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IgA血管炎

IgA血管炎は以前Henoch-Schönlein purpura(HSP)あるいはアナフィラクトイド紫斑と呼ばれていました。小児では全血管炎の90%以上を占めるといわれ、成人においても多くみられ、実臨床で最も目にする皮膚の血管炎の一つです。
1970~80年代に真皮小血管、腎糸球体にDIF(蛍光抗体直接法)でIgAと補体が沈着すること、活動期の患者血清中にIgA-immune complexが証明されることが報告され、1994年のChapel-Hill会議で「HSPはIgA抗体優位の免疫複合体による小血管炎で、皮膚、消化管、腎糸球体が障害され、関節痛あるいは関節炎が合併する」疾患と定義されました。
【臨床症状】
0)先行症状
しばしば上気道炎が先行します。小児で約50%、成人で30%にみられるとされます。
1)皮膚症状
全ての患者に見られますが、30%では関節症状、腹部症状が先行するとのことです。腹部症状が激しい時は、麻痺性イレウス、腸重積、腸管穿孔など急性腹症として緊急手術をうけるケースもあるそうです。
下腿、足背の蝕知性の2~10mm程度の点状紫斑(palpable purpura)がみられます。しばしば斑状紫斑、紅斑、丘疹、膨疹、血管性浮腫なども混在し、一部は水疱、血水疱も生じます。特に高齢者では加齢変化と共に、ステロイド薬、抗血小板薬、抗凝固薬などの使用が多いために大型の斑状紫斑を形成する傾向があります。皮疹は躯幹、上肢にまで拡大することもあります。また乳幼児では顔面にも特有の紫斑をきたし、acute hemorrhagic edema of infancyとして知られています。
2)関節症状
6,7割に出現し、1割以上で初発症状となります。下肢関節に多く発症し、関節の腫れ、圧痛を認めますが、一過性、遊走性であり、慢性化することはありません。
3)腹部症状
5,6割に腹痛、2,3割に消化管出血がみられます。1割ではこれが主訴になり、先に述べたように稀には急性腹症として不要な開腹手術を受けるケースもみられます。
4)腎症状
腎症は重症度によって4型に、また紫斑性腎炎組織分類では6型に分けられています。
1.一過性の顕微鏡的血尿あるいは軽度の蛋白尿で腎機能異常を認めない。
2.急性腎炎症候群
3.ネフローゼ症候群
4.急性腎炎症候群+ネフローゼ症候群
重症度は初期の腎機能と腎組織所見に関連するそうですが、皮疹の範囲と紫斑の症状には必ずしも一致しないそうです。従って皮疹が一見軽くても一定期間腎症状に注意する必要はあります。
また腎症状の程度は年齢と相関があり小児より成人のほうが腎不全にまで移行するケースは多いそうです。ただし、小児の末期腎不全の10%はHPS腎炎が占めるとのことで、小児だからといって必ずしも腎炎の予後が良好ばかりではないことも認識する必要があるとのことです。
5)その他の症状
肝、心、肺、眼、神経症状などさまざまな臓器にも病変が及ぶこともあるそうです。
【検査所見】
約半数で血清IgA値が上昇します。血液第ⅩⅢ因子活性低下は腹部症状、疾患活動性などと相関し、治療効果判定に有用です。尿検査では顕微鏡的血尿の軽症例が多いものの、蛋白尿、クレアチニン値上昇などがあれば速やかに腎専門医の診療が必要になります。腎症状は遅れて発症することもあるので、紫斑発症後半年は毎月の定期検査を要します。
原因検索、鑑別診断の目的で各種細菌、ウイルス検査、膠原病検査、ANCA,血清クリオグロブリン検査なども必要になります。必要に応じて消化管内視鏡検査、腎生検なども必要になってきます。
【病理組織】
最も一般的に施行されるのが、皮膚生検です。蝕知性紫斑では真皮上~中層の細静脈に白血球破砕性血管炎(leukocytoclastic vasculitis)がみられます。血管壁と周辺に核塵を伴う好中球とリンパ球の細胞浸潤。赤血球の血管外漏出。フィブリノイド変性など。しかし小動脈・静脈炎はきたさない。
蛍光抗体直接法(DIF)では真皮乳頭層、真皮上層の細静脈壁にIgAとC3の顆粒状沈着を認めます。しかし48~72時間以上たつとIgAの陽性率は急速に低下します。それで出来立ての皮疹を生検することが必須です。
腎病理所見で最も一般的なものはメサンギウムの巣状、分節性、びまん性増殖、半月体形成です。
【鑑別診断】
小児HPSは血管炎全体の90%以上を占めるために、皮膚生検をしなくても蝕知性紫斑に腹部症状、関節症状を合併している例はHPSと診断可能です。一方成人では多くの小血管炎が生じうるために皮膚、または腎臓でのIgA沈着を証明することが診断に必須とされています。
ただし、HPSの皮膚DIFでのIgAの陽性率は50~80%とされ、偽陽性、偽陰性がかなりあるとのことで実臨床現場では診断の問題点、疑義の原因になっているそうです。
【病因・病態】
種々の抗原分子とIgA1抗体とが結合して形成された免疫複合体(immune complex: IC)が皮膚の真皮小血管、腎糸球体(メサンギウム細胞、内皮細胞)に沈着することが発症の契機となります。ちなみにこの両血管のサイズ、構造は同一ではないものの相似的な形態をとっているので似たような炎症を惹起します。
ICを構成する抗原としては細菌、ウイルスなどの感染物質、薬物、悪性腫瘍などが考えられています。さらに補体の活性化が関与して最終的に膜傷害複合体(membrane attack complex: MAC)が形成され、血管内皮が傷害され、血管炎が進行していくと考えられています。ICは血管分岐部に沈着しやすく、しかも下肢では血流がうっ滞し易いために血管炎が好発します。また腎臓糸球体の血管係蹄のように局所的に血圧が高く、ろ過機能を持つ部分でもICは沈着しやすいので好発します。
従来からHSPの原因抗原として細菌由来抗原が注目されてきました。特に小児では3~5割の患者が上気道感染に引き続いて発症し、A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染が多く見られます。IgA1のhinge部分が細菌やウイルスなどの作用で異常なグリコシル化を起こしIgA1分子が凝集、高分子化して補体活性化能を獲得する、あるいは腎臓のメサンギウム領域のIgA受容体に結合し、炎症を惹起する機序が考えられています。
【治療】
軽症例では安静と飲水量の保持に努めるのみで経過をみること、また紫斑に対して止血薬、血管強化薬などの対症療法が一般に施行されています。DDS(ジアフェニルスルフォン)は紫斑、関節炎に有効とされますが、DIHS,DDS症候群などの重篤な副作用もあり使用に際しては十分な注意が必要です。
ステロイド剤の全身投与は初期症状の軽減には有効ですが、全経過を短縮させるものではないとされています。従って短期間に留め、長期の漫然とした使用は勧められません。
消化管出血など症状の強い例や血尿、蛋白尿など腎症状の強い例ではステロイド剤大量療法(PSL 1mg/kg/day)やパルス療法が有効とされます。血液凝固第ⅩⅢ因子補充療法は同因子活性低下例で腹痛、関節症状に有効とされます。
重症の腎症ではメチルプレドニゾロンパルス療法に加えてシクロホスファミド後療法、アザチオプリンやシクロスポリンなどの免疫抑制剤との併用、抗血小板療法、抗凝固薬あるいは血漿交換療法、免疫グロブリン大量療法などとの併用も行われます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 医学書院 2012 からの抜粋 まとめによる

血管炎分類

結節性多発動脈炎は1866年にKussmaul&Maierが剖検例で諸臓器の動脈周囲に結節状の肥厚を認める壊死性血管炎の症例を結節性動脈周囲炎(periarteritis nododa)として報告したのが最初です。その後病変は動脈全層性にみられることがわかり、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)と改名されました。
全身性の血管炎の分類は1952年のZeekの分類が最初といわれています。彼女は血管炎を過敏性血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、リウマチ性血管炎、結節性多発動脈炎、側頭動脈炎の5つに分類しました。その後疾患の数が増え、さらに1982年にはANCAの発見によりANCA関連血管炎の概念も確立されは変化してきました。それらも踏まえ腎臓病理組織所見に基づきChapell Hill分類が発表されました。1993年に米国ノースカロライナ州のChapel Hill で開催された血管炎の名称と定義の合意形成を目的とした国際会議で原発性血管炎の10疾患が採用されました(CHCC1994)。そして、罹患血管サイズによって大型・中型・小型血管炎に分類されました。(表1参照)

この分類は20年近く世界中で流用されてきましたが、それは罹患血管サイズによる分類が簡便でわかりやすかったという理由があります。また大型、中型の血管炎では罹患臓器の虚血症状が出、小型血管炎ではその血管のサイズにあった症状(蝕知可能な紫斑、多発神経炎、糸球体腎炎、肺胞出血など)の症状が出るなど、疾患の鑑別に便利でもありました。

また、大型血管炎は肉芽腫形成性の自己反応性T細胞異常、小型血管炎はANCAなどの自己抗体、液性免疫の関与するものが含まれており、分類と病因の関係に一定の関連がみられました。

しかしながら、その分類には改善を要する問題点もありました。1994年版では10疾患しか含まれていませんでしたが、多くの血管炎がこの分類から漏れていたこと。人名を冠した疾患名(Eponym)の取り扱いを避けて、病理学的所見に基づく命名への変更が問題とされたことなどがありました。それで、2012年再び全世界の血管炎の専門家がChapel Hillに集まって分類の改変が行われました。
Eponymについては、人名を廃止する方向性のようですが、高安病、川崎病と2つ日本人名は替わるものがないと残りました。日本からの希望もあったようです。ただCogan症候群は残っていますし、それをいったらベーチェット病はどうするのだ、とチャチャを入れたくなります。ある種の人名を残したくなかったなどのウワサは聞こえてきますが、将来は日本人の名前はどうなるのでしょう。(学問と関係ない横道にそれてしまいました。)(CHCC2012)(表2)。
大きく変わった点は大中小の血管炎のほかに新たに4つのカテゴリーが加えられたことです。すなわち、種々の血管を侵す血管炎、単一臓器の血管炎、全身性疾患に続発する血管炎、誘因の推定される続発性血管炎の4つです。それに伴って含まれる対象疾患数は10から26へと大幅に増加しました。(下記の表2参照)

ただし、CHCC2012はリウマチ内科や腎臓内科が中心となって作成されており、この会議では皮膚科医は1人も含まれていなかったといい、皮膚科で使われる血管炎が本分類ではすべて包括されているわけではなく、皮膚科からするとやや使いにくく今後改善の余地があるとのことです。しかしながらこれに替わる国際的な皮膚科血管炎のガイドラインはないとのことでCHCC2012をベースとして本邦の皮膚科の血管炎のガイドラインは作成されています。皮膚科に関係の深い血管炎は真皮の細動脈から毛細血管、細静脈、さらに皮下組織までの血管で、それはChapell Hill分類の基本になった腎臓の動静脈の病理組織と相似性があるといいます。

次から皮膚に関連のある個々の疾患について順次みていきたいと思います。

(図、表はいずれも日本皮膚科学会ホームページで一般公開された血管炎・血管障害診療ガイドラインから)

血管炎・循環障害

皮膚科を長くやっていても一向に解らない領域もあります。血管炎、循環障害もその一つです。いろんな病態、疾患がからみあっていてすっきり理解できません。講演を聴いても分かったような、わからなかったような・・・、結局よく分かりません。小生の理解力のなさ、苦手意識もあるかもしれませんが、まわりの皮膚科医に聞いても結構同様な苦手意識をもっている人は多いようです。重要な分野ではあり、普通患者さんも大きな病院や大学病院に行くので、あまり診ませんがたまにみると丸投げ状態で紹介してしまいます。
そんな病気について無理に敢えて取り上げなくてもよいのでしょうが(でも過去にちらちらとそれなりに書いてはきましたが、)2018年の皮膚科講習会でまとめて血管炎の話を聞く機会がありました。よくわからないながらも重要な疾患群でもあるので自分の知識のまとめの意味も含めて数回に分けてまとめてみたいと思います。
2018.8.25 「皮膚血管炎、循環障害」
1.血管炎――総論 川上 民裕(聖マリアンナ医科大学)
2.結節性多発動脈炎・リベド血管症 石黒 直子(東京女子医科大学)
3.膠原病と血管炎 長谷川 稔(福井大学)
4.循環障害:動脈疾患・静脈疾患の臨床と診断 沢田 泰之(東京都立墨東病院)

話を聞いてもよく解らずもうすでに記憶も忘却の彼方にあります。幸い日本皮膚科学会ガイドライン「血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版」が公表されていますのでそれにならってまとめてみたいと思います。さらに下記の本・雑誌もよりどころにして。
気持ちは大海に乗り出す小舟のような気分でもうすでに難破しそうで萎えかかっていますが、乗りかかった船で兎に角書き始めてみます。

皮膚血管炎 川名 誠司 陳 科榮 医学書院、東京、2013
下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 責任編集 沢田 泰之 Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010
ガイドラインに照らして考えるふつうの血管炎 責任編集 川上 民裕 Visual Vol.13 No.7 2014