月別アーカイブ: 2014年7月

乾癬ー生物学的製剤

先日、乾癬に対する生物学的製剤の研究会がありました。特別講演は札幌の小林 仁先生の講演でした。
 まずはじめには千葉大学の鎌田先生の講演でした。いつも難治性の乾癬患者さんを紹介してみてもらっている先生です。そのうちの何人かは生物学的製剤によって良い状態を保っているそうです。生物学的製剤の導入の現況を解説にていただきました。紹介に際し、必ず治る、効くとの過大な期待を持たせないこと、ある程度の費用の説明、できればツ反などの結核のスクリーニングをとの希望がありました。ただ、結核は徐々にクオンティフェロンやTスポットなどの検査に入れ替わってます。
次に亀田総合病院の田中先生のウステキヌマブの使用例の報告がありました。先生は2013年の日本皮膚科学会でのパリ大学のDubertret先生の講演を引き合いに出し、乾癬の治療にもpatient based medicine (PBM)の考えが重要であることを解説されました。乾癬のような慢性で、コントロールし、ケアできるけれどもなかなか治癒するものでない疾患に対してはEBM(evidence-based medicine)よりもPBMがより適していると述べられました。PBMでは4つのステップを踏みます。1.Question(質問)2.Explanation(説明)3.Negotiation(話し合い、交渉)4.Prescription(処方、処方箋)
まず、患者さんへの質問はその病気や治療への理解を示すことを目指します。そして、医学的に説明し、話し合いに入りますが、ここが最も重要で最も困難な所です。患者さんと十分に話し合って治療方針を選んでいきます。
EBMとは根拠に基づいた医療とも訳されますが、良心的に、明確に、最新医療の知見に基づいた医療ということで、将に全うな治療方針です。しかしここには患者個人、個人の内情や希望(我がままや思い込みも含め)などの訳あり事情は勘案されていません。ーーーいろいろな事情があり得ます。(治療したいのはやまやまだが、収入が少なく、高い薬は使えない。一度でいいから皆と一緒に温泉に行きたい。ピアニストなので手の皮疹、手指の関節の痛み、変形だけは何とか治してほしい。恋人がいるので、何とかprivate parts(陰部のこと)の皮疹を治したい。人に会う仕事をしているので顔、手など見えるところだけは何とかしたい。パーッと外で皆と同じように遊びたい。フケが気になる、皆が着るような黒いスーツを着たい。)---これらはEBMだけを振りかざしても問題は解決しません。
田中先生はある患者さんの治療経験を話されました。いろいろな皮膚科でも良くならず、顔の皮疹もひどい、気分は落ち込み、ネガティブが感情が強くなり、人生への希望も失ってくる、医療不信もでてくる、社会への被害者意識もでてくる、といったような患者さんを数々の乾癬学会の報告の結果を包み隠さず開示し、危険性と有用性を十分に時間をかけて何回も説明し、やっと生物学的製剤の治療にこぎつけました。これで治らなかったら心が折れますよ、というような切羽詰った言葉もあったそうです。治療の結果は目覚しいものでした。乾癬は寛解状態になり、患者さんの感情は180度変わったようにポジティブなものになり、眼差しもこんなに優しい人だったのかと驚く程の変化を遂げたそうです。将にPBMの重要性を具現したようなケースの報告でした。
その後、小林先生の講演がありました。
本日は難しい免疫学の話などは一切ありません、と釘をさして始まった講演はユニークで実に示唆に富んだ内容の濃いものでした。
今回は生物学的製剤乾癬治療研究会の一環で、ウステキヌマブを発売する会社の共催ですので、生物学的製剤の話から始まりましたが、いきなりこの製剤はToo Experimental, Too Expensive(あまりに実験的すぎ、あまりに高価でありすぎる)と述べられ皆の度肝を抜きました。
 確かに個人的にも感じていた思いでした。
近年乾癬の病態の解明が進み、免疫学者、分子生物学研究者などは次々に乾癬の病因に対する新しい理論を打ち立ててきました。その成果がタイムラグなしに臨床応用されて目覚しい成果を挙げています。
しかし、先生はいいます。「我々はTNF(tumor necrosis factor:腫瘍壊死因子)のことを本当に十分に知っているのであろうか。感染防御や抗腫瘍効果のある生体に対し極めて重要な働きをなすサイトカインを抑制してしまって構わないのか。」と、またいいます。「生物学的製剤の開発には莫大なコストがかかり、先端的な技術が必要なので、それが可能なのは一部先進国の巨大製薬メーカーのみである。実際、欧米の売り上げ上位10社がほぼ独占的に開発、販売しています。これらの売り上げは日本の年間医療費をも凌駕するほどの莫大な金額になる」そうです。
確かに、生物学的製剤は高価で、もっと安くならないものか、と思ってしまいます。講演の後に、小林先生にジェネリック薬剤などが出て、もっと安くならないでしょうかね、と質問すると。「先生、生物学的製剤をどうやって作るか、考えてみてください、モノクローナル抗体、細胞融合の技術を使って作成できるのは、先進巨大製薬メーカーだけですよ。開発した企業がその細胞を供与しない限り全く同一のものはできません。仮に後発メーカーができるのは先発メーカーの製剤ににたもの、bio-similarでしかありません。」といわれました。ああそうだ、かつて教わった細胞融合やハイブリドーマの知識がかすかに蘇ってきました。近年は製法が変わり、バクテリオファージを使ったり、トランスジェニックマウスを使ったりしているそうですが、いずれにしても先進バイオテクノロジー産業のみが製造でき、特許を持つ構図は変わりないでしょう。これではお値段は先方の言い値で安くはならないでしょう。
いきなり、やや生物学的製剤のマイナスイメージの側面の講演で始まりましたが、その後は先生の乾癬治療の歴史と、生物学的製剤が導入され患者さんに使用してもらってからの治療成績を話されました。
近隣の総合病院と連携して、50例弱の使用成績、患者アンケートの結果報告を提示されました。
8割方の患者さんが、生物学的製剤の使用結果に満足し、大変優れていると回答していました。特に皮膚だけではなく、関節症状への効果を評価していました。中には温泉に入れるようになった、人生が変わるほどの喜び、小林先生への感謝の手紙も紹介されました。ただ、皆が薬剤費の高いことを、もっと安くならないのかということを述べていました。皆さん、理性的というか、穏やかな反応で、優れた薬剤なのでその効果に見合っていると回答された方が、約3割、高いが仕方がないと回答された方が約半数でした。
感染症、間質性肺炎、悪性腫瘍の増加への懸念などはありますが、総じて安全で優れた薬剤であることは実証されつつあります。
しかしながら、先生はこれからの課題として1.長期的な免疫抑制 2.医療格差の問題 3.それと重なる問題ですが全体として医療資源の枯渇 を挙げられました。
確かに優れた薬剤ながらこれらのことは将来の問題となるかと思われました。
最後に先生は全世界の乾癬に対する取り組み、進展の話題と、自ら日本の先駆けとしての運動をリードされている患者会の活動について話されました。
今年のWHOで画期的な決議がなされたとのことです。長年に亘って乾癬をサポートしてきた団体、IFPA(International Federation of Psoriasis Association, 国際乾癬患者団体連合)は長年、多くの人に乾癬という病気について知ってもらうための啓蒙活動を続けてきました。その画期的な成果として、今年の第67回世界保健総会決議で乾癬に対する以下の決議案が採択されたそうです。
*乾癬は世界で1億2500万人の人が罹患している慢性の非伝染性の、苦痛で、外観を損ない、機能障害をもたらす、完治しない疾患であり、時に重症化することがある。
*乾癬によって患者は心理的、社会的な負担、社会に認知されないことや、適切な治療手段がないことによって苦しんでいる。
そして、WHOに対し、更なる乾癬への理解、支援を要請する内容となっているそうです。
現在は日本でも日本乾癬患者連合会がありますが、小林先生は患者会のさきがけとなる北海道乾癬患者会の立ち上げから関わられており、豊富温泉湯治ツアーも毎回参加されていて、患者さんの支援を続けているそうです。その活動の様子の写真も見せていただきました。

当日の研究会は、いつものものと一風変わったものでした。田中先生が述べられたように乾癬はEBMからPBMの取り組みが重要と認識を新たにしました。
北海道の地で乾癬患者さんを全人的に支援し、世界の乾癬の会議などにも出て活躍しつつ、山やスキーにも北海道から富士山、はてはヨーロッパアルプスまで出かける、小林先生のその行動力とパワーには恐れ入りました。
今後のさらなる活躍に期待したいと思いました。

爪のお話

先日、爪の講演会がありました。講師は日本ではその右に出る人はいないというほどの爪の大家の東先生です。
堺から遠路はるばる外来診療を終えてから千葉までかけつけてくれたとのことでした。
名著「爪 基礎から臨床まで」を書かれた先生です。
「日常よく遭遇する爪疾患の原因と治療」という演題での講演でした。しかし、爪の病変は先天性の変化から後天性の病変まで多岐に亘ります。1時間余の公演時間はあっという間に過ぎ去り、次々に繰り出される写真はじっくり見る間もありませんでした。そのことを講演の後に一寸不満げに話すと、先生は「それはこの短い時間に全部話せというのはどだい無理な話ですよ」というようなことをおっしゃいました。確かに40年余の先生の爪の研究の成果を1時間で話せという方が無理な注文というものです。シリーズで何回かに分けてじっくり拝聴したいものでした。
それで講演の内容のメモを基に先生の著書を参考にして爪疾患について書いてみました。

◆ラケット爪・・・遺伝性棍状拇指、貝爪。出生時から爪甲の長さが短く、幅が広い、X線で先端が細くラケット状になっている。報告は少ないがよく遭遇する。良い治療法はない。
◆さじ状爪(スプーンネイル)・・・爪甲の辺縁が上方に反り返って、中央が凹んだ状態。貧血によると成書にはあるがわずかに25%程度にしかみられないという(Jalili)。むしろ職業性の例が多く見られる。美容師、自動車整備工(Dawber)、板金工(Pederson)、コイル巻き工(Smith)などの報告がある。また農作業の多い夏に悪化し冬に軽快する、裸足で人力車を引く人の拇趾にもみられたとのことです。要するに下からの圧力によって上方に反り返るということのようです。
◆ばち状指、時計皿爪、ヒポクラテス爪・・・指の末端、爪の周りが膨らんで太鼓ばちのようになった状態。左右の同じ指の爪を合わせると正常ではぴったり爪が合わさるが、ばち状指では隙間が空いて合わさらない(Schamrothの方法)。
初期は浮腫のみだが、後には線維化が起きる。
原因は先天性と、後天性にわけられる。後天性で有名なものは肺癌に伴うもので、この場合は同時に長管骨の骨膜性肥大と関節炎を伴い関節痛がある。その他の肺疾患、心疾患、肝疾患や全身性の疾患に伴って生じる。その原因はよくわかっていない。血流が増加してPDGFが関係するという説が有力である。その他にIL-6、HGF、TSHが関係しているという説もある。
◆爪甲層状分裂(二枚爪)・・・爪の先端が雲母のように薄く剥がれ、二枚爪になったもの。低色素性貧血では高頻度に生じる。貧血の治療で爪もかなり改善する。洗剤や界面活性剤の使いすぎ、アセトンのような有機溶媒との接触で脂肪分が爪から失われることによることが大きい。除光液の使いすぎも原因になる。尿素軟膏などでの保護や爪ラッカーもよいが、除光液を併用すると逆効果になる。
◆爪甲剥離症・・・先天性、外因、内因にわけられる。圧倒的に女性に多い。炊事など外的な刺激を受けることが多く、水仕事も多いので、カンジダ感染症を伴い易くなる 。この場合は剥離した爪甲を取り除いて坑真菌剤を外用するか、イトリゾールを内服する。外傷によるものは多い。指先を使って仕事する人に多い。また接触皮膚炎(かぶれ)による場合も多い。次亜塩素酸ナトリウムやフッカ水素酸、ホルマリン、切削油、エポキシ樹脂、アクリルモノマー、マニキュア、ネイルポリッシュ、ヘアスプレーなどの報告もある。テトラサイクリン系やキノロン系の光毒性物質による光爪甲剥離症もあるが、薬剤の使用が無く、日光過敏症も無く、かつ日光によって夏季に光爪甲剥離を生じることもある。乾癬、扁平苔癬、甲状腺機能異常によっても生じうる。
ただし、上記のいずれにも該当せずに、原因不明のまま生じることが実は多い。そのような場合、最も効果的なのは剥離部を全て取り去って患部を乾燥させ、微生物の繁殖を少なくし、洗剤などの残留を無くすることである。しかし同意を得られないことが多い。まず1指を試みて効果をみることが第一歩となる。
◆黄色爪症候群・・・成長速度の遅い黄色爪、リンパ浮腫、肺疾患を3徴候とする病態である。黄色になる原因は明確ではないが、組織の浮腫のために爪甲の発育速度が遅くなり、厚みが増し、水分含有量が少なくなって、爪の透明度が減弱するのもその一因と考えられる。メラニンやリポフスチンの沈着のためとする説もある。慢性副鼻腔炎に伴うことも多いという。ペニシラミン、ブシラミン、テトラサイクリンなど薬剤性に黄色になることもある。
治療は胸水の治療など原病の治療によるが、エトレチナートで正常化した例もある。
◆爪囲紅斑・・・皮膚筋炎の初期から認められる。後爪郭から爪上皮にかけて毛細血管拡張、線状・点状の出血斑をみることもある(NFB:nail fold bleeding)。これは病勢と平行して変化する。全身性エリテマトーデス、強皮症でも出現するが頻度はより少ない。強皮症では毛細血管拡張とともに、爪上皮の延長、血管の捻れや蛇行、萎縮などが見られるという。
◆緑色爪・・・緑膿菌の産生する色素による。ただし、爪組織に何らかの病変が生じ二次的に緑膿菌がついたもので水仕事の多い人に生じやすい。多くはカンジダ性爪甲剥離症や手指の湿疹に伴う。元の爪疾患の治療を行い、爪を乾燥させることが重要で抗生物質の投与は必要ない。
◆爪甲脱落症・・・手足口病、元々はコクサッキーA16、エンテロウイルス71などが主流だった。最近はコクサッキーA6による非特異的な、症状の強いタイプのものが流行している。そして、このタイプでは爪甲の変形、剥離、脱落などが見られている。このほかにも後爪郭部の熱傷、長時間窮屈な靴での歩行、尋常性天疱瘡、Stevens-Johnson症候群などでも爪脱落が生じる。脱落した爪はまた再生するが、特に第1趾では足趾先端を隆起させないようにテーピング、ハイヒールなどの下からの圧迫を避けるなどの注意が必要である。
◆爪甲縦裂症・・・爪が縦に裂ける状態。高度になると爪中央が樅木のように楔形を重ねたように変形する。原因が不明の場合もあるが、多くは自分で爪の根元をいじったり噛んだりしている。刺激を避け根元から先端に向かってステロイド剤を外用することで軽快することが多い。苦味成分配合トップコートのバイターストップを使ってみるのも良い。洗濯板状に波を打つこともある。職業性になる場合は手袋を着けさせると良い。
◆乾癬・・・乾癬患者の5~7割に爪の変化をみるという。報告者によって差異はあるが、多い順に点状陥凹、爪甲剥離、爪質の変化、爪甲下角質増殖、爪甲縦溝、油滴状爪、爪甲の消失化などとなっている。爪甲が厚くなると、縦長の点状出血を認める。このために黒褐色調を示すことがある。病理組織像は乾癬に合致するので診断がはっきりしない時は確定診断に有用である。爪に病変がある場合は乾癬性の関節炎を有することが多いのでチェックが必要である。爪に膿胞を持つときは掌跡膿胞症や膿胞性乾癬との鑑別を考える必要がある。
◆扁平苔癬・・・1~10%に爪病変をみるとされる。爪の点状のくぼみ、縦筋、爪甲の破壊、菲薄化、翼状爪(後爪郭部皮膚-甘皮が爪床上に延長したような外観を示す)、爪甲の脱落などがみられる。同症では、爪床の角化細胞が顆粒層を形成して角化するので、他の皮膚と同様な軟ケラチンを作り、通常の爪のような硬ケラチンを作らない。従って爪は薄く、剥がれひどくなると脱落し、翼状爪となり、永久的な爪甲の脱落、消失を生じる。臨床的には確定診断できなくても組織像をみると典型的な扁平苔癬と診断できる。原因は不明なことも多いが、カラーフィルム現像者、歯科金属アレルギーでも生じうる。ステロイド剤の局所注射などが行われるが、難治。
◆接触皮膚炎・・・多くの原因がある。指先に湿疹ができると爪の変化も生じる。アトピー性皮膚炎では爪の凸凹、横溝などを生じる。(アトピー性皮膚炎で爪で掻くことによって爪が真珠様にぴかぴかに光ることもある)。爪囲の接触皮膚炎でもっとも多いのは爪化粧品によるものである(次項)。ついで職業性のもの。美容師のパラフェニレンジアミン(染毛剤)。タイル工のエポキシ樹脂。歯科医療者のメタアクリル酸メチル、ヒドロキシルアミンによる爪甲剥離。ヘアスプレーによる爪甲剥離、疼痛など。治療は原因の除去とステロイド剤外用だが、洗髪に起因するものでは洗髪時にプラスチック手袋を使用することも有効。
◆マニキュア・・・近年多くの製品が使用されることにより、爪の障害も増加している。
ネイルラッカー、ネイルエナメル・・・成分にホルムアルデヒド樹脂が含まれたものは接触皮膚炎に注意。国産のものには含まれていないが外国産では含まれるものもある。
ベースコート、トップコート、ネイルハードナーによる接触皮膚炎の報告もある。
除光液にはアセトンが使用されていて爪甲の乾燥、二枚爪の原因になりうる。アセトンを使用しないものもあるが勇気溶媒であるのでやはり同様の症状が起こりうる。
付け爪(人工爪)・・・アクリルモノマーによる接触皮膚炎、指先の痺れの報告もある。瞬間接着剤による報告もある。付け爪では装着後日数が経過すると隙間を生じるためにそこに細菌や、カンジダ菌が侵入し増殖してくることもある。また装着すると表面からの水分の蒸発を妨げるために水分量が多くなり、爪甲はもろく折れ易くなることもある。
◆履物と趾爪の変形・・・窮屈な靴、パンプスやハイヒールなどの先端が細く、足先が前に滑るのを防止できない履物による圧迫、摩擦でいろいろな足趾、爪の障害が生じる。爪甲下出血、爪甲剥離、巻き爪、厚硬爪、鈎彎爪、第5足趾の変形、萎縮などが生じる。足先にやや余裕があり、足首を紐などで固定し、前方に滑らない靴が良い。
◆陥入爪(刺し爪、爪刺)・・・第1足趾に多い。深爪をして、爪先に爪がなく、皮膚・軟部組織が露出した状態になると爪の押さえがないために足趾先端部分の皮膚が隆起してくる。その部分に爪が伸びてきたり、爪の切り方が不適切で辺縁に棘状の爪を残すと肉に爪が刺さった状態になる。これが陥入爪の原因となる。その刺激で強い痛みが生じ、化膿、浮腫、肉芽の形成が生じてくる。
様々な治療法が報告されており、刺さった爪の部分(側爪郭)を根元から切り取る手術法や、切り取った爪が再生して来ないようにフェノールで爪床・爪母を腐食させる方法などもあるが、これらは術直後は良くても、側爪郭と爪甲の連続性が絶たれるために爪甲の趾先端を押さえる力が弱くなり足趾先端が変形することになる。最悪時は厚硬爪となり別な痛みに苦しむことになる。1年後は良くても10年後にはこのような状態も想定されるので東先生はこれらの方法はすべきではないと述べている。一番良いのは東が開発したアクリル人工爪法とのことである。軽度の場合はテーピングによって側爪軟部組織を牽引したり、綿花を爪下に詰めて爪の傷害を取り除く方法なども良い。
◆巻き爪(挟み爪)・・・爪甲のカーブが極端に強く筒状に丸くなったもの。先端の狭いハイヒールなどが原因になることが多いが、原因が不明の場合もある。マチワイヤー法(超弾性ワイヤー法)、VHO法、アクリル人工爪による矯正法などがある。
◆鈎彎爪・・・爪甲が分厚く、硬くなり、鈎型に彎曲する。分厚くなった爪は爪甲剥離の状態である。爪が厚いために靴を履くと痛みを生じ日常生活にも差し支えるようになる。原因のひとつは足趾先端の隆起のために爪の成長が妨げられることにある。抜爪や陥入爪の手術などによって爪による皮膚軟部組織の押さえが効かなくなることによる。もう一つは爪甲下の角質増殖である。その原因は真菌感染、爪白癬やカンジダによることが多い。手術的に隆起部分を切除する方法もあるが、テーピングによって隆起部分を圧迫し下からの圧力を取り除けばかなり軽快する。分厚くなった爪は爪切りで薄く削る。
◆粘液のう腫・・・報告例は3種類に分けられる。1つはDIPガングリオンとすべきものでDIP関節(爪近くの遠位部関節)と連続している。1つはHeberden結節部に一致して生じたもの。1つは爪部(後爪郭部)に生じたもの。穿刺するとゼリー状の物質がでる。これはヒアルロン酸が主体であり、ガングリオンは糖蛋白が主体であり異なる。穿刺してトリアムシノロンなどのステロイド剤を注入する。液体窒素療法、手術療法もある。
◆爪下外骨腫・・・若い女性に多く、第1趾が多い。機械的な刺激が原因と考えられている。腫瘍が大きくなると爪を押し上げて疼痛を生じる。X線で末節骨から突出した骨像を認めるので診断は確定する。手術治療を行う。
◆爪部悪性腫瘍・・・爪部にも悪性黒色腫(MM)、有棘細胞癌(SCC)、ボーエン病、基底細胞癌などの悪性腫瘍が生じる。MM,SCCなどは初期病変が軽度で病理組織所見でも確定できずに慢性に経過し、後に進行癌となるケースもあり注意深い経過観察が必要である。
◆爪異栄養症・・・20本全ての爪が粗糙化し、縦条を伴う。様々な呼称があるが、便利なためにtwenty-nail dystrophyという病名が使われることが多い。原因は爪の湿疹反応と考えられるが、いろいろな病気が混在している可能性もある。扁平苔癬の一異型という考えもあるが、それは別症として扱ったほうがよい。

予定の時間はあっという間に過ぎてしまいました。何回かのシリーズででもないととても先生の半世紀に亘る爪の研究成果は講義し尽くせないだろうと思われました。
今年は千葉県皮膚科医会は爪の講演を多く予定しています。8月には陥入爪の講演、11月にはフットケアの講演、12月には新しく発売される爪白癬に対する外用薬(爪ラッカー)の講演と続きます。
爪はごく小さな器官ですが話題は尽きません。ネイルアートの隆盛、近年の分子標的薬による爪の障害など、時代と共に病変も移り変わっていきます。耳学問でも知識を仕入れないと時代に取り残されそうです。
東先生は高齢にもかかわらず、日々爪の手術もなさるそうです。講演の翌日は早朝の新幹線で、大阪まで舞い戻りまた診療を始めるとのことでした。正にスーパーマンのようでした。

参考文献
東 禹彦  爪 基礎から臨床まで  金原出版 2004年 東京

岩に目覚めたころ

金峰山、丹沢で次第に山にのめり込んでいき、穂高の巖根を目にすると岩登りにも惹かれるようになってきました。というか、難路といわれるところを登るにはどうしても岩登りの技術が必要になってきた、というところかもしれません。
友人や山仲間に教わり、山の本を調べてある程度のことはできるようになったとは思いますが、本格的にとはいきません。アルパインガイドの講習会などで三つ峠などにも行きました。
本格的な岩登りをするにはやはり山岳会に入るのが近道です。山岳雑誌の会員募集をみて東京クライマースクラブ(TCC)という街の山の会に入会しました。名前はメジャーですが、こじんまりとした岩登りを主体とした山岳会でした。定期的に神田で集会がありました。
最初は奥多摩の氷川屏風岩という岩登りのゲレンデに連れて行ってもらいました。
ザイルの結び方、確保の仕方、懸垂下降の仕方などを教わりました。アブミなるものにも初めて乗せられましたが、恐くてへっぴり腰で必死で腕でぶら下がっていたので、腕が棍棒のようにパンパンに張ってしまいました。
その後、越沢(こいざわ)バットレス、日和田山、三ッ峠などにトレーニングに出かけるようになりました。
人工登攀も少しは板について、へっぴり腰ではなくなっていきました。オーバーハングもこなせるようになってドッペルザイルの使い方もだんだん慣れてきました。
三ッ峠では空間リッジ、4段ハングなどという空間に飛び出して、まるで天井裏を伝わり渡っていくような難度の高いルートもこなせるようになりました。あの頃は一寸天狗になって自分がどこでも登れるような気になった時もありました。
でも、谷川岳の本番などで失敗してすぐにその鼻はへし折られてしまいましたが。
結構長いこと岩登りをしていたと思っていましたが、記録を振り返ってみると精力的に登っていたのは青春時代のごく一時期でした。
セピア色に変色した当時の写真を眺めていると、若かった頃の甘酸っぱい思い出が蘇ってきます。未熟だったけれど、将来の山への希望に燃えていたように思います。

img048初めてのアブミ体験、へっぴり腰で腕でザイルにしがみついていました。

img046越沢バットレスで、少し慣れてきました。

img047三ッ峠でのクライム、4段ハングといわれる屋根のように張り出したオーバーハングは圧倒的です。

男性型脱毛症の治療

日本皮膚科学会は男性型脱毛症に対して「診療ガイドライン」を作成して、それを日本皮膚科学会のホームページで公表しています。
その経緯について委員長の坪井先生は下記のように述べています。
「男性型脱毛症は生理的な現象であるが、薄毛を有する男性の関心は非常に高く、これをなんとか改善したいと思う患者の気持ちにつけこんで、科学的に根拠のない治療やケアが横行している」
「わらにもすがる気持ちで話題に上る治療法やケアに手を出す人が多いという状況がある。最近になり男性型脱毛症に有効な治療法が開発されたにもかかわらず、長期的に使用しなければ効果が実感できないことから、皮膚科医の立場からは無効といえる科学的根拠に基づかない治療法を続ける患者は今なお少なくはない」
このガイドラインの目的は「皮膚科医に対して標準的な治療法の実施を促すとともに、男性脱毛症に悩む人や関連する商品・サービスを提供する団体にもその治療に対する正しい知識を共有してもらうことである。」とあります。ただし、このガイドラインは医師の治療方針、裁量を限定するものでもないし、日本独自の慣例となった治療法も取り上げたので、必ずしもEBMに合致するものだけではなく、日本独自の部分も含むとも述べています。
それで、この科学的根拠に基づいた「ガイドライン」に沿って治療法をまとめてみます。

◆推奨度A:行うように強く勧められる
《ミノキシジルの外用》・・・男性型脱毛症、女性型脱毛症
毛包に直接に作用します。男性ホルモンには関係しません。それで、男女、部位を問わず外用して部分とその周辺に効果があります。男性では5%、女性では1%ミノキシジルが推奨されます。女性に5%が推奨されない理由は、5%での臨床試験が実施されていないことと、海外において5%製剤の使用によって多毛、(特に顔面の)の副作用があったためといいます。
国内ではリアップ(男性用1%ミノキシジル)、リアップレディ(女性用1%ミノキシジル)、リアップX5(男性用5%ミノキシジル)が製品化されています。海外の5%ものはRogaine for menとして発売されています。
ミノキシジルは高血圧の薬として米国で開発されましたが、患者の多くに多毛だ認められ、発毛剤としての開発が進められました。
作用機序は、休止期から初期成長期毛、後期成長期毛への移行を促進させること、維持させることによって、細い生毛が太い終毛に変化するとされています。
また種々の細胞増殖因子の産生を促進するとの報告があります。
insulin-like like growth factor (IGF), hepatocyte growth factor (HGF), vascular endothelial growth factor(VEGF)
fibroblast growth factor (FGF)-7
一方で、フィナステリド(プロペシア)でみられるDHTや男性ホルモンレセプターへの関与はないとのことです。
効果は1、2%製剤よりも5%製剤の方がより効果が高かったと報告されています。
用法は一日2回、脱毛部に塗布し、最低6ヶ月は続ける、1年使用しても効果がない場合は中止する、となっています。塗布を中止すると元の状態に戻ります。フィナステリドとは作用機序が異なるために、併用での相乗効果が期待できるそうです。
副作用は刺激性、アレルギー性の接触皮膚炎が時にみられます。女性が5%製剤を使用すると頭部に限って使用しても顔面の生毛が目立ってくることがあるそうです。それで女性の製剤は1%のものが推奨されています。
《フィナステリド内服療法》
フィナステリドは5αー還元酵素II型の特異的阻害薬で、テストステロンに類似の構造をもち、テストステロンより強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロン(DHT)に変換されるのを競合的に阻害します。
頭皮組織中および血中のDHT濃度をそれぞれ60%、70%程度低下させるそうです。
これは男性ホルモンとは関係のない円形脱毛症には効果がなく、また閉経後の女性の男性型脱毛症にも効果はみられません。さらに妊婦に投与するとDHTの低下によって男子胎児の生殖器官の正常な発育を妨げるので、女性への使用は禁忌となっています。
成長期の長さが徐々に伸びていって効果を発揮するので、効果発現まで最低6ヶ月は使用することが必要です。また効果が現れても中断すると元に戻ってしまいますので継続使用が必要です。0.2mg,1.0mg錠がありますが1.0mg錠の方が効果は高いです。健康保険はきかないために自費治療になり、診察料も含め医療機関によって料金は異なりますが相当高額になります。
重篤な副作用の報告はありませんが、稀に肝機能障害の報告や、勃起不全などの性機能障害の報告もあるようです。また前立腺癌マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)が約1/2に減少しますので健康診断の際などは、そのデータを2倍に換算して判断することが必須です
《デュタステリド》
5αー還元酵素(リダクターゼ)にはI型、II型がありますが、デュタステリドはこの両者の阻害薬です。本邦では前立腺治療薬としてのみ認可されており、男性型脱毛症への使用は認められていませんが、海外での臨床試験では有効性が認められており、現在日本でも治験が進行中とのことです。効果は期待できそうですが、I形は皮膚だけではなく、肝臓、腎臓、副腎などにも発現しており、デュタステリドがこれらを抑制することによる全身的な影響も検討することが重要とのことです。
デュタステリドは通常0.5mg/日使用されますが、海外での試験で2.5mg使用した所、リビドー減少、精子数減少もみられたとのことで、これも注視する必要性がありそうです。

◆推奨度B :行なうよう勧められる
《自毛植毛術》
推奨度Aの治療が効果ない場合は自毛植毛術やかつらを検討することが推奨されています。
自毛植毛術は有益性の臨床試験はないものの、世界的に確立された手術法であり、ガイドラインでは十分な経験と技術がある医師が行なう場合に限って推奨度Bとされています。
ドナー部分は、脱毛の生じない大後頭隆起より下の後頭部が適しています。幅10〜12mmで局所麻酔で採取します。
採取された毛髪はルーペを用いて毛包単位(follicular unit: FU)に株分けするそうです。
1つの毛包単位は1~4本の毛髪からなります。レシピエント部も局所麻酔の上、18~21Gの針で穴あけし、移植毛を挿入します。これで1000~1500株程度の移植を行なうそうです。
術後4日でシャワー可、ドナーの抜糸は1~2週間後、移植後1~2ヶ月後には多くの移植毛幹部分が脱落するものの4~5ヶ月後には多くの毛幹は再生するそうです。
適切に手術、術後ケアがなされれば、生着率は90%程度と高いそうですが、そうでないと悪い結果となるそうです。
一方で人工植毛術もごく少数の医療機関で施行されているそうですが、術後の感染や瘢痕などの副作用が多く、おこなうべきではないとざれています。

◆推奨度C1: 行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない
《外用育毛剤》
多くの外用育毛剤が推奨度C1としてガイドラインにあげられています。これらは以前から用いられていた日本独自のものも含まれ、欧米のガイドラインにはないものも含まれているそうです。
エビデンス根拠のレベルはそれほど高くないものの軽症例では使用しても良いと委員によって判定されたものだそうです。
名称のみをあげておきます。

塩化カルプロニウム(フロジン)・・・毛包周囲の血行促進

t-フラバノン・・・成長期を延長する

アデノシン・・・毛母細胞増殖を促進するもの

サイトプリン、ペンタデカン・・・毛包への栄養補給

ケトコナゾール・・・坑男性ホルモン抑制効果

◆細胞治療
間葉系組織であるヒト毛乳頭細胞には毛包を誘導する作用があることがわかっています。ヒト培養毛乳頭細胞を用いた毛包再生の臨床試験が欧米で始まっているそうです。これらの技術を用いた毛包再生の治療が現実のものとなる日が来ることもありそうです。

参考文献

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略
総編集◉古江増隆 専門編集◉坪井良治 中山書店 2011
19.男性型脱毛症診療ガイドライン 坪井良治 p.113
20. 男性型脱毛症に対するフィナステリド内服療法 乾 重樹 p.118
21. 男性型脱毛症に対するミノキシジル外用療法 山﨑正視 p.123
22. その他の外用育毛剤 齊藤典充 p.128
24. 植毛術の方法と適応 倉田荘太郎、長井正寿 p.136

Viisual Dermatology 毛髪の疾患ー後天性脱毛症 責任編集 勝岡憲生 Vo.9 No.2 2010
板見 智 男性型脱毛症の治療の展望・診療ガイドラインについて p.138

男性型脱毛症

男性型脱毛は英語ではandrogenetic alopecia(AGA)と呼ばれますが、最近では、male pattern hair loss,女性に対してはfemale pattern hair lossという言葉が使われています。
思春期以降に始まり、徐々に進行する男性の生理的な脱毛で、前頭部と頭頂部の頭髪が軟毛化して細く、短くなり最終的には頭髪がなくなってしまう現象です。
古来から記載があり、経験的に男性機能との関係が示唆されていました。
科学的には1942年、Hamiltonが思春期以前に睾丸摘出を受けた男性は男性型脱毛にならないこと、脱毛家系の人に男性ホルモンのテストステロンを注射すると男性型脱毛を発症することより、男性ホルモンが発症に関与していることを実証しました。
日本人の男性型脱毛の頻度は軽度の人も含めると30歳代で約10%、60歳代で約50%、平均で約30%だそうです。頻度は白人に比べるとかなり少ないそうです。
男性型脱毛の本体は、毛周期の中で成長期が短くなり、すぐに休止期に入り、毛包がミニチュア化することによります。
パターン化した脱毛が特徴で、前側頭部部分が「M」に、つむじを含めた頭頂部部分が「O」に例えられることもあります。
欧米では、Hamilton-Norwoodの分類が用いられ、本邦では緒方や高島分類が用いられているそうです。
「M」型と「O」型の組み合わせで、I→VII型になるほど脱毛領域が増えていき、最高度では側頭部から後頭部にのみ頭髪が残存する状態になります。
日本人やアジア人ではII vertexといって、M型+つむじのO型を組み合わせたパターンが多いそうです。
女性型脱毛症(女性の男性型脱毛症)では男性と異なり、頭頂部の比較的広い範囲の頭髪が薄くなるパターンをとります。前髪の髪際部は残存することが多いようです。年齢分布は男性より高く、閉経前後からの女性に多いそうです。Ludwig分類でI、II,IIIと薄毛が高度になります。ただ、男性の場合と違って完全に消失することはありません。
これに加えて、Olsenは頭頂部から前頭部にかけての分け目がクリスマスツリーの枝のように薄くなるタイプ(frontal accentuation)をも加えましたが、このタイプは日本人では比較的少ないようです。
女性の場合はパターン脱毛が明確でないことがあるために、特に慢性休止期脱毛との鑑別を見極める必要があります。すなわち、甲状腺機能低下症、血清鉄欠乏、膠原病、出産後脱毛、薬剤性などです。
【男性型脱毛の発症メカニズム】
男性ホルモンの毛に対する反応性は性別、部位によって異なっています。
髭、胸毛・・・思春期以降の男性にのみ軟毛から終毛へ変化させる
腋毛、陰毛・・・男性、女性共に反応する
遺伝的素因のある男性にのみ男性型脱毛の発症に関与する
後頭部、眉毛・・・男性ホルモンは関与しない(男性ホルモンレセプターは認めない)
男性ホルモンレセプターは間葉系細胞の毛乳頭細胞に存在します。毛根のそれを包んでいるような部分の毛母細胞(上皮系細胞)に毛の細胞増殖を調節する因子を分泌します。
髭では髭毛乳頭細胞から分泌されるIGF-1(インスリン様成長因子-1)が毛の成長を高めます。《テストステロン→DHT(ジヒドロテストステロン)→男性ホルモンレセプター→IGF-1》
逆に男性型脱毛症では、毛乳頭細胞から分泌されるTGF-βやDKK1が毛の成長を抑制します。《テストステロン→DHT→男性ホルモンレセプター→TGF-β,DKK1》
ちなみに男性型脱毛症の治療薬フィナステリド(プロペシア)は5α-還元酵素II型の特異的阻害薬で、テストステロンがより強力な男性ホルモンであるDHTに変換されるのを抑制することによって効果を示します。
女性型脱毛症ではこのフィナステリドの内服は更年期女性に対して無効であったことより、女性の薄毛は男性型脱毛症とは同質ではないと考えられています。さらにフィナステリドは男子胎児の生殖器の発育に悪影響を及ぼす恐れがあるために女性への使用は無効なばかりか、危険で禁忌となっています。
【感受性遺伝子】
男性型脱毛症は以前から多因子性優性遺伝といわれてきました。
白人のX染色体の連鎖解析によって、母親由来の男性ホルモンレセプター遺伝子のエクソン1(構造遺伝子のなかで、たんぱく質合成情報を有する部分をエクソンと呼び、それを繋ぐ不活性化部分はイントロンと呼びます)に存在するCAGやGGCという塩基配列の繰り返しの長さが発症と逆相関すると報告されているそうです。
すなわち、この繰り返し数が少ないほど高活性だそうです。
遺伝というと、男親の薄毛を気にし勝ちですが、意外にも母親由来の遺伝子が鍵を握っていいるということです。(XX遺伝子ー母親、XY遺伝子ー父親、本人ー両親から受け継いだXY遺伝子、の組み合わせを考えると納得できると思います。)
ただし、性(X)染色体だけではなく、常染色体の3q26や20p11にも疾患関連遺伝子があるとのことです。

男性型脱毛症の男性でも血中の男性ホルモンの値は正常ですが、II型の5α-還元酵素(リダクターゼ)や男性ホルモンレセプターの感受性、発現が高く、毛乳頭細胞からTGF-βなどを分泌して、毛の成長を抑制すると考えられています。

参考文献

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略
総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治 中山書店 2011
17. 男性型脱毛症とは  坪井良治 p.104
18. 男性型脱毛症の発症機序と遺伝子解析 板見 智 p.109
25. 女性型脱毛症 植木理恵、坪井良治 p.144

円形脱毛症の鑑別

円形脱毛症と鑑別を要する脱毛症は、全ての後天性の脱毛症になるかもしれません。従って全ての脱毛症の分類を羅列することになります。
これは、細かいもの、稀な原因をも含めると煩雑なものになりますので大まかなところを列記します。
色々な脱毛症の分類法がありますが、佐藤は次のように分類しました。
1)瘢痕や皮膚病変を伴わないもの
*円形脱毛症
*男性型脱毛症・・・後述します。
*休止期脱毛・・・
1961年にKligmanが提唱、Headingtonはこれを5型に細分類しましたが、成長期即時終了型が大部分を占めるそうです。
出産、心理的・身体的な様々なストレス、薬剤、種々の内蔵疾患、内分泌異常、急性熱性疾患などが引き金となり本来ならば数年間続くべき成長期毛が急に全体的に休止期に移行して発症します。これらのイベントがあってから2~3ヶ月後に頭部全体にびまん性の脱毛がみられます。これらの誘因が取り除かれれば、何もしなくても数ヶ月後には自然に軽快します。
円形脱毛症と異なり、休止期毛の割合が増加し、トリコスコピーでは円形脱毛症にみられるような黄色点がみられないでそうです。
薬剤性には成長期脱毛と休止期脱毛があり、前者の代表が抗がん剤で、後者にはヘパリン、インターフェロンα、エトレチナート(レチノイド)、リチウム、バルブロ酸、カルバマゼピンなど、この他にも多くありますが特定が困難な場合もあります。まず大切なことは発症2~4ヶ月前の薬剤を疑うことだといいます。確定診断は再投与試験ですが実際的にはまず無理です。
近年開発の進んでいる分子標的薬はほぼ全てが脱毛を生じうると考えていいそうです。
*外傷性脱毛症・・・
牽引によるもの、圧迫によるもの(術後脱毛症)、トリコチロマニアなど

2)皮膚病変、病的皮膚にみられる脱毛
・炎症によるもの・・・全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚筋炎、毛のう性ムチン沈着症など
・感染によるもの・・・梅毒、ハンセン病、白癬(トンズランス感染症、ケルズス禿瘡など)
・腫瘍によるもの・・・乳癌転移、菌状息肉症など

3)瘢痕性脱毛症
様々な原因や疾患によって毛包が破壊、消失して永久脱毛が生じます。
原発性と続発性に分けられます。
続発性は、熱傷、外傷、放射線、腫瘍、感染、種々の疾患(SLE、モルフィア、サルコイドーシスなど)で生じます。
原発生瘢痕性脱毛症は毛包自身が標的になる原因不明の疾患群です。日本ではこれらの報告数は少ないそうです。
欧米では浸潤する炎症細胞の種類によって4つに分けられているそうです。
1.リンパ球性 2,好中球性 3.混合性 4.分類不能
これらの疾患を診断するのには臨床、経過と共に病理組織検査が必須になってきます。
この中で幾つか特徴的な疾患について書きます。
・膠原病に伴うもの、円板状エリテマトーデス(DLE)、深在性エリテマトーデス(LEP)、剣創状強皮症などでは瘢痕性脱毛を生じます。症状、自己抗体、組織検査などで診断します。
・frontal fibrosing alopecia
近年報告されたものですが、前頭部から側頭部の生え際に、帯状に左右対称性に生じる毛孔のない瘢痕性脱毛症です。当初は閉経後の女性にのみ生じるとされていましたが、閉経前の女性や男性にも生じることがわかってきました。これは組織学的にlichen planopilaris(LPP)に似た像をとります。それで北米毛髪学会ではこれをLPPの一亜型と分類しています。
病初期の炎症がある時期にステロイド、フィナステリド、クロロキンなどが使用されます。瘢痕性になると永久的な脱毛となります。
・pseudopelade of Brocq
1885年、Brocqによって報告された脱毛症ですが、初期は毛包周囲に紅斑落屑を認めますが、後期になると、表面が平滑で少し陥凹した萎縮性の小脱毛斑(footprints in the snow)が残ります。中高年の女性に多いそうですが、明確な原因は分からないとのことです。最終的には明らかな毛包炎や炎症所見はみられません。LPPやDLEなどの炎症疾患の末期像だとする意見もあるようです。
・頭部乳頭状皮膚炎、膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎
中高年男性の後頭部に毛包性膿疱が集まって多発します。好中球性の炎症で、黄色ブドウ球菌などもみられることもあります。抗菌剤と共にステロイド剤、レチノイドなどが使われますが難治です。
その他にも種々の瘢痕性脱毛症があるそうですが、体質、人種なども関連があるようですが、真の原因が不明なものが多いようです。

参考文献

Visual Dermatology 毛髪の疾患ーー後天性脱毛症 責任編集 勝岡憲生
勝岡憲生 総論 後天性脱毛症の疾患カテゴリーとその内訳 p.126-129

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略
総編集◉古江増隆 専門編集◉坪井良治 中山書店 2011
Ⅳ その他の脱毛症
26 瘢痕性脱毛症 保坂彩子、坪井良治 p.150
27. 休止期脱毛症 中村元信 p.158
29. 薬剤投与に伴う脱毛症 橋本 剛 p.165
33. 膠原病に伴う脱毛症 新井 達 p.192

円形脱毛症の治療

◆誘因の除去・・・明らかな誘因(感染症、疲労、ストレスなど)があれば、それを取り除くことは有意義ですが、むしろ明らかでないことのほうが多いようです。

◆自己免疫反応の抑制
【ステロイド剤】
*外用剤・・・一般的に良く使用されていますが、主病変が毛球部であり、皮膚表面からの吸収を考えると有効性は局所注射、内服などに比べると低いです。むしろ、強力なステロイド外用剤を長期に使用することで、皮膚の萎縮などの副作用をきたすこともあります。
ただ、左右塗り分け試験をするとステロイド使用側に効果があることは分かっています。一番強い外用ステロイド剤デルモベート(0.05%clobetasol propionate(CP))を密封療法(ODT)すると、30分で皮膚附属器に取り込まれて、5時間で定常状態になり、24時間密封すると、除去後も24時間は貯留していたそうです。頭皮全体に1日5g、14時間密封療法を1週間持続すると2日目から血漿コルチゾールが低下し、外用中止後2日で回復したそうです。
これらのデータより、実際の密封療法はシャワーキャップ、またはラップで30~60分密封する、進行期では2週間毎日行う、ただし、使用量は10g/週以下とする、2週間以後は隔日、3回/週、週末のみと漸減していく、と推奨されています。

*局注療法・・・外用剤よりも有効です。ただし、休止期毛の状態になり毛球部に細胞浸潤など炎症の少ない場合には無効なことも多いので、皮膚生検などの結果を参考にして漫然と長期に使用しないことも重要です。皮膚萎縮や皮膚の陥凹をおこさないためには同部位への頻回注射をさけることが必要です。
具体的には29~30G針を用いて、1箇所に50μlずつを5mm間隔で注射していきます。薬剤はトリアムシノロン・アセトニド(ケナコルトA)、ベタメタゾンリン酸エステル(リンデロン懸濁注)などが使用されます。キシロカイン、プロカインなどと混合、希釈して痛みを減弱させながら注射します。数週間隔で行い、4~8週で効果を認めることが多いですが、6ヶ月を過ぎて効果がない場合は中止すべきとされます。
眼圧上昇、白内障の悪化、網膜、脈絡膜塞栓などを引き起こす可能性もありますので、眼科と共にステロイド全身投与としての副作用のチェックが必要です。

*ステロイドパルス療法、内服療法・・・円形脱毛症は軽症のものから、全身に及ぶ難治性のものまで多くありますので、定まった治療の基準はありません。
これらは有効ではありますが、副作用も多く、また再発することもあるので十分に治療経験のある専門医によってなされるべきです。
ステロイドパルス療法はメチルプレドニゾロン500mgの点滴静注を3日間、1~3クール施行します。病初期(6ヶ月以内)の多発型で、脱毛が全頭に至っていない例。(大山先生はもっと初期(3ヶ月以内で病理組織で炎症所見の明確なものに絞って施行するとのことでした。)
内服療法は30~40mg程度から開始して漸減していきますが、あせって急激に減量すると失敗し、それを取り戻すのにはまたかなりのステロイドの増量が必要とのことです。治療に慣れた専門医が腰を据えて行うべき治療とのことでした。再発を減らし、効果をあげるためにPUVA療法を併用することも良いそうです。最近はnarrow-band UVBやエキシマランプの治療も行われていますが、真皮内深くにまで到達して効果が期待できるUVAを併用しているそうです。(大山先生による)
ただ、急速びまん性脱毛症(acute diffude and total alopecia of the female scalp)といって、ある日突然急速に脱毛が始まり、全頭脱毛になりながら半年程度で自然に治癒する特殊なタイプの脱毛症があるそうで、若い女性に多いそうです。こういったものの見極めも大切だそうですが、予後の良いものと、全頭脱毛のまま生えてこないタイプとの見極めはかなり難しいとのことで脱毛専門医にコンサルトするのがベストと感じました。
またこれらの治療はガイドラインでは15歳以下の若年者には原則使用しないことになっています。

【その他の免疫抑制剤】
シクロスポリンは有効であったとする報告もありますが、必ずしも有効ではなく、再発例もあり、副作用も勘案すると推奨されません。メソトレキサート(MTX)やタクロリムスも有効とはされていません。

【生物学的製剤】
有効であったとする報告はありますが、まだ例数が少なく、今後の検討課題だそうです。
ただ、たまたま見ていたインターネットの記事で関節リウマチ治療薬Tofacitinib(JAK1/3阻害剤)で乾癬で、かつ全身型の脱毛症の患者さんの皮疹の改善だけではなく、体の毛も生えてきた、という記事があり興味を覚えました。(JID published online June 18,2014)

◆局所免疫療法
1974年にDNCBによる円形脱毛症の治療効果があることが報告されました。その後DNCBには発ガン性があることがわかり、中止されましたが、それにかわるsquaric acid dibutylester(SADBE)や2,3-diphenylcyclo-propenone(DPCP)が新しい感作物質として見出され、発がん性もないことがわかりました。
ガイドラインでは25%以上を占める多発型、全頭型などの難治性の円形脱毛症にはこれが第1選択肢として行うべきであると記載してあります。
まず、通常のパッチテストの要領で2%溶液で感作させます。赤くなったら(感作が成立)2~3週後に反応の程度に応じて、1×10-4%~1×10-3%の薄い溶液からはじめます。頭部全体に塗布して半日程度放置しておき、その後洗髪します。少しかゆみや赤みがあり、軽くフケが残る程度の濃度を見極めながら少しずつ濃度を上げていきます。1~2週ごとに繰り返していき、効果の発現までには2,3ヶ月を要するそうです。その後も間隔を開けながら年単位の長い治療が必要だそうです。たまに接触蕁麻疹、リンパ節腫脹、多形紅斑、色素沈着、白斑などの副作用があるそうです。

◆その他の治療
日本では、経験的に古くからセファランチン、グリチロン、塩化カルプロニウム(フロジン液)、漢方薬などが好んで使われてきました。諸外国ではこれらは使用されません。その効果は客観的な検証がされたわけではありませんが本邦では保険診療としても広く使われています。
第2世代の抗ヒスタミン剤は局所療法と併用すると効果が増すという報告がなされてきています。
外国ではミノキシジルが用いられることもあるとのことですが、本邦では円形脱毛症には適応がありません。

参考文献

Visual Dermatology 第9巻・第2号 2010
毛髪の疾患ー後天性脱毛症 責任編集 勝岡憲生
伊藤泰介 円形脱毛症の展望・診療ガイドラインについて p134-137

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 中山書店 2011
総編集◎古江増隆 専門編集◎坪井良治
13. 円形脱毛症ガイドライン  荒瀬誠治 80
14. 円形脱毛症に対する局所免疫療法の実施方法と注意点 入沢亮吉 85
15. 円形脱毛症の全身療法 中島武之、板見 智 97

野見山明子 円形脱毛症の治療ーステロイドの外用療法、局所療法を中心にー
日皮会誌:123(13).2418-2420.2013