月別アーカイブ: 2015年10月

2015皮膚の日講演会

今年も皮膚の日の講演会が近づいてきました。
皮膚の日は「イイヒフ」に語呂合わせして、11月12日と日本臨床皮膚科医会で制定されました。この日の前後では全国各地で皮膚にちなんだ講演会、催しが行われます。千葉県では近年千葉県医師会医学会学術大会の分科会として市民公開講座を開催しています。今年は11月8日日曜日午後1時から三井ガーデンホテル千葉で開催されます。テーマは接触皮膚炎・じんま疹と子どものスキンケア、アレルギー防止の話題で、面白い最新の話題が話されると期待しています。
千葉県在住、近隣の皆様のご来場をお待ちしています。
ちなみに今年は小生が皮膚科医会での担当となっているので司会を務めさせていただきます。
参加費は無料となっていますが、会場は先着120名様となっていますので、ご了承下さい。

A4チラシ

img164松江

星岡

 

虫による皮膚疾患(16)皮膚幼虫移行症

皮膚幼虫移行症とは寄生虫幼虫が本来の固有宿主ではないヒトに偶然寄生し、皮膚内を移動した際に生じる線状の紅斑をはじめとする特異な皮膚症状を呈するものです。その原因となる寄生虫には、顎口虫、旋尾線虫、鉤虫、マンソン裂頭条虫などがあります。それぞれの特徴を下記 文献の表を一部書き換えて挙げてみます。
(一角直行、住田奈穂子:: 臨床皮膚科 66:166-170,2012)
皮膚爬行疹を呈する代表的な寄生虫疾患
【顎口虫症】
◇感染経路・・・ドジョウ、 ナマズ、ウナギなどの淡水魚やヘビなどの爬虫類の生食
◇発症までの期間・・・3-4週間
◇皮疹の性状・・・幅数mm 軽度に隆起する蛇行性線状皮疹、水疱形成もあり
◇皮疹の伸長速度・・・1日数cm
◇好発部位・・・腹部
【旋尾線虫症】
◇感染経路・・・ホタルイカ、スルメイカ、ハタハタ、スケトウタラなどの生食
◇発症までの期間・・・2週間
◇皮疹の性状・・・幅2-5mm 軽度に隆起する蛇行性線状皮疹、水疱形成もあり
◇皮疹の伸張速度・・・1日に2-7cm
◇好発部位・・・腹部
【動物由来鉤虫症】
◇感染経路・・・東南アジア、中南米の糞便で汚染された砂場から直接感染
◇発症までの期間・・・帰国後平均16日
◇皮疹の性情・・・幅数mm 軽度に隆起する蛇行性線状皮疹、水疱形成もあり
◇皮疹の伸張速度・・・1日に数mm~数cm
◇好発部位・・・足、臀部
【マンソン孤虫症】
◇感染経路・・・ヘビ、カエル、鶏、淡水魚の生食、ケンミジンコを含む生水の飲用
◇発症までの期間・・・数ヶ月
◇皮疹の性情・・・移動性皮下腫瘤
◇皮疹の伸張速度・・・緩慢
◇好発部位・・・大腿、腰部の皮下脂肪織

◆発症の変遷◆
皮膚幼虫移行症は上記のようなものがありますが、多くのものが皮下を這って線状、爬行状の紅斑を呈しますので、皮膚爬行症、クリーピング病(creeping disease)ともよばれます。その頻度や流行は時代とともに変化してきました。1980年代までは、顎口虫が主なものでした。輸入ドジョウや雷魚の生食、ドジョウの踊り食いなどが背景にあったようです。その後寄生虫の危険性についての啓発がなされ、国内発生は減少していきました。但し、輸入ドジョウやうなぎの肝吸いなどが原因と思われる例もあるので半生のものも注意が必要です。
一方、旋尾線虫による報告は80年代以降増えてきました。ホタルイカ、スルメイカ、ハタハタ、スケトウタラなどの生食によるとされていますが、中でも報告が多いのはホタルイカに寄生する旋尾線虫幼虫typeXによるものです。特に1987年から報告例が多くなってきましたが、これはこの年から富山湾の生ホタルイカが全国各地に輸送されるようになったのと時期を一にしています。ホタルイカを生食後数日で腹痛や吐き気を起こし、腸閉塞として治療されていたケースもあります。その後厚労省からの通達で生ホタルイカはー30度で4日間置くか60度30分の処理をしたのち流通させるようになったために、発生は減少してきました。しかし、最近は富山湾以外からもホタルイカが獲れ、上記不活化処置が徹底されないケースもでてきて、また増加傾向にあるようです。ホタルイカへの寄生率は2~7%で内臓に多いそうです。秋田地方では秋のシラウオ漁の季節になるとクリーピング病が散見されるという報告もあります。
鉤虫症は国内での発症はありませんが、海外で汚染された海岸で寝転ぶなどしないような注意が必要です。
またマンソン孤虫症はコンスタントに報告があり、決して過去の寄生虫病ではないことがわかります。ヘビ、カエルなどではなくても、ケンミジンコを含む生水でも発生した例があります。
◆診断◆
クリーピング病について知っている皮膚科医ならば、目でみればその特徴的な形態から診断は比較的容易です。ただ、マンソン孤虫症では診断は難しく、皮下腫瘤の移動性と、触診時の違和感「握雪感」が目安になります。術前に粉瘤と診断され病理組織像で初めてわかるケースも多いそうです。
皮疹の形態から疑い、生食、海外渡航暦などの詳細な病歴をとって、原因寄生虫を絞り込みます。
エコー検査で幼虫の部位に高エコー領域を見出して有用であったという報告もありますが、明らかな結果がみられなかったとのケースもあり、まだ確定診断には至らないようです。
寄生虫の血清学的検査で抗体の上昇をみる方法もあり有用ですが、かならずしも全例陽性にはでないようです。
確実なのは虫体がいると思われる部位の切除を行い、虫体を確認することですが、虫はUターンするなど1回の切除で確実に捕まらないケースもあるようです。
◆治療◆
診断を兼ねて外科的に摘出するのが一番確実です。線状紅斑を含めさらに皮疹の先端から1cm先から2cm後方まで大きく切除するよう推奨されています。治療には切除が確実ですが、大きく切ること、場合によっては逃げられて複数回切除することもあることを考えると、内服療法も考慮されうべきものかもしれません。イベルメクチンが旋尾線虫症に奏功したという報告もあります。また幼虫は人体内では数週間で死滅するともいわれており、経過観察しながら自然消失した例もあるようです。しかし標準的治療法については、更なる検討を要すると思われます。
◆予防◆
ホタルイカはー30度4日間冷凍したもの、60度で30分処理をしたものを食べるようにすること、ドジョウ、ウナギなども生、半生のもの、特に内臓は注意すること、中国、東南アジアなど海外旅行中の食事には特に生もの、生水には気をつけること、イヌ、ネコなどに汚染されたような海岸には裸足、裸で踏み入らないことなどが重要かと思われます。

参考文献

一角直行、住田奈穂子: ホタルイカ生食による旋尾線虫幼虫type Xの皮膚幼虫移行症の1例.臨床皮膚科66:166-170,2012

石橋正史、杉 俊之: 旋尾線虫によるcreeping diseaseの1例.臨床皮膚科 60:512-514,2006.

水野麻衣 他:サブイレウスにて保存的加療されていた旋尾線虫による皮膚幼虫移行症の1例.臨床皮膚科67:539-542,2013

西川武二 他:有棘顎口虫によるcreeping diseaseの1例.臨床皮膚科 54(1)14-17,2000

若林正一郎 他:creeping disease-超音波検査が虫体先進部の同定に有用であった例ー.皮膚病診療:33(9);897-900,2011

大森香央 他:イベルメクチンが奏功したcreeping diseaseの1例.臨床皮膚科 62:940-942,2008

白井 明 他:マンソン孤虫症ー皮下結節の一時消失をみた1例ー.皮膚科の臨床:54(3);385-388,2012

新保和花子 他:Creeping Eruptionを呈したマンソン孤虫症の1例.皮膚科の臨床:54(3);389-391,2012

猪熊大輔 他:ブラジル鉤虫による皮膚幼虫移行症の1例.臨床皮膚科:56;176-178,2002

虫による皮膚疾患(15)セアカゴケグモ

オーストラリア産の毒グモで、本来日本には生息していませんでしたが、1995年に大阪府高石市で最初に発見されて以来、徐々に日本各地にその生息域を拡大していきました。当初は日本には棲み着かないという意見もありましたが、オーストラリアは温帯であり、日本の気候はその生息に適合していたようです。現在では近畿のみならず、西日本から関東地方まで生息域が拡大しているそうです。
雌は体長約10mmで、小さいものの毒牙を持っています。脚を拡げると約30mm程になります。全体の色調は黒色ですが、腹部に赤い斑紋を有しています。雄は0.4mmと小さく全体的に褐色調を呈しています。人への攻撃性はないものの、誤って触ったりすると咬まれることがあるといいます。毒液にはα―ラトロトキシンという神経毒を含んでいます。
症状は個人差が大きいそうですが、強い痛みがあり、次第に増強します。中には嘔吐、吐気、動悸、発汗などの神経症状をきたすこともあるそうです。幸いにも死亡例の報告はないそうです。
疼痛の激しい場合はモルヒネなどの強い薬剤が必要になることもあります。更に重症の場合は抗血清と投与することもあるそうですが、アレルギー反応の心配もあり、オーストラリアからの輸入のため高価で、保存有効期間が長くないために国内では国立予防衛生研究所など限られた医療機関にしか備えられていないそうです。
トラックなどの物資の移動に伴って更に全国各地に拡散していくことが危惧されています。完全な撲滅は難しいとしても、虫体や卵のうを徹底的に除去することが有効な手立てと考えられます。
千葉県では平成25年に市原市で初めて発見され、その後全県に確認されています。
住宅地や学校、道路の側溝の壁やその蓋、野積みにされたブロックの裏、花壇のブロックの内部などにもみられることもあり、不用意に咬まれないような注意が必要です。一般に巣を作る隙間があり、暖かく日当たりが良く、餌となる昆虫がいるところに巣を作る傾向があります。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑  虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策  夏秋 優 著 秀潤社 2013

虫による皮膚疾患(14)線状皮膚炎

アオバアリガタハネカクシという、聞きなれない虫による皮膚炎です。
蟻に似た、体長6,7mmの細長い外観で、橙と青黒いダンダラの縞模様なので、一度みたら忘れないと思います。青い鞘翅の中に飛ぶための羽を隠し持っているために「ハネカクシ」と呼ばれます。日本全国に分布していますが、暖かい地方に多いです。4月から10月頃まで活動しますが、6~8月の夜間の被害が多いです。
水田、畑、山間部の沼地や池の周辺、川岸などに生息し、灯火に飛来します。体液中にペデリンという毒液を含んでおり、つぶしたり、手で払いのけたりする際に皮膚に液が付着すると皮膚炎をおこします。その形が線状の紅斑、浮腫、水疱、膿疱になるために線状皮膚炎と呼ばれます。屋内でも被害にあいますが、夜間、自転車やバイクなどでの走行中に被害にあうこともあります。
触れてから数時間でひりひりした痛みを伴って、浮腫性の紅斑が出現し、2,3日後には膿疱となり数週後に色素沈着となって治癒します。
本州中部以北の山間部には「コアリガタハネカクシ」という体長10~12mmの大型で黒色をした虫が生息しており、山菜採りなどのあとに同様の被害にあうケースがあるとのことです。
付着したら、つぶしたり、強引に払いのけたりせず、そっと取り除き、水洗いします。
抗菌外用剤を塗布したり、ステロイド外用剤を塗布します。ただ、この皮膚炎に対してはステロイド剤の消炎効果はあまり期待できないそうです(夏秋)。夏秋先生の実験によると炎症反応は予想以上に強く、紅斑、鱗屑は2週間程続き、色素沈着は1年後にも残存したそうです。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策  夏秋 優 著 秀潤社 2013

虫による皮膚疾患(13)毛虫・毒蛾皮膚炎

いわゆる毛虫、毒蛾などによる皮膚炎は以下の種々のものがありますが、一般によくみられるものは、チャドクガの幼虫による毛虫皮膚炎、イラガによる皮膚炎などがあります。これを中心にして述べてみたいと思います。
【主な有毒鱗翅類】
羽に鱗粉を持つ昆虫(鱗翅類)にはチョウとガがあります。日本ではチョウは約300種類、ガは5000種類があるそうです。幼虫には毛を持つもの(毛虫)と毛のないもの(芋虫)があります。これらの中で毒をもつものはごく一部で約50種類といわれています。有毒毛には毒針毛と毒棘があり、有毒毛はドクガ類、カレハガ類が、毒棘はイラガ類、カレハガ類がもっています。
本邦でのその概要を下記に記します。
<毒針毛>・・・・・・種名・・・・・・・・・・・・・・・・・毒毛を有する時期
ドクガ、チャドクガ、モンシロドクガ…………..成虫、卵、幼虫、繭
マツカレハ、ヤマダカレハ…………………..成虫、繭
アオイラガ、ヒロヘリアオイラガ………………終齢幼虫、繭
<毒棘>
イラガ、アオイラガ、ヒロヘリアオイラガ……….幼虫
タケノホソクロバ、ウメスカシクロバ…………..幼虫
【チャドクガ】
チャドクガは茶の害虫として有名で本州以南に分布し、幼虫は椿、山茶花、茶などのツバキ科の植物の葉を食べます。
チャドクガは卵で越冬し、4,5月に孵化した幼虫は5,6月に椿や山茶花の葉を食べて成長します。若齢幼虫は群生しますが、終齢幼虫は分散します。約25mmになります。若虫は毒針毛を持っていませんが、齢を重ねるごとに増え終齢幼虫では約50万本もの多さになります。肉眼でみられる長い毛には毒はありません。幼虫の黒い隆起部に毒針毛が群生しています。それは長さ約0.1~0.2mmの釘状の毛で表面には微小な棘があります。幼虫は木を揺するだけでも落ちてきます。また枝や葉に残っている脱皮殻の毒針毛は風によっても飛ばされてきます。幼虫自ら毒針毛を飛ばすかどうか、夏秋先生の実験ではその証拠はなかったとのことです。卵塊にも毒針毛を被せ持っているのでそれに触れても被害を蒙ります。
終齢幼虫は木の根や落葉の下などで繭を作り、蛹になります。第1回目の成虫は毒蛾となって6~7月頃に出現します。そして葉の裏などに産卵します。雌の成虫の尾端部分には毒針毛があるのでこれによって被害を蒙ることもあります。
8~9月には第2回目の幼虫が現れます。繭を作って10月頃に第2回目の成虫が現れます。交尾して
生まれた卵は越冬します。このサイクルは気温などの気候の変動によって年毎に時期が若干ずれます。
<臨床症状>
毒液中にはエステラーゼやホスポリパーゼなどの酵素類が含まれており、そのアレルギー反応によって皮膚炎が生じるものと思われます。症状の現れ方には個人差があり、また感作状況によっても大きく変わってきます。すなわち、触れるとすぐに(15分後に)膨疹・蕁麻疹のでる人(即時型反応)、24~48時間後に紅斑、紅色丘疹のでる人(遅延型反応)、両方の出る人、全く反応のない人に分かれるそうです。(夏秋先生のボランティアを使った実験による。)毒液の成分に対する感作が成立しているかどうかによって反応が分かれるということです。
実地医療の現場で毛虫に触れてもすぐには気づかず、翌日以降になって発疹がでるケースが多いのは毒液成分に対して遅延型反応が成立している人が多いためと考えられています。
通常、庭仕事や公園の植え込みなどの仕事の際に毛虫に触れて被害を蒙るケースが多いですが、風にのって粉が飛んできたり、成虫の蛾の粉に触れて発症するケースもあります。
主に露出部の頚、上肢などに痒みを伴う紅色丘疹が多発しますが、引っ掻くことで更に毒針毛が撒き散らされ範囲が拡大します。
<治療>
強いランクのステロイド外用剤を塗布します。また痒みに対しては抗ヒスタミン剤を内服します。おおむね1~2週間で軽快します。
<予防>
卵塊や毛虫をみつけたら、ビニール袋などを被せて枝ごと取り除くのがよいです。毛虫に噴霧するとアクリル樹脂が表面に固着して、毒針毛を散乱させない固着剤もあるそうです。ただ、駆除の際に被害にあうことも多いので専門家に頼むのも良い方法です。自分でやる際にはしっかりした雨具などを使用します。服に粉がついた場合は1回の選択だけでは落ちないこともあるので注意が必要です。皮膚付着直後はテロテープ、ガムテープなどで粉をある程度除去することは可能です。そして石鹸をよく泡立てて、シャワーで洗い流します。
【その他の毒蛾】
《ドクガ》
日本全国に広く分布しています。成虫は年1回6~8月頃に出現します。終齢幼虫は30~40mmにもなります。黒と橙色の縦じま模様で背面に毒針毛の束を密生しています。毒針毛は終齢幼虫では500~600万本にも達するといいます。雌の成虫は毒針毛を持っていて夜間に灯火に飛来するので、これで被害にあうこともあります。チャドクガと異なり、雑食性でバラ科、ブナ科など種々の植物の葉を食べます。サクラ、カキノキや野外ではイタドリ、ハマナスの葉も良く食べます。
《モンシロドクガ》
日本全国に広く分布します。成虫は年2,3回6~10月頃に出現します。幼虫は25~30mmになりますが、寒地では黒色型(黒色に橙色の帯を持つ)に、暖地では黄色型をしています。サクラ、リンゴ、ウメ、クリ、クヌギなどの葉を食べますが、黄色型はクワノキンケムシとも呼ばれ、クワを食べます。成虫は白色で前翅に黒点があります。
《マツカレハ》
日本全国に広く分布します。但し、奄美、沖縄に生息するものは別種とされています。成虫は年1回6,7月に出現します。幼虫はクロマツ、アカマツ、ヒマラヤスギの葉を食べます。それで別名マツケムシとも呼ばれています。幼虫は幹を降りて根元の落葉の下などで越冬しますが、翌年幹を登って70mmにも成長します。6月頃には繭を作ります。繭の表面にも毒針毛が付着していて被害にあいます。有毒毛は幼虫の頭部に近い胸部の黒い部分に付着しています。長さ0.5~1mm程の黒い針状のもので肉眼でも確認できます。成虫には有毒毛はありません。
【イラガ】
日本では17種類があり、全ての幼虫に鋭い毒棘があります。刺されると瞬間的にヒスタミンや発痛物質を含んだ毒液が皮膚に注入されて、激しい痛みを生じます。なおアオイラガ類の幼虫や繭には毒針毛も同時に有しているので、ドクガ型の皮膚炎も生じます。これに対しイラガ類の成虫は無害です。
イラガはほぼ全国に分布しており、幼虫は7~10月にみられ、カキノキ、サクラ、ナシ、クリ、カエデなどの葉を食べます。終齢幼虫は25mm程です。体は幅広く、黄緑色で、背面に褐色の斑紋を有します。柱状に突出している肉質突起には鋭い毒棘があり、葉の裏などにいて、気づかずに触ると電撃痛が走ります。膨疹、紅斑を生じますが多くは1時間以内に消失します。人によっては翌日から痒みを伴う紅斑を生じます。2~3日後にピークを迎えますが、毒液に対する遅延型アレルギー反応と考えられています。
イラガは近年は減少して、西日本では外来種であるヒロヘリアオイラガの方が多いそうです。これは市街地の公園、団地の庭、学校の校庭、街路樹などで大発生することがあるそうです。体長は約25mmで体は幅広く、鮮やかな黄色で背面に青色の縦線とその側面に黒点が並んでいるのが特徴です。サボテンのような多数の毒棘を有しています。
ヒロヘリアオイラガの成虫の前翅には褐色の幅広い縁取りがあります。それで「ヒロヘリ・・・」と呼称されるそうです。
刺されたあと、痛みが強ければ保冷剤などで冷やします。もし、翌日以降に紅斑、腫脹があれば強めのステロイド外用剤を塗布します。その際イラガの存在に気が付かないと蜂窩織炎などと間違いやすいですが、発熱、自発痛、圧痛はありません。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎  皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策  夏秋 優 著  秀潤社 2013

ケムシ2 チャドクガ幼虫による毛虫皮膚炎

ケムシ3

ケムシ4

イラガ1 イラガ毒棘による皮膚炎

イラガ2

イラガ 下記イラガによる皮膚炎

イラガ2 ヒロヘリアオイラガ

コペンハーゲン

コペンハーゲンでEADV(ヨーロッパ皮膚科学会)がありました。
風が強く肌寒い北欧の秋の季節でした。寒いながらもストロイエ界隈は賑わっていました。そぞろ歩きの街の様子をアップしました。

ストロイエ ストロイエはコペンハーゲンの中心街の歩行者天国、夜遅くまで人通りが絶えません。

チボリ1 コペンハーゲン中央駅すぐ近くのチボリ公園は古くからある有名な遊園地。冬は閉館しますが、ハロウィン期間のため夜もイルミネーションに彩られ多くの人で賑わっていました。

チボリ2 射的やゲーム機、お化け屋敷、ゴーカートなどもあり、一昔前の遊園地といったふうでしたが、却って正統的な遊園地といったおもむきでした。

チボリ3

チボリ4 日本料理のレストランもあります。日本人コックではなかったですが、まずまずの日本料理の味でした。

チボリ5

ニューハウン ニューハウン界隈は古い街並みが運河沿いに並んでいます。おいしそうなレストランも並んでいました。

ニューハウン2

マーメイド ニューハウンから北に歩くとアメリエンボー宮殿を経て人魚の像にいきつきます。

マーメイド2 人魚の像は海岸のはずれにちょこんとあり、人だかりはありましたが、意外と小さく、こんなものか、という感じでしたが、いろいろな事件を経ても座り続けるけなげさも感じました。

ホテル 学会場は郊外のBella Center. 地下鉄でいきますが郊外の広々とした敷地にゆったりとしてありました。会場近くのホテルは上に行くほど広がった形で、2棟が上で渡り廊下で繋がっていました。遠方からみると上方が広がった台形のようにみえます。さすがデザインの国。その斬新さに感嘆しました。

学会場3 会場入り口

 

今年のノーベル賞

今年もまた 日本人がノーベル賞を受賞しました。毎年のようにとってすごいなと思いつつ、また必ずしも下馬評通りにはならないのだと思いました。ノーベル賞なんか雲の上の世界の話ですが、今年のノーベル賞は皮膚科にも関係があって、興味をひかれました。大村博士のイベルメクチンはアフリカの風土病ともいわれるオンコセルカ症(河川盲目症)の特効薬で多くの人を失明から救ったとありました。実は国内でこの薬の一番のお世話になっているのが皮膚科医です。勿論国内でオンコセルカ症などいません。一寸前にブログにも書いた疥癬の特効薬でもあるのです。この薬が使える以前はγBHC(リンデン)などを使っていましたが、人体には有毒です。効果はあったものの仕方なく使っていたものでした。イベルメクチンも当初は疥癬に適用が なく、糞線虫の薬だったと記憶しています。疥癬に保険が適応になったのはつい十数年前のことです。イベルメクチン(ストロメクトール)たった1,2回で虫を死滅させることができ、本当に皮膚科医も患者さんも楽になり恩恵を被っています。これが日本人の発見による薬とは恥ずかしながら知らずに使っていました(でもよくある事ですが、日本人が発明しても開発の段階でなぜか外国に持って行かれる)。
ここのところ、虫による皮膚疾患をアップしています。国内でもいろんな疾患がありますが、世界に目をむけるとまた見た事もないような疾患が熱帯地方を中心にいっぱいあるそうです。このなかで患者数が多くて、人体にも重篤な影響を与える虫の病気といえば、マラリア、リーシュマニア、デング、オンコセルカなどではないでしょうか。今年はこの中で、マラリア、オンコセルカ治療薬に賞が与えられました。これらの病気など日本人にはあまり縁はなさそうですが、かつて中東帰りの男性のリーシュマニア症を経験したことがあります。デング熱はいまや誰でも(すくなくとも名前は)知っています。
海外渡航が普通になって日本人が世界中何処でもいく時代になっています。ということはこれらの病気とも無関係ではないということでもあります。
ノーベル化学賞は、DNA修復に関するものでした。こちらも皮膚科と関係があります。今回の受賞の詳細は知らずにいうのもおこがましい事かも知れませんが、人のDNA修復機構や紫外線発癌の分子機構研究が進んだのは1968年にCleaverが色素性乾皮症の患者さんで紫外線によるDNAの除去修復が欠損しているのを発見してからかと思います。それ以前にも大腸菌によるDNA修復機構の研究の下地がありました。
人は紫外線や放射線や様々な化学物質などによって、DNAにダメージを受けていますが、それを修復する能力があります。しかしその能力を超えたダメージが細胞に働いたり、その能力を欠いていると細胞死に至ったり、発癌に至ったりします。色素性乾皮症の患者さんは 自ら紫外線発癌をきたすことで、ヒトのDNA発癌、修復機構の解明に大きく寄与してきました。
色素性乾皮症は本邦では数万人に1人の割合でみられます。乳児期から激しい日焼けを起こし、顔にそばかす様の色素斑を生じます。皮膚は乾燥、粗造化し、色素斑、脱色素斑、毛細血管拡張が混じりあった皮膚になります。そこに通常よりも30~50年も早くさまざまな皮膚癌が発症してきます。結膜充血、角膜炎などの眼症状を呈します。30%の人に進行性の中枢性、末梢性の神経症状を起こしてきます。
不定期DNA合成(unscheduled DNA synthesis: UDS)の能力によってA~G群、Variant群に分けられます。近年はその責任遺伝子も同定されています。
この他に、DNA修復異常を示す皮膚症状を呈する疾患はいくつかあります。
色素性乾皮症の類縁のCockayne 症候群、Bloom 症候群、Rothmund-Thomson 症候群、毛細血管拡張性失調症、Werner症候群などがあり、これらの疾患はDNAの不安定を示します。
臨床皮膚科医としては、今回ノーベル賞を受賞した3氏のDNA修復機序の詳細な内容や上記の疾患のDNA異常を正確には知りもしませんが、このような基礎的な発見が皮膚疾患の病態の解明にも役立っているきたのだなーと興味をひかれました。

虫による皮膚疾患(12)蜂刺症

蜂は世界で13万種、日本でも約5000種もいるといわれています。ただ、ヒトに攻撃したり、刺したりして問題になる蜂は、スズメバチ類、アシナガバチ類、ミツバチ類などです。クマバチは大型で人家周辺でもよくみられ体長が2~3cmもあるので怖がられますが、攻撃性は極めて低くフジの花などを好んで密を吸います。
特にスズメバチ、アシナガバチは殺傷力が強いので注意が必要です。蜂の毒針は雌の産卵管が変化したものですので、刺すのは雌だけです。
蜂刺し事故は春から秋にかけて広くみられますが、8月をピークに蜂の活動期の7~9月に集中しています。農作業、林業、養蜂業などに従事する人にみられますが、ハイキングや野外活動などをはじめ一般の人への被害、事故もみられます。
【症状】
局所症状と全身症状があります。
<局所症状>
頭、顔、上肢など服などで覆われない露出部を刺されることが多いです。時には洗濯物の中に入っていた蜂に被覆部を刺されることもあります。
刺された直後に疼痛を感じます。刺されたのが初回であれば、局所には小さな発赤、腫脹を生じますが数時間で消退します。2回3回と刺される回数が増えてくると次第に症状が強くでるようになります。すなわち、刺されて半日後ごろより紅斑、腫脹を生じ2~3日目をピークとして1週間程度で治まってきます。蜂毒による遅延型アレルギー反応です。
手を刺されて、手全体が腫れたり、下肢を刺されて腫れて、リンパ管炎を生じたり、リンパ節の腫脹をきたしたり、局所に水疱を生じたり、炎症症状が高度になることもあります。
<全身症状>
刺された直後に生じるものと、2~10日後に生じるものがあります。
1)直後に生じる全身症状
その程度によって、軽症(I度)、中等症(II度)、重症(III度)、重篤(IV度)にわけられます。
軽症:軽度の蕁麻疹、紅斑、痒み、軽度の倦怠感など
中等症:上記に加えて、全身の浮腫、口渇、口のしびれ、喘鳴、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、頭痛、めまいなど
重症:更に、呼吸困難、嚥下困難、目がみえない、耳が聞こえない、全身の脱力など
重篤:更に悪化すると、尿失禁、四肢の痙攣、意識喪失、血圧低下、チアノーゼなど、いわゆるアナフィラキシーショックの状態になります。
これらの全身症状は蜂毒成分に対する即時型アレルギー反応によります。これは複数回同じ蜂に刺されてアレルギー反応が生じるものですが、初めての蜂刺し事故でも大量の蜂毒が注入されれば、免疫反応を介さずにアナフィラキシーショックを起こすことがあります。
通常アナフィラキシーショックは刺されてから30分~1時間以内に発現しますが、数時間後に再発する二相性反応がみられることがあります。
なおスズメバチとアシナガバチには交叉アレルギーがありますが、ミツバチとの交差アレルギーはないとされています。これらの蜂毒特異的IgE抗体検査は血液検査で調べることができます。また詳細は不明ですが、蜂毒にはムカデ毒との交差アレルギーがあるとされていますので注意が必要です。
蜂毒には多種の成分が含まれています。痛み、痒み、腫れなどの原因としてヒスタミン、セロトニンなどのアミン類、アレルギーの原因としてホスホリパーゼA2,ヒアルロニダーゼなどの酵素類があります。また溶血作用をもつメリチン、神経毒のアパミン、MCD-ペプチドなどの低分子ペプチドなどがあります。
2)遅延する全身症状
ごく稀に刺された翌日、あるいは10日程たってから全身症状が生じることがあります。発熱、頭痛、全身倦怠感、蕁麻疹、リンパ節腫脹、関節痛など血清病様の症状を呈することがあります。血尿、蛋白尿、全身の出血斑、紫斑、腹痛などを伴うこともあります。
【治療】
症状の程度によって異なります。
まず、針の残存を確認します。スズメバチ、アシナガバチは針は残しませんが、ミツバチには返しという構造があって、毒嚢が付着した毒針が皮膚に突き刺さったまま残ります。手でつまむと毒液が皮膚に注入されますので、ピンセットで針の根元をつまんで除去します。ピンセットがなければ指ではじくか、カードなどではじくのが良いとされています。
毒液を口で吸いだすのは良くないです。口腔内の粘膜、傷などを介して毒液が吸収される恐れもあります。市販のポイズン・リムーバーを使って吸い出すのも一つの方法です。陰圧で引っ張るのですが実際のところどれ程血液、体液が吸い出されるが疑問です。アンモニアを塗るのが良いという俗説がありますが、アレルギー物質は酸ではなく、たんぱく質です。アンモニアは無意味であるだけでなく、かえって皮膚炎を助長することもあります。
皮膚症状が軽度であればステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤内服などをおこないます。
局所症状が高度であれば、強力なステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤に加えてステロイド剤の内服などをおこなう場合もあります。
全身症状がみられた場合には、アナフィラキシーショックを念頭に迅速な対応をおこなう必要があります。すぐさま救急病院などへ搬送する必要があります。
もし、山中などで近くに医療機関がない場合に対処するために、アドレナリン自己注射キット(エピペン)があります。以前は自費で購入してもらっていましたが、薬物、食物アレルギーとともに、蜂アレルギーのある人は健康保険でエピペンの処方が可能になりました。ただ、使用に際しては種々の注意事項がありますので、事前に十分医師から説明を聞いたり、ガイドブック、ネットなどで予習しておくことが肝要です。
蜂毒に対する減感作療法は国際的に有効であると認められていますが、健康保険が適用されないこと、長時間の維持療法が必要なこと、薬剤は海外から輸入、実施医療機関が限定されるなどの難点があります。
【予防】
スズメバチは巣から一定の範囲に近づいたとき、巣を揺らすなど刺激した場合に攻撃してきます。また黒い色に向かってくる性質がありますので、とくに7~10月に野山に分け入る場合は注意が必要です。オオスズメバチはあぜ道の土手など土中に巣を作ります。キイロスズメバチは木の枝、崖、人家の軒下などいろいろな場所に巣を作ります。
<蜂と出会った場合の対処法>
●目を閉じて顔を下向き加減にして静止する。蜂が巣に帰ったら、静かに逆方向に後退する。
●一旦、攻撃を受けると参加する蜂は仲間が次第に増えてくるので、速やかに現場から離れる。但し、大騒ぎすると却って蜂を刺激するので静かに行動する。
●スプレー式殺虫剤は蜂に向けて噴霧すると有効である。
●服装は肌は露出せず、黒い色の物は避けてなるべく明るい色(白、カーキ色など)を身に着ける。
●ヘアトニック、香水などの化粧品は蜂を刺激するので避ける。
●蜂は死んでも手で触ると毒針で刺される恐れがあるので注意する。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策 夏秋 優 著 秀潤社 2013

皮膚炎をおこす虫と海生動物の図鑑 皮膚病診療 第22巻・増刊号・2000
大滝 倫子:虫による皮膚疾患ー治療のポイント 26~33
大滝 倫子、篠永 哲: 皮膚疾患をおこす虫 pp50~111

アナフィラキシー補助治療剤ガイドブック 監修:国立相模原病院 臨床研究センター センター長 秋山 一男
2003

蜂刺され 蜂刺され

エピペンの特性2   エピペンの特性

エピペンの使い方2  エピペンの使い方

 

虫による皮膚疾患(11)蚊

蚊刺されは、ごくありふれたものです。敢えて、ブログに書かなくてもよさそうですが、近年デング熱の国内発生とと共に、にわかに注目度が高くなってきました。
蚊については、虫刺されの一つとしての症状、蚊が媒介する様々な伝染病の伝播者としての側面、そして数は少ないですが、蚊刺過敏症についても触れておく必要があるかと思います。
【蚊刺症】
以前も書きましたが、皮膚反応の程度は年齢、刺された回数、免疫反応によって大きく異なってきます。すなわち蚊の吸血の際の唾液腺物質に対するアレルギー反応により、皮膚症状が生じます。以下のようなステージを辿ります。
ステージ1  無反応          新生児期
ステージ2  遅延型反応のみ      乳児期~幼児期
ステージ3  即時型反応と遅延反応  幼児期~青年期  
ステージ4  即時型反応のみ      青年期~壮年期
ステージ5  無反応          老年期
即時型反応では刺されてからすぐに痒みを伴う紅斑、蕁麻疹が出現し1~2時間で軽快します。遅延型反応は刺された翌日から出現する痒みを伴う紅斑、丘疹、時に水疱を認めます。幼児、小児は遅延型反応が主体になりますので、就寝中の刺された直後は気づかずに翌日に露出部である顔や手に浸潤を伴う紅斑、水疱がみられます。しかし、反応の程度は個人差が大きく誰もが上記のような典型的なステージを辿るわけではありません。例えば高頻度に蚊に刺される熱帯地方の人ではすでに少年期に反応は減弱するそうです。
治療は軽度であれば虫刺されの市販薬でも十分ですが、炎症が強い場合はステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤を使用します。
【蚊が媒介する伝染病】
主に、熱帯地域からの輸入伝染病が相当します。マラリア、デング熱、チクングニア熱、フィラリア、野兎病などがあげられます。これらは一般の人はもとより医師もなじみのない疾患ですが、流行地域に旅行する人は現地での流行状況などの情報を入手してDEET剤やペルメトリンを染み込ませた蚊帳の使用などを心がける必要があります。
デング熱は昨年日本でも発生し問題になりました。デング熱は熱帯シマカが伝播しますが、これに似て最近遺伝子変異によってヒトスジシマカでも爆発的に増殖する能力を獲得したといわれるチクングニア病は近い将来問題になるかもしれません。すでにフロリダでは越年しているとの報道もあります。
マラリアは雌のハマダラカに咬まれることによって伝播しますが、現代でもなお年間数億の報告があり、その2/3以上はサハラ以南のアフリカで起きているそうです。
(デング熱やチクングニア熱については過去のブログを参照して下さい。2012.7.17, 12.9 2014.8.31 その他はそれぞれ専門書を参照して下さい。)
【蚊刺過敏症】
蚊アレルギーともよばれますが、本態は通常のアレルギー反応とは異なります。ごく一部の人では蚊に刺された部位に水疱や血水疱の形成を伴う壊死性の変化を生じ、高熱、リンパ節腫脹、肝機能障害、肝臓腫大などの全身症状を伴います。皮疹部は潰瘍を生じるので痕は瘢痕となります。それで四肢に多数の萎縮性瘢痕を認めることが多いそうです。
その病態には慢性持続性のEBウイルス感染症が関与することが明らかになってきました。患者さんはEBウイルス関連NK細胞増殖症を有しておりその一部の人では経過中にNKリンパ腫を発症して死に至ることもあります。
幼少児では蚊に刺されるとひどく腫れて水疱を形成するケースも多いですが、蚊刺過敏症では皮疹部は潰瘍から瘢痕を形成し、また高熱、リンパ節腫脹、肝機能異常などを伴いますので鑑別は可能です。仮にこのような症状がみられ、心配であれば専門医療機関で精査を受けることが必要です。
EBウイルス(Epstein-Barr Virus: EBV)はヘルペスウイルス科γヘルペス亜科に属する二本鎖DNAウイルスです。正式名称はヒトヘルペスウイルス4(HHV-4)とよばれます。唾液を介して口腔咽頭のB細胞に感染します。B細胞に強い指向性を示しますがT細胞、NK細胞にも感染します。ウイルスはメモリーB細胞に不死化した潜伏感染し、ヒトに終生存続します。日本人では健常成人の90%以上が潜伏感染しているといわれます(B細胞100万個に1個の割合で感染)。
ところが、一部のEBV感染細胞は再活性化(溶解感染)し、ウイルス粒子の産生を行います。溶解感染の際は多数のウイルス関連抗原を発現し、細胞障害性T細胞(CTL)のターゲットとなり様々な反応を生じます。ウイルス側の要因と宿主側の要因によって、伝染性単核球症、Gianotti-Crosti症候群、種痘様水疱症、蚊刺過敏症、慢性活動性EBV感染症、悪性リンパ腫、上咽頭癌、胃癌などを引き起こします。
Gianotti-Crosti症候群は免疫能がまだ十分に発達していない生後6ヶ月から6歳くらいまでの乳幼児に好発します。ウイルス感染に対するT細胞の遅延型免疫反応が本態と考えられています。四肢末端から数mm大までの痒みを伴う紅色丘疹が上行性に多発し、臀部や顔面、耳にも拡大します。成熟した宿主免疫を備えた状態でEBVがB細胞に感染すると、CTLの過剰な反応によって伝染性単核球症を生じます。従って幼児から20歳代の成人に発症します。発熱、リンパ節腫脹、咽頭・扁桃炎が3主徴です。約半数で麻疹様、猩紅熱様、蕁麻疹様、多形紅斑様の多彩な皮疹を呈します。
重症型種痘様水疱症では、古典型の顔面、耳、手背などの露光部の紅斑、丘疹、水疱に加えて、非露光部にも皮疹を認めます。発熱、リンパ節腫脹、肝機能異常、肝脾腫を生じます。症例の多くは種痘様水疱様リンパ腫、血球貪食症候群などを併発し予後は不良になります。

このように、EBVの一部では溶解感染をおこし、B細胞、T細胞、NK細胞に感染し、慢性活動性の感染症からさまざまな症状を呈し、一部は血球貪食症候群、リンパ腫などを併発し予後不良となります。その際は骨髄移植を念頭においた治療が必要となります。
このような重症例は日本、韓国、台湾、メキシコなどからのの報告が大半とのことです。

蚊刺過敏症の病態機序については、完全には解明されていませんが、蚊唾液腺抗原特異的CD4陽性T細胞による一次免疫応答がトリガーになり、二次的に生じたEBV抗原に対する激しい宿主免疫応答が本態と考えられています。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策 夏秋 優 著 秀潤社 2013

山本 剛伸: Epstein-Barrウイルスが関与する小児皮膚疾患 小児を診る! 皮膚科医の心得 皮膚科の臨床 Vol.57 1023-1030 No.6 2015