月別アーカイブ: 2019年2月

メラノーマ2019

メラノーマ(悪性黒色腫)の治療は長足の進歩を遂げつつありますが、特に昨今は本庶 佑先生のノーベル賞でメラノーマ治療薬「オプジーボ」は一躍有名になり、誰でも少なくとも名前だけは知っている薬になりました。
現代はインターネットの発達で、誰でもその気になれば最先端の知識を瞬時に知ることができます。ただ膨大な情報の中で、ある対象の正しい情報だけを正確に、かつ的確に全体像を知ることはなかなかに難しいことです。俗に「生兵法は大怪我のもと」といいます。生半可な知識で事に当たると大怪我をする、の例えです。素人知識は却って間違いの素にもなりかねません。(それはお前の事だろう、という声が聞こえてきそうですが。)
やはり、普段から実地にメラノーマ診療に当たって苦労している専門家の意見、講義を聞くのが一番的確で間違いないということになります。それで、日本皮膚科学会の今冬の講習会からの情報でのトピックを一部書いてみたいと思います。講師の話を正確に伝えたかどうかは自信はありませんが。
講師は以下の先生方でした。
臨床およびダーモスコピー診断 古賀 弘志 (信州大学)
病理診断 伊東 慶悟 (日本医科大学)
手術療法 中村 泰大 (埼玉医科大学国際医療センター)
薬物療法 大塚 篤司 (京都大学)

メラノーマの記事は2016年末に網羅的に数回に亘って書きましたので、今回は箇条書きに気になったところだけを書いてみます。

*メラノーマの発症には人種差が大きい。世界最多のオーストラリアでは新規患者は人口10万人当たり33.6人だが、日本では0.6人で、実数は日本で年間2000人程度、徐々に増加傾向にある。ただ粘膜部での発症は米国の0.22と比べ、日本では0.32と逆に高率で注意を要する。
*従来から病型分類は結節型(NM)、表在拡大型(SSM)、悪性黒子型(LMM)、肢端黒子型(ALM)の4型にわけるClark分類が行われてきたが、近年はBastianらによる紫外線傷害や発生部位による分類も行われている。
CSD(慢性的紫外線曝露部)型、non-CSD型(間歇的紫外線曝露部)、Acral型(肢端部)、Mucosal型(粘膜部)
CSD: chronic sun-induced damage
*欧米ではメラノーマを疑うABCDEクライテリアという語呂合わせがあるが、最近はさらにFGが加わったものもあり、Gの増大傾向というのは特に重要である。いずれにしてもある一時点ではなく、経過を追うということが重要である。
Asymmetry:非対称 Border irregularities:境界が不整 Color variegation:色調が多彩 Diameter>6mm:直径6mm以上 Evolving: 色調、サイズ、形が変化する Firm: 硬い(引き締まった)、Growing:増大傾向
*ダーモスコピーは臨床診断の精度をさらに上げることは明らかだが、最終診断ではない。疑わしい病変では病理診断を行う習慣をつけるべき。エキスパートは10秒以内で診断する。長くみていると却って解らなくなることもある。というか長時間悩む例は病理診断すべきということ。いろいろな専門述語があるがエキスパートはいちいちチェックしない。それはむしろ専門家以外に伝えるためや後付けするため方便で、むしろ暗黙知といって一瞬の間に判定する。例えば知人の顔を一瞬の間に峻別できるのと同じ。知っている知識、面識がなければ、どれだけ長く眺めていても分からないのと同じ。(字義通りだと語弊はあるかもしれませんが、コンセプトはそういうこと。)
*メラノーマの染色マーカーはS-100, Melan-A, HMB45などがあり、細胞質に陽性となるが、SOX10は核に陽性となるのでわかり易く、今後使用されるだろう。
*治療の基本は、現在においても手術で病巣を切除することである。以前は手術範囲は病変部から5cm離して切除するのが定式であったが、現在は腫瘍の厚さが問題とされ、側方切除範囲は2cmとされる。in situ(表皮内)病変の初期病変では、本邦では0.3~0.5cm、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインでは0.5~1cmと若干の差がある。ALM型、爪部のメラノーマは本邦では多く、欧米では少ないためにガイドラインには反映されず、本邦独自の検討が必要かもしれない。
*所属リンパ節群のうち最初に腫瘍細胞が到達するセンチネルリンパ節(sentinel lymph node:SLN)への生検(biopsy): SLNBは1992年に始まり、当初は同定率は82%だったが、近年は色素法、RI法、γプローブ法、ICG蛍光法に加えてCT画像を術前に施行して、同定率は100%近くにまで向上した。
*SLNBの適応、結果が陽性の場合のリンパ節廓清の施行の有無、施行範囲については統計的にまだ明確な指針はないようである。
*昨今の新規薬物療法の発展により、メラノーマの手術療法は縮小・低侵襲手術の方向へ向かっている。
*免疫チェックポイント分子とは、T細胞活性化を抑制するシグナルに関連する分子で、それを阻害する薬剤を免疫チェックポイント阻害剤という。これにより抑制されているT細胞の機能を回復し、腫瘍免疫を賦活化することによって抗腫瘍効果を発揮する。この薬剤にはプライミングフェーズに働く抗CTLA-4抗体およびエフェクターフェーズに働く抗PD-1抗体がある。前者にイピリムマブ、後者にニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリツマブがある。最近、抗PD-1抗体はプライミングフェースにも働いている可能性が示唆されている。但しその効果は限定的で抗CTLA-4抗体が10%、抗PD-1抗体が20~40%の奏効率を有する。
効果をあらかじめ予測するバイオマーカーとして3つある。1)癌細胞が発現するPDL-1はPD-1と結合してT細胞の活動を抑制する。従ってPDL-1の有無は抗PD-1抗体の効果、反応性と相関している。2)腫瘍内に浸潤しているT細胞(Tumor infiltrating lymphocyte: TIL)の数は相関する。CD8陽性の細胞傷害性T細胞が腫瘍周辺に多く浸潤する例では効果が高い。3)腫瘍組織遺伝子変異総量が多ければ免疫療法の効果が高い。新規の抗原いわゆるネオ抗原が標的ペプチドを持つためと考えられる。また日本人ではHLA-A26保有者は抗PD-1抗体の反応性が良く、バイオマーカーになる可能性がある。
*免疫関連有害事象(immune related adverse event: irAE)
免疫チェックポイント阻害薬はメラノーマの治療にブレイクスルーともいわれる画期的な新展開を齎しましたが、一方で新たな免疫関連の有害事象ももたらした。(2016.11.11の当ブログにもまとめましたので、その抜粋から・・・
「この薬剤は体内の腫瘍免疫抑制反応を解除することによって腫瘍免疫反応を回復させ効果を発揮します。それは一方では生体に備わった免疫反応を制御しているシステムをストップさせるために免疫反応の暴走をおこし、予期せぬ様々な免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)を引き起こします。
その原因、発症機序は完全には解明されていませんが、その多くはTregの機能不全で説明可能だそうです。
その根拠の一つとして、IPEX症候群というTregのマスター転写因子であるFOXP3遺伝子に変異のある遺伝性疾患の患者ではTregが著しく減少、または欠損しており、自己免疫性腸炎、I型糖尿病、甲状腺炎、紅皮症、肝障害、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少症(ITP)、関節炎などが認められ、これはまさにirAEにみられる症状と一致しているいうことがあげられます。
しかしながら、実臨床への使用が始まったばかりの薬剤であり、まだ不明な点が多く今後の研究、解明が必要とのことです。・・・」。大塚らはITPを発症した患者のB細胞でPD-1の発現が高いこと、乾癬を発症した患者でADAMTSL5特異的T細胞が病態に関与している可能性を指摘している。
*薬物療法には免疫チェックポイント薬のほかに分子標的薬がある。BRAF阻害薬とMEK阻害薬がある。
NCCNのメラノーマ治療ガイドラインがあり、first lineはPD-1単独、PD-1/CTLA-4併用、BRAF/MEKの分子標的薬が挙げられる。second lineにはさらにDTIC、イマチニブ(c-kit)、放射線療法などがある。
*遺伝子発現、変異の違いにより、治療薬の適応、効果も異なってくる(特に分子標的薬)。将来は次世代シークエンサーなども活用した個別化した治療が進んでいくと予想される。

専門的な個別の事項を未消化のままに細切れに羅列したので、非常に解りにくい内容になった感があるかと思います。
ただ、メラノーマの診断、治療が日進月歩で進んでいる状況はお分かりいただけるかと思います。

なお上には挙げませんでしたが、いずれの先生方もメラノーマの治療にはチーム医療の必要性をうたっています。診療方針は1) 初期診療計画 2)フォローアップ計画 3)進行期診療計画に分けられます。 ごく初期のメラノーマを除いて10年間フォローアップを検討します。
進行期になると、いずれの癌もそうでしょうが、患者、家族と実現可能な治療の選択肢を提示して、情報を共有していくことが重要だとのことです。患者さんは癌が進行していくと「効果がなくなってきているのはわかるが今の治療を続けたい」、「緩和ケア病棟には入らず自費の免疫療法を試したい」といった、様々なバイアスに基づいた意思決定に陥る傾向があるそうです。当然、治療は皮膚科医だけがおこなうのではなく、放射線科医、内科系外科系などの他科の医師との連携のみならず、看護部門、薬剤部門、さらに緩和ケアチーム(アドバンス・ケア・プランニング)、通院治療センター、医療福祉担当者、治験/臨床研究部門といった多彩な部署との連携が必要となってくるとのことです。
いかに医療が進歩していっても最後はやはり人と人との繋がりが最も大切なのだと知らされました。

追記
古賀先生は爪のメラノーマのところで、「巨人の星」の星飛雄馬の初恋の人、日高美奈の手の指の爪の黒い点(死の星)のことに触れられました。そのことに関連してうはら皮膚科(仮想クリニック)のブログに興味ある記事が書いてあります。
星飛雄馬の恋人、日高美奈さんはメラノーマではないかも?(2007.3)
’うはら‘先生はメラノーマの専門家です。
コメントに次のようにありました。「作品に注文をつけるつもりは全くありません。半世紀近く前に、皮膚にも癌ができるのだ、ということを世間一般に知らしめてくれた功績はとても大きかったと思います。メラノーマは若い女性にも起きる病気です(25ー35歳の女性のガン死亡原因としては上位にある腫瘍です)。くだらないことをまじめにくどくど書いてしまいました。」その後に・・・この記事が英文雑誌に掲載されました、とありました。(有料記事なので残念ながら小生は抄録しかみていません。
Malignant melanoma in Star of the Giants(Kyojin no Hoshi)
The Lancet Oncology, Volume 12, Issue 6, Page 525, June 2011
「巨人の星」と聞いて、深く反応する人はそれでもう古い昭和世代という証左かもしれませんが、この記事だけではなく、このブログには随所にメラノーマ、そのほかの啓発記事が分かりやすく書いてありますので、興味ある方は覗いてみられては。(2008.5、2010.5、2018.11)

永田和宏先生のこと

以前、京都大学皮膚科の椛島先生のブログに永田先生の紹介記事がありました。
生命科学の学者でかつ、歌人で宮中歌会始詠進歌、朝日新聞歌壇などの選者という稀有な人だそうです。
まず、紹介されていた「歌に私は泣くだらう――妻 河野裕子 闘病の十年」という本を読んでみました。
また河野裕子という人がすごい人らしくて毎日新聞歌壇、NHK短歌選者、「宮中歌会始」選者などを歴任したといいます。
この本は2000年9月20日の歌
「左胸の大きなしこりは何ならむ二つ三つあり卵大なり」で始まり、
2011年8月11日 死の前日の歌
「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」で終わっています。
あとがきに「普通の夫婦に比べれば、どこか突出して激しい感情を互いにぶつけ合う夫婦であったのかもしれない。しかしよく話をする夫婦ではあった。普通、相聞歌などという恋の歌は、結婚前までに作るものであって、結婚後はほとんど作られないと言ってもいいかもしれない。しかし、わが家でははずかしげもなく、生涯にわたってお互いを歌の対象として詠みあってきた。その数、互いに五百首は下らない。」
時に激しくぶつかり合いながら、最期の時までの夫婦愛の濃密な10年をある意味赤裸々に綴られた本でした。
その後、「近代秀歌」を読みました。人口に膾炙された歌をはじめとした100首ながら、その歌、人の背景、歌の深層までの読み方には眼からうろこの感もありました。明治、大正期の歌、高校時代の国語で教わった遠くも懐かしい歌の数々の真髄をあらためて教わった感がありました。
その後に、本職の(?)生命科学の本、「タンパク質の一生」を読んでみました。医者の端くれとして、時にDNAだのRNAだの蛋白だの知識は一応はあったつもりになって、ブログにも書いたりしてきましたが、細胞の中のミクロコスモスを系統だって勉強したことなどなく、断片的な知識しかなかったことを知ったのが一番の収穫でした。若い医学生にはお勧めの本だと思います。ただ、もうそろそろ引退していく者にとっては時すでに遅きに失した感がありますが。分子シャペロン、細胞内物流システムの話など初めて聞く事で非常に興味をそそられました。

この2冊の本、岩波新書で1000円足らずで手に入ります。ウーン、これ程の内容の詰まったものがこんな安価で、と思うと一寸もったいなくも有難い感じがします。岩波新書で理系と文系に亘って書いた人は初めてとのことでした。
理系と文系とは水と油みたいな気もしますが、両方に通暁している人もいるのでしょう。特に明治時代では森鴎外、木下杢太郎、寺田寅彦などが思い起こされます。現代でも多くおられるのかもしれませんが、知識なく知りません。
でも、普通世間一般では物理、化学屋というと文学的な事には興味を示さず、一方文系の文学的な思考ですね、というと全然理路整然としていない、というようなステレオタイプな考え方が一般的なように思われます。(あるいは自分がそのように思い込んでいるので世間もそうだと思い込んでいるだけかもしれませんが。)

この両方に通暁して、なおかつ「知の体力」など真の知恵とは何かを問いかける本なども著し、凄い人だとこのところ一寸心惹かれる人であります。

何か勝手な宣伝みたいになってしまい著者も有難迷惑かもしれませんが、永田先生の本について思うところを書いてみました。

MTX乾癬への治療効果と副作用

乾癬に対するMTX(メトトレキサート)単独の治療の用法、容量の推奨ガイドラインは全世界的にも定まっていません。ただ、欧米では、一般的に7.5mgから15mg/週を1回ないし12時間おきに3回投与、最大30mg/週が行われているようです。
国内においても定型治療法はありませんが、自治医大(大槻先生)では関節リウマチ治療におけるMTX治療ガイドラインなどを参考に以下のように処方しているとのことです。
【MTX治療の実際】
「まず、処方前に問診やスクリーニングの採血などで投与可能か検討する。処方は6~8mg/週から始め、効果をみながら2~4週ごとに2mg/週増量している。関節リウマチでの本邦の最大承認用量である16mg/週まで増量する症例はほとんどなく、多くの症例は6~12mg/週で内服している。1週間あたりの投与量を12時間間隔で2~3分割にして、原則全例で葉酸(フォリアミン)5mgの内服をMTX内服終了後24~48時間で併用している。・・・」
ただ、関節リウマチにおけるMTXガイドラインでも副作用危険因子のある症例では2~4mg/週で開始し、慎重に漸増するとしています。
◆危険因子とは・・・高齢者/低体重、 腎機能低下、 肺病変、 アルコール常飲、 NSAIDsなどの複数薬物の内服
【治療効果】
各医療機関ごとにいろいろと工夫し処方されているようですが、上記の使い方が標準とみてよいかと思われます。
明確なガイドラインがないために明確な治療エビデンスはなくMTXの乾癬に対する治療効果もまちまちですが、シクロスポリンとほぼ同等に効くが、効果発現には時間がかかり、安全性(副作用発現)ではやや劣る、末梢関節炎には有効という傾向はみてとれます。また、インフリキシマブなどのTNF阻害剤との併用で治療効果は高まり、抗薬剤抗体出現も抑制され治療継続率も高まることが報告されています。
【副作用】
大きく分けると、血液障害、肺障害、感染症、肝障害、消化管障害、新生物となります。個別にみていきます。
◆血液障害
重篤な血液障害(血球減少)例の多くは腎機能障害がみられるのでeGFR値などを参考に慎重投与する。また高齢、脱水、多剤併用などのリスクファクターも考慮すべきである。葉酸製剤を当初より併用し、高用量のMTXは避ける。GFR<30ml/分、透析患者では使用を控える。骨髄障害発生時には直ちにMTXを中止し、活性型葉酸であるロイコポリンレスキューと十分な輸液、支持療法を行う。(専門医療機関にて)
低用量使用時にも、患者、家族などの不注意で間違って多量に内服するケースも見受けるので注意が必要であるし、頻回の血液検査、薬剤確認など日頃からのチェックが重要である。
◆肺障害
既存のリウマチ性肺障害、高齢者ではリスクファクターとなる。肺障害の初期症状がみられた場合は直ちにMTXを中止し、専門医療機関で精査する。MTX肺炎、感染症(カリニ肺炎、ウイルス性、細菌性、真菌性など)、RAに伴う肺病変の鑑別治療が必要となる。                        
◆感染症
重篤な感染症では細菌性肺炎、カリニ肺炎、敗血症などが多くみられる。しかし近年は真菌症、結核、非定型抗酸菌症、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス感染症などの日和見感染症が多くみられる。また近年の生物学的製剤、JAK阻害薬、ステロイド等の免疫抑制剤の併用例が多くみられることに注意が必要である。
◆肝障害
歴史的に肝障害については米国で肝線維化、肝硬変などのリスクが挙げられ、MTXガイドラインでは肝生検の推奨が求められていた。しかしながら現在ではアルコール多飲、肝疾患、糖尿病などのハイリスク群を除けばそのリスクは少なく、むしろde novo肝炎などのB型肝炎ウイルスの再活性化の方がより重要であると考えられている。
したがって、MTX投与前は肝炎ウイルスのスクリーニング(HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体のチェック)を行い、ハイリスク群は使用を避けるか、継続的な専門医によるモニタリングが必要となる。特にHBV再活性化の際には免疫再構築症候群を惹起させる場合もあり、肝臓専門医による適切な治療、対処が必須となる。このような場合には安易にMTXは休薬せずに核酸アナログによる治療も必要になってくる。
◆消化管障害
アフタ性口内炎、吐気、食思不振、などがみられることがある。葉酸製剤の併用で幾分症状は緩和されるとされる。各症状については対症的に対応する。アフタ性口内炎にはマレイン酸イルソグラジンが、吐気にはラニセトロン、ドンペリドン、メトクロプラミドが有効であるとされる。
◆新生物
MTXを使用しているRA治療中の患者にリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders: LPD)が発症することが注目されている。2001年のWHO分類ではMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)という分類があったが、RA以外の自己免疫疾患患者や、MTX以外の免疫抑制薬で治療中のRA患者にもLPDの発生が報告されるようになり、2008年版ではMTX-LPDという文言は削除された。かわりに「他の医原性免疫不全症関連LPDあるいは免疫抑制薬関連LPD」と分類されるようになった。臨床像は結節、腫瘤で潰瘍壊死をともなうことが多く、口腔発症が多い。MTXの中止によって消退するものが多く、一般的に予後は良いとされるが一方真のリンパ腫となり予後不良もケースもある。免疫抑制、免疫機構異常を背景に、加齢、慢性炎症、遺伝的要素(日本人、東洋人の発症が多い)、EBウイルス感染との関連も推定されている。
病理組織学的にはほとんどが瀰漫性大細胞性B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma: DLBCL)の組織型をとる。一部にはリンパ増殖性肉芽腫(lymphomatoid gramulomatosis: LyG)の組織型もとる。

【乾癬治療におけるMTXの位置づけ】
今般MTXは乾癬治療薬として保険診療が承認されました。今後重症乾癬特に関節症性乾癬に対し使用されるケースが増えていくと思われます。現在RA領域ではMTXは治療の標準薬、第1選択薬、アンカードラッグとして広く世界中に使用されています。では乾癬治療においてはどういう位置づけとなるでしょうか。少なくともRAのような第1選択薬にはなりえません。海外においては、重症の尋常性乾癬、中等症でも関節炎を伴った乾癬などには第1選択薬の一つと位置づけられていて、国内でもそのようになっていくでしょう。また生物学的製剤、アプレミラスト(オテズラ)などと比較しても安価なことは医療経済的にもその選択順位はあがっていくかもしれません。
すでに述べたように生物学的製剤(特にTNF阻害薬)との併用で有効かつ、抗薬物抗体の産生が低下し、長期投与に寄与することは明らかでさらに併用が進んでいくものと思われます。大槻は乾癬治療におけるMTXの位置づけについて簡略アルゴリズム(私案)を呈示しています。中等症で末梢関節炎を伴った乾癬に対するMTX内服を中心に、生物学的製剤との併用、移行を考慮した図となっています。また「これまでの内服療法の中では、MTXとアプレミラストの併用が、安全性の面でもコストの面でも有用な組み合わせになるのではないかと考えている。」と述べています。
上記のような位置づけで乾癬に対するMTXの使用例は今後増えていくものと思われます。しかしながら副作用の項でみたようにMTXは必ずしも安全な薬剤でもありません。RA領域においてもレミケードなどの生物学的製剤、JAK阻害薬、ステロイド剤などとの併用で重症感染症のリスクが増えているそうです。重篤な肝障害による死亡例の報告もみられます。また今まで乾癬領域では少なかったMTX関連LPDの増加も危惧されています。またときに思わぬ誤内服や高齢者などの汎血球減少症の報告などもあります。有用で安価な薬剤だけに更なる慎重な使用が求められる所以です。

皮膚科で使うMTXの完全マニュアル 責任編集 大槻マミ太郎 Visual Dermatology Vol.18 No.1 2019 参照