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痒疹(6)妊娠性痒疹

妊娠時には様々な瘙痒性の皮疹がみられます。
それらに対しては従来から様々な名称で呼ばれてきました。現在でもその名称、分類が確定しているとはいえません。
ただし、大方の皮膚科医に敷衍している病名としては、妊娠性痒疹、PUPPP(pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy)が挙げられるかと思います。
最近は、妊娠時の瘙痒性皮疹を生じる人の多くがアトピー素因を持つことが統計的に解析されてきており、atopic eruption of pregnancy(AEP)という概念も提唱されてきています。
これらを主体に妊娠時の痒みについて調べてみました。
◆妊娠性痒疹
early-onset prurigo of pregnancy, prurigo gestationis などと呼ばれてきました。妊娠の初期から中期に発症することが多いです。躯幹、四肢の伸側に孤立性の丘疹、結節が散在してきます。痒くて引っ掻くことで頂点に痂皮やびらんを伴います。最近は多くのケース(約半数)でアトピー素因、またはアトピー性皮膚炎を有していることが報告され、AEPとの概念のもとに再分類される動きもあります。従って中には痒疹型、湿疹型がみられます。湿疹型は痒疹の定義からすればこの分類からはずれることになります。
◆PUPPP
1979年にLawleyらによって提唱された病名です。late-onset prurigo of pregnancyとも呼ばれるように、妊娠後期に発症します。米国ではPUPPPと呼称されますが、英国ではpolymorphic eruption of pregnancyと呼称されているようです。妊婦の0.5%に発症するとされています。
腹部に多く、蕁麻疹様の浮腫性の紅斑、紅色丘疹が認められます。初回妊娠時に多く、体重過多、多児妊娠の人に多いとのことです。四肢にも出現し、皮疹の形状も小水疱や多形紅斑様になるなどバリエーションがあるとされます。
原因は不明ですが、妊娠に伴って腹壁が過伸展し膠原線維が損傷され、その関連のアレルギー物質が関与するとの説、胎盤の父方抗原に対する反応との説、妊娠に伴うホルモン説など様々な説があります。
ただ、この両者にしても明確には区別できないように思われます。現に小生の経験したケースはまさにPUPPPの臨床像をとりながら、妊娠3ヶ月ごとに3回の妊娠ごとに発症していました。また中に痒疹、丘疹も伴っていました。
◆AEP(atopic eruption of pregnancy)
妊娠に伴って痒みを伴う皮膚疾患は多く、従来様々な病名で呼ばれてきましたが、その基準は明確ではなく、病名が多くて混沌としています。2006年Ambros-Rudolphらは新たにAEPという概念を提唱しました。10年間の505例の妊婦の皮膚病変を解析したところ、約半数で湿疹様の皮疹が見られました。2割は既往のアトピー性皮膚炎の悪化、残りの8割では本人または家族にアトピー性素因があるといいます。臨床的には湿疹型(Eタイプ)と痒疹型(Pタイプ)に分けられています。
この概念に対しては、認める意見と、反対の意見があるとのことです。
ただ、痒疹と湿疹を一まとめにしてアトピーとするのは、わが国の厳密な定義、概念からすると相容れない分類のようにも思われます。
これら疾患に対する治療としては、ステロイド外用薬が用いられます。一般的な使用方法であれば胎児への影響はほとんどないとされます。痒みが強ければ抗ヒスタミン剤を使用することになりますが、比較的安全とされるクロルフェニラミンマレイン酸塩などが使用されます。コントロール不良の際は少量のステロイド内服を使用します。
いずれも能書に従って、十分に説明の上使用することになります。

【鑑別診断】
◆妊娠性疱疹(herpes gestationis)同義語:妊娠性類天疱瘡(pemphigoid gestationis)
妊娠または産褥期の女性に腹部(特に臍部)、臀部、四肢に激しい痒みを伴って蕁麻疹様紅斑が多発し、周囲に小水疱を生じます。
分娩前後に急に悪化することがあります。出生児に同様の皮疹を認めることもあります。また未熟児、早産などもあります。本態は妊婦に生じた水疱性類天疱瘡と考えられています。BP180(17型コラーゲン)のNC16a領域に対する自己抗体が陽性になります。(かつてはHG因子と呼ばれました。)HLA-DR3,HLA-DR4の人に高頻度にみられるとのことです。蛍光抗体直接法で基底膜部にC3の線状沈着を認めます。30~40%ではIgGの沈着も認めます。
出産後2-3ヶ月で消退しますが、ステロイド外用剤、重症の際はステロイド内服を行います。次回妊娠で9割が再発し、経口避妊薬を使用すると再燃するとされます。
わが国での報告は100例に満たず、稀な疾患です。
◆妊娠性肝内胆汁うっ滞症(intrahepatic cholestasis of pregnancy:ICP)
胆汁うっ滞による激しい痒みのみで皮疹は認めません。スカンジナビア、チリに多く、わが国では稀とのことです。
70%以上が妊娠後期に発症します。発症1~3週後に黄疸を生じます。母体にはさして問題はありませんが、胎児仮死、早産などが高率となるため注意が必要とされます。

参考文献

皮膚科臨床アセット 18 紅斑と痒疹 病態・治療の新たな展開 
総編集◎古江増隆 専門編集◎横関博雄 中山書店 2013

日皮会東京・東部支部合同学術大会

2月20、21日の両日日皮会支部総会が京王プラザホテルで開催されました。
いつもと一寸違って東京支部(東京医大坪井教授)と東部支部(山形大鈴木教授)の合同学術大会です。先日、東京医大の医会に出席して事務局長の原田先生と会った際に大きな大会で準備大変でしょう、と話したところ一番の心配は天気です、とのことでした。案の定大荒れの春の嵐でしたが、さすがに雪は降りませんでした。とかくこの時期の学会は荒天になり易いようで開催する方はやきもきするでしょう。無事成功裏に終わったようで何よりでした。
土曜日は雨風の中、外来診療を終えてすぐに会場に向かいました。佐藤先生の乾癬の抗TNFα抗体の話には何とか間に合いました。続く椛島先生の皮膚免疫、iSALTの話も満喫、しかし免疫の話は難しくて実のところよく解らず。続く援川氏の医療現場でのトラブル・クレームの話では患者さんへの気遣いの一言、言葉使いの一言の大切さを教わりました。懇親会では美味しいものやお酒をいただき、マジックショーを楽しみました。ホステスとして参加された(?)新宿のオネエ様方も宴に華やかな彩りを添えていました。
翌日は朝からほぼ同じ部屋に座りきり。乾癬の話はドボベットを中心に外用療法の話、新進の多田、ベテランの山本両先生の話は流暢かつ明快。続くセッションでは診断、治療にてこずる皮膚疾患を学ばせていただきました。会長の坪井先生をはじめ、おなじみの専門家の教育講演でした。坪井・・・脱毛症、沢田・・・下腿潰瘍、佐藤・・・痒疹、斉藤・・・中毒疹、多汗症・・・横関、疣・・・江川、蕁麻疹・・・森田、酒さ・・・出光先生。これら先生方の多くは教本や講演を過去のブログにも取り上げていますが、へー初めて聞いた、というような話も多々ありました。(後で教本を見てみると赤字で下線が引いてあったり、過去のブログに書いたことをすっかり忘れていたり、情けない限りです。)
ランチョンはこれもおなじみの渡辺先生、錦織先生の紫外線の話、午後からはシミの専門の先生の話を聞きました。
(船坂、田中、斎田、秋田)いずれも過去に取り上げた先生方です。ためになったけど何回聞いてもすぐ忘れるのだなーと思いました。気づいたら企業展示にも、書店、CPC、ポスター会場にも寄らずに終わっていました。
濃い2日間でした。

今回の学会の特筆すべきところはE-learningで見落とした会場の講演も一部聴講できることです。

PS:会の前半では、一方の会長である山形大学の鈴木先生の専門の白斑、色素異常症の教育講演が並んでいました。滅多に聴けない内容なので聴きたかったのですが、間に合いませんでした。大阪大学の片山教授コラムをみたら今学術大会についての印象記がありました。(毎回各学会についての短いながらも深く的確なコメントがあり、時々拝見しています。)先生も白斑の専門家であり、コロラド大学Spritz先生の自己免疫性白斑のGWAS解析の講演へのコメントもありました。
日頃あまり見たこともなく、勉強したこともない白皮症などE-learningで覗ければと思っています。

先日、東京医大皮膚科教室(坪井良治教授)の主催する西新宿皮膚科研究会に出席しました。関係者ではないのですが、数回出席して興味深い内容なのでまたでてみました。片桐一元先生(獨協医科大学越谷病院皮膚科教授)の痒疹治療のアルゴリズムの話がありました。痒疹の治療については、日本皮膚科学会によるガイドラインもありますが、それらを元に治療についてまとめてみます。
片桐式痒疹治療の骨子は、(特に多形慢性痒疹に対して)十分量の保湿剤、適切なステロイド剤の外用を手始めに、アレロック、クラリチンなどの抗ヒスタミン剤を使用、あるいは倍量使用するなどで痒みを十分に軽減させ、さらにマクロライド系抗菌剤を追加していくというものです。それでも難治性の場合は紫外線照射、シクロスポリン内服とステップアップしていきますが、通常のクリニックの治療では前者まででも次のステップがあることなど明確な治療方針を提示し継続治療することでかなりな割合で寛解にもっていけるというお話でした。

「治療面から見た場合、基礎疾患がある場合はその治療により痒疹も軽快することがあるが、多くの症例ではその原因を明らかにすることは困難である。慢性痒疹は、通常のステロイド外用や局注にも抵抗性を示すことも多く、頑固な痒みにより、日常診療においてもでこずることが多く、個々の医師により様々な治療法が個別に試みられているのが現状かと考える。このような現状から2012年に日本皮膚科学会と厚生労働省研究班により慢性痒疹診療ガイドラインが策定、公表された。・・・慢性痒疹は症例数も限られており、EBMに耐えうる治療研究は少ない・・・」
デルマ Derma「痒疹の粘り強い治療」編集企画にあたって  片山一朗  巻頭言より 抜粋

日本皮膚科学会慢性痒疹診療ガイドライン
様々な定義がありますが、本ガイドラインでは痒疹を「痒疹丘疹を主徴とする反応性皮膚疾患である」と規定してまとめてあります。
慢性痒疹を結節性痒疹と多形慢性痒疹に分けています。
結節性痒疹はブヨ、蚊、南京虫などの虫刺症後に発生することが多く、硬いドーム状または疣状の結節を形成します。胃腸障害、肝障害、病巣感染、内臓悪性腫瘍などの関与が想定される症例もありますが、多くは原因不明です。真皮神経の過形成がみられることより、神経系の異常の関与も示唆されています。多形慢性痒疹は中高年の下腹部の痒みの強い蕁麻疹様丘疹で始まり、やがて常色から淡褐色で充実性丘疹、結節となり集まり、融合していきます。原因としてアレルギー、胃腸障害、肝腎障害、性ホルモン失調などが想定されていますが、これも多くは原因不明です。
以上のことより、まず慢性痒疹の治療のアルゴリズムとしては原因の検索を行います。もし基礎疾患がみつかればその原疾患の治療によって痒疹も軽快するケースがあります。
その上で、スキンケアや皮膚刺激の回避などの生活一般の指導を行います。ある意味、痒疹の治療方針は多くの点でアトピー性皮膚炎の治療指針と重なります。
治療薬はステロイド薬の外用、局注を主体に、抗ヒスタミン剤の内服を行います。ステロイド含有テープ剤も有用です。
これらの治療で効果がみられない時は、タクロリムス軟膏の外用、液体窒素による冷凍凝固法、中波長紫外線療法、活性ビタミンD3薬外用、カプサイシン軟膏外用などが試みられています。
さらに重症例に対してはシクロスポリンなどの免疫抑制剤やステロイド薬の内服が行われます。ただし、ステロイド内服での長期予後の改善は認めらないとされ、副作用を考慮すると急性増悪期の短期間のみに留めるべきとされています。
以下に難治性の際に試みられる治療について個別に取り上げてみます。
◆ビタミンD3軟膏
大阪大学の片山らが1996年に結節性痒疹に対して有効であることを報告しました。ガイドラインでは推奨度:C1で推薦文では「活性型ビタミンD3外用を評価した研究は少ない。外用ステロイドに対する効果が低く、長期間の治療による副作用が見られる症例では、使用を考慮してよい。しかし十分な根拠はない。また保険適用外である。」とされています。臨床効果発現機序は1.炎症性サイトカイン調節作用 2.アポトーシス誘導作用 3.調節性T細胞誘導作用 などが想定されています。 また使用に際してはステロイドからの変更では悪化のないことを左右差で確認するなど徐々に行うこと、悪化例では交互使用などを推奨しています。バリア機能低下や腎機能低下例での多量の使用による高カルシウム血症などの副作用への注意は乾癬の場合と同様です。
◆紫外線療法
ガイドラインでは推奨度:C1で推薦文では「本症が極めて難治であることを考えれば試行してよい方法と思われる。Bath PUVA, broadband UVB(BBUVB), UVA1は、有効性が期待できる。ただし保険適用外である。」とされています。
ほとんどが症例報告で明らかなエビデンスはありませんがいずれの波長の紫外線でも有効であったとの報告があります。慢性痒疹の病態、光線療法の奏功機序については明確ではありませんが、以下のように考えられています。
慢性痒疹では皮膚の神経線維分布の増加、表皮肥厚、過角化、真皮ではリンパ球を主体として肥満細胞や好塩基球、好酸球を混じた細胞浸潤がみられます。また皮疹部の表皮、真皮での神経線維の増生と肥大化がみられるとの報告や神経線維の近くに上記炎症細胞がみられるとの報告もあります。したがってしつこい痒みを有する痒疹の病態には神経原性炎症の関与も考えられています。
紫外線は神経線維の増生を抑制し、神経ペプチドの遊離を抑制するなど神経原性炎症を抑制的に制御すると考えられています。さらに光線療法は表皮角化細胞のアポトーシス誘導、ランゲルハンス細胞の機能抑制、肥満細胞の脱顆粒抑制、肥満細胞、T細胞に対するアポトーシス誘導などが考えられています。
◆抗生剤内服
ガイドラインでは推奨度:C2で推薦文では「マクロライド系抗生剤であるロキシスロマイシンやクラリスロマイシンには、抗炎症作用や免疫調整作用があり、慢性痒疹の病態を考慮すると臨床的効果が期待される。しかしエビデンスレベルの高い臨床試験は行われていない。また保険適用外である。」
これら14員環マクロライド系抗生剤の奏功機序は多岐に亘っています。想定されるものは以下の物質、炎症性サイトカインの発現、機能抑制です。
T細胞・・・IL-2,IL-4 単球、マクロファージ・・・TNF-α、IL-8 肥満細胞・・・ヒスタミン 樹状細胞・・・抗原提示機能 表皮角化細胞・・・炎症性サイトカイン 神経・・・サブスタンスP、神経成長因子
慢性副鼻腔炎やびまん性汎細気管支炎などに準じてロキシスロマイシン300mg/日、クラリスロマイシン200mg/日の 長期投与が試みられています。
◆シクロスポリン
乾癬、アトピー性皮膚炎に適応があります。Th1,Th2両方の系に作用します。痒疹はTh2, Th17細胞の皮膚への浸潤が見られる疾患とされ同剤も効果があります。ただし、その腎毒性、高血圧などの副作用もあり、欧米では最近は乾癬に対しても1年以内に留めるべきとされています。難治性のケースに留め長期に亘ってコントロールすべき薬剤では ないと思われます。
◆その他の薬剤
ガイドラインでは、この他にC1に相当する治療法として、液体窒素療法、鎮痒性外用薬(オイラックスなど)、カプサイシン軟膏、保湿剤、漢方薬をあげ、C1~C2に相当する薬剤としてサリドマイド、ナルフラフィン塩酸塩(レミッチ)があげられています。その他に抗うつ剤、トランキライザー、ガバペンチン、レセルピンなどの報告もみられます。
C1:行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない。
C2:根拠がないので勧められない。
痒疹の痒みには従来の抗ヒスタミン薬が効かないのが特徴ですが、痒疹の皮膚では、痒み過敏状態になっていて、最近の研究では神経系の異常や神経原性炎症が発症に関与している可能性が示唆されています。カプサイシン、レミッチが奏効することもこのことを裏付けています。痒疹の痒み発生機序は明確ではありませんが、オピオイド、サブスタンスP、サイトカイン、表皮内C線維などの関与が示唆されています。

慢性痒疹の治療を日皮会のガイドラインを元に概観してみましたが、やはりなかなか特効的な治療法がないのだなーというのが実感です。その一方で、専門の先生方が急に治った(寛解した)という経験をお持ちなのも、この疾患の興味深いところです。「薬剤をやめたら痒疹が治った。」「皮疹が顔面にまで広範囲に及ぶケースではカルシウムブロッカーなどの降圧剤の中止で軽快することが多い。」「会社の社長就任後にどんどん悪化して、貨幣状湿疹になり、結節性痒疹化したが、社長を降りたころ急に良くなった。」「胃癌切除後に症状が軽快した。」「ステロイド局注剤が一時的に市場から消えたために窮余の一策として十分量のヒルドイドクリームをラップでカバーする密封療法を行ったところこれまで数年の治療歴では経験しなかったような治療効果を得た。」「Basedow病の発見と治療により急速に軽快した。」
小生も最近、急激に痒疹結節の軽快した患者さんを経験し、その訳を聞いたところ、30回ずつ噛んで食べるようにしたら、長年の宿痾ともいえる便秘が治った、その頃からみるみる皮疹が良くなったとのことでした。
これらのことを勘案すると、痒疹の治療には体系的な治療法も大切ですが、個々の患者さんに付随するある種の”ヒント”を探り当てることの大切さを感じました。
日本皮膚科学会では痒疹の診療ガイドラインを改定中とのことです。どのようなものになるのか興味深いものがあります。

参考文献

佐藤貴浩、横関博雄、片山一朗、ほか.日本皮膚科学会ガイドライン 慢性痒疹ガイドライン. 日皮会誌 2012:122:1-16

【特集】痒疹反応 皮膚病診療 Vol.33, No.12(2011)

痒疹の粘り強い治療 ◆編集企画◆片山一朗 Derma 2014年2月号 No.214

皮膚科臨床アセット 18 紅斑と痒疹 病態・治療 新たな展開
総編集◎古江増隆 専門編集◎横関博雄 中山書店 2013

痒疹桐谷1  自験例

痒疹桐谷3b1 自験例 30回咬んで食べて便秘解消、その後痒疹も軽快

 

 

 

接触皮膚炎2016

先日の千葉県医会では埼玉県済生会川口総合病院の高山かおる先生の接触皮膚炎の講演会がありました。先生は2009年版の日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会の主要メンバーの一人でその作成に尽力されました。(現在改訂版のガイドライン修正作成中)
当日は、最近の接触皮膚炎の動向、接触皮膚炎、パッチテストの概要について解説していただきました。また最近発売された簡便なパッチテストパネル(S)についても解説されました。
接触皮膚炎は時代と共に、そのアレルゲン(抗原)は変わっていきますし、ある意味その時々の時代、社会生活を反映する鏡のようでもあります。
講演の中からポイントとなる点をピックアップしてみます。
またガイドラインの内容も加味して書いてみました。
【接触皮膚炎の検査】
接触皮膚炎は原因物質のアレルギー、一次刺激によって生じます。アレルギーの有無を調べる方法がパッチテストです。テストにはFinn chamberやトリイのパッチ絆創膏が用いられています。国際的には前者が標準とされています。T.R.U.E.TESTではユニットにあらかじめアレルゲンが付着されていて、より簡易にパッチテストを実施できます。最近本邦でもready to useの簡便なパッチテストパネル(S)が発売され(2015.5)、ジャパニーズスタンダードアレルゲンに対応する多くの原因物質の検査が簡単にできるようになりました。
今までのパッチテストでは、それぞれの披検物質をチューブだと5mm、液体だと15μlろ紙につけて準備します。それを上背部や上腕外側に貼付します。48時間後に剥がして、48、72、96時間後、更には1週間後に判定します。非常に手間がかかる割には保険点数は低く、患者さんにも数度の受診など負担がかかる検査です。しかも判定に偽陽性、偽陰性が一定の確率であり(1割程度)広く一般の皮膚科診療で行われているとはいえません。
しかし、接触アレルギーの原因究明において、パッチテストより確実かつ有用な原因解明方法はありません。一旦原因がパッチテストで解かり、それを除去できれば接触皮膚炎は治癒に向かいます。従って非常に重要かつ有用な検査です。
今回発売されたパッチテストパネルは高価ではありますが、レディーメイドの検査薬を背中に貼るだけで簡単に手技の巧拙に関係なく、標準化されたアレルギー検査ができます。
パネル2枚で各々11種類、全部で22種類のアレルゲンが検査できます。(ジャパニーズスタンダードの25種類のうち、21種類を含んでいます。比較の表をあげてみました。)
薬剤料15875.2円(1588点)+検査料350点=1938点(19380円)3割負担だとその3割、
【パッチテストの注意点】
◆excited skin syndrome
非常に強い陽性反応がでると、その周囲にも多くの陽性反応を引き起こすことがあります。これを上記のように呼びます。またはangry back syndromeと呼びます。このような場合は、非特異的な反応を否定するためにより少ない数や特定のパッチテストのみを再検査します。
◆偽陰性、偽陽性
上にも書きましたが、検査の結果と臨床症状が合わないときがあります。例えば毛染めではオープンパッチテストを行いますが、1剤、2剤を混ぜたものを施行しても、かなりな割合で偽陰性にでるそうです。その際に同時にパラフェニレンジアミンのパッチテストを行っていると陽性に出ることもあるそうです。
時には、再テストをおこなったり、接触皮膚炎を起こした部位で施行したり、テープで角質を剥がして施行したりして陽性に出る場合もあります。
また、眼瞼周囲部ではマスカラ、シャドーなどが原因になりえますが、パッチテストでは陽性にでず、使用テストで初めて陽性に出る場合もあります。
逆に金属抗原では刺激反応が出やすいともいわれます。
◆化粧品不耐症cosmetic intolerance
明らかな皮疹を欠くにも関わらずあらゆる化粧品で刺激感、灼熱感を訴えるケースがときにあります。特に乾燥肌、酒さの人に多くみられるようです。
【近年の接触皮膚炎の動向】
皮膚に接触するあらゆる物質が原因となりえますが、大きく以下のように分けられます。1.日用品 2.化粧品 3.植物、食物 4.金属 5.医薬品 6.職業性
それぞれについて留意点をあげます。
1.日用品
シャンプー、化粧品類に含まれる界面活性剤、衣類、文具、台所用品の抗菌製品、ゴム製品、衣類の染料、眼鏡のセルに含まれる着色剤など。
髪の生え際から額、耳介、項部にかけての湿疹では洗髪剤を考えます。フルフルシャンプーに含まれるラウロイルメチルβアラニンNaによる報告もあります。
イソチアゾリン系防腐剤であるケーソンCGは本邦ではシャンプーのような洗い流す製品にのみ使用可能でしたが、平成16年からは低濃度であれば洗い流さない製品にも使用が可能となったために陽性率の増加が懸念されます。外国製品に多く含まれます。美容パック、冷感タオル、BBクリームなどにも含まれていることがあります。眼鏡のセルでは寒河江の製造が外国製品に押されて輸入物が多くなってより着色剤solvent orange60によるものの増加があります。近年抗菌デスクマットによる前腕のかぶれが多く報告されました。ゴム製品は加硫促進剤をはじめとして、接着剤、樹脂成分などなどかぶれの報告は多いです。(履物、手袋、ベルト、テープ、マーカーペンなど)
2.化粧品、毛染め
毛染めによるものは増加傾向にあります。日本ではしっかり黒髪に染めるためにパラフェニレンジアミンの陽性率が諸外国より高いです。これは接触皮膚炎症候群など重症なアナフィラキシーに発展するなど注意を要します。先に述べたようにオープンパッチテストでは偽陰性に出やすいので注意が必要です。化粧品では免疫的機序のない刺激性接触皮膚炎や光の関与する接触皮膚炎もあります。茶のしずく石鹸や美白剤ロドデノールや口紅色素のコチニールなど使用頻度と共に急に製品被害が明らかになるケースもあります。
3. 植物、食物
イモ類はシュウ酸カルシウムによる刺激性の接触皮膚炎をおこします。アレルギー性ではプリムラ(西洋サクラソウ)、銀杏では激しい皮膚炎をおこします。銀杏は、うるし、マンゴー、カシューナッツと交叉過敏性があります。キクは光線過敏性皮膚炎に似た症状を呈します。葬儀屋、花屋勤務者では注意を要します。セリ科、ミカン科、クワ科の植物では光接触皮膚炎をおこします。含まれるフロクマリンによります。レモンパックなどは注意を要します。空中の花粉類との接触で生じる空気伝播性の接触皮膚炎もあります。スギではストッピングパッチテストが有用とされます。
4.金属
本邦のJCDRGによるパッチテストの陽性率の上位は金属が占めています。1位 塩化コバルト 2位 硫酸ニッケル 4位 重クロム酸カリウム 5位 塩化水銀アンモニウム
近年ピアス装着率は上昇、臍出しルックなど直接金属を肌につける生活習慣も定着しています。また、スマートフォン、iPADなどに含まれるニッケルアレルギーも増加しています。より頻度は少ないものの歯科金属、骨接合金属、血管内ステントによる金属アレルギーの報告もあります。チョコ、ココア、豆類、香辛料、貝類、胚芽に金属が含まれていることは意外に知られていません。また皮製品(皮なめし)、セメント、顔料、塗料、陶器うわぐすり、絵具、写真、灯油などにも含まれています。金属アレルギーは掌蹠膿疱症、汗疱性湿疹、扁平苔癬、貨幣状湿疹、痒疹、全身性接触皮膚炎症候群などに関与しているとされます。
最近簡単にニッケル、コバルトを検出するキットが発売されているそうです。
“Detecting Nickel or Cobalt is a Snap!” SmartPractice ネットで検索できます。
5. 医薬品
多くの医薬品がかぶれをおこします。抗菌薬ではアミノグリコシド系の硫酸フラジオマイシン、ゲンタマイシンなどがあります。リンデロンA、ネオメドロールEEは硫酸フラジオマイシンを含み、時にかぶれを起こします。眼瞼のかぶれの治療によく使われる薬ですので特に注意を要します。本邦では諸外国に比べて、フラジオマイシンの感作率が高いとされています。
アミノグリコシド系以外でもクロラムフェニコール、バシトラシンなど多くの抗菌薬の報告があります。抗真菌薬ではイミダゾール系で多く報告があり、また同系統では交叉反応を起こすために数種類の水虫薬でかぶれる場合もあります。
消炎鎮痛外用剤も多くの報告があります。ブフェキサマック(アンダーム)は時に激しいかぶれをおこします。ウフェナマート、インドメタジンもときにかぶれをおこします。
ケトプロフェン(モーラステープ)は光毒性が高く光接触皮膚炎をおこし易いので注意を要します。
局所麻酔薬の塩酸ジブカイン、塩酸リドカインもかぶれをおこします。また痒み止めの塩酸ジフェンヒドラミン(レスタミン)、クロタミトン(オイラックス)もときにかぶれをおこします。これらの薬剤はOTC(市販薬)の痒み止め、水虫薬などに多く複数含まれているためにかぶれの原因になっていることがあります。
接触皮膚炎の治療に用いられるステロイド薬そのものでかぶれることも稀にありますので注意を要します。ステロイドの消炎作用によって1週間近くたたないとパッチテストが陽性に出ないこともあります。
消毒薬、潰瘍治療薬もかぶれを起こすことがあります。、ポピドンヨード(イソジン、ユーパスタ、カデックス)、塩化ベンザルコニウム(オスバン)、グルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン)など。創部の悪化として現れるので原因が判りにくく、慢性化することもあります。
坐薬、膣錠には抗菌薬や局所麻酔薬が含まれていることも多く、粘膜部より吸収されて接触皮膚炎、ときには全身性の接触皮膚炎をおこします。
5.職業性
職業性皮膚炎の原因となるものは化学物質が多いですが、わが国の産業分野で使用されるものは数万種類といわれ、毎年新規の物質が導入されています。接触皮膚炎にはアレルギー性と一次刺激性のものがありますが、アレルギー性のものが60%とされています。危険性のある化学物質に対しては、化学物質等安全データシート(Matearial Safety Data Sheets: MSDS)を添付して販売するように義務づけられています。様々な原因物質がありますが、以下のものがあげられます。
・金属・・・ニッケル、クロム、コバルト
・合成樹脂・・・エポキシ樹脂、アクリル樹脂、空中に浮遊して症状をおこします。工場現場以外に歯科衛生士にも発症します。
・切削油・・・機械油
・ゴム・・・ラテックス(I型アレルギー)
・中性洗剤
・皮革
・セメント
・農薬、殺菌剤
・化学熱傷・・・酸、アルカリ、フッ化水素、灯油、セメント
・植物
頻度では理容・美容師が多く、メッキ、金属工場、化学系工場従事者、調理、飲食関係者、医療従事者、清掃業務者などがみられます。

参考文献

日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会 高山かおる、横関博雄、松永佳世子 ほか:接触皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌.119(9),1757-1793,2009(平21)

パッチパネル パッチテストパネル(S)とジャパニーズスタンダードアレルゲンの対比

製品情報 パネル(1)(2)の内容

パネル パッチテストパネル(S)