2011年9月
尋常性?瘡

  先日、京都大学谷岡未樹先生による尋常性?瘡(にきび)の講演がありました。にきびの新薬アダパレン(ディフェリン)に関するものでした。その内容をまとめてみました。
信じられないことかもしれませんが、にきびの治療に関しては、日本は海外の諸外国と比べて立ち遅れていました。ドラッグ・ラグという言葉があります。新薬が開発されてから診療の現場で使えるようになるまでの時間差があることをこう言います。にきびの治療薬においても、海外で承認され長年使用されている薬剤で未だ使用できないものも多くあります。
外用レチノイドについても、海外では40年以上前から使用されていましたが、本邦ではやっと2008年からアダパレン(ディフェリン)が保険適用となり、使用できるようになりました。先進国では最後の承認ですが、導入が遅れた分だけ、レチノイド剤の中でも最も刺激が少なく、効果が優れたアダパレンを選択できたというメリットもあります。
●病態、病因
にきびの治療について述べる前に、その病態、原因を簡単に説明します。にきびは大きく分けて次の3つの因子によって脂腺性毛包(脂腺が発達して毛は痕跡的に産毛を持った毛穴)が慢性的に炎症を起こします。
(1)性ホルモン(アンドロゲン)による皮脂の分泌の増加
(2)毛漏斗部(脂腺の開口部より、上方の表面に近い部分)の角化障害
(3)毛漏斗部の常在菌(P. acnes アクネ桿菌)の存在
●治療
上記の病態からもわかるように、にきびの治療は角化異常を治すことと、抗菌薬でアクネ菌の増殖を抑えるという両面が重要となります。 従来は、角化異常を是正する治療は、石鹸による洗顔と硫黄ローションなどに限定されていました。ディフェリンはレチノイド様作用によって毛包上皮細胞の角化異常を是正することでにきびの始まりである面皰(白にきび、黒にきび)を改善し、炎症性皮疹への進展を抑制します。
いままでの抗菌剤の外用、内服薬の治療に、ディフェリンが加わり、この両者を併用することによって、すでに炎症が起こったにきびを治すだけではなくて、いわばにきびができにくくなる肌に近づけることができるようになったといってもよいかもしれません。
このように、ディフェリンはすぐれたにきびの治療薬で、日本皮膚科学会の尋常性?瘡 治療ガイドラインでも第一選択薬に位置付けられています。しかしながら、使用に際しては幾つかの注意する点があります。
●ディフェリン使用上の注意点
*デイフェリンは毛包漏斗部の角化異常を是正し面皰を抑制しますが、その薬理作用としては多少とも、皮膚の乾燥、赤み、刺激感、痒みなどを伴うことが多いです。使用後1,2週間で生じることが多いので保湿クリームなどを使用する、使用を減らすなどの処置をとることが必要です。但し、ほとんどが一過性で慣れてくることが多いようです。多少の刺激は薬剤の効果がでている証拠とも考えられ、この時期を乗り越えることで本当の効果が出てくるとも言えます。
*デイフェリンの効果は、面皰の減少は1カ月以内にはっきり現れますが、炎症性?瘡の減少は3カ月してやっと効果が明らかになってきます。見た目では小さな面皰は目立たないために、使用1カ月後では刺激感などの副作用の方が目立ち、効果のない薬と思われがちです。むしろ3カ月か、それ以降の時点で効果の有無を判断した方が良い薬といえます。
*ディフェリンはレチノイド様作用を持っています。レチノイドは催奇形性などの副作用があるとされます。従って、ディフェリンも使用上の注意として、妊娠、授乳が禁忌になっていますが、通常の使用では、血中には検出されないこと、大量に内服使用してもほとんど問題ないとされていますが、念のため妊娠・授乳時は使用できないことになっています。
*?瘡軽快後の維持療法についても、ディフェリンを少なくとも1年間連続使用しても副作用の蓄積作用はないという長期使用試験の結果も出ています。ディフェリンを継続使用することによって面皰を抑制し、にきびの再発を予防できるとされます。?瘡は一旦瘢痕を形成すると永久に残るとされますが、再発を予防することで、瘢痕の形成も回避できることにつながります。従って維持療法も重要です。
●今後の問題
欧米などの海外では、外用レチノイドと抗菌剤の併用療法は確固たる位置を占めています。更にレチノイド内服やホルモン療法も汎用されています。むしろ今後は?瘡瘢痕に対する治療や、抗菌剤耐性のアクネ桿菌対策に重点が移っているようで、これは日本の近未来の問題でもあります。耐性菌に対しては、ベンゾイルパーオイサイド(BPO)が抑制に効果があるとして多様されていますが、日本ではまだ認可されていません。
●レーザー療法、光線療法
IPL, PDTなどさまざまな治療機器が導入されてきています。しかし、これらは薬剤と異なり安全性評価、比較試験を経なくても承認されます。日本のガイドラインでも推奨度はC2(行ってもよいが十分な根拠がないので推奨できない)となっています。今後のさらなる評価試験が必要とされます。

参考文献
谷岡未樹  MB Derma, 170:23-30.2010