月別アーカイブ: 2015年11月

即時型アレルギーupdate

先日浦安皮膚科懇話会で即時型アレルギーの講演がありました。講師は島根大学の千貫祐子先生でした。
千貫先生の講演は面白いと千葉大の先生から聞き及んでいましたので期待していましたが、それ以上でした。
当日の話の内容は1)茶のしずく石鹸、小麦アレルギー 2)花粉・食物アレルギー 3)牛肉アレルギー などでした。
過去に当ブログでも書いていますので内容は大よそ知ってはいましたが、やはり茶のしずく石鹸、牛肉アレルギーの日本での第一人者、発見に携わってきた当人から直接聴いた話は説得力がありました。また卒業後一時休職しながらもまた研究を始めていった紆余曲折の話もなかなか面白いものでした。でも何せ1ヶ月も前の講演なので記憶もあやふやです。アバウトな記述になってすみません。
卒業後医療現場を離れ専業主婦となり東京に移り、子どもとディズニーランドにいきまくったそうです。そのことから千貫先生はディズニーランドで働いていたらしいとの間違ったうわさがたったことさえあったそうです。その後島根に戻り研究を始めたそうですが、中年の開業医の女医さんで、休診日を研究にあて、博士号をとった先生がいて励みになったとのことです。当初は博士号を取るという現実的な目的もあったそうですが、次第に仕事の面白さにはまっていったようです。最初は薬疹の研究に取り組み過去の病歴を調査し、丁度教室が厚生省の班会議のメンバーになったこともあり、期待したそうですが、班員の仕事の指示は若手の男性医師になり一寸がっかり。しかし切替の早いところも彼女の特徴なのか教室の研究テーマでもある食物アレルギーの研究につき進んだそうです。(大学院生と医局長と、時々、オカン(!?)臨床皮膚科 64巻5号pp133(2010年4月)も参照)
広島大学時代から小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis:WDEIA)の抗原解析に興味を持っていたという森田栄伸教授が島根大学転任後、それを主要研究テーマとしたことが「茶のしずく石鹸問題」の発見解明の糸口となったのでしょう。
旧茶のしずく石鹸は2004年3月から2010年9月まで」4650万個の売り上げがあり、466万人もの人が使用したそうです。そして2008年頃から顔面の腫脹を主訴とする患者が報告されるようになってきました。しかし原因が解明されたのは2010年になってからでした。その抗原は通常型のWDEIAがω―5グリアジンおよび高分子グルテニンであるのに対し、加水分解小麦型WDEIAでは旧「茶のしずく石鹸」中の加水分解小麦(グルパール19S)に含まれる幅広い分子でした。その詳細は以前に書きましたので割愛しますが、(「茶のしずく石鹸」小麦アレルギー 2012.10.7)幸いなことに製品の回収、使用中止後このタイプのアレルギー反応は徐々に低下していく傾向にあるということです。

花粉食物アレルギー(pollen-food allergy syndrome:PFAS)
口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)は口腔咽頭粘膜の局所症状に始まって全身症状に発展しうるIgE介在型食物アレルギーとされ、花粉感作が先行し、交叉抗原性によって野菜・果物などでOAS症状が出現するものをPFASと呼びます。
OASとPFASは大半はオーバーラップします。
食物アレルギーで乳児期または幼児期に発症し徐々に寛解していくものをクラス1食物アレルギーと呼び、学童期または成人になってから発症するPFASはクラス2食物アレルギーに分類されます。
多くのPFASの抗原は熱や消化酵素に不安定でクラス1型と比べるとアナフィラキシーなど重篤な例は少ないとされますが、ほとんど自然寛解は望めないとのことです。
OASについても過去のブログでふれましたので参照してみて下さい。(食物による口腔アレルギー症候群 2012.9.17)
日常診療の現場でも結構多くの患者さんをみますが、何がダメか知りたい人が多いです。
アレルギー診断の専門会社であるファディア株式会社のホームページで検索すると花粉と果物・野菜のアレルギー関連の表が季節・分布地域との関連も含めてみることができるそうです。これは花粉症があり、あるいはOASで花粉症との関連に気付いていない人が調べるのに非常に便利だと思いました。(ファディア OAS で検索すると表が出てきます。)
OASで当日特に注意を喚起されたのが豆乳アレルギーでした。大豆は日本人に欠かせない食材ですが、そのアレルギーにはそれを食べたことによって発症するクラス1のケースと主にカバノキ科(シラカンバ、ハンノキなど)の花粉症の患者が豆乳を食べて発症するクラス2型があります。近年花粉症の患者の増加によって特に成人女性のPFASの発症が増えているとのことです。豆乳はダメでも豆腐などの大豆加工食品や納豆、味噌、醤油などは大丈夫だそうです。加工の程度が低い豆乳のアレルゲン蛋白Gly m4や大豆の蛋白Gly m5,m6とカバノキに含まれるアレルゲン蛋白PR10が交叉反応をおこしアレルギーを起こします。Gly m4は発酵や加熱で活性を失うので加工程度の低い豆乳がアレルギーを起こしやすいそうです。
花粉のPR10に似た抗原は大豆以外にもリンゴ、モモ、サクランボ、ナシ、ビワなどのバラ科の果物にも含まれているのでこれらでも交叉アレルギーを発症する危険性があるとのことです。ただし大豆のIgEアレルギー検査では陰性になり易く、花粉の検査、プリックテストなどで陽性に出やすいとのことです。

セツキシマブと牛肉アレルギー
これも以前に当ブログで取り上げました。(セツキシマブと牛肉アレルギー 2015.4.6)
牛肉アレルギーは時にみられますが、牛肉、豚肉にアレルギーのある患者さんで、子持ちカレーの煮つけを食べた後アナフィラキシーショックをおこしたケースの紹介がありました。鶏肉、数の子、子を持たないカレーでは症状はでませんでした。カレーのIgE検査では陰性、プリックテスト、ウエスタンブロット法では陽性でした。種の違う生物間で交叉反応をおこしたり、血液検査では陰性だったり、なかなか難しいことだと思いました。
セツキシマブのアナフィラキシーが米国東南部で多いことは、2008年に報告され、その原因がセツキシマブのFab部分のα-galに対する抗糖鎖IgE抗体によることがわかり、さらに牛肉アレルギーの抗原もα-galであること、両者のアレルギーが発生する地域が重なっていることなどがわかってきました。また2011年には糖鎖α-galに対するIgE抗体産生の誘因はマダニ咬傷と関連すると報告されました。これらの情報より島根大学ではセツキシマブでショックをおこした患者さんについて調査を行い、α-gal特異的IgE、セツキシマブ特異的IgE(ウエスタンブロット法)が全例陽性であることを確認しました。これらのことよりセツキシマブ投与前の患者さんに検査を行い、陽性例では使用を禁止としたところショックの事例が有意に減少して効果があることがわかりました。また、島根県において日本紅斑熱を媒介するフタトゲマダニの生息域と牛肉、セツキシマブアレルギー患者さんの居住域が重なっていることも確認、マダニを検査したところマダニ唾液腺中にα-galを検出したそうです。
これらの結果からセツキシマブ使用の際は事前の検査チェックをするように厚労省に働きかけたそうですが、やっと認可されたのが、アナフィラキシーショック死亡例がでてからだったそうです。
このタイプのアレルギーは糖鎖抗原に関係するので血液型も関係するとのことでした。B型抗原を持つ人は起こしにくいのでB型、AB型の人は起こしにくいとか。

当日は最初にFDEIA(food-dependent exercise-induced anaphylaxis)食物依存性運動誘発アナフィラキシーの顔面の腫れた女性のスライドから始まりました。その答えは最後にありました。何とゴボウによるもので、そのきっかけは秋の花粉症の原因となるヨモギでした。ゴボウはキク科の多年草でヨモギもまたキク科ヨモギ属に属する植物だそうです。思いがけない交差反応もあるものだと思いました。

食物アレルギーの交差反応は思いもかけないものがあります。ダイバーやサーファーに納豆アレルギーの人が多いとの報告もあります。嘘だろうと思いましたが、クラゲの成分と交差する抗原が納豆にあるそうです(ネバネバ成分のポリガンマグルタミン酸)。
牛肉と魚卵なども思いもつきません。食物アレルギーの難しさ、奥深さをかいまみたような1日でした。
丁度日本皮膚アレルギー接触皮膚炎学会も島根大学主催で出雲であり、そのアナウンスもされていましたが、出席出来ず残念でした。プログラムだけみましたが結構いろんな珍しいアレルギーの報告がありました。

東京地方会in千葉

普段は東京で開催される日本皮膚科学会東京地方会ですが、ごくたまに千葉で開催されます。今回は地元なので、土曜の診療が終わった後、後半のみ出席しました。
普段滅多にお目にかからないけど、他科と関連のある、興味ある症例の供覧がありました。
◆壊死性筋膜炎
皮膚科には救急はほとんどない、という人もいますが、そんな事はありません。その中でも怖い病気の一つです。当日は糖尿病を合併していて骨髄炎を伴い、デブリードマンのみでは軽快せず、両下腿の切断術を施行した症例の報告でした。血液培養、切除組織からB群溶連菌が検出されました。
以前そが皮膚科のブログ、ホームページ の皮膚疾患解説に壊死性筋膜炎・ガス壊疽、細菌毒素関連感染症について書きました。参考にして下さい。特に劇症型A群溶連菌感染症は俗に人喰いバクテリアと呼ばれて時にマスメディアに登場します。今年はその報告が最多になっています。糖尿病、肝臓病や免疫力低下の人は要注意ですが、健康な人でも突然発症することがありますので、発熱、痛み、発赤、腫れが強く重病感がある時は放置せずに、直ちに医療機関を受診する事です。
◆顕微鏡的多発血管炎(MPA: microscopic polyangitis)
下肢に潰瘍が多発して、間質性肺炎を伴い、p-ANCAが陽性の症例でした。血管炎は病理も臨床も難しく、更に全科に亘るために苦手だという先生が多いです。小生も苦手です。診断は病理組織によるのですが、検査する時期、部位、深さによって違ってきますし、だいいち検査標本に肝心のターゲットの血管が含まれていなければ診断できません。
MPAは極稀な疾患で皮疹がみられるのは3割程度とのことであまり皮膚科医にはなじみはありません。ANCA関連性血管炎の一つでmpo-ANCAが陽性になる確率が高いです。ANCA関連性血管炎には多発血管炎性肉芽腫症(旧Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧Churg-Strauss症候群)、MPAが含まれます。Wegener肉芽腫症は欧米に多く、MPAは本邦に多いとのことです。(病名の変更は医学的というよりもむしろ政治的な要因もあるとのことのようです。)
MPAでは糸球体腎炎、肺毛細血管炎、末梢神経炎がしばしばみられ、全身症状として発熱、体重減少、全身倦怠感を訴えることが多いそうです。皮膚症状は比較的多彩で紅斑、浸潤性紅斑、紫斑、網状皮斑、小潰瘍などがあります。
当日の症例は結構大きい潰瘍が下腿にできていましたが、女子医大の田中先生は大きい血管の組織像の呈示がないが、そこはどうなのかと質問されていましたが、確かに重要なポイントだと思いました。普通MPAでは罹患血管は小血管・毛細血管であるためあまり大きい潰瘍は典型的ではないそうです。
先日NHKの総合診療医ドクターGの症例が将にMPAでした。脳梗塞様の症状がありながら、CTで著変なく、筋症状、神経症状などから小生も血管炎は一応考えましたが、皮疹がないとなかなか皮膚科医としてははお手上げ状態でした。
この番組の症例では結構レアなケースが多く、こんな例で研修医に診断がつくのかと思ってしまいます。(それともこれくらいは知ってないといけないのかなー・・・)
◆インスリンボール
2型糖尿病治療中に下腹部に皮下種瘤があり。同一部位への注射を繰り返しているとアミロイドが沈着して皮膚色から褐色の皮下結節を作ります。同部位への注射は痛みが少なく好んで行われる傾向にありますが、インスリンの効果は顕著に減少します。それで他部位へ同量の注射をすると低血糖症状を呈することもあります。コントロールも悪くなり勝ちとなります。注射部位を変更することでインスリンの使用量をかなり減らすことができ、血糖のコントロールもうまくいくようになったそうです。数年の経過で腫瘤も縮小傾向にありました。
時々このような発表をみますが、実際同じような経験のある患者さんはかなりあるのかもしれません。
◆Sister Mary Joseph’s nodule
悪性腹腔腫瘍からの転移として現れる臍の結節です。当日の症例は膵尾部癌、腹膜播種がありました。シスタージョセフは米国のメイヨークリニックの前身のセントメリー病院の看護師でした。彼女はこれがみられると多くは胃癌で死亡することをみいだしました。臍はすぐ下が腹膜に近いので、皮膚の疾患や内蔵の疾患の交通、影響が現れ易い部分です。臍では臍炎、臍肉芽腫、臍ヘルニア、臍石、尿膜管遺残、臍腸管遺残、子宮内膜症など年齢によってさまざまな疾患があり、診断が難しい部位の一つだと思います。
実際には経験したことはありませんが、注意しなければ見落としがちなサインです。ただ、残念なことにこれが見つかるともう手遅れ状態なのですが。腹腔腫瘍からの転移はこの他に経皮的穿刺部位やドレナージ部位にも結節などの転移性皮膚病変をきたすことがあります。
内臓悪性腫瘍の皮膚転移は全体の3~4%とかなり少ないそうです。最も多い形は皮下結節ですが、その他に腫瘤、板状硬結、潰瘍などがみられます。板状硬結で炎症性発赤が目立つものを丹毒様癌と呼び、結合組織の増生が強く、あたかも鎧を着たかのようにみえるものを鎧状癌と呼びます。頭部への皮膚転移は毛根を破壊して脱毛巣を作ります。
これらの直接転移とは別に内臓悪性腫瘍に伴って様々な皮膚所見を呈し、それから悪性腫瘍を類推できることもあります。こういったものをデルマドロームといいますが、日本独自に継承されてきた考え方だそうです。時に皮膚筋炎、老人の紅皮症、後天性魚鱗癬、黒色表皮腫、Leser-Trelat徴候、環状紅斑(Erythema Gyratum Repens)、などで内臓悪性腫瘍がみつかるケースもあります。
◆Münchausen症候群
胆嚢の手術の後の創部が潰瘍化してきた症例。
虚偽性障害に分類される精神疾患の一種です。周囲の関心や同情を引くために病気を装ったり、自らの体を傷つけたりするといった行動がみられます。代理ミュンヒハウゼン症候群というのは近親者(母親が我が子を対象にするケースが最も多いそうです)などを虐待しながら、周囲には献身的に介護するように装う行動をとります。幼児虐待から死に至るケースの中にもこの疾患が一定の割合で含まれているとのことです。たまに事件が明るみになり、マスメディアで報道されることもあります。
この疾患では自分自身過去に苦い経験があります。まだ若い頃、ある看護学生の入院患者さんを受け持ちました。躯幹に皮下脂肪織炎の多発した患者さんでした。当初ウェーバークリスチャン病という脂肪織炎が多発する難病の疑いでした。小生はすっかりその疾患のことだけを思って傷の治療をしていました。新しく赤いしこりができても脂肪織炎だから仕方ないものと思っていました。そうこうするうちに看護サイドよりあの娘は一寸変じゃない、という報告が上がってくるようになりました。自分で何かやってるのでは、といったものだったと記憶していますが、何も知らない小生はむやみに患者を疑うものではない、と患者をかばう対応をとっていました。そのうち、ベッドサイドから注射針がでてくるようなことがあり、その後よく覚えていませんが患者さんは退院していきました。今にして思えば、ミュンヒハウゼン症候群そのものでした。既往歴に複数回の手術歴があったこともその証左でしょう。無知な医者はだませても、ベテランの看護師さんはだませなかったといったところでしょうか。その後ドイツから来た留学生からミュンヒハウゼンというほら吹き男爵がいて、その名前から由来している疾患だと聞かされました。
患者さんの声に耳を傾けることは必要ですが、あくまで客観的かつ冷静でちゃんとした医学知識をもってなければならないことを教わった苦い教訓でした。
◆精神疾患により治療に難渋した多発褥瘡。
自殺企図などがあり、精神科薬を投与され、深鎮静状態になり仙骨部の褥瘡が増悪した症例の呈示がありました。
褥瘡ができる危険因子はいくつかありますが、基本的な動作能力(自立体位変換ができるかどうか)が最も重要な因子です。2時間以上体位変換が出来ずに血行不良が起こると褥瘡に進展する危険があるといわれています。その他に病的な骨突出、間節拘縮、栄養状態の低下、皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)、浮腫なども危険因子となります。
精神科薬も深鎮静状態になると同一部位が圧迫されて血行不良となり褥瘡をおこしてしまうということでした。これから年末にかけてお酒を飲む機会も増えるかと思いますが、睡眠薬を飲んだり深酒をしてストーブの前で寝込むといったことは最悪です。褥瘡に、低温熱傷も引き起こしかねません。注意しましょう。

たまに学会の講演を聴くとやはり普段知らない情報を教えられためになります。今回はとりわけ皮膚科以外の科にもかかわることを聴き、いろいろな情報は広くアンテナを張り吸収しなくてはならないと知らされました。

2015皮膚の日講演会を終わって

先日無事今年の皮膚の日講演会が終わりほっとしています。あいにくの雨模様のお天気にもかかわらず多くの市民の方々にご来場いただきました。どうもありがとうございました。講演も質疑応答など活気があり、予定時間を20分もオーバーするほどでした。講師の先生方も懇切丁寧に質問に答えられ、きっと皆様のお役にたったものと推察します。
講演の要旨は、前回の抄録の通りですが、更に大切そうな事柄や、興味深そうな事柄をつけ加えてみました。
かぶれ(接触皮膚炎)、じんましん(蕁麻疹) 松江弘之先生
皮膚の免疫機能について、免疫の歴史からわかり易く解説されました。免疫(immunity)という言葉の成り立ちは「法王の課税(minitas)」を「免れる(im)」からきているとのことです。中世にはペストが大流行しましたが、聖ヨハネ騎士団などは医療に従事し慈善活動をおこないました。当然これらの人々も多くの人がペストに斃れました。しかしながら中には幸いにも生き残った人もありました。これらの人々はペスト患者と接触しても二度とペストに罹患しなかったといいます。これらの人々は法王の課税を免除されたそうです。これが語源になったそうです。
またワクチンの語源は有名なジェンナーの牛痘による天然痘の予防の実験に由来するそうです。雄牛はラテン語でVaccaといいます。パストゥールがジェンナーに敬意を表して名づけたとのことです。ただ、ジェンナーはその後牛痘を打った少年に天然痘の膿を接種して、有効性を確認しています。現在こんなことをしたら人体実験で犯罪行為といわれかねません。
松江先生の講演は、皮膚の構造から接触皮膚炎の起こるメカニズム、獲得免疫、自然免疫のさわりまで広く及びました。
蕁麻疹の話ではIgEを発見した石坂公成先生の話、その時の実験に使った多田富雄先生の背中の写真まで見せられ興味深かったです。多田先生は後に東大教授になられましたが、元々は千葉大教授でした。一世を風靡したサプレッサーT細胞も現在では否定的ですが、これも制御性T細胞への発見への道のりとも思われなくもありません。
会場から蕁麻疹は遺伝しますか、との質問がありました。その回答は、ごく稀な遺伝性の蕁麻疹を除いて遺伝しません、というものでした。しかし、HLA遺伝子は両親から子に伝わります、免疫反応はHLAのタイプによって大きく異なることはわかっています。将来もっと研究が進めば、あるいは蕁麻疹体質や、遺伝の関与もわかってくるかもということでした。小生にはよく理解できませんでした。
確かに蕁麻疹は詳細な検査をしてもI型(即時型)アレルギーとして原因が特定できるのはほんの10%以内で、残りは原因は特定できません。発症メカニズムの多くは肥満細胞(マスト細胞)からヒスタミンなどの化学伝達物質(chemical mediator)が放出されて、これが血管透過性を亢進させて真皮上層に浮腫が生じることによって蕁麻疹が起こってきます。
特に慢性(6週間以上)に続くもので原因がわからないものは、特発性慢性蕁麻疹と呼びます。勿論誘因となるものは、寝不足、ストレス、機械的刺激や圧迫、暑さ、寒さ、発汗、体温上昇などいろいろあります。しかし考えてみればこんなものは誰にだってあります。そして抗ヒスタミン剤で治療しているといつの間にか治っていったりします。ではなんで発症して、なんで治っていったのかおよそ不明なことが多くあります。特発性とはいってみれば原因はよく判らない、ということです。肥満細胞の膜が不安定になって化学伝達物質が放出され易くなっているのは事実でしょうが、なぜそうなったかの本当の原因はまだこれからの研究なのでしょう。多くの患者さんが原因は何なのだ、と病院にいっても明確な答えがなく、特発性では釈然としないのも無理からぬことのように思われます。
ただ、蕁麻疹、アレルギーを専門にしている先生方は、細かく病歴を聴いて、食物アレルギー(牛肉アレルギーやアニサキスアレルギーなどのように食後数時間たってからでるものもある)や花粉症からのアレルギー、運動誘発アレルギーなどを含め蕁麻疹の原因の追求や病態の研究を精力的にされています。それでも9割方は不明なのです。
第2部はスキンケアで子どものアレルギーが予防できるか、でした。 星岡 明 先生
子どものアレルギーにはアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などがあります。これらは元々個人が持っている体質(アレルギー素因)にさまざまな環境因子が加わって発症します。
アレルギーマーチという言葉は同愛記念病院の馬場 実 先生が経験則に基づいて提唱された概念ですが、上記のアレルギーは発現臓器をかえながら、次々と現れるという考えです。実際経時的にみていくと、最初にアトピー性皮膚炎、次いで食物アレルギー、その後遅れて、気管支喘息、アレルギー性鼻炎が生じる傾向にあります。
これらのアレルギーを予防、予知できないかさまざまな試みがなされてきました。
体質、素因は基本的に変えられませんので、環境因子への介入の研究がなされてきました。
環境因子としては、1)アレルゲンの多い環境(周囲の環境) 2)アレルゲンの侵入経路の環境 3)アレルゲンの生体内での環境などです。
1)については室内のダニを減らす、食物アレルゲンの除去、妊娠中や授乳中の食事制限などが試みられましたが、確たる発症予防には繋がりませんでした。
2000年には米国小児科学会は妊娠、授乳中は卵、ナッツは避けて、乳製品は1歳から、卵は2歳から、ナッツは3歳から食べるように指導していました。ところが2008年のガイドラインでは食品を避けることによってアレルギーを予防する証拠はなく、これは推奨しないと、方針転換したそうです。
2)アレルゲンの侵入経路の環境
さらに、近年衝撃的な発表がありました。(当ブログの2015.4.8のNHKスペシャル「新アレルギー治療~鍵を握る免疫細胞~」より にも書きましたので参照してください。)
イスラエルと英国の乳幼児のピーナッツアレルギーの発症を比べると、イスラエルのほうが有意に低かったそうです。その差は英国では乳児には厳格なナッツ制限をしていたのに比べ、イスラエルでは自由に食べさせていました。ところが英国では食べるのは制限していたのに、ピーナッツオイルでのスキンケアをおこなっていました。それによるアレルギー(経皮感作)が起こっていたのです。
皮膚からのアレルギー感作の実例は残念なことに日本での茶のしずく石鹸によるアレルギー、アナフィラキシーの発症という社会問題、訴訟という形でも実証されてしまいました。
実は、経口免疫寛容、経皮感作については以前からマウスで実証されていたそうです。それが、ごく近年人でも実証されてきたということです。
国立成育医療研究センターアレルギー科・皮膚科のコホート研究によるランダム化比較試験によると新生児期からの保湿剤使用によってアトピー性皮膚炎の発症を3割以上低下できることがわかったそうです。生後1週間目から32週まで無作為に割り振った乳児で保湿剤を全身に塗った方がアトピー性皮膚炎の発症が有意に低かったということです。ただし、保湿剤によっても卵白感作は抑制されなかったそうです。このような統計的な科学的な試験結果ははじめての報告だとのことです。最近同様な結果は海外の試験でも確認されたということです。
生後早くからの保湿の重要性が確認されました。この試験では2e「ドゥーエ」を使用していますが、同様な結果はワセリンなど他の保湿剤でも得られるのではないかと想定されています。
3)アレルゲンの生体内での環境
アレルゲンが生体内に侵入した時の体の免疫状態をかえる試みもなされています。児に対する抗アレルギー剤(抗ヒスタミン剤、インタール等)の内服です。母がn-3多価不飽和脂肪酸を多く摂取していると児のアレルギーの発症頻度が若干低下します。児の腸内細菌を整える研究もなされてきました。いわゆる善玉菌の投与はTh2をTh1にシフトしてある程度の効果があるとされています。千葉大学小児科ではプロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物、善玉菌、またはそれらを含む製品、食品)投与と保湿剤の使用によってアレルギー疾患の発症予防ができるかという研究を進めているそうです。
発症予防には、食物制限を行うことは不要であるとのことでしたが、では既に発症した人はどうなのでしょうか。先のNHKスペシャルでも注意を喚起していましたが、あくまで予防では食物制限は不要だが、発症している人は専門医に相談すべきといっていました。そこのところが小生もわからず、講演後経口免疫療法はあるが、発症後の食事制限はどうなのでしょうか、と質問しました。アレルギーの程度にもよるのでしょうが、星岡先生の回答は「発症予防がうまくゆかずにアレルギー疾患を発症したとしても、落ち込む必要は全くなく、症状をコントロールすることは十分に可能で、寛解することも少なくない」というものでした。卵アレルギーのお子様のいるお母さんから「インフルエンザの予防接種は控えなければならないか」という質問がありましたが、回答では予防接種に含まれる卵の成分は極微量でそれでアナフィラキシーは起こさないので特に禁止していないというものでした。食物アレルギーのある人でもあまりに厳密に守っている人よりも言葉に語弊はありますが「テキトー」な母親のほうが(経口免疫で与えることで?)アナフィラキシーは起こしにくいとの話もありました。
ただ、食物アレルギーで亡くなった女児の例もあり、経口免疫療法は専門家の間でも考えの差もありますので、やはり個々に専門の主治医の先生と十分に相談しながら対処するのが大切ではないかと思いました。

今回の皮膚の日の講演はアレルギーをテーマに専門の先生にお聴きしましたが、市民のみならず、我々皮膚科医にも最新の興味ある情報を教えていただきました。充実した時間でした。

毒くらげ

毒を持つ虫、生物は毒ヘビ以外にも多く存在します。毒グモ、毒サソリ、毒アリ、毒蜂、ムカデ、毛虫、マダニなどなど多数です。これらは陸上に住む生物ですが、海生生物にも毒を持つものは多く存在します。フグ毒のテトロドトキシンなどはつとに有名です。毒の強さを表す指標にLD50というものがあります。
Lethal Dose 50(50%致死量)の略です。動物に試験試薬を投与した時にその動物の半数を殺す量のことをいいます。急性毒性の強さの指標といってもよいかと思います。ただ、これも試験動物の種類、摂取時期などによって大きく異なるためにあくまで一応の目安です。
これでみると、ボツリヌス菌、破傷風菌などの毒性は極めて高いことがわかります。では毒を持つ生物ではというと。
スナギンチャクのパリトキシン、フグのテトロドトキシンなどはLD50が極めて低いことがわかります。
ハワイ マウイ島に生息するイワスナギンチャクの毒性は青酸カリの8000倍、フグ毒の60倍もの強さといいます。
第2位に位置するのがゴウシュウアンドンクラゲだといいます。毒クラゲは日本近海にも生息していますし、近年は海外旅行、マリンスポーツの隆盛などもあり、日本人でも海外で毒クラゲによる思わぬ被害を蒙るケースもあります。
そこで毒クラゲについて調べてみました。
【キロネックス】
Chironex fleckeri(殺人の魔の手)という学名をもち、Sea Wasp(海のスズメバチ)とも呼ばれています。箱クラゲ(box jelly fish)の一種で地球上で最も危険なクラゲとされています。1954年からの統計では5千人以上の人がこれによって命を落としているとのことです。オーストラリアやフィリピンなどのインド洋、西太平洋全域の熱帯に生息しています。
刺されると3~15分で死に至ることもあるとのことです。
体は薄い青色で透きとおっており、傘の4つのツノから最大15本の触手が伸びており、最長3mにも及ぶそうです。
【ハブクラゲ】
ネッタイアンドンクラゲ科に属するクラゲです。沖縄県全域に生息しています。6~9月に多く、海水浴場、波が静かな砂浜、入り江、人工ビーチなど浅瀬でも事故が発生しているそうです。沖縄本島や石垣島などのビーチでは「ハブクラゲ侵入防止ネット」を張って、ハブクラゲ刺傷被害がでないようにしているそうです。傘径の大きさは10~12cmで、触手を伸ばすと約1.5mにもなります。4本の腕にそれぞれ7~8本の触手がついています。刺胞は餌捕獲するための毒器官で、棘がついた刺糸がコイルバネ状に納められていて、刺胞に機械的刺激や化学的刺激が加わると刺糸が反転して刺胞から飛び出して獲物に突き刺さる仕組みになっています。傘は半透明のために、水中で見つけることは困難です。毒は蛋白毒で、致死、溶血、皮膚壊死などの因子からなります。
<症状>
クラゲ触手の接触部分に激痛、灼熱感を伴って線状の発赤、浮腫、水疱、皮膚壊死などを生じます。後に瘢痕を残すこともあります。小児などの場合は、意識障害、痙攣などを起こし、呼吸抑制、血圧低下をきたし死に至る場合もあります。
<治療>
触手の除去。からみついた触手は未発射の刺胞が残っています。これは5%程度の酢酸で刺胞の発射がおさえられるので食酢をたっぷりかけて慎重にそっと取り除きます。または海水でそっと洗い流します。水やアルコール、アンモニアをかけたり、砂などでごしごし擦ると発射を刺激し逆効果になります。そのうえで冷却湿布して病院へ搬送します。
局所の炎症は強力なステロイド剤を塗布し、全身症状に対しては程度に応じて救急の対応をします。広範囲刺傷、小児などでは救命蘇生の対応が必要となる場合もあります。
オーストラリアではキロネックスに対しては抗毒素血清があるそうです。
<被害に合わないための予防策>
まず、沖縄、海外などでのマリンスポーツをする人は現地の情報を入手しておくことが重要です。またクラゲ侵入防止ネットの内部で泳ぐ、長袖のシャツやラッシュガードを着て素肌を晒さないといったことも重要です。
【カツオノエボシ】
浮遊性クラゲの一種で、ブルーボトルと呼ばれるように青白い浮き袋(気胞体)を持って水面に浮いています。気胞体の下には触手が垂れ下がっています。刺傷直後に焼けつくような、電気が走ったような痛みがあるために、電気クラゲともよばれます。厳密にはクラゲではなくヒドロ虫網、管クラゲ目、カツオノエボシ科の生物です。独自の推進力を持たないために岸近くに吹き寄せられたり、海岸に打ち上げられたりした個体に刺されて被害にあうことがあります。
海水をかけながらそっと触手をはがします。カツオノエボシの場合は食酢によって刺胞の発射を促進するので酢をかけてはいけません。

上記以外にもアンドンクラゲ、アカクラゲ、ヒクラゲ、カギノテクラゲ、ボウズニラなど毒をもつクラゲがいますが、毒性は低いそうです。
クラゲ マレーシアにてクラゲ刺傷

クラゲ2

マムシ咬傷

マムシによる被害は現在でも年間3000例程あるそうです。多くは軽症で済んでいますが、中には重篤化して死亡するケースも皆無ではないそうです(年間数例程度)。日本の現況について報告例を調べてみました。
【マムシ】
クサリヘビ科の蛇で沖縄を除く日本全国に生息しています。ニホンマムシとツシママムシがあります(対馬に生息するツシママムシは別種)。全長45~80cm程で、頭部は三角形、淡褐色で胴は太く尾は短く銭形の紋様を有して迷彩模様を呈しています。紋様は20対前後の楕円形で、中央に黒い斑点があります。人によっては銭形様と形容したり、オッパイ様と形容したりします。上顎に牙があり、咬まれると1cm程度の間隔の2カ所の牙痕がみられます。
【生息地】
半日陰の雑木林や藪に、また山間部の水田や小川 など、水場の周辺に生息します。周辺の石垣や岩の隙間にも生息します。性格は臆病で自ら人を襲ったりはしませんが、誤って尾を踏んだり、農作業、山菜取りなどで指で触ったりすると、咬まれてしまいます。時には納屋など人家で被害にあうケースもあるようです。
【臨床症状】
咬まれると1個ないし2個の牙痕がみられます。ヤマカガシでも牙痕がみられますが、上顎の奥の牙で咬むので数列の細かい牙痕がみられるそうです。マムシの毒は血液毒で強力で、その強さはハブの2-3倍といわれます。受傷後20分程度で牙痕部を中心に激しい痛みをともなって、出血、紫斑、腫脹が現れます。重症度が進むに従って、咬まれた局所にとどまらず、1肢から全身へと症状が拡大します。その程度に応じて重症度の分類がなされています(崎尾)。
Grade I 咬まれた局所のみの発赤・腫脹
Grade II 手関節または足関節までの発赤・腫脹
Grade III 肘関節または膝関節までの発赤・腫脹
Grade IV 1肢全体におよぶ発赤・腫脹
Grade V 1肢を超える腫脹または全身症状
症状や経過、重症度などは個々人の年齢、持病、咬まれた部位、受診までの時間などが様々で異なっているために一律に推定、断定することはできません。ただ、高年齢で体力の弱っている人や糖尿病、心臓病、肝臓病、腎臓病のひとなどは重症化に注意を要するようです。 また、受傷後の血液検査で血小板の急激な低下が見られるケースがあり、これはマムシ毒が血小板を凝集させることによって起こり、グレードは軽くても重症化することがあり、要注意です。
臨床症状では、霧視、複視、視力低下などの眼筋麻痺症状、発熱、吐気、腹痛、発熱、意識混濁などの全身症状は重症化のサインです。
検査データでは、上記の血小板の他に、白血球は筋肉系酵素(CK, LDH, AST, ALT)に先立って上昇し重症化の指標となります。死亡例では急性腎不全や、DIC(播種性血管内凝固症候群)などによって受傷2,3日後に生じることが多いそうです。但し、死亡率は0.1~0.5%とごく稀です。
【マムシ毒】
マムシ毒はハブと比べてその量は少ないものの、毒力は2~3倍といわれます。
毒成分には様々な ものが含まれています。
・出血因子・・・血管内皮細胞の間隙の解放、赤血球の漏出および形成膜の破壊
・血小板凝集因子・・・血小板膜の破壊
・キニノーゲン・・・ブラジキニンの生成→血圧低下・毛細血管透過性亢進
・プロテイナーゼ・・・フィブリノーゲンの分解→出血・線溶亢進
・ホスホリパーゼA2・・・間接溶血因子:リン脂質の加水分解とアラキドン酸の生成→溶血・血小板破壊
・毛細血管透過性亢進因子・・・浮腫
【治療】
咬まれたら、まずそれがマムシかどうか確認する事が重要です。農作業などで受傷する事が多く、マムシについてよく知っている人もあります。ただ、ヤマカガシなどでも咬まれる事があり、写真などを見せて確認します。咬傷部の形状から推測する事も出来ます。
マムシ毒は受傷後20-30分は半径10-15mmの範囲に留まっています。傷より10cm程中枢側を緊縛し、なるべく早く救急体制の取れる医療機関を受診します。自分で傷口を切開したり、吸い出したりするのはよくありません。口内の傷からマムシ毒が吸収される恐れもあります。市販の注射筒、ポイズン吸引筒などで吸い出すのは良いと思われます。
医療機関では、マムシ咬傷を確認したら、バイタルサインをチェックしながら、局所の傷の手当をします。マムシ咬傷の重症度の評価法や治療法は医師個人、医療機関よってもばらつきがあり、まだ統一されたものはありません。ただ、上記のI~V段階までのグレード分類と、それに基づいた治療が一般的に用いられています。
まず、傷からの感染を防止するために、抗生物質の使用(内服、または点滴)、破傷風トキソイド筋注を行います。
局所の腫れ、紅斑、紫斑などの変化がほとんどなければ、消毒のみで経過を観察します。
変化があれば、そのグレードに応じて局所治療、全身治療を行います。
◆局所治療
切開、排毒・・・早期に局所処置を行い毒素の進展を防止します。牙痕付近を局所麻酔して、2個の咬痕を結ぶように皮下脂肪レベルまで切開します。生理食塩水で切開部を洗い流しながら毒素を押し出します。毒素が中枢側へ広がらないように駆血帯や血圧計などで駆血します。90mmHg程度で50分緊縛、10分間開放という操作を半日から1日繰り返します。腫脹が高度で末梢循環障害が危惧される場合は浮腫部を脂肪レベルまで深く切開します(減張切開)。ただ、減張切開については局所の壊死をなくし有効であったとする一方で逆に神経損傷の危険、傷による入院の長期化、傷の痛みなどもあり慎重に適応を選択する必要があります。
◆全身治療
#補液・・・マムシ毒による血管透過性亢進のために、細胞外液が減少して急性腎不全に陥ることがあるために、1500~2000ml/日の輸液を行います。
#抗生剤点滴静注・・・二次感染を防止します。
#セファランチン・・・台湾の民間薬タマサキツズラフジから抽出されたアルカロイドです。ホスフォリパーゼA2活性化、アラキドン酸遊離などの抑制作用、赤血球などの生体膜の安定化、抗炎症作用、セロトニンレセプター阻害作用などがあり、マムシ毒で破壊された生体組織や細胞膜の修復、安定化作用があるとされていて、多くのマムシ咬傷に使われています。しかしその有効性の比較対照試験は行われていないので効果の程度の詳細は明確ではありません。
#抗マムシ毒血清
軽症の場合は入院のうえ、上記の処置で経過を観察するのが一般的です。但し、受傷後症状が進展し、グレードIII以上になるようであれば、抗マムシ毒血清を使うことが推奨されています。また軽症でも24時間まで経過を観察し症状が進行するばあいも血清の使用を考慮するよう推奨されています。
また、グレードは低くても、マムシ毒が直接血管内に注入された場合は急激に血小板が低下して、重症出血が起こる場合があるため(血小板減少型)、抗マムシ毒血清の使用が推奨されています。
抗マムシ毒血清は体内に遊離状態にあるマムシ毒を中和する唯一の薬剤であり、組織に結合してしまうと中和しにくいとされます。従ってできるだけ早期に(咬傷後1~6時間以内)投与するのが効果的とされています。
ただ、この血清はマムシ毒で免疫したウマの血清を精製処理し、凍結乾燥したものです。従って、重大な副作用が生じる危険性も考慮しなければなりません。アナフィラキシーショックが5%に、血清病が10%に発生するとのことです。
使用に際しては、患者、家族などの同意のもとに慎重に行う必要があります。皮内テスト、点眼テストなどをおこない、能書に従って、減感作処置などおこないながら、筋肉内、静脈内注射をおこないます。ステロイド薬、昇圧薬などの救急蘇生の準備も必要です。
このような副作用のリスクもあり、マムシ抗毒素血清の使用の必要性に対しては意見の分かれるところですが、症状の進展、血小板減少、筋肉変性、壊死、凝固・線溶系異常、急性腎不全など重症化の傾向を認めた場合には、できるだけ早期の抗マムシ毒血清の使用が重要とされています。

参考文献

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嘉陽織江 ほか.血小板減少をきたしたマムシ咬傷の1例:臨床皮膚科 61:898-900,2007

井上久仁子 ほか.当院で経験したマムシ咬傷34例の臨床的検討:臨床皮膚科 69:877-881,2015

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大石正樹 ほか.マムシ咬傷による死亡例:臨床皮膚科 62,407-410,2008