イヌ、ネコによる咬傷・掻傷
パスツレラ皮膚感染症
 
イヌ、ネコによる咬傷・掻傷
パスツレラ皮膚感染症

●病因
Pasteurella属菌による細菌感染症です。多くの哺乳類の口腔内に常在する菌ですが、とりわけネコの保有率は70−90%と高率です。またネコの前爪では25%、イヌでは15−75%とされます。ヒトには常在しません。Pasteurella multocida subsp. multocidaが起因菌として最も多いですが、近年は他のパスツレラ菌による例も増加しており、菌の多様化がみられています。
●症状
ネコの咬み傷、引っ掻き傷によって、前腕とりわけ手に感染症を生じるケースが最も多いです。最短では数時間から48時間までの早期に局所に発赤、腫脹、疼痛が出現し、膿瘍や蜂窩織炎を生じます。滲出液には精液様の臭気があります。ネコの歯は鋭く、時に皮膚深くにまで達し、壊死性筋膜炎、化膿性骨髄炎も生じることもあります。
●治療
ペニシリン系やセファロスポリン系の抗生剤が有効ですが、耐性菌もあり、また黄色ブドウ球菌その他の菌もあり得ますので、まず治療の前に細菌培養をしておくことが重要です。

ネコひっかき病

●病因
バルトネラ菌Bartonella henselaeによる細菌感染症です。ネコの赤血球内に寄生しているグラム陰性桿菌の一種です。特に12カ月齢以下の仔猫は保有率が高いとされます。ネコノミもネコからネコへの伝播の原因となります。
●症状
ネコ、ことに仔ネコに咬まれたり、引っ掻かれたりした後、3−5日して受傷部位に丘疹、膿胞、結節、潰瘍(しこり、深い傷など)ができます。2週間後にはリンパ節、特に腋の下のリンパ節が大きく腫れてきて、時にくずれて排膿します。発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状をきたす場合もあります。多くは無治療でも2−3週間で自然に治癒しますが、エイズ患者など免疫不全状態にあると菌血症を起こして脳症、肝脾性紫斑病、心内膜炎などを併発し重篤になることもあります。
●治療
ほとんどの例で自然治癒するために、消炎鎮痛剤などの対症療法が行なわれます。アジスロマイシン(ジスロマック)がリンパ節腫脹の場合は第1番目に使われる抗生剤です。その他のマクロライド系の抗生剤(エリスロシン、クラリス)テトラサイクリン系(ミノマイシン、ビブラマイシン)ニューキノロン系、リファンピシンも有効とされています。

狂犬病

●病因
ラブドウイルス科のリッサウイルスによる感染症です。狂犬病予防法が制定された1950年以前は日本でも多く発生していましたが、わずか7年間で撲滅され、昭和31年以降発生はありません。但し、昭和45年にはネパールよりの帰国者、平成18年にはフィリピンよりの帰国者の発生があり、いずれも死亡しています。
国内の犬からの感染はありませんが、狂犬病の発生のない国は日本、オーストラリア、ニュージーランド、英国、北欧などに限られ、世界中に蔓延している状態です。そして年間5万人以上の死亡があり、内アジアでは3万人以上が亡くなっています。中でもインドでは2万人以上の人が亡くなっていることは知っておく必要があります。
● 症状
前駆期;発熱、食欲不振、咬傷部位の痛みや掻痒感
急性神経症状期;不安感、恐水及び恐風症状、興奮性、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状。この異常は脳幹が侵され延髄上部の疑核が傷害されるために起こると考えられています。
昏睡期;昏睡(呼吸障害によりほぼ100%が死亡)
●予後
一旦発症すると、治療方法はなく、ほぼ100%が死亡しますので、予防が必要です。感染した可能性がある場合には早急に現地の医療機関でワクチンの投与を受ける必要があります。欧米などでは、イヌよりもコウモリ咬傷が最も多いので注意が必要です。また狐、アライグマなどからの感染もあります。ペットブームなどにより、日本も常にウイルスの侵入の脅威に晒されています。
厚生労働省の感染症情報HPに事細かに書かれていますので、一度見ておくのも良いかと思います。


●生活上の注意
イヌ、ネコのみならず、多くのペットが飼われていますが、人獣共通感染症は、約100種類あり、そのうちペットに由来するものは30種類あると考えられています。これらはウイルス、細菌、リケッチャ、真菌、寄生虫を持っていることが多く、ペットを飼う際には一定の危険が伴うことを知っておくことが大切です。
特に重要と思われる注意事項を列挙します。
・一緒に寝ない
・ペットとキスしたり口移しはしない
・温厚なペットを選ぶ
・獣医師に相談し、ペットの習性を知っておく
・ペットに定期検診を受けさせる
・ネコの爪は常に切っておく
・ネコの興奮時には手を出さない
・野生動物には触れない、飼わない
・権勢症候群(アルファンシンドロム)を未然に防ぐ。・・・イヌを甘やかしておくとイヌ自身が一家のリーダーと勘違いしてさまざまな不都合を引き起こす。


参考文献

皮膚科診療カラーアトラス大系 編集/鈴木 啓之・神崎 保  講談社
ウイルス性疾患・急性発疹症と類症 細菌性疾患 真菌症

皮膚感染症のすべて 編集 渡辺晋一  南江堂