月別アーカイブ: 2015年12月

一年の終わりに

早いもので、もう今年も終わりになろうとしています。古都奈良で暫しの骨休めをしているところです。
ここのところ、皮膚科の難しさに些か迷いを感じています。ブログを書いていても一直線に考えが進まない思いです。元々自分自身の考えはあまりないので、専門家の講演とか教本を書き写していてなるべく客観的な記事を心がけているつもりですが、では何が客観的で何が正確なのだろうというと結構難しいです。医学、科学の進歩は目覚ましく、皮膚科の分野でも疾患の原因遺伝子が発見されたり、病態、病因が明らかにされたりしています。しかしながら生身の 人間相手の日常診療の現場では、対応に専門家の間でも意見の相違する事柄も多々あります。
皮膚科学は近年長足の進歩遂げています。(少なくとも免疫学、分子生物学の進歩を応用した原因、病因論などは)。
では実際に皮膚病の患者さんは満足しているでしょうか。皮膚科医は胸を張って患者に向き合えているのでしょうか。例えばアトピー性皮膚炎、乾癬、ニキビなどの慢性疾患の患者満足度をみればその低さは驚くほどです。専門の先生方の堂々たる講演はとても素晴らしいと思いつつも、実は多くの患者さんは決して満足はしていないのです。
自分ではこうかなー、などと考えることもありますが、下手な考え休むに似たり、ともいいます。個人的な乏しい経験よりもその道の専門家の意見に従ったほうが間違いがないのは当然でしょう。
医療は生き物なので時とともに変わっていくのでしょうし、日本皮膚科学会のガイドラインだってかわっていくでしょう。
数学や物理学のように公式、定理はないのは当然です。それでも専門家の話を聴いてせめて時代遅れの医者にならないように来年も見聞きした事を書いていこうと思います。
皆さまよいお年をお迎えください。

爪のお話再び

先日、浦安で東先生の爪のお話の講演会がありました。
爪のお話といえば、昨年の7月にも千葉市で一度講演をしていただいたことがあります。そのお話をきっかけとして、昨年は延々と爪シリーズのブログのアップを続けました。またEADVでBaranという爪の大家を目の当たりにして、その著書を購入し、一寸にわか爪マニアになりました。
しかし、およそ半世紀にもわたる爪の達人の話はつきることがありません。今回も時間がきたのでここまで、と用意されたスライドは全部見せていただくことはできませんでした。
講演の中で前回書ききれなかった部分、追加部分などを再び。
◆爪の各部分の役割
爪床(nail bed)・・・爪甲下面で、爪半月から先をいいます。水分の補給をしています。
爪下皮(hyponychium)・・・爪の先端と皮膚の接点部分です。異物が入らないようにしている。甘皮(クチクラ)の部分も同様の役目を果たします。
爪母(nail matrix)・・・一生爪を作り続ける部分で、爪半月より後方部分に相当します。
側爪郭(lateral mnail fold)・・・爪を固定する役目があります。この部分を欠くと(ラケット爪や陥入爪の手術で側爪郭を切ったり、咬んだり、むしったりすると)支えがなくなり、スプーンネイルになります。
◆爪咬みくせ・・・普通3歳以降に発症し、中高生では増加し、それ以降は減少します。知能発育、精神病などは関係しないとされます。兄弟の誕生、転居、転入学などの社会的な環境の変化が契機となる例があります。本人がその気になって治療する意志があれば治癒するとのことです。逆に咬み癖を治さないと治癒しません。バイターストップという苦味成分(安息香酸デナトニウム)を含んだトップコートを使用することで咬み癖が治ることもあるそうです。指先の荒れがなかなか治らない人は結構深爪をしていることがあります。爪甲は指先を保護する役目を担っているのです。また指腹を保護、支えるだけではなく、触覚が鋭敏になることによって、細かい仕事、細かいものを摘みあげる役目も果たしています。
◆爪甲層状分裂症(二枚爪)・・・爪甲の水分量の低下によります。ただ、単なる水分量だけではなく脂肪成分量も関係するようです。爪が脆く脆弱になる原因、要因は種々あります。低色素性貧血では高頻度に生じ、それに外圧が加わるとスプーンネイルとなります。糖尿病、内分泌異常、HIVでの報告もあります。ビタミンA酸(エトレチナート)、抗ガン剤など薬剤性のものもあります。またテトラサイクリンなどの薬剤は光線性爪甲剥離を起こすことがあります。
男女比は女性に多く、マニキュアの除光液の使用過多、洗剤の長時間使用、過度の水仕事なども要因となります。また外界の湿度の影響も受けやすく、冬場は悪化傾向にあります。
治療は原因疾患の治療や外的な原因を取り除いたうえで、尿素軟膏やワセリンなどの保湿剤を使用します。流動パラフィンやリン脂質も良いとされます。時にステロイド外用剤が奏功する場合もあります。
◆黄色爪・・・爪甲が分厚くなると爪は黄色調を帯びてきます。それで原因には様々なものがあります。先天性、疾患(腎、肝、肺、心、血液、内分泌、感染症、腫瘍、皮膚疾患など)、薬剤性、職業性、外傷性など。
爪甲の厚みと爪甲の発育速度は表裏一体の関係にあります。成長速度が半分になると厚みは凡そ2倍になります。黄色になる理由は明確ではありません。成長速度が遅くなって、爪が分厚くなれば爪の透明度は落ちますが、それだけではなく黄色物質が沈着するという説もあります。メラニンやリポフスチンなどが考えられています。
黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・・・黄色爪、リンパ浮腫、肺病変(慢性気管支炎、気管支拡張、胸膜癒着、肺炎など)の3徴候を伴った疾患を呼びます。これら全てそろったものが完全型ですが(27%)むしろすべてが揃うケースは少なく2つのみの不全型もあります。リンパ浮腫は下腿、足首近辺のものが多いものの、顔面、上肢の報告もあります。爪の変化の原因の詳細は不明ですが、リンパ流の不全がベースになっていると考えられています。この変化は器質的なものではなく機能的なものなので、リンパ流の改善によって軽快するとされます。中には副鼻腔炎から後鼻漏、痰から肺病変を起こすケースもあります。
治療は原疾患の治療によりますが、中には自然治癒例もあるそうです。大量のビタミンE、抗生剤、DMSO、ビタミンA酸が有効であったとの報告もあります。
◆Retronychia・・・1999年にde Berker, Renallによって初めて報告されました。外傷などが原因で不完全に脱落した爪甲が 後爪郭部に埋め込まれた状態です。本邦では2011年東が後爪郭部爪刺しと邦訳し3例を報告しました。本症例の報告例は少ないですが、正確な診断がつかないだけで実際の発症数は意外と多いのかもしれません。
外傷、ランニング、ダンス、ハイヒールなど爪先立ちをすることがきっかけで発症するようです。症状は近位側の爪甲の肥厚、黄白色化、爪甲伸張の停止、抗生剤、抗真菌剤で改善しない後爪部の慢性炎症、紅斑、腫れなどです。
剥がれかかった爪の下から新しい爪が2枚、3枚と出来上がり、下から古い爪を押し上げる格好になります。
治療は伝達麻酔下に爪甲除去術を行います。爪が除去された後は趾尖の変形に伴って爪の伸展が阻害されないように同部を下方に引っ張るテーピングを行います。
◆陥入爪・・・前回も話されましたが、東式とも呼べるアクリル人工爪による矯正法を提示されました。フェノール法などの側爪郭を除去する手術法は、短期的には良くても10年以上経過すると厚硬爪や鈎彎爪となって痛みを生じるようになるので不適切な治療法とのことでした。爪の左右の支えが無くなると爪は下からの圧力に抗しきれなくなります。
海外ではフェノール法が盛んに施行されているようですし、大きな肉芽腫ができた重症例は国内でもフェノール法がなされています。また形成外科では陥入爪の手術が行われています。このような点も踏まえて、しつこいようですが重症例でのフェノール法や手術法の可否を質問しましたが、やはり東先生の信念は不変でした。
海外の先生や外科系の先生方とのディベートを期待したいところです。

これら以外にも多くの爪病変について解説されましたが、それでも東 禹彦 著 「爪 基礎から臨床まで」の本の内容の一部にすぎませんでした。

爪甲図 「爪基礎から臨床まで」東 禹彦 原図 より

黄色爪 黄色爪 爪甲が厚くなると黄色を呈します.

IPL講習会

先日L社のIPL(Intense Pulsed Light)の講習会がありました。IPLは広帯域波長を発振するフラッシュランプでレーザーが単一波長の光源であるのに対して、キセノンランプを光源とした多波長で連続性、散乱性の性質をもつパルス光です。
本邦では1994年に発売され、色素病変、血管性病変、多毛など様々な皮膚疾患に使用されました。しかし、使用パラメーターが複雑で満足な結果が一部でしか得られず、過剰な期待が逆に期待はずれの評価となっていったそうです。頭文字をとってインチキパルスレーザーと陰口をたたかれたこともあったそうです。しかし10年を経ても生き残り、現在では抗加齢目的のnon-abrative skin rejuvenationの機器として一定の位置を占めるようになったとのことです。(golden standardという人もあります。)
当日は「Photo Facial IPLの基礎と活用のヒント」と銘打ったワークショップでした。
2人の講師の先生のいろいろなタイプの”シミ”を中心にした治療例を示していただきました。数年後の顔のほうがむしろ若々しい印象の写真もありました。確かに真皮性のしみ(ADMや太田母斑)には効かないし、しわ、たるみなどにも効きませんが、顔の全体的なトーンが明るくなり、赤みにも良いようで、ダウンタイムがなく、日本人向きなのかなという印象をもちました。IPLの一番の適応は光老化(皮膚の粗ぞう、色素異常、毛孔開大、血管拡張)を改善させることといいます。それに、なかなかいい治療法のない酒さや、足底疣贅にも著効を示していたのが印象的でした。
講師の先生によるハンズオンもあり、実用に即したなかなか興味深いワークショップでした。
当日のワークショップでみせていただいた、素晴らしいシミやクスミの治療の経過写真に感動した一方でまた、シミの治療の難しさ、奥深さも考えさせられました。
美容皮膚科の治療で最も中心になるのが”シミ”の治療だといいます。当日帰ってからシミの治療で本邦では第一人者の一人である葛西健一郎先生の「シミの治療 第2版」を読みました。(ちなみに第1版よりも第2版はかなりパワーアップしています。)
葛西先生の著書などを種本に、個人的な感想を述べてみます。

シミといっても、実にさまざまな疾患、状態があります。大きく先天性、後天性に分け、またメラニン色素の存在の部位によって表皮性、真皮性に分けると比較的わかり易く分類できます。日常でシミの鑑別になる疾患は以下のものが挙げられます。
老人性色素斑、太田母斑、脂漏性角化症、炎症後色素沈着、雀卵斑(そばかす)、肝斑、後天性真皮メラノサイトーシス(aquired dermal melanocytosis: ADM)など。
これらの疾患の鑑別は時として難しいことがあります。IPLはその特性から太田母斑やADMなどの真皮病変には効果がありません。
では表皮性のシミならばすべてIPLで良いかというとそうでもありません。肝斑は原則レーザーは禁忌ですし、炎症後色素沈着にもむしろ何もしないでそっと炎症が収まるのを待つのが最善の方法だといいます。そばかすや日光性色素斑が良い適応のようです。葛西先生の考えでは老人性色素斑、脂漏性角化症(本質的には同一疾患)のような良性腫瘍に対しては完全に除去できるレーザー治療が第一義で 部分的に取れるだけのフラッシュライトを使うまでもないというスタンスです。然しながら一方で若返り(rejuvenation)という目的ならば完全除去を目指さなくても肌質の改善、シミの緩和という合目的な治療方法であろうと述べています。
肝斑については当日の講師の先生も数回のIPL照射で肝斑が顕在化してきても メラニン吸収を抑えた640nmなどの長波長を設定して低出力、長いパルス時間でマイルドな照射を行えば肝斑の治療が可能ということでした。
肝斑の治療については、葛西先生はIPLもレーザートーニングも良くないという考えです。ここら辺りは専門家の間でも考えの異なる部分です。

IPLのワークショップに参加してみて、専門参考書を見てみて、改めてシミの診断と治療の難しさが思い起こされたことでした。

最近のニキビ治療

先日最近のニキビ治療についてのweb講演会がありました。講師は東北大学の山﨑研志先生でした。平日のお昼休みの時間でしたが、G社とS社の後援で勉強させて頂きました。
午前中の診療を終わってからすぐのあわただしい講演会でしたが、最近のトレンドを知る良い機会になりました。
一寸難しい基礎的な話と実用的な治療の話を取り上げてみたいと思います。

ニキビの治療については当ブログにやや詳しく書きました。(2013年1月から数回に亘って。)
その当時の記事を読み返してみますと、わずか数年の間にニキビ治療の環境が随分変わったことに驚かされます。書いた記事の内容はそれ程訂正することはないと思いますが(ニキビの専門の先生の記事を丸写ししたものなので当然かもしれませんが)当時は新薬といえばアダパレン(ディフェリン)だけだったと思います。将に日本はニキビ治療に関しては後進国でした(渡辺晋一先生の言によれば)。
その後立て続けに新薬が上市されました。BPOゲル(ベピオ)、デュアックなどで漢方薬でもニキビへの適用に力を入れています。また美容、レーザーなどの分野でも販促に力を入れています。いろいろな選択肢が一気に増えてきたようで嬉しい限りですが、じゃーなんで長いことニキビ治療後進国に甘んじてきたのだろう、と素朴な疑問を持ってしまいます。日本の技術力が遅れていたわけではなかろうに・・・。一介の開業医にはその辺の事情はわかりませんが。
それはさておき、山﨑先生の講演は自然免疫の専門家だけあってニキビの病態や治療薬の機序について基礎的かつ科学的な解説をされました。ただ、一寸難しくてついていくのが一杯一杯でしたが。
以下の部分は参考までに山﨑先生の論文から書き写したものでスルーして下さい。

アクネ桿菌は顔面の皮膚の常在菌でそれだけでは炎症反応は起こりません。表皮角化細胞は自然免疫受容体であるTLR2(トールライクレセプター2)を発現します。ニキビ発症初期にはTLR陽性細胞(主に組織球)が病変部に集まっています。TLR2はアクネ桿菌や脂肪酸を感知することで炎症性サイトカインTNF,IL-1などを誘導します。TLR2を欠損した細胞ではその誘導は起こしません。これら活性化した炎症性サイトカインは細胞内シグナル伝達分子のNF-κBとMAPK JNK/p38~Jun/Fos経路を活性化させます。炎症反応が進展すると更なる連鎖を起こし、Jun/Fos複合体のAP1の形成を促進させます。これによって遺伝子の転写が促進されMMP(matrix metalloproteinase,細胞外基質分解酵素)の発現を増強させます。MMPの増加はコラーゲンを含む真皮細胞外マトリックスの分解と変性をきたします。これによってニキビ瘢痕が形成されると考えられます。
このように分子レベルでニキビ形成、瘢痕形成の機序が説明できるようになったことでその各部位に効く薬剤の開発、選択肢も科学的に拡がってきました。新薬の作用機序も分子レベルで説明できるようになってきました。

上記の機序はさておいて、ニキビは青春のシンボルではないですが、思春期になって男性ホルモン(アンドロゲン)の作用によって(女性でもアンドロゲンの働きはあります。)皮脂腺に皮脂がたまって毛漏斗部に角化異常がおこり、閉鎖面皰(closed comedo,白ニキび)ができることから始まります。それが膨らむと先端が開いて開放面皰(open comedo,黒ニキビ)となります。アクネ桿菌(propionebacterium acnes)が増えると炎症をおこして紅色丘疹、膿胞ができます。さらに進展すると嚢腫、結節ができ、炎症が収束しても萎縮性瘢痕、肥厚性瘢痕を残しずっと消えないことにもなります。それでニキビ治療の要諦は初期に治して、いかにして瘢痕を作らないようにするかにつきます。
ニキビは見た目だけの事で、日常生活機能になんら差し支えないともいえますが、一方でいやな思いをしたり、いじめられたり、また不安、引きこもりがちになるなど若者の精神的に大きなマイナス要因となってQOL(quarity of life)を大きく損ねているとの統計結果もあります。

ニキビの治療は近年アダパレン(ディフェリン)、BPO製剤が登場してきたことにより耐性菌を意識しながら、急性炎症期、維持期に対し異なるアプローチをとる方式が提唱されるようになってきました。
◆急性炎症期
ニキビの炎症性皮疹である紅色丘疹、膿疱などが長期に続くと不可逆的な瘢痕を残しやすくなります。急性期の治療ではいかに早く炎症を抑えて瘢痕を作らないように持っていくかということが重要です。
それで
アダパレンとBPO,BPO/CLDM(DUAC:デュアック 3%過酸化ベンゾイルと1%クリンダマイシン配合ゲル)、さらに抗生剤の組み合わせを重症度に応じて併用するアルゴリズムが提唱されています。
重症例ではファロペネム(ファロム)などの抗生剤の短期間併用投与の有効性も示されています。
耐性菌を作らないためには外用、内服抗生剤を極力減らすことが大切で、その危険性が少ないBPO製剤が良いのでしょうが、早く炎症を抑えるには抗生剤が有効なわけで、この兼ね合いをどのようにするかは明確な基準はまだないようです。専門家によっても、若干の考えの違いはあるようです。(炎症を早く抑える意味でDUACを推奨する人と、耐性菌のことを考えてBPO単独製剤を推奨する人と)患者さん個々人の重症度、反応性、薬剤耐用性によっても異なってくるかもしれません。ただ、大筋では急性期は4~12週で、その間はアダパレンをベースにBPO製剤を併用し、重症度に応じて抗生剤も加えていくという道筋は決まっているようです。
◆維持期
長期になると、耐性菌の問題がでてきます。欧米などは薬剤耐性アクネ桿菌の比率が年々高くなり、報告によっては5割を超すほどになってきたそうです。日本は欧米ほどではないものの近年は20%を超すとの報告もみられます。
そこで治療の原則はアダパレンとBPO製剤となってきます。
ただ、両方の薬剤ともに、刺激感の強い薬剤でもあります。特に薬剤導入時の2週間から1か月の間に副作用が出やすいようです。ひりひり感、かゆみ、乾燥、紅斑、かぶれなどがあります。それで専門家によってはBPO製剤は炎症部分にのみポイントでつけて、徐々に馴らしていくやり方を推奨している人もあります。

最近、日常診療をしながらニキビ治療で気づいたことをアトランダムに述べてみたいと思います。
・デイフェリンの効果は実感していますが、やはり時々刺激が強くて使えないという人があります。保湿を十分にして、週2,3回位でも試してみて、といってもダメな人もあります。必ずしもアトピー性皮膚炎というのでもなさそうですが、これらの人にいかに安全に使ってもらえるか、今後の課題です。
・ディフェリンの最初の処方の際は、パンフレットを渡し、女性では妊娠時の禁忌のことは告げていますが、さすがに毎回は確認しません。女性の皆さん、妊娠、授乳時はダメなことを覚えておいて下さい。
・BPO処方の際にも、注意事項は告げていますが、衣服が白くなった、脱色したという人がありました。ブログなどでもそういった記事を目にすることがあります。過酸化ベンゾイルは酸化剤で脱色作用があることに注意が必要です。
・ベピオは2.5%の製剤です。海外のものではより高濃度の製剤もあります。やはり5%のベンザダームのほうが効いたという人もありました。
・ファロムは重症のニキビによく効く印象があります。但し、胃腸障害は強いようでダメな人はほんの2,3日で下痢してしまいます。
・K社はこのところニキビの漢方薬に力を入れているようです。十味敗毒湯は桜皮のエストロゲン様作用で特に女性に効くとのふれこみです。真偽のほどはわかりませんが、確かに良い人もあるようで抗生剤からの切り替えにも良さそうです。T社の十味敗毒湯の方が好きな人もいます。実のところ、医師によって色々な漢方薬がニキビに使われていてどれが最適かはわかりません。
・日常生活でのスキンケアの大切さも感じます。マスクの刺激で悪くなっている人も結構あります。スキンケアは重要ですが、しっかりするというより、間違ったことをしないことも必要かと思います。日臨皮三ブロック合同学術大会の村田先生の講演でもありましたが、強くマッサージしたり、洗顔したりして赤ら顔を余計悪化させているケースは時々見かけます。
・ニキビ痕をなんとかしてくれ、という要望は多いです。それが一番難しく、悩ましいニキビ治療の問題点かもしれません。ケミカルピーリング、フラクショナルレーザーなどの有効性が報告されていますが、より良い治療は今後の課題なのでしょう。

山﨑研志: 痤瘡治療のゴールを目指して.~痤瘡瘢痕のメカニズムと対策を考える~ 日臨皮会誌:31(4).500-501,2014

林 伸和: 痤瘡治療の今後の方向性.日臨皮会誌:32(4).461-463,2015

谷岡未樹: 痤瘡治療の最前線.日臨皮会誌:32(4).464-465,2015

黒川一朗: 効果が実感できる痤瘡治療.日臨皮会誌:32(5).586-588,2015

日臨皮三ブロック合同学術大会

先週日本臨床皮膚科医会三ブロック学術大会がありました。
その時の講演の中でのさわりを一寸。
◆成人の顔の赤い皮疹の鑑別と治療  自治医科大学 村田 哲 先生
顔の赤い皮疹は湿疹から皮膚ガンに至るまで多岐に亘っていて枚挙にいとまありません。特に成人の女性では化粧を始め特異な習慣や外用が原因になることも多いと実例を呈示して説明して下さいました。原則として1)化粧をせずに受診 2)全ての治療を一旦中止する ことで修飾のない本来の皮膚の状態を確認することの重要性を述べられました。実際いろいろなマッサージ器具や化粧品、ひいては医師からの薬をやめることで赤ら顔がきれいになった例をいくつも例示されました。擦るなど何もしないことが結構重要な治療になるのです。勿論、皮膚科医としての十分な診断力がベースに必要なのは自明の理ですが。
◆下肢静脈瘤、静脈性下腿潰瘍の新しい治療戦略  自治医科大学 前川 武雄 先生
下肢静脈瘤の歴史は意外と古く、紀元前から記載があり、500年代にはすでに結紮術がなされていました。19世紀末には近代的な高位結紮術、1921年にはストリッピング術、20世紀後半の硬化療法を経て、近年はレーザー療法がなされるようになってきました。下肢静脈瘤には浅在性の静脈の弁不全による一次性のものと、深部静脈の閉塞に伴って起こる二次性のものがあります。静脈には弁があって、立位であっても重力によっても血が下に下がらないようになっていて心臓に還流します。静脈圧は80~100mmHgあって運動すると30mmHgまで下がりますが、弁不全があると60mmHg程度までしか下がりません。深部静脈血栓があるとむしろ圧は上昇します。立位のドップラー聴診器を静脈上に当てて音を聴く場合、ミルキングでふくらはぎを揉み押さえると上行する血流音がシューと聞こえます。健常人ではこれだけですが、静脈瘤があるとその後にシューという下行音が聴かれます。
手術で静脈を引っこ抜いたり、硬化療法で閉塞させたりして大丈夫なのですか、との質問がよくあるそうですが、血流量は深部:浅在が9:1 静脈瘤だと13:-3程度になるので浅い血管を潰しても血流の問題はないそうです。(勿論深部静脈の血流が健在であるとの前提が必要ですが)
現在の治療はレーザー療法が主流となり米国では95%がレーザー療法だということです。本邦でも徐々に増えてきています。レーザーも980nmから1470nmさらにラジオ波へと進歩、改良を遂げているそうです。
しかし、ほとんど全ての静脈瘤に必要なのは圧迫療法です。弾力ストッキングを用います。実際に装着してみるとわかりますが、きつくて結構はき難いです。例えば40mmHgのものはきつくて穿けなくても20mmHgのものを2枚重ねて穿くという裏技もあるそうです。それと穿いたままでじっと安静はダメだそうです。飛行機の中で足の屈伸運動をするように動かしてポンプ作用で血液を送り出すことが重要とのことだそうです。
◆皮膚科医がみるSjögren症候群  獨協医科大学 濱崎 洋一郎 先生
涙腺や唾液腺などの外分泌線障害を特徴とする自己免疫疾患で推定有病率は人口10万人あたり55人と膠原病の中では比較的多い疾患です。膠原病の代表ともいえるエリテマトーデスにも匹敵する数です。しかし症状が多彩で不定なために診断がつきにくい疾患でもあります。
男女比は1:17と圧倒的に女性に多いです。皮疹を有する割合は30~40%程度です。皮膚病変は多彩でしもやけ様皮疹、光線過敏症、レイノー症状、薬疹、環状紅斑、高ガンマグロブリン性紫斑、眼瞼炎、虫刺様紅斑、口角炎、乾癬などです。
検査値では抗核抗体、SSA,SSB,RA陽性、γ-gl高値などです。これらで疑ったら眼科でのシルマーテスト、ローズベンガルテストなど低侵襲検査から唾液腺造影、口唇唾液腺生検などへと進みます。
シェーグレン症候群の患者さんから子どもが生まれると新生児LEを生じることがあります。顔面を中心に環状紅斑がみられます。IgG抗体が母体から胎盤を通して移行したもので半年程度で治癒しますが、中に心ブロックを来すことがあり注意を要するとのことでした。
シェーグレン症候群は皮膚病変が多彩なだけに、乾燥症状などをチェックして同症を念頭に置かないと見過ごしてしまい易い疾患と感じました。
◆皮膚科医でも実践できる帯状疱疹関連痛の薬物療法  獨協医科大学 山口 重樹 先生
帯状疱疹は日常診療で毎日のように遭遇するありふれた疾患です。若年者から高齢者までみられます。若い人の帯状疱疹は大体が軽くてすみ、ほとんど痛み止めも要らないくらいの人が多いように感じます。ところが中年以降になるとこれが同じ病気かと疑うくらいに様相が異なってきます。皮疹もひどく、水疱からびらん、潰瘍となってなかなか治らなかったり、皮膚症状は治っても激しい痛みがちっともとれずに、変な感じの痛みに変わってずっと長期間続いたりします。
本講演は後者の痛みの強い患者さんへの対応の仕方についてのものでした。
帯状疱疹で強い痛みの続く傾向のあるケースは、
60歳以上、三叉神経部位、皮疹がひどい時、当初から激しい痛みのある時、アロディニアといって痛みの性質が変化してきた時、免疫不全、抗ウイルス剤等の治療の遅れ、鎮痛治療の遅れなどです。
帯状疱疹関連痛には2種類あって最初は侵害受容性疼痛で、もう一つは神経障害性疼痛でこれが長期に続いてやっかいなものです。心因性、ストレス性疼痛、帯状疱疹後神経痛とも呼ばれるものです。
一般的に痛み治療には1)神経ブロック 2)運動療法 3)薬物療法 などがあります。
先生は麻酔科の医師としてずっと神経ブロックを帯状疱疹の患者に対して行ってきたそうです。注射をすると楽になりました、と患者さんは返っていきます。ところが、2,3日もするとまたブロックに通ってきます。ある患者さんの通院カレンダーを見せて頂きました。きっちり週3回数ヶ月に亘って通ってきていました。そのつど息子さんが車で送り迎えしていました。これでは患者及びその家族のQOLをかなり低くしていることを思い知らされたといいます。
外国で知り合ったドクターのある言葉が身に沁みたといいます。to cure sometimes, to relieve often, to comfort always.これを帯状疱疹の治療になぞらえれば時々神経ブロックで痛みを治し、薬物療法で痛みを軽減させ、常に患者に対し傾聴し、共感することだと思い至ったとのことです。そこから薬物療法の重要性をことに認識されたそうです。
カナダでは帯状疱疹の痛みに対してオピオイド(麻薬)、抗うつ剤、抗痙攣剤が用いられるといいます。消炎鎮痛剤が主流の日本とかなり様相が異なっています。
薬物療法ではアセトアミノフェン(カロナール)、消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)、リリカ、トリプタノール、トラムセット、フェンタニル(デュロテップ)MTパッチなどがあります。
急性期の痛みを経てどのような時に神経障害性疼痛を考えるか、のサインは痛みの質が変わってきて衣服が擦れただけで痛い、冷風だけで痛いというような時(アロディニア)、しびれるような痛み、針でつついたような痛み、火で炙ったような痛み、電気が走るような痛みを訴える時などです。このような際には痛み治療の対策をギアチェンジして考慮する必要があるといいます。
いろいろな疾患や合併症をかかえた高齢者が該当することが多いことを考えると漫然と消炎鎮痛剤を投与し続けるのはまずいそうです。高齢者にはアセトアミノフェン(ちなみにこれは抗炎症作用はないので鎮痛解熱剤といった分類になるそうです。)かトラマドールが良いそうです。トラマドールは末梢から中枢のいろいろな機序の痛みに効くそうです。
ただし、吐き気、便秘などの副作用があります。これも最初の1,2週間なので十分に説明して制吐剤や下剤などを併用し少量から増量していけばほぼ問題なく増量ができるそうです。
高齢者の帯状疱疹後神経痛では痛みが長引き苦労している患者さんもいます。最近使い始めたトラマドールは良さそうな感触です。
これらの薬で長引く痛みがうまくコントロールできれば幸いなことと思いました。