月別アーカイブ: 2014年10月

指の粘液のう腫

指の粘液のう腫 (digital mucous cyst, myxoid cyst, synovial cyst)
指または足趾のDIP関節の背面から、爪根の間にできる腫瘤です。
直径1cm内外のドーム状ないし半球状の皮膚色~淡紅色の小結節としてみられます。針で穿刺すると粘調なゼリー状の分泌物が排出されますので、診断は比較的容易です。
この腫瘤は大きく2種類に分類されています。
【症状・成因】
1. DIP関節(distal interphalangeal joint: 遠位指節間関節、指の第1関節)と連続しているもので、DIP関節ガングリオンと呼ぶべきものとしています。DIP関節部の変形性関節症のことをHeberden(ヘバーデン)結節といいますが、進行すると関節軟骨が擦り減り靭帯が緩んできてヘルニアを生じ、関節嚢との交通を生じ、粘液のう腫が生じることあります。これをガングリオンとよび、内容物は糖蛋白が主体だそうです。
2. 爪根部背面に生じる腫瘤で、真皮内にはっきりした被膜をもたずに、ヒアルロン酸がたまって偽のう腫を形成するものがあります。これは真の腫瘍ではなく、ゼリー状の内容物は周囲の膠原線維束で取り囲まれています。新しいものははっきりした内腔は示さず、古くなると明確な内腔を示すようになってきます。
欧米の報告では女性に多いですが、本邦では男性がやや多いそうです。40歳台以上の中高年に多くみられ、外傷や老化が関係しているようです。
指背に多く、後爪郭部に生じると爪を圧排するために爪甲に縦溝を生じるようになります。爪甲下に生じると下から爪を押し上げたり、陥入爪を生じたりします。
このような場合は、爪下外骨腫やグロムス腫瘍との鑑別が必要になってきます。

外からは腫瘍状にみえますが、先に述べたように真の腫瘍、真ののう腫ではなく、上皮性の壁はみられません。線維芽細胞がムコ多糖を産生するためにできたものです。口唇内にも粘液のう腫がみられることがありますが、こちらは唾液腺を噛むことなどでシアロムチンがたまってできたものです。
【治療】
1. 外科的治療
手術によって病変部を切除する方法です。単純に切除して縫縮するのは、閉鎖が難しいために局所皮弁を用いたり、植皮を用いたりするとの報告があります。しかし、保存的な治療法でも寛解することが多いので、手術適応は限られています。しかし、再発を繰り返す例や関節腔との交通のある例などは手術療法が必要になります。ガングリオンタイプでは手術によって関節腔との交通部を結紮する必要があります(東 禹彦)。

2. 保存的治療
18Gなどの針で穿刺し、内容物を圧排し、ガーゼなどで圧迫することでも腫瘤はなくなりますが、早晩再発します。それで、排出後にケナコルトなどのステロイド剤、ブレオマイシンを局所注射する方法もとられます。(ただし、ブレオマイシンは爪の再生を阻止する可能性もあります。)
簡便なのは液体窒素で凍結療法を行うことです。やや長めに行えば軽度の瘢痕が残ることもありますが、かなりの確立で治癒するそうです(立花隆夫)。
これらの全ての治療法は結合組織性の瘢痕癒着を作って空隙をなくそうとするものです。従って、治癒率も再発率も大差がないそうです。(Luc Thomas)。むしろ術者の一寸した技術によるのかもしれません。
【合併症】
・時に二次感染を起こし、骨髄炎などきたすこともあります。
・爪の変形・・・爪の縦溝(後爪郭部に生じたとき)、挟み爪、陥入爪(爪甲下にできたとき)
・疼痛を伴ったり、関節の変形・・・ガングリオンタイプ、Heberden結節部に生じたとき、嚢腫が大きいとき

【鑑別診断】
針の穿刺によって、ゼリー状の排液をみれば、診断は比較的容易ですが、爪甲下にあるときはその他の腫瘍、爪下外骨腫やグロムス腫瘍などとの鑑別が必要となる場合もあります.

参考文献

立花隆夫:メスを使わない外来治療法. 粘液嚢腫、ガングリオン すぐに役立つ日常皮膚診療における私の工夫. 編集企画/京都大学院教授 宮地良樹 全日本病院出版会
p120-125, 2007

東 禹彦:13 爪および爪周囲組織の腫瘍. 爪 基礎から臨床まで 金原出版 第7刷 p176-193, 2013

Luc Thomas, et al. Tumors of the Nail Apparatus and adjacent Tissues. Baran & Dawber’s Diseases of the Nails and their Management, 4th ed. Edited by Robert Baran, David A.R. de Berker, Mark Holzberg and Luc Thomas. John Wiley & Sons, Ltd. p 637-743, 2012

粘液のう腫18Gの注射針で穿刺するとゼリー状の粘液が出てきます.綿棒を緩く綿花を巻き、できるだけ先を細くしてたっぷり液体窒素を含ませ、冷凍凝固します.腫瘍全体が白くなるまで凍結させます.解凍するまで待ちます.組織破壊は凍結よりも、解凍が緩やかなときのほうが起こりやすいです.通常より長く、中央に瘢痕が残る程度に行う(20秒程度の凍結・解凍を3~4回繰り返す)ほうが再発がおきにくいです.これにガーゼなどでの圧迫療法も併用します。
(立花隆夫)

ヘバーデン結節粘液のう腫ヘバーデン結節に伴った粘液のう腫(守田英治先生 提供)

 

爪の腫瘍

爪の腫瘍について、調べてみるとブログに書きました。
それで、Baran&Dawberの教本を調べてみて、そのあまりの多さ、知らない病気の多さに今更ながらびっくりしてしまいました。爪および爪囲、指まで含めると皮膚のほぼ全ての皮膚腫瘍が含まれてしまいます。とても、身の程知らずのことをいったものだと後悔しました。止めようかとも思いましたが、引っ込みがつかない気もします。それで、内外の皮膚科の教本に従って爪に関係ありそうな疾患をピックアップしてみることにしました。
あまりに専門的な病名を羅列しても意味がありませんが、・・・。本当に皮膚疾患は数が多いと改めて認識させられました。
(◎爪周囲に良くみられる、または重要と思われるもの. 〇爪周囲にそれほど多く見られないが、重要と思われるもの.)

爪の腫瘍は、爪という特殊な器官があるために、そのできる解剖学的な部位によって、様々な変形をきたします。それに、その狭い範囲にもかかわらず下記のようにほぼ全ての皮膚の成分の腫瘍を生じます。またその始まりは微小な外傷によることが多くあります。従って、その診断は専門医といえども非常に難しく、診断が遅れることにもなり兼ねません。また良性の腫瘍でも繰り返したり、爪破壊を繰り返したりするため、治療の選択も困難なケースもあるとのことです。

<上皮細胞系腫瘍>
   良性・・・◎疣、〇エクリン汗孔腫、〇ケラトアカントーマ、〇乳頭腫、疣贅状異常角化症、
   癌前駆症・・・◎日光角化症、〇砒素角化症、〇放射線皮膚炎
   悪性・・・◎ボーエン病、◎有棘細胞癌、◎基底細胞癌、〇疣状癌、〇汗腺系腫瘍、〇脂腺癌
<軟部組織系腫瘍>
   線維性腫瘍・・・Koenen 腫瘍、acquired digital fibrokeratoma、〇皮膚線維腫、◎ケロイド、〇knuckle pad、小児指線維腫症
   血管系腫瘍・・・〇単純性血管腫、〇被角血管腫、〇動静脈吻合を伴う血管腫、〇海綿状血管腫、◎血管拡張性肉芽腫、〇リンパ管腫
           〇グロムス腫瘍、〇血管平滑筋腫、青色ゴムまり様母斑症候群、〇カポジ肉腫
   神経内分泌系腫瘍・・・〇メルケル細胞癌
   末梢神経系腫瘍・・・外傷性神経腫、痕跡的多指症、◎神経線維腫、神経鞘腫、顆粒細胞腫
   骨・軟骨系腫瘍・・・◎爪下外骨腫、爪甲下外軟骨腫、皮膚軟骨腫
   滑膜性腫瘍・・・腱鞘巨細胞腫
   脂肪組織性粘液性腫瘍・・・脂肪腫、爪甲下粘液腫
   肉腫・・・ 〇隆起性皮膚線維肉腫、類上皮肉腫、滑膜肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫

<偽腫瘍>
◎指の粘液嚢腫
脛骨前粘液水腫
皮膚骨腫
爪甲下石灰化
痛風
<間葉系、リンパ系腫瘍>
間葉系腫瘍・・・〇若年性黄色肉芽腫、疣状黄色腫、多発性細網組織球腫
リンパ系腫瘍・・・〇リンパ腫
転移・・・・骨からのものがみられるが、極めて稀
<メラノサイト系腫瘍>
◎色素性母斑
青色母斑
◎爪甲メラノーマ(悪性黒色腫)

船橋市皮膚科医会、西山先生の記念講演

今日は恒例の船橋市皮膚科医会で西山茂夫先生の皮膚科特別講演がありました。講演の合間に素晴らしい蝶の写真、お話も織り交ぜてお話して下さいました。恒例ではありましたが、特別な日でした。それは100回目の区切りの講演会で、定期的なお話は今回で終了とのことでした。なんと17年もの長きに亘って続いてきたとのことでした。西山先生は勿論のこと、世話人の方々の御苦労に感謝です。
80歳を超えるご高齢ながら、頭脳明晰、皮膚科の全ての分野に通暁している皮膚科の泰斗です。この先定期的な講演を聴けなくなるのはとても残念な思いです。今更ながらあまり真面目に出席していなかったのを悔やんでいます。
今は好々爺然として優しい雰囲気ですが、いい加減な質問には時にピシャッとした返答をされます。
若い頃はカミソリといわれていたとのことでした。千葉大前助教授の藤田先生も若い頃、西山先生の本で日本語の抄読会を行い勉強したと仰っていました。30代ですでに独創的な本を書き、ドイツ語の翻訳をするなど若い頃から傑出した人だったのでしょう。
直接先生に師事した皮膚科医の先生の話を聞くと、「回診の時とか、外来でのベシュライバー(陪席のこと)ではそれはもう大変でしたよ。毎日胃が痛くなる程でした。最近は随分穏やかになられましたが。」とのことでした。あの博覧強記の頭脳で質問攻めにあったら頭が真っ白くなり何も答えられなさそうです。
 直接指導を受けなくてよかったような、残念なような気持ちです。
血管炎とか痒疹とか聞きたいことが一杯あったけれど、よく理解してなくて毎回躊躇して質問しそこなって終わってしまいました。
出席者の多くが名残を惜しんでいました。
まだまだ、教えてもらいたいことが一杯あるので、西山先生時々顔をみせて下さい。

ホテルオークラアムステルダム

アムステルダムでの宿泊はホテルオークラでしたが、良かったので一言書きます。別に他のホテルと比較していないのでお薦めという意味ではありませんが。
 アムステルダムに着いて、迷いつつ列車に乗ってホテルに到着しました。いつものように緊張気味で‘I have a reservation・・・‘などとホテルフロントで切り出したのですが、「御用を承ります、」と言われたかどうかはっきり覚えていませんが、日本人に日本語で応対されてほっと安心しました。
食事メニューなども日本語が添えてあるし、食事受付係りも日本人でした。サービスも良く、朝食のメニューも豊富です。日本語の新聞も置いてありました。一寸お高いと思ったけれどゆっくり寛げました。さすがオークラだと思いました。日本でもそんなに泊まったわけでもありませんが。
RAI Congress Centreにも徒歩で10分もかかりません。国鉄駅もそこから歩いて一投足の距離です。Schiphol空港へもわずかに10分程度。
RAI Congress Centreは巨大な会場でした。小さな国に似合わず、アメリカ並みのゆとりスペースがあり設備もしっかりでした。こんな会場でこんなホテルならば又来てもいいかな、と思いました。
単に日本語が通じて、日本食料理店が近くに散在してるという良さ、安直さだけかもしれませんが。

爪の腫瘍

帰国の朝もホテルオークラの朝食を戴きました。チェックアウトもあるので、7時前からビュッフェの前に並びました。ややあって新井夫妻も早いお出ましです。随分早いですね、というと8時から爪のセッションがあるので早起きしたのです、とのことでした。小生は実のところ爪にしようか、red face、多分酒さーのセッションにしようか決めかねていたところでした。新井夫妻に誘われるようにして、爪の腫瘍のセッションに出席しました。締めは新しいbiologicsの話でいつか小林先生が話していた乾癬のbiosimilarも現実のものとなってきているのを新鮮な心持ちで聴きました。まー乾癬の最近の進歩というか、治療法、病態論のパラダイムシフトの速さには一寸ついていけない感じです。でも、岡目八目で言わせて貰えば、専門家もよく平気で変節するな、という思いもあります。ハンブルグ大学のKristian Reich先生は非常に精力的にTh17関連の乾癬の話をされます。ロックフェラー大学のKrueger先生はいつもTIP-DIC Th-17病態論を鮮やかに解説されるのですが、T細胞の免疫論のように思われます。今回Reich先生は好中球が治療後短期間に消失してT細胞だけでなく多形核白血球の重要性も指摘されたように思います。かつてIL-8などをいじっていた者としては興味深い話でした。少し病態論の変化も感じましたが、それだけ真の乾癬の病因はまだ不明ということだと思いますが。(拙い英語力と最近の進歩についていけない頭で誤解しているかもしれませんが。
本題は乾癬ではなく、爪の腫瘍です。Haneke先生らの座長になる爪のセッションは朝早く出席者も少なかったけれど、重要な話が詰まっていました。良性腫瘍、悪性腫瘍(melanocytic non-melanocytic)などなど。腫瘍など小生のような開業医は扱わないし、即大学などにお願いするのですが、一寸聞きかじったことを書いてみたいと思いました。
皆さんいつも心配な爪のメラノーマも含めて。

アムステルダムにて

EADV(ヨーロッパ皮膚科学会)本当はVenereology(性病学)も入っているので、ヨーロッパ皮膚科性病科学会とでも、訳すのでしょうが、今風でないので、皮膚科学会としましたが、それがアムステルダムで開催されているのでそれにかこつけてオランダまでやってきました。
オランダといえば有名な画家の国、そういうわけで、昨日はゴッホ美術館にいき、今日はデン・ハーグのマウリッツハイツ美術館に行ってきました。
どうせ、デン・ハーグに行くなら途中のライデンに立ち寄らない手はないと、勝手な理由をつけてライデン大学、シーボルトハウスも見学してきました。
ライデン大学は1575年に創設されたオランダ最古の大学。シーボルトをはじめ日本にゆかりが深いところです。たまたま会った人が一番古い大学本部の建物を教えてくれました。受付でシーボルトの彫像もあると聞いたのですが、学生はシーボルト何?といった感じでした。No.16がシーボルトなのですが、そこだけ見つからない、壁の写真だけ撮ってあきらめました。そこから続く植物園の一角に菅原道真の「東風ふかば匂い起こせよ梅の花・・・」の和歌が外壁に大きく仮名文字で書かれていてその内容の説明も対訳されていたのは驚きでした。
その後シーボルトハウスに立ち寄りました。日本への愛着、造詣の深さを感じました。裏庭には八手や竹林がある庭があり、一瞬日本のどこかにいるような感じさえし、しばし佇んでいました。
その後は、マウリッツハイツ美術館でお目当てのフェルメールです。あまりにも有名な「真珠の耳飾りの少女」「デルフトの眺望」、何かこれを目当てにいくのはいかにもミーハー的で我ながら安っぽい感じでしたが、手に取るように間近に見られて幸せでした。レンブラントの年老いた自画像や、「テュルブ博士の解剖講義」も期待していたのに見つかりませんでした。時間がタイトな中での鑑賞なので見過ごしたのかもしれません。
昼過ぎにはアムステルダムに取って返してHIVのセッション、乾癬のサテライトシンポジウムを聴講しました。
相変わらず英語が聞き取れないな、とがっかりしながら、疲れた足取りでホテルに向かい、部屋でワインでも飲もうと、スーパーで買い入れて歩いていると、ばったりと新井夫妻に出会いました。
夜一緒に食べない、と誘われて日本料理屋に入りました。暫くして、こちらもホテルオークラの朝食で一緒になった黒川先生がひょっこりお店に入ってきました。朝のホテルでは少ししか話さなかったけれど、久しぶりの日本語に囲まれて、楽しいひと時を過ごしました。
話題は爪の話になり、(小生が無理やり仕向けたのかもしれませんが)iPADを見せながら、ガター法の薀蓄を聞き、フェノール法のことも聞きました。なんとHaneke先生は今しがたホテルのロビーで会ってきたよ、Baran先生とは会えばハグする仲と何ともインターナショナルな事でした。フェノール法は教本に載っていますよね、と聞くと彼らも今では爪母を痛めるようなのやり方よりも新井先生の方式を認めているとのことでした。もう4000例以上やっていてまとめるのが大変とのことでした。是非その報告を聞きたいものだと思いました。

1日経って、今日はお昼に国立ミュージアムに行き、レンブラント、フェルメールの絵をみてきました。夜はコンセルトヘボウでにわか音楽愛好家です。
明日はもう帰国の途につきます。オランダまで何をしに来たのだろう。

アムス中央駅  アムステルダム中央駅 東京駅のモデルとなったというだけあって、重厚な造りでした.

ライデン跳ね橋 ライデンの跳ね橋と風車.

 

ライデン掘割 古い大学町は運河や掘割の多い、静かな落ち着いた所でした.

ライデン大学ライデン大学で一番古い建物だそうです(大学本部).奥には植物園があります.

シーボルト 掘割沿いにしばらく歩くとシーボルトハウスがありました.収集品は書画、骨董に留まらず、博物、動植物、医術関連品、日用品など広い範囲に亘っていました.シーボルト事件の原因ともなった地図もありました.彼は禁制の地図を所持したとして幕府に追及されましたが、関連した日本人の名前は最後まで明かさず、終生日本に留まることを申し出たそうです.(日本に留まれば地図を持っていたとしても日本に不利益な事は無かろうと). 彼はオランダ政庁の医官でしたが、実はドイツ人とのことです.

裏庭裏庭には竹や八手や柏などの木が植わっており、ここがオランダとは思えない、異空間のようでした.

耳飾 マウリッツハイス美術館、というよりもオランダ絵画の至宝ともいえるフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」

デルフト同じく有名なフェルメールの「デルフトの眺望」.

夜警 国立ミュージアムの壁一面に一際眼をひくレンブラントの「夜警」があります.人だかりができていてじっくりみるもの大変でした.

牛乳フェルメールの作品も普通にコーナーに並んでいました.
「牛乳を注ぐ女」

 

 

 

巻き爪の治療・VHO法

弾性ワイヤー法と同様に巻き爪に対して、彎曲を改善させる方法です。
爪縁に金属製のワイヤーで作ったフックを引っ掛けて、左右のフックを金属製のループを作って、巻き上げ用フックで巻き上げて引っ張り彎曲を矯正する方法です。ドイツで開発され3TO-VHO矯正法と呼ばれます。これは、バン産商が医療用に発売していますが、ライセンス販売しているために施術を行うためには同社が主催している講習会に出席してライセンスを取得する必要があります。
この方法の利点は、爪が伸びていなくても施行できること、また爪の先端部だけではなく、中間部が彎曲して痛みを訴えるケースにも使用できることなどがあります。爪が伸びるとともに、ワイヤーは前方に移動しますが、約3か月後に外して更に必要であれば再度装着します。半年~1年かけて矯正します。麻酔の必要がないので、糖尿病、虚血肢など基礎疾患のある人にも使用できます。
ただ、VHO法も、爪の側縁にまで肉芽が発達した例や、爪の幅が広くオーバーサイズになった例では適応はなく、ガター法やフェノール法などを選択する必要もあります。
また、材料費が高価なこと、フックを作ったり、爪の幅、彎曲に合わせてワイヤーを細工するのも意外と手間がかかったり、失敗して作り直したりする場合もあります。(器用で慣れた先生は失敗しないかしれませんが)
中央部で捻ったワイヤーをカットするのですが、その断端が当たらないようにアクリル樹脂でカバーします。時にはその部分が盛り上がってやや邪魔に感じる人もあります。
その後、より簡便に装着できる金属製矯正器具として、ポドフィックス、コンビペドなども開発されているそうです。

参考文献

河合修三: 5 陥入爪・巻き爪 4)金属製矯正器具による治療 皮膚科の臨床52(11)特:50;1614~1622,2010

VHO1VHO

VHO2

colectio2コレクティオといってフックとワイヤーが一体化され、巻き上げるだけでよい簡便なタイプもありますが、ジョイント部がやや弱い印象があります.

 

 

巻き爪の治療・金属製矯正器具

金属製矯正器具によって、彎曲した爪を元の状態に戻す巻き爪の治療は種々の器具が考案、工夫、改良がなされているようです。その中のいくつかを紹介してみます。
1)超弾性ワイヤー(マチワイヤー)・・・町田英一先生の報告による方法です。ニッケル、チタン合金でできている超弾性ワイヤーは強く曲げても元に戻る力が強く、湾曲した爪でもそれを装着することによって数か月以上にわたって強い回復力を発揮します。
現在は多摩メディカルで販売しています。
径は0.25~0.6mmのものまで8段階あり、爪の厚さ、年齢などによって選択します。成人男性の拇趾で0.5mm程度、小児では0.3mm程度を用います。
穴の位置を爪縁に近づけて開けると、反張力は強くなりますが、あまり強くすると爪が割れることもあります。
・爪が軟部組織から2mm以上伸びるのを待ち、爪の先端に23G注射針で2か所穴を開けます。
・穴は針を回転させながら斜めに開けますが、注射針が爪の内縁に接するようにするのが良いそうです。
・2つの穴に逆U字型になるようにワイヤーを通します。
・ニッパーでワイヤーを適切な長さにカットします。ワイヤーの端が爪縁から出ないように、爪の内側から爪を圧すような位置でカットします。皮膚に当たるようならばコットンで保護します。
・アロンアルファで穴の部分を固定します。
・1,2か月たって爪が伸びてきたらまた入れ替えます。
【利点】
比較的簡単に装着できる。
装着後から痛みが軽減する。
麻酔注射など痛みを伴わない。
【欠点】
爪が割れることがある。
爪が伸びていないと装着できない。
爪が浮いて、鉤厚爪になることがある。
何回も繰り返す必要がある。

2)巻き爪用クリップ
現在はドクター・ショール巻き爪用クリップとして流用しています。
東北大学工学部で研究開発された形状記憶合金で古河テクノマテリアルで製品化されました。素材は銅、アルミ、マンガンの合金だそうです。
当初は「ONCE Clip」として医療機関に限定有償見本販売されていましたが、平成23年からはエスエスエル ヘルスケア ジャパン(株)より「ドクター・ショール 巻き爪用クリップ」として発売されています。
つま先からみた爪甲の遊離縁の形を3型に分け、II,III型に対して適用があるとのことです。
I型:爪甲がほぼ水平であるもの.
II型:爪甲が半円弧以内のもの.
III型:半円弧を超えて爪甲が彎曲し、爪床を挟みこみ、食い込みが強いもの.
この形状記憶合金は細い板状の部分にツメが数か所ついており、ツメと板状の部分に爪甲を挟むタイプの矯正器具となっています。
装着後脱落しやすいケースでは紙絆創膏で爪甲とともに固定します。
24時間ずっと装着しますが、本人の生活様式に合わせて着脱可能です。入浴時は装着したままでも、外しても可です。
【利点】
・簡単に装着できる.
・着脱が簡単にできる.
・装着直後より痛みが軽減する.
【欠点】
・爪の短い例では装着できない.
・肉芽形成などなく、軽度から中等度の例が対象になる.
・爪縁が割れるケースがある.(爪甲を絆創膏で覆うことにより乾燥と亀裂を防止することはある程度可能)
【注意点】
・装着したままサッカーなどのスポーツをしないこと.
・クリップの角で指などを切らないように注意すること.
・装着したままサウナ入浴はしないこと.火傷の恐れあり.
・クリップの角で靴下、ストッキングを破らないよう注意すること.

 

これ以外にも様々な器具が考案されているようですが、使用経験がないために上記の2種について書きました。

参考文献

町田英一: 巻き爪を伴う嵌入爪.手術 第60巻 第4号 461~466,2006

田畑伸子 ほか: 新しい形状記憶合金製矯正器具による陥入爪の治療.皮膚科の臨床50(4);491~496,2008

マチワイヤー23Gの注射針で爪に穴を開ける

マチワイヤー2マチワイヤーを装着する

onceclipONCE CLIPを装着

onceclip3

onceclip4外れないように絆創膏で固定しても良いです.しかし側爪郭まで貼ると、爪甲によって爪郭部も圧迫されて痛みが引かないので注意.

 

陥入爪の治療・フェノール法

炎症性肉芽を形成するなど、疼痛が強く保存的な治療法がなかなか奏功せず、早期の治療を希望する場合はフェノール法がよく行われます。Baran&Dawberの教本をはじめ、内外の皮膚科の教本ではフェノール法が取り上げられています。ただ、後に述べるように東先生などフェノール法に対して否定的な意見の爪の専門家もあります。
小生自身もフェノール法を行っていませんので、文献的に教本をもとにその方法、メリット、デメリットを書いてみたいと思います。
できうれば、爪の専門家の先生方によるディベイトがなされ適応の選別、より妥当なガイドラインの統一がなされればと感じます。

【フェノール法の適応】
陥入爪は局所所見から第1期:軽度の発赤と炎症  第2期:発赤が増強して排膿がある 第3期:炎症性肉芽の形成がある
3期に分類されます。フェノール法はいずれにも可能とのことですが、やはり2~3期の重症例で、ガター法などの保存的治療法に抵抗するもの、爪の幅が広く構造上爪郭の皮膚に食い込む例、早期の回復を望む例などに限るのがよいと思われます。
肉芽の増殖が著明で爪甲の上を覆うだけではなく爪甲下にも深くいり込んでいる例、爪の辺縁のみが直角あるいはそれ以上に巻き込んでおり、硬くなって保存的な矯正が効かない例などは良い適応となります。
ただし、糖尿病などの感染しやすい人では要注意ですし、虚血肢などの末梢血行不良な人は適応外となります。
【手術手技】
詳細は成書にゆずり、簡単に記してみます。
エピネフィリンを含まない1%塩酸リドカイン(キシロカイン)などの麻酔で、伝達麻酔を行います。
ターニケット(駆血帯)、ゴム手袋などで阻血状態が保てる最小限度に駆血します。
モスキートペアンで爪と爪母皮膚の間を剥離して、形成剪刀で爪の側縁を縦に2~3mmの幅で切り込みます。
爪母の先端は扇型に側方に広がっているので、切り離した爪をペアンで深くつかみ、回しながら欠けないようにゆっくり引き抜きます。爪母の先の取り残しの欠けがないように鋭匙で掻きだします。
液状フェノール(88%以上のもの)を綿棒につけ、爪母、爪床、および肉芽を均一に圧抵します。
爪母上皮が白色に変色するように処理します。1回の圧抵時間は5~20秒で次々に取り替えて、トータル3~4分くらい圧抵します。耳鼻科用の細い綿棒を5~10本程度使用します。
終了したら、すぐに無水エタノールでフェノールを中和します。
抗生剤軟膏、ガーゼなどで創部を保護します。フェノールは鎮痛効果もあるために術後の疼痛も少なくてすむといいます。
毎日、洗浄、抗生剤軟膏処置で2~4週間程度で創部は治癒します。
【フェノール法の利点】
・短期間で、根治的に治癒させうる。
・操作が比較的に簡便である。
・感染を伴っても施行できる。
・肉芽の増殖が著明でも手術時に同時に処理できる。
・フェノールに鎮痛効果があるために、ほとんど鎮痛剤は不要。
・運動選手でも数日で運動が可能。
【フェノール法の欠点】
・浸出液が数週間続くためにガーゼ交換、保護が必要。
・痛みのある伝達麻酔が必要。
・爪甲の幅が狭くなり、整容的に問題になる。
・いずれ側爪郭が肥厚してくる。
(荒川謙三: 皮膚臨床52(11)特:50;1591-96,2010)
それ以外にも、術後の感染、創部の不適切な後処置で創治癒が遷延することがあります。
長期的には爪の取り残しによって側縁から細い爪が再発するケースもあります。
また爪母が傷つけられるために爪が曲がって再生したり、変形した爪がでてくることもあります。
(このようなケースの写真はマチワイヤーを開発した町田英一先生のwebsiteで症例提示がされています。)

また、フェノール法に対しては否定的な見解を持つ専門医もあり、その意見を引用します。
「フェノール法や手術法で側縁を切除して部分抜爪する際の問題としては爪母の取り残しや表皮のう腫の形成がある。
爪甲の幅が狭くなるので整容的には見劣りのする醜悪な爪になる。この方法の最大の欠陥は爪甲と側爪郭の連続性を断つことにある。爪甲は後爪郭、側爪郭と爪下皮の4辺により下床に固定されているのであるが、両側の側爪郭部での爪甲との連絡が断たれると爪甲は後爪郭の1辺のみで固定されることになる。その結果下からの強い力が加わった時に爪甲はその力に抗することができずに足趾先端が上方へ押し上げられ、厚硬爪、鉤彎爪となり痛みを伴い、運動機能の低下をもたらすことになる。」(東 禹彦:長文につき一部省略、抜粋)。東先生は「昔は私も随分、手術、フェノール法を行ったが、今はやりません。10年以上先のことを考えて施術を行う必要があります。」と述べられていました。

「陥入爪の本態は誤った爪の切り過ぎ、深爪や爪折、爪外傷等による爪の先端、側縁、爪刺による異物反応であり、爪母が原因ではない。「爪母に罪はない!」したがって、従来行われているフェノール法、爪母爪郭切除術や爪母のレーザー焼灼術等の爪母を破壊する侵襲的、非可逆的治療は、不必要かつ有害な過剰治療であることを強調したい。侵襲的治療の予後は、短期的予後の経過観察では良いように思えても、長期的予後では狭くなった爪幅で体重を支えるため、十数年を経過して、変形・疼痛・歩行困難をきたすことになる。そのために、後悔や喪失感、抑うつの訴えも多い。一度手術を受けて小さくなった爪に、後日爪の狭小化による痛みが出ても、患者は諦めてしまい、再度最初の手術医を再診することはない。このことはあたかも術後の痛みのない状態が永続しているような誤った印象を術者に与えていると考えられる。事実多くの術後の爪の狭小化による変形や痛みで受診する患者を多くみている。・・・」(新井裕子ほか)

「フェノール法の合併症を防ぐには爪甲の片側のみに行うようにすることと、切除する爪甲の幅をあまり広くしないことである」「陥入爪の再発を繰り返す患者は、爪甲の幅が足趾の幅に比べ、著しく広いことが多いので、フェノール法によって幅を狭くすることも有効ではないかと考えている。しかし適応となる例は少なく、当科で治療した陥入爪194例中フェノール法施行令は8例のみである。」(原田和俊)

Luc Thomas et al Chapter 12 Nail Surgery and Traumatic Abnormalities p. 612
Baran & Dawber’s Diease of the Nails and their Management, IV th ed. 2012 John Willy & Sons,

和田 隆 : 陥入爪 486ー491 皮膚外科学 日本皮膚外科学会 【監修】 秀潤社 2010 東京

荒川謙三: 5 陥入爪・巻き爪 1)手術療法 皮膚科の臨床:52(11)特:50;1591~1596,2010

新井裕子、新井健男、Eckart HANEKE: 5 陥入爪・巻き爪 3)陥入爪の簡単、確実な保存的治療法(アクリル固定ガター法、人工爪法、アンカーテーピング法) 皮膚科の臨床: 52(11)特:50;1604~1613,2010

東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで 金原出版 第7版 2013 東京

陥入爪オペ陥入爪手術後10数年たったもの

鉤彎爪となっている