月別アーカイブ: 2015年8月

虫による皮膚疾患(5)日本紅斑熱

日本紅斑熱は、ツツガムシ病と非常によく似た臨床症状を呈する紅斑熱群リケッチャ感染症です。この群の感染症はロッキー山紅斑熱や地中海沿岸のボタン熱などのように世界各地に風土病として多く存在することが知られていましたが、日本では長い間存在しないとされてきました。ところが、1984年徳島県阿南市でツツガムシ病に類似した3症例が馬原によって報告されました。後にこれが新しい紅斑熱リケッチャと判明し、病名が日本紅斑熱、原因菌がRickettia japonica(Rj)と命名されました。
本症はRjを有するマダニ(キチマダニ、ヤマアラシチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニ、タカサゴチマダニなど)に刺されることによって発症します。
リケッチャとは偏性細胞寄生性の細菌で1-4μmの球状ないし桿状、連鎖状の形状を示し、ウイルスなどと同様に単独で増殖できず、宿主の血管内皮系の細胞内で増殖します。近年は16SrRNA塩基配列の違いにより、発疹チフス群、紅斑熱群、つつが虫群、エールリキア群の4群に分類されています。本邦での発症頻度からいくと上位はツツガムシ病(年間報告数400例程度)と日本紅斑熱(年間200例程度)が占めています。
【疫学】
春先から晩秋(4月~11月)にかけて千葉県以西の太平洋沿岸の温暖な地域からの報告が多いです。しかし、疾患が知られるようになってきたこと、診断技術の進歩などにより、近年は福島、岩手、青森などからの報告もあり今後更に広い地域からの発症、報告が予想され、ツツガムシ病の発症地域と重なってくると思われます。夏から秋の報告が多いとはいえ、発症時期も重なっていますので両疾患の鑑別が重要になってきます。
以前は年間100例以下の報告数でしたが、ここ200例と数年急増しており、未報告例を含めれば1000例以上はあるものと思われています。
【臨床症状】
本症の方がツツガムシ病よりもやや重篤な経過をとる例が多い傾向にあります。
マダニ刺咬後2~10日の潜伏期の後、頭痛、悪寒戦慄、高熱をもって急激に発症します。全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などを伴います。リンパ節の腫脹はあまりありません。急性期には40度を超える弛張熱があり、重症例では稽留します。発熱とともに指頭大までの紅斑、丘疹が四肢末端、顔面から始まり中枢へと拡大します。手掌、足底の紅斑は数日で消退します。重症化例では出血性となり、紫斑を生じます。紅斑は1,2か月後も色素沈着として残ります。
マダニによる刺し口は90%でみられますが、ツツガムシの刺し口と比べてやや小型で5~10mmと赤い硬結を生じ明確に刺し口と判定しづらいことがあります。肝機能障害は必発で、重症化すると痙攣、意識障害、心筋炎、脳炎を生じ、ショック、腎不全、DIC、多臓器不全などにより不幸な転機をとることもあります。
【検査・診断】
白血球は増加せず、好中球の左方移動があり、CRP高値、血小板減少、肝機能異常などがみられます。血清クレアチニン値は重症化とよく相関します。
診断確定は、Rjの検出ですが、保険適応の検査はなく、各県の衛生研究所などへ依頼することになります。間接免疫ペルオキシダーゼ法(IPA)、間接蛍光抗体法(IFA)などによります。但しIgMは急性期にはまだ上昇せず、IgGは回復期に上昇します。それで臨床的に疑った時点で治療を開始することが重要です。刺し口の組織を用いたPCRの遺伝子診断が最も確実ですが刺し口が明瞭でない場合もあります。その際は紅斑部、全血によるPCRも有用ですが、それぞれ30%,60%と感度がおちます。
【治療】
ミノサイクリン、またはドキシサイクリン200mgの点滴、ないし内服を1~2週間行います。馬原は自己の経験例の蓄積から一日の最高体温39度以上の症例では「テトラサイクリン系を第一選択とし、重症例ではニューキノロン薬との併用療法を行う」ことを薦めています。小児ではアジスロマイシン単独、併用で奏功したとの報告もあります。ただ、第一選択薬がテトラサイクリン系薬剤であることは論をまたず、最適な治療方法については今後の症例の蓄積をまたねばならないところです。
ツツガムシ病と同様にβーラクタム系、アミノグリコシド系薬剤は無効です。ニューキノロン系薬剤はツツガムシ病には無効ですので注意が必要です。
早期に治療を開始すれば、概ね予後は良いですが、治療が遅れると重症化することもままあります。
【予防】
日本紅斑熱はツツガムシ病と異なり、マダニによって媒介されます。それで、先のブログに述べたマダニに対する注意が必要ですが、とにかく野山で寝転がらないこと。ダニのついている衣服を持ち込まないこと、入浴で入念に洗い流すことが肝要です。

参考文献

馬原文彦:日本紅斑熱の発見と臨床的疫学的研究. モダンメディア. 54:32-41,2008

田中 厚 山藤栄一郎:ツツガムシ病、日本紅斑熱、ライム病. 日皮会誌:119(12),2329-2337, 2009

高垣謙二:新・皮膚科セミナリウム●見逃してはならない皮膚感染症(2) 日本紅斑熱とつつが虫病.日皮会誌:124(9),1739-1744, 2014

以下の写真は亀田総合病院皮膚科の田中 厚 先生のご厚意によるのものです。

図1紅斑熱1 日本紅斑熱の刺し口 注意しないと見逃す程小さい

図1紅斑熱2 日本紅斑熱の刺し口 ツツガムシ病の刺し口

図1紅斑熱3a 日本紅斑熱の紅斑、紅色丘疹 ツツガムシ病に比べて末梢に目立つ

図1紅斑熱4 日本紅斑熱 手掌、足底にも紅斑がみられるが、数日で消退してしまう

 

虫による皮膚疾患(4)ツツガムシ病

ツツガムシ病はリケッチャの一種であるOrientia tsutsugamushi がダニの一種であるツツガムシに媒介されて起こる感染症です。
【ツツガムシとは】
ダニ目ケダニ上科に属する非常に小さなダニでケダニともよばれます。卵からかえった幼虫は体長0.2~0.3mmで多くは野ねずみなどに吸着します。幼虫は一生に一度だけ温血動物から栄養を吸い取らないとその後成長を続けることができません。人が吸着されるのは、たまたま野ねずみなどに吸着できなかった幼虫による場合のみです。人がツツガムシ病に罹るのは吸着した幼虫が親譲りの病原体を持っていた場合ですが、その頻度は全体の0.1~2%程度とされます。一度吸着した幼虫は二度と温血動物に吸着することはなく、また成虫(体長約1.5mm)も吸着することはありません。
日本には多くの種類のツツガムシがいますが、病原体となるものはアカツツガムシ、フトゲツツガムシ、タテツツガムシの3種です。アカツツガムシは秋田県雄物川、山形県最上川、新潟県信濃川、阿賀野川などの流域の河川敷に生息し、昔から有名で夏に多く、古典的ツツガムシ病を媒介します。
1948年に富士山麓で演習中の米軍兵士が熱病で倒れ、検査の結果タテツツガムシ媒介によるツツガムシ病とわかり、アカツツガムシ以外でも発症することがわかり新型ツツガムシ病と呼ばれるようになりました。フトゲツツガムシは北海道の南半分以南沖縄を除く全国に生息し、春と秋に発生します。タテツツガムシは東北中部から西南日本を中心に伊豆諸島にも生息しており、秋の発生が多いです。後者では草原、耕作地、日当たりの良い果樹園、潅木地帯などでもみられます。ツツガムシの幼虫は気温が10度以下になると活動できなくなるため土の中で越冬し春になると活動し始めます。
ツツガムシ病は日本の風土病のように思われがちですが、韓国、東南アジア、南太平洋、オーストラリアなどでも発症があります。
特に韓国での報告は多く、2006年には6420人の患者が報告されました。日本では未報告例を含めれば毎年1000人以上の発症があると考えられています。
近年はアカツツガムシによる古典型の報告はみられなくなりましたが、秋田などで残存している可能性はありなお注意は必要です。
【伝染経路】
幼虫は温血動物が発する炭酸ガスを頼りに地面に出て、人が地面に腰を下ろしたり、寝そべったりすると偶発的に人に取り付きます。衣服の間から1分間に3~4cmの速さで移動して皮膚の柔らかいところに吸着します。虫の好む部位は陰部、内股、脇の下、胸の下、下腹部などの湿って柔らかい部位ですが、幼児では被髪頭部などにも取り付きます。
【吸着から発症まで】
吸着したツツガムシはクチバシから唾液を出し入れしながら数時間かけて人の体液を吸います。蚊やマダニと違って吸血はしません。病原体が人の体内に入るためには6時間以上かかります。アカツツガムシでは吸着部を逆撫でしたり衣服で擦れるとチカッとした痛みを感じることがありますが、それ以外では自覚症状はほとんどなく、0.2mmと非常に小さいために、気づくことはまずありません。幼虫は吸着後3日程度で脱落します。病原体がない場合は吸着後1~3日後痛痒を伴う紅色丘疹を生じ次第に軽快します。伊豆諸島や南西諸島のナンヨウツツガムシでは激しい痒みを伴う皮疹を残します。
病原体があれば、吸着2,3日後に水疱ができ、その後膿胞となります。10日目頃には周りが赤く腫れた10~15mm程度のカサブタ(痂皮)となり、いわゆる「刺し口」となります。刺し口は8割以上の症例でみられます。この頃から発熱などの症状が出始めます。
【臨床症状】
発熱時の症状はインフルエンザ様、腎盂炎様で、38~40度の高熱が持続します。また全身倦怠感、食欲不振、強い頭痛、筋肉痛を伴います。2日目頃より体幹部を中心に2~5mm程度の紅斑、丘疹が多発してきます。辺縁が不明瞭で淡い暗赤色を呈します。全身に出現しますが、躯幹、四肢中枢部に多いのが特徴で、日本紅斑熱との違いになります。紫斑を生じることもあります。5日目頃には消退していきます。刺し口近くのリンパ節は腫脹します。眼球結膜充血、咽頭発赤、リンパ節腫脹もみられます。
診断がつかず重症化した例では、髄膜脳炎、感質性肺炎、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全などで死亡することもあります。
【診断】
発熱、発疹、刺し口が3主徴ですが、確定診断は血清抗体の測定によります。
間接蛍光抗体法(IFA)や間接免疫ペルオキシダーゼ法(IPA)という方法を用いてIgMの上昇やペア血清によるIgGの上昇で検査します。
1~2週間間隔をおいて、抗体価の上昇を確認します。Kato,Karp,Gilliam型は標準型で保険適応ですが、これだけでは診断できないケースもあります。その際はKuroki,Kawasaki,Shimokoshiなどの新しい型の検査が必要となります。
Kato型・・・アカツツガムシ
Karp,Gilliam型・・・フトゲツツガムシ
Kuroki,Kawasaki型・・・タテツツガムシ
但し、血清学的診断に使われている精製抗原には、56kDa蛋白以外の株間共通の抗原蛋白も存在しているので、複数の株に対して抗体価が上昇することが多いです。それで近年は刺し口などの組織からのPCR法による遺伝子診断もなされています。

【治療】
テトラサイクリン系の抗生剤が第一選択薬です。ミノマイシン200mgの点滴静注などを十分期間(2週間程度)行います。クロラムフェニコールも有効です。アジスロマイシンも有効です。
但し上記抗生剤を3日続けても解熱など軽快傾向がない時は、ツツガムシ病以外の疾患も考える必要があります。
ペニシリンをはじめとするβーラクタム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系の抗生剤は無効です。
【予防】
最大の予防は虫の生息地に近づかないことですが、
・特に生息地の野山、河川敷では素肌を出さない、
・帰宅したら衣類は室内に持ち込まず、すぐ洗濯する、
・帰宅したら速やかに入浴し、吸着しやすい部位を特に念入りに洗い流す
ことが重要です。虫除けスプレーは一定の効果はあるものの過信することはできません。

参考文献

ツツガムシ病ーWikipedia

つつが虫病に注意しましょう! 秋田県公式Webサイト 美の国あきたネット

笠井達也: ツツガムシ病 皮膚病診療 :19(5); 457~460,1997

田中 厚 山藤栄一郎: ツツガムシ病、日本紅斑熱、ライム病. 日本皮膚科学会会誌:119(12),2329-2337,2009

高垣謙二: 見逃してはならない皮膚感染症(2)日本紅斑熱とつつが虫病. 日本皮膚科学会会誌:124(9),1739-1744,2014

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎を起こす虫とその生態/臨床像・治療・対策 夏秋 優 著 秀潤社 2013

 

 

 

 

虫による皮膚疾患(3)マダニ

ダニ類は節足動物門クモ網ダニ目に属します。その中で本来は哺乳動物や鳥類に寄生して、さらに人からも吸血する吸血性ダニにはマダニ類、ツツガムシ類、トゲダニ類(イエダニ、トリサシダニ)などがあります。また吸血性ではないものの人を刺すツメダニ、シラミダニがあります。ヒゼンダニは疥癬といって人から人に伝染するもので、老人ホームなどで集団感染を起こしたりして問題となります。室内塵や食品類の中に生息して、アレルゲンとして問題になるチリダニ類(主に表皮ダニ類)やコナダニ類も人に健康被害を及ぼしますが、吸血はしませんので、吸血性ダニによるダニ刺症は起こしませんので混同しないように。
ここではマダニについて取り上げてみます。
マダニ刺症は野外活動などで、ヒトから吸血したもので以前から稀なものではありませんでした。しかし、2013年に国内でも重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombo-cytopenia syndrome: SFTS)の発症が話題となり、症例はごくわずかながら致死率が高いためにマスメディアなどでもとりあげられ、注目を集め受診患者が急増してきました。
【マダニの種類】
本邦で、マダニ刺症の原因となるマダニは約20種類いるそうですが、代表的なものはマダニ属のヤマトマダニ、シュルツェマダニ、 キララマダニ属のタカサゴキララマダニ、 チマダニ属のキチマダニ、フタトゲチマダニなどがあります。その分布には地域差があり、関東、中部地方以北ではシュルツェマダニ、ヤマトマダニ、近畿地方以南ではタカサゴキララマダニ、フタトゲチマダニが多いそうです。
幼虫、若虫、成虫と成長していきますが、いずれも吸血します。幼虫は1mm以下、成虫は2~3mmとなります。吸血すると大きくなりますが、タカサゴキララマダニのような大型のマダニでは吸血すると大きくなり中には10mm以上にもなることもあります。5~10日吸血を続けると飽血して自然に脱落します。ギザギザな口下片を皮膚に刺入しますが、唾液腺に麻酔作用があり刺されたことを自覚しません。
【刺される状況】
主に山林内のササ類や山間部の草地に生息し、野生のシカやイノシシ、ネズミなどに寄生します。人が近くを通るとそれを察知し、素早く衣服などに付着し、皮膚を這い回って適当な部位に咬着し吸血します。タカサゴキララマダニは近年、里山の雑木林などで分布を拡大しており、幼虫は下草などに多数集まって待機しているそうです。野外レジャーなどで人が足を踏み入れると多数の個体に咬まれる恐れがあります。寄生部位は下腹部、陰部、大腿内側が多いですが、背の低い幼児には耳や頭部などにも咬着します。
【マダニの除去】
飽血して自然に脱落するのを待つという手もありますが、なるべく早期に除去するのが感染症などを考えると無難です。マダニは口下片(のこぎり状の口器)を皮膚の真皮内まで刺入して周囲をセメント物質で固めているので無理に引っ張ると口下片がちぎれて皮膚内に残り異物肉芽腫を形成します。また押しつぶすと内容物を人体に注入することになるのでよくありません。確実なのは局所麻酔後にメスで皮膚ごと虫体を摘出することです。鋏で口下片の辺りを開き、攝子で採取する方法(馬原法)もあるそうですが、手技が難しいそうです。2,3mmのパンチでくり抜けばその後の糸での縫合は不要とのことです。
エタノールで軽く圧抵した後攝子でとる方法、Tick-twisterという器具(ペット用)で捻じってとる方法もあるそうですが確実ではありません。
簡単な方法としてワセリン法(夏秋法)があります。虫体が完全に覆いつくされるようにべっとりと塗り、マダニの気門を塞ぎ窒息させます。約30分後にワセリンをふき取ってマダニの口器付近を攝子で掴んでゆっくり引き抜きます。咬着すぐであれば成功率は高いそうです。シュルツェマダニは当日、タカサゴキララマダニは1,2日、フタトゲチマダニだと数日以内だと可能だそうです。夏秋先生はバターを代用して成功したことがあるそうです。
【予防法】
マダニを避ける確実な予防法はマダニの生息地に近づかないことですが、レジャーなどで生息地に分け入る場合には、できるだけ肌を露出させないこと、寝転がったりしないことが必要です。ディート配合剤の虫除けスプレー(忌避剤)は一定の効果があるそうです。
帰宅後は風呂場で腋窩、陰部、太腿、下肢など柔らかい部分に虫がついていないかを注意深く確認しておくことも大切です。
【マダニが媒介する感染症】
代表的な疾患として、ライム病(シュルツェマダニ)年間10件、日本紅斑熱(フタトゲチマダニなど)年間180件があります。まれに野兎病があります。ツツガムシ病 年間400件
これらについては、後日書いてみたいと思います。
近年は海外旅行などで全世界のしかも山野に行く人もありますので現地の医動物の感染症の情報は確認しておいたほうが良いでしょう。北米ではライム病は多くありますし、オーストラリアの東海岸には神経毒を有するマダニもいます。クイーンズランド紅斑熱というリケッチア感染症も媒介するそうです。
さらに、2013年にはSFTSが報告され、マダニ刺症が大きな話題となりました。
【SFTS】
重症熱性血小板減少症候群と呼ばれます。
過去に当ブログでも取り上げましたのでそれも参照して下さい。
2009年中国湖北省および河南省の農村地域で高熱と血小板減少を生じる感染症が報告されSFTSと命名されました。そしてその原因がブニヤウイルス科フレボウイルス属に属する新規のウイルスでSFTSウイルス(SFTSV)と命名されました。これはフタトゲチマダニなどから分離されマダニが媒介動物であると考えられました。
2013年1月に海外渡航歴のない日本人患者に同様の症状の患者が発症し(死亡)、血液からSFTSVが分離されました。但し、日本で見つかったウイルスは中国のものと遺伝子が若干異なっており、最近中国から入ってきたものではなく、以前から日本にあったものと考えらえています。
その後、散発的に同様の症例がみつかり患者数は極少ないものの致死率が6.3~30%と高いことよりマスメディアで取り上げられて大きな話題となっています。
(最近の中国の統計によると当初の30%の致死率よりも低い6%程度とされています。)
ダニ刺症の中でSFTSを発症する割合は極めて少ないので発熱、発疹、消化器症状がなければパニックになることはないと思います。
詳細は厚労省、国立感染症研究所発表の報告書に随時掲載されていますのでそちらを参照して下さい。
京都、三重県以西の西日本で発症しており、5月が最も多く、4月から8月が多く報告されています。2015年7月現在では報告数139,生存例100,死亡例39,死亡患者の平均年齢は74歳で体力の弱い高齢者が多いようです。
地域では四国、南九州からの報告が多くを占めています。
地域別のマダニのウイルス保有状況、シカ、犬、イノシシの抗体保有状況は山口県感染症情報センターの日本地図が解り易く参考になりますが、これによるとマダニのSFTSVの保有は全国に広がっていることがわかります。

診断はSFTSVの分離によりますが、臨床的な定義は以下のようです。
1.38度以上の発熱
2.消化器症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、下血など)
3.血小板減少(10万/mm3未満)
4.白血球減少(4000/mm3未満)
5.AST,ALT,LDHの上昇
6.他に明らかな原因がない
7.集中治療を要する/要した、または死亡した

残念ながらウイルスに効くワクチンや薬剤はなく、症状を和らげたり、全身症状を改善する対症療法になります。

参考文献

夏秋 優 Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策

夏秋 優 ワセリンを用いたマダニの除去法 臨床皮膚科 68巻,5号(2014年4月)pp 149-152

和田 康夫 ダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群 臨床皮膚科 68巻,5号(2014年4月)pp 146-148

マダニ1

マダニ2

マダニ3

マダニ南房総6月ー胸.jpg

 

穂高へ

夏季休暇をとって、久しぶりに山に行ってきました。ずっと晴れていたのに、山の2日間は雨、その前後は晴れと山の天気の気まぐれに恨めしい気がしました。
それでも、やっぱり山は、特に穂高はいい山です。天気が悪く、山に不慣れな家族も同伴のために、奥穂高の頂上は断念してしまいました。
上高地から梓川沿いにゆっくり歩きながら、明神、前穂、北尾根などを眺めながら進んでいきました。森の小径に入ると、空気も澄んで、心地よい気持ちでした。
その日はゆっくりと歩き、横尾で泊まりました。何回も通った道ながら、泊まったのは初めてでした。食事の前にお風呂にどうぞ、といわれたのにはびっくりでした。山小屋といっても半分は観光地の延長のようなものでしょうか。食事も宿屋のようでした。
翌日は雨の中を涸沢まで上り、ザイテングラードを奥穂高小屋まで登りました。雨の中ながら、小さな花が可憐に咲いていました。
ゆっくり登りながら、昔登った屏風岩、前穂高、滝谷などを同行者に説明しているとその頃の情景もよみがえってきます。あの頃は、夏の岩に、氷雪のジャンダルムや滝谷に、雪の明神、北鎌尾根にと青春のエネルギーを注ぎ込んでいました。当時の思い出は甘酸っぱく自分にとっては宝物です。
つい、昔はよかった、と過ぎ去った過去の自慢話口調になるのは老人の常套句かと我ながら苦笑いです。
山小屋の張り紙に書いてありました。ここのところ、山の遭難が増えています。気をつけましょう。特に多いのは60代の人、経験10年以上の自称ベテラン、単独行の人とありました。将に自分のことを指摘されているかのようでした。
こんな所、簡単に行ける、もっと動けるはずと思っていても、思いとはうらはらに体は動かない、といった悲しい現実があります。
歳とともに、登り方が違ってくるのも当然です。昔はあまり目にも留めなかった高山植物などを眺めながらの登山となりました。

河童橋2 四峰

北尾根 チングルマ

塩釜 トリカブト

キキョウ 黄色花2

虫による皮膚疾患(2)トコジラミ

トコジラミはカメムシ目トコジラミ科に属する昆虫で、俗にナンキンムシと呼ばれています。世界中の温帯を中心に広く蔓延しています。戦中、戦後は多く蔓延していましたが、殺虫剤の発達で1970年代には激減しました。しかし10数年前から増え始め、近年は殺虫剤の効かないスーパーナンキンムシの出現も相俟って爆発的に増加しています。
増加の要因としては、上記の他に、人の移動が増え海外から持ち込まれる機会が増えたこと、低所得者用の格安宿泊施設が増加したこと、中古・レンタル家具の流通が増加したことが挙げられます。
成虫の体長は約5~8mm、幼虫は体長1~4mmで、1〜3ヶ月の間に5回の脱皮をして成虫となります。全ての幼虫が吸血します。黄褐色で空腹時は扁平ですが、吸血すると濃血色になり、筒状に膨れ上がります。
至適温度は22~27度で3月から11月までが活動期です。冬季は休眠状態になりますが、寿命は1〜2年とされます。吸血して生存しますが、飢餓に強く175日も飢餓に耐えたという報告もあるそうです。
夜行性で、昼間は人目につきにくい所、壁や柱の割れ目、押入れの裏側、タンス、引き出しの底裏、隙間、畳裏、ベッドなどに潜んでいます。ホテルではベッドの隙間、絵の額縁なども要注意です。一般的にトコジラミは古い家屋や不潔な所に生息するといった誤ったイメージがありますが、高級ホテルでも旅行者が持ち込めば定着しますし、そこからスーツケース、衣類などに付着して家庭内に持ち込めばまたそこで増えます。
就寝中に住処から這い出してきて主に露出部を刺咬します。それで四肢、顔、首などが好発部位となります。虫によっては気まぐれで、あるいは人が動くと刺し口を変える為に複数の刺し口がみられることがあります。夏秋先生が自身の皮膚で実験したところ、吸血時間は7~27分で平均15.4分、吸血中の刺しかえ行動は1回のみが9、2回、3回がそれぞれ2、6回、7回もの刺し替え行動をした虫もあったそうです。
【症状】
皮膚症状はトコジラミが吸血する際に注入する唾液腺物質にたいするアレルギー反応で生じるために、刺された回数、体質で出方が大きく異なってきます。
夏秋先生の実験では、1~3回目までは無反応、4回目以降は毎回反応がでたそうです。
すなわち、初回刺されても無反応です。数回刺されて、あるいは刺されて一定時間が経過してアレルギーの感作が成立すると遅延型アレルギー反応が起こります。この遅延時間は60時間から9日間といわれています。出張先、海外のホテルで宿泊してから1週間程度もたってから皮疹が出現してくると(自発的な誘発:spontaneous flare up)、因果関係がはっきりせず、原因不明の虫刺され様発疹とも診断されることにもなります。アレルギー反応の経緯は蚊の際に示したのと似たようなステージを辿ります。すなわち、最初は無反応、次いで遅延型の反応が起こり、吸血されて1~2週間後に皮疹がでます。次いで頻繁に吸血を受けていて即時型の反応が出現する体質の人であれば、吸血の直後に痒みを伴う蕁麻疹、痒疹も出現するようになります。多数のトコジラミが生息する室内で被害を受けた場合は広範囲に紅斑、紅色丘疹などを認めます。ホテルなどで一晩だけ被害を受けた場合は、全ての皮疹がほぼ同時に出現し、同様の形態、経過をとりますが、室内にトコジラミが生息して頻回に刺される場合は新鮮な皮疹と治癒過程の色素沈着などが混在して見られます。更に簡易宿泊所などで慢性的に刺され続けていると皮膚反応が減弱してくることもあります。
実際当院の患者さんでも簡易宿泊所に住んでいて、虫もいて、刺される人も多くいるとのことですが、本人は四肢に色素沈着と褐色調の小丘疹を散在性に認めるのみで比較的平気な方もいます。
【診断】
虫を確認するのが一番ですが、先にも書いたようにホテルなどで刺された場合はその時には症状がなく、しばらくたってから発疹がでるので原因は推定しかできません。室内で継続的に刺される場合は虫を確認することが重要です。以前にも書きましたが、虫が炭酸ガスに引き寄せられることを利用して、ドライアイスなどでおびき寄せる方法もありますが、夏秋先生によると人肌が一番とのことです。その方法は簡単で暗くして20分間寝ていて、パッと電気をつけて虫を確認する方法だとのことです。名づけて「うそ寝作戦」。次いで住処を発見することですが、先に述べたように、引き出し、ハンガー掛け、絵画、ベッドなどの木材の隙間や畳の隙間、障子の両面、カーテンの裏側などが注意すべき個所です。更に参考になるのは住処の近くにある大工さんの糸墨をはねたような黒いシミです。これは虫の脱糞の跡です。
【対処法】
虫を殺すことは非常に困難だとのことです。うそ寝作戦などで虫をおびき出し、ティッシュでしらみつぶしに殺していくことも有効とのことです。殺虫剤ですが、現在は大半のトコジラミがピレスロイド系殺虫剤に抵抗性を獲得していますので、一般的な家庭用の殺虫剤での駆除は困難です。現在唯一効果があるのはカーバマイド系(プロポクスル)の殺虫剤だそうです。商品名バルサン待ち伏せスプレー。但し、室内全面に撒いても無駄なだけで、トコジラミの通り道に集中して撒く必要があるそうです。
それでも無理な場合は専門の業者に頼むのが無難です。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎を起こす虫とその生態/臨床像・治療・対策 夏秋 優 著 秀潤社 2013

特集 環境生物による皮膚炎 皮膚科の臨床 Vol.54.No3 March 2012

追記
トコジラミの対処法、業者などはネットに多く記載がありますが、ペスト(厄介者、人に危害を加える生物)の防除を行う業者をPest control operator (PCO)と呼ぶそうです。PCOの業界団体である社団法人日本ペストコントロール協会には全国で約900社が加入しPCOの技術者の養成やダニ分離同定の実習などを行っているそうです。必要性があれば連絡をとって見られたら如何でしょうか。
またYou Yubeの英語版ですが、Bed Bug Basics: 10 Tips to Protect Yourself というビデオは参考になるかと思います。

以前のブログも参照してみて下さい。
トコジラミ(南京虫) 2012.7.17
スーパー南京虫 2013.2.12

南京虫1 サウナの簡易ベッドに寝ていて翌日急にかゆくなった。1匹虫を見つけた、とのこと。

南京虫2

虫による皮膚疾患(1)

「虫による皮膚疾患ートコジラミ刺症、マダニ刺症を中心にー」という夏秋 優 先生の講演がありました。皮膚科随一の虫博士で、多くの人が出席していました。ご本人も全部話すのなら4〜5時間必要とおっしゃる通り1時間の講演時間はあっという間に過ぎてしまいました。本人の著書にあるように、根っからの昆虫少年だったそうで、それが高じて、というかそのままの延長で自然に虫博士になっていかれたようです。写真が好きで、全国の山野を駆け巡り、虫を観察、収集し、それでも飽き足らず、自宅にトコジラミを初めとして各種の虫を飼育し、自分自身の皮膚で刺されて実験、観察しているとのことで病膏肓(?)と言っては失礼かもしれませんが、とても並みの皮膚科医には真似できません。
それだけに実践に裏打ちされた素晴らしい講演でした。
とても全体の講演内容は書ききれませんが、そのさわりをちょっと。詳しく知りたい人は参考文献として末尾に挙げた著書を購入して下さい、と。(著者に代わって宣伝するのも変ですが。)

【総論】
虫(有害動物)による皮膚疾患の発生様式には、刺咬、吸血、接触、寄生、媒介があります。
動物には昆虫や、昆虫以外の節足動物、節足動物以外のものに別けられます。

発症様式……….昆虫………………………………………….昆虫以外
刺咬 …… ハチ、アリ、サシガメ……………………………….ムカデ、クモ、サソリ
吸血……….カ、ブユ、ヌカカ、アブ、ノミ、トコジラミ………………イエダニ、トリサシダニ、マダニ、ツツガムシ
接触……….ドクガ、イラガ、カレハガ、マダラガ、ハネカクシ………….サソリモドキ、ヤスデ
…………..カミキリモドキ、ツチハンミョウ、ゴミムシ
寄生……….シラミ、スナノミ、ヒトヒフバエ、ヒトクイバエ……………ヒゼンダニ、ニキビダニ
媒介……….カ(糸状虫症)ブユ(オンコセルカ症)…………………….ツツガムシ(つつが虫症)
………….サシチョウバエ(リーシュマニア症)……………………..マダニ(ライム病、日本紅斑熱)
………….ツェツェバエ(アフリカ睡眠病)サシガメ(Chagas病)

◆発症機序
1)刺咬に伴う物理的な皮膚刺激による炎症
2)接触や刺咬に伴う有毒物質の化学的刺激による炎症
3)接触や刺咬に伴う有毒物質や唾液腺物質に対するアレルギー性の炎症
アレルギー性の炎症には即時型反応、遅延型反応があります。
即時型の反応には、5~30分程度で、紅斑、蕁麻疹、痒みなどを生じますが、その中のごく一部はアナフィラキシーといって、ショックを起こしたり、蕁麻疹や腹部症状、呼吸困難などの全身症状を呈し、生命の危険さえ生じうる反応を生じる場合もあります。複数回蜂、ムカデなどに刺された場合はその危険性がありうることに注意すべきです。
遅延型の反応は2回目以降の特異抗原の侵入から24~72時間程度で反応が出現します。
◆虫刺されなどへの初期対応
*蜂刺されでは、ミツバチは毒針に「返し」があり、指でつまむと毒嚢の毒液を皮膚に注入する恐れがあるのでピンセットで除去するか指ではじきます。。アシナガバチ、スズメバチでは毒針は皮膚に残りません。
*ハチ、ムカデなどでアナフィラキシー症状(前掲)が現れた場合は、救急病院への早急な搬送が必要ですが、リスクのある人は「エピペン」(アドレナリン自己注射薬)の携行が勧められています。この両者には交叉アレルギーがあるともいわれています。
*マダニなどの刺咬症では、引っ張ると口器が残るので、ワセリンで虫全体を覆うか、それで取れなければ局所麻酔下に切除します。
*毒蛾、毛虫の毒針毛に触れた場合はテープ類を貼ってそれを除去します。アオバアリガタハネカクシなどの毒液に触れた場合は流水で洗い落とします。
いずれもその後早期に専門医療機関を受診します。
◆虫刺され症状の変遷
蚊刺されを代表としてその変遷を示します。
ステージ1・・・赤ちゃんなど生まれて初めて刺されても無反応です。
ステージ2・・・数回刺されると唾液腺物質に対し、感作が成立し遅延型反応が生じます。
ステージ3・・・更に進み青年期になると、即時型反応がでて、さらに引き続き遅延型反応が生じます。
ステージ4・・・壮年期になると即時型反応のみがでます。
ステージ5・・・老年期になると無反応となります。
この変遷スピードは、個体差や刺される頻度によっても異なりますし、熱帯地方などで常に指されている環境では早く進み、小児期でも無反応の場合もあります。
これは、蚊だけではなく、ネコノミ、トコジラミなどにも当てはまります。
◆診断
虫による皮膚炎の診断は意外と難しいです。ハチやムカデなどの場合は、刺咬の瞬間に激しい痛みがあるので、原因がその場で判明することが多いです。しかし、吸血性節足動物の場合は、吸血時には気がつかないことが多く後で発疹を生じるので「虫刺症」と臨床的には診断ができても、その虫がいないために原因は不明となり易いです。
外来診療の現場では、原因は何ですか、と詰め寄られて推論を述べても患者さんは釈然とせず、納得が得られず(怒って)帰るケースもままあります。ただ、個々の虫によって皮疹の好発部位、被害を受け易い場所、時間帯が存在します。
個々の発疹の形態にも、虫によって特徴はありますが、蚊に刺された後の反応の違いの大きさからもわかるように、個々人の体質、感作状態によって大きく異なります。それで、個々の発疹だけをみて、何虫かを断定することはできません。
参考になる見分けるポイントをいくつか述べます。
*部位・・・ネコノミ刺症は足首付近に、紅色丘疹と水疱を形成し易い、イエダニ刺症は腋周辺や下腹部、大腿、トコジラミは頚部や手足などの露出部に出現しやすいです。また蚊刺されは小児(特に幼児)では強い浸潤を伴う紅斑や水疱を形成し易いです。稀に蚊刺過敏症という特殊な病態がありますが、後述するように一般的なものではありません。
*ブユ・・・体長2~5mm程度の小さな吸血昆虫です。朝夕に行動することが多く、刺された部位は軽い出血点を伴います。山間部の渓流沿いに生息するので、それの問診が参考になります。虫除け剤や電池式蚊取りが有用です。体質によってはリンパ管炎を生じたり、引っ掻き続けて四肢の慢性痒疹を形成することも稀ではありません。
*ヌカカ・・・体長1.2~1.4mmで本州中部、北海道の山地に生息します。多数が集まるためにキャンプなどで被害にあうことが多いです。
主に露出部から吸血しますが、頭髪、衣服の隙間から吸血することもあります。吸血の際はチクチクとした軽い痛みがあります。
*ネコノミ・・・近年ヒトノミ、イヌノミはほとんどみられなくなったそうです。それに比べて野良猫や飼い猫に寄生するネコノミによる被害は近年増加傾向です。ノミの幼虫は庭や公園の土中、室内の畳の下、床の隙間などで成長します。野良猫を介して庭、草むらのネコノミが衣服に付着し室内に持ち込まれるケースがみられます。下腿の発疹(紅斑、水疱)が多いですが、室内で繁殖していると上肢や体幹部にまで発疹がみられます。強い痒みがあり、掻きこわして二次感染を起こすこともあります。
*トコジラミ・・・近年海外からも持ち込まれ、宿泊施設などでの蔓延が問題になっているものです。各論で詳述しますが、頚、四肢などの露出部を夜間睡眠中に刺されます。吸血中に口器を差し替えるために狭い範囲に紅斑や紅色丘疹が多数みられる場合もあります。
露出部の虫刺されで蚊やブユやノミなどが否定的な場合は本症を考える必要があります。
*イエダニ・・・体長0.7mmで主にドブネズミに寄生します。ねずみの巣から移動してヒトからも吸血します。特にねずみが移動したり、死亡したりしていなくなると吸血対象がなくなるために、床下、天井裏などからイエダニが一斉に移動してきて激しくヒトを襲います。一戸建ての古い家や長屋などが多いですが、倉庫、食堂、学校などでも被害にあうことがあるそうです。
6~9月の被害が多いそうです。
トリサシダニ、スズメサシダニは戸袋などに鳥の巣があったりして、雛が巣立って鳥がいなくなると吸血対象を求めて人を襲います。
これらは夜間就寝中に侵入し、寝具の中にもぐり込んで軟らかい部位を選んで刺します。下腹部、腋の周辺、大腿部などに好発します。
被覆部の虫刺されは同症と判断しますが、基本的にダニは室外の発生源なので燻煙型殺虫剤での室内の燻煙は効果がないです。
*食品害虫であるコナダニ類、室内塵中にみられるチリダニ類(ヒョウヒダニ類)とイエダニを混同しているケースが一般人のみならず、医師の間でもあります。イエダニ刺症の疑いのある患者さんにヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニに対する特異IgEを検査して「ダニアレルギーがある」などと説明するのは愚の骨頂
だと夏秋先生は述べています。ヒョウヒダニ類はアレルゲンとしては問題になりますが、吸血性ダニではない、イエダニはねずみに寄生するダニで畳やカーペットには生息していない(屋外に生息する)ことは意外に知られていません。それで無駄な殺虫剤の使用をすることになります。
*マダニ・・・野外でヒトに吸着して吸血するものですが、各論で詳述します。マダニ類の大きさは成虫で2~3mmとイエダニなどとはサイズが異なります。
*ヒゼンダニ・・・疥癬虫のことで、これは人から人へ伝染します。戦後多発したものの、減少していましたが、老人施設や介護施設などで感染が拡がり、現在はある程度定着した感があります。臨床症状としては痒疹丘疹も痒疹結節の形もとりうるので、皮膚科医でも時としてただの虫刺されとして診断、治療が遅れることもあります。指の間、陰部などの丘疹、結節、疥癬トンネルの発見が診断のポイントになります。この疾患も重要ですが、別の機会に述べてみたいと思います。
*チャドクガ(毛虫皮膚炎)・・・幼虫はツバキ、サザンカ、チャなどの椿科の植物の葉を食べます。年2回5~6月と8~9月頃に幼虫が出現します。その後成虫となると6,7月、また10月頃に成虫、蛾となります。(毒蛾皮膚炎はチャドクガと別の種類のドクガによるものをいいます。)
有毒毛は肉眼でみられる長い毛ではなく、黒い隆起部に群生している長さ0.1mmのもので、30~50万本が密生していて、皮膚や衣服に触れると容易に脱落します。眼でみえないので気づかないうちに付着して頚、上肢、体幹などに紅色丘疹を多数生じます。庭仕事、植木などの仕事で生じますが、洗濯物に付着にたものを知らずに着て生じることもあります。

長くなったので各論のトコジラミ、マダニについては次回書きます。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策  夏秋 優 著 秀潤社 2013年