月別アーカイブ: 2014年6月

円形脱毛症

後天性脱毛症の中では最も多くみられ、人口の0.1~0.2%に発生するそうです。一生のうちに本症になる確率は1.7%になるともいわれています。
一般的に自覚症状はありませんが、軽い赤みや違和感があることもあります。活動期には病巣内外に切断毛や毛包内黒点を認めます。毛は容易に抜け、 根元が細くなっているので感嘆符(❗️)毛と呼ばれ診断の決め手になります。ダーモスコピーで観察するとより明確になります。爪に変化を見ることも多く、ごくわずかな変化まで含めると約半数にみられます。最も多いのが点状陥凹です。数、範囲、形態などから4つに分類されます。
1.通常型 単発型、多発型
2.全頭脱毛
3.汎発性脱毛・・・全身に拡大するもの
4.蛇行性脱毛・・・頭髪の生え際が帯状に脱毛するもの
一般的に脱毛の範囲が広いほど重症で難治性とされますが、ガイドライン委員会では25%以上を重症としています。本症の8.4%に家族内発生があるそうです。多因子遺伝といわれていますが、感受性(責任)遺伝子はまだ同定されていません。
【病因】
さまざまな説がありますが、近年は毛包組織に対する自己免疫疾患と考えられています。
それを支持する所見としては、毛包周囲にTリンパ球を始めとした細胞浸潤がみられることです。
成長期毛は免疫的に寛容な状態(immune privilege)にあると考えられていますが、何らかのきっかけによって破綻がおき、隔絶されていた自己抗原が露呈して、細胞障害性CD8陽性T細胞が自分の毛包を攻撃、障害すると推測されています。自己抗原は毛にあるメラニン関連蛋白ではないかという説もありますが、証明されていません。
*精神的ストレス
一般にストレス説が流布していますが、時にそれを強く自覚する人もあるものの、多くは自覚していないようです。またストレスの定義、科学的な評価法が定まっていないことも、関与の有無の証明を困難にしています。
視床下部、脳下垂体からのストレスホルモンや、神経伝達物質の関与を示唆する研究もあるようですが、まだ今後の課題といえます。ただ、あまり気にすると更に悩むといった悪循環に陥ることもあり、これが原因と決めつけるのは危険です。
*アトピー素因
円形脱毛症とアトピー素因の関連は強く、重症群ほどアトピー性皮膚炎の合併例が多いとされています。
それでアトピー素因があり、若年発症の場合は再発したり治りにくい傾向があるそうです。
一般的には約半数の患者さんは、1年以内に毛髪は回復するとされています。
*合併症
自己免疫疾患の合併がみられることがあります。橋本病に代表される甲状腺疾患、尋常性白斑、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、重症筋無力症などがあるそうです。甲状腺疾患は8%、尋常性白斑は4%と高率にみられます。
*誘因
誘因としては、経験的にウイルスなどの感染症、疲労、肉体的、精神的ストレスが引き金になっていることもありますが、誘因が明らかでない例も多くみられます。

参考文献
皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略
総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治 中山書店 2011
荒瀬誠治 10 円形脱毛症とは p.64-71
伊藤泰介 12 円形脱毛症の病態 p.75-79
荒瀬誠治 13 円形脱毛症診療ガイドライン p.80-84

脱毛症の診断

脱毛症の診断は眼で見るパターン診断も有用です。ある程度のことは見た目のパターンでも推定できますが、診断に有用なものに、トリコスコピー、病理組織診断法があります。

癖毛、縮毛(ちじれ毛)、巻き毛によって薄毛になる先天性の疾患は多数あり、遺伝子異常も多数同定されていますが、ここでは省略します。これらの場合は心疾患や掌蹠角化症、魚鱗癬などの合併をみることもあります。

主に後天性の脱毛症についての診断のヒントについて調べてみました。

◆トリコスコピー
 ダーモスコープを用いて脱毛部の頭皮、毛孔、毛幹などを観察することをいいます。毛髪にゲルがついてべたべたにならないようにゲルを用いないタイプのダーモスコープが使われます。
乾らは、トリコスコピーを用いて、脱毛症を臨床的に診断していく方法をアルゴリズムの形で提示しました。
すなわち、まず眼でみたパターンで凡その見当をつけます。
円形の脱毛斑・・・・・円形脱毛症
前頭部と頭頂部にパターン化した脱毛・・・・男性型脱毛症
帯状脱毛・・・・円形脱毛症、オフィアシス型
全頭脱毛・・・・円形脱毛症、全頭型、汎発型
びまん性脱毛
それらにあてはまらない脱毛

これらのパターンで見当をつけた上でトリコスコピーによる確認作業を行う、それでも分からない場合は皮膚生検を行う、といった経路を辿ります。

*円形脱毛症
 黒点・・・毛髪が折れて脱落した基部に相当、病勢と相関しますがトリコチロマニアでもみられます。
 漸減毛(感嘆符毛)・・・特異度が高い、トリコチロマニアでは見られません。
       これは成長期毛が急速に退行期、休止期に移行したために毛の直径が縮小したことによります。
 切れ毛、折れ毛・・・トリコチロマニアでもみられます。
 黄色点・・・皮脂と不完全に形成された毛幹の混合物と考えられます。多くみられますが、男性型脱毛症でも見られます。
 短軟毛・・・病勢と負の相関があります。これが多数みられれば回復期と判断できます。

*男性型脱毛症
明らかに他と比べて細い毛髪の割合が多く見られます。毛の直径の不均一性が見られます。(20%以上)
また、毛孔周囲の色素沈着、少数の黄色点がみられます。

*瘢痕性脱毛症
毛孔消失、毛孔周囲紅斑、毛孔周囲鱗屑がみられます。オフィアシス(蛇行型)円形脱毛症ではfrontal fibrosing alopeciaと似ていてトリコスコピーでも鑑別が難しいです。

*トリコチロマニア(抜毛症、抜毛癖)
抗しがたい衝動で自ら毛を引き抜くことで脱毛斑ができます。従って引き抜くことによってみられる所見を注意して見分けることが必要です。
輪状の毛髪(coiled fractured hairs)、縦に裂けた毛髪(longitudinally short hairs)などが特徴です。
長短の硬毛が脱毛斑内にみられますが、これらは簡単には引き抜けませんし、すべて成長期毛です。

◆病理組織診断法
脱毛症の原因となる病態は毛周期の可変部、すなわち毛包狭部以下の深いレベルで起こっていることが多いです。それは皮膚の表面からはみることができません。ですから正確に見極めるためには皮膚生検による病理組織検査が必要になってきます。
実際の方法は下記の通りです。(大山 学 先生による)
アドレナリン入りのキシロカインで局所麻酔をする。その後10分程度十分に時間をおくと出血が少なくてすむ。
4mmパンチで毛球部の深さまで入るように十分深く円筒形にくり抜く。
浅い部分から水平に4分割して水平面での状態の組織標本を作る(上から漏斗部、狭部、毛球上部、毛球部)
もう1か所病変部から生検し、通常の縦切り標本を作り、表皮基底層や毛の全体の構造変化をみる。
さらに健常部1か所の水平標本(transverse section)を作り、病変部と比較する。
3か所も大変そうですが、3-0ナイロン針を1-2針かけるだけで十分止血はできて翌日からシャンプーもできるそうです。
4mmパンチの利点は、4mmパンチ生検の断面でアジア人種では20本程度の毛包があることが統計的に分かっていることです。
また成長期毛と休止期毛の比率は分かっていて、通常0~15%が休止期毛だそうです。また男性型脱毛などでみられるミニチュア化した毛包は通常では3割を超えないそうです。
*円形脱毛症
急性期ではswarm of beesと呼ばれるように、ミツバチが群れているように毛の周囲に炎症性細胞浸潤がみられます。
しかし、慢性期になると次第に休止期の毛が増えていき、両者が混在した像をとるそうです。

*男性型脱毛症
ミニチュア化した毛包の増加、休止期毛の増加がみられます。総毛包数は変化しません。

*休止期脱毛
出産、手術後などのストレス、栄養障害、内分泌障害、薬剤などで休止期毛(抗がん剤などは成長期脱毛)が増えます。総数は変化せず、ミニチュア化もありません。

*トリコチロマニア
炎症はありません。不自然な毛包構造の破壊などがみられます。

*瘢痕性脱毛
エリテマトーデス、毛孔性扁平苔癬などが代表ですが、病理的に診断できます。

参考文献

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 
総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治 中山書店 2011
乾 重樹 8.脱毛症の補助診断法:トリコスコピー p.51-55
大山 学 9.脱毛症の病理組織診断法 p.56-61

       

毛の一生

人間の胎児の皮膚は外胚葉由来の1層の表皮だけでできていますが、胎生40日頃より、2層の重層構造をとるようになり、65日頃からこの表皮が真皮のほうに張り出して毛芽を形成します。毛芽の下には間葉細胞が凝集します。85日頃になると毛杭を作り、胎生135日には毛器官がほぼ完成します。
毛包の形態形成を調節する成長因子にはさまざまなシグナル伝達機構が関与していることがわかってきています。基底細胞癌などでも関与するShh(ソニックヘッジホッグ)シグナルや骨形成因子:Bmpシグナルなどを介したクロストークが毛包の発達、消退を調節しているそうです。
この形成過程で、遺伝的に毛器官の発生構造に異常があると先天性の脱毛症、他の外胚葉形成異常症を生じますが多くの疾患があり、また多くの責任遺伝子も同定されています。

ヒトの毛器官は発生段階を終えると、毛周期に入ります。
成長期(anagen phase)・・・2~6年間、毛幹が伸び続けます。
退行期(catagen phase)・・・成長期の後、毛根が退縮していきます。これは2~3週間続きます。
休止期(telogen phase)・・・その後、休止期に入り、3~4ヶ月続きます。その後また成長期に戻っていきます。
毛包の構造は大きく恒常部と可変部とに分けられます。脂腺があり、立毛筋がある上半部分が恒常部です。立毛筋の付着部分がバルジ領域で、その直下がサブバルジ領域とよばれ、毛周期を通じてそのまま維持されます。
それに対し、下半分は可変部で毛周期に同調して再生と退縮を繰り返します。
毛周期は「バルジ活性化説」によって説明されています。
すなわち、幹細胞領域であるバルジが毛乳頭からなんらかの刺激を受けて活性化され、休止期から成長期に入っていくという考えです。退行期の毛乳頭はバルジから最も離れていますが、次第に上方へ移動してバルジを活性化させます。

ヒトの毛はこのサイクルを一生繰り返していきます。毛周期はそれぞれの毛包が独立して行われ、隣り合った毛でも毛周期は同調しません。
ある一時点でみると、頭髪全体の約85%が成長期で、休止期が10数%だそうです。
ヒトの毛包は全身で約500万個、頭髪が数万~15万本だそうです。毛周期は数年あることを勘案すると、1日当たり数10本から200本の頭髪が生理的に抜け落ちる計算になります。ときに外来に1日にこんなに抜けた、と数10本の毛を持ってくる人もありますが、脱毛斑がなければそれは生理的といえます。

男性型脱毛はこの毛周期の異常の典型例です。
テストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて、毛乳頭細胞の受容体と結合してアポトーシス(プログラムされた細胞死)を起こし、成長期初期にいきなり退行期に移行するために太い硬毛が形成されずに、細く弱く、短い軟毛ができます。
老化に伴って、毛髪も老化していきます。男性ではテストステロン(TS)、女性では副腎由来のアンドロゲンの作用で軟毛化、脱毛がおきてきます。ただ、老年性の脱毛が全てホルモン支配のみでは説明できないそうです。毛増殖因子が減少するなどの他の老化因子も関係しているそうです。
老化に伴って、男性では眉毛、鼻毛、耳毛などは逆に硬毛化がおきてきます。このような部位による変化の違いなどまだわからない部分も多いそうです。
また、老化に伴って、白毛化もおきてきます。色素細胞幹細胞が毛隆起(バルジ)の下部(恒常部下端(LPP))にあり、それが加齢と共に異所性に分化し枯渇して白髪になっていくことがわかってきました。しかしながらそれへの対策はいまだに染毛剤しかないということです。

参考文献

中村元信 毛器官の発生と再生からみた脱毛症
visual Dermatology Vol.9 No.2, 130, 2010
毛髪の疾患――後天性脱毛症 責任編集 勝岡憲生

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治 中山書店 2011
秋山真志 2 毛器官の発生と再生 p.8-15
伊藤雅章 4 老化に伴う毛髪の変化 p.23-27
上野真紀子、西村栄美 5 白髪のメカニズム p.28-34

毛にまつわる迷信

脱毛症の本をみていたら、新潟大学の伊藤雅章教授の「毛にまつわる迷信を正す」という記事がありありました。
自分自身でもそれは違うんじゃないか、と思っても医学的に、科学的に説明できずにいました。
明快に解答してあり、毛のことに悩む人への参考になると思いましたので引用してみました。

◆海藻を食べると黒髪に良い
昆布やひじきは細長く、緑~黒色の外観から「黒髪」を連想させ、髪に良いと古くから一般に信じられています。
それならば、白人も海藻を食べれば黒くなるはずですが、決してそうはなりません。
髪の毛の色は毛毋メラノサイトの産生するメラニン色素によります。栄養失調状態では、その原料のフェニルアラニンやチロシンが欠乏するために淡色化を起こしますが、海藻に特別にこれらが多く含まれているわけではありません。
白髪は加齢とともにメラノサイト幹細胞が消失して起きる一種の老化現象です。

◆白髪を抜くと白髪が増える
そういうことはありえません。毛を抜いても同様にまた白髪が生えてくるだけです。ただ、残念ながら加齢とともに徐々に白髪が増えてくるのは前述した通りです。
また、しょっちゅう抜いていると、再生してくる毛は変形して波状になるなどかえって目立つようになります。

◆ストレスで白髪になる、一夜で白髪になる
円形脱毛症の2割の人には精神的ストレスがきっかけになって発症すると言われています。
円形脱毛症では黒色毛の成長期毛根のほうが、白色毛のそれよりも傷害されやすいです。従って白黒毛の混在した人での円形脱毛症では、黒毛が抜けて極めて短期間で白髪化したようにみえる特殊な場合があります。
白髪は前述のように徐々に進行するので、ストレスによって白髪になるわけではありません。

◆すね毛やわき毛を剃ると濃くなる
そういうことはありません。剃らないと腋下では10cm、下腿では数cm以内の先端が細い軟らかい毛になります。
剃毛した場合、成長期の太い毛が目立ち、ザラザラ、チクチクして濃くなったと誤解しがちです。そのまま放置すれば本来の柔らかい毛の状態に戻ります。

◆赤ん坊の髪を剃ると太い毛が生える
新生児では一時期に休止期になり、一斉に脱落してその後全体に成長期毛が再生して頭髪は回復してきます。
これは剃っても剃らなくても変わりはありません。

◆皮脂が多いと毛の成長が妨げられる
このような医学的根拠は全くありません。男性型脱毛も、頭皮の皮脂量の増加もいずれも男性ホルモンの作用によります。それでそのように信じられ、また業界での説明でもそのように理由づけてあることもあります。
男性型脱毛を生じない男性にも皮脂が多いことも、脂漏性皮膚炎をおこすこともありますが、軟毛はありません。ただし、この場合は湿疹の炎症のために脱毛を生じることもありますが、いわゆる薄毛とは別の現象です。

◆ストレスで禿げる
円形脱毛症ではきっかけの一つにはなりますが、男性型脱毛症では関係はありません。遺伝的な素因が大であるとされます。

◆白髪の人は禿げない
そういったことはありません。白髪と男性型脱毛とは別個の現象です。フサフサした髪の男性が白髪になると、薄毛で白髪の人より目立つので、そういった誤解が生じたものと思われます。

◆育毛剤の効果は頭皮の血行促進による
多くの育毛剤の効果の説明にそういった記載があります。しかし、医学的、科学的に証明された事実ではありません。ミノキシジル(プロペシア)の育毛効果も、当初はそのように説明されていましたが、現在ではミノキシジルは毛乳頭細胞に働き、毛成長の促進因子を放出して効くことが解っています。男性の薄毛は男性ホルモン作用による毛器官のミニチュア化であり、頭皮の血行が悪くてなるわけではありません。

◆頭皮のマッサージは育毛に良い
頭皮をマッサージしたり、叩くことで男性型脱毛を防ぐという医学的な根拠はありません。また、超音波、赤外線などが血行を促進して育毛効果があるという根拠もありません。むしろやりすぎることで毛組織を傷害する危険性もあります。

◆男性型脱毛恐怖症
男性型脱毛は20歳代から始まる場合もあり、家系などの遺伝的な素因が大きく関与しますが、将来を予測することは不可能です。健常な若者に対し、ビデオスコープなどで不安を煽り、高額な育毛療法を契約させるなどのセールスには注意が必要です。治療は確実に軟毛化のパターンが始まってからでも遅くはなく、しかも医学的根拠のある治療をすることが肝要です。

◆増毛、発毛、育毛、養毛、植毛についての誤解
これらの言葉が曖昧に使われ、しばしば商業目的に悪用されることがあります。
増毛とは人口毛を毛に絡めたり頭皮に接着して、見かけ上髪をふやすことなので早晩脱落します。植毛は自分の後頭部の毛を毛根ごと移植する自家植毛は正当な医療施術ですが、人口毛を直接頭皮に差し込むことは、異物反応や感染症を引き起こしますのでやるべきではありません。

引用文献

伊藤雅章 毛にまつわる迷信を正す
皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 総編集◉古江増隆 専門編集◉坪井良治

脱毛症

先日の浦安皮膚臨床懇話会は「脱毛症の病態と治療」という演題での講演でした。講師は慶応義塾大学の大山 学先生でした。
脱毛症はふだん外来診療していても結構多く見られますが、あまり学問的に考えたことはなく、パターン認識によって診断、治療を進めていました。まあ、それでも大部分は間違っていないだろうと思っています。
目で見て、円形脱毛症だな、男性型脱毛症だな、トリコチロマニア(抜毛癖)だな、圧迫による瘢痕性脱毛症だな、などはおおよよそ解りますし患者さんの希望によってステロイド外用剤、フロジン液などを処方し、時に漢方薬、説明して通院ができるようならばエキシマランプの治療、AGAならばプロペシアを処方し、リアップ、ロゲインを使って下さい、というパターンです。
たまに甲状腺、膠原病などの検査もしますが、まず陽性にでたことがありません。
そんなにダーモスコピーを活用したこともないし、ましてや頭皮を生検して病理組織像を確認するといった発想はありませんでした。
今回の講演を聴いて、病理組織検査やトリコスコピーなどを駆使して脱毛症の病態を正確に診断し治療を進めていくという当たり前といえば極めて当たり前ながら、あまり一般になされていない方式を知りました。
薄毛については、別に生命には関係なく、その人の考え方によっては、病気でもなんでもなく治療の対象にすらなりません。しかし、同じ脱毛症でも、薄毛でも人生のQOL(quality of life)をも左右するほどの重大な事象である場合もあります。薄毛の治療薬やカツラ(義髪)のメーカーなどの隆盛によってもその重要性がわかります。
抗がん剤治療による脱毛も重要な問題です。脱毛の再生医療ができればノーベル賞ものだともいわれます。
今回の講演は脱毛症を科学するといった趣きでした。
脱毛症に真正面から取り組み、週3-4回の脱毛外来を持ち、年間2000人以上の患者さんを診ているという大山先生の講演は印象的でした。
(素晴らしいけど遺伝子レベルの話は難しすぎてついていけませんでした。しかし日本のアドバンテージであるiPS細胞をもちいた再生医療の取り組みには期待を覚えました。)

酒さ再び

ブログに酒さのことを書いたせいか時々問い合わせがあったり、遠方から患者さんが来院されたりします。残念ながら記事に書いた以上のことは何もわかりません。あまり気の利いたこともいえないので中にはがっかりして帰る方もいますし、一応酒さグッズを買って帰るも方もいます。たまには千葉中央皮膚科の田辺先生を紹介するので先生も一寸迷惑かなと心配です。
酒さは一昔前の教科書には、ニキビの項目のあとに申し訳程度の記載があり、原因:不明、治療はニキビの治療に準じる、などとあるのみといった具合でした。日本ではむしろ少ないとされ、それ程注目もされていなかったように思われます。
しかし近年免疫学の進歩と相まって、酒さの病因が自然免疫機構の不調によって説明できるようになってきました。そして意外に日本人でも患者さんが多いことも知られてくるようになりました。むしろ最近は酒さは最新トピックスの一つともなってきた感があります。
今回の京都の日本皮膚科学会総会のメインの講演ともいえる土肥記念国際交換講座の講師は酒さの分野では世界の第一人者ともいえるカリフォルニア大学サンディエゴ校のRichard L. Gallo教授でした。また特別企画「トピックスを読み解く 基礎編」は椛島健治、山﨑研志先生の講演でした。
山﨑先生はGallo教授のもとで酒さの病因について画期的な研究成果をあげて帰国された先生です。彼らの免疫学の講義は難しく小生の頭では一寸ついていけないものでしたが、皮膚獲得免疫、自然免疫学の進歩の空気は十分に伝わるものでした。
詳細は以前書きましたので省略しますが、Gallo先生は20年以上に亘って抗菌ペプチド(antimicrobial peptides(AMPs))の研究を続けてきて、酒さでは自然免疫のToll様受容体2が過剰に発現し、AMPの中のカセリサイジン、カリクレイン5などの産生亢進が酒さの血管拡張や炎症をもたらすという学説を打ち立てました。酒さではAMPが過剰に発現し、アトピー性皮膚炎では逆に過小に発現していることが病因の一つだとのことです。また乾癬の初動の病態にはTIP-DCという樹状細胞が関与しているそうですが、そのまた前段階の刺激にもpDCという細胞を介して抗菌ペプチドが関与しているそうです。
いろいろな研究成果には何人もの日本人留学研究生が寄与していることをスライドで示されたのが印象的でした
でも翻って、治療の現場ではどうなのでしょうか。治療・原因の理論づけはできても、実際の治療は依然としてテトラサイクリン系統の抗生剤治療を軸に、種々の酒さグッズを使い、なるべく刺激を避けることに集約されるように思われます。
上記のような専門の先生のところにいっても、すぐに軽快するようにも思われません。
アクセスに便利な主治医の先生にきめ細かにみていただくのが良いように思いました。
海外ではフラッシングに対する新しい薬も出てきているようです。
酒さの医学的な病因が解明されてもっと簡単に確実に治療できる日がくればと思いました。

単純性血管腫に対するレーザー治療

【歴史】
1964年 Goldman 発振波長694nmのルビーレーザーを血管性疾患に使用した.
1968年 Solomon 488nm, 514.5nmのアルゴンレーザーを単純性血管腫に使用した. 効果は少なく瘢痕などの副作用があった.照射時間0.2秒
1981年 Anderson 577nm(酸化ヘモグロビンに吸収波長を持つ)の発振波長で、照射時間を短くした(1μs)色素レーザーを単純性血管腫に使用した.
1986年 Tan パルス幅を360μsに延長して十分に血管を障害できるようにした.
1989年 Tan 発振波長585nmとし、レーザー光の皮膚深達性を高めた.
1996年 日本でも色素レーザーが保険適用になった.
2000年 パルス幅可変式のロングパルス色素レーザー(波長595nm,照射時間1.5〜40ms)が発売された.

【色素レーザーの原理】
皮膚(真皮)内の拡張した血管内の赤血球に存在する酸化ヘモグロビンによって赤アザは赤く見えます。従ってその血管を選択的に傷害して潰して、正常な線維組織に置き換えて、赤みを消退させていきます。
レーザー光がヘモグロビンに吸収されて光エネルギーが熱エネルギーに変換されて赤血球は熱変性し、近接する血管壁にも熱変性がおきます。
熱エネルギーが少ないと治療効果はでません。適切なエネルギー量だと治療効果がでて、軽快します。熱エネルギー量が過大であると周囲の組織まで傷害されて瘢痕が形成されてしまいます。
それを決定づけるレーザー光の3要素は1、発振波長 2、照射時間 (パルス幅) 3、エネルギー密度です。これらの3条件を満たす光を照射することが必要で、selective photothermolysis(SP)とよばれています。
1、 発振波長
酸化ヘモグロビンの光の吸収スペクトラムは415nm, 542nm, 577nmの3つのピークがあります。415nmが最も吸収率が高いのですが、同時に周囲の膠原線維への吸収率も高いので瘢痕になる可能性が高いです。それで後者が選ばれます。ただ波長が長い方が皮膚深達度が高いのでより長い波長が選ばれています。
2、照射時間(パルス幅)
初期の色素レーザーのパルス幅はごく短いものでした。小児の小さな血管をターゲットにしていたために、300μs, 450μs などの短いパルス幅を使用していて成人の血管腫では治療効果は限定的でした。
そこで最近はパルス幅を長くした、パルス幅可変式ロングパルス色素レーザーが開発されました。
Candela社のVbeamやCynosure社のCynergyがあります。Vbeamは2010年より保険適用になりました。
これらは対象血管の太さにあわせて450usec〜40msecの間で選択できます。ただ可変式といっても短いパルス光を繰り返し照射するもので見かけ上パルス幅を長くしたのもなので疑似ロングパルスとよばれています。
3、 エネルギー密度
ジュール量は簡単に変えることができますが、強くすると瘢痕、色素沈着・脱失などの副作用がでる危険性がでてきます。
熱による組織傷害を減弱するために最近では皮膚冷却装置が付属したレーザー機器が主流です。Vbeamではdynamic cooling device(DCD)という冷却装置が付属しています。
【単純性血管腫への治療】
実際の治療は機器の性能もさることながら術者の技量、パラメータの設定によって大きく異なるそうです。成人の場合は無麻酔で、あるいはペンレス、エムラクリームなどの表面麻酔で行われます。輪ゴムで弾かれる程度の痛みだそうです。小児で範囲が広い場合、顔面などで動くと危険な場合などは簡易全身麻酔を行うこともあるそうです。
照射直後は熱エネルギーによって一部に表皮下水疱ができる場合もあります。また衝撃波による一時的な蕁麻疹様の紅斑が生じることもあります。翌日には照射野は紫〜暗赤色に変色します。紫斑、びらん、色素沈着・脱失が生じることがあるので1ヶ月間は遮光を行います。3〜6ヶ月間隔で照射を繰り返します。
【治療効果】
照射を繰り返すと徐々に紅斑は消退するものの退色の程度は低下していき、多くは3〜5回の照射で限界に達するそうです。ほぼ完全に消退する例は全体の2〜3割程度にとどまるそうです。
鮮紅色や毛細血管拡張など表在性のもののほうが、紫赤~暗赤色の全層型のものより治療効果は良いそうです。また年齢では皮膚が薄く、血管が幼弱な乳幼児の方が成人より治りやすく、部位では顔面、頚部では有効率が高く、静脈圧の高い下肢では低いそうです。
レーザーの原理からいって、皮膚の表面から深さ1.5~1.7mm程度までが限界でそれ以下の深さの血管腫には光は到達しませんので効果はありません。
レーザー治療は進歩して、Vbeamなど最新の機器が登場してきたとはいえ、残念ながら赤アザの治療には限界があることも説明して過度に期待を持たせすぎないことも必要とのことです。

参考文献

岩崎泰政: 血管性病変のレーザー治療の原理と作用機序 
葛西健一郎: 単純性血管腫のlife-long management     
皮膚レーザー治療プロフェッショナル  渡辺晋一/岩崎康政/葛西健一郎 編集 南江堂 2013

血管病変に対するレーザー治療
岩崎泰政: ポートワイン母斑・毛細血管拡張症
葛西健一郎: 苺状血管腫
スキルアップ皮膚レーザー治療 編著 川田 暁 中外医学社 2011

単純性血管腫(ポートワイン母斑)

出生時から存在する扁平な淡紅色の毛細血管性の斑です。単純性血管腫と呼ばれていますが、真の血管腫ではなく毛細血管性の脈管形成異常、一種の母斑でポートワイン母斑、火焔状母斑とも呼ばれます。乳児血管腫と異なり、Glute1は陰性です。
全身どこでもできますが、顔面、頭部の正中部に生じ境界の不鮮明なものは正中部母斑とよばれ、顔面の正中に生じたものをsalmon patchとよばれます。1~2歳までに自然消失すると記載されたものもありますが、学童期まで残るものも、成人期まで残る場合もあります。(大原國章)
項部にできたものはUnna母斑とよばれ生涯消えないといわれています。本人も自覚していなくて髪の毛をかき上げてみて初めて気づくこともままあります。
顔面に生じた単純性血管腫は加齢とともに色調が赤から紫色に変化して、結節性の腫瘤を生じることがあります。(肥大型単純性血管腫)

ポートワイン母斑では、皮表の赤みだけではなく、他臓器の病変を伴っているケースも稀にあります。隠れた臓器病変を見落とさないことが必要です。(母斑症)
きわめて多種類の血管奇形がありますが、注意すべきもの、重要な疾患には下記のものがあります。

【Sturge-Weber症候群】
顔面の三叉神経領域の単純性血管腫に脳―中枢神経、眼の合併症を伴うものをいいます。
中枢神経・・・脳軟膜血管奇形のために痙攣発作、片麻痺、知能発育遅延などの症状が現れてきます。2歳までに痙攣発作のないケースでは発達障害のリスクは少ないとされます。
頭蓋内石灰化がみられることもあります。
眼・・・脈絡膜血管異常をしばしば合併します。緑内障を発症することもあり、失明にいたるケースもあります。牛眼ともよばれます。
皮膚・・・三叉神経の第1枝(眼神経)領域が多いですが(同領域のポートワイン母斑の10%にSturge-Weber症候群がみられます)、第2枝領域にもポートワイン母斑を生じます。真皮毛細血管、後毛細血管細静脈の拡張がみられます。

【Klippel-Trenaunay症候群】
ポートワイン母斑、静脈瘤、動静脈瘤などの脈管奇形が片側の四肢にみられ、患肢の骨・軟部組織の過成長による肥大を認めます。時にリンパ管系の形成異常もみられます。脈管奇形は内臓にも及ぶことがあります。
静脈うっ滞のために血栓性静脈炎、深部静脈血栓、肺塞栓症などの重篤な合併症を生じることもあります。
ポートワイン母斑の治療は色素レーザーによりますが、項を改めて記載します。

参考文献

皮膚科臨床アセット 15 母斑と母斑症
総編集◎古江増隆 専門編集◎金田眞理
田中 勝  28-34脈管系母斑および腫瘍 p131-152
田村 敦志 53.Sturge-Weber症候群 p283
田村 敦志 54. Klippel-Trenaunay症候群 p290

中川浩一 母斑の治療 Visual Dermatology Vol.10:902-906,2011

ポートワイン1a