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化学物質による白斑(ロドデノールなど)

化学物質による白斑は従来からフェノール系物質を扱う人にみられ、職業性の白斑としてよく知られていました。
この範疇で最近社会問題にもなったのが、カネボウ化粧品の発売したロドデノールによる白斑です。2013年に明らかになり、すでに発売中止となりました。
(当ブログでも美白剤による白斑として2013年8月14日にとりあげました。)
ここでは、ロドデノールによる白斑の発生からその後の経過を日本皮膚科学会の調査委員会の報告などを元に辿ってみてみます。
【ロドデノールによる白斑】
◆発売から発症まで
ロドデノール含有化粧品は2008年1月に厚生労働省から「メラニン生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ効果を有する」新規医薬部外品として承認され、カネボウ化粧品から発売されました。最初の2年間は美容液1製品が市販され、その後多くの美白化粧品に使用されました。
メラニン生成抑制物質である4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール(一般名:rhododendrol,商品名:ロドデノール/Rhododenol(以下RD)を主成分とします。
発売後しばらくして全国各地で同剤による白斑の事例が散発するようになったものの、明確な関連性は不明でした。
当初、それに気づき発表、調査を進めていったのが岡山大学の女性医師グループでした。姫路赤十字病院皮膚科の塩見真理子医師が2013年1月岡山地方会で「美白化粧水で尋常性白斑様色素脱失を来したと思われる2例」を発表したのがきっかけになりました。明確な因果関係を証明せずにそう結論づけるのは拙いと青山医師らと調査検討、会社への対応を重ねていきました。白斑をみたら化粧品の問診を重ね、カネボウのブランシールが怪しい、となっていったそうです。やはりこの分野は男性より女性医師の活躍が光ります。当初は多くの皮膚科医が、消費者が、開発担当者までもが、「白斑」に気づきうすうす関連があるのではないかと思いつつも、厚労省も認可した大手メーカーの化粧品で、尋常性白斑との区別が難しい、単なる化粧品がそんなに効くはずがない、そんな話はこれまできいたことがないなどといった常識の罠、壁にとらわれていました。青山医師、塩見医師らはそれらを打ちこわしながら症例を集積し、会社への対応などをしていきました。その後予想以上の症例がでてくるに及び、自主回収へと進展していきました。
青山医師は「わかってしまえば誰でもできるコロンブスの卵のようなことでも最初に言い出すのは勇気とエネルギーが要ることだとつくづく思う」と述べています。
◆自主回収から日皮会の調査報告
2013年7月4日、RDを含む化粧品を販売していたカネボウ、リサージ、エキップの各会社はRDを含むすべての化粧品を自主回収しました。日本皮膚科学会は正しい情報提供、診断と治療方法の確立のために「RD含有化粧品の安全性に関する特別委員会」を7月17日に設置し、その後一次、二次、三次全国疫学調査を施行しました。
それぞれ、2013年7月17日~9月7日、2013年12月17日~2014年1月31日、2014年12月15日~2015年3月9日です。
これらの全国調査によってRDによる健康被害の概要、その後の経過、病態機序などが次第に明らかにされてきました。
◆RDによる美白作用と白斑の発症機序
RDはメラニン生成の出発材料であるチロシンと構造式が類似しているために、本来はチロシンが結合すべきチロシナーゼの活性中心に結合します。その結果チロシナーゼと本来の基質であるチロシンの結合が阻害されて、その後のメラニン生成反応がストップしてしまいます。その結果生成されるメラニン量が減少して白くなるという機序です。
このような酵素反応を拮抗阻害といいます。この作用はお互いの濃度依存性ですので、RDの濃度が減少する、すなわち使用を中止すればその効果は消退すると考えられます。
拮抗阻害作用以外にも、RDがヒトチロシナーゼの基質となり細胞障害を誘発する代謝産物を産生すること、さらにはRDがメラノサイト(色素細胞)にオートファジーを誘発すること、病変部にT細胞が浸潤して免疫性機序も考えられています。
◆臨床症状
RD誘発性白斑の症状の特徴は、顔面、頚部、手背など主としてRD使用部位に不整型、大小不同の脱色素斑を生じます。患者はほとんどが女性です。化粧品使用後2か月から3年して、不完全脱色素斑が出現します。まだらなことが多く、色素脱失の程度も多様です。境界明瞭な完全脱色素斑に移行、混在した例もみられます。かゆみ、紅斑など炎症を伴う場合と伴わない場合があり、前者のほうがパッチテストの陽性率は高いです。
◆自主回収後の全国疫学調査報告
一次全国疫学調査は実態の把握に重点が置かれました。二次疫学調査では化粧品中止後の経過調査により、自然軽快症例が多い一方で回復に長期間を要する症例が存在すること、色素再生に時間がかかること、また長期の色素再生も期待できうること、紫外線治療効果のみられる可能性があることなどが報告されました。三次調査では自主回収後1年半経過してからもなお医療機関に通院中の患者の経過、治療効果が重点的に調査、報告されました。
どの程度の治癒率かというと、カネボウ化粧品(株)の2014年11月の調査報告では以下のようです。
RDで脱色素斑を生じた症例数: 19370人
完治・ほぼ回復した症例数:   9243人(47.7%)
RD含有化粧品使用者は80万人と推定されており、そのうち約2.4%の人が誘発性脱色素斑を発症したことになります。
三次調査は全国の専門医療機関(一次、二次疫学調査での協力227施設)への調査で、1000例程度を対象としています。調査時点で通院中ということはまだ治癒していない患者を対象としたことになります。
そこでの結果は、82%が軽快以上、部位別にみると顔は8割、頚部で7割、手背で6割が軽快以上と回答しました。一方で全体の16%がまだ脱色素斑は改善せず、27%は色素増強が残っていました。
治療では全体の2割、153例に紫外線治療が施され、うち5割が効果ありとの回答でした。部位別では顔が5割、頚部、手背が3割が有効でした。顔は週1回以上定期照射していた群のほうが不定期群より有効でした。病理所見では白斑部の色素細胞が消失していた群と減少しているものの残存している群がみられ、今後も紫外線治療効果が期待できる結果でした。
軽快傾向を示す症例が多いものの、患者アンケートでは「経過への不安」の声が聞かれました。
また三次調査によって、中止後も拡大する脱色素斑、あるいは塗布していない部位にも脱色素斑が出現し、尋常性白斑合併したと考えられた患者が14%みられました。これらの患者ではもし当該化粧品の使用歴が確認できなければ、尋常性白斑との鑑別は困難とのことでした。これは、RD誘発性白斑が尋常性白斑の病態をみなおす機会となったとも述べられています。

これらの調査で、かなり多くの患者さんが、完治、ほぼ軽快したと思われますが、一方なお脱色素斑の残る患者さんが一定数みられることがわかります。RD誘発性白斑も化学物質誘発性白斑の一種である以上、接触の中止によって回復することが多いものの、長期にわたり固定してメラノサイトが破壊されてしまったものは元に戻るのが困難なのでしょう。

【その他の化学物質による白斑】
薬剤、化学物質による白斑の発症病態は大きくわけて以下の2つがあります。
*化学物質による白斑:化学部室との接触によって色素脱失を生じたもの。
*白斑黒皮症:降圧剤(サイアザイド系など)などによる光線過敏性薬疹に伴って色素沈着と色素脱失をきたしたもの。
重要な疾患ですが、ここでは触れません。

ハイドロキノンモノベンジルエーテル(MBEH)、p-t-ブチルフェノール(PTBP)、p-t-ブチルカテコール、p-t-アミノフェノール、イソプロピルメチルフェノールなどのフェノール類、カテコール類、チオール類などによって生じます。
これらは接着剤、インキ、ワニス、香料、殺菌剤、合成樹脂改質剤、ゴム酸化防止剤、塩化ビニール安定剤、オイル添加剤など様々な製品の原料として使用されています。工場などで集団発生した場合は職業性健康被害として診断は容易ですが、単発の場合は原因検索は困難です。
病態、発症機序は上記物質は活性酸素の発生源となることから、活性酸素に弱い色素細胞を障害するものと考えられていますが、フェノールやカテコール化合物はチロシンの構造に似ているために競合阻害するのではないかとも考えられています。
(この機序はRDでも当てはまります。)
しかし、最近の研究ではアポトーシスを誘導する、ヒートショック蛋白を介して樹状細胞を刺激し色素細胞を障害するなどの仮説も唱えらえ、発症機序は単一ではないようです。これはRDにもあてはまるのかもしれません。

RD誘発性脱色素斑が社会問題となる以前はロドデノールも美白剤の一つに過ぎないものという捉え方でした。
多くの美白剤があり、その奏功機序もメラノサイト刺激・活性化因子に作用するもの、メラニン産生にかかわる因子に作用するものなど多種多様です。しかし、いずれにしても非常によく効く美白剤は下手をすると白斑を誘発しうることも考慮しなくてはならないのかもしれません。今回の一連の経過をみて化粧品は医薬品と違って安全と決めつけないで、注意深く対応することも必要かなと感じました。

参考文献

塩見真理子 他:ロドデノール誘発性脱色素斑 Rhododenol induced-leukodermaの臨床.皮膚病診療, 2014;36:590-595.

青山裕美: 脱色素斑が教えてくれた常識の罠.臨床皮膚科 68巻7号 pp482-483(2014年6月)

松永佳世子:ロドデノール誘発性脱色素斑.臨床皮膚科 69巻5号 pp10-15(2015年4月)

伊藤明子 他:ロドデノール誘発性脱色素斑症例における三次全国疫学調査結果.日皮会誌:125(13),2401-2414,2015

堀川達也:48 薬剤・化学物質による白斑の病態・診断・鑑別診断.総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 皮膚科臨床アセット11 シミと白斑 最新診療ガイド.東京:中山書店;2012.pp250-253

RD誘発白斑

松永佳世子 臨皮69巻5号 2015年増刊号 より 引用

槍ヶ岳

先日、夏休みをとって、槍ヶ岳に登りました。若い頃登ったきりで数十年ぶりでした。
槍ヶ岳ロッジに泊まってゆっくり登って行ったのにもかかわらず、最後の登りはバテバテでした。ここ数年、足腰、体力の衰えを如実に感じます。腰痛、膝痛などを口実に日頃の運動も滞りがちで、昔取った杵柄が役に立つわけもありません。後続に追い越されながらゆっくり登っていきました。
槍の穂先を眺めながら、20代の若い頃友人と登った北鎌尾根のことを思い出していました。晩秋の尾根はまだ夏道もでていましたが、尾根の上部は雪になっていました。当時の山日記を見ると(あの頃は真面目に日記をつけていました)
「予想に反して、雪は少なく、夏道もでていてルートさえ間違えなければ技術的には問題ない。むしろ20Kg以上の重荷を背負って登攀するのが大変」「雪と氷が顕著になり出したのは北鎌沢のコルを過ぎてから」「しかし自然条件が悪化したら、安全に通過出来るだろうか」などと書いています。若気の至り、というか、冬の岩壁も目指していた頃でした。
槍の冬季小屋はとても寒くて、沸騰したお湯をこぼすと立ち所に凍ってしまったことなど思いおこします。
あの頃「北鎌尾根」は憧れのルートでした。写真でみた格好良さ以上に、加藤文太郎や松濤明などが遭難した伝説の地でもあったからかもしれません。
もう、あれから40年以上も経ってしまいました。人間もくたびれるはずです。下りはゆっくりと降っていきました。そのせいか、登山道の傍らにある岩室に気づきました。槍ヶ岳開祖の播隆上人が何十日も籠って念仏を唱えた処とありました。
この道を播隆上人が開き、ウェストンや上条嘉門次が登って行ったのかと思うと感慨深いものがありました。
翌日は沢伝いの森の小径をそぞろ歩きに降っていきました。ゆっくり歩くと、朝日の木漏れ日や、小鳥たちの囀り、沢の音や風の音も目や耳に心地良く感じられます。朝露に光る山野草も目を和ませてくれます。体力の衰えた分、新たな山の愉しみもあるのか、山に在るだけで幸せな気持ちになれます。
そう自分を納得させながらも、やはり老いていきいずれは高山から立ち退いていくであろうという思いは寂しいものがありました。

年年歳歳花相似 歳歳年年人不同

槍ヶ岳

播隆窟

播隆窟2

木漏れ日

木漏れ日2

Vogt・小柳・原田病(症候群)

メラノサイトに対する自己免疫によって発症します。したがってメラノサイトを有する全身の各器官に炎症を生じ、それぞれ特有の臨床症状を呈します。眼に対してはブドウ膜(脈絡膜、毛様体、虹彩の総称)炎、緑内障など、髄膜炎、内耳障害から難聴などを生じます。病期が3期に分かれており、慢性期、回復期では皮膚症状が主で、白斑、白毛などを認めます。皮膚症状だけに注目すると、尋常性白斑との区別が困難です。
特有なHLAタイプに好発し(HLA-DR4,DR53,DQ4と強い相関あり)、日本人などアジア人では多く、白人では稀とされます。20~40代の女性に好発するとされます。メラノソーム関連蛋白(チロシナーゼ、TRP1, TRP2, MART-1)に対する細胞障害性T細胞が存在します。これからもメラノサイトに対する自己免疫疾患であることが窺われます。

虹彩毛様体炎、毛様充血、前房水混濁、縮瞳、硝子体混濁のみられる眼疾患を1909年Alfred Vogtが、1929年には小柳美三が報告し、Vogt・小柳病と称されるようになりました。また一方病変が眼底のみに存在する型のものを1926年に原田永之助が報告し、当初はそれぞれ別疾患と思われていましたが、これも同じ疾患の一亜型ということが分かりました。それで現在ではVogt・小柳・原田病と総称するようになったそうです。
症状は3期に分類されます。
【前駆期】
感冒症状、頭痛、頭皮のピリピリ感、発熱などの症状がみられます。耳鳴り、めまいなどの髄膜刺激症状もみられます。発病の1週間程度。
【眼病期】
両目の充血、かすみ、物がゆがんで見える、視力低下などの症状がみられ、検査ではブドウ膜炎、漿液性網膜剥離がみられます。約8割の例では内耳機能障害を起こし感音性難聴がみられます。症状には軽重があり、片目のみの場合や、ほとんど網膜剥離がなく視力低下もわずかの場合もあります。
【回復期】
数か月後、眼底の脈絡膜の色素細胞の脱失によって毛細血管が透けて見え、後期には夕焼け様眼底を認めます。発症後半から数年後には皮膚の色素細胞の消失によって白斑や白毛、脱毛などの皮膚症状を認めます。白斑は顔面および頭部にみられることが多く、特に眼周囲の白斑、白毛を伴いやすいのは本症の特徴とされます。
【治療】
Vogt・小柳・原田病は治療をしなくても一旦は軽快します。しかし、再発を繰り返し遷延化するにつれて徐々に視力は低下していきます。したがって、初期に免疫抑制剤、抗炎症剤を十分に使って有害な免疫反応を断ち切ることが肝要です。具体的にはステロイドパルス療法、シクロスポリン治療などが専門病院にて施行されています。
【皮膚症状に対する治療】
一般の尋常性白斑の治療に準じますが、合併症の有無によって内科、眼科、耳鼻科などとの共同、連携治療が必要となります。
早期治療によって皮膚症状の発生頻度は減少してきているとのことです。
皮膚症状は回復期にみられるので、初診から皮膚科を受診するケースはまずないと思われますが、眼症状、難聴などを伴う白斑のケースでは同病も念頭に置く必要性があります。

参考文献

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 東京:中山書店:2012

あたらしい皮膚科学 第2版 清水 宏 著 東京:中山書店:2013

日本眼科学会ホームページより  目の病気 ぶどう膜の病気 フォークト―小柳―原田病

大人の白斑

小児の白斑は、先天性のものが鑑別診断で重要ですが、大人になってから生じたものはまず後天性のものとなります。
やはり尋常性白斑が最も多くなりますが、鑑別すべき疾患をあげてみました。
◆尋常性白斑・・・すでに書いたので省略。

◆Vogt-Koyanagi-Harada症候群・・・別項で。

◆Sutton母斑、黒色腫関連白斑・・・すでに書いたので省略。

◆化学物質による白斑・・・別項で。ハイドロキノン誘導体、フェノール化合物など職業性に生じるものもあります。美白剤のロドデノールによるものもこの範疇にはいります。

◆感染症による白斑・・・癜風によるものは多くみられますが、その他の感染症はまず一般診療ではおめにかかりません。
梅毒、ハンセン病、ピンタ、リーシュマニア症、オンコセルカ症、HIV感染症などで見られることがあるそうです。

◆加齢変化による白斑・・・高齢者の体幹、四肢に直径数mm大の円形や不整型の境界の明瞭な脱色素斑が散在性にみられます。軽度の皮膚萎縮を伴っています。早い人では20歳代から出始め加齢とともに増加していく傾向があります。一種の加齢変化と考えられています。
白斑部の表皮メラノサイトは機能低下し、数は減少ないし消失しています。
老人性白斑とも特発性滴状色素減少症とも呼ばれています。

◆炎症・物理的原因による白斑・・・アトピー性皮膚炎、乾癬、エリテマトーデスなど種々の疾患の炎症がおさまった後に炎症後色素脱失としての白斑がみられることがあります。逆に炎症後色素沈着もみられることがあります。全身性強皮症ではこの両者がみられます。
熱傷、凍傷、外傷、放射線等の物理的な原因によっても白斑がみられることがあります。外傷後の白斑の場合では時にはケブネル現象による尋常性白斑との区別がつきにくい場合もあります。
薬剤(サイアザイド系などの降圧剤に多い)の長期間内服の後に薬剤性光線過敏症を発症し、最終的に露光部に色素斑と白斑を混在して生じる場合があります。これを白斑黒皮症と呼びます。

◆僞梅毒性白斑・・・20~30歳代の色黒のアジア人男性の腰臀部に好発します。約1~2cm大の境界鮮明な不完全色素斑が多発ししばしば融合して網目状になります。網目状の形状は梅毒性白斑に類似しますが、梅毒では頚部など露出部の皮膚に発生するとされます。もちろん僞梅毒性白斑では梅毒血清反応は陰性です。

参考文献

塚本克彦 34 白斑の鑑別診断 皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド 
相編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 東京:中山書店:2012. pp181-190. 

あたらしい皮膚科学 第2版 清水 宏 著 東京:中山書店:2013

まだら症など

先天性の白斑・白皮症の中で、限局型に分類されるものにはいくつか特徴のある疾患があります。脱色素性母斑、結節性硬化症に伴う白斑については既にのべました。それ以外はいずれも極まれなものではありますが、似て非なるものもありますので、ここに概略をまとめます。
◆まだら症
常染色体優性遺伝形式をとります。出生時から存在する完全脱色素斑で全額部中央の菱形あるいは三角形をとる場合は前額髪際部での白毛(white forelock)を伴います(本症の85%に認められる)。胸腹部・四肢にもみられますが、比較的左右対称性にみられます。生涯を通じてほぼ不変です。
メラノサイトが神経堤から表皮へと遊走する際に関与するc-KIT遺伝子の異常が患者の7割にみられます。従って全身型白皮症と違って、本症の白斑部ではメラノサイトは存在しません。またはかなり減弱しています。胎生期に体の背側に位置する神経堤からメラノサイトが腹側に移動する際に途中で止まってしまい白斑を生じるとされています。したがって体の前面のほうが多いとされます。
ただ、KIT遺伝子以外にもMC1R遺伝子などが修飾遺伝子として働いていることも示唆されています。
◆Waardenburg症候群
多くは常染色体優性遺伝形式をとる極めてまれな疾患です。前額部中央の白斑や白毛(white forelock)を認め、まだら症に似ています。しかし、内眼角解離、鼻根部の拡大、両側眉毛の融合、先天性難聴、虹彩異常、腸病変など様々な合併症を伴います。近年様々な遺伝子異常が見つかってきています。顔面のみならず、体幹、四肢にも白斑をみることがあります。
◆伊藤白斑
生下時から存在する体幹、四肢の低色素斑で、1951年に東北大学の伊藤実先生が報告した疾患です。そのパターンがBlaschko lineに一致し、あたかも色素失調症のネガ像に近いことから当初脱色素性色素失調症と名づけられましたが、色素失調症とは関係ありません。範囲が狭いと脱色素性母斑との鑑別が難しくなってきます。ただ、伊藤白斑では特徴的な帯状、渦巻き状の不完全脱色素斑が左右対称に生じることが多いとされます。また神経系や筋骨格系の異常を合併するケースがあります。
1つの原因遺伝子から生じるのではなく、染色体モザイクによるとされます。

参考文献

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 中山書店 東京 2012

結節性硬化症

結節性硬化症(tuberous sclerosis complex: TSC)による白斑は全国特定機能病院の白斑・白皮症患者統計によると全体の7%を占めています。尋常性白斑60%には及びませんが、サットン母斑、感染症原因白斑とほぼ同程度に多くみられます。ただ、一般の個人開業医レベルではめったにお目にかかることはありません。しかし、重要な疾患なので、資料から調べてみました。

結節性硬化症は1835年に初めて報告されたように古くから知られた疾患で、古典的には知能低下、けいれん発作、顔面の血管線維腫を三主徴とする疾患ですが、その後1世紀半に亘って、その病因についてはほとんど進歩がありませんでした。
ところが、1993年になって16番染色体上にTSCの遺伝子の一つのTSC2遺伝子が、1997年には9番染色体上にTSC1遺伝子が相次いで発見されました。
さらに2000年代に入ってTSC1遺伝子、TSC2遺伝子産物であるhamartin,tuberinがPI3-kinase(PI3K)-Akt-mTORシグナル伝達経路に関与していることが明らかになりました。このことによって本症の解明が飛躍的に進みました。現在では本症は全身の過誤腫を特徴として、皮膚以外にも脳、肺、心、腎、骨などのほぼ全身の臓器に多様な症状を呈することがわかっています。
最近はTSCは一種のシグナル伝達病と考えるようになり、古典的な疾患概念が大きく変化し、古典的な症状の頻度は必ずしも高くなく、また病変の裾野も拡がりをみせています。さらにシグナル伝達経路の研究により新たに他の類縁疾患との関連も解明されてきています。
hamartinもtuberinも癌抑制遺伝子の一種ですが、この両者は複合体を形成して上記のシグナル伝達経路を介して細胞増殖やその他の蛋白代謝にも関与していてこの疾患の多彩な臨床症状の病因の元になっていることも次第に明らかになってきました。
【臨床症状】
◆皮膚病変
90%の患者に認められ、早期診断には特別な検査機器を必要としない重要な役割を担っています。
*出生時から認められるのは白斑で、葉状と表現されますが、紙吹雪様の小白斑の多発をみることもあります。メラニン色素の低下によるもので不完全脱色素斑です。(3つ以上の低色素斑)。早期診断に役立ちますが、気づきにくいです。体幹から下肢に好発します。ウッド灯で目立ってきます。過誤腫などの原因はシグナル伝達の異常症として説明ができますが、白斑の生成のメカニズムについてはまだ不明です。
*幼児期から顔面特に鼻翼から頬部にかけて赤い血管の拡張した小結節の集簇を認めます。学童期以降増加してきます。
血管線維腫(angiofibroma)です。桑の実、またはブドウの房状を呈することもあります。
*頭皮部局面。指頭大から手掌大までの硬い弾力のある皮膚肥厚で褐色、表面は凸凹し、毛は疎です。
*小児期から疣状の小結節ができ、年齢とともに集合して敷石状の局面、シャグリンパッチ(粒起革様皮膚)を形成します。粒起革とは鮫皮のように表面が粒状になっている皮のことです。膠原繊維が増えた結合織母斑です。
*成人期になると爪囲線維腫が増加してきます。初期には爪の陥凹、溝として見られることもあります。直径2~10mmで爪の周囲にみられます。Koenen腫瘍とも呼ばれます。本体はやはり血管線維腫です。歯肉や口腔内にも線維腫を認めます。
*歯のエナメルピッチング(点状陥凹)は特徴とされます。
◆心症状
出生前から心臓の横紋筋腫がみられ、死因の多くの原因となります。
◆精神神経症状
乳児期から幼児期に脳室周囲に腫瘍を認めてんかんを発症することがあります。3分の1の患者が強直間代発作を起こします。精神発達障害や自閉症もみることがあります。
◆腎病変
腎嚢腫と血管筋脂肪腫があります。血管筋脂肪腫は思春期から増大し、成人期になって両側多発性になると血管成分に富み破裂して大出血をきたすこともあるために注意を要します。
◆肺病変
リンパ脈管筋腫症、3,4割の患者に生じます。発症には女性ホルモンが関与するために女性に多くみられます。のう胞を形成し気胸を繰り返し進行性で予後不良とされます。
◆眼病変
約半数に多発性結節性過誤腫を認めます。
◆消化器病変
大腸ポリープ、狭窄、肝臓、すい臓などの嚢腫、血管腫などを認めることがあります。
【治療】
各種の腫瘍などに対して外科切除をするなどの対症療法となります。
最近はシグナル伝達経路を阻害する薬剤によって、経路の下流にあるmTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)を抑制し、これの活性化によって生じる様々な症状を抑える試みがなされています。
すなわち、mTORC1阻害薬であるラパマイシンやエベロリスムなどの内服による症状緩和の報告もあります。
しかし、長期使用によって効果が減弱する現象もあります。この経路のフィードバック抑制によってMAPK経路の抑制の欠如をきたすために効果が減弱するものと考えられています。それでMAPK阻害薬との併用も検討されています。
皮膚科領域では副作用の少ないラパマイシンの外用による皮膚病変への治療も進められています。

最近、母斑症をシグナル伝達の異常症として捉えるという考え方が広まってきています。分子生物学の進歩によって、細胞内外での各種のシグナル伝達物質が明らかになり、従来臨床的に分類、命名されていた母斑症の原因遺伝子、関連遺伝子が次々に解明されてきています。
そして、一部では個々の母斑症どうしの類似性や関連性が細胞のシグナル伝達系の変異として説明できるようになってきました。その原因遺伝子をターゲットとして分子標的療法を試みるなど、将来は新しい治療法もみえてきているそうです。
結節性硬化症においても前述の2種の原因遺伝子が同定されています。しかしながらそれのみで全ての病態が解明されたわけではなく、また遺伝子異常の検出率も75~90%に留まるとされます。また個々人の症状の軽重の大きな開きの予想も困難です。したがって遺伝子検索のみに重きを置くことなく、個々の病態に応じて専門医にコンサルトすることが肝要とされます。

参考文献

1)皮膚科臨床アセット 15 母斑と母斑症
総編集◎古江増隆 専門編集◎金田眞理 中山書店 東京 2013

2)日本皮膚科学会ガイドライン 結節性硬化症診断基準および治療ガイドライン
結節性硬化症の診断基準・治療ガイドライン作成委員会 金田 眞理 ほか 日皮会誌: 118 (9), 1667-1676, 2008 (平20)

3)金田眞理:結節性硬化症の現状と新規診断基準. 日皮会誌:125(12),2267-2276,2015(平成27)

TS病態

文献3)より

TS症状

文献3)より