月別アーカイブ: 2014年8月

デング熱

このところ、テレビでデング熱の渡航暦のない人の国内発生例のニュースが話題になっています。70年ぶりとか。
当ブログでも過去に多少触れました。(2012.12.9, 2012.7.17, 2011.7.24・・・これはブログが壊れて削除されてしまいましたが)
デング熱のことを意識したのは、平成23年7月の千葉県皮膚科医会で聖隷三方原病院の白濱先生のウイルス疾患講演の際に出された1枚のスライドをみせられたときが最初でした。外国から帰国した人で全身が真っ赤で高熱のある患者さんでした。皆さん診断は判りますか。多分どなたも分からないでしょう、といわれました。確かに会場の誰も知りませんでした。小生はうろ覚えの知識でデング熱かなと思いましたが、これはチクングニア熱の患者さんですといわれました。初めて聞く病名でした。
デング熱もチクングニア熱も一部感染地域が重なり、蚊によって媒介されるウイルス感染症で比較的似た症状を呈します。今回はデング熱が話題ですので、それを主にまた一寸改めて調べて述べてみます。
「チクングニア熱、デング熱は東南アジアで蔓延していて蚊によって伝播します。ウエストナイル熱にも似ています。チクングニア熱は最近遺伝子変異によってヒトスジシマカの体内で爆発的に増殖する能力を獲得してしまったようです。熱帯シマカは日本国内にはいませんが、ヒトスジシマカは広く国内に棲息しています。温暖化なども相俟って、近い将来には国内での流行が危惧されています。」と2012年に書きました。アメリカでは今年夏にフロリダで初めてチクングニア熱の国内発生例が報告されました。人の移動の多さ、都市集中化や気候温暖化なども関係するのでしょうがこれらの発生地域は徐々に広がっていく傾向にあるようです。

デング熱についての記事は、インターネット上に多く書かれていて、厚生労働省やWikipediaからのものに詳しく書かれていますので、専門家でもない小生があえて駄文を書くのも気がひけますが調べたことを一寸だけ。
【原因】デングウイルスによる感染症です。デングウイルスはフラビウイルス科に属するRNAウイルスです。黄熱病や日本脳炎のウイルスもこの属だそうです。これらはほとんど節足動物(蚊やマダニ)によって媒介されるのでアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)ともよばれています。血清型でDENV-1, DENV-2, DENV-3, DENV-4の4つのウイルス型にわかれます。
【媒介生物】やぶ蚊、特にネッタイシマカによって媒介されます。北緯35度から南緯35度の標高1000m以下のところに棲息しています(ちなみにデング熱の多発地帯は北緯25度から南緯25度の熱帯地方)。
ただその他のやぶ蚊でも媒介し、ヒトスジシマカでも媒介します。ヒトスジシマカは日本国内に広く棲息していますので気候温暖化などで今後の国内でのウイルスを保有する蚊の保有率の動向に注意が必要です。(国内での棲息北限は温暖化の影響もあって、年々上昇しています。現在は青森県近くにまで拡がっているそうです。)ネッタイシマカは人工の水容器やたまり水を産卵場所として好むそうです。
【症状】ウイルスを保有した蚊がヒトを刺すと、体内で増殖します。潜伏期は3日から14日、ほとんどは4-7日とされます。症状は発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、はしかに似た発疹などがありますが、大部分の人は不顕性感染(無症状)あるいは軽症のまま軽い風邪症状、発熱くらいで治癒します。
5%くらいの人がデング出血熱という重症型になり、またその一部分の人がデングショック症候群とよばれる最重症型となり場合によっては不幸な転機をとります。
経過は発熱期、重症期、回復期をとります。発熱は40度以上の高熱を出すこともあり、2-7日続きます。この時期に50-80%の人がはしか様の発疹、紅斑を認めます。ときには皮膚の点状出血や口や鼻の粘膜からの軽い出血があることもあります。ターニケット試験といって腕に血圧計を巻いて5分間おき、点状出血の数が多い程デング熱を疑うという簡易試験もあるそうです。
デング熱の診断は初期や軽症の場合はそれを疑わない限り難しいそうです。疑う警戒兆候は腹痛、嘔吐、肝腫大、粘膜出血、血小板減少、ヘマトクリット上昇、倦怠感だそうです。また白血球が初期に減少するのも特徴だそうです。
また頭痛(目の奥の痛み)、筋肉や関節の痛み、発疹も疑う重要な要因です。
一部の人は重症化しますが、高熱から回復した後で、毛細血管の透過性が増し、水分が漏出し、胸腔、腹腔に多量の水分が貯留し循環性ショックがおきたり、臓器障害や大量出血がおきたりします。ウイルス抗体は終生続きますが他の型との交差抗体は一時的です。それで再感染が起きることがあります。以前に異なる血清型のデングウイルスに感染した場合には重症化しやすいそうですがその機序は明確にはなっていません。
回復期には漏出した水分が再吸収しますが、水分の過剰負荷によって脳浮腫を起こし意識レベルの低下やてんかんを起こすこともあるそうです。この時期には再度発疹がでることがあり、それは斑状、丘疹状であったり、時には血管炎を伴った紫斑を生じることもあります。
【診断】上記の臨床症状、白血球の減少、血小板の減少、ターニケット試験などで疑われます。確定診断はPCR検査、IgM, IgG などの血清学的検査法によります。
【鑑別診断】最も鑑別の難しいのはチクングニア熱です。臨床症状も、蚊による伝搬形式も、流行地域も似ているからです。ただ、チクングニア熱のほうが潜伏期が少し短く、手足の関節痛と腫れが長く残りやすいそうです。今年の夏はフロリダでの国内感染例も報告されたそうです。チクングニア熱は遺伝子変異によってシマダラカの体内でも活発に増殖するようになったそうで近い将来には日本でも多く発症するかもしれません。
あと発熱と発疹を伴う輸入感染症ではアフリカダニ熱やロッキー山紅斑熱などのダニを介する紅斑熱群リケッチャがあるそうです。(日本国内ではツツガムシ病や日本紅斑熱や、SFTSなどダニを介して発症する病気もありますが)
また熱帯地方からの帰国者ではマラリア、腸チフスなども鑑別するべき疾患です。
【治療】特別な治療薬はありません。症状を和らげる対症療法になります。アスピリン系統の鎮痛解熱薬はライ症候群などを起こしたり出血を助長する恐れがあるので禁忌です。アセトアミノフェンなどが推奨されています。
重症化した場合は、入院の上、輸液、輸血など多臓器不全やショックに対する治療が必要となります。
【予防】現在のところ、予防するワクチンはありません。ただ、フィリピンからの報告(Enrique Ona氏)でフランスのSanofi Pasteurが開発中のワクチンがかなり効果があり、感染率や、重症化を減少させるという記事がネットに載っていました。来年東南アジアや中南米の特定の地域を対象に大きな治験を始めるそうです。
但し、ワクチンによって抗体依存性感染増強(ADE)が生じ、却ってウイルスを増強させ、重症化させるという現象もあるそうでなかなか難しい問題もあるようです。全ての血清型の抗体を獲得しないと再感染した際の重症化のリスクも高まるのかもしれません。
抗ウイルス薬も開発中とのことです。ただ、一番大切なことは溜まり水を放置してボウフラを増やさないことのようです。

WHOは17の熱帯で発生しあまり顧みられてこなかった疾患を(neglected tropical diseases)顧みられない熱帯の病気、としてあげ、注意を喚起していますがデング熱もその中に入っています。
その他にもハンセン病、ブルーリ潰瘍、シャーガス病、リーシュマニア、トラコーマなども含まれています。
このように日本国内ではお目にかからず、我々には関係ないような病気でも海外旅行が簡単にでき世界中のどこにでも短時間で移動できるようになった現代は行き先の風土病や思いもかけない伝染病に罹患するリスクも格段に高くなっています。医療関係者すら聞いたこともないような病気がいっぱいあるようです。これらの中には皮膚症状を伴うものも多く含まれます。
このような輸入感染症に対する知識もある程度必要になってきた時代かと感じました。

参考文献

デング熱 Wikipedia

Dengue. Fitzpatrick’s Color Atlas and Synopsis of Clinical Dermatology 7th ed.
Klaus Wolff, Richard A. Johnson, Arturo P. Saavedra, Mc Grau Hill

関根万里 輸入皮膚感染症・熱帯皮膚病 日皮会誌 :123(13) 2746-49, 2013

クラーク母斑

クラーク( Clark )母斑

dysplastic/atypical nevus (異型母斑、非典型母斑)ともよばれます。毛の生えている部位、特に体幹部の非露光部に多くみられる後天性の母斑細胞性母斑です。やや大型( 直径5~12mm程度)の楕円形の黒褐色斑を示します。辺縁がやや不整で不明瞭な境界を持ち、褐色と淡黄褐色調の色調の混在がみられます。斑状、丘疹状の部分がみられます。
人種差が大きく、白人ではこのタイプが多くみられ、数が100個以上みられる例や、家族性にみられるケースも稀ではありません。以前Clarkはこのようなケースをdysplastic nevus syndrome あるいはB-K mole syndrome( BとKは報告患者のイニシャルに由来する)と名付け、これがメラノーマへの進展過程にある中間病変と見做された時期がありました。欧米において一時期B-K mole syndromeを前癌病変として不必要に拡大手術をしていたこともあるようです(Raman)。しかし、現在では高度な異型性母斑は実は多くが表在拡大型黒色腫の早期病変 (SSM in situ )であると考えられています。すなわちClark 型母斑はあくまで良性のもので前癌病変ではないということです。
dysplasia という言葉は、本来病理組織学的用語で、atypial nevus いうのは臨床的名称です。dysplastic nevus という名称はこのようにまぎらわしいために1992年 NIHはこの名称よりもatypical nevus , atypical moles, atypical melanocytic nevus, Clark nevus などと呼ぶように推奨しています。
Clark母斑は本来良性の母斑ですが、但し白人でこのタイプの母斑が多発する人がメラノーマになる確率はその他の人と比べると明らかに高率なことがわかっています。すなわちこれらのケースでは母斑は前癌病変ではないけれども、リスク要因となることになります。
日本人では散発例がほとんどで、まずB-K mole syndromeに相当する例は稀なようです。
しかしClark 母斑とSSM ( 表在拡大型黒色腫 )を正確に鑑別することは非常に重要なことといえます。

通常の後天性母斑細胞性母斑(ほくろ)と非典型母斑(AN)との違いは次のように記述されていますが、臨床症状を元にしているために必ずしも診断基準、疾患の概念的な位置づけは明確に確定していないようです。
特に典型的ほくろと早期のメラノーマの両方のボーダーラインに当たるケースでは専門家でも意見が別れたり診断の難しいケースもあるそうです。
【発症年齢】通常の黒子は小児期から思春期、ANは思春期を過ぎても発症。黒子の数のピークは30ー40歳代にあることがわかっている。それ以降に増えてくる黒子には注意が必要。
【色調】通常の黒子は皮膚色、褐色、黒色だが均一、ANはピンクの色調を含んだ淡褐色から濃褐色の病変で中央部が盛り上がり、辺縁部が平坦になり、しばしば色調がぼやけたり、切痕があったりする、目玉焼き様の外観と形容されることもある。
【直径】通常の黒子は1~10mm,、ANでは5~12mm.
【部位】通常の黒子は全身何処でもできる、ANは前胸部、背部など露光部に多いが、臀部、頭部、陰部などにもできる。
【数】通常の黒子は10個以内、ANは1個のこともあるが、時には100個を越えることがある。(B-K mole syndrome)

Atypical Neviについては白人では上述のように、日本人などとはかなり異なった臨床症状、概念があるようです。
日本ではANの多発型は滅多になく、黒子の数が多い人はメラノーマの発症リスクが高いのかどうかというエビデンスレベルの高い研究はなされていないそうです。
しかし、メラノーマの発症リスクが格段に高い欧米の白人については多くの調査、研究がなされています。
ほくろの数が多い人はメラノーマの発症リスクは高いことがわかっており、更にANのある人、ほくろの数が50個、100個と多数の人、メラノーマをすでに発症した人、身内にこれらのある人などはその頻度に比例するように、メラノーマ発症リスクのオッズ比は上昇していきます。
これらをB-K mole syndromeと呼ぶことは上述しました。
別名としてDysplastic nevus syndrome , Familial melanoma syndrome , Familial atypical multiple mole-melanoma ( FAMMM) syndrome などともよばれます。これらの家族性に発症する患者さんではCDKN2A遺伝子の変異がみられるそうです。この遺伝子異常のあるひとは生涯のうちでメラノーマを発症する確率がかなり高く、また膵臓癌を発症する確率も高いそうです。
それで、これらハイリスクの人は定期的に全身の写真を撮ること、疑わしい黒子はメジャーを付けてクローズアップの写真を撮ること、さらにダーモスコピーでチェックすることが推奨されています。ハイリスクであれば3ヶ月ごと、安定していれば6,12ヶ月に延ばします。また紫外線対策も厳重に行うことが推奨されています。
治療は通常のほくろならば、炭酸ガスなどのレーザー治療を行いますが、ANの場合はexcisional biopsy(腫瘍を全て取ること)を行います。shave biopsy(腫瘍を浅く削り取ること)は取り残しの危険性があるために推奨されません。

良性の黒子の治療ではレーザー治療もよくおこなわれますが、葛西先生のコメントに次のような記事がありました。
(コラム)顔と体に黒子があれば、まず顔を治療
「キズは顔の方が体幹や四肢よりもきれいに治る」ということを知っておくことである。
「体幹の黒子はクラーク母斑やウンナ母斑も多いので、比較的浅い母斑も多く、炭酸ガスレーザー治療には有利である。しかし、逆に、体幹は、顔面に比べて創傷治癒が悪いため、瘢痕化をきたしやすく、炭酸ガスレーザー治療には不利である。」

ダーモスコピー所見は、reticular pattern(網状パターン)が主体となりますが、網目の太さや、色調が不均一の場合はメラノーマも疑われます。
その他にはglobular pattern(小球状パターン)、homogenous pattern(均一パターン)、central hypo-pigmentation(中心色素脱失)などがあるそうです。 ただ、それらの不規則、無秩序さをどう評価するかは専門家の眼力によります。

参考文献

Raman Madan et al: The so-called dysplastic nevus is not dysplastic at all. Dermatology Practical & conceptual. 2013 Vol. 3, No1. 1-

斎田俊明【編著】 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 2012

葛西健一郎、酒井めぐみ、山村有美 炭酸ガスレーザー治療入門 文光堂 2008

ミーシャー型母斑、ウンナ型母斑

ミーシャー型母斑、ウンナ型母斑

良性の母斑(ホクロ)の中で、顔面、頭部にみられる多くの母斑がこのタイプに入ります。

◆ミーシャー(Miescher)型母斑

顔面のホクロはほとんどがこのタイプです。直径7mm程度までのドーム状に隆起する柔らかい結節です。表面は平滑で、乳頭腫様の凸凹は目立ちません。1~数本の硬毛を伴っていることが多いです。色調は若年期には青黒色調を呈しますが、年齢が上がってくると、淡褐色、常色へと退色します。これは母斑細胞が成熟化(maturation)するためで、病理組織的には当初、真皮―表皮境界部成分が多い(junction activity)ものが、次第に真皮内のみの母斑細胞成分へと成熟化するのと対応しています。(表皮、真皮からなる複合型母斑から真皮内型母斑へ)
母斑細胞は変性して、神経化、線維化、ムチン化、脂肪化(neuroid, fibrous, mucinous, fattydegeneration)していくので黒色調はなくなって柔らかく盛り上がっていくのです。

【ダーモスコピー像】
1. Typical pseudonetwork(定型的偽ネットワーク)・・・表面に数本の硬毛を伴いますが、その開大した毛包部分が色素沈着を免れるために、そこを網孔とした粗大な網状色素沈着を認めます。
2. Homogeneous pattern(均一パターン)・・・若年など色調が濃い場合は灰青黒色調の所見を呈します。逆に中高年になると黒色調がなくなり、淡い皮膚色の均一パターンになることもあります。
3. Globular pattern(小球状パターン)・・・若年者などで黒褐色を呈する場合には小球が密に集まったパターンをとります。
4. Comma-like vessels(コンマ状血管)・・・時になだらかに曲がった毛細血管がみられることがあります。

同じ黒褐色でも、Miescher型母斑はダーモスコープのプローブをホクロの表面に押し当てると、母斑は柔らかいので押し寄せられて変形しますが、脂漏性角化症(老人性疣贅)では変形しません。

【治療】
治療は主に美容的な目的となります。大きく分けると外科的な切除方法と、レーザーによる治療があります。
手術療法は、部位、大きさなどで異なってきます。顔面の皮膚の余裕のある部位、眼瞼部や鼻翼部などではくり抜き法(open treatment)が良い適応となります。皮膚生検用のパンチを用いて皮膚全層を抜き取り縫合せずに創部を開放にして傷が収縮して自然に治癒するのを待つやり方です。しかし皮膚の張りがある頬や額などでは紡錘型に切除する方法などがとられます。例えていえば、ホクロを黒目とすると、手術創は白目も含めた大きさになるということです。(大原國章)
もう一つはレーザーによる治療法です。種々のレーザーがありますので、詳細は専門家に譲りますが、レーザー専門家の一人である葛西先生のコメントを挙げておきます。
炭酸ガスレーザーが多く用いられるようですが、最近はエルビウムヤグレーザーなどのより良好な結果が期待できる機器もあるそうです。
いずれにしても、術者の技量が大きく結果を左右するようです。(取り残し、瘢痕など)

*顔面のホクロはそのほとんどがミーシャー型である。このタイプは真皮内に逆三角形に楔状に深くまで病巣が達している。
*炭酸ガスレーザー治療を行う場合、特に中央部を深くまで蒸散する必要がある。
*術後瘢痕形成を防止するために周囲を広く滑らかに仕上げると良い。
*蒸散が不十分であった場合のホクロの再発は、若年者の平坦なホクロの方が起こりやすく、中高年の大きく隆起したホクロの場合はむしろ少ない。
*ミーシャー型母斑は発生直後の小さい時期は浅いが、成長に伴って、どんどん中央部が深くなる。20~30歳くらいの女性の直径2~3mmで、平坦からわずかに隆起した程度のホクロが最も深いと考える必要がある。高出力ですばやく仕上げることが重要である。
*中高年になるとホクロは大きく盛り上がって目立つようになりますが、色素産生能や被刺激性は低くなってくるので深部の母斑細胞を残しても再発しにくくなり、治療はより容易になる。
*頭部にもミーシャー型母斑はよくできるが、他の疾患との鑑別はより注意を要する。
このタイプの母斑の場合はやや浅めに削って少し細胞が残っても構わない。がっちり削って瘢痕性脱毛を生じるよりも多少の残りは毛髪で隠れるので、浅めの方が仕上がりは良い。

◆ウンナ( Unna)型母斑

ミーシャー型と比べると、少ないタイプですが、頚部、体幹部などに桑実状に盛り上がった軟らかい有茎性の結節としてみられます。
表面は凸凹になる場合と平坦な場合があります。色調は淡褐色から常色のことが多く、黒い場合は少ないようです。

【ダーモスコピー像】
1. Globular pattern・・・淡褐色、褐色の顆粒が規則的に散らばってみられます。
2. Strucureless pattern・・・淡褐色から淡紅色の無構造な色にみえることもありますが、褐色の小球やコンマ様の血管もみられます。
3. Exophytic papillary structure・・・表面が乳頭腫状に凸凹を示します。
4. Comma-like vessels・・・ひらがなの「つ」「く」「し」のようななだらかに曲がった毛細血管がみられることがあります。

Unna型母斑は組織学的には真皮内型の母斑で、大きく盛り上がっていますが、ミーシャー型と比べると母斑細胞は真皮の浅い部分に留まるのでレーザー治療はより容易になります。

これらのホクロは視診やダーモスコピー所見などから比較的確実に診断できますが、やはり中には基底細胞腫や悪性黒色腫との鑑別を要するものもあります。疑わしいものは病理組織で確認する必要性があります。
特に白人などの色の淡い人では基底細胞癌などとの鑑別が難しいこともあるそうです。
これらのホクロで、急激な変化をきたした場合は毛包からの細菌感染、出血、梗塞、機械的刺激、湿疹などが多いのですがいずれにしても皮膚科医の診断に委ねるのが肝要です。

 

参考文献

斎田俊明【編著】 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 2012

葛西健一郎、酒井めぐみ、山村有美 炭酸ガスレーザー 治療入門 文光堂 2008

M1Miescher型母斑、ダーモスコープのプローブを押し当てると母斑は柔らかいので圧排し移動する.( wobble test)
M2数本の硬毛を有している.
M3

毛包周囲は色素が淡く抜けた部分もある.
U2Unna型母斑

表面は顆粒状、乳頭腫状に凸凹がみられる.
U1Unna型母斑

半球ないし有茎性に隆起して、この例では表面は平滑、所々に褐色のglobuleを伴う.

ほくろの分類

ほくろ(色素細胞母斑)の分類にはいろいろな方法があります。
ざっと書き並べてみます。
1. 先天性母斑と後天性母斑
2. 組織学的分類…境界部型、複合型、真皮内型
3. 大きさによる分類…小型、中型、大型、(巨大型)
4. 組織学的構築による分類…Clark母斑、Miescher型母斑、Unna型母斑、Spitz母斑( Ackerman AB)
5. ダーモスコピー所見による分類 ( Argenziano G)
1) globular/cobblestone nevus
2) reticular nevus
3) starburst nevus
4) homogeneous blue nevus
5) nevus on special body sites
6) nevus with special features
7) unclassifiable melanocytic lesions

これらの中で、4番目のAckerman による分類は発生部位、年齢、悪性黒色種への進展リスク、鑑別を考える際にも有用で、頻用されているようです。
先日はSpitz母斑について調べて書いてみました。そのうちその他の型の母斑についても触れてみたいと思います。

斎田 俊明【編著】 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 2012 東京 より引用

メラノーマの鑑別ースピッツ母斑

先日は恒例のダーモスコピー勉強会がありました。
昨年と同じ場所で、講師のメンバーも昨年とほぼ同じです。今年は他の学会と重なったためかやや出席者が少ないように思われました。
今年も田中先生、大原先生の豊富な症例を提示しながらの総説は非常にためになるものでした。
また斎田先生のパソコンの解析ソフトを用いた爪の色素のばらつき、でたらめさから割り出した良性、悪性の判定の方法(Discrimination Index)も魅力的でした。
その中にあって、今回印象深かった症例について一寸触れてみます。
病理医でなおかつ皮膚科医である先生の提示されたものです。中年の患者さんの踵に見られた1cm内外の色素斑でした。
楕円形で形は整っており、切除された病理組織像でもメラノサイトは表皮基底層にあり、異型メラノサイトの表皮上層への上昇もなく、真皮内のメラノサイトも異型性は目立ちませんでした。メラニン色素は皮溝に沿って上昇しているようでした。
会場の先生方も高年齢だけれどメラノーマというよりSpitz/Reed母斑という意見も多かったようでした。小生はこの例はスピッツ母斑で症例提示はこれで終わりで、次の症例に進むのかと思っていました。ところが、演者の次の言葉にびっくりしてしてしまいました。
「実は7年後に腹部にメラノーマの転移が見つかりました。」「私が診断したものではありませんが、病理医は何で分からなかったのかと、やや後出しじゃん拳みたいな皮膚科医の意見もありました。」と。
実は、スピッツ母斑の中にはこの例のように極めてメラノーマとの鑑別が難しい例があるそうです。メラノーマのスペシャリストでも判断に迷う症例もあるそうです。
それで、スピッツ母斑について調べてみました。

スピッツ母斑(Spitz/Reed Nevi, spindle and/or epithelioid cell nevi)

【歴史】
1948年 Sophie Spitzが melanoma of childhood として最初の報告
1953年 C. AllenがJuvenile melanoma (若年性黒色腫)と命名
しかし、その後成人発生もあることや、黒色腫は悪性のイメージがあり、良性のスピッツ母斑には不適当とされ、この名称は次第に使われなくなっていきました。
1975年 Reedは色素の濃い症例を発表してpigmented variant(色素性亜型)としました。
1990年 Ackermanらは spindle and epithelioid cell nevusと命名しました。

【臨床症状】
通常は大きさ1cm以内のピンクから赤褐色、紫褐色の円形〜卵円形の結節で境界は明瞭、表面は平滑な場合も、かさかさした鱗屑を付している場合もあります。急速に拡大することもありますが、一定の大きさで停止します。通常は20歳以下の若年者に好発しますが、1/3は成人にも見られます。
日本人では色素が濃く、黒色調を呈することも多く pigmented Spitz nevus、Reed母斑と呼ばれ、スピッツ母斑の異型とされますが、厳密に両者を区別できないために最近はReed/Spitz母斑として一括されることもあります。
しかし、KittlerはダーモスコピーでSpitz母斑がglobule/clodsを呈するのに、Reed母斑はStreaksが主体であって、組織構築が束状増殖を呈し異なるので、この両者は区別すべきであると述べているとのことです。(斎田)
【鑑別診断】
Clark母斑・・・異型母斑、体幹、四肢に好発する母斑の一種で中央部が濃く、周辺部は淡い色調を持ちます。
皮膚線維腫、血管腫、血管拡張性肉芽腫、肥満細胞腫、若年性黄色肉芽腫、リンパ腫などとの鑑別を要しますが、やはり最も鑑別を要するものは悪性黒色種です。赤色のものは無色素性悪性黒色種との鑑別を要します。
【ダーモスコピー像】
1. starburst pattern (爆発的星生成パターン)…辺縁部で放射状に突出する棘状、線状の構造があたかも星の爆発のようにみられます。50-60% Reed母斑に特徴的です。 Spitz母斑ではglobuleが周辺に均等に分布した形で突出してみられることが多いです。
2. globular pattern(小球状パターン) …コーヒー豆のように小球状のつぶつぶがみられることがあります。各globuleを囲むように白色調のnegative pigment network がみられればより可能性が高いです。
3. homogeneous pattern(均一パターン)…全体的に濃い黒色調の色素沈着がみられます。globuleが密集した状態と考えられます。
4. atypical pattern…blue-white veilに似る、青みがかった色調をとることもあります。
【病理組織像】
個々のメラノサイトを注目する前に、腫瘍全体の構築をみることが重要です。
左右対称性であり、表皮を底面とし、真皮を頂点とする逆三角形のパターンをとる(wedge shaped)のが典型像です。腫瘍部と正常部の境界は明瞭です。また病変部の下方では母斑細胞が少なく、より小型の細胞となります。すなわちmaturation(細胞の成熟)が認められます。
一般的に毛包周囲部では大型で紡錘形の細胞が多く、周辺部はより小型の類上皮細胞が多い傾向にあるそうです。細胞分裂像はあるものの、核の異型性は少ないです。真皮表皮境界部には空隙(junctional cleavage, clefting)がみられます。
表皮内に母斑細胞の胞巣がみられる場合もありますが、紡錘形の細胞が縦に並ぶことが多く、バナナの房様と形容されることもあります。真皮上層では核と細胞質が大きく、多核巨細胞もみられることがあります。また表皮下層には好酸性に染色される大型の無構造物質がみられることがあり、報告者にちなんでKamino bodyと呼ばれます。
Reed母斑では、細胞質内に多量のメラニン顆粒をもつ紡錘形の母斑細胞が胞巣を形成しますが、基本構造はSpitz母斑と同様です。

Atypical Spitz Nevus(tumor)という概念があり、腫瘍構造がより異型性の場合と、細胞がより異型性のある場合があります。またSpitoid melanomaという概念もあります。これらのことから窺えるように、悪性黒色種との区別が非常に困難なケースがあることがわかります。
この概念に対し、Ackermanは良性と悪性の中間などというものはないとその概念を否定しているとのことです。(斎田)
臨床、ダーモスコピー、病理所見をあわせても診断不可能例もあるそうです。免疫組織化学染色(S-100, HMB-45, Mant-1/Melan A, Ki-67/MIB-1など)が鑑別に有用であることもありますが完璧ではありません。遺伝子診断も研究されているそうですがまだ不定です。
【経過、予後】
以上のことを勘案すると注意深い経過観察が必要なことが窺えます。
12歳以下は臨床像、ダーモスコピー像の程度によって3~6ヶ月毎に経過観察します。成人の場合は切除しますが、ボーダーラインのケースでは1cm離して切除するとされますが、明確な基準はないそうです。しかし密な経過観察が必要なことは論を待ちません。

参考文献

曽和 順子 後天性色素細胞【性】母斑 p376-384
皮膚科サブスペシャリティーシリーズ
ゲスト編集 木村 鉄宣 常任編集 宮地 良樹 清水 宏 文光堂 2010年

髙田 実 Spitz母斑 日皮会誌 119(6)1055-1058,2009

Alessandra Yoradjian : An. Bras. Dermatol. Vol 87(3) 349-57,2012

斎田 俊明【編著】 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 2012

Spitz nevusReed母斑

小児の前腕に生じたもの、約3mmの大きさで、starburst signを認める.