壊死性筋膜炎、ガス壊疽
  壊死性筋膜炎、ガス壊疽

壊死性筋膜炎は蜂窩織炎よりも更に深部の浅在性筋膜に広範囲に細菌感染が波及して組織壊死を生じる皮膚軟部感染症です。筋膜上を水平方向に急速に拡大していきます。これは原因菌を問わない症状に対する病名です。一般にメディアなどでは人喰いバクテリアと呼ばれています。原因菌を特定した病名としては、劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症、ガス壊疽、Vibrio vulnificus感染症、Aeromonas壊死性軟部組織感染症などということになります。
●原因菌
溶血性レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、嫌気性菌などさまざまです。
●感染経路
1)経皮的経路
糖尿病などの基礎疾患をもった人で、足白癬、外傷、床ずれ、外科手術などからなどから細菌が侵入して発症する場合が多いです。
2)血行的経路
Vibrio vulnificus感染症では、肝硬変の人が生魚を食べ、それに含まれる細菌が敗血症を起こし血行性に皮下に到達して病変を起こします。また健常者でも咽頭などに感染した溶連菌が血行性に壊死性筋膜炎を発症することがあります。
ガス壊疽
ガス生産性の細菌感染症です。クロストリジウム性ガス壊疽と非クロストリジウム性ガス壊疽に分けられます。ガス壊疽とはガスを産生する壊死性筋膜炎ともいえます。但し、クロストリジウム性ガス壊疽は病変の主体が筋肉ですので、厳密には非クロストリジウム性ガス壊疽がガス産生性の壊死性筋膜炎といえます。
●症状
患部の激痛、浮腫性腫脹、発赤で始まります。但し、当初はより浅在性の丹毒が鮮紅色で境界が明瞭なのに対して、深在性であるために紅斑は淡く、境界は不明瞭で一見軽症に見えるので注意が必要です。症状は急速に進行し、病変部局所の紫斑、血水疱、壊死が見られます。それとともに全身症状も著明となり、高熱、関節痛、筋肉痛、血圧低下、呼吸困難、肝障害、腎障害、消化器症状、意識障害なども起こします。特に劇症型A群溶連菌感染症では、突然敗血症性ショックに陥り、多臓器不全をきたし不幸な転機をとることがあります。ガス産生性の場合は病変部を掴むと泡をつぶすようなピチピチという捻髪音と雪を掴むような感触があります。
外陰部にできた場合は、Fournier壊疽と呼びます。糖尿病などの基礎疾患を有する人が外陰部の外傷、性器感染症、肛門周囲膿瘍などを介し発症します。
●診断
1)まず、前記の臨床症状から本症を疑うこと。 2)検査所見:血液検査所見からのみでは確定診断はできませんが白血球数が25000/μl以上、CRP 20mg/dl以上、血中ヘモグロビン濃度の低下などの所見はこれを強く疑う所見とされます。 3)画像診断:CT,MRI、超音波などが筋膜部への病変の波及を知るのに用いられます。またガス像の有無の確認に有用です。 4)試験切開: 米国の教本では「画像所見の有無にかかわらず強い痛み、全身重症感、発熱、CKの上昇といったものがあれば、外科的試験切開のみが唯一の確定診断法であるとあります。深筋膜までの切開で大量の浸出液があり、筋膜が変性し、消失し、筋膜上で組織が容易に剥離できれば壊死性筋膜炎と診断する、とされます。(沢田泰之 皮膚病診療32、2010)
●治療
外科的デブリドマン(壊死組織除去)
診断確定後の早急な病変部の外科的デブリドマンが救命のためには必須とされます。皮下組織の変性、壊死部分は十分に取り除く必要があり、術後も繰り返し洗浄する必要があります。時には患肢の切断が必要となります。
抗菌薬の大量全身投与
起因菌の種類によって使用する抗生剤は変ってきますが、培養の結果が判るまでは初期のエンピリック治療(経験則に基づいた治療)を施行しますが、結果が判れば、溶連菌ではペニシリン、クリンダマイシン、混合感染にはチエナム、カルベニン、メロペン、さらにMRSAであればバンコマイシンなどを使用します。
その他の治療
ショックの治療には、大量の輸液、ドーパミン、エピネフィリン、また多臓器不全への治療、免疫グロブリンなどを使用します。
このような集中治療を行っても死亡率は30−40%とされます。劇症型A群溶連菌感染症では30−70%、Vibrio vulnificus感染症、Aeromonas壊死性軟部組織感染症では更に死亡率は高くなります。

Vibrio vulnificus感染症
本症は、肝硬変や糖尿病・免疫不全などの患者が、夏季、生の魚介類から経口的に、または創部から経皮的にVibrio vulnificus(Vv)に感染し、敗血症性ショックや壊死性筋膜炎などを発症する日和見感染症です。わが国では、食習慣から経口感染型が多いです。死亡率70%で、その半数以上が発症後3日以内に亡くなる劇症型感染症であるために、診断を急ぐ必要があります。初期治療が予後を左右します。
●原因
Vvはビブリオ属の通性嫌気性グラム陰性桿菌でバナナ状に弯曲して鞭毛を有します。低度好塩性なので、汽水域(河川から沿岸で真水が海水と混ざる域)に生息し、海水温が20度を超えると急速に増殖します。その地域の海泥や魚介類に極めて多く生息しています。それゆえに発生時期、地域に特徴があり、7−9月大雨の後、海水塩分濃度の低下で発生が多くなります。西日本に多く、特に有明海沿岸、瀬戸内海に多くまた東京湾沿岸でもみられます。患者の9割が肝硬変などの肝疾患です。その理由は、肝臓での細菌貪食能の低下、腸管からのエンドトキシン吸収増加、動静脈シャントによる菌の大循環への直接流入、肝疾患のため遊離鉄が増加して菌の増殖に不可欠な鉄の供給を手助けする、などあげられています。
●症状
原発性敗血症型
生の魚介類を食べることにより、経腸管的に菌が侵入して敗血症を起こし、壊死性筋膜炎を生じる型で、7割以上がこの型。 創傷感染型 汽水域で傷から経皮的に感染して、蜂窩織炎や壊死性筋膜炎を発症する型。
初発症状は発熱と激痛です。早期に敗血症性ショックに陥ります。四肢特に左下肢に壊死性筋膜炎を生じます。潮紅、紫斑、水疱、血疱、壊死を起こします。全身性に拡大すると予後は悪くなります。局所のデブリドマン、患肢の切断、集学的治療を行っても救命率は低いです。
●生活指導
上記のように一旦発症すると予後は極めて悪いので、発病予防が最も大切です。肝硬変や糖尿病、免疫不全の人は下記の注意が重要です。 a.夏には魚介類を生では食べない。十分に加熱してから食べる。 b.魚介類や調理器具は真水でよく洗い、調理時には魚介類の内臓を破らないようにする。c.汽水域での潮干狩りや海水浴はしない。

古城八寿子 Vibrio vulnificus感染症 127-131 皮膚感染症のすべて 渡辺晋一編集 南江堂

参考文献

  標準皮膚科学 第8版 監修 西川武二  編集 瀧川雅浩 富田 靖 橋本 隆  医学書院
  皮膚科診療カラーアトラス大系 編集/鈴木啓之・神埼 保 4 ウイルス性疾患・急性発疹症と類症 細菌性疾患 真菌症 講談社 
皮膚感染症のすべて 編集 渡辺晋一 南江堂
感染症診療 スタンダードマニュアル 第2版 Edited by Frederick Southwick 監修=青木 眞  編集=源河いくみ/本郷偉元  監訳=柳 秀高/成田 雅