金属による接触皮膚炎
  金属による接触皮膚炎

金属によるかぶれ(接触皮膚炎)は日常生活でも、また職業上でも接触の機会があれば生じます。一見して金属が原因だとわかる場合もありますが、なかなか判らない場合も多くあります。金属アレルギーで、注意すべき点、役立つと思われる資料などを集めてみました。

◆代表的な原因
ニッケル皮膚炎
金属皮膚炎の中ではニッケル皮膚炎の頻度が圧倒的に高いです。これは日常の生活の中でニッケルに接触する機会が圧倒的に高いからです。ニッケルメッキをほどこした製品に皮膚が触れ、汗をかくと汗に含まれる塩素イオンにニッケルを溶出する性質があるためにニッケルイオンが溶出し、これがハプテンとなって人の蛋白質と結合して抗原となり、接触皮膚炎を発症します。(接触皮膚炎の発症、総論の項参照)
ニッケルはかつてのガーターの留め金、ピアス、ネックレス、指輪、ブラジャーのワイヤー、ズボンの留め金など各種の装身具に多く含まれているために女性の接触皮膚炎の原因の代表です。無論、メガネ、腕時計、ズボンのバックル、コインなど男女を問わず多くみられます。またメッキ工やニッケルを扱う職場の従事者にもみられます。
コバルト皮膚炎
化学的にニッケルと近縁にあり、ニッケルメッキにも微量に含まれます。また青色の染着色料、ガラス工業塗料、陶器のうわぐすり、絵具にも使用されています。ニッケルよりもイオン化しやすく、感作能も高いとされます。
クロム皮膚炎
クロム皮膚炎の原因は三価クロムではなく六価のクロムとされます。それで三価クロムを有するクロムメッキ、クロム合金では皮膚炎は生じないとされます。クロムメッキ皮膚炎は実は微量に混じるニッケルによるものとされます。皮革製品は耐水性、耐熱性を得るために「なめし」という工程をとりますが、クロムもその一つで「クロムなめし」といいますが、皮革皮膚炎の原因となります。六価クロムは写真現像に従事する人、セメントを扱う人などにも見られます。
1994年以降のジャパニーズスタンダードアレルゲンの結果によると、当初はコバルトが最も高く、次いでニッケルが高かったが、2000年以降はニッケルが最も高くなっています。ただ、これらの陽性率は年々下がり、代わってウルシオール、パラフェニレンジアミン(毛染め染料)の陽性率が高くなってきています。金の陽性率は高くなってきていますが、試薬によって高低があります。
金属による接触皮膚炎(かぶれ)の実例を表示します。
写真1はブラジャーの留め金による接触皮膚炎です。
写真2はジーパンのボタンの留め金による接触皮膚炎です。

◆イアリング・ピアス皮膚炎
イアリングではニッケルによるものが多いようです。ねじ止め型では長年の摩擦や汗で表面の金メッキが剥がれ、下地のニッケルが露出して皮膚炎を生じます。ピアス型のものもニッケル、コバルトによるものが多いですが、金そのものによるアレルギーも増えています。完全にピアスホールが完成する3カ月位までは浸出液中に金が溶出して皮膚炎をおこすこともあります。このようにピアス孔がまだ上皮化していない場合はシリコンリング、シリコンチューブなどで上皮化まで待つか、金などのピアスの上にプラスチックなどのコーティング剤を塗布して金属と皮膚との接触を遮断する必要があります。
ピアス皮膚炎の最も多い原因は金属アレルギーというよりも、ピアスをつける際に物理的に孔を傷つけることによる皮膚炎とされます。それで不注意に孔を損傷しないように気をつけることが必要です。金属アレルギーを心配せずにピアスをするならばプラスチック、セラミック、純チタンなどの製品を使用することが必要です。

◆歯科金属による皮膚炎
歯科金属によって誘発される疾患で口腔内口囲に生じるものは、粘膜苔癬(扁平苔癬)、接触粘膜炎、肉芽腫性口唇炎、口囲皮膚炎などがあります。
口腔外に生じるものには、掌蹠膿疱症、扁平苔癬、異汗性湿疹(汗疱)、貨幣状湿疹などがあります。
歯科金属は異種金属が存在すると口腔内でイオン化してアレルギーを引き起こすと考えられます。ただ、歯科金属アレルギーの診断・治療で注意すべきことは、仮に金属パッチテストで陽性となり、その金属が歯科金属として使用されていても、必ずしも(上記などの)皮膚疾患の原因が金属とは限らないことです。
例えば、歯科金属との関係で最も有名な掌蹠膿疱症でも、金属パッチテスト陽性で、歯科金属を全て除去しても皮疹が改善しないこともあります。歯性の病巣感染、あるいは歯以外の病巣感染(副鼻腔炎、扁桃炎、胆嚢炎など)の関与も指摘されています。すなわち、金属除去して症状が改善して初めて金属が発症原因であるといえることになります。
歯科金属アレルギーで、最初に報告されたのはアマルガムに含まれる水銀で、高率に粘膜苔癬を誘発しますが、現在はほとんど使われていないということです。現在では健康保険で使用される金銀パラジウム合金が使用頻度が最も多く、金属アレルギーも、パラジウム、コバルト、クロムなどが陽性率が高いそうですが、金やプラチナに陽性反応を示す例もあるそうです。金属除去療法は専門の歯科の対応が必要ですが、以下のような治療手順になるそうです。
陽性金属があれば、DMAメーターによる金属溶出傾向の測定、X線マイクロアナライザーによる金属成分分析、金属修復物の除去ののち、6か月程度症状が軽快、消退することを確認した後に最終補綴を行うといった流れです。そして患者さんにとって安全なチタンなどの金属やセラミックを使用することになるそうですが、これらは健康保険適応外となるために高額となります。これらの治療は歯科治療の期間・費用の点で患者さんに相当の負担をかけ、必ずしも治癒に至らないこともあり、前もって十分なインフォームドコンセントが必要です。

◆医療材料による皮膚炎
骨接合用金属、人工関節など整形外科領域の報告が多く、心臓ペースメーカー、胸骨ワイヤー、血管内ステント、医療用ステープルでの皮膚障害の報告もみられるそうです。金属の種類ではニッケル、クロム、コバルトが多いですが、マンガン、チタンの例などの報告もあるそうです。

◆食物に含まれる金属による皮膚炎
食品中に含まれる金属によって皮膚炎を生じるケースもあります。診断はパッチテスト陽性は勿論ですが、金属負荷テストが最も確実で、更に金属除去によって症状が改善することが重要です。五穀米などに含まれるヒエの中のニッケルによる金属アレルギーの報告もあります。健康食ブームもあり、これらの過剰摂取には注意が必要です。実際の食事指導としては摂取を完全に禁止にはせず、金属含有量の多いチョコレートやココアなどを可能な限り避けるようにし、野菜などは過剰摂取しないように指導されているようでただ、どのような食材に多く含まれているのか知っておくことは大切なことです。以下にNi,Co,Crを多く含む食品の一覧を文献より転載します。(異汗性湿疹および痒疹と金属アレルギー:新潟大学10年間の検討 大湖健太郎 皮膚病診療: 33:758,2011
【コバルトを多く含む食品】
豆類:ナッツ、大豆、小豆  海藻類:ワカメ、ヒジキ、昆布魚  貝類:ハマグリ、アサリ、ホタテ貝、いりこ  乳製品:牛乳、チーズ
野菜:キャベツ、キクラゲ  嗜好品:ビール、コーヒー、紅茶、ココア、チョコレート  その他:レバー、卵
【クロムを多く含む食品】
野菜:馬鈴薯、玉ねぎ、マッシュルーム  果物:リンゴ  調味料:香辛料  嗜好品:紅茶、ココア  その他:缶詰食品(ステンレス缶)、朝一番の水道水
【ニッケルを多く含む食品】
穀類:玄米、胚芽米、小麦麦芽、ソバ、オートミール  豆類:全て(ピーナツ、枝豆など)  海藻類:全て(ワカメ、ヒジキ、海苔、昆布など)
魚介類:牡蠣、鮭、ニシン  野菜:ホウレン草、カボチャ、レタス、キャベツなど  調味料:香辛料、ふくらし粉  嗜好品:たばこ、ワイン、紅茶、ココア、チョコレート  漢方:大黄末  その他:缶詰食品(ステンレス缶)、朝一番の水道水

◆全身型金属アレルギー
金属アレルギーでは、直接皮膚に接触する部位に湿疹ができる場合の他に、食品中や歯科金属に含まれる微量金属が口腔粘膜や消化管から吸収され全身に発疹を起こす場合があります。これらの場合には、アトピー性皮膚炎や貨幣状湿疹、慢性痒疹、手足の汗疱状湿疹の形をとることもあります。これは全身型金属アレルギーとよばれることもあり、パッチテストは必ずしも陽性にならず、金属の除去によって軽快すること、金属内服負荷テストなどで診断されます。

文献
原田昭太郎  金属皮膚炎 平成14年

松永佳世子 責任編集 最新・歯科と連携して治す皮膚疾患  Visual ermatology Vol.10 No.11 2011
    高橋慎一  歯科と関連する皮膚疾患 p1127
    服部正巳  歯科金属アレルギーの対応 p1146
    足立厚子  口腔内アマルガムに対する全身型金属アレルギーが原因と
          考えられた貨幣状湿疹