月別アーカイブ: 2016年4月

日常のフットケア

先日、市川市医師会の学術講演会で、フットケアの講演がありました。講師は埼玉県済生会川口総合病院の高山かおる先生でした。一寸前は高山先生の接触皮膚炎の講演がありました。また違った方面の話が聴けました。
日常の外来診療をしていると、足のトラブルを抱えた患者さんは結構多いです。特に中高年の女性に多い印象を受けます。長年ハイヒールなどで足を酷使してそのツケが徐々に現れてきたのでしょうか。近年、糖尿病などにおいてもフットケアの重要性が指摘され、多くの記事、パンフレットなども目にするようになりました。しかしながら、一般にはまだフットケアの重要性、具体的な対処法などは敷衍してはいないようです。
当日の講演は一般の人にも対処できる具体的なお話でした。
足のトラブルには、いろいろありますが、多くみられるのがタコ、ウオノメ、外反母趾、陥入爪などです。これらの人では単に局所の変化のみではなく、膝や股関節の病気にも悩んで場合が多いそうです。
また、日本は欧米などと比べて靴を履く文化が浅く、機能や足の保護を考えるよりもおしゃれや簡便さを重視して、きつい靴をはいたり、逆に靴ひもをゆるめたり、かかとを踏んだりしているケースがみられます。
足には3つのアーチがあり、足を衝撃から守っています。踵、足の第1趾(親指)のつけ根、第5趾(小指)のつけ根の3か所を基点とした三角形のアーチがバネのように働きクッションの役目をします。これらの崩れがさまざまな足の障害を引き起こしてきます。
これらの足トラブルに適切に対処、是正して、セルフケアすることで足のトラブルはかなり軽減できます、という様なお話でした。先生の当日の講演、著書を基に主なトラブル、その対処法を述べていきます。
◆開張足
足の変形の初期症状は開張足です。足の前方の横アーチが崩れて足が広がってしまう状態です。一番の原因は姿勢や歩き方です。正しい歩き方は踵(ヒール)で着地して、重心を足の第5趾の付け根(ボール)に移し、次第に第1趾方へ重心を移しながら、最後は第1趾(トウ)で地面を蹴って前に進みます。しかし、ペタペタ歩きのように体重が上からドンとかかる歩き方をしていると次第に横アーチが崩れてきます。またハイヒールもコツコツ歩きになり、足が前に滑りやすくなり、バランスもとりにくく開張足の原因になります。
開張足が持続すると、外反母趾(足の第1趾のつけ根の骨が外側に突き出た状態)になり、ひいてはタコ、ウオノメ、巻き爪、陥入爪、肥厚爪などになっていきます。
◆浮き指
足趾が地面にきちんをつかずに、浮き上がった状態です。開張足でみられます。開張足は自分で見分けられなくても浮き指は自覚できます。正しく足趾を使えていないので姿勢や歩き方が崩れています。そのためにさまざまな足のトラブルが生じてきます。
◆扁平足
内側の縦アーチが崩れて、足裏が扁平になった状態です。大人になってからのものは、運動不足や加齢による筋力、腱のゆるみ、肥満による負荷の増大などの原因が考えられます。ただ、運動選手などでは筋肉の発達のために一見扁平足にみえることもあります。
扁平足では、かかとの骨が内側に傾斜しているのでバランスが悪く、長く歩くと疲れやすかったり、腰痛や膝痛を引き起こしたりします。
◆外反母趾
第1趾のつけ根の関節(MP関節)が外側に飛び出し、第1趾が小指側に曲がってしまう状態です。開張足に伴います。その曲がりの角度が15度未満なら正常ですが、15~25度なら軽度、25~40度なら中等度、40度以上ならば重度の外反母趾と診断されます。重度になると、第1趾が第2趾の上に乗ったり、逆に下に潜り込んだりします。原因は主に歩き方、立ち方のくせ、X脚などで足が内側に傾くことなどによります。ハイヒールなどによる圧迫もこれを助長します。使わないことで足の筋力が次第に落ちて靭帯がゆるみ靴に押される方向に変形が進んでいきます。中等度までならばある程度の矯正はききますが、重度で固まってしまうともう元には戻りません。
◆内反小趾
第5趾の関節が第1趾側に向かって変形した状態です。女性では外反母趾に伴い易く、男性ではガニ股(O脚)の人に見られます。ガニ股歩きでは外側の縦アーチがつぶれて内反少趾になり易くなります。内反の角度が10度未満なら正常、10~20度なら軽度、20~30度なら中等度、30度以上なら重度と診断されます。第5趾の外側にタコ、ウオノメができやすくなります。
◆ハンマートウ
第2足趾以下が「くの字」に屈曲して拘縮してつま先がハンマーのように曲がった状態をいいます。第2関節(PIP)が曲がったものですが、第1関節(DIP)で曲がったものをクロートウ(鉤爪)といいます。第2、第3趾におきやすく屈曲したまま動かなくなるので、関節の背面や足先にタコやウオノメができます。これも歩き方や立ち方の悪い癖、ハイヒールなどで足が前にすべるので余計な力が入り指が曲がることなどが原因となります。
◆鶏眼(ウオノメ)
足底の先端部分、時には趾間(とくに第4趾間)に生じる圧痛の著明な角質塊。小豆大、ないしは大豆大で表面はやや隆起して、中心部には丸い半透明な芯(core)があります。芯の先端は円錐状に尖り真皮に刺入しているので激しく痛みます。一般的に皮膚科ではサリチル酸(スピール膏)を数日貼付し、角質を浸軟させてから削りとります。
イボも同様な外観を呈することがあります。特にミルメシアといってHPV-1の感染症では蟻塚様になりますが、中央の芯の部分がギザギザにみえ、削ると点状の出血を伴うなどが鑑別点です。
◆胼胝(ベンチ、タコ)
反復する機械的な刺激によって限局性の角質増殖をきたしたもの。ウオノメとは芯がなく圧痛がない点で鑑別できます。
【骨の変形のフットケア】
*ゆるゆる屈伸・・・開張足、浮き指、扁平足、外反母趾、内反小趾に
・足を肩幅に開き、つま先と膝を同じ方向に向けて立つ。
・肩の力を抜き、脚の筋肉をゆるめて、膝をつま先の方向に向けたままフーと息を吐きながら腰を落とす。膝がつま先より前に出ないように注意。
・息を吸いながら、膝を伸ばす。
これを1日1回、2~3分行う。O脚、X脚の矯正にもなります。
*足指ストレッチ・・・開張足、浮き指、外反母趾、内反小趾、ハンマートウに
腱が緊張すると、周りの筋肉も動かなくなり、筋力が低下します。足指を揉んで足の緊張をとり、リラックスさせます。(下図参照)
*浮き指エクササイズ・・・開張足、浮き指に
・両足を揃えて立ち、かかとに重心をかけて、体を少し後ろに傾ける。
・次に指先に重心をかけて、体を前のほうに倒し、元の姿勢に戻る。
*ゴルフボール握り・・・開張足、浮き指、扁平足、外販拇趾、内反小趾に
・ゴルフボールを足裏の前足部に当て、ころころと転がす。1~3分ほど行う。
・ゴルフボールを足の指でつかみ、ギュッと握って持ち上げ、放すことを5回ほど繰り返す。
*コンフォートサポートソックス・・・足首周りや横アーチをサポートする機能があり、履いているだけで足の変形を緩和する効果があります。
*テーピング法・・・開張足、浮き指、外反母趾、内反小趾、ハンマートウに
落ちた横アーチを補正する効果があります。足の第1趾と第5趾のつけ根を引き締めるように3~4回巻きます。整形外科医の指導の基に行うのがよいでしょう。

上記のエクササイズも症状が軽度、中等度ならば行って良いですが、重度になったり、痛みがある場合などは自己流ではなく、専門医に相談の上施行することが必要です。

【フットケア6つのポイント】
足をいたわり、顔と同様に毎日の足の手入れをすることが足病変を予防し、症状を改善させる第一歩になります。
1)きれいに足を洗うこと。歯ブラシを使って、爪の周りもきれいに洗浄します。
硬い歯ブラシは皮膚を傷めるので、柔らかいものを使います。直接足に石鹸はつけず、泡でやさしく洗います。洗いすぎやごしごし擦るのは逆効果です。
2)しっかり水分を拭き取ること。水虫菌が付着してもしっかり乾燥していればそうそう全てうつるものでもありません。
3)足を保湿すること。爪も皮膚と同様に保湿して下さい。保湿の際はマッサージしながら軽く擦り込んでいきます。
4)爪を正しく切ること。四角に切る(スクエアカット)のがポイントです。
5)正しい歩き方や姿勢を身につけること。体幹部を使って足の負担を蹴らすことが大事です。
6)自分に合った靴を選ぶこと。インソールやコンフォートシューズをもっと活用して下さい。

参考書

高山かおる 巻き爪、陥入爪、外反母趾の(特効)セルフケア (株)マキノ出版 2014

アーチ

外反母趾

ストレッチ

痒疹(9)色素性痒疹

色素性痒疹は1971年に長島先生が初めて報告した疾患概念で、強い痒みを伴う紅色丘疹が発作性、再発性に出現して、それが消退した後に粗大な網目状の色素沈着を残すことを特徴としています。上半身、とくに衣服と擦れやすい、あるいは外的な刺激がかかり易い上背部、胸部、項部に多く認められます。
「色素性痒疹」という、病名については、西山先生はあれは痒疹ではない、との意見で確かに皮疹の形状、融合した皮疹をみると典型的な痒疹の概念からは一寸外れているようです。ただ、痒みが初めにあり、孤立性の小丘疹から発症するのは痒疹の特徴のようです。
当初は上半身の衣服が擦れる部位に好発すること、汗、発熱などの外的な刺激が誘因になっているケースが多いことから、それらが原因と考えられていましたが、後年長島らは外的要因の全くみられない症例の存在のあることより、外的要因は悪化要因の一つにすぎないと指摘しました。1994年に寺木、木花らは飢餓状態、ダイエット、インスリン依存性糖尿病、ペットボトル症候群などにによるケトーシスに伴って発症することを指摘しました。それを皮切りに同様な症例報告が多数みられるようになりました。
ただ、それだけではなく、他の誘因として精神的ストレス、汗腺、脂腺の機能亢進、マラセチアなどの好脂性毛包常在菌の関与も推定されています。
臨床的な特徴とともに、治療ではミノマイシンが特効的に効くというのも特徴です。ミノマイシンは抗菌剤ですが、好中球の機能を抑制して、炎症を抑えるという特殊な作用機序があり、そのために奏功すると考えられています。ただ、初期病変は毛包一致性の紅色丘疹であり、春から夏にかけて発症し易いことなど細菌性の毛包炎による機序も考えられ、抗菌作用によっても奏功するとの考えもあります。DDS(ジアフェニルスルフォン)も有効ですが、再発率はミノマイシンより高く、メトヘモグロビン血症、DDS症候群(DIHS)などの副作用もあることから第一選択薬とはなっていません。
病名について、西山先生はドイツ学派らしく、痒疹丘疹、結節(Prurigo Knötchen)ありきという考えのようですし、長島先生はフランス学派(?)の通り初めに痒みありきで、その後痒疹丘疹が出現するという考えなのではないかと思います。(私見) そう考えるといずれも納得がいきます。これは痒疹とはなんぞや、という根本的な考え、論争にも発展するのかもしれません。
いろいろ調べてきて、痒疹の原因が一筋縄ではいかないことは、すなわち起痒物質は幾多もあり、外的には虫の唾液物質、内的には肝臓、腎臓、糖尿、癌などに起因する物質もあります。
場合によっては精神的ストレスさえも起痒原因となります。
これらをもとに痒疹が形成されるのでしょう。ただ、いくら痒くても原発性胆汁性肝硬変などのように発疹の全くないものもあり、痒みと皮疹の関係の複雑さに思いをいたすところです。

自験例を示します。1か月食事制限(炭水化物制限)し、5Kg減量したあとに発症した例です。
上半身に網目状の特徴的な丘疹、紅斑を呈しました。1週間ミノマイシンを内服してもらったところ、ほぼ色素沈着となりました。
つい先週も胸に網目状の丘疹、紅斑を呈した女性が来院しました。皮膚科でステロイド剤をもらったものの全く効かないとのことです。本人は医療関係の方でマラセチア毛包炎を疑い、真菌検査を希望されていました。マラセチアの検出は実は難しいのですが、(ズーム液などで長時間染色)菌糸型も、胞子型もみられませんでした。色素性痒疹について簡単に説明し、まず1週間ミノマイシンを飲んでみましょう、といって飲んでもらいました。1週間後の再来では薄い色素沈着のみで略治状態でした。そしたら実は数カ月前からダイエットをしているのだ、と打ち明けられました。自己流のものでカロリーも1000Kcal以下だったといいます。
やはり、無理なダイエットは禁物です。専門家の指導のもとに行うべきだと思いました。
それとやはり、病態を知ってそれなりに説明しないと、皮疹とダイエットなど患者さんは思いもよらないでしょう。やはり病気のことをしっかり知っておくことは重要だな、と改めて思いました。

参考文献

沼田茂樹 他.夏に再燃した色素性痒疹.皮膚病診療:33(12);1243~1246,2011

篠塚直子 他.I型糖尿病を合併し膿疱形成のみられた色素性痒疹.皮膚病診療:33(12); 1247~1250,2011

色素性痒疹1

色素性痒疹2 ミノマイシン投与1週間後

痒疹(8)透析とレミッチ

慢性腎不全、さらに血液透析を行う人の多くに(70-90%)に慢性の耐えがたい痒みを生じます。そして、その多くに慢性痒疹ないしそれに似た結節を生じてきます。
この痒みは通常の抗ヒスタミン剤ではほとんど効きません。
その際に前項で書いたようにレミッチが奏功する場合もあります。これは日本独自の薬剤です。海外(欧米)での状況を高森先生にお聞きしたところ、痒みの専門家は非常に興味を示すもののまだ市場には出ていないとのことでした。オピオイドということで、麻薬など依存症を心配する向きもあるそうですが、依存にかかわるμ受容体とは直接結合しないので、依存症や耐性の心配はほとんどないそうです。
痒みの成因、オピオイド系のかゆみ機序などについては前に書きましたので、省略します。
レミッチはその後、慢性肝疾患患者への痒みに対しても効能、効果が追加されました。ノピコールという製品名で最近発売されました。薬理的には選択的オピオイドκ受容体作動薬といいます。
慢性肝疾患、とくに原発性胆汁性肝硬変(軽症では肝硬変にならない)での痒みは強いとされています。ノピコールは肝疾患の痒みを劇的に改善するケースもあります。
糖尿病性腎症などからの血液透析患者では痒みの強い結節が生じた場合には、慢性痒疹と後天性反応性穿孔性膠原線維症(acquired reactive perforating collagenosis: ARPC)との鑑別が必要になってきます。
ARPCとは変性した膠原線維が経表皮的に排出される病理像を特徴とした病態を表しますが、糖尿病の合併が多いことから糖尿病による真皮の微小血管障害から膠原線維の変性を生じるとの説、高血糖に伴う膠原線維のグリケーション(非酵素的糖負荷反応)、フリーラジカルからの膠原線維の損傷などの機序が考えられています。ただ、それ以外に肝疾患、悪性腫瘍、内分泌疾患、リウマチ、SLEなどの例もあり原因の詳細は不明です。
臨床的には固い丘疹、結節の中心部に固着した角栓、臍窩を有するのが特徴です。
ただ、臨床的には慢性痒疹との区別がつきにくいものもあり、実際この両者が混在していることもあるようで、一連の病態を示しているとする考えかたもあります。
自験例でも糖尿病性腎症から透析に至り、慢性痒疹の像を呈しましたが、また中心部に角栓、痂皮を伴う結節も混在していました。それらに対してレミッチが奏功しました。(下記写真)

参考文献

浅井俊弥.透析に伴う痒疹.皮膚病診療:33(12);1259~1262,2011.

岸田功典 ほか.aquired reactive perforating collagenosis.皮膚病診療:33(12);1263~1266.2011.

ARPC1 糖尿病性腎症から透析となった例

ARPC2 孤立性丘疹、結節

ARPC3 結節の中央に痂皮、固着した角質物質を認める

レミッチ内服にて、色素沈着となった

 

痒疹(7)痒みについて

痒疹は、文字通りその病名のごとくに”しつこい痒みを特徴とする孤立性の皮疹”といっても過言ではないかもしれません。痒みに対しては、蕁麻疹で使われるように抗ヒスタミン剤の内服が用いられますが、むしろ抗ヒスタミン剤が効かないのが痒疹の特徴であるとする専門家もあるほどです。
かゆみの病態については、近年様々な知見が積み重ねられてきました。それに基づいて治療薬、治療法も開発されてきています。痒みの専門家である高森先生の解説書を種本にして痒疹との兼ね合いも含めてまとめてみました。

痒みには神経の伝達経路から末梢性の痒みと中枢性の痒みとがあります。
【末梢性の痒み】
痒みの感覚の多くは表皮真皮境界部にあるC線維自由神経終末の活性化によって生じます。化学的、機械的、電気的、温熱などさまざまな刺激が痒点に加わると痒みを生じます。これらの刺激は求心性神経線維から脊髄、視床を経て大脳皮質の感覚野に達して痒みとして認識されます。痒みも痛みも同じC線維を通じて伝達されると考えられていましたが、近年痒みと痛みの伝達神経は異なることがわかってきました。
そして、アトピー性皮膚炎などドライスキンを呈する疾患ではC線維が真皮表皮境界部に留まらずに、表皮内深く角層直下まで侵入していて、これが痒みのしつこさ、皮膚過敏性の原因の一端と考えられてきています。
神経線維の表皮内侵入は、神経伸長因子(nerve growth factor: NGF)と神経反発因子(nerve repulsion factor:NRF, semaphorin 3A: Sema3A)などの軸策ガイダンス分子や表皮基底膜を構成するIV型コラーゲンを分解するMMP-2(matrix metalloproteinase-2)によって制御されています。
健常な皮膚であれば、NRF,Sema3Aが優位ですが、乾燥肌ではNGFの方が優位になっていて、表皮内にまで神経終末が延長、侵入しています。
【中枢性の痒み】
痒みには抗ヒスタミン剤が効かない痒みがあります。モルヒネ使用時や血液透析患者、慢性肝疾患の痒みなどがそれに当たります。これらのかゆみには中枢神経系のオピオイドレセプターが関与した中枢性の痒みの機序が考えられています。
オピオイドペプチドが中枢神経に発現しているオピオイドレセプターに結合して作用を発揮します。
種々のオピオイドペプチドの中で、痒みに関与しているのはμ-オピオイド系とκ-オピオイド系で、前者が痒みを誘発し、後者は痒みを抑制します。μーオピオイドレセプターの作動物質はβ-エンドルフィンといわれ、その作動薬にはモルヒネ、フェンタニル、ブブレノルフィンがあります。その拮抗薬にはナロキソン、ナルメフィン、ナルトレキソンがあります。
κ-オピオイドレセプターの作動物質はダイノルフィンAといわれ、その作動薬にはペンタゾシン、ナルフラフィンなどがあります。
【難治性痒みの発症機序】
*ヒスタミン以外のケミカルメディエーター
痒みを誘発する化学物質としてはヒスタミンが有名ですが、それ以外のさまざまな物質も痒みを誘発し、それらに関与する免疫的な機序、神経的な機序も複雑に関与していることが報告されてきています。
サブスタンスP、トリプターゼ、ECP(eosinophil cationic protein)、MBP(major basic protein)、O2-、IL-1,2,4,31、LTB4などの物質が痒みに関与するとされています。
*ヒスタミンH4レセプター(H4R)
ヒスタミンはH1レセプターだけではなくて、H4Rにも親和性を持っています。H4Rは神経終末に発現していてヒスタミンと結合して痒みを起こします。またH4RはTh2リンパ球にも発現しており、ヒスタミンが結合するとIL-31を合成、遊離して、これが神経終末のH4Rに結合して痒みを誘発します。

難治性の痒みには上記のようにヒスタミン以外のさまざまな因子、機序が関係していることが次第に明らかになってきました。
実際、慢性痒疹の血清中にはIL-31が増加しているとの報告もあります。また結節性痒疹の皮疹部ではサブスタンスPやCGRP(calcitonin gene-related peptide)に感受性の高い神経がみられ、それらの物質の発現も強くみられるということです。またメルケル細胞や肥満細胞、真皮ランゲルハンス細胞や好酸球などが増加していて、それらから放出される因子のかゆみへの関与も考えられています

【痒みの抑制からみた痒疹の治療】
また痒みそのものを神経生理学的な起源からみると4つの型に分類されます。
1)起痒物質が神経終末に作用して起こす型:pruritoceptive
2)病変部の痒みに関する神経が損傷して痒みを引き起こす型:neuropathic
3)中枢神経のメディエーター(オピオイドなど)が痒みを引き起こす型:neurogenic
4)中枢神経、精神面で痒みを引き起こす型:psychogenic

こうしてみると痒疹に特異的な痒みというものはないようですが、逆に種々の要因が痒疹の痒みに関与しているようです。起痒物質としてはヒスタミン、それ以外の物質もあり、掻くことで皮膚、神経も損傷します。肝臓、腎臓疾患からの痒疹、痒みに対してナルフラフィン塩酸塩が奏功することは中枢性の機序も考えられます。またストレス、精神的な要因で痒疹が悪化、軽快するとの報告例は精神面からの痒みの機序も考えさせます。
すなわち、それぞれの要因をターゲットにした痒みの治療が痒疹の治療に必要といえるかと思われます。また痒みの機序が明らかになってくると各薬剤もそれぞれの効果点をターゲットにして開発され、また従来の薬剤の奏功機序、ターゲットも併せて明らかになりつつあります。

◆μ-オピオイド拮抗薬のナロキソン、ナルメフェン、ナルトレキセンは結節性痒疹、胆汁うっ滞性、腎性の痒みを抑制します。
またκ-オピオイドレセプターの作動薬のナルフラフィン塩酸塩はケラチノサイト、末梢神経、中枢神経線維のレセプターに結合することによって結節性痒疹、腎不全、胆汁うっ滞性肝疾患の痒みを抑制します。
ナルフラフィン塩酸塩製剤はレミッチ、ノピコールという製品名で保険適応されています。
《効能または効果》次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)  血液透析患者、慢性肝疾患患者
《用法及び用量》1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与。症状に応じて増量することができるが、1日1回5μgを限度とする
◆サブスタンスP(SP)
これをターゲットとした治療も試みられています。
SPのレセプターであるneurokinin-1 receptor: NK1Rの拮抗薬であるアプレピタントで痒疹のかゆみが減じたとの報告があります。
SPはNK1Rと結合するとケラチノサイトからはIL-1やTNF-α、肥満細胞からはヒスタミン、トリプターゼなどの種々の炎症性サイトカインを放出して痒みを惹起します。
カプサイシン(唐辛子の辛み成分)は神経終末のバニロイドレセプター(TRPV1)に結合して、神経伝達物質のSPやCGRP(calcitonin gene-related peptide)の遊離を起こし、これらを枯渇させて再蓄積を防ぐことによって神経伝達を抑制するとされています。その結果SPによる神経原性炎症を抑制することによって痒みを抑制します。0.02~0.3%のカプサイシン軟膏を1日4~6回塗布して、0.05~0.1%が有効とのことです。ただし、1日多数回(4~6回)塗布し続けなければならないこと、中止によって再発することは問題点です(Steander、塩原による)。
◆免疫抑制薬
カルシニューリンインヒビター(タクロリムス、ピメクロリムス)、シクロスポリンAは痒疹の痒みを抑制します。免疫系のメディエーターを介して痒みを抑制していると考えられます。
◆紫外線療法
PUVA療法、ナローバンドUVB(NB-UVB)、エキシマライトなどの紫外線療法によって痒みが抑制されます。これらでは表皮内に侵入した神経線維を退縮させること、NGF(NEF)の発現を抑制し、セマフォリン3A(Sema3A)の発現を増強させること、ケラチノサイトのオピオイド発現を正常化することなどの機序が考えられています。
◆ステロイド剤
ステロイドの内服、外用は抗炎症作用によって炎症メディエーターの遊離を抑制して痒みに奏功していると考えられています。
◆抗IL-31製剤
近年第Ⅱ相国際共同治験によって、痒みサイトカインといわれるIL-31に対する抗体Nemolizumabがアトピー性皮膚炎の痒みに有効であると発表されました。抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体(CIM331)を中等度から重症のアトピー性皮膚炎に12週間投与して有効性と忍容性が確認されました。痒疹の痒みに対しても期待できるかと思われます。
◆神経作動薬
SP以外にも、ガバペン、抗鬱剤などが奏功する痒疹の例もあります。精神状態、ストレスなどから痒みが増強、scratch-itchの悪循環によって皮疹が悪化することはアトピー性皮膚炎と同様の機序のように思われます。このような例に対しては神経作動薬は有用とされています。
◆サリドマイド剤
多形核白血球の遊走を阻害すること、TNF-α mRNAの分解を促すことでその産生を抑制すること
などによる抗炎症作用、中枢抑制などによって、痒みを抑制するとされています。100mg/日程度の低用量なら比較的安全に使用でき、有効との報告もありますが、一方末梢神経ニューロパシーの報告もあり、適応外でもあり慎重な使用が求められます。催奇性に注意が必要なことは勿論です。
◆抗生剤
マクロライド系抗生剤には抗炎症作用や免疫調整作用があり、痒疹に関係のある種々の細胞に働いて、止痒効果を発揮すると考えられています。しかしエビデンスレベルの高い臨床試験は行われていません。

参考文献

高森建二. 慢性痒疹の痒みのメカニズム.皮膚科臨床アセット18 紅斑と痒疹 病態・治療の新たな展開.総編集◎古江増隆 専門編集◎横関博雄 東京:中山書店:2011.pp189-197.

椛島健治.慢性痒疹の病態と発症メカニズム.皮膚科臨床アセット18 紅斑と痒疹 病態・治療の新たな展開.総編集◎古江増隆 専門編集◎横関博雄 東京:中山書店:2011.pp184-188.

室田浩之.内服・全身療法(かゆみ作動薬). MB Derma(デルマ)痒疹の粘り強い治療◆編集企画◆片山一郎. 214:41-47,2014