月別アーカイブ: 2016年3月

アトピー性皮膚炎とバリア障害

プロトピック軟膏マルホ5周年記念講演会に出席しました。
第1部は慶応大学久保亮治先生の「バリア障害からみたアトピー性皮膚炎とアトピーマーチの病態生理」という講演でした。
近年、特に注目を浴びているアトピー性皮膚炎のバリア障害、特にタイトジャンクション(tight junction:TJ)バリアについて詳細に解説されました。

生物は外界からの異物の侵入を妨げかつ生体成分を外界へ拡散させないように自己を外界から隔離する物理的なバリアを持っています。単細胞生物では細胞膜がそれに当たり、多細胞生物では上皮細胞のシートがそれに当たっています。
魚など水中に生息する生物は粘液が最外層を覆っていますが、陸上に上がり乾燥した外界と接するようになると内部の水分を失わないようなバリア機構が必要になってきます。哺乳類ではそれは角層バリアとTJバリアの2つの要素から成り立っています。
2006年にアトピー性皮膚炎の発症要因として角質層の主要構成たんぱく質であるフィラグリンの遺伝子変異が発見されました(palmer et al.)。このことはアトピー性皮膚炎が角質層バリアの破綻による抗原の皮膚内への侵入によってもたらされる可能性を示唆した画期的な発見でした。
久保先生はそれまで明らかにされていなかったTJバリアを3次元的に可視化することに成功し、さらにそれと免疫反応の始まりに重要な役目をする抗原提示細胞であるLangerhans細胞とTJとの関わりも可視化してみせて下さいました。当日の久保先生の講演を中心に、アトピー性皮膚炎とバリア障害について調べてみました。

【角層バリア】
皮膚のバリア機能の中心となるものが角層バリアです。角層は生体の最外側にあって、空気環境と体内の液性環境を隔てるバリアとして機能しています。外から内へは種々の刺激や、紫外線、細菌などの侵入を防ぎ、中からは水分の経皮的な蒸散(transepidermal water loss:TEWL)をコントロールしています。
この中で、主役を担っているのが、フィラグリンです。フィラグリンはまず前駆蛋白のプロフィラグリンとして顆粒層で産生され、顆粒層のケラトヒアリン顆粒の主要な構成要素となります。約400KDaの分子量で、10-12個のフィラグリンリピートを有しますが、角化の過程で脱リン酸化されて37KDaのフィラグリンとなり、角質細胞の内部を満たしケラチンフィラメント同士を凝集させます。また更に分解されてアミノ酸、ウロカニン酸などの天然保湿因子となります。
従ってプロフィラグリンをコードする遺伝子FLGに遺伝子変異があると正常な角化ができず、バリア機能が抑制されてTEWLも大きくなり乾燥肌、ドライスキンになります。2006年に欧州人で尋常性魚鱗癬でFLG遺伝子変異が同定されました。次いでアトピー性皮膚炎患者の同遺伝子変異も約2割の患者に認められることが報告されてきました。日本人でも2〜3割の患者に変異が認められることが報告されました。ただ、日本人の遺伝子変異の座は欧州人のものとは異なった部位とのことです。
このようにフィラグリンの遺伝子変異はアトピー性皮膚炎の主要な発症因子であることが報告され、またその後の疫学研究から、アトピー性皮膚炎を合併する気管支喘息、アレルギー性鼻炎、ピーナッツアレルギーの発症とも関連することがわかってきました。しかしながら、フィラグリン遺伝子変異の基本型像は尋常性魚鱗癬です。FLG変異の無い人でもアトピー性皮膚炎を発症しますし、魚鱗癬の人が全てアトピー性皮膚炎を発症するわけでもありません。アトピー性皮膚炎の発症にはバリア機能障害に加えて、免疫学的、炎症反応、環境要因などが複雑に関わっているものと考えられています。
角層細胞はcorneodesmosomeという物質によって互いに接着していますが、この分解過程に異常が生じると角層の厚さとバリア機能に変化が起きてきます。細胞外領域の分子desmoglein1, desmocollin1, corneodesmosinがKLK5,KLK7などの角層剥離酵素によって分解されることによって角質細胞は正常に剥離していきます。これらの異常によってもバリア障害をきたす種々の疾患を生じます。Netherton syndrome, peeling skin syndromeなど。
角層のバリア機能障害は、このようにアトピー性皮膚炎以外の疾患でも認められる現象です。

【タイトジャンクション】
表皮では、角質層の下に3層の顆粒層がみられます。顆粒層の細胞を外側からSG1,SG2,SG3と名付けるとTJはSG2細胞同士が接着する面の上側(apical)に存在します。TJバリアは角質バリアの下に位置するもう一つのバリアといえます。
表皮など上皮細胞シートの間の物質の移動は、細胞膜の様々なポンプやチャンネルを通過する能動的な機能(transcellular pathway)と細胞と細胞の隙間をシールするTJによるバリアによって受動的に物質拡散を調節する機能(paracellular pathway)に分けられます。TJ内部には微小な穴があり、物質の通過はその大きさなどにより制限、調節されています。
TJを構成する膜蛋白の代表がクローディンファミリー蛋白で24種類が知られています。この蛋白の種類によって、細胞間の接合が調節されています。表皮TJを構成するのは主にクローディン1と4です。これらが互いにジッパーのように働いて細胞間隙を密着させます。

【Langerhans細胞とTJバリア】
表皮内にはLangerhans cell(LGC)と呼ばれる免疫系の樹状細胞が存在します。これは外来抗原が皮膚内に侵入してくる時に最初に出会う抗原提示細胞です。LGCは表皮内で活性化して抗原を取得すると約2日後に真皮へと遊走し、リンパ管を通ってリンパ節に至り、T細胞に抗原提示を行い接触アレルギーの引き金となると考えられています。休止状態でのLGCは表皮有棘層にあって、樹状突起を皮膚表面の方向に向けていますがTJの下方にあります。ところが活性化すると樹状突起はTJとドッキングして時にはSG1層を抜けてその腕を角質層直下にまで伸ばします。Tricellulinという細胞同士が接触する弱い部分を抜けています。この際、TJバリアは再構築されて物質が漏れ出ないように制御されています。また物質透過試験に用いる試薬を皮膚に塗布すると、角質バリアを通って樹状突起の先端からLGC内に物質が取り込まれる様子が確認できたとのことです。
LGCの中には水平方向に突起を伸ばすものもあって、IDEC(inflammatory dendric epidermal cell)と呼ばれていますが、このものの機能については詳細はまだ不明です。
(この項、当ブログ、アトピー性皮膚炎と皮膚バリア構造 2015.4.13も参照して下さい。)
現時点でクローディン遺伝子などのTJバリアの異常がアトピー性皮膚炎とどのように関連しているかは明らかではありませんが、角層を通過した外来抗原はTJバリアを突き抜けたLGCとクロストークしてアトピー性皮膚炎の免疫、炎症反応に関わっていると考えられています。
【フィラグリン変異と臨床症状】
フィラグリン変異を持つ患者と持たない患者で症状、経過が異なることが知られています。変異を持つ患者では、1)2歳未満での発症が多い。 2)他のアレルギー性疾患を合併し易い。 3)成人型アトピー性皮膚炎への移行が多く、重症になり易い。4)掌紋増強を認める、などです。
【アトピーマーチとフィラグリン変異】
アトピー性皮膚炎の患者は他のアレルギー性疾患を続発し易いことが知られています。湿疹皮膚炎、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、喘息といった順序に続発していくというものです。これをアトピーマーチとよびます。フィラグリン変異があるとアトピーマーチに移行し易いことが外国の疫学研究から分かっています。最近国立成育医療研究センターの研究から生後早期に保湿剤などで介入することによってアトピー性皮膚炎の発症を抑制できることが明らかになりました。
この事からも、皮膚炎を治して慢性化、遷延化させないことが重要です。

参考文献

1)久保亮治. 表皮バリアとタイトジャンクション: 臨床皮膚科 65(5増): 38-43, 2011

2)秋山真志.皮膚疾患とバリア機能障害:最近の動向 : 日皮会誌 : 123 (13) , 3040-3042. 2013

3)川崎 洋. アトピー性皮膚炎 バリアと免疫のクロストーク 表皮バリア機能と経皮免疫応答 : 日皮会誌 : 124(13), 2566-2568, 2014

4)乃村 俊史. アトピー性皮膚炎 バリアと免疫のクロストーク フィラグリン変異とアトピー疾患 : 日皮会誌 :124(13), 2569ー2570, 2014

5)椛島健治. アトピー性皮膚炎 バリアと免疫のクロストーク 新規治療法 : 日皮会誌 : 124(13), 2571-2575, 2014

バリア構造 文献1)より

Flg欠損マウス文献3)より

バリアと経皮感作文献3)より

LG-TJ文献1)より

久保亮治先生がかつて師事していて最も敬愛する師といわれる故・月田承一郎先生の本を読んでみました。
「若い研究者へ遺すメッセージ 小さな小さなクローディン発見物語」という小品です。
亡くなるひと月前に遺した渾身の書き下ろし・・・・・と本の表紙の帯に書いてありました。
生い立ちから灘高、東大へと一直線に進み、一途に純粋に医学、科学を愛しながら若くして病いに斃れた天才基礎医学研究者の本でした。Barriologyとの造語まで作ったTJの巨人のように思われました。内容はよく理解できないもののオクルディンからクローディン遺伝子ファミリーの発見への物語は心躍らせるものでした。

アトピー性皮膚炎と汗

汗がアトピー性皮膚炎の病態にどのように関与しているかは未だ 明確な結論は得られていません。
ただアトピー性皮膚炎の患者の多くが発汗部位のかゆみの増強や皮膚炎の悪化を自覚していたり、発汗後のシャワー浴で症状が改善するのは事実で、汗はアトピー性皮膚炎の悪化要因と考えられます。
しかしながら、発汗は必ずしも悪玉というわけでもないようです。
先日のアトピー性皮膚炎治療研究会で塩原先生には、この辺の事情を独自の研究、実験に裏打ちされた”塩原理論”とでも呼べるような講演を聴かせていただきました。
レプリカ法によって健常皮膚やアトピー性皮膚炎の皮膚の発汗の部位、経過を詳細に検討されました。汗はまず皮溝に点状にみられます。皮表、角質の水分保持に役立っています。さらに増えると皮丘にもみられるようになります。皮丘の発汗は体温の調節機能を担っています。
急性期のアトピー性皮膚炎では代償性に皮丘での発汗が増えていますが、慢性期になると皮溝でも皮丘でも発汗は減少し、カサカサした肌となってきます。アトピー性皮膚炎では温熱刺激に対して著明な発汗障害を呈してきます。
アトピー性皮膚炎では汗でチクチク、ムズムズするとの訴えがよくありますが、これは汗孔の閉塞や汗管から汗が漏れ出て炎症を起こしていることが考えられ、それは十分な保湿剤を外用することによって改善できることを示されました。またステロイド外用剤はむしろ発汗を抑制する方向に働くことも示されました。
最近、汗と自然免疫の関係が徐々に明らかになってきています。表皮ケラチノサイトはToll-like receptor(TLRs)を発現することによって、自然免疫の中心的な役割を担っており、外界からの病原体の侵入に対して排除する機構を持っていることがわかってきました。すなわち、TLRs刺激により多くの抗菌ペプチド(antimicrobial peptides:AMPs)を産生します。よく知られているものには、酒さでも関係してくるLL-37(cathelicidin)やhuman defensinなどがあります。近年汗がdermcidin(DCD)というAMPsを産生すること、またアトピー性皮膚炎ではその産生が著明に減少していることが明らかになってきました。このことがアトピー性皮膚炎でブドウ球菌や溶連菌が増殖し易いことにも繋がっている可能性があるということです。
汗の中のDCD量の低下が、汗腺からの産生の低下によるものか、病変部の汗腺周囲にDCDが漏れ出ているためかはまだ明確ではあにものの、塩原先生のデータでは漏れ出ている可能性が高いとのことでした。そして、保湿剤の使用によってDCDの漏れも減少していくデータを示されました。
塩原先生は普段の診療の際の補助道具としてスキコンという角質水分量測定装置を使っているとのことです。そのデータによって客観的に皮膚の保湿状態をチェックすることができ、また患者さんがしっかり外用を行っているかもチェックしながらより科学的な、説得力のある診療が大いに役立っているとのことです。
運動や入浴によって、十分に汗をかき、保湿を続けていくことで普通に汗をかく体質に改善していくとのことのようでした。
ただ、炎症のひどい時期に急激な運動や長く高温の入浴は鬱熱などを起こし、避けるべきといわれています。上記のように汗が抗菌効果を持つ一方でマラセチアの分泌蛋白のMGL1304が汗抗原になって、アレルギーを起こすという報告もあります。
汗は末梢神経や精神神経系にも関係し、かゆみの神経とも密接に関係しています。アトピー性皮膚炎と汗の問題はこれらも含めてまだまだ解明されていないことも多いようです。
汗はアトピー性皮膚炎にとって、単純に善玉とも悪玉ともいえないと感じました。

アトピー性皮膚炎の眼症

先日のアトピー性皮膚炎治療研究会ではアトピー眼症の講演がありました。眼科専門医の話を聴く機会は滅多になく、貴重な経験でした。眼科の細かいことは解かりませんが、講演の概要を書いてみました。

「アトピー性眼瞼・角結膜炎の病態と治療」 順天堂大学医学部附属浦安病院眼科   海老原 伸行 先生

・アトピー性皮膚炎に伴う眼合併症をアトピー眼症とよびます。
・アトピー眼症には白内障、網膜剥離、円錐角膜、眼瞼・角結膜炎(atopic blepharo keratosis: ABKC)などがあります。
・アトピー眼症の明確な発症メカニズムは明らかではありませんが、大きな原因の一つに患者自身の眼掻破・叩打行動があります。
・従って、アトピー眼症の発症予防にはABKCの炎症や痒みを抑える治療が重要となります。
・また眼瞼炎が重症になると、睫毛内反や開瞼不全による角結膜炎や両眼角膜ヘルペスを合併することもあります。
以下に個別の事象について書きます。
◆アトピー白内障
若年者に多く、水晶体の混濁が前嚢下、または後嚢下に多く、それは外傷性白内障の発生部位に類似しています。
その原因としては長年眼を掻破すること、叩打することなどの外力が最も考えられています。その他に虹彩毛様体炎に伴って前房・血液関門の破壊によって血中の好酸球由来細胞障害性蛋白が前房中に流入して白内障を発症すると考えられています。
ステロイド剤内服によっても白内障が発生することから、ステロイド外用剤が原因と考えられていた一時期がありましたが、ステロイド外用剤を中止したことで、痒み、炎症が悪化し却って発生頻度が増加したとされます。またステロイド開発前の1936年にアトピー性皮膚炎の10%に若年性白内障の報告があることなどから、一定の頻度でアトピー性白内障は発生することがわかっています。通常のステロイド剤外用では白内障を惹起することはまずありません。
◆網膜剥離
その原因は白内障と同様に叩打などの外力によると考えられます。網膜裂孔の好発部位は鋸状縁付近に多く見られます。
網膜輪状締結術+冷凍凝固術、内視鏡手術などが行われます。
◆円錐角膜
患者の約半数で花粉症、15%に喘息、8%にアトピー性皮膚炎がみられ、また半数では眼を強く擦る習慣がみられたとされます。すなわち円錐角膜の原因はアトピーそのものというより眼を擦ることにあるようです。
◆アトピー眼瞼炎
炎症の段階は皮膚のそれと類似しています。当初は乾燥が主で、次第に紅斑、丘疹、鱗屑などを生じ、高度になると苔癬化、線維化、痒疹結節などを生じ、瘢痕形成に至ります。
掻破などでびらんなどの傷ができ、ブドウ球菌などによる細菌感染症、ヘルペスなどのウイルス感染症を生じることもあります。
治療はこまめな洗顔によって抗原を除去すること、プロペトなど保湿剤によるスキンケアによって皮膚バリア機能の維持、改善に努めること、抗炎症剤として短期間のステロイド外用剤、タクロリムス軟膏、痒み止めとして第二世代の抗ヒスタミン剤などが使用されます。
◆アトピー性角結膜炎
上眼瞼結膜の線維性増殖性変化を認めます。以前では抗アレルギー剤点眼、ステロイド薬点眼などが用いられましたが、最近では0.1%シクロスポリン点眼液(パピロックミニ)、0.1%タクロリムス点眼(タリムス)などが使用されています。またアレルギー薬の点眼(肥満細部膜安定化薬、抗ヒスタミン薬など)が使用されています。
慢性化し結膜の繊維化や杯細胞の消失の消失を認めるときには眼表面のムチンが減少するために、外来抗原と結膜上皮細胞が直接接触し自然型アレルギー反応が起こり慢性化します。それを防ぐために抗炎症剤だけではなくバリアとしてのムチン層の保護も必要となってきます。

ステロイド点眼薬の副作用・・・眼圧上昇、感染症誘発、創傷治癒の遅延などがあります。
特にステロイドによる緑内障の誘発、眼圧上昇には注意が必要です。ステロイドレスポンダーといって、ステロイド剤に敏感なグループがあり、特に小児では注意が必要です。これは使用前には予想できず、つけてみないと解かりません。従って眼囲へのステロイド外用剤、点眼などが長期に及ぶ際には1ヶ月以内に緑内障のチェックのため眼科での検診が重要となります。このような際には免疫抑制剤点眼はステロイド点眼より離脱でき、眼圧も下降するので有用です。
急性期にはタリムス、寛解維持期にはパピロックミニが適応となります。

参考文献

海老原伸行 アトピー眼症の予防と治療. 皮膚科臨床アセット1 アトピー性皮膚炎.湿疹・皮膚炎パーフェクトマスター
総編集◎古江増隆 専門編集◎中村晃一郎 東京:中山書店;2011.pp112-119.

中村吏江 ほか.ステロイドレスポンダー.
皮膚病診療:34(1)【 特集】アトピー性皮膚炎―2012;95~99,2012

医療のコスト

週間医学ニュースに「コストを語らずにきた代償 ”絶望”的状況を迎え、われわれはどう振る舞うべきか」というショッキングなタイトルの記事が紹介されていました。__ 國頭 英夫氏(日本赤十字社医療センター化学療法科部長)に聞く

皮膚科にも大いに関係がある記事で、やはり驚きの内容でした。
抗PD-1抗体ニポルマブ(オプジーボ)は、日本人が発見、米国と共同で開発した日本が世界に誇るべき免疫チェックポイント薬です。
2014年世界に先駆けて「根治切除不能な悪性黒色腫」に対して承認され、2015年には「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に適応が拡大されました。今後さらに他のがん腫にも適応が広がっていくと予想されています。
しかし、國頭先生は、この免疫チェックポイント阻害薬の登場によって財政的に医療、それどころか国の存在そのものが脅かされる危険性があると述べています。
その理由とは
*肺癌への奏功率は15~20%だけれど、病態を悪化させず、制御できるものを含めればもっと高い率となる。
*副作用は疲労感、食欲不振、大腸炎、皮膚炎、肺臓炎、劇症I型糖尿病、重症筋無力症などがあるが重篤なものの率は従来の化学療法より低い。
*効いたときには効果が長年持続する。
以上のことは長所のようです。しかし、以下の問題点もあります。
*一番の問題は非常に高価であるということです。二モルマブを1年間使用すると約3500万円かかるということです。
(体重60Kgの人で、3mg/kgを2週間ごと 1回 130万円かかる)
但し、高額療養制度がある日本では、医療費の自己負担額は最高でも200万円程度
すなわち、国の公的負担がおよそ95%
*ニモルマブの投与前の治療効果予測ができないそうです。そして、効果がみられる人は凡そ3人に1人程度だそうです。
すなわち、3500万円x3人のトータル1億円を超すコストで、ようやく有効例1例の治療ができる。
*免疫チェックポイント阻害薬ではリンパ球の集ぞくによって投与後一見新病変がでたようにみえる偽増悪(pseudo progression)があり、良悪の見極めが難しいとのことです。
*日本の非小細胞肺がん患者は年間10万人程度で、ニモルマブの対象になる人は5万人程度いるそうです。皆に1年間投与すれば年間1兆7500億円となります。
これが、その他のがん腫に適応になれば更に膨大な額になります。

國頭先生は、「医学の進歩」による新薬開発費の高騰、薬価高騰は国の財政を破綻させるような危機的なレベルにまでなってしまった、といいます。医療現場、学会では医師はこれらのコスト問題を正面から取り上げてはこなかった、といいます。

この問題の根本的な解決策はなかなかないとのことです。薬価を下げるということが必要でしょうが、仮に半額になったとしても危機的な事態は変わらないとのことです。
オプジーボは1992年本庶 祐 京都大学教授らによるPD-1遺伝子の発見、1998年に作成されたPD-1欠損マウスから体内の免疫反応の制御の解明などを経て、創薬へと進みました。小野薬品工業、米国Bristol-Myers Squibb(BMS)社により開発され、世界に先駆けて日本で発売となった薬です。世界に誇るべき画期的な薬剤であるだけに、何とかうまく将来にわたっても使えるように工夫、進化していって欲しいものです。

この薬剤に限らず、最近の新薬は抗体製剤、分子標的薬など高価なものが一杯です。
皮膚科に限っても、乾癬の生物学的製剤の薬価の高いのにはびっくりする程です。蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などでも新薬が開発されつつありますが、高価なもののようです。
これらの新薬を開発できる科学力、資金力のあるのは欧米をはじめとする一部の先進諸国位でしょう。巨大製薬メーカーばかりが栄えて、国民が薬の支払いのために一生働いて税金を納め続けるという未来図はあまりハッピーとは思われません。医療従事者のみが考える問題でもなく、国民、いや世界全体がうまい知恵をだしながら、議論を深めていくべきところにまで差しかかってきているように思われました。

アトピー性皮膚炎治療研究会

先日、大宮でアトピー性皮膚炎治療研究会第21回シンポジウムが開催されました。会頭は獨協医科大学の片桐一元先生で、先の東京医大の痒疹の講演の際に、前宣伝を兼ねてアナウンスされていたので知り参加しました。それまではこの会の存在すらよく知りませんでした。2日間に亘ってアトピー性皮膚炎だけに特化した演題、討論は内容の濃いものでした。この会の立ち上げに携わってこられた青木敏之先生が、丁度今回を最後に第一線を退かれるとのことで、挨拶をされました。大きな学会ではアトピー性皮膚炎の個別の症例などを深く突き詰めて議論する場がないことが設立を思い立った理由であるといったようなことを述べられていましたが、確かにいつも学会場でアトピー性皮膚炎の講演は聴くものの、専門の先生の総論ばかりだったように思われます。
今回は、片桐先生の発案で副題は「 治せないアトピー性皮膚炎」と銘打ってアトピー性皮膚炎の治療に専門的に関わっている先生方から敢えて”治せない”アトピー性皮膚炎の症例を出題して頂いた、そうです。
多くのアトピー性皮膚炎の患者さんは、適切なステロイド外用剤、プロトピック、保湿剤などで良好にコントロールできます。ただ、日本でも海外でも重症でなかなか良好なコントロールのできないグループがあるといいます。明確な統計はありませんが、学者によって10%内外とされています。
片桐教授のご挨拶には以下のようにあります。
「私の希望ではありますが、「治せない」を公の場で議論することになり、出題がかなり難しいのではないかと思っていました。無理に御出題をお願いしたこともありますが、経験豊富な先生方から、自らの「治せない」を語って頂けることに感謝いたします。日々の診療において難治な患者に遭遇すると、「治せない」のは自分の知識や技術がないからなのか、と思い悩むことも多く、アトピー性皮膚炎診療に携わる医療者にとって、不安と解決への道のりを共有できる時間になることを期待しています。」
確かに実臨床で日々困り、悩むケースは決して稀ではありません。ある意味、アトピー性皮膚炎のエキスパートの先生でもコントロールできないケースを提示して頂き、それへの議論、討論が活発になされたのは実臨床家にとって励みになり非常に有益でした、
アトピー性皮膚炎の治療の根幹は適切なスキンケア、悪化因子の除去をベースとしますが、薬物治療の中心はやはりステロイド外用剤でいかに早期に燃え盛る炎症を抑えるかにかかってきます。
ガイドラインでもそのことがうたわれています。しかしながら、個別の症例は実に様々な要因があり、(年齢、顔、体などの部位、重症度など)具体的な薬剤使用量、使用期間などは述べられていません。適切に、という言葉は便利でそれに異論はありませんが、実際のステロイドの具体的な使い方(ランク、一日量、回数、いつまで使うか、どのように減らすかなど)、ステロイドの副作用についての捉え方などは皮膚科専門医の間でも相当のばらつきがあるように思われます。
最近はタイトコントロール療法が提唱され、TARC値を指標にステロイド外用剤で炎症を初期に完全に抑え込むことが重要との考えもあります。そうなればその後はステロイドを時にしか使わないプロアクティブ療法へ持ち込めるというやり方のようです。ただ、この考えは今回取り上げられたような難治性のケースにそのまま適応できるのでしょうか。
大阪大学の片山先生は第20回の同会へのコメントとして下記のように記しています。
「アトピー性皮膚炎の治療、特に難治例は悪化因子や背景因子の解析なしに十分な治療効果を得ることは難しい。逆に軽症例に過剰な治療を行うことも慎むべき事で、これらの点を科学的に評価し、、問題点を吟味し、ガイドラインに反映させていく事が我々アレルギー疾患の診療に関わる医師のつとめと考える。現在の高齢者の紅皮症などの増加を見ると「ステロイドのタイトコントロール」という一見Attractiveな治療法が一人歩きし、科学的な根拠なしに無批判に行われた場合、また20世紀後半の混乱した時代に逆行する可能性があると危惧する。本療法の結果をとりまとめた論文を示され、冷静な議論がなされることを望む。」
小生もこの意見に同感で少なくともガイドラインによる標準療法でコントロールできない難治例については更に慎重な検討、討論が必要かと思いました。そういった意味では今回の片桐教授の取り組みは非常に重要で、一回きりの試みではなく、毎年「治せないアトピー性皮膚炎ーー様々なレベルでの”治せない”を探る 今できる最善の治療は何か」といったようなテーマを同会で続けていただき、我々一般会員にも日々の診療への指標を示して頂きたいと思いました。
アトピー性皮膚炎のガイドラインは今年2016年改訂版が公表されました。今回の改訂版は第II章として、臨床現場で困る状況での意思決定をサポートする22個の重要なポイントが示されており、実地医家が治療を遂行するうえでよりキメの細かい記述がなされていて、参考になります。
それでも難治例や個々の問題を抱える症例にはガイドラインをみるだけでは解決には至らないように思われました。

そういう意味でもアトピー性皮膚炎治療研究会は今後更に重要な役割を担っていると感じました。

大阪大学皮膚科のホームページには片山教授コラムというコーナーがあり、過去のアトピー性皮膚炎治療研究会の印象記も含まれています。一般向けではなく多分皮膚科医向けのものなので専門的な記述ですが、この会、ひいては本邦のアトピー性皮膚炎の研究、臨床の流れがコンパクトにまとめられています。またアトピー性皮膚炎の病態に深く関与する痒み、汗などの学会の記述もあるので、一般の皮膚科の先生方にも参考になることと思います。(上の文も一部参考にさせてもらいました。)

ベイエリアからダイアモンド富士

千葉市の広報誌で「千葉Cityベイエリアからダイアモンド富士をみようーーイタリアンディナー&ダイアモンド富士撮影会」のイベント案内がありました。
人工海浜の長さが日本一の千葉市では毎日少しずつ移動すれば「海越しのダイアモンド富士」を10日間にわたって鑑賞するチャンスがあるそうです。千葉ポートタワー近辺では、2月25,26,27日がそれに当たるそうです。
25日にポートタワー近くのイタリアンレストランでディナーを戴きながらプロカメラマンにスマホでの写真撮影のワンポイントアドバイスを教えてもらうというイベントに参加しました。
ダイアモンド富士は丁度落日(朝日)が富士山頂に重なる瞬間に太陽の光がまるでダイアモンドのような輝きを富士山頂にみせる現象ですが、、富士山の西または東の特定の地域の特定の時期に限られて見られるそうです。
2月25日の17時22分は左ダイア、26日はテッペン、27日は右コロコロとのことでした。
当日は風が強く、天気は良かったのですが、富士山の方角はぶ厚い雲に覆われて残念ながらお目当てのダイアモンド富士は見ることができませんでした。
しかし、夕暮れの稲毛海岸の景色は綺麗でしたし、スマホ撮影のワンポイントアドバイスをうけながら、レストランでの食事のひと時を楽しみました。
一寸した構図、明るさ、小道具、テクニックなどで写真の印象も随分変わってくるのは新鮮な驚きでした。
あまり細かいことを書くと、プロカメラマンの迷惑になるので止めますが、写真の一部をアップしてみました。(普段何気なく自分の撮ったものと比べると一味違ってみえました。)

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