月別アーカイブ: 2016年6月

皮膚の色(2)

浦安で「皮膚の色に関する最近の話題」という講演会がありました。講師は山形大学の鈴木民夫先生でした。
かつて生化学教室に属していたというだけあって基礎的でなかなか高度な(難かしい)講演内容でした。
その内容をかいつまんで、わかり易く解説する能力など自信はありませんが、試みてみます。
◆メラニンとその合成について
ヒトの皮膚の色調を決定する因子としては、メラニン、ヘモグロビン、カロチンなどがあります。貧血になると色が白くなってきます。またみかん、カボチャ、ノリなどを食べ過ぎると手掌の色が赤く、オレンジ色に変化してきます。
しかしながら最も大きく規定するのはメラニン色素です。
メラニンには黒褐色の色を規定するユーメラニン、赤毛などの色を規定するフェオメラニンがあります。
細胞の中にはtyrosine(チロシン、タイロシン)というアミノ酸があります。これはチロシナーゼという酵素によって酸化され、DOPA さらにDOPAkinon(ドーパキノン)に変換されます。
最終的にユーメラニンとフェオメラニンになりますが、システインの量が少ないと、ユーメラニンになります。
これらの物質は基本的には細胞毒性の強い物質なので、膜構造物質に囲まれて色素細胞(メラノサイト)内を輸送されます。幼弱なメラノソームから成熟したものへと各段階に名称がついています(stage I,II,III,IV)。成熟メラノソームは膜にトラップされて表皮角化細胞(ケラチノサイト)に受け渡されて色素が表皮全体に広がっていきます。この受け渡しの過程の機序はまだよく分かっていないそうです。
メラノサイトは表皮基底層に存在し、ヒトデの手のように伸びて、周囲の角化細胞にメラニン色素を供給しますが、主に細胞核の上方にあたかも帽子のように集中して、太陽紫外線から細胞を守っています。それでこれをメラニンキャップ(核帽)とも呼びます。
一連の合成経路のどこかで障害がおこれば、色素異常症が生じてきます。代表的な疾患は眼皮膚白皮症(oculocutaneous albinism: OCA)で先天的な白い皮膚の色と弱視(ピンクアイ)、眼振を有し、光老化、発癌をきたします。チロシナーゼ遺伝子欠損のI型をはじめ5型に分類されますが、最近は7型まで分類されています。
ちなみに1型の遺伝子異常を世界で最初に発見し、この分野の先駆けとなったのは日本人皮膚科医(前名古屋大学富田靖先生ー鈴木先生のお師匠さん?)だそうです。
◆日本人の皮膚色
人類の始まり、祖先は定かではありませんが、20-15万年前にアフリカ大陸にその起源があるという説が有力です。その後グレートジャーニーを経て5-4万年前にヨーロッパ大陸へ、ユーラシア大陸へと移動していったそうです。この過程で緯度の高い北国へ移動していったグループは青い目で色白となっていきました。赤道近くに残ったグループは色黒のままでした。これは環境が遺伝子に働きかけて生存のために優位になる方策をとったというよい実例です。
赤道近くでは紫外線から皮膚を守るためには、色黒が理に適っていますし、北国ではビタミンDの代謝効率をあげるには色白のほうが有利に働きます。
フェオメラニンとユーメラニンのスイッチ制御の中心となる遺伝子がMC1R
(メラノコルチン1受容体)です。北国の白人ではこの遺伝子に多くのバリエーションがありますが、アフリカ人ではあまりありません。これはそばかすに関与する遺伝子でもあります。
1997年に米国からOCA2型の眼皮膚白皮症ではメラノソーム蛋白の一種であるP蛋白で健常人と比較して70%程度のメラニン産生能を持つこと、その変異アリルはA481Tが多いとのことが報告されました。アラニンがスレオニンに変異している。鈴木先生は日本人で調べてみて、白皮症の人(8/80)も健常人(24/208)も約20%にその変異があることをみいだしました。
そこで皮膚色を決定している可能性のあるOCA関連の遺伝子、先のMC1Rなどについて解析を行いました。協力してくれたのは主に山形大学の看護師さんたちでした。腕の内側(日光の影響の少ない部分)の色調(ポータブル分光測色計)と遺伝子多型を比較しました。
A481T変異型(A),変異のない型(wild type:W)とすると、W/W, W/A,A/A型によってメラニン色素の量が統計学的有意差を持って低下していました。またH615R, T387M, T500Pにも有意差を認めたそうです。これらの研究から14%程度は日本人の皮膚色はOCA2遺伝子変異(特にA481T)が関与しており、そばかすなどに関与するMC1Rは関連は低い結果でした。
また年齢と色白は関係ないとのことでした。ただ、残りの3/4は環境の因子が関係するので勿論いっぱい日光に晒されれば色黒になります。またこの研究では露光部の色の薄い人はメラノーマを発症し易いことも示されました。
(これはすでに海外の様々な研究で明らかになっていることですが。)
◆ロドデノール誘発性脱色素斑
ロドデノールば白樺に含まれる成分で一般名をrhododendrol 4-(4-ヒドロキシフェニル)2-ブタノールといいます。それを2%含んだものがカネボウ化粧品(株)で開発され、2008年に厚生労働省から承認されたメラニン生成抑制物質です。その後本製品の使用者に脱色素斑などの皮膚障害が多発したことより、2013年7月に(株)カネボウ化粧品、(株)リサージ、(株)エキップによる自主回収が発表されました。ロドデノールはメラニン生成抑制物質作用を有する化学物質でフェノール基を有し、以前から工場など職業として化学物質を取り扱う人に多く発生した職業性白斑の範疇に入ります。この物質が白斑を生じやすいのは、1つは構造式が似通っているためにチロシナーゼの基質となりやすく、チロシンからドーパ、ドーパキノンへの代謝が進まない、拮抗阻害を起こすためとされます。もう1つはロドデノールの代謝産物がメラノサイト障害作用を有するためとされます。脱色素斑は美白剤を使用した部分に生じますが、10%の患者さんでは使用部位を越えてあたかも尋常性白斑のように白斑が拡がり、同様の免疫反応も示唆されています。鈴木先生らはモデルマウスを使った解析を行いました。元々ヌードマウスの表皮には毛根を除いてメラニン色素を有していません。1998年に岐阜大学の國貞先生がhk14-SCFTgマウスという色素を持ったトランスジェニックマウスを開発しました。それとへアレスマウスを掛け合わせて丁度日本人の皮膚色に近いマウスを作成しました。
30%ロドデノール(化粧品は2%)塗布したマウスでは14日目以降まだらな白斑を生じました。それは実際の患者さんの白斑とよく似ていました。病理組織所見も多くのメラノサイトが表皮から減少・消失していました。一方チロシナーゼ活性のないアルビノマウスにも同様の塗布を行いましたが、こちらは表皮メラノサイトの減少は生じませんでした。すなわちロドデノールのメラノサイトへの細胞毒性はチロシナーゼ依存性であることが動物実験レベルでも明らかになりました。
治療についてはタクロリムス(プロトピック)の塗布による効果は認めませんでしたが、紫外線照射による色素再生増強効果は認められました。
尋常性白斑ではEカドヘリン首謀説というのがあって、接着因子であるEカドヘリンの発現が白斑では減少し、そのためにメラノサイトの表皮基底層への接着が低下し、表皮から次第に消失していくという説です。酸化ストレスや機械的な刺激などもその誘因とされています。ロドデノールを塗布するとEカドヘリンは減少していくそうで同様な機序が想定されています。
ロドデノールによる皮膚障害がこれほど拡がった背景としては以下のことが考えられます。
1)ユーザーが多かったこと。
2)一般的に美白剤は、化粧品としてはそれほど効果があるという認識は皮膚科医にもなく白斑を生じるなどとは想定していなかったこと。
3)一方一般のユーザーには(口コミも含めて)よく効くという評判が拡がっていったこと。
4)個々の皮膚科医はおかしい、美白剤の影響かと思っても、それを国全体、社会全体で共有するまで時間がかかったこと。

講演会のあと、このような実験モデルが確立できたならば、今後の美白剤の開発などに大いに役立ちますね、と訊いたら化粧品業界は動物実験はやりません、といわれました。そんなことをすると海外では動物愛護団体(?)からすぐにクレームがくるそうです。またOCAについて、全国から山形大学に遺伝子検査の依頼がくるので大変でしょう、と訊いたら1例数十万円もする仕事を自分の教室の経費でやらなければならないので今は受けていません、とのことでした。優れた技術があるのに何か釈然としない思いを抱きました。
こんな感じでついには中国やシンガポールや韓国などの後塵を拝するようなことにならなければよいのですが。

浮世離れしたような基礎的な難しい話ではありましたが、色素の世界の奥深さを垣間見たような1日でした。

皮膚の色(1)

先日、京都で日本皮膚科学会総会がありました。会頭は慈恵会医科大学の中川先生、乾癬の専門家です。それで、招待講演も”ライフワークである乾癬の分野を通して長い親交のある” King’s College LondonのBarker先生が Optimising outcomes in Psoriasisという演題で講演されました。過去、現在、将来に亘る乾癬のレビューで素晴らしいものでした。
ここ数年の生物学的製剤などや病態解明の進歩を解説されながら、なおその薬剤コストの高さ、治療に適さない人、効果のない人、副作用のある人のあることも言及されました。適切な患者に適切(最適な?)治療を供給することの重要性も指摘されました。このためにさらなる分子生物学、免疫学などによる病態の解明によってより適切な薬剤の開発なども見据えておられるようでした(抄録からの類推)。
また慈恵の皮膚科で「教室が精力的に関わってきた神経線維腫症1型」などの特別講演もありました。前任の新村眞人先生がその道の大家でした。イボ神様でもありました。めったにお目にかかることもなく、学会でまとまって取り上げられることもないような企画に、誘われて出てみました。カフェオレ・スポット、気になりつつもまともな知識はありません。
それと、一寸前の光線療法推進の会で白斑のことを学び、「白斑の診断と治療 up to date」の教育講演にもでてみました。来週は浦安で山形大学の鈴木先生による「皮膚の色に関する最近の話題」という講演があります。
皮膚の色が白くなろうが、黒くなろうが、それだけでは機能的にはなんら問題はないと思われます(細かく言うと紫外線発癌など関係するかもしれませんが)。しかしながらQuality of Life は大きく損なわれます。
たまたま皮膚の色についての講演会が続いたので、皮膚の色についてしばらく取り上げてみたいと思います。

光線療法推進の会ー白斑の治療

先日、皮膚科光線療法推進の会主催のセミナーがありました。今回は白斑の治療に絞ったもので、テーマは
「皮膚科光線療法で白斑を治療します。各機器を使用した治療の工夫」と銘打ったものでした。
最近、紫外線治療機器はさまざまな種類のものが開発されてきて、多くの難治性の皮膚疾患に有効であることが明らかになってきました。また保険適用疾患も増えてきています。しかし、その分、適切な使用法、使い分け、有効率、長期の副作用などもまだ検討中の段階ともいえます。
皮膚科光線療法の第一人者である名古屋市立大学の森田明理先生が中心となって、皮膚科光線療法推進の会(PMDTA: PhotoMedicine Dermatology Association)を立ち上げて、NPO 法人化するそうです。そして、最適化された光線療法を推進するための情報発信と医療機関(皮膚科医)とともに新たな光線療法の開発を目標に掲げています。

当日は実際に多くの白斑の治療経験のある3人の講師の先生方が、それぞれ異なる光線機器を用いた尋常性白斑(白なまず)の治療の実際、コツなどについて講演されました。
ターゲット型ナローバンドUVB治療器 ターナブ (澁谷工業(株))名古屋市立大学と共同開発
渡部晶子先生 東北大学皮膚科
ターゲット型エキシマライト セラビーム(ウシオ電機(株))
小野寺英恵先生 菜園皮膚科クリニック
ターゲット型エキシマライト VTRAC((株)JMEC)
横川真紀先生 横川ひふ科クリニック

尋常性白斑の治療は年齢、性別、病変範囲、部位、罹患期間、治療歴、露光部の病変の有無、職業などの個々の状況によって異なってきます。(森田明理先生)
以前は外用PUVA療法が行われてきましたが、露光部では厳密な遮光が必要で、うっかりすると熱傷など思わぬトラブルを生じることもありました。またPUVA療法による光発癌も危惧されるようになりました。そうしたこともあり、近年はより安全で有効性の高いナローバンドUVBやエキシマライトが用いられるようになってきました。
ナローバンドUVBは乾癬の治療にも用いられますが、311-312nmをピークとする中波長紫外線です。汎発型など広範囲の場合は第一選択肢となります。しかし、分節型などは効果がでにくく、100回以上の照射が必要なこと、無疹部に対しても照射されるために、長期的には不必要な光老化や光発癌性のリスクをより心配しなくてはなりません。
そのリスクを減らすためにターゲット型光線治療器が開発されました。皮疹部のみに限定して照射するように照射部が小さめに設計されています。308nmをピークとするエキシマライトです。エキシマガスの励起によって各種の波長を放射できますが、XeClが用いられています。

3人の先生方が、それぞれの機器を用いた治療症例を提示して下さいました。著効を示すケースも多く見せていただきましたが、勿論全例で有効というわけではなく、いろいろと工夫をされながら照射されていました。

白斑のタイプによる有効性の違いや、注意点、それぞれの機種の特性などピックアップしてみます。

*分節型は光線療法に反応しにくく、外科的療法に反応しやすい。目の周りなどでは1ミリミニグラフト、範囲が広ければ吸引水疱蓋表皮移植が推奨される。またミニグラフトとエキシマライトの併用も効果的。
*発症5か月以内は効果が高いが、それ以降は効果が落ちる傾向にある。
*顔、頚部、体幹は反応し易く、次いで四肢で有効であるが、手足は効果が落ちる傾向にある。
*照射方法は機種によっても異なるが、白斑部が淡いピンクになる量で行い、徐々に(20%程度)増量していく。
*最初は週2,3回が有効だが、開業医では1~2週間隔になる。
*回数は明確な限度はないが、30~50回程度で不変ならば中止、との意見が多かった。
*小児への適応。ガイドラインでは16歳以上となっているが、早期のものは少ない回数でも有効なので、小児にも施行するとの意見もあった。
*陰部への照射は、将来的に皮膚癌などのでき易い部位であることを考慮すれば、施行前に十分な説明が必要とのことであった。
各機器の特性
*VTRACは輝度(照射率)の高いのが特徴で、光線の深達度が深い、短時間で照射できるなどの利点がある一方、周辺健常部への色素沈着が目立つ傾向がある。最大パワーは4500mJと通常ナローバンドUVB照射機の180倍の強さがある。
*ターナブは小型で取り回し易いが、照射に時間がかかる。
*セラビームはエキシマフィルターによって、紅斑の生じやすい短波長側をカットする光学フィルターを付属しているが、ヘッドが大きいために取り回しにくい傾向がある。最近、ハンディータイプのセラビームミニも発売された。

白斑に対するターゲット型紫外線治療はまだ始まって日が浅いこともあり、日本皮膚科学会のガイドラインでも症例数が少ないために、推奨度C1、むしろ効果の劣るナローバンドUVBが推奨度Bと上位に記載されています。
治療機器の選択肢が増えたことは良いことですが、治療の標準化、最新の情報も必要になってきます。
そういった意味でもPMDTAの今後の活動は重要になってくると思います。長期的な視野にたった治療指針、臨床検討が日本皮膚科学会のガイドラインにも反映されていくと思います。

折しも、最近第1回アジア白斑会議が韓国ソウルで開催されたそうです。国によって事情は大きく異なりますが、お隣韓国ではエキシマレーザーの治療が盛んに行われているそうです。アジア人の特性に合った治療の方式も確立されていくのでしょう。(大阪大学 片山教授 コラム より)

PMDTAのホームページでは患者さん向けの白斑の情報、記事アップも進めていくようです。参考にしてみて下さい。

参考文献

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド 総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光
森田明理、加藤裕史 尋常性白斑の光線療法 pp227
芝田孝一 白斑のレーザー治療 pp233

ターナブ

セラビーム

セラビームミニ2

VTRAC