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浅在性血栓性静脈炎

浅在性血栓性静脈炎は下肢を中心とした皮下組織の浅在性静脈に好発し、表在静脈に沿って索状、または指頭大までの有痛性の浸潤性紅斑または結節を形成する疾患です。
その原因は多くありますが、大きく分けると(1)凝固線溶系の異常に伴って生じるもの、(2)膠原病やベーチェット病などの炎症性疾患、感染症、悪性腫瘍、静脈瘤、静脈損傷などの原因があって、それに伴って生じるもの、(3)原因の不明なものに分けられます。
一般的には安静と消炎剤などの治療で数週間以内に治癒し、予後は良いとされますが、一部では深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis :DVT)を合併し、その際は心臓、肺などの塞栓、血栓に対する予防、治療が必要となってきます。
【病因】
いわゆるVirchowの3原因が基になって発症しますが、原因不明なものもみられます。
(1)静脈内膜の炎症、外傷および感染による損傷
(2)血液の凝固能の亢進
(3)血流の停滞または緩徐
【臨床症状】
主に下肢の表在静脈に沿って索状の硬結、浸潤性紅斑を認めますが、指頭大までの紅斑、結節を散在性にみることもあります。またときに上肢、躯幹にもみられる場合があります。急性期では紅斑と疼痛が強く、慢性期になると網状皮斑が混在してきます。皮疹の発現とともに発熱、足や膝などの関節痛を伴うこともあります。
青壮年に多い多発性浅在性血栓性静脈炎は、臨床症状も病理所見も結節性多発動脈炎に類似しているために皮膚型結節性多発動脈炎(cPAN)によく誤診されるとのことです。
胸部や陰茎に生じた索状の硬結はモンドール病(Mondor病)ともよばれますが、経過観察のみで消退することがほとんどです。
【病理所見】
動脈炎と同様に急性期、修復期および瘢痕期に分けられます。これらは混在してみられることが多いです。
(1)急性期・・・血管腔内にフィブリン血栓があり、血管壁、腔、周囲に核塵を伴う好中球主体の細胞浸潤を認めます。
(2)亜急性~修復期・・・細胞浸潤は組織球、リンパ球が主体となり、好中球も混じています。また血管壁、周囲に新生血管や膠原線維の増生がみられます。
(3)瘢痕期・・・細胞浸潤が乏しく、新生血管や膠原線維の増生がより顕著にみられます。血管の再疎通を示す器質化像がみられます。
【治療】
急性期には安静時下肢挙上(15~30度)、長時間の立位や座位を避けます。非ステロイド抗炎症鎮痛剤を投与します。筋痛など疼痛が強い場合は2週間以内のステロイド剤の投与(プレドニン20mg/日程度)を行います。
原因が明らかなものはそれに対する治療を行います。
大腿部のもの、腫瘍随伴性のもの、ベーチェット病に伴うものなどではDVTを伴いやすいので、弾性ストッキングの着用、抗凝固剤やヘパリンの投与などをおこないます。

線溶系の異常によって生じるものは頻度は少ないものの青壮年の繰り返し発症する血栓性静脈炎ではプロテインCやプロテインS欠乏症、ファクターVⅢの上昇、プロトロンビン、ファクターⅤなどの遺伝子の異常による線溶系の異常も疑ってみることも大切です。
また基本的には血管炎ではありませんがその類似疾患として抗リン脂質抗体症候群では動静脈の血栓症や習慣性流産をきたしますのでそのような場合には抗リン脂質抗体の測定が重要になってきます。

また先に述べたように青壮年の多発血栓性静脈炎は臨床症状も組織所見もあたかも結節性動脈炎の像と類似していますので注意が必要です。(「皮膚血管炎は下腿に多いのが特徴である。その原因が動脈炎か静脈炎かによって治療方針は大きく異なるので、動脈炎と誤認された場合の過大な治療を避けるためにも正確な病理組織診断が大事である。したがって、皮下組織における下腿小動静脈炎の鑑別は血管壁の厚さ、内弾性板の有無だけでなく、血管壁の弾性線維および筋層構造の評価を加えて診断を下すべきである。」
動脈・・・平滑筋細胞の走行が同心円状。隙間の少ない緊密な筋層構造、弾性線維が乏しく、1本のはっきりした内弾性板を有する。
静脈・・・平滑筋細胞が索状構造を呈し互いに隙間を有する。時に静脈弁を認める。豊富な弾性線維に挟まれて平滑筋細胞は不規則な索状を呈する。1~数本の弾性線維がみられる外膜は動脈の内弾性板と誤認されやすい。

腫瘍随伴性血栓性静脈炎では膵癌が有名です。再発性、難治性の場合はそれを否定しておくことも重要です。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013  より抜粋 まとめ

参考文献

下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 責任編集 沢田泰之 Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 中山書店 東京 2011

大型血管炎

Chapel-Hill分類1994、2012による血管炎の分類では、血管炎を血管の大きさから、大血管、中血管、小血管に大きく分けました。CHCC2012では、これに加えてさらに4つのカテゴリーが追加されました。
・多様な血管を侵す血管炎・・・ベーチェット病、 Cogan症候群
・単一臓器血管炎・・・皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性動脈炎、その他
・全身性疾患関連血管炎・・・ループス血管炎、リウマトイド血管炎、サルコイド血管炎、その他
・推定病因を有する血管炎・・・C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎、がん関連血管炎、その他
これらのうち、中小血管炎、さらにベーチェット病、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎についてはすでに書きました。
その他の血管炎についてはひとまずおいて、大型血管炎について書いてみたいと思います。

大型血管炎はCHCC2012では高安動脈炎と、巨細胞動脈炎の2つが挙げられています。その分類からみる大型血管炎はこの2つだけのように思われますが、実際にはその他の多くの疾患が大動脈炎を起こします。
細菌性大動脈炎、結核性大動脈炎、真菌性大動脈炎、梅毒性大動脈炎、ベーチェット病、再発性多発軟骨炎、膠原病及びその類縁疾患などです。従ってこれらを勘案して十分に鑑別することが求められます。
さらに、本邦の「血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)」においては、大型血管炎のなかにバージャー病も取り上げています。バージャー病、閉塞性動脈硬化症については、別項で後日取り上げてみたいと思います。

側頭動脈炎(巨細胞動脈炎)は本邦では稀で、高安病は本邦で特有なものの、世界的には希少でまず皮膚科では扱われません。希少ながら重要なこの2疾患について血管炎ガイドラインから要約してみます。

🔷巨細胞動脈炎(Giant cell arteritis: GCA) [側頭動脈炎(Temporal arteritis: TA)]
1890年HunchingtonらがTAの症例を報告したのに始まります。
1932年にHortonらが頭痛、視力障害などの臨床像と側頭動脈の炎症という病理学的特徴を発表し、TAの概念が確立しました。
1941年にGilmoreが組織所見で巨細胞を含む肉芽腫性炎症をみることからGCAのの名称を提唱し、次第にその概念が確立しました。
この疾患は活動期に巨細胞性肉芽腫性炎症を認め、側頭動脈を含めた頸動脈や椎骨動脈の枝が高頻度に障害を受けます。しかし、その後、必ずしも側頭動脈が障害を受けるわけではなく、他の血管炎でも側頭動脈を障害することもあることから、TAという名称は不適切として、CHCC2012ではGCAという名称に統一されました。
GCAは希少疾患で本邦では厚労省の調査で患者数690人(人口10万対0.65人)です。アジア人に少なく、欧米白人に多く、特に北欧に多いとされます。
【病因】
不明ですが、一部に感染抗原としてマイコプラスマや、パルボウイルスB19,パラインフルエンザ、などが想定されています。
またHLA-B, HLA-DRB1*04遺伝子との関連も欧米では指摘されています。これらが関与して、浅側頭動脈の血管壁に巨細胞性の肉芽腫性炎症を惹起するとされていますが、詳細は不明です。またより若年の女性に好発し、大動脈とその枝を障害し、側頭動脈の炎症の少ないlarge vessel GCA(LV-GCA)も報告され、従来のcranial GCA(C-GCA)との異同が検討されています。
【臨床症状】
50歳以上の高齢者に好発します。初発に発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少などをともない発症します。頭痛、顎跛行、複視がみられることが多いです。10%の患者では大動脈が障害され、上腕の知覚異常、筋力低下をきたします。
皮膚では頭痛と同時に側頭動脈に沿った発赤腫脹、熱感、圧痛、索状肥厚、拍動の減少などをみます。稀に梗塞性の皮膚潰瘍をみます。また舌の潰瘍もみることがあります。視力障害は約半数にみられ、一過性黒内障、複視、眼痛、視野欠損、中心暗点などが出現します。放置すると失明に至るために早急に大量ステロイド治療を要します。
LV-GCAでは鎖骨下動脈病変が特徴とされ、上肢痛、冷感、脱力感、血圧左右差などが現れてきます。また総腸骨病変では間歇性跛行、下肢冷感、皮膚潰瘍なども現れてきます。GCAでは30~60%でリウマチ性多発性筋痛症(PMR)を生じます。腰、四肢の疼痛、こわばりが特に起床時に起きるのが特徴です。
【検査所見】
赤沈値の上昇をみます。白血球、CRPの上昇をみますが、特異的ではありません。時にIL-6, ANA, RF 第Ⅷ因子陽性、上昇がみられます。画像検査で血管の閉塞、狭窄。病理組織は炎症部位を2cm以上の長さで生検することが推奨されています。
【治療・経過】
GCAはステロイドに著効をしめします。PSL 1mg/kg/dayなどから症状を指標に漸減します。低用量アスピリン、ワルファリンも併用されます。生物学的製剤については症例が少ないこともあり、まだその評価は確定していないとのことです。

🔷高安動脈炎(Takayasu ateritis: TAK)
従来は大動脈炎症候群と呼ばれていましたが、2014年の難病法の成立により、指定難病としての病名が高安動脈炎に変更されました。その理由は、欧米での呼称が(Takayasu arteritis: TAK)であること、また本疾患が大血管炎だけではなく、小血管、内臓を始め、眼、耳、皮膚など全身性の疾患であること、発見者への畏敬の念への配慮などであるとされています。
TAKは日本人に多く、欧米では少なく、逆に巨細胞動脈炎が多いとされます。この両者は発症年代と罹患血管の分布が異なるものの共通の発症基盤を持ち病理学的に共通した部分も併せ持ちその異同が問題となっていますが、現在では近縁ではあるものの異なった疾患と考えられています。
【歴史】
1824年 漢方医 山本鹿州 「橘黄医談」で左右脈拍消失、微弱症例を記載
1908年 金沢大学眼科教授 高安右人 “奇異なる網脈中心血管の変化の一例”として、花冠状吻合の眼底所見を示した22歳女性例を報告 追加発言で橈骨動脈の脈拍欠損を指摘
1940年 太田邦夫 大動脈をはじめ、基幹動脈の内・中・外膜全層にわたる血管炎であることを報告
1951年 清水健太郎、佐野圭司 眼底所見、脈拍減弱・欠損、頸動脈反射の亢進亢進を3徴とし、自験25例を脈なし病として報告
上田英雄 研究班を組織 大動脈炎症候群という病名を定着させる
1975年 難病として指定
1989年年〜 沼野藤夫 11回にわたり国際高安動脈炎会議を主催 HLAとの関連を報告
2007年 尾崎承一 診療ガイドライン作成
【疫学】
現在の登録者数は約6000人、毎年300人程度発症しています。男女比は1:9で発症のピークは20歳前後ですが、無症候例、未診断例も多いそうです。中近東・アジア、とりわけ日本人に多く、欧米では稀です。
【分類】
大動脈の侵される部位(弓部、弓分枝、胸部、腹部、腎動脈)によってⅠ〜Ⅴ型に分類されています。
【病因】
遺伝的要因を背景に、感染などの環境要因がきっかけとなり、大動脈を主体とした弾性動脈が自己免疫機序によって破壊されると考えられています。HLA-B*52が発症に関連しているとされています。さらに最近GWASにより、IL12B遺伝子領域の遺伝子多型が同定されIL-12, IL-23の関与も想定されています。
【病理所見】
大動脈の中膜から外膜よりが病変の主座で、中膜平滑筋細胞の壊死や弾性線維の破壊、線維化、外膜の炎症性肥厚が特徴で、とりわけ分布する栄養血管の炎症が重要と考えられています。初期には単核球細胞浸潤が、さらに多核巨細胞が混在する肉芽腫性動脈炎を呈します。瘢痕期になると動脈壁は板状の石灰化を伴い鉛管状を呈します。病変は健常部も混じ虫食い状を示し、壁は線維化・肥厚、閉塞、拡張し大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全などを起こしてきます。
【TAKとGCAの異同】
両者は病理組織学的な鑑別が必ずしも容易ではなく、異同について議論がなされています。(特にLV-GCAとTAKとの異同)。しかしながら、次のような点で両者は異なると考えられています。
1)大動脈肥厚はTAKでより高度である。
2)TAKは動脈中膜外膜の炎症が高度であるのに対し、GCAでは中膜の内膜側に炎症が顕著である。
3)外膜の高度の線維化はTAKでより頻繁に観察される。
【症状】
原因不明の発熱、全身倦怠感、頸部痛、めまいなど上気道炎に似た症状で始まります。その後、侵された血管病変に起因する症状を起こしてきます。上肢の脈拍の減弱(脈なし病)、頭痛・めまい、視力障害、高血圧などがみられます。また皮膚では下腿特に脛骨前面に結節性紅斑を多発することが多いです。病変部位の違いにより、脳、心臓、肺、腎臓、四肢それぞれの虚血に起因する症状を呈します。
【検査所見】
HLA-B*52, B*67を除けば特異的なバイオマーカーはありません。(PTX3は期待されるものの保険未適用)
近年のCT,PET-CT,MRI、超音波は解像度が上がり、長期フォローに推奨されます。眼症状は約30%の患者でみられ、一部は網膜症、虚血性視神経症が眼底所見としてみられます。
【治療】
ガイドラインでは治療のフローチャートがありますが、その中心になっているのが、ステロイドです。
疾患活動性を根拠に治療がなされます。
(1)全身炎症症状 (2)赤沈値亢進 (3)血管虚血症状 (4)血管画像所見
初期量はプレドニゾロン(PSL). 0.5~1mg/kg/day x2~4w
→毎週 5mg減量(30mg/day まで)
→毎週2.5mg減量(20mg/day まで)
→月あたり1.2mgを越えない減量
→維持量:5-10mg/day (→off)
緊急度の高い場合や難治例の再燃時にはステロイドパルス療法(mPSL 1gまたは15mg/kgx3day)を施行します。
減量スピードが速すぎると再燃率が高くなります。再燃時は再度寛解導入治療を行い直すか、PSLを10mg増量しMTXなどの免疫抑制剤を追加します(米国)。
*免疫抑制剤
a.メトトレキサート(MTX)
TAに最もよく使われている免疫抑制剤です。米国では0.3mg/kg/w→最大25mg/wまで漸増。
ただし、MTXは血管病変の進行を阻止できない可能性があり、再燃が多いとされます。
b.アザチオプリン(AZA)
血管病変を抑えられないケースもあるものの、各国のプロトコルにおけるAZAの位置づけは高いです。
AZA 1-3mg/kg/dayが使用されています。
c.シクロホスファミド(CY)
もっとも古くからTAに使用され、しかも重症例に適用されることが多いです。CY 2mg/kg/day
d.ミコフェノール酸モフェチル(MMF)
各国で使用されていて有効例もみられますが、日本では適用はありません。少量から漸増されます。
e.タクロリムス(TAC)
少数の症例報告のみです。保険適用はありません。
f.シクロスポリン(CyA)
症例報告のみですが、有効例もあるようです。保険適用はありません。
*生物学的製剤
a.トシリズマブ(TCZ)
2017年8月25日25日保険適用
TAでは血清IL-6が上昇し、疾患活動性と相関することがわかっています。TCZは国産初の抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体です。他の免疫抑制剤で効果のなかった症例に対し有効との報告があります。
TNF阻害薬との有効性の差異はまだ明らかではありません。
*抗血小板薬アスピリン内服によって心虚血、脳虚血イベントの発症が有意に抑制されるとの報告があります。
〔観血的治療〕
観血的治療の適用、実施、術後の管理は膠原病内科医、心臓血管外科医、インターベンショナリスト、神経内科医などを含む学際的チームでの対応が要求され、また薬物療法などで疾患活動をコントロールした上で実施することが必要とされます。炎症のある時期に実施された場合の再手術率はコントロールされた状態での手術より高いとの結果があります。

近年PETやMRIなどの画像を中心とした診療技術の進歩により、早期に診断し内科的および外科的治療を行うことが可能になり、生命予後も大きく改善されてきました。

血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版) 抜粋 まとめ
Ⅱ. 高安動脈炎
Ⅲ. 巨細胞性動脈炎

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29) 抜粋 まとめ

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 医学書院 東京 2012 抜粋 まとめ

ベーチェット病

ベーチェット病(Behcet’s Disease :BD)はChapel-Hill会議(2012)では種々の血管を侵す血管炎(Variable vessel vasculitis: VVV)という項目にCogan 症候群とともに分類されています。
しかしながらBDの病態が全て血管炎というわけではありません。真皮の細静脈や皮下組織の筋性静脈の血管を中心とした炎症性病変と毛包炎を中心とした抗中球性炎症性の疾患といえます。血管炎だけではなく血管炎を伴わない血管周囲性炎症病変がさらに血管外、毛嚢外にも波及し、多彩な皮疹がみられます。
 BDは口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状(毛嚢炎、ざ瘡様皮疹、結節性紅斑、血栓性静脈炎、紫斑、浸潤性紅斑など)
眼症状、外陰部潰瘍を主症状とする全身性疾患です。トルコを始め、地中海地方から、中近東、中国北部、朝鮮半島、日本を中心とした地域、北緯30~45度のいわゆるシルクロードに一致する地域に好発するために”シルクロード病”とも呼称されます。
本邦の患者数は約2万人(医療受給者証保持者数)です。
【病因】
その発症原因はいまだに不明です。MHCクラスⅠ分子のHLA-B51抗原を有する人に好発することから、HLA遺伝子が発症に何らかの関連を有すると想定されています。またBD患者の口腔内ではStreptococcus sanguisの陽性率が高く、この抗原に対して過剰な免疫反応が惹起されて発症すると考えられていますが、詳細は不明です。その他にヘルペスウイルス、パルボウイルスその他の環境因子の関与も想定されています。
【皮膚症状】
1)結節性紅斑様紅斑・・・下腿が主ですが、前腕にも生じます。1週間程度で消退します。皮疹の中で最も頻度が高いとされます。
2)血栓性静脈炎・・・有痛性皮下索状結節・紅斑として触れます。1~3週間程持続します。下肢が多いですが、時に上肢、体幹にも生じます。(移動性、遊走性静脈炎)
3)毛包炎~ざ瘡様発疹・・・顔面・体幹に生じます。一般のニキビと異なり非毛包性でも生じ、顔、胸、背以外のニキビ好発部位以外にも生じます。このような場合は診断価値が高いとされます。また注射部位に一致して小膿疱を生じます(針反応)。
これら以外にも浸潤性紅斑や紫斑、水疱、Sweet病に似た浮腫性紅斑、壊疽性膿疱など多彩な発疹を生じます。
【皮膚外症状】
主症状
1)再発性口腔アフタ性潰瘍・・・境界明瞭で10mm以下の潰瘍で紅暈をもち、疼痛があります。口唇、歯肉、舌などに生じます。約10日で自然治癒し、瘢痕は残しませんが繰り返し再発します。約6割で初発症状として始まります。
ただ、口腔アフタはエリテマトーデスなど他疾患でも、また健常者でも生じうるためにBDに特有ではありません。国際診断基準では年3回以上できることが必須条件となっていますが、前記の理由のために日本の診断基準では主症状ながら必須とはなっていません。
2)陰部潰瘍・・・口腔アフタより特異性が高いとされます。男性では陰嚢に、女性では小陰唇に好発します。また膣、子宮頚部に大型の潰瘍を作り、激痛があり、瘢痕を形成することもあります。肛囲、陰股部に生じることもあります。通常1~2週で治癒します。
3)眼症状・・・ブドウ膜炎を発作的に繰り返すのが特徴です。炎症は前眼部にとどまる虹彩毛様体炎と後眼部まで及ぶ網膜ブドウ膜炎型があります。発作時には結膜充血、眼痛、視力低下、視野障害などをおこし、かつては失明に至るケースもありましたが、近年は治療の進歩や軽症化のために減少しています。HLA-B51陽性者では重症化し易いとされます。
副症状
1)関節症状・・・四肢、手足の関節炎(痛)を起こし発赤、腫脹を伴いしばしば歩行困難となります。
2)副睾丸炎・・・頻度は少ないもののBDに特有であり、再発性の睾丸腫脹と疼痛が特徴です。
3)神経症状(神経型BD)・・・約14%の患者に見られます。男性や喫煙者に多いとされます。急性型と慢性型があり、前者では髄膜炎、多発性脳神経炎を起こし、後者では精神症状や認知症、小脳失調、片麻痺などを生じます。
4)腸管病変(腸管型BD)・・・約25%にみられます。回腸末端から盲腸に好発します。日本人に多くトルコでは少ないです。眼病変やHLA-B51の頻度が少ないのが特徴とされます。腹痛、下痢、下血などの症状を呈し、腸管穿孔例では手術を要します。
5)血管病変(血管型BD)・・・約8%にみられます。大~小型の血管に病変を生じえますが、上下大静脈、腹部大動脈、肝静脈、大腿動静脈など比較的大きな血管が障害されます。静脈がより障害されやすく、下肢の深部静脈血栓症、浅在性血栓性静脈炎を生じやすいとされます。動脈では時に動脈瘤を形成し、その破裂は致命傷となります。
【検査所見】
特別なものはありません。参考所見として、
(1)針反応陽性 20~22Gの比較的太い針を用いる事。活動期に認められる事が多い。中近東では約半数に陽性であるが、本邦では陽性率は少ない。
(2)炎症反応 赤沈値の亢進、CRP陽性、WBC増加、補体値の上昇
(3)HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)
(4)病理所見
(5)神経型・・・髄液の細胞増多、IL-6増加、MRI画像所見
【病理所見】
BDの皮膚血管炎は静脈炎で、好中球を主体とした好中球性血管炎とリンパ球を主体としたリンパ球性血管炎が混在しています。また血管炎所見のない、好中球やリンパ球性の炎症反応も混在してみられるのがBDの組織所見の特徴といえます。急性期の結節性紅斑様皮疹では、中隔性脂肪組織炎で、浸潤細胞は多核白血球と単核球です。
【診断】
厚労省の診断基準が用いられています。
1.主要項目
(1)主症状
⓵口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
⓶皮膚症状
➂眼症状
⓸外陰部症状
(2)副症状
⓵変形や硬直を伴わない関節炎
⓶副睾丸炎
⓷回盲部潰瘍で代表される消化器病変
⓸血管病変
⓹中等度以上の中枢神経病変
(3)病型診断のカテゴリー
⓵完全型:経過中に(1)主症状のうち4項目が出現したもの
⓶不全型:
(a)経過中に(1)主症状のうち3項目、あるいは(1)主症状のうち2項目と(2)副症状のうち2項目が出現したもの
(b)経過中に定型的眼症状とその他の(1)主症状のうち1項目、あるいは(2)副症状のうち2項目が出現したもの
⓷疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
⓸特殊型:完全型または不全型の基準を満たし、腸管型、血管型、神経型の症状を呈するもの

なお、副症状を呈する疾患は極めて多数(参考事項として列記してある)あるので診断には慎重でなければならない、とあります。
重症度分類はⅠ~Ⅴまであり、Ⅱ度以上が医療費助成の対象となります。
【治療】
厚労省指針では効果的な治療法は未確立とあります。ただ、予後に関する項目で、以下のように書いてあります。
「眼症状や特殊病型がない場合は、一般に予後は悪くない。眼病変は、かつては中途失明に至る主要な疾患の一つであったが、インフリキシマブが使用されるようにより、大きく改善している。腸管型、血管型、神経型に対してもTNF阻害薬が保険適用となり、今後、これらの難治性病態の治療成績の向上が期待される。」

特殊型、全身性の治療は専門書に譲るとして、一般的には生活上は、口腔内の衛生、齲歯、歯肉炎の治療を推奨し、安静、ストレスや過労を避けることが大切です。
口腔内アフタや陰部潰瘍にはステロイド軟膏の外用、眼症状にはステロイド点眼、局注を行います。
また発熱、関節痛などに対しては、NSAIDs、コルヒチン、免疫抑制剤(シクロスポリンなど)やステロイド剤内服などが使われます。血管型や血栓性静脈炎には抗血栓・抗凝固薬(ワルファリンなど)が使用されます。
さらに重症なケースでは上記のようにTNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)も保険適用となっています。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012 からの抜粋 まとめ

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29)

ベーチェット病の皮膚粘膜病変診療ガイドライン 日皮会誌:128(10),2087-2101,2018(平成30)

血管炎症候群の診療ガイドライン 2017改訂版 日本循環器学会

皮膚科学 第9版 著・編 大塚藤男 原著 上野賢一

厚生労働省 指定難病 56 ベーチェット病
厚生労働省ベーチェット病診断基準(2010年小改訂)

川崎病

川崎病は1967年川崎富作が「急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」として報告してから、同様症例の累積により独立疾患として認められ、一般的に川崎病又はmucutaneouslymphonode synderome とよばれるようになりました。
その病態は中小血管炎で、チャペルヒル会議でも中型血管炎の項目で、結節性多発動脈炎と共に同じ範疇に位置づけられています。川崎病で他の血管炎症候群との際立った差異は病変の局在性です。冠状動脈の強い炎症性血管炎といえます。
川崎先生は千葉大卒業後、日赤医療センターでこの症例に出会いました。それは1961年の1月のことだったとあります。それ以前は同様の症例はスティーブンス・ジョンソン症候群やしょう紅熱と診断されることがよくあったそうです。しかし水疱、粘膜疹を伴うことはなく、またA群溶連菌も検出されず、抗生剤も効きませんでした。同様の7例を経験した後に「非猩紅熱性落屑性症候群について」との題名で学会発表しています。(かつて川崎先生の講義を聴講して、そのたゆまぬ努力、臨床医としての眼力に深く感銘した記憶があります。)
同症はその臨床的な特徴から上記のように急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(acute febrile mucocutaneous lymph-node syndrome : MCLS)とも呼ばれています。その本態は全身性の血管炎とされるもののその病因はなお不明です。
【病因】
現在までに様々な説が発表されていますが、いずれも確証のあるものではありません。ある種の細菌・ウイルス・リケッチャ・真菌・化学物質・環境因子などの侵入をきっかけに生体が過剰反応をして血管炎を起こすと想定されています。時に流行の年度があり(1979,1982,1986年)、また近年毎年発症が1万人以上と増加傾向にはありますが、明確な感染性の徴候はなく、診断精度の上昇による見かけ上の増加との説もあります。
また本症はアジア人、特に日本人での報告が多く、その発症に遺伝的体質が関与しているとされています。
近年、GWASなどの遺伝子解析などにより疾患感受性遺伝子も同定されつつあるようです。
【組織所見】
全身性の血管炎ですが、主に中型・小型時に大型動脈を侵す急性の壊死性血管炎像を示します。冠状動脈がしばしば侵されます。中膜の水様性変化と内・外弾性板の一部の破壊により脆弱化し、血管内圧特に拡張期圧に抗しきれなくなる結果、膨張・拡張し、重症例では動脈瘤を形成します。
【症状】
85%が4歳以下で男女比は1.4:1と男児に多く発症します。
主な臨床症状は次の6つで、5つ以上がみられた場合と、4つの症状のみでも冠動脈瘤がみられた場合は定型的な川崎病と診断します。全ての症状が揃わない不全型とも呼ばれるタイプも2割前後存在するそうですが、これらが必ずしも軽症であるとはいえないことは注意すべきです。
1)原因不明で5日以上続く発熱(38度以上) 但し、早期の治療が開始されて解熱した場合も含まれます。
2)発疹・・・2~4病日より、全身どこでも不定形の発疹が出現します。多形滲出性紅斑様、麻疹様、猩紅熱様、風疹様、地図状の大きな蕁麻疹様の多彩な発疹が出現し、または出没します。ただ多形滲出性紅斑のような水疱の形成はありません。BCG接種部位(特に接種後4~6ヶ月)に発赤、痂皮、時に水疱を形成するのが特徴的とされます。時に乾癬様皮疹をみることがあります。
3)両側眼球結膜の充血・・・85~90%にみられますが毛細血管拡張のみで炎症症状はみられず、眼脂はみられません。ウサギの眼のように赤くなり診断的価値が高いです。
4)口唇の発赤、乾燥、亀裂、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤は90%にみられ、イチゴ舌もみられます。
5)四肢の変化・・・急性期には手足、指趾端の紅斑がみられ(90%)、手足のテカテカ・パンパンと腫れた硬性浮腫(75%)がみられます。これは手指で押しても圧痕は生じません。回復期(第10~15病日)には指趾端の爪囲より膜様落屑を生じ(95%)、手袋・靴下が脱げるように剥げ落ちます。約1か月で皮膚症状は治癒しますが、爪に横溝を残します。
6)急性頚部リンパ節腫脹・・・病初期に発熱とともに出現し、しばしば片側性です。有痛性です。拇指頭大からさらに大きく腫れますが自壊はしません。化膿はしません。
7)その他の症状・・・消化器症状(下痢・嘔吐・腹痛・胆のう肥大・麻痺性イレウス・軽度黄疸)、咳・鼻汁、関節痛、髄膜刺激症状(痙攣、意識障害、四肢麻痺、顔面神経麻痺)
【冠動脈障害】
当初、川崎病は比較的予後の良い疾患と考えられていましたが、統計が取られるようになると重篤な心疾患により死亡するケースもあることが分かってきました。
急性期に70~80%に心障害が起こり、25%で冠動脈瘤を生じ、その一部が虚血性心疾患や心筋梗塞(1.9%)を起こし突然死するケースもあります(0.9%)。
急性期に冠動脈に血管炎が生じ、その起始部(とくに左冠動脈の左前下行枝と左回旋枝の分岐にできやすい)に動脈瘤が生じやすいとされています。血管炎は1)血管炎のみで治まる 2)血管の軽度の拡張(瘤なし、通常3mm以下) 3)瘤の出現の3つのケースにわけられます。1)2)のケースでは冠動脈病変に関しては長期的にもほぼ問題がないとされています。
通常の冠動脈は2mm以下ですが、10mm以上の大きな動脈瘤ができることもあります。その中に血栓ができ、心筋梗塞を生じる危険性も増してきます。径7mm以上では1年以内に心筋梗塞を起こすリスクが高くなるとされます。また4mmを超すと急性期を過ぎた後に血管壁が肥厚し血管内腔が狭くなり、心筋虚血がでるリスクもあります。
【検査所見】
特異的な血液検査所見はありません。炎症を示す赤沈値高値、白血球増多、核左方移動、血小板増多、CRP陽性、肝機能異常、α2グロブリン増加、低アルブミン血症、貧血、蛋白尿などがみられるものの川崎病に特異的にみられるものではありません。
【治療】
急性期治療ガイドラインが作成されています。免疫グロブリン超大量(IVIG)単回投与+(ステロイド初期併用療法+アスピリンなどの抗凝固療法)が1st lineの治療となり、冠動脈瘤の発生を抑制することに寄与しています。ただこの治療に不応例も一部あり、その際は追加IVIG, IVMP, PSL、インフリキシマブ、ウリナスタチン、シクロスポリンA、血漿交換などが選択されています。この場合は冠動脈瘤の発生危険度が相当あがるとのことです。
詳しくはガイドライン、専門書などをご覧ください。
慢性期、遠隔期では狭窄性病変への進展抑制・冠動脈瘤内での血栓抑制に対する治療が必要とされています。
川崎病が報告されてから50年が経過し近年成人川崎病既往者の高齢化も進み、それらの人々における血管炎が動脈硬化の危険因子となることも危惧され、検討がなされています。

参考文献

皮膚科学 第9版 著・編 大塚藤男 原著 上野賢一

川崎病の発見・勉強会 一般社団法人日本血液製剤協会 第3回 1.川崎病の発見 2.川崎病の特徴 3.川崎病の冠状動脈障害とその検査法 4.川崎病の治療 5.川崎病の今後ー疫学と原因究明 川崎富作

川崎病急性期治療のガイドライン 日本小児循環器学会 平成24年改訂版