逆流が起こってきます。その他に体質、手術、外傷の既往など、循環器や糖尿病などの疾患、抗血栓薬、ホルモン製剤などの使用も発症に関係します。
形態的に4型に分けられます。
1、 伏在型静脈瘤・・・本幹型静脈瘤とも呼びます。GSV型静脈瘤では大伏在―大腿静脈接合部直下のGSVの弁不全から逆流が生じ、大腿から下腿までGSVの走行に一致して静脈瘤が見られます。SSV型では下腿後面のSSVおよび分枝静脈の拡張を認めます。これらでは下腿にうっ滞性皮膚炎を伴うことがあります。
2、 側枝型静脈瘤・・・伏在静脈本幹ではなく、伏在静脈末梢分枝に静脈瘤がみられます。
3、 網目状静脈瘤・・・2~3mm径の青みがかった静脈瘤が皮内にみられます。
4、 くもの巣状静脈瘤・・・真皮内の1mm以下の拡張した細静脈が集まった赤褐色の静脈瘤です。
◇二次性静脈瘤・・・拡張している下肢表在静脈そのものには原因がなく、その他の原因で、二次性に静脈瘤が生じるものをいいます。深部静脈血栓症や骨盤内腫瘍や動静脈瘻によって静脈圧の上昇によって生じてきます。
【静脈瘤性症候群】
一次性下肢静脈瘤を放置しておくと、静脈うっ滞(静脈圧の上昇)によってさまざまな自他覚症状がでてきます。下肢の鈍重感、倦怠疲労感、こむら返り、痛み、痒み、熱感などの自覚症状が現れてきます。またうっ滞性湿疹、浮腫、紫斑、色素沈着、ヘモジデリン沈着などが生じます。重症になると皮下脂肪織硬化や難治性の下腿潰瘍を生じます。
同様な症状は深部静脈血栓症後遺症でも生じます。
一次性と二次性では治療法が異なり、特にDVT後の二次性静脈瘤では手術は禁忌ですので慎重な取り扱いが必要となります。
【深部静脈血栓症(DVT) 】
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)と肺血栓塞栓症(pulmonary embolism: PE)は合併することが多いのでまとめて静脈血栓症とも呼ばれます。エコノミー症候群、旅行血栓症とも呼ばれますが、飛行機旅行以外でも生じるのであまり適切な名称ではありません。先の東日本大震災では長時間車の中で動かずに座っていたりして、避難者におけるDVTの発生率は通常の200倍もの高率だったといわれています。
症状は突然の片側の下肢の腫脹、浮腫、疼痛、緊満感などです。早期(発症後1週間以内)に下肢の血栓が静脈壁から剥がれて、肺血栓塞栓症を生じると胸痛、呼吸困難、冷や汗、失神などが現れます。大きな血栓ではショック、心停止もありうるそうです。
病初期に適切な対応がなされないと、肺血栓や、慢性的な二次性静脈瘤や潰瘍などを伴う血栓後症候群になる場合もあり注意が必要です。
飛行機や車の長時間着席によること以外にも様々な原因で発症しますが、術後特に膝関節人工関節置換術後は約半数にDVTが発症するそうです。術後、下肢ギプス包帯固定、出産後などにDVTを発症して重症化するケースも多いことから2004年からは予防的な処置、投薬も保険適応になっているそうです。

「二次性静脈瘤ではDVT後が多い。DVTは従来日本人には少ないとされていたが、診断されていなかっただけで決して少ない病態ではない可能性がある。蜂窩織炎などと誤診されて診断のつかぬまま自然軽快している例が多いと思われる。しかし急性期DVTは致命的になる肺血栓塞栓症の原因であるため、初期時診断が重要である。」(伊藤孝明)
「常に考えておかなければならないのは、「DVT後静脈瘤ではないか?」である。かつて下肢が高度に腫脹したことはないか?長期臥床や長時間手術の有無、悪性腫瘍の既往、ステロイドやピル内服の既往、複数回の流産の既往、下肢~足の骨折や固定の有無、人工股関節置換術の有無、下肢麻痺などがないかを詳しく聞き、これらがある時は、DVT後の二次性静脈瘤を疑うべきである。」(伊藤孝明)

参考文献
日本皮膚科学会雑誌 121(12), 2431-2448, 2011
下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン

日本医師会雑誌 第142巻・第9号/平成25(2013)年12月
特集 末梢動脈・静脈・リンパ管の病気update

Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010
下腿潰瘍・足趾潰瘍―皮膚科の関わり方― 責任編集 沢田泰之

皮膚外科学 監修 日本皮膚外科学会  学研メディカル 2010 東京
伊藤孝明 第6章 16 うっ滞性潰瘍・下肢静脈瘤 p540-549

下肢静脈日本皮膚科学会雑誌:121(12) 2434,2011(平成23)

うっ滞性皮膚炎,静脈瘤性症候群(うっ滞性症候群).下肢静脈瘤があり、慢性的に血管透過性が亢進した状態が続くと、フィブリノーゲンや赤血球が漏出し慢性的な炎症を生じ、湿疹皮膚炎を形成する.さらに進行すると難治性の皮膚潰瘍ができる.
静脈瘤1伏在型静脈瘤(本幹型静脈瘤)
静脈瘤2小静脈瘤(側枝型、網目状?)

下肢静脈瘤・深部静脈血栓症

深部静脈血栓症・エコノミークラス症候群などは皮膚科開業医とは無縁のものと思っていましたが、先日立て続けに2人の患者さんにぶつかりました。
エコノミークラス症候群とは下肢の深部静脈血栓症を契機にして、肺塞栓を生じたものを呼びますが何もエコノミークラスに限って発生するわけではないので、最近は旅行者血栓症と呼ばれることが多いそうです。

 一人は腰椎ヘルニアで総合病院の整形外科に通院中の患者さんで、年末より左下肢にむくみがでてきました。潮紅、浮腫がみられましたが、整形外科医からは皮膚科に行くように言われたとのことでした。痛みも熱感もないので、蜂窩織炎というよりも血管系の問題ではないかと思い、やはりその総合病院で診てもらった方がいいのではと説明し逆紹介状を付けて戻ってもらいました。後日、皮膚科からの返信をみてびっくりしてしまいました。皮膚科から念のため内科で診てもらったら、深部静脈血栓症に肺塞栓を併発していて緊急入院となったとのことでした。漠然と静脈炎などを想定していましたが、肺塞栓までは考えが及びませんでした。
 もう一人は、乾癬の患者さんで、以前から両下肢のむくみがあり、東京の病院でも血管系の異常はなく、千葉の総合病院の血管外科にも紹介しましたが、血管系の異常はないとのことでした。乾癬の皮疹もひどく、その炎症のせいもあるのかな、と思っていましたが、急に下肢が痛くなり腫れがひどくなったと受診しました。再度紹介するのも気が引けましたが、あまりに痛がり、索状のしこりもあるので紹介状を書きました。返信では深部静脈血栓でワーファリンの投与を始めたとありました。

下肢の脈管系の診断は難しく、我々のような皮膚科開業医にとっては診断、治療も困難です。しかし、それによる下腿の皮膚炎、潰瘍は結構多くみられます。
これを契機にこれらについて調べてみました。たまたま目にした日本医師会雑誌の平成25年12月号に「末梢動脈・静脈・リンパ管の病気update」という特集記事があり、参考になりました。Visual Dermatology [特集]下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 という特集号も参考になりました。

近年、日本は高齢化が急速に進み、生活様式、食生活が欧米化しPAD(peripheral arterial disease)と呼ばれる末梢の動脈硬化症が増加しているそうです。またその中でも重症虚血肢(Critical limb Ischemia: CLI)と呼ばれる下肢切断に至るような重症例も増加傾向にあるそうです。CLIで下肢切断に至った場合はなんと肺癌患者の5年生存率よりも予後が悪いということです。普段患者さんの足を最もよくみる機会があるのが皮膚科医だろうと思います。皮膚科医がこれらを治療することはできませんが、病初期に発見してゲートキーパーとして、コーディネーターとして専門医に橋渡しする役割が重要になるポジションです。
下肢の脈管疾患をここで全部取り上げるのはとてもできませんので、静脈に絞って取り上げてみたいと思います。
前説が長くなってしまいました。本題は次回に。

黒子(ほくろ)・黒あざ

黒子という言葉はファジーというか、一寸注意を要する言葉です。これを「くろこ」と読むと別の意味になります。歌舞伎などで黒い衣装を着て、目立たず芝居の補助をする人のことですが、転じて裏方に徹する者という意味にも使われます。しかし本来正しくは「黒衣」と書き、「くろご」と読むそうです。
皮膚科的な使い方でも、「ほくろ」と読むと本来のほくろ、色素性母斑の意味になりますが、「こくし」と読むとまた別の意味になります。英語でいうlentigoの訳語として使われ、扁平な黒褐色斑の意味になります。単純黒子(lentigo simplex)、日光黒子(solar lentigo)、悪性黒子(lentigo maligna: LM)、悪性黒子型黒色腫(lentigo maligna melanoma: LMM)などです。

この項では本来の「ほくろ」「黒あざ」について書いてみます。これは医学的には色素性母斑、母斑細胞性母斑( Nevocellular nevus: NCN)とよび、皮膚に母斑細胞が増殖してできたものです。色素をあまり持たないものもあるので、色素性母斑というよりも母斑細胞性母斑との名称の方が妥当だとされています。
ほくろを母斑と呼ぶのが妥当かどうかについても種々意見があります。三橋先生は下記のように書いています。
「母斑細胞性母斑を良性腫瘍とする考えがある。母斑と良性腫瘍は、どちらも遺伝子変異の産物で、その境目は曖昧である。したがって、定義することは重要ではない。Happleの定義の本質は、母斑を遺伝子変異という科学的な土俵の上にもってきたことにある。これによって母斑研究の進歩が期待される。後天性母斑細胞性母斑は良性腫瘍と考えるとわかりやすい。母斑細胞性母斑を母斑と呼ぶのは、まさに「先人達が母斑と呼んできたものが母斑である(Jadassohn)」からにすぎない。
Happleの母斑の定義「遺伝子の突然変異で生じる、すなわち遺伝子モザイクによる皮膚または粘膜の病変で、増殖傾向がほとんどないもの」Happle 1995)
(皮膚科臨床アセット15 母斑と母斑症   三橋善比古 1.母斑と母斑症の定義 p3 より)

母斑細胞性母斑は大きさによって、3つに分類されます。
1) 小型色素性母斑・・・長径が1.5cm未満のもの
2) 中型(先天性通常型)色素性母斑・・・長径が1.5cm~20cm未満のもの
3) 大型(先天性巨大型)色素性母斑・・・長径が20cm以上のもの
母斑細胞(nevus cell)とは、胎生期に神経堤(櫛)を原基として生じ、メラノサイトにもシュワン細胞にもなりきれずに分化能力が不十分のまま留まっている細胞とされています。

色素細胞はヒトの発生を考えるとその成り立ちがわかり易くなります。胎生期の第3週に脊索が発生し、中枢神経系の基となる神経管ができます。体表と神経管との間に神経堤という細胞集団ができ、次第に神経管を取り囲むように左右に分かれ全身に大移動していき、これが後の神経細胞になっていくそうです。そして細胞集団の一部は背側経路に沿って移動し表皮真皮接合部に移動してメラノサイトとなります。
それで細胞が真皮中を移動中に分化・増殖に異常をきたし、色素細胞、神経細胞に異常をきたすさまざまな先天性の疾患があります。
色素性母斑も先天性、後天性を問わずその成因は遺伝子異常によるものと考えられていますが詳細は不明です。先天性のNCNは白人より黄色人種、黒色人種の方が多いといわれます。

小型のものは、俗に「黒子(ほくろ)」と呼ばれます。通常1.5cm以下で、3~4歳頃に後天的に生じ、思春期までは大きく濃くなりますが、その後は退色していき、次第に脂肪組織、線維組織に置き換わっていきます。
単純黒子(lentigo simplex)というものがありますが、これは直径数㎜までの黒褐色斑です。表皮基底層のメラニン色素、メラノサイトの増加があります。
そばかす(雀卵斑freckle)との違いは、日光と関係ないこと、消退しないこと、メラノサイトが増加することで、真のほくろとの違いは、基底部に母斑細胞のかたまりがないことです。しかし、見た目ではほくろとの区別はつかず、小さなほくろの始まりを示す場合もあります。
中型のものは、1.5cm以上で俗に「黒あざ」と呼ばれます。通常最もよくみられるタイプで、先天性に生じるものがほとんどです。有毛性、疣状、点状集簇性など様々な形態があります。
大型のものは20cm以上で非常に稀なタイプですが、体の大部分を覆うものもみられます。このタイプでは悪性黒色腫を生じたり、また脳神経にも同様の病変を生じるケースもあるとのことです。(神経皮膚黒色症)

ほくろとメラノーマの区別は常に問題になるテーマですが、上記の先天性巨大型色素性母斑を除いては、ほくろからメラノーマができる(ほくろが癌化する)ということはなさそうです。Clarkという人は異形成母斑(dysplastic nevus)という良性と悪性の中間病変の考えを提唱しましたが、反論が多いそうです。
もちろん、どんな細胞も癌化する可能性はありますので、母斑細胞が癌化してもいいのですが、通常のほくろがメラノーマの前駆病変になっていることはないとされます。
すなわち、ほくろとは無関係に表皮メラノサイトの癌化によってメラノーマが発生するとの考えが主流です。
ほくろがメラノーマになったように思うのは、元々ほくろではなくメラノーマだったというケースがほとんどです。逆にそれ程この両者の鑑別は難しい、注意を要するものもあるということになります。
ブログでも度々、鑑別は取り上げていますが、本当のところ難しいものはよく解らないというのが本音です。怪しいものは大学などの専門機関で精査してもらっています。

両者の区別でいつもABCD ruleというものを挙げていますが(今回は省略)、黒色腫に注意する場合の特徴を教科書から抜粋してみました。

1.成人になってから気づかれる色素斑
2.当初は平らでも、拡大、隆起して、結節状になり、いずれは糜爛、潰瘍になる(こうなってはかなり進行している状態)
3.拡大し、7mm、多くは10mmより大きくなっていく
4.左右非対称で外形が鋭角状にぎざぎざ
5.黒褐色調が主体だが、濃淡が無秩序でたまに色抜けもあり、灰色、青色なども混じる
6.境界は不明瞭でくっきりしたところと不鮮明なところがある

参考文献
標準皮膚科学 第8版  斎田俊明   皮膚悪性腫瘍  p428より
監修 西川武二   編集 瀧川雅浩 富田 靖 橋本 隆  医学書院

中型色素性母斑中型色素性母斑、いわゆる「黒あざ」
巨大型色素性母斑.先天性巨大型色素性母斑

中原寺メール1/7

【前住職閑話】
 新しい年が明けて今日はもう七草粥ですね。
今日は私の母の誕生日(明治45年1月7日)なんです。七草粥の日なので覚えていられます。
そしてやがて11日は私の誕生日で鏡開きの日なのです。親子二人とも暦に関係しているのが不思議です。
本堂での朝のお勤めをしながら、今こうしていのちあるのも母のお蔭だなとふと思いました。
昨日は午後から上野鈴本と浅草演芸場に「お笑い」を聞きに行ってきました。
目的は毎年仏教婦人会新年会の演芸を盛り立てるために「ミニ落語」をするので、そのネタ探しです。
 両演芸場とも正月休みが終わったこともあって少ない観客でした。正月は顔見世興行なので入れ代わり立ち代わりで落ち着いて話を聞くという状況ではありません。ちょっと残念です。
 その中で唯一「柳家権太楼」の「代書屋」は見事で、大笑いしました。
人を笑わすというのは本当に難しいものですね。日常でも人を怒らせるのは簡単ですが…。
 ともかく心に余裕がないと笑う日々とはまいりません。
お互いに今年は「笑いのある日」を心がけましょう。

雀卵斑(そばかす)

英語ではephelides(ギリシャ語由来)あるいはfrecklesと呼ばれます。色白の白人に特徴的で英語の教本(Rook)には下記のような説明があります。
 雀卵斑は恐らく常染色体優性遺伝によるもので、赤毛またはブロンドで青い目(または緑色の目)をしたケルト人(スコットランド系、アイリッシュ系、ウエールズ系)の人々にみられる。これらの人々はメラノサイト刺激ホルモン受容体(melanocyte-stimulating hormone receptor)であるメラノコルチン-1受容体(melanocortin-1 receptor)を他の人々よりも多く持っている。それが関与しているらしい。
 症状は、2-4mm大の淡褐色の斑で5歳頃から露光部に現れる。顔に多いけれども上背部、腕や手の背部にも出現する。夏季に数、大きさ、色調が増強するが、冬季にはいずれも減少または消退する。美容的な観点以外は全く問題はない。
 美容的に問題にする人もあるが、(民族のアイデンティティを示すもの、あるいは若さを示すものとして)好まれる場合もある。
ちなみにこれらの人はFitzpatrickのskin type I-IIの白人が該当します。
Fitzpatrick__  Sun sensitivity_______________ Pigmentary response
Skin type I__Very sensitive, always burn easily_____Little or no tan
Skin type II__Very sensitive, always burn________Minimal tan
Skin type III__Sensitive, burn moderately________Tan gradually (light brown)
Skin type IV__Moderately sensitive, burn minimally____Tan easily (brown)
Skin type V__Minimally sensitive, rarely burn_______Tan darkly (dark brown)
Skin type VI__Insensitive, never burn__________Deeply pigmented (black)

 病理組織学的には、基底層の色素細胞の数は全く正常で他と変わりなし、しかし、その部分の色素細胞は長く、こん棒状に拡大してより色の濃い人々のようになっている。

以上のような記述をみると、我々日本人では該当するケースがあまりないということになります。日本人では色白の人にもみられる、との記述のある教本もありますが、この分野での専門家である渡辺晋一先生は次のように述べています。
「Rookの教科書に記載されているような雀卵斑はわが国ではほとんどなく、世間一般では後天的に生じた色素斑で、大型のものはシミ、小型のものはそばかすと呼んでいるようである.・・・わが国でみられる雀卵斑には主に3種類あり、1つは小型の老人性色素斑が多発したもの、あるいは小型の色素性母斑(ほくろ)が多発したものであり、残りはsymmetrical type of nevus Ota (いわゆるパラパラ型の太田母斑)であった.」
 
すなわち欧米でいう雀卵斑を厳密にとらえると、日本ではほとんど該当者がいないことになります。ただ欧米でもfrecklesを2つにわけて、simple frecklesとsunburn frecklesとする考え方があります。前者は本来のものですが、後者は日焼けのあとに上背などに生じる色素斑で、より大型で辺縁がギザギザし、より色調が濃いということです。これは光線性花弁状色素斑、solar lentigo, lentigo simplexと同一概念となり、すなわち小斑型の老人性色素斑と同じということになります。従って別のいいかたをするならば日本ではsimple frecklesはほとんどみられず、sunburn frecklesがほとんどということになろうかと思います。

先に書きましたように本来の雀卵斑は全く医学的には問題のないものです。ただ、それらを有する人は紫外線感受性が非常に高く皮膚癌発生予備軍といっても良い位な危険因子を持っている証左にはなるかもしれません。これらの皮膚が紫外線を防御すべくそばかすを作ってはかない抵抗をしているともいえるかもしれません。

もし、日本人で子供の頃からそばかすがみられた場合は雀卵斑ではなくて、むしろその他の疾患を考え除外する必要があります。数は少ないですが見逃すと困る疾患が多いです。
遺伝性光線過敏性疾患の一群と遺伝性色素異常症の一群が主になります。
色素性乾皮症、ポルフィリン症、神経線維腫症I型(レックリングハウゼン病)、Peutz-Jeghers症候群、LEOPARD症候群(遺伝的に黒子が多発する、他に種々の異常あり)、遺伝性対側性色素異常症などなど数多くあります。
 その中で間違うと大変なことになるのが色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum: XP)です。ヒトは紫外線や電離放射線の傷を修復する能力を持っていますが、その中で紫外線によるDNA障害の修復能を遺伝的に欠損している疾患の代表がXPです。XP患者では幼少時から露光部にそばかす様のシミができ、そこに皮膚癌ができてきます。重症度、相補性によってA~G, variant群に分けられています。最重症のA群では10歳くらいでもう皮膚癌が生じます。逆に軽症型ではそばかすだけで診断がつかず中年以降になって皮膚癌が多発してくるケースもあります。
普通のそばかすとの違いはその不規則、大小の混在と皮膚の萎縮、乾燥、毛細血管拡張などの光老化現象を伴ってくる点です。(XPについては機会があれば詳しくまとめてみたいと思っていますが。)

雀卵斑(そばかす)は一見なんでもない単一の病態のように思われがちですが、上に書いたように様々な病気を含んでいる可能性があります。
 最も大切なことはこれらをしっかりと見極める目でしょう。簡単なようで皮膚科専門医もうっかりすると誤診しかねない病変といえます。

治療については、本来の雀卵斑は生理的なものなので、遮光のほかは特別な治療は不要です。特に欧米ではそれをどう考えるかによるとのことです。(むしろ好ましいと考える人々もあるとのことです。)
ファンデーション、ビタミン剤、美白剤、ケミカルピーリングなども使われるようです。

渡辺らの報告によると本邦の“雀卵斑“と呼ばれるものはほとんどが実は小斑型老人性色素斑、小型の色素性母斑(ほくろ)、パラパラ型太田母斑よりなるのでそれぞれに適した治療を行えばよいとのことでした。
治療はそれぞれの項目に書きましたので、省略します。
渡辺先生の治療コメント
「雀卵斑にIPLが有効だったという報告もあるが、それは小型の老人性色素斑を雀卵斑と誤診しているものと考えらえる.少なくとも、パラパラ型の太田母斑にはIPLは無効で、唯一の治療法はQスイッチレーザー治療である.」

参考文献

皮膚レーザー治療プロフェッショナル
渡辺晋一/岩崎泰政/葛西健一郎
2 色素沈着症の治療の実際
  k 雀卵斑             渡辺晋一 p168-9

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光    中山書店 2011 東京
15. 雀卵斑の病態・診断・鑑別診断    吉澤順子、鈴木民夫 p81-83
27. 色素性乾皮症の病態・診断・鑑別診断  錦織千佳子 p141-147

Rook`s Textbook of Dermatology 8th edition
Edited by Tony Burns, Stephen Breathnach, Neil Cox, Christopher Griffiths
Vol 3 Wiley-Blackwell 2010
58 Disorders of Skin Colour A.V.Anstey

あけましておめでとうございます

あけまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
皮膚科関連の記事をなるべくバイアスが少なく、なるべく新しく、かつ分かりやすく発信したいという思いで書いていますが、一個人のする事ですので、どだい無理なことと思っています。従って、内容は取捨選択して他の専門家の意見を元に参考程度に考えて下さい。
 年末一足早く、お伊勢詣りをしてきました。
新幹線の車窓から富士山の端正な姿を目にし、また20年ぶりという式年遷宮でもあり、真新しい新宮にお詣りし、身も心も清められ晴れ晴れとして新年を迎えたいものだと念願しました。
 しかしながら、昨今の天変地異、政治、経済、外交など我々を取り巻く状況は穏やかなものではありません。
 今年こそは何とか平穏で、豊かになる一年でありたいものです。