月別アーカイブ: 2015年3月

EGFR阻害薬の皮膚障害ー治療

1. ざ瘡様皮疹
毛包や脂腺の細胞が強く障害されていて、似てはいるものの、ニキビそのものではないので、早期から炎症を抑えるために強めのステロイド外用剤を使用します。ニキビにはステロイド外用剤は禁忌なのですが、ここが治療の方針で一番異なる点です。出来るだけ早期に治療を始め、炎症を軽く抑え、瘢痕、色素沈着を避けることを目指します。
顔でもストロングからベリーストロングクラスのステロイド外用剤を使いますが、2~3週間後には離脱を図ります。長く使用するとステロイドざ瘡や酒さ様皮膚炎などの副作用が前面に出てくるためです。
Grade3以上の重症な場合にはステロイド剤(プレドニン10~20mg/日程度)内服も考慮されます。
毛包の角化抑制、脂腺の活動抑制効果を期待してアダパレン(ディフェリン)も併用し、これは炎症が収束してからも使用を継続します。
また皮疹がが高度であったり、躯幹などにも生じるなど広範囲である場合は、二次感染や好中球遊走抑制効果を期待してミノサイクリン100mg/日内服も行います。
2. 乾皮症
EGFR阻害薬によってエクリン汗腺や脂腺が障害され、発汗機能や皮膚バリア機能が障害されるために大なり小なり乾燥肌は出現してきます。1〜2ヶ月のうちに四肢を主体に乾皮症を生じ、痒みを伴い掻破痕を残したり、湿疹化してきます。初期から予防的にヘパリノイド軟膏や尿素クリーム、白色ワセリンなどの保湿剤を使用することによって症状が軽度になることが認められています。湿疹化したり、痒みが強い時はステロイド外用剤や抗ヒスタミン剤が適応になります。
ざ瘡様の皮疹が軽い時には脂漏性皮膚炎様の発疹を生じますが、この際も保湿剤あるいはケトコナゾール外用剤で様子をみます。
生活指導、皮膚障害予防の前提として、スキンケアが重要です。スキンケアの3原則は保清、保湿、保護の三保です。皮膚を清潔に保ち、皮膚に潤いを与え、紫外線や外的刺激を避けることが重要です。洗浄は必要ですが、強く擦ることは却って敏感になった皮膚に刺激を与え皮膚症状を悪化させます。
3. 爪囲炎、陥入爪
1〜2ヶ月後に生じてきます。通常の陥入爪と違って荷重部位でない指趾にも生じます。爪母、爪床、側爪郭の障害、角化異常がベースにあるので、微小な傷でも原因になりますし、再燃し易いです。これらの皮膚障害の中で最も治療に難渋しますし、患者さんのQOL(quality of life)を損ねます。浸出液が目立つようならば
、優しい洗浄やガーゼ保護などを行います。爪囲炎に対しては、ストロングクラスのステロイド外用剤を使用し、ミノサイクリンの内服も行います。二次感染が強いならば、セフェム系やニューキノロン系の抗生剤を併用します。陥入爪に対してはテーピング法、綿花やソフラチュールの爪下への挿入、アクリルガター法などを行います。
テープなどで押さえる後処置を行えば、くい込んだ爪をカットするのも実用的な方法とのことです。(清原先生による)
高度で難治性であればフェノール法などの外科処置も必要な場合もあるとのことです。
肉芽腫に対しては、液体窒素による凍結療法、電気焼灼、レーザー、ステロイド外用剤と圧迫療法などが行われています。

普段の生活指導やスキンケアなどの実践は医師のみでは困難で、治療に関わる薬剤師、看護師、理学療法士、家族などによるチーム医療、ケア、サポートが重要です。
分子標的薬の皮膚障害は抗癌効果が良好な例ほど重症になる傾向があり、薬剤の吸収率や血中濃度、組織内濃度によることがわかってきました。すなわち、皮膚障害を上手くコントロールしながら、抗癌治療を継続できれば患者さんにとって大きな治療効果を発揮できるということです。

参考文献

清原 祥夫:分子標的治療薬による皮膚障害.皮膚疾患最新の治療. 編集 瀧川 雅浩 渡辺 晋一 南江堂 2013-2014 pp25-29

松浦 浩徳:分子標的治療薬の皮膚症状とその対処法.皮膚科の臨床52(3);289~296,2010

磯田 憲一:分子標的薬皮膚障害対策2014.WHAT’S NEW in皮膚科2014-2015-Dermatology Year Book. 宮地 良樹 編 メディカルビュー社,2014 pp86-87

分子標的薬皮膚障害対策マニュアル2011 第62回日本皮膚科学会中部支部学術大会 三重大学医学部附属病院 皮膚科・薬剤部 発行

黒い爪をみたら

千葉市医師会講演会での大原國章先生の講演の要旨です。
黒い爪をみたら、次の5つの疾患を考える必要があります。
1)悪性黒色腫(Malignant Melanoma: MM)
2)爪甲色素線条
3)Bowen病
4)血腫
5)感染症
中でも一番見落としてはいけないのが、悪性腫瘍なかんずく悪性黒色腫(MM)であることはいうまでもありません。それを中心に述べます。
1)MMはメラノサイト(色素細胞)の癌で、皮膚だけではなく、粘膜にも爪にもできます。それ以外の部位にも体中に色素細胞は存在します。脳軟膜、眼(脈絡膜や結膜)、消化管、肺にも生じ得ます。
その病型は次の4型に分類されています。
◆結節型黒色腫(nodular melanoma)・・・結節性の隆起病変としてみられ、周囲に色素斑を伴いません。厳密には真皮内病変から側方へ広がる表皮内病変は、側方表皮突起の3つ以内に留まるものとされていて、これに当てはまる例はほんのわずかです。大部分は側方進展の少ないALMかSSMです。
◆末端黒子型黒色腫(acral lentiginous melanoma: ALM)・・・身体の末端、とくに足底に生じるMMのことです。臨床、病理的に”ほくろ”に似ていることから命名されましたが、黒子という言葉自体が個々人によって受け取り方が異なるために曖昧さが残ります。斑状局面として発症し(in situ melanoma)色むらを有し、大きく不規則になって、次第に浸潤性になっていきます。日光の刺激が関与しないこと、局所的に多発する傾向があることなどが、他の型と異なります。
◆表在拡大型黒色腫(superficial spreading melanoma: SSM)・・・色素斑として発症し、結節に進行するタイプですが、発症年齢がやや若く、躯幹、下肢に多く、部分消退する点が他のものと異なります。
◆悪性黒子型黒色腫(lentigo maligna melanoma: LMM)・・・高齢者の露光部、特に顔面によくできる色素斑で、長いシミのin situの時期を経て、浸潤癌となっていきます。発症の早期は小さなシミなので、老人性色素斑と紛らわしく、レーザー治療などを受けるケースもあります。まだらで、色調にも青みや灰色など多彩なのが老人性色素斑と違うところです。
◇爪の母斑、黒子
病理学的に定義すれば、母斑細胞の存在するものを、母斑(nevus)といい、単にメラニン色素沈着したものを黒子(lentigo)とよびますが、実際は爪は簡単に生検できないために、見た目では褐色~黒色の色調で境界明瞭なものが母斑、灰色調でややぼんやりしたものが黒子と考えればよいと思います。
◆爪のメラノーマ(MM)
本題の爪のMMですが、中年に多いですが、20代、30代の若年者にもみられます。男女の性差は無し、手:足=2:1です。拇指、拇趾に好発します。
当初は1本の色素線条として始まり、次第に帯状に拡大するとともに、櫛の目のように複数の筋を生じさらに、爪全体が灰色~黒色の色素沈着をきたします。
線条の色の濃さは必ずしも良悪の決め手にはならず、メラノーマでも薄いものもあります。
むしろ、1本の色素線条の幅や色の変化(幅が不整で輪郭がぼんやりしている、根本で太く先で細くなる、逆に太くなる、途中で断絶している、色調に濃淡がある)、爪が縦に割れている、などの変化がMMを疑わせる所見です。
爪周囲の皮膚にも色素沈着(Hutchinson’s sign)がみられることがあります。
爪下皮(爪の先端の皮膚)27%、後爪郭10%、複合(前後、または側爪郭など)63%とういう割合だったそうです。(大原先生の70例の内訳)ただ、色素の染み出しがあるといかにも浸潤癌のようで、後に述べるように指切断などの治療がなされてきた歴史がありますが、かならずしも深部にまで浸潤しているというサインではないそうです。
櫛の目様、バーコード様の線条で、大小の幅があり、それぞれに色の濃淡があっても、1本1本が直線で線条同士の間隔が一定であれば、良性と考えます。一方、背景がぼんやりしたり、個々の線条が一定、整でないものはメラノーマを疑います。
指の色素斑は対側の同指と比較すると爪甲の背景の色の違いがはっきりとして黒色部分だけでなく、その周囲の微妙な色調の違い、広がりも見分けがつき易いとのことです。病側の爪のバックグラウンドのかすかな灰色、赤茶色の変化も見られることがあります。
幼小児の色素線条は、爪そのものの写真だけをみると非常にメラノーマに似ています。むしろメラノーマの像と区別がつかないこともあるそうです。写真だけ見せられると、メラノーマとしかいいようがないものもあります。7,8歳くらいまでの発症ならば、拡大、濃色化してもいずれプラトーに達して自然消滅していくそうです。当日、8歳で発症、14歳では爪全体が真っ黒くなるまで拡大、25歳でほぼ消退してきた例をみせてもらいましたが、よほどの自信と信頼関係がないととてもこういう対応はできないと思ってしまいました。(クロノロジーでは1歳から19歳までみて、やっと薄くなった爪の写真がありました。10歳頃の爪は真っ黒です。ちなみにこのような症例を海外で発表するととても驚かれるそうです。自分たちの国ではこんなに長く通院してくれない、日本の患者は忍耐強い、医師との関係性が素晴らしい、とのことです。大原先生なればのことなのでしょう。
また、別の症例では、17歳の頃、右中指に細い褐色線条ができたのが徐々に拡大し、49歳時は幅6mmとなり、53歳時、大原先生の初診時は幅8mmの黒褐色で爪のおよそ半分が真っ黒です。ただ、染み出し、爪甲の変形はなく、黒色斑より5mm離して骨膜直上で爪組織を全切除し、足底からの分層植皮で被覆したとのことです。視診通りにin situのメラノーマでした。(末節骨は骨膜がなくても遊離植皮は生着することがわかっているので現在は骨膜も切除するそうです。)
このような緩徐に進むケースでは患者さんが20-30代で受診したら、悪性と診断するのは困難だったろうとのことです。
「本例の観察からわかることは、爪の黒色腫の進展は年余にわたる緩徐なものである。良・悪の診断に迷うときは経過観察も許される。早期病変の外科治療は保存的でよいということです。黒色腫といえども、病理学的にin situの症例では、小範囲切除で完全治癒を望めます。切断などの不必要な過大な手術は行うべきではありません。」
このように、10代のメラノーマの発症例もあり、その後の発症は要注意です。就学以前の爪色素線条は特別なもののようです。当然判断のむずかしい例もあり、大原先生も「その場合には生検して病理を確かめるか、厳重かつ定期的に(半年とか1年ごととかに)経過を観察するべきです。」と述べています。
ただ、小さな生検では悪性の診断が困難だったり、大きければ爪に傷跡が残ります。
爪メラノーマの病変がどの程度進展していくか、大原先生の統計ではin situ(表皮内)病変57%、表皮より下方に浸潤したもの32%、骨まで浸潤したもの10%ということでした。先生の施設は他院からの紹介が多いために一般よりも進行したケースが多いとのことです。
浸潤の深さの判断は意外と難しいそうです。べっとりと黒いシミが爪囲に広がっていても、色素斑だけであればほぼin situ(表皮内)病変のことが多いそうです。逆に骨へのわずかな細胞浸潤だけだと、CTやMRIやX線などの画像診断でもはっきり判らないそうです。
浸潤が骨まで達していたら指は切断しますが、末節で切除するよりも中手骨の1/3位の部分で切除したほうが、見栄えも、機能的にも良いそうです。QOLを考えれば、膝下、肘下の切断は良くないそうです。
良性の色素線条を長期間観察していくしかないかというと、レーザー治療が良い適応になるそうです。ただし、初期のin situ melanomaと区別のつかないような色素線条に対しても適応になるのか否かについては、今後の検討事項とのことです。
◆爪のBowen病
爪にもBowen病ができることがあります。爪の側縁に色素線条がみられ一見メラノーマ様です。しかし、側爪郭にささくれや疣状のざらざらした角化病変を伴うことが特徴です。基本的にメラノサイトの病変ではなく、表皮角化細胞の癌化ですので爪床に角化、疣、たこ様の変化がみられます。指先から爪の下を覗くと角化性の変化が見られます。爪が下から押し上げられて、爪甲剥離をきたすこともあります。
◇爪甲下出血
急に出現することが、メラノーマや色素線条との違いです。爪白癬などで爪が厚くなり靴などの外力で微小出血ができたりします。黒い爪が出血かどうかは、その部分を削り、潜血反応をみるテープで調べることができます。
ただし、注意すべきは、これは出血があるかどうかを調べているのであって、その元の病変を判断しているのではないということです。極端な場合は元にメラノーマがあって、そこから出血しているケースもありえますので、根本の病変を見逃さないことが肝要です。
◇感染症
緑色爪は緑膿菌による爪の感染症ですが、カンジダ菌の混合感染もあります。この場合も爪は緑色から黒っぽい色に変わります。当然適切な感染症に対する治療を行えば治癒していきます。

参考文献

1)大原 國章.メラノーマのすべて(1)病型・臨床型 Visual Dermatology Vol.13 No.9 2014

2)大原 國章.メラノーマのすべて(2) Visual Dermatology Vol .14 No3 2015

3)大原 國章.皮膚疾患のクロノロジー 秀潤社 2012

黒い爪をみたら(前段)

昨日、千葉市医師会の講演会がありました。講師は元虎の門病院皮膚科部長の大原國章先生です。
大原先生の講演はもう恒例となった感があります。いつも期待に胸弾む講演です。こんな素晴らしい講演なのに、今回は他の講演会も重なったためかやや少な目の出席数でした。
今回のお題は「黒い爪をみたら」という演題です。
ご想像の通り、悪性黒色腫(メラノーマ)がメインのテーマでした。メラノーマについてはこのブログにも何回も書いていますが、常に新しいことを教えられます。というか、実際の治療に携わっていないと永遠に本体に近づけないことを痛感させられます。
講演に先立って、先生のVisual Dermatologyに書かれた「メラノーマのすべて(1)、(2)」を読みかえしました。悪性黒色腫に対する治療はここ数年いままでに類をみないほどの変革をとげつつあります。国立がんセンター中央病院皮膚科医長の山﨑先生の言葉を借りれば
「・・・陸上トラック競技にたとえれば周回遅れに等しい欧米と日本の差は、最近のオールジャパンでの治療開発のための力の結集の結果、数年後には欧米諸国に追いつこうという目標が夢物語ではなくなった.現在、追いかけていく欧米の後ろ姿を我々はしっかりとらえることができているのである.PD-1を発見したのは京都大学の本庶佑先生であり、trametinibを創製したのは京都府立医科大学の酒井敏行先生と日本たばこ産業株式会社である・・・皮膚悪性腫瘍に携わるものとして、いまほどやりがいのある時代はない.・・・」
分子標的薬のブレイクスルーの時代にあって、大原先生は本の執筆にあたって、「メラノーマのすべて、と銘打つ割には最新の遺伝子、染色体の話題や、分子標的薬などの治療が抜けていると叱られるかもしれません.・・・これから10年、20年経ってから評価が定まり、標準化されるでしょうが、この2015年という時点においてはまだ確立され、一般化されたとは言い難い気がします。・・・」と述べています。また「もっと正直にいうと筆者は”生ける伝説”から”歩く化石”になりつつあり学問の進歩についていけないのが実情です.・・・」と謙遜されています。しかしよく考えてみると最新治療はいわば初期治療でうまくいかなかった、初期治療をすり抜けた後の治療であって、治療の要諦はいかに初期に的確に診断して、再発無く治療するかにかかっています。
すなわち、最も肝要な部分は将来に亘っても大原先生の実践されてきた部分であろうかと思います。
それで、先生の当日の講演の要旨を文献1)2)3)を参考にしながら書いてみたいと思います。
前置きが思いのほか長くなったので本文は次回にしたいと思います。

ずっと、断片的なメラノーマの記事を書いてきたものの、まとまった全体像は書いてきませんでした。
これを機会に後日、自分の知識を整理するための悪性黒色腫の体系的な調べをしてみたいと思います。

1)大原 國章.メラノーマのすべて(1)病型・臨床型 Visual Dermatology Vol.13 No.9 2014

2)大原 國章.メラノーマのすべて(2) Visual Dermatology Vol .14 No3 2015

3)大原 國章.皮膚疾患のクロノロジー 秀潤社 2012

EGFR阻害薬の皮膚症状

分子標的治療薬の種類は多く皮膚症状も多彩ですが、代表的なものはEGFR阻害薬によるものです。
まず、それについて記載してみたいと思います。
【EGFR阻害薬】
上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)は多くの悪性腫瘍で過剰に発現しています。EGFRは細胞膜貫通分子であり細胞外成分と細胞内成分から成りますが、受容体の細胞内のドメインがチロシンキナーゼ自身である場合が多いそうです。
EGFやTGF-alphaなどの増殖因子がEGFR細胞外ドメインに結合すると二量体を形成して細胞内のチロシンキナーゼATP結合部位にATPが結合し、自己リン酸化が起こり癌増殖シグナルが細胞核へと伝えられ、癌細胞の増殖が起こります。
低分子のチロシンキナーゼ阻害薬は細胞内のチロシンキナーゼ触媒領域のATPポケットに入り込んでキナーゼ活性を阻害します。一方高分子の抗体医薬は細胞内に入り込めず、細胞外からEGFRの働きを阻害します。作用点は各薬剤で異なるものの、このグループはEGFR受容体からのシグナル伝達を標的としているという点においてはほぼ共通の作用を持っているといえます。従って、皮膚障害も同様なものがみられます。
皮膚ではEGFRは表皮基底層その上層、皮脂腺、汗腺などの付属器に多く発現しているためにそのシグナル伝達が阻害されると、それらの関連部位、器官の障害が生じるとされます。代表的なものはざ瘡様皮疹、脂漏性皮膚炎、乾皮症、皮膚乾燥症、爪囲炎、陥入爪などです。その他に毛髪の変化、色素異常などもあります。放射線療法を受けた部位は付属器が`drop-out`するために症状が避けられます。
現在、日本で使われているものには以下の薬剤があります。
イレッサ(gefitinib)・・・非小細胞肺癌
タルセバ(erlotinib)・・・・非小細胞肺癌
タイケルブ(lapatinib)・・・乳癌 (EGFR and HER2 dual kinase inhibitor)
アービタックス(cetuximab)・・・大腸癌
ベクティビックス(panitumumab)・・・大腸癌
【皮膚障害】
1.ざ瘡様皮疹
顔面のみならず、頭部、躯幹の特に脂漏部位にざ瘡様の発疹がみられます。毛孔一致性の紅色丘疹ですが、個疹が大型で痛みや灼熱感を伴うこと、痒みを伴うこと、面皰を作らないことなどが通常の‘ニキビ‘とは異なります。それで、米国では丘疹膿疱性皮疹(papulopustular eruption)とよんで‘ざ瘡様‘と区別しているようです。軽症の場合は落屑と紅斑のみの脂漏性皮膚炎様の症状を呈しますが、重症になるとケロイド形成、色素沈着にいたります。
通常分子標的薬使用後数日内に出現し始め、1~2週間でピークに達します。
重症度:
Grade1:体表面積の10%以下を占める紅色丘疹、膿疱。
Grade2:体表面積の10%~30%を占める紅色丘疹、膿疱で社会心理学的な影響を伴う。
Grade3:体表面積の30%以上を占める紅色丘疹、膿疱で日常生活動作の制限、経口抗菌薬を要する。
Grade4:体表面積の30%以上を占める紅色丘疹、膿疱で日常生活動作の制限、静注抗菌薬を要する広範囲の二次感染。
2.乾皮症、皮膚そう痒症
EGFR阻害薬によって、エックリン汗腺や脂腺が障害され、発汗機能、皮膚バリア機能が低下するために乾燥肌が起きてきます。約1/3の人に用量依存性に生じるとされます。1~3ヶ月後に四肢に多く生じます。手足に亀裂を生じると強い疼痛を伴います。
重症度:
Grade1:体表面積の10%以下を占めるが、痒みや紅斑は伴わない。
Grade2:体表面積の10%~30%を占める乾皮症で、痒みや紅斑を伴う。手足の亀裂を伴う。
Grade3:体表面積の30%以上を占める乾皮症で、痒みや紅斑を伴う。手足の亀裂が高度で日常生活に支障をきたす。
3.爪囲炎、陥入爪
EGRF阻害薬によって、すべての爪の部位が障害を受けます。爪囲炎は特に爪母への障害、角化異常による爪甲の軟化、爪郭の皮膚に生じる微小な傷が原因になっていると考えられています。基本的には無菌性ですが、二次的に細菌感染、真菌感染を伴うこともあります。通常投与2ヶ月後より生じてきます。
重症度:
Grade1:軽度の発赤、腫脹。
Grade2:発赤、腫脹によって痛みを生じる、爪の陥入に伴い肉芽形成も認める。
Grade3:発赤、腫脹によって強い痛みを生じ、高度な肉芽形成を認め日常生活に支障をきたす。
4.その他の症状
毛の変化が生じます。毛髪は成長が遅くなり、脱毛、縮毛などを生じます。睫毛は長く硬くなり縮毛となり眼に入り込み結膜炎、角膜炎を起こします。眉毛も長く伸びてきます。白毛の報告もあります。
時に光線過敏症、その後の色素沈着をみることがあります。特に色黒の人では顕著になり易いです。

参考文献

清原 祥夫:分子標的治療薬による皮膚障害.皮膚疾患最新の治療. 編集 瀧川 雅浩 渡辺 晋一 南江堂 2013-2014 pp25-29

大槻マミ太郎:分子標的薬の基礎知識. 皮膚科の臨床52(3);275~287,2010

松浦 浩徳:分子標的治療薬の皮膚症状とその対処法.皮膚科の臨床52(3);289~296,2010

磯田 憲一:分子標的薬皮膚障害対策2014.WHAT’S NEW in皮膚科2014-2015-Dermatology Year Book. 宮地 良樹 編 メディカルビュー社,2014 pp86-87

分子標的薬皮膚障害対策マニュアル2011 第62回日本皮膚科学会中部支部学術大会 三重大学医学部附属病院 皮膚科・薬剤部 発行

Macdonald et al. Cutaneous adverse effects of targeted therapies. Part 1: Inhibitors of the cellular membrane. J Am Acad Dermatol. 2015;72:203-218.

ブログの休眠

よんどころない事情で電子カルテを買い換えることになりました。4月中旬に切り替えますが、その準備が意外と手間取りそうなことが、Xデイが近づいてくるに従って、わかってきました。
それでしばらくブログの更新はおろそかになりそうです。

某土木作業員兼山岳ガイドのディープな山のブログの常套句を拝借すれば・・・

「日々多くの方々にアクセスいただき、ありがとうございます。
電子カルテ切り替えのため、四苦八苦しています。そんなもんで、またまた更新テキトーになります。」

分子標的薬とは

分子標的薬とは、と大上段に構えた表題を書きましたが、そこですでに躓いてしまいました。教本を読んでみても膨大すぎて何だかよく解らない、これって全部の悪性腫瘍の話でしょう。普段癌患者なんか診ない小生には無理です。それだけかと思っていたら、自己免疫疾患などにも、更にはアルツハイマー病などの脳神経疾患にも、生活習慣病にも使われるのだとか。
しかも、分子標的薬の種類も低分子のキナーゼ阻害薬、高分子のモノクローナル抗体医薬に分けられるそうです。
それだけでも一杯一杯なのに、更に核酸医薬とかいうものがあって、アンチセンスやsiRNA(small interfering RNA)など遺伝子発現の最上流を操作する医薬も将来は有望視されているのだそうです。
これはまさに現代医学の本丸みたいな領域で、何にも知らないでのこのこと宮殿の王様に会いに行ったようなものです。
すごすごと引き返してきました。
ただ、これだけ公言して何も書かないのも癪なので、知ったかぶりのことを調べてごく大まかなことを書いてみます。

分子標的薬がこれ程隆盛を極めてきたのは細胞の増殖や、機能を司るシグナル伝達系の分子が次々と明らかになってきたからだそうです。そして分子生物学の基礎研究成果がすぐさま治療に応用されるように(トランスレーショナルリサーチ)なってきました。各製薬会社が研究開発に凌ぎを削っている分野です。下世話な言い方をすれば一山当てれば莫大な利益が転がり込む分野です。(乾癬やリウマチ疾患における生物学的製剤の開発のスピードと世界のトップ製薬メーカーの寡占状態は以前ちょっと書きました。)

従来の抗癌剤と分子標的薬との違いは、大雑把にいうと、従来の抗癌剤はDNAやRNAなどに働き、生きた細胞を無差別的に殺す(細胞毒)のに対して、分子標的薬はピンポイントで癌の増殖、分化、アポトーシスなどに関わる標的分子に作用して抗癌効果を発揮するという点です。
近年癌細胞のシグナル伝達経路が明らかになってきて、この流れは更に加速されるようです。近い将来には抗癌剤の7割以上を分子標的薬が占めるそうです。

分子標的薬は大きく、低分子のキナーゼ阻害薬と高分子の抗体医薬を中心とする生物学的製剤に分けられます。これらの分類、関係は複雑ですが、分かり易い図がありましたので拝借しました(図1)。この図の中で核酸医薬は将来有望な分野だそうですが、現在はまだその途上にあるそうなので割愛します。
低分子化合物、生物学的製剤についてその特徴は次のようです。

・・・・・・低分子化合物 ・・・・・・生物学的製剤
……………………………………………………………………
分子量—————–低分子————————高分子
標的分子—————細胞内分子———————細胞膜表面や細胞外分子
剤型——————-経口薬など———————注射薬
特異性—————–やや低い———————–高い
コスト—————–比較的安価———————高価
量産——————有機合成で容易——————細胞培養などを要し困難
命名—————— -nib,-tinib —————— -mab, -cept

なお、各薬剤の一般名は、ゲフィニチブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)、セツキシマブ(アービタックス)、ソラフェニブ(ネクサバール)などと舌をかみそうな複雑な名前ですが、この語尾には一定の意味、法則があるそうです。覚えておくと便利、何かの役に立つかもしれません。
キナーゼ阻害薬は kinase inhibitor ⇒ -nib (ニブ)
チロシンキナーゼ阻害剤は tyrosine kinase inhibitor ⇒ -tinib (チニブ)
高分子モノクローナル抗体は monoclonal antibody ⇒ -mab (マブ)
受容体型融合蛋白は受容体(receptor)から一部をとって ⇒ -cept (セプト)
このように語尾をみることで、その薬剤の大よその分類が判る仕組みになっています。
さらに、モノクローナル抗体は抗体の可変(V)領域がマウス由来のキメラ抗体の場合は-ximab、ヒト型化されたものは-zumab、完全ヒト型化されたものは-umabと命名されます。
ちなみに乾癬でおなじみのInfliximab(レミケード), Adalimumab(ヒュミラ), Ustekinumab(ステラーラ)もこの法則に従っています。

この錯綜する分子標的薬の癌細胞に対するターゲットがどこか、どういうシグナル伝達経路のどの部分に作用しているのかなど、本をみてもほとんど理解できません。
教本に書いてあることの項目を上げてみました。これらのどこかに単独に、あるいは同時にいろいろな標的に効いて、抗がん作用を発揮するということです。

1)腫瘍そのものをターゲットにする薬剤(図2を参照)
・腫瘍細胞に直接作用して細胞死を誘導する・・・キナーゼ阻害剤
・腫瘍の表面マーカーに結合して、ADCC(抗体依存性細胞障害)を誘導する
・腫瘍の増殖因子を阻害する
・細胞障害物質を導入する
2)腫瘍を取り巻く栄養血管をターゲットにした薬剤・・・Tie2 ligand, VEGF, Integrinなど
3)腫瘍によって誘導された抑制的な免疫状態を改善することによって抗腫瘍効果を期待する薬剤

上記のように分子標的薬は多くの種類があり、それぞれに皮膚障害が生じますが、その発生パターンは種類によって特有のものがあるそうです。
ただ、以前の抗がん剤の副作用と一寸違うのは、抗がん効果の良好な例程皮膚障害が強くでる傾向にあるということです。皮膚障害にうまく対処しながら抗がん剤治療を続けられれば、効果が期待できるものともいえます。

次回は特徴的な皮膚障害と薬剤、その対処法などについて調べてみたいと思います。

参考文献

1)大槻マミ太郎: 分子標的薬の基礎知識.皮膚科の臨床 52(3); 275~287,2010

2)小宮根 真弓: 分子標的薬の現状と展望 分子標的薬:これからの展望.日皮会誌 124:2281-2290,2014

分子標的薬 (図1)文献1)より

分子標的薬2 (図2) 文献2)より