月別アーカイブ: 2015年9月

虫による皮膚疾患(10)ノミ刺症

ノミというと、以前(一昔まえ)はごく普通にみられたものだったように思います。ところが、最近はノミなどみたことありません、とか黒いピョンピョン飛び跳ねている虫がいました、などといわれることもあり、先日もこんな虫がいました、とセロテープにノミをくっつけて持参した患者さんがありました。清潔になった現代の日本からは想像できないかもしれませんが、明治時代に来日し、日本の各地の山々をめぐり日本アルプスを外国に紹介したウォルター・ウエストンの「日本アルプスの登山と探検」という本の装備、食料等についての助言という章の中には下記の記述があります。「最もやっかいなものに、日本人の家で、ほとんど逃れることができない、蚤がある。ときにキーティング製の「殺虫粉」が役立つ。しかし、蚤が異常に腹をすかせていて、向こう見ずになっているときは無駄である。・・・」。隔世の感があります。

ノミ類はノミ目に属する羽をもたない昆虫で雄、雌ともに哺乳類や鳥類から吸血します。世界では2000種類、国内では70種類があるそうです。人から吸血するノミにはヒトノミ、イヌノミ、ネコノミ、ヤマトネズミノミ、スズメトリノミなどがありますが、近年はほとんどのノミ刺症がネコノミによるものです。ネコノミの体長は雄が1.0~2.0mm,雌が2.0~3.0mmで卵、幼虫、蛹、成虫と完全変態します。ネコノミは宿主であるネコの毛の間で10~20日過ごし、その感に交尾し産卵します。卵はネコの寝ぐらの近辺に落ち数日後に孵化します。床や畳や地上に産み落とされ、その付近で有機物を食べて成長し、蛹化します。成虫となったノミはイヌやネコなどに寄生しペットなどの散歩時、あるいは人のズボンなどに付着して家に持ち込まれます。
【症状】
ノミの体長は高々2~3mmですが、跳躍力が強く、約20~30cmのジャンプが可能といいます。それで、皮疹は四肢、特に下腿から足首に多くみられます。但し、室内にネコノミが発生している場合には下肢のみではなく、腕や体幹部にもみられることがあります。
ノミ刺症は、蚊刺症の反応と同様にノミの唾液に対するアレルギー反応によって生じますので、ステージによって、時系列によって反応が大きく異なってきます。
すなわち、初回に刺された場合は無反応、複数回刺されると遅延反応を生じます。次いで蕁麻疹様の即時型反応と遅延型反応を生じるようになり、やがて即時型反応のみのステージとなり、遂には免疫を獲得して無反応になります。
従って、反応には個人差が非常に大きく、被害を受けるのはネコが嫌い、ネコを飼ったことがない人となります。逆にネコが大好きで長年ネコを飼っている人ではネコノミに対する免疫ができていて、無反応ということにもなります。それで、「ネコノミを殺すことを考えるより、ネコノミに慣れ、免疫ができるのを待つのも1つの方法である」というやり方(大滝 倫子)もできますが、これはこれで慣れるまでに辛い思いを繰り返すことにもなります。
外来診察時にみられるのは、主に遅延型反応で中心刺点のある数mmから数cmの紅斑、浸潤性紅斑紅色丘疹、水疱などです。ネコノミでは径1cm以上の大水疱を作ることも稀ではありません。およそ1週間程度で色素沈着を残して治癒しますが、次々に刺され続けると新旧の入り混じった皮疹がみられます。また引っ掻いて膿痂疹となったり、びらんとなったり修飾されることもあります。
国内ではありませんが、アフリカ、中南米ではスナノミがあります。裸足やサンダルなどで歩いていて足趾に寄生されることがありますので注意が必要です。足趾に複数匹寄生して、黒く固い結節を作ったり、二次感染をおこして丹毒や蜂窩織炎を併発したりします。

【治療と予防】
予防としては、ネコに殺虫剤を撒く、殺虫剤を含む首輪をつけるなどがあります。しかし、ネコの生活圏の家屋内にも燻煙型殺虫剤を使わなければ駆除できません。昆虫発育阻止剤ルフェヌロン(プログラム)を定期的にネコに飲ませるという選択肢もあります。
しかし、問題は飼い猫よりも野良猫による被害のほうがはるかに多いということです。実際、ネコノミの症状を有する患者さんではネコは飼っていません、という人のほうが多いようです。ではノラネコは、と聞くと隣の家がネコ屋敷だとか、ノラネコが子猫を生んだとか、庭によく侵入してくるなどのケースがあります。こうなると、ネコノミの駆除も困難になります。
治療としては、強めのステロイド外用剤が有効で、二次感染を起こしているようなら抗生剤も使用します。かゆみに対しては抗ヒスタミン剤を使用します。

参考文献

皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 第22巻・増刊号・2000
大滝 倫子: 虫による皮膚疾患ー治療のポイント pp26-33
大滝 倫子、篠永 哲: 皮膚疾患をおこす寄生虫 pp50-111

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策 夏秋 優 著 秀潤社 2013

虫による皮膚疾患(9)シラミ症

シラミ症にはアタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミがあります。
前2者は形態的に区別がつかず、体長2~4mmの細長い形をしていますが、ケジラミは体長約1mmで幅広く蟹のような形態で主に陰毛にみられ性感染症(STI)としての側面があり、これらを混同しないようにする必要性があります。
【アタマジラミ】head louse (複数形はliceになり、rice 米と間違わないように)
被髪頭部特に後頭部や耳後部に卵を産み付け痒みを生じてきます。患者は幼小児、学童に多くみられます。但し感染から痒みなどの症状がでるまで1ヶ月以上と長くかかります。卵は乳白色で長さが0.5~1.0mm程度の楕円形をしていて、根元がセメント様物質で毛髪に固着しています。一見フケが付着しているかのようにみえますが、虫眼鏡等で仔細にみると卵形をしているのがわかります。抜け殻であっても固着していますので梳き櫛で取ったり、ハサミで取り除かないとずっと残っていることになり、治らないと勘違いすることにもなります。
卵と紛らわしいのがhair castで毛を取り巻くケラチンたんぱく質ですが、白く卵様にもみえます。ただ、これはざらざらして丸くなく、鞘状で指で挟んで引っ張ると容易に毛から抜けます。卵は固着して動きません。卵の多い部分の髪の毛を掻き分けると成虫がちょろちょろと動いてみえることもあります。
虫卵は7~10日で孵化し、約3週間で成虫になります。成虫の寿命は約3~4週間です。成虫は体色は灰色で体長は雌が3~4mm、雄が2mm背腹に扁平ですが、吸血すると赤褐色ないし暗褐色となります。翅はなく、脚は3対でよく発達しており先端に爪がありすばしこく動きます。頭髪に寄生します。
【コロモジラミ】body louse
形態的にはアタマジラミと区別できませんが、生態的に亜種に区別され、こちらは下着など衣類の縫い目に生息します。近年はあまりみられませんが、ときに不衛生な人、ホームレスなどの人にみられるとされます。生息部位近くから吸血するので頚、腰腹部などに痒みのある紅色丘疹、紅斑などを生じます。他の虫刺されと同様に最初はごく軽い症状で、刺咬が続くと1週間後に蕁麻疹、紅斑、丘疹を生じ激しい痒みがでてきます。しかし次第に症状は軽減していき、寄生数、期間が大だと瀰慢性の色素沈着主体の変化に移行していきます(melanodermia phthiriatica pediculis)、浮浪者病。
【ケジラミ】pubic louse, crab louse
英語でcrab louseと呼ばれるように蟹に似た形をしています。体長は0.8~1.2mm頭部は小さく体は幅広く、前脚は細いが、中脚と後脚は発達しています。卵は約7日間で孵化し、13~18日で成虫になります。成虫の寿命は約22日でヒトジラミより短いとされます。虫体は陰毛を両側の爪でつかみ皮膚に頭をつけほとんど動かないので一見褐色の痂皮のようにみえます。口器を皮膚に差し込んだまま間歇的に吸血します。まれに下腹部や大腿部に0.5~1.5cmの青灰色の斑(maculae caeruleae)を生じたり、吸血時の出血やシラミの排泄物で下着に赤さび色の点状のシミがみられます。
多くは性感染症として生じるので陰毛部に寄生しますが、ときには腋窩や体の短毛、睫毛、眉毛にも寄生します。幼小児や女性では頭髪に寄生することもあります。このような場合では家族内感染の可能性が大であり、両親の受診も勧めます。
【疫学】
戦後は衛生状態も改善し、有効な殺虫剤が開発されたこともあって、本邦のシラミ症は激減しました。しかし、1970年代にケジラミ症が、1980年代にアタマジラミ症が増え始めました。
1971年にDDT,BHCが毒性のために禁止されたこと、海外から持ち込まれたことなどによるとされます。近年ホームレスの間でのコロモジラミの流行がみられるということです。コロモジラミは発疹チフス、塹壕熱などの感染症を媒介するとされますが、アタマジラミ、ケジラミが媒介する疾患はありません。
【治療】
成虫と虫卵の除去が必須です。
ピレスロイド系殺虫剤である0.4%スミスリンパウダーやシャンプーが市販されています。これは虫卵には効果がありませんので、1週間で卵が孵化することを考慮して2~3日おきに3~4回繰り返して使用します。1回の使用時間はパウダーが1時間、シャンプーは5分間十分外用した後で洗い流します。用法どおりに使用しても治癒しない場合には殺虫剤に対する耐性も考慮する必要があります。近年はピレスロイド系殺虫剤に耐性を有するシラミが数%みられ、年々増加してきているとのことです。いずれはより高濃度の殺虫剤や他系統の薬剤が必要になることも危惧されます。
シラミの成虫、虫卵は55度以上10分間の処置で死滅するので、アタマジラミには頭周りのタオルやシーツなどの熱湯消毒やアイロン掛けが有効です。コロモジラミでは下着などの衣服類を殺菌、熱湯消毒します。
散髪や剃毛も有効ですが、実際問題では無理がありますし、完璧とはいえません。
【生活指導】
アタマジラミは幼稚園や小学校などで集団発生が起きやすいので、感染拡大防止に努めることが必要です。その際に顕在化した罹患者だけを登校停止にするのは適切ではありません。まだ顕在化していない罹患者を見逃していることもあり得ます。出席停止はむしろある個人のみの不当な差別に繋がることもあります。アタマジラミは「学校伝染病第三種(その他)」であるために出席停止は不必要です。それよりも感染集団で一斉に検診、一斉に治療することが肝要です。
また感染防止のために頭をくっつけたりして遊ばない、櫛、帽子、タオルなどの共用を避ける、などの注意が必要です。
落ちた毛は電気掃除機で丹念に掃除することも必要です。

参考文献

皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 第22巻・増刊号・2000
大滝 倫子: 虫による皮膚疾患ー治療のポイント pp26-33
大滝 倫子、篠永 哲: 皮膚疾患をおこす寄生虫 pp50-111

剱岳

連休を利用して、剱岳に行ってきました。仙人池から下の廊下を目指しました。
いつものように計画性がなく、直前に決めて行ったこともあって、想定外のことだらけの山行となりました。
信濃大町から扇沢までは良かったものの、扇沢で長蛇の列で切符を手に入れるのに1時間も待たされました。ようやく室堂に到着して、さあ今日の泊まりの剱沢小屋まで、と思って歩き始めるとしばらく行って看板があり、剱近辺の山小屋は予約の方のみしか宿泊できません、とありました。いかに最近の山事情に疎いか、露呈した感がありました。がっくりきて引き返し、室堂の山小屋に宿泊を請おうとして財布を捜すと、ない!!呆然としました。運転免許証、カード、現金全てがなくなり、茫然自失です。これでは山どころの騒ぎではない、家に帰ることもできなくなってしまう。一縷の望みをかけて室堂ターミナルに尋ねるとややあって山岳警備隊詰所にそれらしき物が届いている、とのことです。詰所で財布に再会。実に親切な人に拾われたものです。地獄に仏とはこのことです。一時は、カードを悪用されたら、とか運転免許証の再交付とか悪い事ばかり頭をよぎっていました。
返却してもらった上に当日の宿泊のお世話もしてもらいました。
翌日は、室堂から別山乗越、剱沢雪渓を越えて、仙人池ヒュッテまでの長い行程となりました。疲れ果てて到着しましたが、八ッ峰、チンネなどの絶景は目を和ませてくれました。20代の若い頃に登った三ノ窓雪渓からチンネの記憶もかすかに甦ってきました。
翌朝は仙人池に映った裏剱が夜明けとともに、刻々と赤い色に染まっていく様に皆感嘆の声をあげながらシャッターをきっていました。もう紅葉は始まっていましたが、もうしばらくしたらまさに錦秋の裏剱となるのでしょう。この情景に会えただけでもここに来た甲斐がありました。満足して今日はゆっくり阿曽原までとのんびりと降っていくと、なんと仙人温泉小屋から先は通行止めとのことです。ここ数日の晴天でスノーブリッジが極端に薄くなり崩壊の危険があり、架かった梯子もいつ崩れるかもしれないとのことで当日朝8時以降通行止めになったとのことです。つい30分前までの登山者は降りていきました。結局富山県警山岳救助隊からストップがかかり、引き返すことになりました。阿曽原温泉から旧日電歩道を通って欅平までの道は断念せざるを得なくなりました。いつもの年ならばこんなに雪は残っていなくてスノーブリッジの部分に橋がかかるのだそうです。
皆がっくりきて元来た道を引き返していきました。元気な人たちは仙人池を超えて真砂沢方面に下っていきましたが、小生は体力もないし、モチベーションも下がり、仙人池ヒュッテでもう一泊です。昼間からビールをご馳走になりながら山の猛者たちの話に聞き入りました。中には山を続けたくて会社をやめ、自営業を始め、チョ・オユーやマナスル、アマダブラムなどに行きいまだに現役でばりばり登っている還暦のおじさんもいました。剱本峰から北方稜線を辿り、池の平まで軽く来たそうです。コースタイムの7掛けで、休憩なしで10時間以上歩けるそうです。北方稜線はいまやツアーの人気コースで八ッ峰縦走も人がいっぱいいたとのことです。馬場島から早月尾根を剱本峰まで1日で往復するトレランは今や大流行とのことでした。驚くことばかりでした。
翌日は退却行の気分でした。そのまま来た道を戻ろうかとも思いましたが、それも芸がないし、ハシゴ谷乗越を越えて黒部ダムまで引き返しました。若い頃2度ほど通った道でしたが、こんなに疲れて歩きにくい道だったかなーと腰、膝の痛みをかばいながら戻りました。
想定外のことばかりあり、体力の衰えを実感させられた山行でしたが、帰宅してほっとすると剱の素晴らしさがしみじみと湧き上がってきました。

室堂 みくりが池

室堂                     みくりが池

室堂夕焼け 剣本峰

室堂夕焼け                  剱本峰

剣沢雪渓 

剱沢雪渓                   真砂沢テント場

八峰 裏剣

八ッ峰                    仙人池からの裏剱

チンネ

三ノ窓雪渓上部

三の窓雪渓  チンネ登攀2

チンネ登攀 チンネ上部

昔(数十年前)のチンネ登攀

虫による皮膚疾患(8)ヒゼンダニ

無気門亜目、ヒゼンダニ科のダニですが、ヒト以外には寄生せず、人から人に主として接触によって感染します。ヒゼンダニによって生じる皮膚疾患を疥癬といいます。
疥癬は第二次大戦後は、外地からの帰還兵の持ち込み、劣悪な生活環境などにより大発生していたといいます。(例えば東北大学皮膚科の昭和21年の新患患者数約3000名、うち疥癬は1163名)。その後駐留米軍によるDDTやγ-BHCなどの撒布により急速に撲滅されました。昭和50年代急速な経済発展に伴い海外から持ち込まれるケースも増え、再び増加してきました。近年はSTI(性感染症)という側面よりも老人福祉施設などでの、集団感染が多く報告されるようになってきました。
【ヒゼンダニ】
疥癬虫ともいいます。体長は雄約0.22mm、雌約0.38mm、体は卵形で淡褐色です。脚は短く、2対の前脚が角の様に前方にあり、先端に柄のある肉盤を有し、2対の後脚の先端には鞭状の長毛があります。胴背部には短く太い棘があります。ライフサイクルは10~14日で卵は3、4日でかえります。雌のヒゼンダニが皮膚の角層の中にトンネルを掘って卵を産み付けます(約1か月、産卵、2~3個/日)。これを「疥癬トンネル」とよび、手掌、指間、指側面に好発しますが、陰股部、腋窩、臀部、足趾などにも生じます。
トンネルの先端の水疱内には雌の成虫がいます。人の体温が最適で、高熱、乾燥に弱く50度10分で死滅します。
疥癬には通常疥癬と重症型のノルウェー疥癬があります。
【通常疥癬】
<感染経路>
長時間肌と肌が触れることで感染します。そういう意味ではSTI(性感染症)としての側面もありますが、近年は老人病院、介護施設などで患者さんとの接触によるものが多いようです。少し触れただけでは感染しません。患者さんの寝具、衣類などを交換せずにすぐに他人が使用することでも感染することがあります。キャンプなどでの雑魚寝、当直などでの布団の共用などでの感染のケースもあります。通常疥癬の場合は感染から症状のでない潜伏期間が1~2ヶ月あります。
<症状>
通常は疥癬虫の数は数十匹以下です。赤いぶつぶつ、(丘疹)、結節、疥癬トンネルなどが頚から下に出現します。激しい痒みを伴います。腹部、胸部、大腿内側、腋窩、前腕、上腕の屈側などに紅斑や紅色丘疹が散発ないし多発します。介護者などでは前腕を主体にみることもあります。外陰部、臀部、肘頭、腋窩などではこれが大きくなり、結節をつくる傾向があります。また先に述べたように指間などでは疥癬トンネルを作ります。躯幹などの丘疹ではあまり虫はみつかりませんが、結節、疥癬トンネルをメスなどで擦ると疥癬虫を見出す確率が高いです。
<診断>
全体像は湿疹と極めてよく似ています。それで皮膚科医でも当初は診断がつかず、見過ごすこともままあります。まず、疥癬を疑うことが診断の始まりだといいます。皮膚症状と疫学状況などから疑います。同様の症状の人が周りにいないか、老人病院、介護施設などへの入院はないか、勤務はないか、疥癬患者さんとの接触はないか、半年以内の雑魚寝、布団の共用などはないか、ステロイド剤で治療しても却って赤いぶつぶつが増えないか、などなどです。
症状と疫学状況より、疥癬の疑いが強ければ、疥癬虫を探すことが診断の確定になります。顕微鏡検査やダーモスコピー検査などで診断します。
●顕微鏡検査
疥癬トンネル、新鮮な丘疹、結節、水疱などを眼科用のハサミや、メス、ピンセット、注射針などで擦ったり、剥がしたりして鏡検します。ダニ本体や卵、もみ殻様の抜け殻をみつければ、診断が確定します。
●ダーモスコピー検査
近年はダーモスコピーの検査も疥癬の診断に有用なことが分かってきました。疥癬トンネルを仔細に観察すると、虫が通ったあとが、船が通った痕の波の流れのように人字型に見えます。それでこのことを水尾徴候(wake sign)と呼び、疥癬トンネルを見出す時の指標になります。人字の先端部をダーモスコピーで観察すると顎体部と前脚が黒褐色の三角形として、体部は白色~半透明の円形として確認でします。角質などが白くて見えにくい場合はアルコールで拭くと黒点が見え易くなります。
<治療>
内服治療薬と外用治療薬があります。
*内服薬はイベルメクチン(ストロメクトール)を体重に応じて空腹時に行います。イベルメクチンとして体重1Kg当たり約200μgを1回経口投与します。内服後一過性に痒みが増すことがありますし、ダニ死滅後もアレルギー反応で痒みが遷延することもあります。卵には効かないので、重症型や、虫がなお存在する時は、1~2週間後に更に2回目の投与を行います。
*外用薬には以下のものがありますが、現在はフェノトリンローション(製品名:スミスリンローション5%)が昨年より、保険で適用になり、治療の主体となっています。補助的な治療薬として、硫黄剤、クロタミトンクリーム(製品名:オイラックスクリーム)、安息香酸ベンジルなどがあります。
以前は1% γ-BHC(リンデン)が強力な殺虫剤として用いられて非常に有効でしたが、現在はその人体に対する毒性のために使用が禁止されています。諸外国ではこれにかわるものとして、疥癬標準薬としてペルメトリンが使用されています。ピレスロイド系の殺虫剤で高い殺虫効果を持つわりには人体毒性は低く良い薬剤です。日本でも一時導入が検討されましたが、認可されていません(多分微量に含まれるホルムアルデヒドの化学物質過敏症への懸念のため?)。
スミスリンはシラミ駆除の一般用医薬品として、パウダータイプ、シャンプータイプが販売されていますが、0.4%なので混同しないように。スミスリンローションは5%とより高濃度の医薬品で、疥癬専用の外用剤です。1週間間隔で2回頚から下に満遍なく塗布します。特に指間、陰部など念入りに塗り残しがないように塗布します。12時間以上経過した後に入浴、シャワーなどで除去します。クロタミトンは保険適用とはなっていませんが、臨床現場では頻用されています。時に接触皮膚炎をおこすので注意が必要です。安息香酸ベンジルは自家製剤薬で、保険収載薬ではないので同意書を取るなどよく説明が必要です。
【ノルウェー疥癬】
角化型疥癬、角質増殖型疥癬ともいいます。高齢で体力が弱っていたり、重症感染症、悪性腫瘍などの基礎疾患があったり、ステロイド剤や免疫抑制剤などを使用して免疫能が低下している場合に生じます。原因は通常疥癬とおなじですが、通常疥癬が1人の患者さんで1000匹以下なのに対し、ノルウェー疥癬では100万~時には1000万匹にも達するほどの大量のヒゼンダニが寄生します。伝染力もけた違いに強く、患者さんのフケなどの鱗屑でも伝染しますので対応、治療も別物と認識してかかる必要性があります。(逆に通常疥癬で過度にパニックになってノルウェー疥癬のような対応をするのは間違いです。)
<症状>
角化を特徴として、手指や躯幹四肢の骨ばった部位、摩擦を受けやすい部位に極めて厚い灰色から黄白色の汚い鱗屑が牡蠣殻のように付着します。通常の疥癬と異なり、頚から上の特に耳の後ろ、頭部にも生じます。また爪に寄生して厚く混濁、肥厚しまるで爪白癬のようになることもあります。全身が角質に覆われたり、真っ赤になって紅皮症様になり、ときにく水疱も生じます。一般に激しい痒みを伴いますが、逆に全くかゆみを訴えない場合もあります。
<治療>
内服薬として、イベルメクチン、外用薬としてフェノトリンを使用するのは通常疥癬と同様です。しかし1~2週後に再度投与し、さらに虫が残存すれば3回目の使用も考慮します。外用薬の使用では頭部も含め全身に、塗り残しがないようにしっかり塗布します。
<感染予防対策>
感染力が強いので、個室に隔離の上、治療します。介護者、医療関係者は入室の際はガウンテクニックを行います。シーツ・寝具などのリネン類はビニール袋に一括してまとめるなどしてピレスロイド系殺虫剤を噴霧し1日密閉したり、50度10分間の熱湯処理を行います。
患者さんの入浴は最後にし、角質はしっかり洗い落とします。またその後は壁も含め浴槽をブラシなどでしっかり洗浄します。

疥癬は虫が死滅したあとでも、アレルギー反応で数か月に亘ってもかゆみをともなう、丘疹、結節などが残存することがありますので、それをまだ虫がいるとして、殺虫剤、薬を使う必要はありません。むしろ治癒を確認したら、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤などを使用して症状を和らげます。

参考文献

皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 皮膚病診療 増刊号 第22巻 2000

特集 虫と皮膚病 皮膚病診療 Vol.19 No.5 1997

疥癬(かいせん)/皮膚科学関連医療薬品のマルホ
疥癬(かいせん)/疥癬   疥癬のお話 フローチャート/疥癬  疥癬対策マニュアル
【監修】飯島正文 石井則久 大滝倫子

上記のサイトでは国立感染症研究所ハンセン病研究センター センター長 石井 則久先生、赤穂市民病院の和田康夫先生によるビデオでの解説、虫の実際をみることができます。

虫による皮膚疾患(7)ダニ

ダニ類は節足動物部門のクモ網ダニ目に属し、その種類、数は極めて多いです。その同定は医動物、虫の専門家でないと難しいですが概略を述べてみます。 
節足動物は、昆虫類、クモ類、甲殻類、多足類(ムカデ、ヤスデ、団子虫など)に分けられます。
クモ類は体が頭胸部、腹部の2つに分かれ、8本の足が頭胸部から出ます。
ダニ類は卵から幼虫、若虫、成虫へと脱皮を繰り返し、幼虫は3対、若虫、成虫は4対の脚(歩脚)を持ちます。
ダニは世界中に生存しその種類は膨大な数にのぼりますが、人に害を及ぼすものの代表的なものには下記のものがあります。
分類は専門書を参照して下さい。
ダニ目は主に気管系の状態によって7つの亜目に分類されますが人体に害を及ぼすものは以下のものなどです。
【ダニ分類】
無気門亜目
コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニ、ヒゼンダニ
ほとんどのものが雑食性で室内塵や食品中などに生息しアレルギーなどの問題となります。ヒゼンダニは人に寄生し人から人へ伝播するので問題になります。
前気門亜目
ミナミツメダニ、シラミダニ、ホコリダニ、ツツガムシ
捕食性のものが多いです。動物寄生性のものは多くはありませんが、ツツガムシは脊椎動物から刺咬します。
中気門亜目
森林中で自由生活するものもありますが、各種の小動物に寄生するものもあります。
イエダニ、トリサシダニ
後気門亜目
マダニ類

上記のうち、ダニ刺症の原因となるツメダニ、イエダニ、トリサシダニ、シラミダニなどを中心に述べてみます。
チリダニはアトピー性皮膚炎などでアレルギーの問題になりますし、コナダニはお好み焼きの粉などで繁殖し食品アレルギーの原因として重要ですが、ここでは簡単にしか触れません。これらは普通は人を刺しませんのでダニ刺症の原因と誤解しないようにして下さい。
マダニ、ツツガムシも既に述べましたので割愛します。ヒゼンダニは別項で述べたいと思います。
主なダニ                                  構成比
(チリダニ科)コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ               80~90%
(イエササラダニ科)イエササラダニ                      10~15%
(ツメダニ科)ミナミツメダニ、クワガタツメダニ                4~5%
(コナダニ科)ケナガコナダニ                         1~2%
(ニクダニ科)イエニクダニ                          0.5~2%
(ホコリダニ科)ナミホコリダニ                        1.5%

【ダニによる人体被害】
◆ダニによるアナフィラキシー
近年、お好み焼き粉やたこ焼き粉などの小麦含有食品内で増殖したダニによるアレルギー、アナフィラキシーが問題になっています。海外では1993年以降”pan-cake syndrome”の名で報告されています。小麦粉単体でのダニ増殖の報告はありません。お好み焼き、たこ焼きなどでは風味付けに鰹節主体の動物アミノ酸を含んでいて、ダニの繁殖に好条件であるためと考えられます。いったん開封したものを保存する際には室温に置かない、密封するなどの細心の注意が必要といえます。特に気管支喘息、鼻炎などのアレルギー歴を持つ人に多く発症しているようです。報告例ではコナヒョウヒダにが最も多く、ケナガコナダニもあります。
◆ダニアレルギーとアトピー性皮膚炎
室内塵中に生息するチリダニ科のヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニに対する特異的アレルギー反応が注目されています。WHO/IUISによるとダニアレルゲンは合計23種登録されていますが、重要なものは Der p1/Der f1と Der p2/Der f2の2種類です。前者は分子量25000でシステインプロテアーゼ活性をもちダニの、後者は分子量14000でダニの中体に多く含まれ、ライソゾームに属しています。 ダニアレルギーとアトピー性皮膚炎との関連については肯定的な意見と否定的な意見があります。
肯定的とする根拠として、ダニ特異的IgEが高い、パッチテストで湿疹がでる、皮疹部のTリンパ球がダニアレルゲンを認識する。 否定的根拠として、ダニ除去でも皮疹の改善がみられない、パッチテストで陰性の患者もみられ、コントロール群と有意差がみられない、ダニの少ない地域でもアトピー性皮膚炎が多くみられる、などがあります。
◆イエダニ刺症
人体から吸血して被害を及ぼすダニとしてはイエダニ属のイエダニ、トリサシダニ、ワクモ属のワクモ、スズメサシダニが問題になります。皮疹は個人差、ダニの数などによって大きさ、数などが異なってきますので、皮疹の形状だけではダニを特定することはできません。
【住処】
イエダニは体長約0.7mmで主にドブネズミに寄生しています。ネズミが移動あるいは死亡していなくなると、餌を求めて床下や天井裏などのネズミの巣から出てきて人を襲います。一戸建ての古い家や長屋などが多いですが、倉庫や食堂、学校などでもネズミがいれば被害にあうこともあります。被害は6~9月が多いですが、冬場でも発生します。冬のダニ刺症はイエダニが多いといいます。近年は商業地域の飲食店の残飯を餌として、ビルなど暖かいことによってネズミが増え、排水管などを通って室内にも侵入することが問題となっています。
【皮膚症状】
夜間就寝中に室内に侵入して、寝具の中にもぐりこんで衣服に覆われた皮膚の柔らかい部分を刺します。下腹部や腋の下、腰部、大腿内側などが好発部位です。それで俗に「エロダニ」とも呼ばれるそうです。多くの場合はダニ由来の唾液腺物質に対する遅延型アレルギーの形で出現しますので、指されて1,2日後に皮疹がでます。激しい痒みを伴う個々の大きさが揃った小豆大から大豆大の紅色丘疹が散在します。皮疹の中央に小出血点をみます。個人差が大きく1mm~数cmの紅斑、丘疹、小水疱を形成するなど多様です。幼少児は一般的に成人より反応が強くでます。同時に多発しますが、原因となるダニが根絶できないと新旧入り混じった様々な皮疹となります。
同じ部屋に寝ていても、皮疹に多寡があるのは、体質の違いと、寝ている場所がイエダニの侵入経路に近いか、遠いかなども関係するとされます。
【治療】
皮疹の形態、分布状況より推定されます。何よりも重要な点はネズミの巣を除去することです。皮疹はステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤などで対応します。イエダニの発生源は室外であるために室内の燻煙型殺虫剤は効果を発揮しません。
もし、使用するときはゴキブリ用エアゾールを床、壁、天井の隙間などに撒く必要があります。
◆鳥ダニ刺症
トリサシダニ、ワクモ、スズメサシダニ
野鳥に寄生し吸血しますが、人からも吸血します。鳥が屋根裏、軒先、戸袋などに巣を作り、雛が飛び立つ5,6月頃に被害が集中します。ワクモはニワトリの他飼い鳥、人家に巣を作る野鳥などにもみられます。野鳥のなかでもムクドリは日本中に繁殖し、わずか数時間で戸袋に巣を作るなど迷惑鳥で、鳥ダニの原因にもなります。
皮膚症状はイエダニとほぼ同様ですので、季節、鳥の巣の有無などで診断します。治療、対応もイエダニとほぼ同様です。
◆ツメダニ刺症
ツメダニは吸血はしませんが人を刺します。7~9月に多く発生します。新築5年未満の家屋の畳やウール絨毯に生息し、コナダニ、チリダニなどを餌にしています。積極的には人は襲いませんが、時に人を襲い、紅色丘疹を生じます。遅延型アレルギー反応で生じますので、刺されてから1,2日後に皮疹を生じます。
人に被害を与えるのはフトツメダニ(クワガタツメダニ)、ミナミツメダニなどです。体長は0.5~0.8mm。夏の高温、多湿環境の室内でコナダニ類が大発生するとツメダニ類も増加し、人を刺します。予防としては、部屋を乾燥させ、コナダニ類を増やさないように十分な清掃を行う、絨毯など敷物を除去するなどが重要です。燻煙剤は一定の効果はありますが、畳の内部、部屋の隅々までは行き渡らないことも多く、効果は明確ではありません。
◆シラミダニ刺症
シラミダニは雌が0.22mm,雄が0.16mmで6~9月に繁殖して害を及ぼします。もみ米などに発生します。貯蔵食物や貯蔵穀物類に発生する昆虫類に寄生します。これらの上に衣類などを置かない事です。バクガ、コクゾウ、カマキリなどが宿主となるそうです。本邦では蚕の害虫として有名です。刺されて数時間で痒みを生じ、毒蛾皮膚炎や毛虫皮膚炎と同様の紅斑、蕁麻疹で始まり、紅色丘疹、膿胞へと変化していきます。刺されたぶうbんが多いと発熱、嘔吐、頭痛、リンパ節腫脹などを来すこともあります。治療ではステロイド外用剤を塗布しますが、発生源の徐去が重要です。シラミダニは天日干し2時間で死ぬのでそれが最も実用的です。
◆ニキビダニ症
前気門亜目、ニキビダニ科のダニで体長は0.3っm体幅は0..5mm程です。ヒト固有種で、顔面の毛包脂腺開口部より浅い部分に寄生しています。胴長で棍棒状で、脚は短いです。これは皮膚毛包虫症ともよびます。ニキビダニは常在性寄生ダニですが、皮脂腺の発達した部位などでは過剰に増えて症状を呈し、悪さをします。症状は多彩で、ざ瘡型、酒さ型、混合型、湿疹型、眼瞼炎型、疥癬型、毛瘡型、水疱型、膿痂疹型に分けられます。ただし9割以上をざ瘡型が占めています。毛包一致性の小紅斑、丘疹のなかに膿点を見るのが特徴とされます。中高年の女性に多くみられます。治療は疥癬の治療薬と同様に、殺ダニ作用のある薬剤を使用します。硫黄カンフルローションなどの硫黄剤、クロタミトン(オイラックス)、自家製剤の安息香酸ベンジルなどを塗布します。欧米などではイベルメクチンローションなども使用されているようです。いずれも使用に際しては皮膚の刺激症状に注意が必要です。

参考文献

夏秋 優 Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策 秀潤社 2013

特集 虫と皮膚病 皮膚病診療  Vol.19 No5 1997

皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 皮膚病診療 第22巻・増刊号 2000

皮膚科診療カラーアトラス体系 編集/鈴木啓之・神埼 保 
5 性感染症(STD) スピロヘータ感染症など 動物性疾患 膠原病と類症 結合組織・脂肪組織疾患 講談社 2010

日革研究所 ホームページ ダニについての基礎知識

伊勢美咲 ほか. 小麦粉含有製品内で増殖したダニによるアナフィラキシーの3例.臨床皮膚科 69:19-24,2015

虫による皮膚疾患(6)ライム病

ライム病はマダニ刺症によって伝播される全身性のスピロヘータ感染症で名前の由来は米国コネチカット州のOld Lymeという町で集団発生したことによります。米国、ヨーロッパに多くみられますが、中国、韓国、日本、オーストラリアなどのアジア地域でもみられます。
アウトドア活動の増加、都市圏近郊のシカの増加、田園地方への住居建築の増加などが相俟って米国では1970年代以降に急激に患者数が増加しました。毎年5~9月の間に米国では10000例を越える症例の報告があるそうです。
マダニの消化管内に共生するライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi)によって引き起こされます。ボレリアには多くの遺伝種がありますが、その中で病原性があるのは上記のほかにB. garinii, B. afzeliiを含めた3腫です。本邦のものはB. gariniiが主で米国のものより毒性は弱いようです。
【疫学】
本邦でのライム病は北方系のマダニ類の一つであるシュルツェマダニによって媒介されます。これは北海道の平地と中部地方以北の標高1000m以上の山岳地帯に住むマダニです。マダニの雌成虫と野生動物との間で伝播維持されます。我が国では1987年に長野で1例目が報告されて以来数百の報告がなされていますが、ごく少数です。季節はアウトドア活動の多い6,7月に特に多くみられます。これに比べて欧米では年間数十万人の患者が発生し社会問題にもなっています。
【臨床症状】
ライム病はスピロヘータ感染症であるために、梅毒でみられるように3つの病期に分けられます。
<第I期>限局性感染期、感染から数日~数週間
ダニ刺咬部を中心に遊走性紅斑(erythema migrance)が出現します(90%以上)。急激に拡大し環状になり径10cm以上にもなります。中央部が退色してリング状になる場合や、均一な浮腫性紅斑になる場合があり、軽度のかゆみ、灼熱感を伴うこともあります。発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛を伴うこともありますが、わが国の症例では全身症状は軽度のことが多いようです。部位はダニが吸血するのを好む、湿った軟らかい部位が多いです。
〈第II期〉播種状感染期、感染から数週間〜数ヶ月
遊走性紅斑出現の数日後に小さい衛星病巣が見られることがあり、初期の播種を表します。多発性の二次性遊走性紅斑を見ることもあります。またこれに伴って、発熱、疲労感、筋肉痛、関節痛、頭痛、顔面神経麻痺、髄膜炎などを生じることがあります。ただ、我が国では発熱を除いて、これらの発症頻度は少ないです。
心筋炎はときに房室伝導の異常を伴います。米国ではしばしばみられます。
〈第III期〉遷延性感染期、感染から数ヶ月〜数年
欧米では、慢性萎縮性肢端皮膚炎やモルフィア様の皮疹を生じることもあります。北米よりもヨーロッパでしばしばみられます。また慢性疲労、関節炎、まれに脳脊髄炎から痴呆に至る場合もあるそうです。但し、本邦ではごく稀れです。
患者さんの中には第I期、第II期を経験しない場合もあります。
〈診断〉
ライム病流行地でマダニに刺された後、1ヶ月以内に遊走性紅斑が生じた場合は、本症を強く疑います。EIA法、ELISA法などの血清学的検査を行います。ただ、種々の感染症や膠原病などで数%の偽陽性がみられるため、確定診断にはウエスタンブロット法が用いられます。
しかし、IgMは紅斑出現後、3〜6週間後、またIgGに至っては数ヶ月もたってから上昇するので、病初期の診断には適していません。ボレリアの培養も紅斑刺咬部位からはやや高率に見つかるものの一般に陽性率は低く、4〜5週間かかりますし、抗生剤内服で検出は難しくなるため、最近はPCRによる遺伝子検査がなされることもあります。
従って、ダニに刺されて遊走性紅斑が見られた場合は、臨床診断の上に時期を失せずに早急に治療を開始すべきです。ただ、ボレリア感染症がないのに、マダニ刺咬の後、同様の紅斑をみることがあり、一種のアレルギー反応と考えられる場合もあります。
〈治療〉
ドキシサイクリン 200mg、アモキシシリン1500mg、セフロキシム・アキセチル1000mgを2〜3週間投与します。
播種性疾患と関節炎、神経ボレリアでは最低28日間の治療を要します。
〈予防〉
我が国でのライム病は、シュルツェマダニに刺咬されることによって、発症します。このマダニは北海道と中部地方以北のの標高1000m以上の地域に生息しています。その地域ではライム病が起きうることも知っておく必要があります。マダニに刺咬されないための注意は先に書いた物と同様です。
本邦でのライム病の発症頻度はごく稀です。しかし、欧米では社会問題にもなるほどに近年多発しています。夏場北米などにお子様連れでアウトドアに行かれる方はライム病の知識も身につけてマダニから身を守ることも重要かと思います。
特に北米の種は日本のものに比べて毒力が強く、マダニの幼虫によって発症するので、小さなソバカスサイズで刺されたことに気づかないことも多いようです。マダニ付着後72時間以内であれば、ドキシサイクリンの単回投与でライム病の発症を予防できるそうです。

参考文献

田中 厚、山藤 栄一郎.皮膚科セミナリウム 第55回 人、動物、虫、原虫 2.ツツガムシ病、日本紅斑熱、ライム病. 日皮会誌 :119(12), 2329-2337, 2009

金子 健彦 ほか:背部に遊走性紅斑を生じたライム病ー最近報告された国内72症例の臨床的特徴. 臨床皮膚科 56巻4号:291-294,2002

森下 綾子 ほか:ワシントンDCで刺傷し、帰国後発症したライム病の1例. 臨床皮膚科 64:343-346, 2010

堺 美由紀 ほか:軽井沢で感染したライム病と考えられた1例.  臨床皮膚科66: 439-443,2012

大竹 映香 ほか:臨床像からライム病が強く疑われた1例.臨床皮膚科  66: 362-366, 2012

感染症診療スタンダードマニュアル 第2版  Edited by Frederick Southwick  監修=青木 眞  編集=源河いくみ/本郷偉元 監訳=柳 秀高/成田 雅 スピロヘータ ライム病(Borrelia burgdorferi) pp394-401 羊土社 2011