先日、東京医大皮膚科教室(坪井良治教授)の主催する西新宿皮膚科研究会に出席しました。関係者ではないのですが、数回出席して興味深い内容なのでまたでてみました。片桐一元先生(獨協医科大学越谷病院皮膚科教授)の痒疹治療のアルゴリズムの話がありました。痒疹の治療については、日本皮膚科学会によるガイドラインもありますが、それらを元に治療についてまとめてみます。
片桐式痒疹治療の骨子は、(特に多形慢性痒疹に対して)十分量の保湿剤、適切なステロイド剤の外用を手始めに、アレロック、クラリチンなどの抗ヒスタミン剤を使用、あるいは倍量使用するなどで痒みを十分に軽減させ、さらにマクロライド系抗菌剤を追加していくというものです。それでも難治性の場合は紫外線照射、シクロスポリン内服とステップアップしていきますが、通常のクリニックの治療では前者まででも次のステップがあることなど明確な治療方針を提示し継続治療することでかなりな割合で寛解にもっていけるというお話でした。

「治療面から見た場合、基礎疾患がある場合はその治療により痒疹も軽快することがあるが、多くの症例ではその原因を明らかにすることは困難である。慢性痒疹は、通常のステロイド外用や局注にも抵抗性を示すことも多く、頑固な痒みにより、日常診療においてもでこずることが多く、個々の医師により様々な治療法が個別に試みられているのが現状かと考える。このような現状から2012年に日本皮膚科学会と厚生労働省研究班により慢性痒疹診療ガイドラインが策定、公表された。・・・慢性痒疹は症例数も限られており、EBMに耐えうる治療研究は少ない・・・」
デルマ Derma「痒疹の粘り強い治療」編集企画にあたって  片山一朗  巻頭言より 抜粋

日本皮膚科学会慢性痒疹診療ガイドライン
様々な定義がありますが、本ガイドラインでは痒疹を「痒疹丘疹を主徴とする反応性皮膚疾患である」と規定してまとめてあります。
慢性痒疹を結節性痒疹と多形慢性痒疹に分けています。
結節性痒疹はブヨ、蚊、南京虫などの虫刺症後に発生することが多く、硬いドーム状または疣状の結節を形成します。胃腸障害、肝障害、病巣感染、内臓悪性腫瘍などの関与が想定される症例もありますが、多くは原因不明です。真皮神経の過形成がみられることより、神経系の異常の関与も示唆されています。多形慢性痒疹は中高年の下腹部の痒みの強い蕁麻疹様丘疹で始まり、やがて常色から淡褐色で充実性丘疹、結節となり集まり、融合していきます。原因としてアレルギー、胃腸障害、肝腎障害、性ホルモン失調などが想定されていますが、これも多くは原因不明です。
以上のことより、まず慢性痒疹の治療のアルゴリズムとしては原因の検索を行います。もし基礎疾患がみつかればその原疾患の治療によって痒疹も軽快するケースがあります。
その上で、スキンケアや皮膚刺激の回避などの生活一般の指導を行います。ある意味、痒疹の治療方針は多くの点でアトピー性皮膚炎の治療指針と重なります。
治療薬はステロイド薬の外用、局注を主体に、抗ヒスタミン剤の内服を行います。ステロイド含有テープ剤も有用です。
これらの治療で効果がみられない時は、タクロリムス軟膏の外用、液体窒素による冷凍凝固法、中波長紫外線療法、活性ビタミンD3薬外用、カプサイシン軟膏外用などが試みられています。
さらに重症例に対してはシクロスポリンなどの免疫抑制剤やステロイド薬の内服が行われます。ただし、ステロイド内服での長期予後の改善は認めらないとされ、副作用を考慮すると急性増悪期の短期間のみに留めるべきとされています。
以下に難治性の際に試みられる治療について個別に取り上げてみます。
◆ビタミンD3軟膏
大阪大学の片山らが1996年に結節性痒疹に対して有効であることを報告しました。ガイドラインでは推奨度:C1で推薦文では「活性型ビタミンD3外用を評価した研究は少ない。外用ステロイドに対する効果が低く、長期間の治療による副作用が見られる症例では、使用を考慮してよい。しかし十分な根拠はない。また保険適用外である。」とされています。臨床効果発現機序は1.炎症性サイトカイン調節作用 2.アポトーシス誘導作用 3.調節性T細胞誘導作用 などが想定されています。 また使用に際してはステロイドからの変更では悪化のないことを左右差で確認するなど徐々に行うこと、悪化例では交互使用などを推奨しています。バリア機能低下や腎機能低下例での多量の使用による高カルシウム血症などの副作用への注意は乾癬の場合と同様です。
◆紫外線療法
ガイドラインでは推奨度:C1で推薦文では「本症が極めて難治であることを考えれば試行してよい方法と思われる。Bath PUVA, broadband UVB(BBUVB), UVA1は、有効性が期待できる。ただし保険適用外である。」とされています。
ほとんどが症例報告で明らかなエビデンスはありませんがいずれの波長の紫外線でも有効であったとの報告があります。慢性痒疹の病態、光線療法の奏功機序については明確ではありませんが、以下のように考えられています。
慢性痒疹では皮膚の神経線維分布の増加、表皮肥厚、過角化、真皮ではリンパ球を主体として肥満細胞や好塩基球、好酸球を混じた細胞浸潤がみられます。また皮疹部の表皮、真皮での神経線維の増生と肥大化がみられるとの報告や神経線維の近くに上記炎症細胞がみられるとの報告もあります。したがってしつこい痒みを有する痒疹の病態には神経原性炎症の関与も考えられています。
紫外線は神経線維の増生を抑制し、神経ペプチドの遊離を抑制するなど神経原性炎症を抑制的に制御すると考えられています。さらに光線療法は表皮角化細胞のアポトーシス誘導、ランゲルハンス細胞の機能抑制、肥満細胞の脱顆粒抑制、肥満細胞、T細胞に対するアポトーシス誘導などが考えられています。
◆抗生剤内服
ガイドラインでは推奨度:C2で推薦文では「マクロライド系抗生剤であるロキシスロマイシンやクラリスロマイシンには、抗炎症作用や免疫調整作用があり、慢性痒疹の病態を考慮すると臨床的効果が期待される。しかしエビデンスレベルの高い臨床試験は行われていない。また保険適用外である。」
これら14員環マクロライド系抗生剤の奏功機序は多岐に亘っています。想定されるものは以下の物質、炎症性サイトカインの発現、機能抑制です。
T細胞・・・IL-2,IL-4 単球、マクロファージ・・・TNF-α、IL-8 肥満細胞・・・ヒスタミン 樹状細胞・・・抗原提示機能 表皮角化細胞・・・炎症性サイトカイン 神経・・・サブスタンスP、神経成長因子
慢性副鼻腔炎やびまん性汎細気管支炎などに準じてロキシスロマイシン300mg/日、クラリスロマイシン200mg/日の 長期投与が試みられています。
◆シクロスポリン
乾癬、アトピー性皮膚炎に適応があります。Th1,Th2両方の系に作用します。痒疹はTh2, Th17細胞の皮膚への浸潤が見られる疾患とされ同剤も効果があります。ただし、その腎毒性、高血圧などの副作用もあり、欧米では最近は乾癬に対しても1年以内に留めるべきとされています。難治性のケースに留め長期に亘ってコントロールすべき薬剤では ないと思われます。
◆その他の薬剤
ガイドラインでは、この他にC1に相当する治療法として、液体窒素療法、鎮痒性外用薬(オイラックスなど)、カプサイシン軟膏、保湿剤、漢方薬をあげ、C1~C2に相当する薬剤としてサリドマイド、ナルフラフィン塩酸塩(レミッチ)があげられています。その他に抗うつ剤、トランキライザー、ガバペンチン、レセルピンなどの報告もみられます。
C1:行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない。
C2:根拠がないので勧められない。
痒疹の痒みには従来の抗ヒスタミン薬が効かないのが特徴ですが、痒疹の皮膚では、痒み過敏状態になっていて、最近の研究では神経系の異常や神経原性炎症が発症に関与している可能性が示唆されています。カプサイシン、レミッチが奏効することもこのことを裏付けています。痒疹の痒み発生機序は明確ではありませんが、オピオイド、サブスタンスP、サイトカイン、表皮内C線維などの関与が示唆されています。

慢性痒疹の治療を日皮会のガイドラインを元に概観してみましたが、やはりなかなか特効的な治療法がないのだなーというのが実感です。その一方で、専門の先生方が急に治った(寛解した)という経験をお持ちなのも、この疾患の興味深いところです。「薬剤をやめたら痒疹が治った。」「皮疹が顔面にまで広範囲に及ぶケースではカルシウムブロッカーなどの降圧剤の中止で軽快することが多い。」「会社の社長就任後にどんどん悪化して、貨幣状湿疹になり、結節性痒疹化したが、社長を降りたころ急に良くなった。」「胃癌切除後に症状が軽快した。」「ステロイド局注剤が一時的に市場から消えたために窮余の一策として十分量のヒルドイドクリームをラップでカバーする密封療法を行ったところこれまで数年の治療歴では経験しなかったような治療効果を得た。」「Basedow病の発見と治療により急速に軽快した。」
小生も最近、急激に痒疹結節の軽快した患者さんを経験し、その訳を聞いたところ、30回ずつ噛んで食べるようにしたら、長年の宿痾ともいえる便秘が治った、その頃からみるみる皮疹が良くなったとのことでした。
これらのことを勘案すると、痒疹の治療には体系的な治療法も大切ですが、個々の患者さんに付随するある種の”ヒント”を探り当てることの大切さを感じました。
日本皮膚科学会では痒疹の診療ガイドラインを改定中とのことです。どのようなものになるのか興味深いものがあります。

参考文献

佐藤貴浩、横関博雄、片山一朗、ほか.日本皮膚科学会ガイドライン 慢性痒疹ガイドライン. 日皮会誌 2012:122:1-16

【特集】痒疹反応 皮膚病診療 Vol.33, No.12(2011)

痒疹の粘り強い治療 ◆編集企画◆片山一朗 Derma 2014年2月号 No.214

皮膚科臨床アセット 18 紅斑と痒疹 病態・治療 新たな展開
総編集◎古江増隆 専門編集◎横関博雄 中山書店 2013

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