多汗症の治療ーーボトックス

最近の学会に出ると、腋窩多汗症の治療のための講演会(講習会)があります。今回の名古屋での皮膚科学会でも重度の腋窩多汗症に対するボトックス注射薬の講習会がありました。
事前登録制とのことだったので、予約していなかった小生はだめかと思いましたが、駄目元で朝早く学会場に赴くと大丈夫とのことでした。
 本邦での原発性腋窩多汗症の有病率は人口の5.7%と非常に高い割合であるとされています。また手掌多汗症は5.3%とされ、重度な場合は日常生活や、仕事に支障をきたす場合もあります。特に手掌の場合などは答案用紙がびしょびしょになって、試験も受けられないといった人も見受けます。
この度、局所多汗症のうち、重度の腋の多汗症については健康保険を使ってボトックス局所注射療法ができるようになりました。
ボトックス注射やワキ多汗症についての情報はグラクソ・スミスクライン株式会社のワキ多汗症サイト・・・ワキ汗GSK (http://waki-ase.jp)で閲覧することができますので、簡単に書きます。

ワキ汗でもボトックスが使えるケースは「重度の原発性腋窩多汗症」です。
大雑把にいうと、下記の場合に相当します。
・続発性(他の病気に伴って起こる発汗)は除きます。
・25歳未満で発症して、家族にも同様な人がいる。
・発汗が頻繁で我慢ができずに、日常生活に支障がある。

ボトックスは汗腺からの発汗を調節する交感神経節後ニューロン終末からのアセチルコリンの放出を阻害し、神経終末から汗腺への情報伝達を遮断させ発汗量を減少させるということです。ニューロン終末を破壊するわけではありませんので、投与後2,3日~2週間で効果があらわれ、通常4~9か月で効果が減弱し、元に戻ります。

薬剤の厳重な管理、事前登録、同意書などボトックス使用承認条件には厳正なマニュアルがあります。

多汗症とは、体温調節に必要な量を超えて発汗があり、日常生活や職業上の障害を生じている状態をいいます。多汗症には全身多汗症と局所多汗症があります。
この中で、手掌・足底・腋窩の局所多汗症が多く見られます。これら部位では体温調節とは無関係に精神的緊張によって発汗がみられます。多汗部位における汗腺の形態や薬物感受性は健康な人と差はありません。すなわち、これらの多汗症の患者さんの原因は汗腺ではなく精神的な緊張など中枢神経機構に関係がある事を示唆しています。ただ、そのメカニズムは不明な点が多いとのことです。

局所多汗症には薬物療法、水道水イオントフォレーシス治療、胸腔鏡下交感神経切除術などの治療方法がありますが、新たなオプションが増えたことになります。
手掌多汗症に対するボツリヌス局所注射の有効例の報告もありますが、残念ながら腋以外は保険適用になりません。

それぞれの治療方法について調べてみました。
1) 薬物療法
・抗コリン薬
ムスカリン受容体への競合的アンタゴニスト作用によります。汗腺のみならず、受容体が存在する中枢、自律神経系にも作用します。それで、視力障害、口渇、眠気、便秘、排尿障害などの副作用も出現してきます。
プロ・バンサインなどが用いられますが、副作用の割に効果はいま一つだったような印象があります。
・その他の薬物
グランダキシン・・・これも効果に比べて眠気、口渇などがあり使いにくいようです。
・パキシル・・・SSRI( selective serotonin reuptake inhibitor ) 精神性発汗に対して有効との報告があるそうですが近年SSRIの副作用が指摘され、注意が必要です。
・漢方薬・・・防已黄耆湯、補中益気湯などが使われるとのことですが、効果は低いようです。

2) 外用療法
20%塩化アルミニウム液・・・夜間単純塗布または閉鎖密封療法を行い有効であるという報告が多くみられます。痒みや灼熱感がみられることもあります。
作用機序としては、汗管のムコ多糖類と金属イオンが結合してできた沈殿物が上皮管腔細胞に障害を与え、表皮内汗管が閉塞し発汗が減少するそうです。
実際に外来で処方していますが、中等度までの患者さんには効果的な印象があります。

3) 水道水イオントフォレーシス治療
手足などの治療部位を水道水に浸し、直流電流を流します。自宅で乾電池を使ってできる治療装置もあるそうです。
1回30分間、毎日効果が出るまで行い1~3週間で効果がでたら、週1回の維持療法に切り替えます。
作用機序は陽極側で電気分解によって生じたH+がエクッリン汗腺分泌部に作用して発汗を抑制するとされています。

4) 胸腔鏡下交感神経切除術
これによる手掌発汗停止効果は高く、95%以上だそうです(安部洋一郎、NTT東日本関東病院)。その代り術後の代償性発汗(体幹部、大腿部などに汗が増える)も必発で、それによって苦痛を感じ、手術を後悔するケースもあるとのことです。
将来の代償性発汗を気にする場合は外せるように、交感神経にクリップをかける方法もあるそうです。
また手術後、味覚発汗が増強して、食べるとすぐに顔面の発汗が生じる例もあるそうです。このように効果が高い反面、副作用もあるので十分な術前の説明と納得が必要な術式といえます。

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