月別アーカイブ: 2014年5月

フットケア

皮膚科学会総会のために京都にきています。「フットケア:現場で必要な他科との連携も含めた最新知識」というテーマの教育講演を聴きました。
今年3月にブログで動脈硬化・重症虚血肢(CLI: critical limb ischemia)を取り上げたこともあり、興味をひかれました。三重大学の水谷先生と滋賀医大の中西先生のオーガナイズによるセッションでした。
皮膚科医で治療するフットケア、ここが知りたい装具の知識、重症虚血肢に対する血管内治療の進歩、下肢切断術を判断するタイミング、と4題の講演がありました。
装具の話は初めての経験で、義肢会社の講師でしたが、普段聴けない異分野の話は貴重でした。福岡山王病院循環器内科の横井先生の講演は印象的なものでした。血管内治療(EVT: endovasucular therapy)スペシャリストで1万件ものカテーテル臨床経験があるそうです。年間に、心臓500件、それ以外が500件というからすごいものです。
EVTの最近の進歩は目覚ましいものがあるそうです。3月のブログでは、腸骨動脈領域ではEVTが第一選択になるけれど、膝下動脈領域ではEVTの成績は悪く外科的バイパス手術が第一選択になると書きました。
基本的にはそうであるけれど、先生は膝下でもEVTを進めているそうです。
膝下の動脈は1-3mmと細いのですが、それは正に心臓の血管と同じ程度だそうで、心臓血管医が用いる技術がそこにも適応されうるそうです。
EVTの利点は低侵襲であること、局所麻酔でできること、短い入院でできること、再実施が可能なことなどがあげられます。また最近のデバイス、医療機器の進歩は長足のものがあるそうです。例えばSHIMADZUのDSA画像は動画で血管の描出ができるそうです。また国産のガイドワイヤーは優れたものが出てきているそうで、年ごとに治療適応の可能性が拡がっているそうです。確かに透析患者さんのように石灰化が高度な場合や、造影剤アレルギーの場合、足底部などのようにバイパス手術が必要なケースも多いですが、バイパス手術技術は基本的に変わらないのに比べてEVTは更に進化し続けるだろうとのことでした。
この領域はいろいろな科にまたがっており、内科、血管外科、整形外科、理学療法部、皮膚科などの連携が必要なことを各講師の先生方がおっしゃていました。そのなかで皮膚科は特に初期病変と、創傷治療面で重要な位置にあり、適切に各科に橋渡しすることの必要性に言及されていました。
実は今年は千葉県医師会医学会総会のメインテーマは「地域で守ろう、みんなの命」で、寝たきりを防ぐために脳や心臓の血管病変を早期に予防、治療することもテーマに入っています。その分科会として開催される皮膚の日のテーマはそれに呼応するように、下肢の脈管疾患やフットケアとなりました。
11月2日の午後1時から千葉市の三井ガーデンプラザホテルで市民公開講座が開催されます。タコ、魚の目、巻き爪などに対処するような靴の選び方、フットケアの話も聴けるそうですから興味のある方は出向かれたら如何でしょうか。

中原寺メール5/28

【前住職閑話】~三国ってどこの国~
 歴史上の人物で、名前ぐらいは聞いたことはあってもよくは知らないという人は意外に多いですね。
 「三浦按針」(みうらあんじん)のことはご存知ですか?
先日の中原寺門徒旅行では、三浦按針ゆかりの寺、横須賀の浄土寺を参拝しました。
 三浦按針つまりイギリス人ウィリアム・アダムスはオランダの東洋遠征探検艦隊の航海士で1600年に大分県臼杵に漂着し、9日目大坂城で徳川家康に謁見、その後、天下人となった家康の外交顧問として徴用されるようになりました。その功績により、現在の横須賀市逸見に二百五十石の知行を授けられ領主となった日本で唯一の外国人サムライです。
 当時まだ世界の全容を知らなかった日本において、彼が家康に、持っていた世界の海図や辿った航路を示したことは、初めて世界というものを知った端緒になったようです。
 因みに「三国一の花嫁」という言葉がありますが、「この花嫁は世界一だ!」とのほめ言葉です。三国とは仏教が伝来した天竺(インド)、唐土(中国)、日本ですから、世界はこの三国しかないと思われていた時代だということです。
 三浦按針によって、やがて日本は広い世界を知り大きく羽ばたくことになっていったわけです。
 人間の精神界も「我」という小さな殻に捉われず、人間を超えた大きな広い世界に導き出されてこそ真に自由な生き方が生れてくるのです。
 「仏法は無我にて候ふ」。ここがほんとうのいのちが活動する世界です。

乳児血管腫(苺状血管腫)

乳児血管腫(infantile hemangioma: IH)は本邦では一般的に苺状血管腫とよばれています。
苺を半分に切って皮膚に乗せたような形状からそう呼ばれていましたが、最近はIHという名称に統一されたそうです。

【経過】多くは生下時にはなく、一般的に生後2週間程度たってから増殖をはじめます。
生後5~7週で最も増殖が目立ちます。
生後6ヶ月~1歳前後で増殖が止まります。
その後70%程度は7歳までに自然退縮しますが、その後も病変が残る場合もあります。
大きなものは瘢痕を残すこともあり、下床に海綿状血管腫(あるいは皮下型の苺状血管腫)を残す場合もあります。
皮下型の苺状血管腫の認識は皮膚科医でも低く、時に海綿状血管腫と混同されています。海綿状血管腫は静脈性の血管腫なので、自然消退はしません。皮下型の苺状血管腫は他の病型よりも退縮速度が速いので1~2年も経過をみれば診断は確定できます。
(大原國章 皮膚疾患のクロノロジー より)

【症状】
一般的に苺状血管腫とよばれるように、大きさも形も苺を半切したような臨床像を呈することが多いですが、時に顔面の半分を覆うほどの巨大なものもあります。手足、陰部、肛門周囲などどこでもできますが、顔面にできることが最も多いようです。
臨床病型は結節・腫瘤型、局面型、皮下型に大別され、病理的には真皮、真皮・皮下型、皮下型に分けられます。局面型は的確に診断されますが、皮下型では皮膚表面には何の変化もないかあってもごくわずかなので海綿状血管腫と誤診されることもあるようです。
(大原國章 皮膚疾患のクロノロジー より)

【治療】
最初に書きましたように自然退縮するので、治療の大原則はwait and seeです。
ただし、放置してはいけないケースがいくつかあります。
第1に眼瞼部に生じたもの。拡大し開眼不能になった場合は将来弱視になる可能性が高く、治療の絶対適応となります。また気道閉塞や難聴などの機能障害を生じる恐れのある場合も絶対適応となります。
次に、口唇部、鼻腔開口部や肛囲に生じ、摂食や排便障害をきたしたり、潰瘍化・二次感染をおこしたりして、日常生活に支障をきたす場合も絶対適応となります。
また大きくて瘢痕形成が懸念される場合や患者・家族の精神的な苦痛が大きい場合も治療の対象になります。
《ステロイド》
上記のようなケースで腫瘤状となった場合は従来はステロイドの局所注射や内服などが行われてきました。しかし局所注射は疼痛を伴うために乳幼児の顔面に行う場合は全身麻酔が必要です。またステロイド剤の全身投与では全身的な副作用が危惧されるために経験豊かな小児科医などのもとで注意深く施行することが要求されます。
《レーザー》
本邦では、腫瘤を形成する前の時期に色素レーザー(ロングパルスダイレーザー)を照射し、紅斑を早期に退縮させ、隆起性病変もある程度抑制できるという報告もあり、保険適用がされているためにレーザー装置を有している施設では積極的に照射治療がおこなわれているようです。レーザー治療に関しては一定の科学的な評価はなされておらず、諸外国ではwait and seeが原則であり、これは日本独自の現状のようです。
局面型の大半は瘢痕も残さず7,8歳頃までに完治すること、腫瘤型にはレーザーは効果がないこと、まれにレーザー照射によって瘢痕形成や色素脱失があること、治療費や照射時の疼痛があることなどを勘案するとレーザー治療の意義はそれほど高くないといえます。
専門家の中には「レーザー治療は日本でのみ通用し、他の国ではなされない、日本でなぜ苺状血管腫に(レーザーの)保険適用があるのか、誰がそれを決めたのかいまだにわからない・・・」とコメントする学者もあるほどです。(渡辺晋一  臨床皮膚科 64巻8号(2010.07)あとがき)
ただし、小児であるために医療費の負担が少ない、早く病変を消退させて本人、家族の精神的苦痛から解放されたいという希望は強いようです。また早期の照射で腫瘤化が抑えられるとの意見もあります。純粋な医学的な有効性はハーフサイドテストなど今後の研究に待たなければならないでしょう。
「現在の医療の現場で、やや安易に、意味を深く考えずに苺状血管腫にレーザーを当てている傾向があることは認めよう・・・ただし、初期の段階では、局面的になるのか腫瘍型になるのかはっきりせずに、結果を待たずにレーザーを当てざるを得ないケースもある.それよりもなによりも、大人になってから苺状血管腫の皮膚後遺症でずっと苦しんでいる患者を多数みているからこそ、なんとかこれを予防できないかと日夜努力しているのである.(葛西健一郎)」との専門医の意見もあります。

(単純性血管腫-ポートワイン母斑)には有効で、第1選択ですので混同しないように
《手術》
下床に海綿状血管腫を伴ったもの、大きな腫瘤を形成したもの、退縮した後も、皺状の皮膚のたるみや瘢痕を残したケースでは手術療法がおこなわれます。ドライアイス療法なども行われることもありますが、傷痕は残ります。最も痕が残らないのは自然治癒した場合ですので、手術は慎重を期すことが必要です。手術時期は待てる場合は「ある程度の線維化と消退を待って手術治療を行ったほうが、手術が容易であり、よりよい結果が得られると思われる」という意見もあります。
(三川信之 Visual Dermatology Vol.10 No9:920-922,2011)
近代形成外科の礎を築いたギリエスの十箇条の心得の中には、「明日できる事は今日するな」という格言があるそうです。
《プロプラノロール》
2008年、ステロイド治療中のIH患者に合併した肥大型心筋症の治療のためにプロプラノロールを使用したところ偶然血管腫への縮小効果が見出されました。それで、これはserendipitous discovery(思いがけない発見)と呼ばれたそうです。これを契機にIHの治療は長足の進歩を遂げてきました。欧米では今ではこれが治療のfirst lineにまでなっているそうです。作用機序はこの薬剤が血管内皮細胞におけるvascular endothelial growth factor(VEGF)の抑制作用を持つためと推測されているそうですが、他のβ遮断薬も含めて研究が進んでいるそうです。またβ遮断薬で、緑内障に対する点眼薬として使用されてきたチモロール外用療法も有効との報告もあるそうです。
本邦ではまだ、治療方針は確立されていないようですが、徐々にこの治療法が難治性のIHに対する第一選択薬となっていくものと思われます。
ただ、プロプラノロールも種々の副作用もあるので、専門小児科医、内科医の指導のもとに使用されることが重要であることは論をまちません。
睡眠障害(不眠、悪夢、夜間不穏など)、四肢の冷感、低血圧、胃腸障害、呼吸障害、徐脈、低血糖
ただし、致死性などの重篤な副作用の報告はないそうです。
投与方法・・・
低用量から漸次増量.0.25mg/kg/day x3回
2日ごとに0.25mg/kg/dayずつ増量
2.0mg/kg/dayを目標維持投与量とする (広島大学でのプロトコール)

参考文献

戸田さゆり、秀 道広: 乳児血管腫に対するプロプラノロール療法
臨皮 68(5増):111-116,2014

Visual Dermatology Vol.10 No.9 2011 責任編集 中川浩一
[特集]アザの治療――「ことわざ」が教える治療法選択のヒント

葛西健一郎: 血管病変に対するレーザー療法 (2)苺状血管腫
スキルアップ皮膚レーザー治療 編著 川田 暁  中外医学社 2011
苺状血管腫1

苺状血管腫3

 

血管腫(赤アザ)

先日、日本臨床皮膚科医会総会が横浜で開催されました。そのなかで、今回は「子どもの皮膚の形成異常・腫瘍」という演題を取り上げてみたいと思います。
神奈川県立こども医療センター皮膚科の馬場直子先生の講演です。
赴任して、最も一般の皮膚科と異なり、戸惑ったのは先天性の皮膚疾患である母斑・血管腫・形成異常が多いということでした、と述べられていました。
確かに我々一般の開業医にはそのような患者さんは、滅多に相談にはみえません。こども医療センターのセンターたる所以でしょう。
それに馬場先生が苦労しながら手術、レーザー治療などを重ねることによって紹介患者さんも増えていったのでしょう。
短い時間で多くの重要な疾患を供覧、解説していただきました。この分野の疾患はごく稀ながら重要なものが多く、親御さんにしてみれば期待に胸を弾ませて待ちに待った我が子に降りかかった疾患が生涯にわたって続くことの苦悩や不安は想像を絶することと推察します。患児も成長とともに、精神的な葛藤に悩み苦しむことになります。
皮膚科医はそれらの疾患をみたら、まず皮膚だけのものか、皮膚以外の合併症を伴う可能性はないのか(母斑症)を見極めることが大切だと述べられました。
そして、今あるものが自然消退するものか、生涯に亘って残るものか、あるいは増大したり、腫瘍化しないものかを判断し、患者家族に説明することが大切といいます。
さらに治療を要するものであれば、その時期、治療方法などを的確に判断し見極め、家族に説明できることが重要とのことです。
当日は数多くの疾患を解説していただきました。
名称だけを羅列してもあまり意味はないかもしれませんが、ことほど左様に多くの赤ちゃんの皮膚疾患があることは伝わると思いますのであげてみます。
サモンパッチ、苺状血管腫、血管芽細胞腫、異所性蒙古斑、色素失調症、ポートワイン母斑、太田母斑、若年性黒色腫、色素性母斑、脂腺母斑、肛門垂、小児指線維腫症、肥満細胞腫、若年性黄色肉芽酒、石灰化上皮腫、皮様のう腫、脂肪腫、乳児線維性過誤腫、ランゲルハンス細胞組織球腫、リンパ腫(良性、悪性)などなど。
これらの中で、最もよく見られ、治療にも注意を要する血管腫について当日の講演を基に調べてみました。

iPadを手にして

最近iPadを買いました。何を今更という感が無きにしも非ずです。
以前から買ってみようかな、とは思っていましたが、直接のきっかけはアメリカの学会で多くの人がiPadを持っていて学会抄録やアナウンスをみたり、はては学会のスライドを手許のIPadで見ながら講演を聴きつつ、メモを取っていたりしていたのがとても便利そうに見えたからでした。
さて、購入してアプリの多さにびっくりしましたが、iBooksの中に「医学生とiPad」という本があり、ダウンロードして読んでみました。
孫子のような若い世代の医学生が書いた本です。アナログ世代の小生がついていけそうにもありません。しかし、iPad初心者にも解りやすく簡潔に書いてある入門指南書でした。
その本を案内書としてKindle版の医学書や辞典をダウンロードし、無料の本までダウンロードしました。
臨床皮膚科の電子版もみられタッチペンでお絵かきもできます。玩具を充てがわれた子供のように興奮しました。
Fitzpatrickの皮膚科教本も購入しました。さすがにRookの教本は買いませんでしたが、Kindle版だと紙の本の約半額です。Evernoteはクラウドで同期できるしなかなか便利で優れ物という感じがしてきました。
何か新たな能力を獲得したかのような気がしてきたものでした。
でも、はたと気づいてみるとiPadを手にしてiTuneで歌謡曲を聴いたり、ネットサーフィンしていたりしています。 却ってじっくり皮膚科の本を読むことがなくなってきました。これでは、スマホを片時も離さずゲームにはまっている若者と大差がないようにも思えてきました。
どんな便利な道具でも使いようで役に立ったり、無駄に道具に振り回されたりするのでしょう。

まだ使い始めたばかりで、よく使い方も分からない状態ですが様々な可能性を秘めたツールだと思いました。適切に使いこなせば大きな武器になるように思われました。
でも出逢ったのがいささか遅すぎたきらいもあります。

中原寺メール4/30

~【前住職閑話】~
 久しぶりにまとまった雨が降って、明日からはもう5月です。
いつのまにか青葉となった周囲の景色が心をしっとりとさせてくれます。
 4月のニュースのなかで、二つの事件が心に引っ掛かりました。
一つは北海道で海岸べりを散歩中の女性が飼い主から放たれた土佐犬に襲われかまれて水死したという痛ましい事件です。
飼い主の責任が厳しく問われなければなりません。そして直ちにその犬は殺処分されました。
 今一つは徘徊をしていた痴呆老人が電車にはねられ、ダイヤを乱した損害賠償は監督不十分の配偶者にあるという二審判決のニュースです。
 二つの事件から思うのは世法(人間が作った法)には常に矛盾があることです。
人を襲った土佐犬はなぜ殺処分されるのか?
人間が腹を満たすために牛や馬や鶏を屠殺するのはどうなのか?
 世法はあくまでも人間中心の見方です。
徘徊の痴呆老人にとって電車は凶器ではなかったのか?
営業利益は人の命より優先されるのか?
 世法は都合よく作られていて誰もが納得できるものではありません。
そんな世法の中で生きなければならない人生に光を与えてくれるのが仏法です。
仏法は人間が作ったものではない真理です。真理とはいかなるものにも通用するものです。
 親鸞聖人は「わたしどもはあらゆる煩悩(人間中心)をそなえた凡夫であり、この世は燃えさかる家のようにたちまちに移り変わる世界であって、すべてはむなしくいつわりで、真実といえるものは何一つない。その中にあって、ただ念仏(仏法)だけが真実なのである」とのお言葉をあらためて深く味わいました。

基底細胞癌とヘッジホッグ

近年基底細胞癌、とりわけ常染色体優性遺伝性疾患である母斑性基底細胞癌症候群(基底細胞母斑症候群)(Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome: NBCCS)の原因遺伝子としてPTCH1遺伝子が関与していることが発見されました。PTCH1は癌抑制遺伝子でヘッジホッグシグナル伝達経路の中で働いていますが、その働き、それをターゲットとする分子標的薬の開発が進み、病因の解明も進んできました。
【母斑性基底細胞癌症候群】
米国では57000人に一人の割合で発症するとされています。Gorlin症候群ともよばれます。日本では現在300人を超える患者さんがいるそうです。20歳頃からBCCが多発してきます。発達上の奇形がみられますが皮膚症状として、手掌や足底の多発性の小陥凹がみられます。顎骨の歯原性角化嚢胞がみられ、それで初めて異常がみつかる場合も多いそうです。前頭部や頭頂部の突出、両眼解離、広い鼻根部など特徴的な顔貌がみられます。二分肋骨、癒合肋骨、側弯症などの骨格異常もみられます。大脳鎌石灰化もみられます。
小児期(2歳頃)に髄芽腫が約5%にみられ、また卵巣腫瘍の発生もあります。米国では7000人ほど患者さんがいるそうです。
 
【ヘッジホッグ伝達経路】
ヘッジホッグ伝達経路はショウジョウバエからヒトに至るまでみられるもので、胚発生や分節決定、変態など動物の初期のステージの発生にかかわる重要な経路の制御にかかわっています。それで、この経路の異常はさまざまな先天異常や、奇形や発がんをきたします。とりわけ近年発見されたこの経路の中のPatched(PTCH1)という蛋白の異常によりNBCCSが発症することがわかり、その病態解明、治療に大きな進歩がみられています。ヘッジホッグにはデザート、インディアン、ソニックヘッジホッグ(Sonic Hedgehog: SHH) の3種がありますが、人ではソニックヘッジホッグが重要な働きをしており、最もこの経路の研究が進んでいるそうです。
ヘッジホッグとはショウジョウバエで見つかったペプチド分子で、1992年にショウジョウバエのHH遺伝子のクローニングが成功しました。ヘッジホッグとはハリネズミのことですが、ハエの幼虫のHH変異株が隙間のない芝生状の歯状突起をもっていて、これが毛が密集していて太くてずんぐりむっくりしたハリネズミを思わせることからこのシグナル伝達経路がヘッジホッグと名づけられたそうです。

SHHは自己分泌作用のある物質で、これが標的細胞に到達することによってこのシグナル伝達経路が始まります。SHHの膜受容体であるPatched-1(PTCH-1)と呼ばれる細胞膜表面の受容体にSHHが結合することによって、やはりSHH受容体複合体のコンポーネントであるSmoothened (SMO)の抑制がはずれ、細胞内にシグナルが伝わっていきます。最終的にGli転写因子を介して様々な標的遺伝子の転写が活性化され生理機能を発揮しているそうです。最近PTCH-1はこの経路を通して細胞核におけるシグナルに対して抑制的に働くことが解ってきたそうです。
そして体の器官形成や、分節などの調節はSHHにどれだけ長く曝されていたか、またどれだけの濃度に曝されていたかによって変わってくらしいことも解ってきました。
PTCH1の遺伝子変異は母斑性基底細胞癌症候群(NBCCS)(Gorlin症候群とも呼ばれる)というさまざまな奇形と高発がんを特徴とする遺伝病を引き起こします。
NBCCSでは恒常的にSHH伝達経路の発現が亢進しているのが病気の原因になっているとされています。

【進行性基底細胞癌、NBCCSの治療への応用】
約 90% の BCC は PTCH 遺伝子の変異により生じ、残りの BCC は、HH 経路の PTCH より下流に作用 する SMO遺伝子の変異により生じるそうです。したがって、SHH 経路の阻害により大半のNBCCSの腫瘍が縮小します。Erivedge(Vismodegib)はcyclopamine競合性のMO阻害剤で、SMOと結合してSHH伝達経路を抑制します。
104例のBCC患者(局所進行性71人、転移性33人)にビスモデギブを1日1回150mg経口で平均 8ヵ月間投与した試験において、既存 BCC の 平均縮小率は、ORR (objective response rate)で局所進行性が43%(27/63)、転移性が30%(10/33)でした。
副作用は味覚の喪失、筋肉の痙攣、脱毛、体重減少、吐き気、食欲減退などでした。7人の死亡例が報告されていますが、いずれも元々高リスクファクターのある患者でした。(3人は原因不明、ショック、心筋梗塞、髄膜炎、心虚血)。薬剤との関連性は不明とのことです。しかし主治医は関連性はないと考えているようです。
最も重要な副作用は、催奇形性です。従ってこの薬剤を使用する際は完璧な避妊が必要です。
一方、NBCCSの41人にビスモデギブを150mg/日8カ月間内服し、腫瘍の大きさの減少とHH遺伝子の発現の減少を認めました。しかし、54%(14/26)の患者では副作用のために継続を中止しました。
また、治療を中止すると腫瘍は再び拡大するようです。
副作用が生じた場合には、慎重を期して 1 ~ 2 ヵ月の休薬が推奨されています。通常、休薬期間中に有害 事象は回復します。その後、ビスモデギブを再投与し、腫瘍が 十分に縮小するまで投与を継続すると切除後に大きな傷跡が 残らなくてすむ利点があります。

ビスモデギブは2012年に米国のFDA(Food and Drug Administration)によって、転移性、局所進行性のBCCに対して適用されました。

現在この薬剤が適用になる患者の数はごく限られています。基本的に基底細胞癌は局所進行性で転移は稀でしっかり手術すれば治癒します。またいろいろな副作用を考慮するとまだまだという感じもします。
しかし、SHHシグナル伝達経路はヒトの発生、分化、進化やさまざまな腫瘍の発癌に密接に関与しています。
多くの製薬会社がこの経路を調節する薬剤を精力的に研究、開発しているそうです。
それで一般的ではないけれど、Epstein教授のscience worksという言葉に触発されて調べてみました。

参考文献

A. Sekulic Efficacy and Safety of Vismodegib in Advanced Basal-Cell Carcinoma
N Engl J Med 2012; 366: 2171-2179

JY Tang. Inhibiting the Hedgehog Pathway in Patient
with the Basal-Cell Nevus Syndrome N Engl J Med 2012;366: 2180-2188

ヘッジホッグシグナル伝達経路 Wikipedia

宮下俊之 北里大学分子遺伝学講座 HPより

難病情報センター
奇形症候群分野 Gorlin症候群(ゴーリン症候群) (平成22年度)

マルホ デルマレポート Vol.26 2013

足底の色素性母斑とメラノーマ

昨年の手足のほくろとメラノーマの講演に続いて、今年は浦安で東京女子医大東医療センターの田中 勝先生の足底母斑の講演がありました。 昨年との最も大きな違いは『ためしてガッテン』の収録後の楽しそうな写真があった事でした。というのは冗談で、さらにバージョンアップされた講演でした。 講演の中での肝になりそうな点を箇条書きでリストアップしてみました。
# メラニン色素は皮溝部表皮突起でも皮丘部表皮突起でも増加します。しかしながら、なぜか角層まで色素が上昇するのは皮溝部のみです。 それで良性の足底色素細胞母斑は皮溝平行パターンをとります。
# ただ、子供の母斑や抗がん剤使用例や、Peutz-Jeghers症候群などでは皮丘平行パターンをとります。
# メラノーマでは皮丘平行パターンをとるとされますが、溝、丘のみにこだわるよりも、色素分布や色の濃淡の不規則性を重視することがより重要です。メラノーマでは色素がでたらめに増えるので、色調も不規則になって皮丘でも皮溝でも色素がムラに増えてきます。従って一部だけをみていると判断を誤ることにもなりかねません。
# 子供の母斑では、皮丘部でも色素がみられることがあります。エックリン汗管などの附属器の近くに多くみられるので、皮丘点状パターンをとることもあります。 表皮突起の部分の色素でも、足底は厚いので青くみえることもあります。
# 年をとってくると全体に色が薄くなってきて皮溝の色も薄くなってくるので、はっきりとした皮溝平行パターンがみえにくくなって診断が難しくなることもあります。
# 体重のかかるかかとなどでは、荷重のために角層がずれて斜めに分布するためにそれを真上からみると一見皮丘平行パターンにみえます。(線維状パターン、例えてみれば、ピサの斜塔が一列に並んだ状態です。しかもその始まり部は皮溝にきっちり沿っています)。エコージェルを厚く盛って斜め上から観察すると(斜めダーモ)皮溝平行パターンであることがわかります。
# 体重のかからない土踏まずなどでは、色素は格子状にみえることが多いです。荷重がかからないので、表皮突起の畝は浅くてもよいので色素細胞が畝を乗り越えて移動するからとされています。 # 真皮内にも胞巣のある複合母斑では、中央部分が青白色無構造にみえ、典型的な皮溝平行パターンがみえなくなることもありますが、周辺部でははっきりとした、規則的な皮溝平行パターンや皮丘点状パターンがみられます。
# Spitz母斑では青黒い皮丘平行パターンがみられ、streakというトゲ状の突起も周辺にみられますが、あくまで均一です。
# 趾間部分はダーモスコピーも使えず足底部は平行パターン、足背部は網状パターンとなり、判断が難しい部位です。最終的には病理組織検査の結果によります。
#指紋の間隔は0.5mmですので、ダーモスコピーの画像をみていれば、大きさを図らなくてもほぼ正確にその像の大きさが解ります。
# high dynamic range(HDR)画像変換を行えば画像のコントラストが高まり、構造物を明瞭に認識できるようになり,ダーモスコピー所見の把握が正確になります。しかし色調は変わるために元のダーモスコピー像をチェックする必要があります。

皮膚溝

講演当日の資料より (掲載のお断りはしていませんが、言葉でいうより目で見たほうが断然分かり易いので拝借しました)

vcm_s_kf_repr_882x589

線維状パターンが皮丘平行にみえる理由.荷重で角層がずれると真上から眺めると皮丘に色素があるようにみえる

ALM2

メラノーマでは色素はアトランダムにばらばらに増えるので、色素の分布も濃度もムラのあるものになる

汗管

走査電子顕微鏡で表皮を真皮側から見た図

以下のダーモスコピーの写真は千葉大学医学部皮膚科外川八英先生から提供していただいたもです。

PFP1

典型的なparallel furrow pattern(PFP). 皮溝に一致する平行線状の色素沈着がみられる

fibrilar1

細線維状パターン.始まりは皮溝に一致している.

Fibrillar pattern1

線維状パターン.一見皮丘にも色素があるようにみえる

Fibrillar ななめダーモ1

斜めダーモで傾けて観察すると皮溝一致であることがわかる

Latticelike1

格子状パターン

ALM1

ALM(acral lentiginous melanoma)末端黒子型黒色腫.日本人ではこのタイプのメラノーマが全悪性黒色腫の50%近くを占める.早期は黒褐色斑として生じ、進行すれば結節や潰瘍を生じる.PRP(parallel ridge pattern)皮丘平行パターンがみられる.不規則で無秩序な濃淡差のある色素沈着である.

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ALMの病理組織所見.表皮真皮境界部に黒色腫細胞の胞巣形成が見られる.一部では腫瘍細胞の真皮内への滴落、浸潤もみられる.