月別アーカイブ: 2017年2月

固定薬疹

固定薬疹(fixed drug eruption:FDE)は皮膚粘膜移行部(口囲、口唇、外陰部など)や四肢によくできるタイプの薬疹です。
境界は明瞭で貨幣大から手掌大までの紅斑で、中央を部は紫紅色を呈し時に水疱、びらんとなります。同一部位に繰り返して生じることが最大の特徴です。原因薬剤を摂取後30分から1時間後にに局所の灼熱感、かゆみを伴って発症し、数時間後には以前生じた色素沈着部に一致して紅斑を生じます。2~5週間の経過で色素沈着を残して治癒します。しかし、薬剤の再投与で再発し、再発ごとに色素沈着も強く、個疹の数も範囲も拡大する傾向にあります。一見軽症型の薬疹のように思われがちですが、進行するとSJS(Stevens-Johnson)症候群や中毒性表皮壊死症型薬疹と類似した病状を呈することもあるので注意が必要です。
病理組織学的所見でも、FDEとSJSには類似点もみられます。表皮基底層の液状変性や表皮細胞のアポトーシス(細胞死)、真皮上層のリンパ球浸潤などは共通してみられる所見です。ただSJS/TENでは多数の表皮細胞のアポトーシスがみられ、表皮は全層性の壊死に陥ります。具体的には少なくとも顕微鏡の200倍視野で10個以上の表皮細胞壊死を認めます。
また浸潤する細胞の類似性も指摘されています。両者ともに細胞障害性のCD8+T細胞が表皮基底層にみられます。そして薬剤の摂取によって局所でインターフェロンγ(IFN-γ)を速やかに発現して炎症反応を惹起します。
しかし両者での臨床症状では、前者では局所に留まり、後者では全身に拡大重症化するといった違いがあります。組織学的な違いはどこか?最近両者におけるTregの差の重要性が指摘されています。
抑制性の機能を有するT細胞(CD4+CD25+Foxp3+T cell: regulatory T cell: Treg)の機能低下がTENの発症に重要な役割を果たしていることが動物モデルを使って明らかにされました。
一方、FDEでは多発性であっても病変局所にTregが効率よく集積して、表皮障害の進展を食い止めている可能性が示唆されています。
FDEの診断にはパッチテストが有用であるとされます。なかんずく皮疹部位へのパッチテストは陽性率が高いです。陽性になるにはTc1/Th1細胞が関与し、薬剤が角層にトラップされず、薬剤代謝産物が抗原でないことなどの条件を満たす必要性がありますが、FDEが最も要件に合致しています。
例えば、カルボシステインによるFDEでは原薬剤は陰性ですが、その代謝産物であるチオジグリコール酸(TDA)が陽性になると報告されています。
内服テストは最も再現性が高いですが、多発性の場合は誘発によってEM majorなど重症化する危険性もあります。

具体的にどのような薬剤でFDEが発症するかについて、薬疹情報(第14版)を基に多い順に調べてみました。この版は若干古く2010年までの集計(今年第16版が発売予定です。)また報告の多さが発症頻度と一致するとは限りませんが、多く発症する頻度を表していると思います。
1.アリルイソプロピルアセチル尿素(AIAU)(アプロナール:イブクイック、イブA錠、イブ錠EX、新セデス錠、セデス・キュア、ノーシンピュア、バッファリンプレミアム、バッファリンプラスS,などの配合成分の1つ)(89)
2.ポンタール(54)・・・非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
3.エテンザミド(34)・・・サリチル酸系の解熱鎮痛剤、市販の頭痛薬や総合感冒薬に多く含まれる。ノーシン、ハッキリエース、新セデス錠、ナロンエースなど
4.バルビタール(28)・・・催眠鎮静薬
5.アセトアミノフェン(23)・・・非ステロイド抗炎症薬
6.ミノマイシン(19)・・・テトラサイクリン系抗菌薬
7.ムコダイン(16)・・・気道粘膜修復薬
8.スルファメトキサゾール(15)・・・抗菌剤
8.アスベリン(15)・・・中枢性非麻薬性鎮咳薬
10.フェノバルビタール(13)・・・抗てんかん薬
10.バキソ(13)・・・非ステロイド抗炎症薬
12.メチロン(12)・・・ピリン系非ステロイド抗炎症薬
13.クラビット(10)・・・ニューキノロン系抗菌薬
14.テグレトール(8)・・・抗てんかん薬
14.イソプロピルアンチピリン(8)・・・ピリン・非ピリン配合鎮痛剤(SG剤)、偏頭痛治療剤(クリアミン)
14.アロプリノール(8)・・・痛風・抗尿酸血症治療薬
14.プロメタジン(8)・・・第1世代抗アレルギー薬
18.タリビット(7)・・・ニューキノロン系抗菌薬
18.オゼックス(7)・・・ニューキノロン系抗菌薬
18.イオパミロン(7)・・・造影剤
18.PL(7)・・・アセトアミノフェン配合剤、鎮痛剤
22.アプシード(6)・・・持続性サルファ剤

一番多くみられるAIAUについての報告がありましたので、抜き書きしてみます。(上野あさひ)
AIAUは催眠鎮静作用を有するモノウレイド系薬物で、鎮静補助剤として多くの市販薬に配合されています。1995~2015年間では107例の薬疹報告があります。102例(95%)が固定薬疹で多発型が79例、またSJS 2例、TEN 2例、AGEP 1例の報告があります。パッチテストの陽性率は82%で、皮疹部でのパッチテストは全例陽性であった、と述べられています。それに対してDLST(薬剤誘発性リンパ球刺激試験)は施行された12例全例で陰性であったとのことです。
DLSTは薬剤によって、また施行時期によって陽性率が大きく異なり、参考程度の検査のようです。

上記のように総合感冒剤、中枢神経薬、抗生剤などが上位に挙がっています。
ただ普段”軽い薬”と思われて頻用される薬剤の中にもFDEを起こすものもあります。一寸意外と思われるものも列記してみます。ムコダイン、アスベリンは風邪の際にセットとして小児科でよく処方されます。トランサミンは肝斑の薬として患者さん自ら指定して貰いにくる人もありますが5例のFDEの報告がありますし、中にはSJS,アナフィラキシーの報告、血栓症の報告もあります。漢方薬は安全との意識がありますが、少ないながらも報告があります。ウコン、葛根湯、当帰芍薬散など。抗ヒスタミン剤はむしろこれらの治療に用いられますが稀に報告があります。セルテクト、メキタジン、タベジール、ポララミンなど。果物、食物にも報告があり、驚かされます(食物固定疹;カシューナッツ、アスパラガス、イチゴ、イクラ、レンズ豆)。ジントニックなどに使われるトニックウォーターはキニーネを含んでおり、4例の報告があります。
このように思いがけない薬剤などでも発症することはあり、繰り返し粘膜部に紅斑、水疱がでるようなら注意が必要です。

参考文献
薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編  東京 医薬ジャーナル社、 2016

薬疹情報 第14版 Ⅰ980-2010 編集 福田皮ふ科クリニック 院長 福田英三

中村香代 ほか: トニックウォーターによる固定疹の1例.皮膚科の臨床 58(3);338~339,2016

上野あさひ ほか: 皮疹部のスクラッチパッチテストが陽性であったアリルイソプロピルアセチル尿素による固定薬疹の1例.皮膚科の臨床 59(1); 18~19,2017.

 

播種状紅斑丘疹型・多形紅斑型薬疹

◆播種状紅斑丘疹型薬疹
播種状紅斑丘疹(maculopapular:MP)型薬疹は薬疹の中で最も多い臨床型です。比較的均一で小型の紅斑や小紅色丘疹が左右対称性に全身に播種状に多発してきます。ペニシリン系やセフェム系、テトラサイクリン系、マクロライド系の抗生剤や解熱鎮痛消炎剤などによるものが多いですが、抗てんかん薬、造影剤など多彩な薬剤が原因になっています。
通常は痒みは伴いませんが、痒み、灼熱感を伴うこともあります。比較的軽症が多いですが、重症型薬疹のDIHS(薬剤性過敏症症候群)の初期も播種状紅斑丘疹型、あるいは多形紅斑型の形態を取るとされるので、注意深い経過観察が必要です。
発熱、倦怠感、関節痛、リンパ節腫脹、造血器障害は種々の程度に認められます。
比較的軽症のことが多く、薬剤を中止するだけで次第に消退することも多いです。しかし一般的に抗アレルギー剤の内服やステロイド外用剤での治療が行われます。またそれでも軽快傾向がない場合はステロイド薬の全身投与(プレドニン換算で20~40mg程度)を追加します。
ここで注意すべきことは、先に述べたようにDIHSの初期にもMP型に類似した臨床症状をとることもあるということです。そのような場合に、不十分な量のステロイド薬の内服を続けていると、炎症を抑えきれないばかりか、遷延化・重症化せてしまうといわれています。従って軽快傾向が無ければ早期に専門病院での加療が必須となります。
◆MP型薬疹とウイルス感染症
MP型薬疹と麻疹の鑑別はときに非常に困難です。むしろある場合は皮疹の性状だけでは全く区別できません。一過性に薬剤のDLST(薬剤誘発性リンパ球刺激試験)が陽性になったり、口腔内びらんや眼のカタル症状をとらえてSJS/TEN型薬疹の疑いで杏林大学皮膚科に搬送された麻疹患者は少なくない、と述べられています(塩原)。
熱型、患者周辺の流行状況、投薬歴などが参考になりますが、最終的にはウイルスの抗体価測定、DNA測定で診断しますが、多様なウイルスが原因だったりと同定できないことも多いです。
またEBウイルス感染による伝染性単核球症においてペニシリン系抗生剤を使用すると、100%近くに皮疹が出現します。その後DIHSにおいて6型ヘルペスウイルス(HHV-6)の再活性化が生じていることが明らかにされました。
このようにウイルス性発疹症と薬疹の関連、類似性を示唆する事実は多くみられており、今後これらの免疫アレルギー反応機序の異同が解明されていくと思われます。
臨床的には風邪などのウイルス感染症の際の発疹については薬疹との鑑別が重要で、時に困難であるということを認識することが肝要です。
◆多形紅斑(erythema multiforme: EM)型薬疹
躯幹四肢に数cmの浮腫性の円形や楕円形の紅斑が多発してきます。多形紅斑の皮疹の特徴は四肢に多く、標的様の3層構造を呈します(EM minor)。3層とは中央部が暗紅色の紅斑あるいは紫斑で、中間部分は蒼白の浮腫を認め、最外層は境界明瞭な紅斑が取り囲みます。しかしながらEM型薬疹では典型的な3層構造をとらず、非定型的な紅斑をとり、中心部では浮腫、水疱、びらんの形をとることもあるとされます。
通常粘膜疹は伴いませんが、重症型のEM majorでは口唇、口腔粘膜に軽度の発赤、びらんを伴うこともあります。粘膜疹が高度になり、発熱、肝障害などの全身症状を伴ってくると重症型薬疹のStevens-Johnson症候群を考慮することになります。
治療は、発熱などの全身症状がなければ、ステロイド外用薬、抗アレルギー剤の内服などで治療します。皮疹が広範囲で発熱などの全身症状を伴う場合はプレドニン換算で20-40mg程度のステロイド全身投与を検討しますが、それに反応せず急速に悪化するようならば、速やかに専門病院にて重症型薬疹(DIHS, SJS, TEN)を念頭に治療をおこないます。

参考文献

薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医療ジャーナル社 2016

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン 総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京:中山書店;2011

薬疹の分類

薬疹とは「体内に摂取された薬剤、あるいはその代謝産物の直接的、間接的な作用によって誘導される皮膚粘膜病変である。但し経皮的な投与は除く。」と定義されています。
しかし、薬剤だけではなく、ウイルスとの関連や、さらに運動、食事、基礎疾患、体質などとの絡みで発症することもあり、実際はより複雑です。
原因薬剤、発症機序、重症度、発疹型も明確ではないために分類も様々に試みられています。
日常診療では、発疹の形態を見て、薬疹を疑い、診療を進めていくために発疹型、発疹形態による分類が便利であり、従来から汎用されてきました。ただ、これもあまりに多彩で数が多く、20数種類となり、発疹の型が重複したり、移行するものもあり複雑です。
一応全部教科書的に羅列してみますが、その中で重要なものについては個別に取り上げてみたいと思います。

1)播種状紅斑丘疹型(丘疹・紅斑型)
薬疹の病型としては最も多い型です。風疹や麻疹(はしか)、猩紅熱に似ます。
2)多形紅斑型 (erythema multiforme(EM)型、Stevens-Johnson症候群(SJS)型、中毒性表皮壊死症型(toxic epidermal necrolysis(TEN)型
この3型は同一線上にあるタイプです。後方ほど重症となっていきますし、おもに形態で分類できますが、厳密に分類できないケースもあります。
3)扁平苔癬型
四肢、躯幹を中心に紫紅色の斑または丘疹が多発します。
4)固定薬疹
内服後数時間の内に楕円形の紅斑、浮腫が出現し、時に水疱となります。内服ごとに繰り返します。手足、口唇、陰部などの皮膚粘膜移行部に好発します。
前述のEM型に移行することもあり、注意を要します。
5)薬剤誘発性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)
HHV-6, CMVなどのウイルス再活性化が関与する重症型薬疹の1つです。皮疹は遷延し2相性のピークを示す例も多いです。
6)急性汎発性発疹性膿疱症(acute generalized exanthematous pustulosis :AGEP)
水銀皮膚炎もこのタイプに属します。膿疱性乾癬との異動に苦慮する例もあります。
7)紅皮症型
全身性剥脱性皮膚炎となることもあります。
8)丘疹ー紅皮症型
充実性丘疹が融合して紅皮症様となったもの
9)蕁麻疹・アナフィラキシー型
10)光線過敏型(薬剤性光線過敏症)
顔面、vネックなどの露光部の発疹が特徴です。
11)紫斑型
12)色素沈着型(色素沈着・びらん型)
13)痤瘡型
14)乾癬型
降圧剤のβ遮断薬、リチウム製剤などがあります。
15)ループス型(薬剤誘発性ループス)
元来のエリテマトーデスが促進・誘発されたか、薬剤によって発症したかは不明な場合もあります。
16)天疱瘡型(自己免疫性水疱症型)
SH基を有する薬剤によって出現します。
17)分子標的治療薬による薬疹

参考文献

末木博彦 薬疹はどのように分類されるか 皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン 総編集◉古江増隆 専門編集◉相原道子 東京: 中山書店:2011. pp2-6

戸田新樹 薬疹 皮膚疾患最新の治療2017ー2018 編集 渡辺晋一・古川福実 東京:南江堂 :2017. pp99-101