染毛剤による接触皮膚炎            2012年11月

  染毛剤によるかぶれ(接触皮膚炎)は近年増加傾向にあります。これの重要なことは、使用者が多いこと、一旦感作されてアレルギーになりそれを知らずに使用し続けると次第に激しい皮膚炎を起こしたり、最悪の場合アナフィラキシーショックを起こしたり、接触皮膚炎症候群という全身性のアレルギー症状を起こしうるという点にあります。
また職業性接触皮膚炎の原因としても重要でその10%以上を美容師・理容師の手湿疹が占めるという報告もあります。
ジャパニーズ・スタンダードアレルゲンの陽性率は、2005年では1位がニッケル、2位がウルシオールで3位がパラフェニレンジアミン(PPD)となっていますが、このPPDが染毛剤のかぶれの原因の主原因です。
しかも1,2位が年々低下傾向にあるのに対してPPDの陽性率は増加傾向にあります。
欧米でのPPDの陽性率は2000年頃には4%台だったものが、近年の陽性率は7〜8%台に増加しているそうです。日本での陽性率はこれよりももっと高いというデータもあります。それは、日本人の髪が黒色でありPPDを含む染毛剤が多く使用されていることによると思われます。

染毛剤の種類
実際に使用されている方のほうが、詳しいかもしれません。調べたものを簡単に列記してみました。
【永久染毛剤】医薬部外品
[酸化染毛剤]・・・ヘアカラー、おしゃれ染め、白髪染め、ヘアダイ、アルカリカラーなど。2〜3ヵ月持続し黒くも明るくも染め分けられますが、PPDなどアレルギー物質を含んでいるためにかぶれ易いのが欠点です。1剤と2剤があります。1剤はアルカリ剤、酸化染料、調色剤、直接染料等を含み、2剤は主に過酸化水素を含んでいます。
[非酸化染毛剤]・・・髪のコルテックス内で鉄イオンとフェノールの反応によって色素を発生させます。白髪を黒く染めるのに用います。
【脱色剤・脱染剤】医薬部外品
ブリーチともよばれ、メラニンを分解して脱色します。過酸化水素水(オキシドール)が使われます。
【半永久染毛料】化粧品
カラーリンス、ヘアマニキュアなどです。毛髪のキューティクルに染料をコーティングします。髪の傷みは比較的少ないもの2〜4週間しか色持ちしません。また皮膚についてしまうと色落ちしにくいので注意が必要です。
【一時染毛料】化粧品
カラースプレー、カラースティック、カラークレヨンなどがあります。かぶれ、髪の傷みはほとんどないものの、一度のシャンプーで色落ちします。

染毛剤のかぶれ(アレルギー)の原因になるもののほとんど全てが永久染毛剤、しかもその中の酸化染毛剤に含まれるPPDあるいはそれに近縁の物質によります。染毛剤の分類、染まる機序について詳しくは専門書、インターネットの専門サイトに記載がありますのでそれにゆずります。ただ、この酸化染毛剤にはPPDだけではなく、下記のような類似した種々の化学物質が含まれておりそれぞれにアレルギー感作原になりえますし、PPDとの交叉過敏性が生じる物質も多く含まれています。
パラ系の染料前駆体
染料中間体
・パラフェニレンジアミン(PPD) ・・・・・・暗褐色
・パラトルエンジアミン(PTD)
・パラアミノフェノール(PAP) ・・・・・・・明?褐色
・パラメチルアミノフェノール・・・・・・・薄黄色
直接染料
・ニトロパラフェニレンジアミン(ONPPD) ・・赤色
・パラニトロオルトフェニレンジアミン・・・?橙色
・パラメトキシメタフェニレンジアミン・・・紫青色
これらの中で、PPD が最も強いアレルゲンとなりますが、また白髪を黒く染めるのに最も適した染毛剤でもあります。従って日本人の白髪染めには多く使われており問題になります。
PPDはアンモニアの存在下に過酸化水素で酸化され発色します。一旦酸化され重合すると、もう抗原性はなくなります。

ヘナ染毛剤および刺青
hennaはエジプト原産の灌木ローソニアの葉をすり潰して乾燥させたもので、ローソンという色素が含まれています。古代から染料として使われていますが、天然のヘナは橙赤色で1〜2週間で染色が落ちていくので暗めの色を出して長持ちさせるためにPPDやPAPなどの酸化染 料が添加されていることが多いようです。
また、近年ヘナは「消えるtattoo−temporary tattoo)」として人気があり海外でボディーペインティングの一種として使われておりヘナタトゥー(シールタトゥー)と呼ばれるそうですが、色を濃くしたり、長持ちさせるためにPPDが含有されることが多いそうです。これをblack hennaと呼ぶそうです。ヘナ(ローソン)そのものによるアレルギーの報告もありますが、含有されたPPDによるものがほとんどです。

PPDの交叉過敏性
PPDはパッチテストで近縁の構造式をもった物質と交叉反応を起こすことが知られています。
染毛剤のPAPやPTDなどと交叉反応を起こすことがあります。また遅延型アレルギーとともに、即時型アレルギー、アナフィラキシーも起こすことがありま すので、要注意です。PPDがイミン中間体に変化するとガス化して空中に拡散し、感作された美容師などがショックを起こす誘因にもなるとのことです。
スーダンではPPDを含んだヘナの誤飲や皮膚の刺青からの吸収で即時型アレルギーを起こした小児例が6年間に31例あり、うち15例は気管切開、13例は死亡しているそうです。
またPPDは構造式がパラベン(パラオキシ安息香酸・・・殺菌剤として多くの香粧品に使用されています)、PABA(パラアミノ安息香酸・・・UVBをカットする強力な紫外線吸収剤)などと類似しているためにこれらの物質とも交叉反応を起こす事があります。それで、PPDに感作された人はパラベン、PABAも避ける必要があります。またベンゾカインやプロカインなどの局所麻酔剤とも交叉反応をする可能性があります。洋服皮製品、靴などに用いられるアゾ色素、化粧品色素赤色225号、とも交叉反応をする可能性もありますので注意が必要です。
また最近はしみ抜きの薬ハイドロキノンとの交叉反応も指摘されています。

症状
頭部から顔面、耳の後ろ、首などに湿疹、かぶれの症状がでます。比較的に頭部は症状が軽く見逃される事もあります。但し、ひどくなるとむくみ(真皮の浮腫)もひどくなり、頭部からじくじくした浸出液がでたり、赤く腫れあがったりして顔面が変形するほどの重症になることもあります。また多形滲出性紅斑様の発疹を呈したり、全身に湿疹が拡大したり、アナ フィラキシー様の症状を呈する場合もあります。また誤飲するとメトヘモグロビン血症を起こす事が指摘されています。

美容師・理容師の場合
症状は手荒れ、手湿疹、上肢の湿疹の形で生じます。新たに新人として働きだしてシャンプーなどで界面活性剤で刺激性の手荒れを生じ、半年程でPPDに感作される例が多いようです。アトピー素因を持つ人は特に要注意といえます。西岡らの調査では手湿疹のうち原因が染毛剤が71.4%、シャンプーが25%、パーマ液が24.1%だったそうです。これをみても染毛剤のアレルギーの高さが分かります。
この最初の時期にしっかり肘までのビニール手袋などで皮膚を保護しアレルギー感作を避けることが重要です。
染毛剤使用に際しては手袋使用例は多いようですが、シャンプーの場合はほとんど手袋を使用していません。その理由として、お湯の温度が分かりにくい、髪の毛が擦れる、着脱が面倒、お客さんに失礼になる、お店の方針といったものだったそうです。

パッチテスト
アレルギーの有無の検査にはパッチテストが欠かせません。染毛剤の使用説明書には毎回使用前に必ず、パッチテストを行うこと、との表記がありますが、患者さんに聞いてみるとカブレの人でもほとんどの方がパッチテストを行っていません。美容室では、と聞いてもやらないという方が多いようです。その理由として、一番多いのが「私は今まで(何年も)かぶれませんでした。だから毛染めは大丈夫です。」といったものです。アレルギーはある時から突然生じる(感作される)ことを知っておいて下さい。
パッチテストの方法はそれぞれの染毛剤の説明書に記載されていますが、接触皮膚炎学会では次のように推奨しています。
オープンテスト・・・染毛剤、パーマ液、脱毛クリームなどに使う方法です。試料を上腕の内側などに直径20mmの円に直接そのまま塗って、20分後に蕁麻疹の有無を判定します(即時型アレルギー反応を確かめる)。その後48時間、72時間後に判定する。(遅延型アレルギー反応を確かめる)。
パッチテスト・・・ジャパニーズスタンダードアレルゲンの中に1%PPD があります。
ブラックヘナによるカブレとパッチテストの実例を例示します。
頭部、耳後部、髪際部(生え際)、首に痒みを伴って赤み(紅斑)、むくみ(浮腫)が出現 (写真1,2,3)
上腕内側に単純塗布、20分後反応は無し (写真4)
2日後に痒みを伴ってパッチ部に紅斑、紅色丘疹が出現した (写真5)

治療
一般の接触皮膚炎(かぶれ)の治療方針と同様ですが、ステロイド外用剤を症状の重症度、部位などに応じて強さのランクを決め、使用します。重症の場合はステロイド内服薬を使用することもあります。一般的にはステロイド外用剤と保湿剤の外用を行い、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤の外用を行います。
可能な限りパッチテストを行い、原因物質が特定できた時には原因を含む物質、交叉性のある物質をできる限り排除することが必要です。
染毛剤によるパッチテストが陽性の場合は、毛染めを一切中止することが最善ですが、種類の異なる代替え品を選び、オープンパッチテストで安全性を確認の上で使用することが大切です。
美容師・理容師など原因物質が特定できてもそれを排除できない場合は手袋などを使用してできる限り素手で染毛剤に触れる機会を遮断することが大切で、本人のみならず職場の上司、経営者の環境作り・皮膚炎のある職員に対する配慮も大切です。

参考文献

henna tattooによる接触皮膚炎  田中 了ほか: 皮膚病診療 24:1107,2002

ヘナ染毛剤によるアナフィラキシーの2例 後藤 康文ほか: 臨床皮膚科 63:721,2009

理・美容師の職業性接触皮膚炎
ー宮城県における理・美容師についてのフィールドワークからの報告ー
東北労災病院 皮膚科部長  谷田 宗男

マルホ皮膚科セミナー
第109回日本皮膚科学会総会
教育講演21「職業環境と皮膚障害(化学物質過敏症を含む)}より
「美容師・理容師の皮膚疾患とその予防対策」
ジョイ皮ふ科クリニック院長 西岡 和恵